馬をまっすぐに走らせることと手前変換
毎日寒くなってまいりましたが、いかがお過ごしでしょうか。9月に騎乗馴致を開始した61頭の育成馬たちの調教は順調に進み、現在800m馬場を2周した後、坂路を24秒/F程度で1本上がってくるメニューを消化しています。速歩でのドライビングの効果により、初めて坂路入りした際から馬がまっすぐ走れ、きれいな隊列での調教を行うことができています(写真1、動画1)。また、調教のタイム指示についてはステディキャンター(馬が落ち着く速度で安定した駈歩を続ける)となるように設定することで、馬が常に落ち着いた状態で調教を実施することができています。今回はその取り組みについてご紹介いたします。
(写真1)今シーズン初めての坂路調教
https://youtu.be/FGaU0j8Zj-M
(動画1)今シーズン初めての坂路調教
我々は騎乗馴致段階で“速歩でのドライビング”を積極的に取り入れています。速歩のドライビングでは「左!」「まっすぐ!」「右!」「まっすぐ!」「左!」「まっすぐ!」「右!」・・・という風に、短時間で多くのコマンドを馬に出し続けることとなるため、馬が人にフォーカスし、人から出される命令にすぐに応えようと従順になる効果があると感じました。その結果、以前より人の言うことをきく馬が増えた気がしています。
また、常歩よりも速いスピードでドライビングを行うことにより、馬が本当にまっすぐ進んでいるか、開き手綱の扶助を理解しているかが確認でき、結果として騎乗調教開始後にまっすぐ走れる馬が増えました。例えて言えば、自転車を運転する際に、ゆっくり漕ぐとフラフラしてしまいますが、ある程度のスピードを出し続けることでまっすぐな状態を維持できるのと同じ理屈です。スタッフたちには速歩で進む馬と同じ速さで移動しなくてはならないため苦労をかけましたが、そのおかげで走路での騎乗調教開始直後からまっすぐ走れる馬を作ることができました。
速歩でのドライビングについては過去の当ブログでも何度か取り上げていますので、興味のある方は過去記事をご覧いただけましたら幸いです。
JRA育成馬日誌: 24-25育成馬ブログ(日高①)
JRA育成馬日誌: 23-24育成馬ブログ(日高②)
JRA育成馬日誌: 22-23育成馬ブログ(日高④)
基礎体力を付けるため、2シーズン前から12月に800mトラックで連続3周(2400m)をハロン24秒程度で走る調教を開始しました。その中で、まっすぐ走れる馬については競馬と同じく「コーナー順手前、直線反対手前」の手前変換を教えています。競走馬の手前変換の仕方は、新しい外側(左→右だとしたら右)のあぶみに足を踏み込み、騎座を新しい外側(左→右だとしたら右)に位置させ、人の重心を先に移動させて、馬の重心を変えるように誘導し、さらに、新しい外側(左→右だとしたら右)の脚で扶助(合図)を送って、新しい内側(左→右だとしたら左)の手綱を軽く開くと手前を変えるように調教しています。馬場馬術のように後躯が先で前躯が後の手前変換ではなく、あくまでも前躯が先で後躯を後に手前変換することでよしとしています。 以前はごく限られた腕の達者な騎乗者のみがこの手前変換を行えていましたが、「速歩ドライビング」「ステディキャンター」で「落ち着いてまっすぐ走ること」を教えた結果、手前変換できる人馬が増えました(写真2、動画2)。
(写真2)800mトラックでの調教(今シーズン)
https://youtu.be/v5Mw96undUM
(動画2)800mトラックでの手前変換(過去動画)
800mトラックで連続3周(2400m)の調教は、基礎体力を付けたうえ手前変換を馬に教えることができるなどメリットが大きい反面、この調教を開始した2シーズン前には内側管骨瘤が多発するというデメリットがありました。原因は「同じ方向での周回」にあるのではないかと考え、22-23シーズンは通年で月・水・金曜日は右手前、火・木・土曜日は左手前というように走る方向を固定していたのですが、23-24シーズンより、11・1・3月は月・水・金曜日右手前、火・木・土曜日は左手前で走り、12・2・4月は月・水・金曜日左手前、火・木・土曜日は右手前で走るように変更しました。その結果、跛行を伴う内側管骨瘤の発症頭数を22-23シーズンの6頭から23-24シーズンは1頭に減少させることができました。このように、周回コースで長い距離を走る調教では、同じ手前ばかりにならないよう、注意が必要であることがわかりました。
以上、現段階での調教についての取り組みをご紹介いたしました。今後は坂路での3列縦隊での集団調教などを教えながら、競走馬として必要な基礎体力を身につけさせていきたいと思います。今回の記事が普段育成牧場で馬を調教されている皆さんの少しでもお役に立てば幸いです。