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2025年2月

2025年2月25日 (火)

栃木県産業技術センターという便利な施設

企画の桑野です。

 業界ではそれなりに知られているのですが、栃木県には産業技術センターという県内の中小企業等の新技術・新製品開発や技術高度化を支援する技術拠点が存在します。県内と限定されているのは、栃木県の予算を使って運営されているためです。我々競走馬総合研究所の母体はJRAですが、栃木県内にある中規模な事業所であることから、「技術相談」としてこちらの施設の利用を認めてもらい、馬の蹄の病気の解明を助けてもらったことがあります。

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 昨今、それまでには測定困難だった物質をより精度高く検出したり、材質を評価したり、尚且つ以前より操作が簡便となった使いやすい研究備品が開発されています。しかし、こういった備品は高額ですから、いかなる研究や開発をもすべからく網羅しようとして、あらゆる備品を揃えることはできません。ましてや中小企業でしたら、業務に必要な備品1個を更新することすら予算的に厳しい現実があります。そこで、栃木県は、最新機器を豊富に取り揃え、各方面の産業の面々が比較的安価に使える備品の宝庫を整備してくれたというわけです。我々も、以下のように、こちらの設備を使ってとある蹄病の解明を助けてもらったことがあります。なんか、日本的な助け合いの精神が見え隠れしますね。ありがたい話です。企業間の連携は、利益相反などで難しい面がありますが、公共の県営施設なら守秘義務を守ってもらえるし、安心ですね。

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<外部リンク>https://iri.pref.tochigi.lg.jp/content/files/katuyoujirei_ver20250217.pdf

2025年2月15日 (土)

バイオメカニクス学会に行ってきました

こんにちは、運動科学研究室の高橋です。

 昨年12月になりますが、中京大学豊田キャンパスで開催されたバイオメカニクス学会に参加してきました。

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 下の写真は屋内トラックでの企業展示とポスター会場の様子です。中京大学からは多くのオリンピック選手が卒業しており、スポーツに関する研究も非常に盛んです。この学会の対象は主にヒトになり、「身体運動に関する科学的研究と連絡共同を促進し、バイオメカニクスの発展を図ることを目的」とした学会になります。

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 筋電図に関する基調講演や走動作中の筋活動に関する演題も多数あり、ウマの筋活動を研究テーマの一つに挙げている運動科学研究室にとっては非常に参考になりました。一方で、脳科学との融合をテーマにした基調講演があり、MRIを使って特定の運動課題や認知機能に対する脳局所の反応を計測しているグループが、本番に強い人と弱い人では脳のどこが違うのかについて、アーチェリーを専門にしているアスリートを対象に計測した結果を紹介していました。すると本番に弱い選手(練習のスコアは良い選手)は本番に強い選手(本番のスコアが良い選手)に比べて島皮質という領域の体積が大きかったそうです。この他にも、特定の運動課題や認知機能に対する局所の反応を機能的MRIで計測し、その課題に対する脳の負荷を評価する手法により、ピアノを最後まで安定したリズムで継続できる人と途中でリズムが崩れてしまう人を運動開始時の脳の反応から予測することに成功しているそうです。私は大学の時、ラットの脳に関する研究を行っており、脳研究には元々興味があるのですが、運動パフォーマンス発揮時の「メンタル」というところまで踏み込んだ研究は初めて聞いたので非常に面白かったです。また、脳機能に関する研究は人工知能を用いてもたくさん行われており、動物が何を考えているのかもそのうち分かるようになるのではないかと夢が膨らんだ学会でした。

2025年2月 3日 (月)

ウマコロナウイルスとは?

こんにちは、分子生物研究室の根本です。

先日ばんえい帯広競馬場でウマコロナウイルスの流行がありました。そこで今回はウマコロナウイルスについて、一般的な解説をしたいと思います。

ウマコロナウイルスはウマに感染し、主に消化器症状を引き起こす病原体で、ヒトには感染しません。人間の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とは異なる種になります。

ウマコロナウイルスに感染した馬は、主に発熱、食欲不振、元気消失といった症状を示します。流行時は特に、「食欲不振」を示す馬が非常に多くなります。そして発症から数日後に、一部の馬で下痢または軟便(写真)、腹痛(疝痛)といった消化器症状を示すことがあります。ヒトの新型コロナウイルスとは異なり、呼吸器には感染しないことから呼吸器症状は示しません。

一般的に症状は軽度で、数日で快復する馬がほとんどです。症状を示している馬では、白血球数の減少や炎症マーカーである血清アミロイドAの上昇が観察されることがあります。

感染馬は症状に関係なく糞便中に大量のウイルスを排出することから、知らぬ間に感染が広がり、馬群のほとんどの馬が感染してしまいます。主に糞口感染で感染が広がります。厩舎内での集団感染が起こりやすく、冬季に流行することが多いとされています。

ウマコロナウイルス感染症を疑った場合は、正常に見える場合でも糞便を用いて診断することが重要です。RT-PCR法などの遺伝子検査で診断します。

ウマコロナウイルスに対する特異的な治療薬やワクチンはありませんが、脱水を防ぐ輸液や、高熱が続く場合は解熱剤の投与などの対症療法によってほとんどの馬が快復します。

ウマコロナウイルスはエンベロープを有することから、消毒薬に対して感受性が高く、逆性石鹸やアルコール等、多くの消毒剤が有効です。

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写真. ウマコロナウイルス流行時に観察された消化器症状【出典:馬の感染症(第5版 増補版)、中央畜産会】