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順調に調教が進んでいます(宮崎)

  南国宮崎も本格的な冬を迎えています。日の入りが早くなり、気温も10℃を超える日が少なくなってきました。朝晩の気温低下により体調を崩さないよう、育成馬の体調管理には細心の注意を払いながら日々の調教を行っています。

 12月に入り、宮崎育成牧場に入厩した全22頭が1600m馬場での集団調教ができるようになりました。現在は500m内馬場において約1,000mのスローキャンターを行った後、1600m馬場で6ハロンもしくは8ハロンのキャンター(スピードはハロン22-20秒程度)をメインメニューとして基礎体力の向上に努めています。調教では前の馬について真っ直ぐ走ること、馬込みの中で騎乗者の指示に従って走ることなどを課題とし、調教後のクーリングダウンでは馬をリラックスさせてゆっくり歩くのではなく、騎乗者の扶助で闊達な常歩を行うヴァイタルウォークを行うことを課題として取り組んでいます。11月頃には体力もなくフラフラと走っていた育成馬たちですが、長期間実施してきた夜間放牧と毎日の調教を積み重ねた効果で見た目にもわかるほど成長し、走りにも力強さを感じられます。

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(写真)競馬場時代の面影を今に伝えるスタンドと、その前を併走でほぼ等間隔の隊列をつくり駆け抜ける牝馬たち。きわめて順調に調教が進められています。

 毎日の調教後に必ず行うのがゲート馴致です。これは馬にゲートが怖くない・安心できる場所であることを理解させるために、騎乗馴致を開始した日から毎日時間をかけて実施しています。JRA育成馬のゲート馴致の達成目標は「前扉を閉めたゲートに騎乗した状態で入り、後ろ扉を閉める。ゲート内でおとなしく10秒程度駐立したら前扉を開けて、騎乗者の扶助により常歩で発進する」というものです。宮崎育成牧場には練習用ゲートが2機あり、運動中・放牧時などいつでも見える場所に設置してあります。身近な場所にあるゲートを毎日通過することで、馬にゲートを「日常の一部」として理解させ、恐怖心をもたせない工夫をしています。

 毎年細心の注意を払い時間をかけて実施しているゲート馴致ですが、これまで何度も失敗しては悩み、試行錯誤しながら新しい方法を実践してという繰り返しを経験してきました。なるべく馬に理解しやすい方法で実施したいと考え、現在新しい試みにチャレンジしています。昨年まではクーリングダウンのコース上に練習用ゲート2機を置いていましたが、今年は片方の練習用ゲートを500m馬場の内側にある放牧地に設置しました。この放牧地にはイタリアンライグラスが播種してあるためゲートは豊富な青草に囲まれており、ゲートを通過した育成馬はすぐに青草のピッキングができます。調教後の緊張感は青草があることで緩み、安心した状態でゲートを通過したらご褒美として青草を頬張ることができます。南国宮崎の特性を活かしたゲート練習の方法として試していますが、今のところかなり良い感触です。これまでの方法でゲート練習をした際に落ち着かなかった馬たちも、放牧地のゲートではリラックスして通過・駐立ができるようになりました。既に半数近い馬が目標を達成して手応えを感じているところですが、ゲート馴致は一瞬の油断で積み重ねてきた全てを失ってしまうことがあるため、今後も慎重に繰り返して全馬がゲートを「あたり前」に通過・駐立できるようにしたいです。

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(写真)馬場内にある放牧地の中に設置した練習用ゲート。周囲に豊富な青草があり、練習用ゲートもリラックスして通過・駐立ができています。

 さて、宮崎育成牧場から馬診療技術に関するトピックスがありますのでご報告します。12月中旬に美浦トレーニングセンター 競走馬診療所の協力を得て、「背負い型内視鏡(モバイル内視鏡)検査」の装着実験を行いました。この検査方法は、美浦トレーニングセンターの20頭ほどの競走馬で既に使用実績があります。通常の安静時内視鏡検査とは異なり咽喉部の状態を騎乗・調教しながら内視鏡でみる検査で、類似した検査にトレッドミルを用いた内視鏡検査があります。トレッドミル内視鏡検査との大きな違いは、人が乗ったまま検査を行うところです。宮崎育成牧場にはトレッドミルがないため、調教時に異常呼吸音が聴取された馬がいても通常の安静時内視鏡検査しか行うことができません。今回この実験を行った目的は、トレッドミル内視鏡検査にかわる検査方法として背負い型内視鏡検査を育成馬に応用できるか否かを見定める、というものでした。

 今回は2頭の在厩馬を用い2回の検査を行いました。検査馬は背中に小型パソコンとバッテリーを背負い(騎乗者の両膝部分)、内視鏡が取り付けられた特殊な頭絡をつけて馬場を走行します。内視鏡を装着したときには鼻への違和感から歩くのを嫌がる素振りもみせましたが、その後すぐに落ち着き、ハロン15秒程度での2度の走行実験を無事終了することができました。

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(写真)寛馬房で内視鏡を装着する検査馬(乗馬:8歳)。初めての経験に少々不安そうです。

 準備運動開始から検査終了までに要した時間は1時間半ほど、装着時に鼻出血を起こす可能性があるなど100%安全な検査だとはいえませんが、調教時に異常呼吸音を確認した育成馬への応用は十分可能であると感じました。

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(写真)背負い型内視鏡装置を装着し、馬装の確認を行っている検査馬(2歳)。昨年までJRA育成馬だったこちらの馬も大人しく検査を受け入れました。

セリと育成馬を知ろう会 in ひだか(日高)

 日高育成牧場のある浦河では、10月に入ってから一雨ごとに寒くなり、10月17日には日高山脈に初冠雪を、浦河でもほぼ平年並みの11月11日に初雪を認めました。しかし、例年は11月下旬から最低気温が氷点下に達する日も珍しくなくなってきますが、今年はそれほど寒さを感じる朝は少ない気がします。一方、日高育成牧場内のエゾシカ達に目を向けると、いつの間にか袋角(フクロヅノ)から枯角(カレヅノ)へと角を完成させて繁殖期を終え、さらに夏毛から冬毛へと衣替えも終えており、気温以上に日照時間で季節を感じているためなのか、我々よりも早く冬支度を終えているように感じています。

 

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 写真1.エゾ鹿達も袋角(左)から枯角(右)へと角を完成させて繁殖期を終え、さらに夏毛(左)から冬毛(右)へと衣替えも終えて越冬の準備を始めています。

育成馬の近況

さて、3群に分けて騎乗馴致を進めているJRA育成馬の近況をお伝えいたします。9月上旬から騎乗馴致を開始している1群(牡馬21頭)は、800m屋内トラック馬場での調教実施時には、一列縦隊で1周した後、手前を変えて二列縦隊でキャンターを2周、合計2,400mのキャンターを行っています。また、1群の牡馬は11月中旬からBTCの1600mトラック馬場においても1周のキャンター調教を行っています。4月上旬に行われる育成馬展示会の調教供覧場所となるこの屋外コースは12月から3月までクローズされるため、展示会の馴致も兼ねて、F23~20程度のスピードで真直ぐ走行させることを目的として調教を実施しています。1600mトラック馬場のクローズ後は、週2回の坂路調教を開始しています。

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写真2.1600mトラック馬場ではある程度のスピード(F23-20)で前馬に頼らず真直ぐ走行することを目的としているため、前馬とは一定の距離を維持します。

また、10月初旬から騎乗馴致を開始している2群(牝馬22頭)は、800m屋内トラック馬場において二列縦隊でのキャンターが可能な段階にまで進んでおり、合計2,400mのキャンターを行っています。

一方、10月下旬から騎乗馴致を開始している牡と牝が混在する3群も800m屋内トラック馬場でのキャンター調教を実施できるまでになりました。特に3群はキャンターを初めて間もないため、競走馬の礎となる①前に(Go forward)、②真っ直ぐ(Go straight)、③落ち着いて(Go calmly)走行させることを主眼に置いて調教を進めています。

 

動画.11月最終週の1群の牡(前半の角馬場での速歩からトラックでの併走調教まで)および2群の牝(後半の角馬場での速歩から縦列調教まで)の調教動画。

※なお、ゼッケン番号とブリーズアップセール番号は異なりますので、ご注意ください。

 

セリと育成馬を知ろう会

ここからは、少しさかのぼって10月9日~10日にJRAの馬主の方を対象に開催させていただきました「セリと育成馬を知ろう会inひだか」についてご紹介いたします。この企画は比較的馬主歴の浅い方々に対して、「馬の見方の理解」「馬のライフサイクルの理解」「調教師との交流」あるいは「セリ市場での購買に向けた体験」をしていただくことを趣旨に、昨年に引き続き、HBA日高軽種馬農協主催のもと、JRA馬事部生産育成対策室および当場が協力する形で実施されました。

初日はHBAオータムセールにおいて、市場施設や上場馬の比較展示およびセリ風景を見学し、購買までの流れやレポジトリーに関する説明が行われました。そして、夜には馬主の方々と調教師との交流の場が用意されました。2日目は、広大な日高育成総合施設(BTC軽種馬育成調教センターが管理・運営)の見学、JRA育成馬(1歳馬)の調教の見学、「騎乗馴致」に関する講義、さらにはJRA育成馬を使用して、実際にセリでの「馬の見方」に関する説明が行われました。

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写真3.「セリと育成馬を知ろう会in ひだか」では、JRA育成馬を使用して「馬の見方」に関する説明が行われました

このような企画が、馬主の方々に「セリ市場に参加したい」あるいは「競走馬を所有したい」という意欲を持っていただくきっかけになるよう、今後も協力させていただきたいと考えています。なお、来年3月には「育成馬を知ろう会in宮崎」をJRA宮崎育成牧場にて開催予定です。お問合せは、JRA馬事部生産育成対策室までご連絡願います。

育成技術講習会 (生産)

10月30日および11月6日にそれぞれ美浦および栗東トレーニング・センターにおいて、育成技術講習会が開催されました。

今回の講習会は「海外で競馬を学ぶ-海外経験者が「世界の馬づくり」を語る」と題して、海外の厩舎や牧場で経験を積んだホースマンのみなさんによるパネルディスカッションを実施しました。

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パネリストのみなさんは、これまでの様々な経験をもとに、本当に多くの興味深い話をしてくださいました。

以下に、ディスカッションの中で印象に残った話を一部ご紹介します。

「アメリカの追いきりは、5ハロンを実戦なみのスピード(馬によっては58秒など)で走行させるタイム重視であり、指示タイムと1秒以上異なった場合には調教師から注意を受ける」

「短距離競馬が中心の香港においては、ゲートから多頭数で発進するなどスタート重視の追い切りが実施されている」

「イギリス・アイルランドにおいては、調教タイムは測定しない。走行時の馬の表情や蹄音などで状態を把握する調教師もいる」

「ヨーロッパのホースマンは、馬を褒めることが上手い。じっと立っているだけでも「よくできた!」と褒めている」

「アイルランドでは、調教で馬を乗ることを楽しむライダーが多く、大雨が降って冠水した際には、喜んで馬を水の中に入れたり、強風による倒木があった場合には、それを飛越したりもする」

「欧米各国の厩舎では、日本と比較すると乾草を多目に与えているところが多い。それでいて、馬が太くなるわけではない」

 

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トレセンや育成牧場のみなさんも大勢ご参加されて、積極的にご質問いただきました。

 

講習会の中でもお知らせしましたが、競走馬育成協会では「海外派遣研修制度」による海外研修の補助金助成を行っていますので、ご興味のある方はこちらのホームページをご覧ください。

http://www.ttda.or.jp/business/pdf/20131104.pdf

 

今後も多くの若い方が海外で馬づくりを学び、日本の競馬が益々発展することを願っています。

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

 

小学生の牧場見学 (生産)

 

日高育成牧場では、人材養成事業の一環として、多くの学生の方の受け入れを行っています。

 

すこし前の話になりますが、近隣の小学校の生徒のみなさんの見学研修がありました。

 

本年生まれた子馬2頭を見せたところ、子供たちは、小学生らしく元気いっぱいに喜んで子馬と触れ合い、また、子馬たちもバスツアーなどで大勢の人に触れられることに慣れているため、落ち着いて立っていることができました。

 

また、馬の引き方もレクチャーし、「人が馬のリーダーとなること」「人の指示に従って歩かせること」を学んでもらいました。

 

今後も多くの方に当場を訪れていただき、馬と触れ合うことの楽しさを感じていただければと思っています。

 


 

 

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元気いっぱいの小学生に囲まれたホームブレッドの当歳2頭


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子馬の引き方も勉強しました