IFHA Global Summit
こんにちは、運動科学研究室の高橋です。
先日カナダのウッドバイン競馬場で開催されたIFHA Global Summitに参加してきました(図1)。IFHAとは国際競馬統括機関連盟(International Federation of Horseracing Authorities)のことで、グローバルスポーツであるサラブレッド競馬のあらゆる側面を推進し、ウマとアスリートの福祉を守り、発展を目指すためにパリ協約の制定や、ワールドランキングの発表、ウマと騎手の福祉と安全に関する方針の策定などを行なっています。近年では、動物福祉、動物愛護の機運が世界的に高まっており、ウマの福祉向上に貢献する研究が世界的に行われています。中でも、重篤な骨折や突然死の予防はどの競馬主催者にとって喫緊の課題となっています。今回のGlobal Summitはウマの骨折メカニズムや不整脈について世界的に著名な研究者が招待され、それぞれの分野について分かっていることを共有した後、これらの疾患を減らすためにはどのような研究、協力体制が必要か、競馬主催者を交えて議論されました。
印象的だったのは、変化には時間がかかることを認めざるを得ないが、様々な分野とのコラボレーションが着実に変化をもたらすことが紹介されていたことです。アメリカの米軍では、新兵の脚の疲労骨折が多いことが1980年代に問題になっていたようです。それからヒトの運動生理、バイオメカニクス分野の研究内容を徐々に現場に還元していき、2000年代後半には20%以上発症率が低下したことが紹介されていました。研究の成果が現れるまでは、ある程度忍耐力を持って、知識の共有をサークル全体で図るべきだとまとめられていました。
ちなみに、JRAでは重篤な骨折はどのような推移を辿っているかを下にご紹介いたします。図2は2003年から2022年の重篤な骨折を含めた、予後不良になり得る筋骨格疾患発症率の推移です。2003年から2007年の5年間の発症率に比べて、2018年から2022年の5年間では芝、ダートともに発症率は半分程度になっています。骨折の発症は、非常に複雑な要因が絡んでいるので減少した要因を1つに絞り込むのは困難ですが、様々な研究の現場への還元をはじめ、薬物規制やMRIなどの最新機器の導入などのJRAの取り組みに加え、調教技術の進歩などが合わさって徐々に重大な事故は減ってきていると考えています。中央競馬サークルの重篤な骨折に関する対策は良い方向に行っているように感じます。今後もウマの福祉向上を目指した研究を展開し、競馬サークルに最新知見の共有を図っていきたい所存です。