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育成馬ブログ 生産編⑦ 「その2」

厳冬期の昼夜放牧が競走期パフォーマンスに及ぼす影響

それでは、厳冬期の昼夜放牧は、競走期のパフォーマンスに対して、どの程度の影響を及ぼすのでしょうか?

 

「厳冬期の昼夜放牧で体力や精神力が鍛えられる」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。実際にはどうでしょうか?

 

11月から翌年3月の冬期において、「昼夜放牧群」と「昼放牧+ウォーキングマシン(以下WM)群」に分けた2010~2012年に生まれた3世代について、現段階(2015年2月現在 3世代目は現3歳)での競走成績を比較します。

 

「昼夜放牧群」の11頭は、全て2歳で中央競馬に出走することができました。一方の「昼放牧+WM群」は、11頭のうち3頭はブリーズアップセールに欠場(理由はセール直前の跛行や、後期育成期における放牧地での事故)、7頭は中央競馬、1頭は地方競馬での2歳デビューを果たしています。

 

出走した「昼夜放牧群」と「昼放牧+WM群」の競走成績(中央および地方競馬)を比較すると、後者3頭がセールを欠場しているため、出走率では前者が上回っています。一方、出走馬(11頭 vs 8頭)で比較した出走回数、勝率、連対率、3着内率、獲得賞金は後者の方が上回っています。

 

 

出走率

1頭あたり出走回数

勝率

連対率

3着内率

獲得賞金(中央値)

昼夜群

(11頭)

100%

8.4回

45.5%

54.5%

54.5%

178万円

昼放牧

+WM群

(11頭)

72.7%

12.3回

87.5%

87.5%

87.5%

713万円

中央競馬および地方競馬における成績(2015年2月1日現在)

 

「昼夜群」と「昼放牧+WM群」の両者について、「どちらが優れているか」を単純比較することは、頭数が少ないことから容易ではありません。しかし、競走成績から考察すると両群いずれも、概ね問題ない飼養管理方法であるとも考えられます。

 

では、実際に厳冬期の子馬に対して、どちらを選択するべきなのでしょうか?

明確な答えはありませんが、厳冬期に安全に飼養できる放牧環境(凍結防止の水桶など)、牧場スタッフの人数、WMの有無、セリの上場時期など、様々な状況に応じた選択をすれば良いのかもしれません。

また、気象状況や、GPSを用いて計測した放牧地での移動距離などに応じて、放牧時間やWMの実施を選択する柔軟な対応をしてもよいのかもしれません。

 

現在、JRA日高育成牧場では、全頭に対して厳冬期の昼夜放牧を実施したうえで、「WM実施群」と「昼夜放牧のみの群」とに分けて、厳冬期の昼夜放牧における運動刺激が、馬体に及ぼす影響を調査しています。ここでも、興味深いデータが得られましたら、ご報告したいと思います。

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

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育成馬ブログ 生産編⑦ 「その1」

厳冬期の昼夜放牧

 JRA日高育成牧場では、この1~2月の厳冬期を含めて、通年昼夜放牧で子馬を管理しています。

今回はこの「厳冬期の昼夜放牧」について、馬体や競走期パフォーマンスに及ぼす影響について触れてみたいと思います。

 

馬体に及ぼす影響

現在はホームブレッド全頭に対して、厳冬期の昼夜放牧を実施していますが、2010~2012年に生まれた子馬については、11月から翌年3月まで「昼夜放牧群」と「昼放牧+ウォーキングマシン(以下WM)群」に分けて調査を行っていました。

(この期間以外は、生後1ヶ月から騎乗馴致開始前まで昼夜放牧を実施)

 

この調査によると、1~2月にかけての成長ホルモン様の作用を持つ「プロラクチン」の分泌が、昼夜放牧群では、昼放牧+WM群と比較して低い傾向にあることがわかりました。

また、心電計を用いた検査では、昼夜放牧群において、副交感神経の活動が優位、すなわち、「身体の代謝が低く抑えられている」ことがわかりました。

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すなわち、厳冬期における昼夜放牧は「子馬の成長や代謝を抑制する」との結論が示されました。

 

しかし、実際の馬体成長を比較してみると、体重、体高、胸囲、管囲のいずれの増加率も両群で有意差がないことがわかりました。

このことから、厳冬期の昼夜放牧を実施した場合、たとえ、プロラクチンの分泌濃度が低くても、「馬体の成長に及ぼす程の影響はなかった」と考えられました。

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あえて、馬体に及ぼす影響をあげるなら、冬毛が伸びるため、春時期においても毛づやの悪さが目立つことかもしれません。

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(次回につづく)

育成馬ブログ 宮崎⑥

○育成馬調教見学会の開催(宮崎)

宮崎での初春の風物詩となっているプロ野球球団のキャンプが、本年も2月からスタートしています。本年は、恒例となっているソフトバンク、巨人(宮崎市)、広島、西武(日南市)に加え、新たにオリックスが宮崎市清武町にキャンプインしており、活気づいています。宮崎がキャンプ地として選ばれる理由は、「気候の温暖さ」という点では沖縄には及びませんが、この時期の宮崎は「晴天率が高い」という点であるといわれています。

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写真① 宮崎サンマリンスタジアムでの巨人軍キャンプを視察に来た松井秀喜氏。

この理由のとおり、2月に入ってからは晴天の日が多いのを実感しながら、4月のブリーズアップセールに向けて育成馬の調教を実施している今日この頃です。

 

育成馬の近況

さて、宮崎育成牧場のJRA育成馬22頭の近況をお伝えいたします。宮崎育成牧場は、屋内坂路など多種多様なBTC調教施設を利用できる日高とは異なり、500mおよび1600mトラックダート馬場のみを使用しての調教となります。同じ環境で調教をできるということは、馬のメンタル面を安定させるためには大きなメリットとなる一方で、調教内容が単調になりやすいというデメリットも見え隠れします。

 

動画 2月初旬の1群牡の調教動画。

 

500mトラック馬場では、ウォーミングアップとして、同じ環境で同じ調教を実施することによるメリットであるメンタル面の安定を主眼に置いて、速歩2周の後、直線でのキャンター、コーナーでの速歩という調教を左右2周ずつ実施しています。これにより、競走馬の礎となる①前に(Go forward)、②真っ直ぐ(Go straight)、③落ち着いて(Go calmly)走行させることが達成されます。

一方、1600m馬場では、3月からのスピード調教に向けて、現在は基礎体力養成を主眼に調教を実施しています。4~5頭単位の1列縦隊でハロン22~20秒のイーブンペースでの2400mのステディキャンターを基本調教としています。週1回は群れを意識して馬群の中で落ち着くことと、および1600m馬場の利点を生かした長距離を一定ペースで走行することによって持久力を向上させることを目的として3000mのステディキャンターを実施しています。

また、週1回実施している強調教時には、1000mを2本走行させるインターバルトレーニングのスタイルを行うことによって、馬自らが“オン”の日であることを理解するように工夫しています。1本目は4~5頭単位の1列縦隊でハロン22~20秒でのステディキャンターを実施し、2本目は4頭単位の2列縦隊で3ハロンを54~51秒、つまりハロン18~17秒ペースでの強調教を実施しています。

 

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写真② 週1回実施している強調教時の様子。左:クリスタルストーンの13(牡父ゴールドアリュール)、右:スマートウェーブの13(牡 父メイショウボーラー)

このように1600m馬場では、調教内容が単調になりやすいデメリットを解消するために、1週間の調教の流れをパターン化して、馬が“オン”と“オフ”の切り替えを自らできるように工夫する試みを行っています。

 

育成馬調教見学会

ここからは、2月7日に開催いたしました「育成馬調教見学会」についてご紹介いたします。この見学会は、地元の一般来場者の方々が、育成馬の疾走する姿を間近で見ることができるイベントです。毎年10月と3月に開催している立ち馬展示をご覧いただく、「育成馬見学会」とともに、宮崎の地で成長していく育成馬の姿を間近で見て、少しでも身近に感じていただくことを趣旨に実施しています。

当日は晴天にも恵まれ、40名を越えるお客様にご来場いただきました。来場いただいたお客様には、少し高台からブリーズアップセール上場予定馬が疾走する蹄音や馬の息遣いを間近で感じていただきました。

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写真③ 育成馬調教見学会は晴天にも恵まれ、40名を超えるお客様にお集まりいただきました。

参加していただきました方々には、この紙面をお借りして、改めてお礼申し上げます。なお、3月21日(祝・土)には「育成馬見学会」を開催する予定です。「サポータズクラブ」にご登録いただいている皆様には、3月上旬にご案内をお送りいたします。皆様のご来場をお待ちしております。

育成馬ブログ 日高⑤

○  育成馬の近況報告(日高)

年末年始には平年の約2倍近い降雪量があった日高育成牧場ですが、1月初旬から気候は一転して暖かく(?)なり、この時期には珍しく「雨」が降る日もみられました。とはいえ立春を迎えた現在は再び寒さがぶり返しており、春の訪れはもう少し先のようです。

    Photo_2写真1.育成牧場を訪れた珍客(?)。

育成馬の調教状況

さて、JRA育成馬の調教状況をお伝えします。日高育成牧場ではこれまで、出生時期や成長度合い、馬格などをもとに3つの群にわけて騎乗馴致を開始し、その群ごとに運動メニューを作成して調教を進めてきました。基礎体力がつき調教内容が本格化してきた1月中旬からは、全群が合流して同内容の調教を実施しています。

現在の基本メニューは、屋内800mトラックにおいて縦列のキャンター(1周:ハロン24秒程度)を行った後、手前を変えて2列縦隊でのキャンター(2周:ハロン21秒程度)を行うというものです。強めの負荷となる坂路調教は毎週火曜日と金曜日に実施しており、屋内800mトラックでキャンター2周のウォーミングアップをしてから坂路を1本(3ハロン57秒程度)駆けあがっています。スピードを求めるのではなく隊列を乱さず前馬との距離を2馬身に維持することに主眼を置き、精神面の鍛錬を目指しています。また、休み明けの月曜日と坂路調教翌日には800m屋内トラックにおいて「リラックス」させることに主眼を置いた調教を行っています。1週間の調教メニューをパターン化することで、育成馬に「オン」と「オフ」を理解させたメリハリのある調教ができるよう、心がけています。

一部の馬の近況動画(坂路調教)をご覧下さい。

 

動画1.先頭からステージワンスモアの13(牡、父:ローレルゲレイロ)、 アーバンライナーの13(牡、父:タニノギムレット)、フローラルホームの13(牡、父:ヨハネスブルグ)、シラタマの13(牡、父:サウスヴィグラス)。この日のタイムは3ハロンが20.3-19.6-19.1(秒/ハロン)でした。

 

動画2.先頭からマルカジュリエットの13(牝、父:スゥエプトオーヴァーボード)、スイートカフェの13(牝、父:パイロ)、シックファイターの13(牝、父:ワークフォース)。この日のタイムは3ハロンが19.3-18.9-18.4(秒/ハロン)でした。

 

動画3.先頭からテイエムサイレンの13(牡、父:シンボリクリスエス)、ナイキクレイバーの13(牡、父:アンライバルド)、ヴァルネリーナの13(牡、父:サムライハート)。この日のタイムは3ハロンが19.3-19.9-19.0(秒/ハロン)でした。

 

育成馬検査を行いました

先日、JRAの本部職員が来場して育成馬検査を行いました。これは、購買以降の馬体の成長具合や調教進度などを確認する定期検査で、騎乗馴致が終わった11月頃と調教が本格化する1月下旬頃の計2回実施しています。

この検査では、全馬の調教状況を確認してから1頭ずつの馬体検査を行います。検査者の前で駐立し、歩様検査を行う育成馬は、疾病の有無だけではなく駐立や引き馬の「しつけ」や見た目の美しさ(タテガミやのトリミング状態など)も評価されます。

 

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写真2.当日の検査風景。人馬の信頼関係やしつけの状態、トリミングが行き届いているかなど、多岐にわたる項目が検査されました。このような機会がある度に、ご来場いただいたお客様に「楽しんで育成馬を見ていただく」ための練習を繰り返し行っています。

 

今回、検査と並行して「ベストターンドアウト賞」を決定しました。ベストターンドアウト賞は日本ダービーやジャパンカップでも馴染みがありますが、「馬がよく躾けられ、美しく手入れされ、かつ人馬の一体感を感じさせる展示・引馬(リード)を行う」人馬に送られます。JRAの育成牧場では「馬を見ていただく」という気持ち・姿勢を再確認する機会として検査とあわせて実施しています。

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写真3.ベストターンドアウト賞(牝馬)に選ばれたカシノリボンの13(牝、父:タニノギムレット)

 

春の訪れはまだ先のようですが、ブリーズアップセールの上場番号も決まり育成馬も徐々に本格化してきた今日この頃。競走馬デビューの時を待ちわびる育成馬達を是非見に来てください。ご来場、心よりお待ちしております。

活躍馬情報(事務局)

先週日曜日の東京3R(3歳未勝利)において、JRA育成馬カズノネネヒメ号が優勝しました。同馬は日高育成牧場で育成され、2014年JRAブリーズアップセールで取引されました。

 

今後のますますの活躍を期待しております。

 

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2月8日 1回東京競馬4日目 第3R  3歳未勝利 ダート 1,600m 

カズノネネヒメ号(マスカラーダの12) 牝

【 厩舎:小西 一男 厩舎(美浦) 父:エンパイアメーカー 】

育成馬ブログ 生産編⑥

厳冬期の子馬の管理

 

JRA日高育成牧場では、この時期(1月)の子馬は昼夜放牧で管理しています。

 

【放牧時間】 

22時間(朝10:30~翌朝8:30)

※放牧時には馬服を着用

 

【飼料】

(1日2回)

朝(馬房内):スタム(バランサー)0.5kg、エンバク1kg、ルーサン2kg

夕(放牧地):スタム(バランサー)0.5kg、エンバク1kg、ルーサン2kg

この他に自家製牧草の自由採食(馬房内および放牧地)

 

【BCS】

5.0~5.6(全7頭の平均5.2)

※2013年産駒の同時期:5.4~6.0(全7頭の平均5.7)

 

【ADG(1日あたりの体重増加量)】

0.3~0.6(全7頭の平均0.4 12月初旬~1月初旬の1ヶ月間)

 

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午後の放牧地での飼付けの様子

 

BCSに関しては、昨年産駒の同時期と比較すると約0.5ポイント低い値を示しています(折れ線グラフ)。現在の給餌量は昨年同時期と比較してほぼ同量ですが、昨年は冬場に備えて比較的早い時期から、飼料(昨年はオールインワン飼料ワンダーオリジナル)を多めに与えてきたことによるものです(棒グラフ)。

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昨年は「厳冬期の成長停滞」および「春以降の急激な成長」の防止を目的として、秋季からBCSを高めに管理してきました。

馬体の成長に関しては、個体差はあったものの、概ね所期の目的を達成することができたように感じました。

一方、デメリットとして、9~10月にかけて球節の骨端炎(明らかな疼痛、帯熱が認められたもの)を発症する馬がいたこと(7頭中3頭)、1歳夏時期に市場購買馬と比較したところ、やや太めの馬体に映ったことがあげられました。

いずれも大きな問題には至りませんでしたが、草が豊富にある秋時期における濃厚飼料の過給が、骨端炎を始めとする骨軟骨症のリスクに繋がることを実感しました。

本年については、同時期における骨端炎の発症馬は認められませんでしたが、昨年より低めのBCSで冬を迎えたことが、今後の成長や健康状態にどのような影響を及ぼすか気になるところです。

 

今後、気温が更に低下する2月を迎えますが、BCSと増体量を観察していきながら、徐々に濃厚飼料を増やしていく予定です。

 

冬期の昼夜放牧に関する議論は尽きないところですが、日高育成牧場では、引き続き様々なデータを収集しつつ、最適な飼養管理方法を模索していきたいと思います。

 

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