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厳冬期の1歳馬の管理~脱水に注意!(生産)

先月までは暖かい日が多かったここ浦河ですが、今月に入り寒さの厳しい日が続いています。朝にはマイナス15℃を下回ることもあり、明け1歳馬にとっては初めて経験する厳しい環境です。昼夜放牧を行なっている群(以下、昼夜群)の放牧地には、悪天候時の風除け付近に寝床兼食料として乾草を敷き詰めていますが、思惑どおり夜間には利用してくれているようです(写真1)。冬場は雪が積もり地面は冷たいので、このような工夫をすることで馬房にいる時と変わらないような快適な環境を提供できると考えています。

 さて、前回から過去2年間行なってきた厳冬期の飼養管理についての調査の結果について振り返っておりますが、今回は血液検査の結果から注意すべき点について述べたいと思います。

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思惑どおり、夜間には寝床兼食料の乾草を利用してくれています

・血液検査の結果から

 血液検査では、免疫状態の指標である白血球などの血球数の検査や、ヒトの健康診断でも測定される血液生化学的検査(よくお酒を飲むヒトが「肝臓の値(γ-GTP)が上がっています」などと言われるものと一緒です)を実施しました。

 興味深い所見としては、昼夜群において腎臓の機能の指標であるBUNという値の有意な上昇が認められました(図1)。BUNの値は生理基準値(11.222.4mg/dl)を上回ることもありました。この理由には、昼夜群では脱水が起こり、腎血流量が減少していた可能性が疑われました。

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腎臓の機能の指標であるBUNの値

 2年目である2011-2012シーズンには数件の民間牧場にご協力いただき、血液検査を実施させていただいたのですが、厳冬期にも昼夜放牧を実施している牧場でも、BUNの値が上昇していない牧場がありました。その牧場では強化プラスチック製の電気を利用して冬でも凍結しないウォーターカップを使用していました(図2)。日高育成牧場ではコンクリート製の水桶を使用し、夜間水が凍結しないように常時少しずつ水を流すなどの工夫をしていましたが、それでも厳寒期には表面が凍結してしまい、日によっては馬が夜間に水を飲みにくい状態になってしまっていました。厳冬期に昼夜放牧を実施する際にはこのような設備投資も検討する必要があります。

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・脱水すると・・・

では、脱水すると、馬にはどのような弊害があるのでしょうか。まだ、科学的には証明されていないそうですが、一般的に「便秘」の発症に寒冷期の水分欠如と脱水が関与していると言われています。「便秘」による疝痛は症状がマイルドなことが多く、昼夜放牧をしていると馬房に入れる時間が短いためボロの量の観察も不十分になりがちです。ヒトの目が届かない夜間に馬が疝痛を発症し、気づくのが遅れて重症になってしまうことがないよう、特に注意が必要と思われました。

 また、脱水と言えば夏の暑い時期に運動し、汗をかくことによって起こるイメージですが、今回の血液検査の結果から厳冬期も注意が必要であることがわかりました。脱水の評価は、春から秋の毛が短い時期であれば肩の部分の皮膚をつまみ、皮膚の緊張感が減少する(つまんだ皮膚が戻らなくなる)ことで検査できますが、冬毛で覆われる厳冬期には評価しづらくなります。

 以上のことから、厳冬期に昼夜放牧を実施する際には、夜間の水桶の凍結防止など馬が脱水することがないように十分気をつける必要があると思われました。

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脱水を評価するための皮膚つまみ反射

Color Atlas of Diseases and Disorders of the Foalより)

(次回へ続く)

南国の冬 (宮崎)

年が明け、冬本番の宮崎で育成馬達は元気に調教を積んでいます。

南国とはいえ、宮崎でも冬は氷点下に冷え込むことも珍しくありません。少々問題となるのが、馬場がそれまでの雨などによる水分を多く含んでいる場合です。早朝からハロー掛けなど対応を試みるのですが、冷え込みが厳しい場合はハローの爪も入らない程固まってしまいます。こうなると自然融解を待つことになります(宮崎の冷え込みは、ほぼ放射冷却によるもの。従って冷え込む日は、ほぼ快晴!)。太陽が昇ると、みるみる馬場は使用可能な状態に戻り、南国の太陽のパワーを実感できます。

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時には凍結する宮崎のダートコース

海の砂を使用しているため、砂には小さな貝殻がたくさん混じっています。全国的にも珍しい!?

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放牧地で草を食むシーソングの11(牝:父バゴ

厳冬期でも、放牧地には豊富な青草。暖地での育成の利点です。

これまでは、入厩時期によって馴致のステージが異なり1群と2群に分かれていた育成馬達は、年明けからは牡牝それぞれ1グループで調教を行っています。これまでの6~7頭程のグループからそれぞれ11頭へ頭数も増え、馬体の成長も伴い調教に迫力が増してきました。

多頭数の調教では、他の馬を過度に気にする馬もいれば、多頭数の方が落ち着く馬もいて様々です。例年と比較して、全体的に概ね落ち着いている印象です。

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集団調教:宮崎“ALL牡”調教

にぎやかな朝の調教風景。先頭はエンジェルステージの11(牡:父ブラックタイド

1600m馬場での本格的な調教も始まっています。多くの馬が安定して真っ直ぐに一定のスピードで走ることが出来るようになってきました。現在は隊列を工夫し周囲の馬のプレッシャーに慣れる調教を積み重ねています。

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1600m馬場での調教風景

例年取り組んでいるインターバルトレーニング、6F(1200m)×2

2本目は併走の練習。

外:サンセットムーンの11(牡:父ステイゴールド)内:オマイタの11(牡:父ヨハネスブルグ

この日の調教タイムは、最後の3F、20.4―19.9-20.0秒/

まもなく、ウインズや公園へお越しのお客様に調教を公開する予定です。土曜日には調教ゼッケンを装着し、当日の調教メニュー等をご案内いたします。

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      宮崎の新年の参拝は青島神社・裸参りです。筆者は3回目の参加。

      育成馬の活躍と競馬の益々の発展を祈念してまいりました。

BTC利用者との意見交換会(日高)

騎馬参拝

日高育成牧場では、浦河町乗馬クラブやポニー少年団の子供たちとともに、新年恒例の騎馬参拝で2013年の幕が上がりました。騎馬参拝を行った西舎神社で、本年の人馬の安全を祈念しました。

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新年恒例の騎馬参拝で人馬の安全を祈念いたしました。

前号では、今冬は北海道各地において、過去100年間で最も遅い初雪を記録したことをお伝えしました。しかし、初雪以降は、北海道各地でその遅れを挽回するかのように降雪が続き、札幌、旭川では初雪が解けることなく、そのまま根雪になりました。この初雪がそのまま根雪になるという例は、観測記録上初めてだそうです。日高育成牧場のある浦河でも、昨年末のクリスマス寒波の影響を受けて大雪に見舞われ、一面銀世界に景色が変わり、厳冬期に突入しました。しかし、年末には一転して気温が上昇したため降雨になり、路面のみならずパドックもアイスバーンとなってしまいました。調教後や休日にはパドック放牧を実施しているため、砂を撒いてパドック整備を実施しました。今後は、春まで雨が降らないことを祈るばかりです。

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昨年末の寒波により一面銀世界へと景色が変わりました。

育成馬の近況

このような厳しい寒さの中、JRA育成馬の調教は徐々に本格化してきました。1群の牡馬および2群の牝馬は、800m屋内トラックでの2400m(1周+2周、ハロン22秒まで)のキャンターをベースに、週2回は800m屋内トラックで2周キャンター(ハロン22秒)を実施した後に坂路調教(1本、ハロン20秒)を実施しています。また、週1回は800m屋内トラックでの3200m(2周+2周、ハロン22秒まで)のキャンターを実施しています。

この時期の2歳馬の調教において重要なことは、①前に(Go forward、②真っ直ぐ Go straight落ち着いて(Go calmly走行させることであると考えています。これらのことを実行するためには、馬に騎乗者を乗せたバランスを習得させ、キャンターを実施するために適正な筋力を養成させるとともに、騎乗馴致から継続して実施している扶助を理解させることが不可欠です。このシンプルな走行が競走馬としての基礎となるため、焦らずにじっくりと調教を進めていくように心掛けています。

 

         

昨年12月第4週目の調教動画。角馬場での速歩の後、800屋内トラックでの一列縦隊、2列あるいは3列の隊列でのキャンターを実施します。また、週2回は坂路調教を実施しています。①前に(Go forward、②真っ直ぐ Go straight落ち着いて(Go calmly走行させることを主眼としています。

BTC利用者との意見交換会

ここからは昨年12月に行われました恒例のBTC利用者との意見交換会」について触れさせていただきます。今回馬の個性と調教」というテーマに基づき、当場から「ミオスタチン遺伝子と距離適性」および「馬の個性と騎乗方法」と題した話題を提供した後、BTC利用者の中から代表とし参加していただきました3名のパネリストの方々を中心に意見交換が行われました

パネリストの皆様は、それぞれ「馬術」、「ナチュラルホースマンシップ」、「海外での経験」という異なるバックグラウンドを基に競走馬を調教しておられるため、多種多様な意見が飛び交うものと想像していました。しかし、実際には共通した意見も多く、特に、馬という動物は、接し方や取り扱い方によって容易に変わってしまうため、余裕をもって慌てずに馬に接するとともに、常に馬をよく観察し、馬を理解しようと心掛けることが重要であるという共通した考えが印象的でした。3名のパネリストの方々、および参加していただいた方々にはこの場をお借りして御礼申し上げます。このBTC利用者との意見交換会」は本年も12月ごろに開催する予定でありますので、多くの参加をお待ちしています。

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馬の個性と調教というテーマに基づき開催した「BTC利用者との意見交換会」

活躍育成馬が日高に帰ってきました(日高)

 新年あけましておめでとうございます。昨年に引き続き、本年もJRA育成馬日誌をよろしくお願いいたします。

 2005年にJRAがブリーズアップセールをスタートさせてから、8年が経過しましたが、この度記録に残る、そして記憶に残るセール出身活躍馬の2頭が相次いで、日高に凱旋しましたのでお知らせいたします。

 まず1頭目はセイウンワンダー(父グラスワンダー)です。同馬は2008年のJRA賞最優秀2歳牡馬で、朝日杯フューチュリティS(GⅠ)など重賞3勝を挙げました。以前抽選馬と呼ばれた時代も含め、JRA育成馬の長い歴史の中で牡馬のG勝馬はこの馬だけです。また同馬は第4回セールの最高価格取引馬(2,730万円)です。第1回の取引馬でフィリーズレビュー(G)など重賞2勝を挙げたダイワパッション(3,045万円で落札、父フォーティナイナー)に続き、その年の最高価格取引馬が活躍したことで、ブリーズアップセールの信頼度を一気に上昇させた功労馬です。

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 写真1.2009年の皐月賞、セイウンワンダーは僅差の3着(左端)。この年の牡馬クラシック3冠路線で、3着以内に2度食い込んだのは、唯一この馬だけでした(菊花賞も3着)。

 もう1頭はJRAホームブレッドとして、史上初の勝利を収めたマロンクン(父デビッドジュニア)です。「JRAホームブレッド(JRA Homebred)」とは、JRA育成馬のうち、JRA自らが生産したサラブレッドの名称で、当場にて生産・育成されました。同馬は第7回のセールにはじめて上場されたホームブレッド初年度産駒の1頭です。セイウンワンダー号とは対照的に、セール翌日の“ファイナルステージ”(セール当日落札されなかった上場馬を、早期に購買いただく取組み)で売却された馬の初勝利ともなりました。

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 写真2.2011年の2歳新馬戦(11/5東京・芝1,400m)、マロンクンはあと2完歩というところまで粘り2着。次走でJRAホームブレッド初勝利の快挙を達成しました。

 JRAでは、わが国の生産育成分野のレベルアップに資することを目的として、これらの馬を活用し、「母馬のお腹の中から競走馬までの一貫した調査研究や技術開発」を行い、その成果の普及・啓発に取り組んでいます。JRA育成馬達がこうした活躍をしてくれることが、私達の行う生産育成業務への関心が高まり、ひいては成果の普及につながるものと考えています。

 なお、JRAホームブレッドやその母馬を用いた生産育成業務の成果については、JRAホームページ内のJRA育成馬サイト「JRA育成馬を用いた生産育成研究業務」で詳細を紹介しております。

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 写真3.10/8に日高育成牧場に凱旋したセイウンワンダーは、現在、障害馬術の競技馬になることを目標に日々訓練に励んでいます。競走馬時代のイメージとはかけ離れた穏やかな表情を見せます。

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 写真4.10/29に生まれ故郷の日高育成牧場に帰郷したマロンクン。現在、セイウンワンダーに負けないように障害馬術の競技馬になる訓練を実施しています。

 漆黒の青毛セイウンワンダーに対し、その名のとおり栗毛が美しいマロンクン、好対照な毛色のこの2頭が、乗馬としてどのような活躍をしてくれるのか楽しみです。