サラブレッドと高強度インターバルトレーニング
運動科学研究室の向井です。
我々の研究室では、2020年から高強度インターバルトレーニングに関する研究をしています。インターバルトレーニングとは速く走ることとゆっくり走る(歩く)ことを繰り返すトレーニング手法です。ヒトの研究では、持久力(スタミナ)を向上させたい場合、通常は中強度で持続的に走ることが多いのですが、インターバルトレーニングも、骨格筋や心臓血管系に同じようなトレーニング効果、もしくはより大きな効果があると報告されています。
競走馬においても、以前からインターバルトレーニングには興味が持たれており、ミホノブルボンやキタサンブラックは坂路を3本上がるインターバルトレーニングを実施していたと言われています。短距離血統と言われていたミホノブルボンが持続的に長い距離を乗るのではなく、坂路調教を繰り返すことによってスタミナを強化したメカニズムは興味深いところです。また、筋肉のタイプにはゆっくり収縮する遅筋と速く収縮する速筋があるのですが、サラブレッドの骨格筋、特にお尻の筋肉には速筋がとても多く、その筋肉に刺激を入れるには高強度のトレーニングが必須であることがわかっています。このようなことから、サラブレッドにも高強度インターバルトレーニングが効くのではないかと考え、実験を行いました。方法は、同じ走行距離に設定した中強度持続運動(70%VO2max強度で6分)、高強度インターバル運動(100%VO2max強度で30秒+速歩30秒を6セット)、スプリントインターバル運動(120%VO2max強度で15秒+速歩70秒を6セット)を実施し、採血や中殿筋のサンプリングを行い、さまざまな解析するというものでした。
その結果、高強度インターバル運動とスプリントインターバル運動の心拍数と血漿乳酸濃度は、中強度持続運動に比べてより高く推移し(図1)、いっぽう動脈血の酸素飽和度やpHは低く推移しました(データ未掲載)。
図1 運動中の心拍数(A)と血漿乳酸濃度(B)の推移: 中強度持続運動(MICT, 青)、高強度インターバル運動(HIIT, 緑)、スプリントインターバル運動(SIT, 赤)
さらに中殿筋というお尻の筋肉を調べた結果、エネルギーを作り出す小器官であるミトコンドリアを増やすシグナルであるPGC-1αという遺伝子が、高強度インターバル運動とスプリントインターバル運動を実施した4時間後に増えていました(図2)。また、酸素を筋肉のすみずみまで送り届ける毛細血管は筋肉での代謝効率を上げるために重要ですが、その毛細血管を増やすシグナルであるVEGFという遺伝子もスプリントインターバル運動を実施した4時間後に増加していることが分かりました(図2)。
図2 運動4時間後のPGC-1α遺伝子とVEGF遺伝子の変化: 中強度持続運動(MICT, 青)、高強度インターバル運動(HIIT, 緑)、スプリントインターバル運動(SIT, 赤)
これらの結果から、同じ走行距離にも関わらず、高強度インターバル運動やスプリントインターバル運動は、乳酸がより多く出、より低酸素血症になることが分かりました。さらに、高強度インターバル運動やスプリントインターバル運動は、骨格筋のミトコンドリアや毛細血管を増やすことが分かりました。我々はこのようなインターバル運動を長期的に繰り返すこと(長期的トレーニング)によって、サラブレッドの運動能力をより強化することができると考えています。
詳細については2023年11月にFrontiers in Veterinary Scienceで公表されたこちらの論文をご覧ください(外部リンク)。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2023.1241266/full