肢蹄管理ワークショップ@宇都宮
企画の桑野です。
本年2月22日(土)に、栃木県宇都宮市にある一般財団法人TAW(馬事公苑宇都宮の跡地に設立)にて、日本軽種馬協会(公社)が主催する“肢蹄管理ワークショップ”が開催されました。装蹄師、獣医師のみならず馬産業関係者を対象とした研修であり、関東圏の比較的広い範囲から競走馬や乗馬に携わる方々90名以上が集まりました。講師として私も参加しましたので、その様相の一部をお伝えします。
今回のテーマは蹄葉炎と蹄癌と呼ばれる2つの蹄病について、その一般概念および装蹄師と獣医師のコンビネーションによる蹄病治療の実際についてでした。これに対して、蹄病の病理学を研究してきた私、乗馬専門の開業獣医師でありながら装蹄師の資格もお持ちの斎藤重彰先生、蹄癌の発生が多いと言われる十勝のばんえい競馬で臨床獣医をされている福本奈津子先生の3名が講師となり教育的講演を実施しました。また、JRA職員装蹄師である金子大作氏および旭川工業高等専門学校の中川教授らにより、蹄葉炎に比較的早い段階から対応可能な3Dプリントシューによる装蹄処置についても情報が開示されました(参考;JRA日高育成牧場 馬の資料室 https://blog.jra.jp/shiryoushitsu/2024/03/3d-8482.html)。
会場風景
講演で話題となった特殊な蹄鉄や装蹄補助具の供覧
専門的すぎるので詳細は割愛しますが、治療困難な蹄葉炎にどう対処したらいいのかについては、総合討論の場にて装蹄師および臨床獣医師を含むフロアの皆様から積極的に質問を受けました。また、蹄癌については、真の癌腫ではなく何かの感染、とりわけトレポネーマ属細菌の関与が強く疑われること、サラブレッド種競走馬ではほとんど目にしないのに、なぜか、ばんえい競馬の重種馬や乗馬では少しずつ増えている現状を共有でき、関係者に少なからず警笛を鳴らせたようです。
日本に最初に蹄癌が紹介されたグーテンエッケル著の蹄病学(1920年 翻訳版出版)では、ドイツ語でDer Hufkrebs(蹄癌)と記載され、直訳である蹄癌が通り名称となった。だが、実際には癌ではない。
蹄病についての講演会はあまり公にされないため、こういった講習会は希少です。軽種馬協会は獣医師、装蹄師、飼育者が三位一体となって蹄病に向かい合ってくれたらばと、今後も不定期ながら蹄に関する講演会を実施していきたいと仰っていました。