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2025年1月10日 (金)

明けてみたら馬と蛇 in 2025

企画の桑野です。

あらためまして、明けましておめでとうございます。

2025年最初の研究所だよりの更新です。

 今年は巳年ですが、ウマとヘビに何か関係性がないかネットで調べてみても、あまりパッとした逸話はありません。ただ、抗ヘビ毒血清(抗毒素)を作るのにウマが最もよく用いられていることがわかるかもしれません。

 毒ヘビは世界中にいろいろな種類のものが分布していますが、これらのヘビがつくる毒もそれぞれ種類に応じて様々です。よって、全てのヘビ毒に効果のある抗毒素は作れません。一つ一つ個別に作成しなくてはいけないため、毒ヘビの抗毒素づくりには時間とお金がかかり、また需要も多くないため、儲からないと言われています。それでも、噛まれたら人命に関わることもしばしば。抗毒素は常に準備されている必要があります。

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 そもそも量が少ないヘビ毒に対して大量の抗毒素の作製は難しいです。そのため、大型の動物であるウマに数回に分けて投与し、免疫をつけさせたなら、そのウマの血液を採取して比較的大量に抗毒素を作る古典的な方法が現在でも使われています。この方法では、一回作って保管管理してしまえば、しばらくは対応できます。日本では、公的な研究助成を受けながらヤマカガシ、マムシ、場合によってハブのウマ抗毒素が作られてきたようです。それでも、ウマの個体差、投与間隔の調整など熟練の技術が必要であり、簡単には作れないという難点があるそうです。

 そこで、近年では、生きたヘビから毒を採取することなく、その毒をコードしている遺伝子断片を増幅し、動物体にその遺伝子断片を接種してタンパクを複製させて免疫。最終的に、その動物の血清を抗毒素にできないかといった研究が進められています(参考1)。この動物体をウマに置き換えることができれば、そのウマの健康を維持しながら血液をいただくことで、多くの人命が救われるかもしれません。

 競走馬総合研究所(総研)ではヘビ毒の研究はしていませんので、我々には抗毒素を作るノウハウはありません。しかし、前述のような新しい方法でウマにも免疫できる時代が来るのなら、ウマの健康管理は違う観点から重要になるでしょう。ウマを研究することが巡り巡って私たちの命にも繋がる可能性があるのですから、ウマ研究は人類にとって大切と言えるでしょう。ちょっと大袈裟かな…?

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(参考文献)Synthetic biology tackles antivenom: artificial antibodies could ease global snakebite burden, 2016, Amold, C., Nature, 532 (292)