乳酸投与と運動
運動科学研究室の向井です。
我々の研究室では、2005年から東京大学の八田秀雄先生のグループと共同研究を行っています。八田先生は運動と乳酸について研究されており、マウスに乳酸を投与させてトレーニングさせると、エネルギー源であるATPを産生するミトコンドリアの酵素活性が高まることを報告しています(Takahashi et al, Physiol Rep, 2019)。
そこで、八田先生と競走馬総合研究所との共同研究で、サラブレッドに乳酸を投与してから運動させると、マウスと同様に筋肉のミトコンドリアを増やそうとする動きが増強されるかどうか調べてみました。
乳酸を投与した群では、運動後の乳酸濃度が有意に高くなりましたが(図1)、ミトコンドリアの調節因子であるPGC-1α遺伝子の発現量には有意な差が認められませんでした(図2)。しかし、運動後の乳酸濃度とPGC-1α遺伝子の発現量には正の相関が認められたため(図3)、乳酸濃度が高まるとミトコンドリアが増加しやすくなることが示唆されました。
今回の研究では、マウスとは異なり、サラブレッドでは乳酸投与の効果が認められませんでしたが、乳酸濃度がミトコンドリアの増加に関連がある可能性が示されました。トレーニング強度を速度だけでなく、乳酸濃度で評価し、トレーニング効果を乳酸濃度の変化で評価していくという考え方は今後もっと加速していくものと思います。
図1 運動前後の乳酸投与群(LAC)と生理食塩水を投与した対照群(CON)の血漿乳酸濃度。乳酸投与直後(POST IV)では血漿乳酸濃度に差はなかったが、運動直後(POST EX)から運動5分後(5 min REC)まで乳酸投与群の血漿乳酸濃度が常に高かった(P < 0.01)。
図2 運動前(PRE)と運動4時間後(4 Hr-REC)のPGC-1α遺伝子の発現量。乳酸投与群(LAC)および対照群(CON)ともに運動4時間後にPGC-1α遺伝子の発現量が増加した(P < 0.01)。
図3 ピーク乳酸濃度とPGC-1α遺伝子の発現量の相関。実線はすべてのデータに対する相関(r = 0.66, P < 0.05)を示し、点線は乳酸投与群に対する相関(r = 0.91, P < 0.05)を示す。
詳細についてはComparative Exercise Physiologyで公表されたこちらの論文(外部リンク)をご覧ください。