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2024年6月

2024年6月27日 (木)

IFHA Global Summit

こんにちは、運動科学研究室の高橋です。

先日カナダのウッドバイン競馬場で開催されたIFHA Global Summitに参加してきました(図1)。IFHAとは国際競馬統括機関連盟(International Federation of Horseracing Authorities)のことで、グローバルスポーツであるサラブレッド競馬のあらゆる側面を推進し、ウマとアスリートの福祉を守り、発展を目指すためにパリ協約の制定や、ワールドランキングの発表、ウマと騎手の福祉と安全に関する方針の策定などを行なっています。近年では、動物福祉、動物愛護の機運が世界的に高まっており、ウマの福祉向上に貢献する研究が世界的に行われています。中でも、重篤な骨折や突然死の予防はどの競馬主催者にとって喫緊の課題となっています。今回のGlobal Summitはウマの骨折メカニズムや不整脈について世界的に著名な研究者が招待され、それぞれの分野について分かっていることを共有した後、これらの疾患を減らすためにはどのような研究、協力体制が必要か、競馬主催者を交えて議論されました。

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 印象的だったのは、変化には時間がかかることを認めざるを得ないが、様々な分野とのコラボレーションが着実に変化をもたらすことが紹介されていたことです。アメリカの米軍では、新兵の脚の疲労骨折が多いことが1980年代に問題になっていたようです。それからヒトの運動生理、バイオメカニクス分野の研究内容を徐々に現場に還元していき、2000年代後半には20%以上発症率が低下したことが紹介されていました。研究の成果が現れるまでは、ある程度忍耐力を持って、知識の共有をサークル全体で図るべきだとまとめられていました。

ちなみに、JRAでは重篤な骨折はどのような推移を辿っているかを下にご紹介いたします。図2は2003年から2022年の重篤な骨折を含めた、予後不良になり得る筋骨格疾患発症率の推移です。2003年から2007年の5年間の発症率に比べて、2018年から2022年の5年間では芝、ダートともに発症率は半分程度になっています。骨折の発症は、非常に複雑な要因が絡んでいるので減少した要因を1つに絞り込むのは困難ですが、様々な研究の現場への還元をはじめ、薬物規制やMRIなどの最新機器の導入などのJRAの取り組みに加え、調教技術の進歩などが合わさって徐々に重大な事故は減ってきていると考えています。中央競馬サークルの重篤な骨折に関する対策は良い方向に行っているように感じます。今後もウマの福祉向上を目指した研究を展開し、競馬サークルに最新知見の共有を図っていきたい所存です。

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2024年6月18日 (火)

Neglected Influenza Viruses(無視されたインフルエンザウイルス)?

 分子生物研究室の根本です。

 4月に米国ケンタッキーで開催されたInternational Symposium on Neglected Influenza Virusesに参加してきました。

  Neglected Influenza Viruses(無視されたインフルエンザウイルス)とは、注目されていないインフルエンザウイルスのことを意味しますが、それでは、どのようなインフルエンザウイルスなのでしょうか・・・それは、A型人インフルエンザウイルスとA型鳥インフルエンザウイルス以外のインフルエンザウイルスのことです。具体的には、馬インフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス、コウモリに感染するインフルエンザウイルスなどになります。ですが、近年アザラシ等の海獣やこれまで感染報告のなかった動物に、A型鳥インフルエンザウイルスが感染する例が多く、本学会にはこのような演題も含まれていました。そのような世間から注目を集めないインフルエンザウイルスの学会で、私は馬インフルエンザに関する研究発表を行いました。また学会期間中、あいにくの曇り空だったものの皆既日食を観察することもできました。

12_4                  会場のエントランス       会期中に観察された皆既日食

 この学会で話題になったのが、学会直前の3月末に米国で感染が明らかとなった牛インフルエンザです[1]。牛インフルエンザは、米国においてH5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスが牛に感染したもので、牛は乳量低下などの症状を示しました。感染牛の牛乳中に大量のウイルスが認められ、加熱殺菌していない牛乳を飲んだ猫がウイルスに感染したことが報告されています[2]。さらに、感染牛を飼育している農場の人が感染し結膜炎等の症状を示したことでさらなる注目を集めました[3]。米国で流通している牛乳をPCR検査したところ、陽性となったのは150検体中58検体ありましたが、生きたウイルスは検出されませんでした[4]。この結果から、現在行われている加熱殺菌がウイルスの不活化に非常に有効であり、そのため牛に触れない一般の人には対するリスクは低いと考えられます。現在のところ米国以外での牛インフルエンザの発生報告はありませんが、今度も注目すべきインフルエンザウイルスであり、牛インフルエンザウイルスは「無視されたインフルエンザウイルス」とはならないことでしょう。

参考文献

  1. United States Department of Agriculture Animal and Plant Health Inspection Service. Federal and state veterinary, public health agencies share update on HPAI detection in Kansas, Texas dairy herds. 2024.                         (外部リンク)https://www.aphis.usda.gov/news/agency-announcements/federal-state-veterinary-public-health-agencies-share-update-hpai (2024年6月18日リンク確認)
  2. Burrough et al., Highly Pathogenic Avian Influenza A(H5N1) Clade 2.3.4.4b Virus Infection in Domestic Dairy Cattle and Cats, United States, 2024. Emerg Infect Dis 2024. 30:240508. doi: 10.3201/eid3007.240508.
  3. Uyeki et al., Highly Pathogenic Avian Influenza A(H5N1) Virus Infection in a Dairy Farm Worker. N Engl J Med 2024 doi: 10.1056/NEJMc2405371.
  4. Cohen et al., Bird flu appears entrenched in U.S. dairy herds. Science 2024. 384:493-494. doi: 10.1126/science.adq1771.

2024年6月 7日 (金)

国際サラブレッド生産者連盟の獣医会議

 こんにちは、微生物研究室の岸です。

 先日、国際サラブレッド生産者連盟(ITBF; International Thoroughbred Breeder’s Federation)による国際大会・獣医会議が東京で開催されたので参加してきました。ITBFとは、世界の主要なサラブレッド生産国(25か国)にある生産育成組織から構成されており、日本では日本軽種馬協会が代表として加入しています。本連盟の主題は、サラブレッド繁殖産業に関わる諸所の問題の解決に取り組むことにあります。

1itbf_3学会のエントランス・ボード

 本大会は2年ごとに開催されており、日本での開催は2006年以来18年ぶりでした。今回も、アルゼンチン、ブラジル、カナダ、チリ、ドイツ、インド、アイルランド、ニュージーランド、南アフリカ共和国、イギリス、アメリカといった各国の獣医師が参加しており、非常に国際色豊かな会議になったと言えます。

 冒頭に、日本軽種馬協会の上野副会長からスピーチがあり、日本でのウマに関する研究は大部分がJRA総研で行われていると紹介され、我々の研究所が各国にアピールされたのは嬉しかったです。会議では、各国の代表から、防疫情報の紹介・共有としてウマの感染症の発生状況やワクチンなどについて伝えられました。さらに、後半には教育講演が用意されており、当研究所の辻村分子生物研究室長が馬ヘルペスウィルス感染症に関して発表しました。    

                                23_4日本軽種馬協会の上野副会長(左)JRA総研の辻村室長(右)のスピーチ

 実は、若輩者の私はこのような国際会議に初めて参加しました。主要言語が英語という会議に不慣れなものの、その全てが他国の防疫概況を知れる良い機会であったことは言うまでもありません。私自身、英語で発表できるまでに研鑽を積んで行かなくてはと、心引き締まる思いで会場を後にいたしました。