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厳冬期の管理と講習会(生産)

 今年も残すところあとわずかですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。今年は例年と比較し暖かく、「今年は雪が降るのが遅い」と感じておりましたが(写真1)、心配しなくても冬はちゃんと来るものですね。たった一日で草原が雪景色に変わってしまいました(写真2)

  

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【写真1】12月第2週の放牧地の様子。まだ雪がなく、当歳馬たちは青草を食べています。

  

  

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【写真2】12月第3週の放牧地の様子(写真1と同じ放牧地です)。こうなると青草を食べられませんので、放牧地にルーサン乾草を撒くなど工夫しています。

  

  

秋まで放牧地の青草を主食とし、昼夜放牧時には1日に1420時間は採食していた当歳馬たちにとって、放牧地が雪で覆われる北海道の冬は、飼養管理方法の変更を余儀なくされ、一般的には昼夜放牧から昼放牧へと切り替える牧場がほとんどだと思います。青草の採食の問題のほか、氷点下を下回る気温の低下やそれに伴う放牧地面の凍結によって、放牧地での自発的な運動量も減少します。成長期である当歳馬たちにとって、この環境の変化は大きな意味を持ち、冬期には成長が停滞することが知られており、この時期の管理方法は中期育成期における大きな課題となっています。

    

一昨年のJRAホームブレッド第1世代(父デビットジュニア)は、“自然な状態での管理”というテーマで、厳冬期も全頭昼夜放牧を実施しました。その結果、冬毛が非常に伸び、完全に換毛したのは1歳の6月ごろであったために、外貌上の面だけを考えると、特に7月のセリへの上場を目標とする場合には、厳冬期に昼夜放牧を実施すると不利な面があると思われました。とはいえ、9月に入り騎乗馴致を行う頃には、セリで購買した他の馬との違いもなくなり、厳冬期の昼夜放牧のデメリットは特に感じられない状況でした。さらに、競走期に関して言えば、先日このブログでもご紹介した通り、マロンクンJRAホームブレッドとして中央競馬初勝利をあげています。

    

昨年の第2世代(父ケイムホーム)は、11月末から「昼夜放牧群(22時間放牧群)」と「昼放牧群(7時間放牧+ウォーキングマシンによる運動群)」とに分け、臀部脂肪厚、屈腱断面積、成長に関わるホルモンなどの変化について比較検討を行いました。その結果、当たり前ですが冬毛の多寡など様々な違いが認められました。特に興味深かったのは、甲状腺ホルモン・プロラクチンなどのさまざまな成長に関わるホルモン動態を検討したところ、いずれも「昼夜放牧群」と比較して「昼放牧+WM群」で高い活性を示したことでした。このホルモン動態の変化が生理的にどのような影響を及ぼすのか、また競走能力にどのような影響を与えるものなのかなどについて、まだ不明なことだらけですので、今年の第3世代(父アルデバラン)も研究を継続し、「昼夜放牧群」と「昼放牧+WM群」の2群に分けて管理しています。ホルモンについては民間牧場にもご協力いただいて例数を増やして詳細に解析していく予定です。

  

 昨年の研究結果については、「JRA育成馬日誌」の下記の記事をご覧下さい。

   

  

【参考:JRA育成馬日誌】

    

●「冬季の当歳馬の管理」

  https://blog.jra.jp/ikusei/2011/01/post-5777.html

  

●「昼夜放牧と昼放牧(ウォーキング・マシン併用)、

厳冬期はどちらがBetter?①」

  https://blog.jra.jp/ikusei/2011/02/better-1b3c.html

  

●「昼夜放牧と昼放牧(ウォーキング・マシン併用)、

厳冬期はどちらがBetter?②」

  https://blog.jra.jp/ikusei/2011/02/better-c575.html

  

●「昼夜放牧と昼放牧(ウォーキング・マシン併用)、

厳冬期はどちらがBetter?③」

  https://blog.jra.jp/ikusei/2011/03/better-ff0c-1.html

 

  

 

 さて、前号でもお知らせした通り、この生産地の“シーズン・オフ”を利用して、JRAでは様々な講習会を実施しました。写真はその中の一つ、1216日に日高育成牧場にて行われた「日高女性軽種馬ネットワーク(馬女(まじょ)ネット)軽種馬生産技術研修会」の様子です(写真3)。馬女(まじょ)ネット(代表:高村洋子さん)とは、生産牧場の“女性”が集まり年に3~4回技術、経営研修等勉強会を主に活動している団体です。今回は、強い馬づくりのための生産育成技術講座の内容をアレンジし、「子馬の肢軸異常・クラブフット調査(講師:佐藤文夫・日高育成牧場)」「馬の皮膚病とその対策(講師:遠藤祥郎・日高育成牧場)」について講習会を実施しました。馬女(まじょ)ネットの活動について興味のある方、入会希望は、℡0146-42-1489(日高農業改良普及センター:田所氏)までお願いします。

    

 

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【写真3】馬女(まじょ)ネット講習会の様子

  

  

 皮膚病の講習では、JRAが行った過去の調査・研究や、海外の文献などから、細菌が原因の皮膚病と真菌が原因の皮膚病の見分け方(写真4)や、皮膚病の種類毎に効果がある消毒薬の種類などを紹介しました。皮膚病は、それ自体が馬の生命に関わることは少なく、今まであまり講習会などが行われてこなかった分野で、正直なところ講演会の前までは「果たして本当にニーズがあるのだろうか」と疑問を抱いておりました。しかし、「馬をお客様に見せて売る」ことを仕事としている生産牧場や育成牧場の関係者にとって、商品である馬の価値を高めるために、皮膚病の管理は重要で非常に気を使っていることがわかりました。

  

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【写真4】「馬の皮膚病とその対策」のスライドの一部。皮膚病の見分け方などについてお話しました

   

  

 JRA日高育成牧場では、こうした皆様のニーズに少しでもお応えできるよう、様々な調査・研究に取り組んでいきたいと考えております。今後も、我々の活動にご注目していただけましたら幸いです。

  

  

活躍馬情報(事務局)

先週の小倉競馬においてJRA育成馬キボウダクリチャン号が「2歳未勝利戦」に優勝致しました。同馬は日高育成牧場で育成調教され、本年のブリーズアップセールにて取引された馬です。

また、同馬の優勝により、2011 JRAブリーズアップセールで取引された育成馬は、2歳終了時点において14頭勝ちあがり(新馬戦優勝6頭含む)、延べ18勝(内オープン競走3勝、500万特別1勝含む)となりました。

それでは、来年もJRA育成馬の活躍にご期待頂ければ幸いです!

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1224日(土) 5回小倉競馬9日目 3R】  

2歳未勝利戦(芝:1,200m

キボウダクリチャン号(ウッドフェアリーの09 牝

父:チーフベアハート  厩舎:高市 圭二 (美浦)

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活躍馬情報(事務局)

先週の阪神競馬においてJRA育成馬ダンツミュータント号が「メイクデビュー阪神(新馬戦)」に優勝致しました。同馬は日高育成牧場で育成調教され、本年のブリーズアップセールにて取引された馬です。

また、同馬の優勝により、2011 JRAブリーズアップセールで取引された育成馬は、13頭勝ちあがり(新馬戦優勝6頭含む)、延べ17勝(内オープン競走3勝、500万特別1勝含む)となりました。

それでは、今後もJRA育成馬の活躍にご期待頂ければ幸いです!

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1217日(土) 6回阪神競馬5日目 6R】  

メイクデビュー阪神(芝:1400m

ダンツミュータント号(ウメノローマンの09 牡

父:マイネルラヴ  厩舎:本田 優 (栗東)  

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季節の変わり目(宮﨑)

師走に入り、ここ南国宮崎も肌寒い日が増えてきました。

宮崎育成牧場で、最も季節の移り変わりを実感するのは、育成馬達の放牧場所・や放牧頭数などの放牧形態の切り替えではないでしょうか。

入厩時より実施してきた夜間放牧も調教がすすむにつれ、順次グループ毎に昼間放牧に切り替えてきました。

現在早期に入厩し先に馴致を開始した第1群は、駆歩で500mの内馬場を2周した後、1600m馬場で22/ハロン程度のスピードで2000m、合計3000mの駆歩調教を実施しています。9月に入厩した第2群も1600m馬場に入り本格的な調教を開始しています。

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【写真1】 初めての1600馬場での速歩調教

騎乗者の表情には緊張感に加えて、無事に本馬場入りした喜びも漂います。

  

夜間から昼間の放牧への変化に加えて、運動量も個体毎の管理を行うために、単独のパドック放牧へと管理形態が大きく変化しています。

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【写真2】 単独のパドックに放牧されたロマンスビコーの10(父シンボリクリスエス)

パドックにはイタリアンライグラスが青々と茂り、喜び、リラックスした馬の様子がうかがえます。また、宮崎育成牧場では、冬場の被毛管理としてクリッピングを実施しています。

  

これまでは、約16時間広い放牧地で複数頭で自由に運動していた訳ですが、これからは単独で4時間程度の放牧に運動の質・量共に管理されることになります。朝一番に見る馬の顔も大きな変化が見られます。夜間放牧時は、心地よい疲労感を漂わせていた朝の表情は一変し早く外に出て運動したいと眼を輝かせて訴えています。放牧形態など環境の変化に伴う心の変化をストレスとして溜め込むのではなく、走りたい気持ちに変換し調教で十分に発散できるよう我々も工夫を重ねていく所存です。

また、宮崎育成牧場では毎週土曜日に場外発売所や公園にお越しくださったお客様に調教の様子を公開しています。

当日の調教メニュー、取り組んでいる課題、週替わりの育成馬紹介などパンフレットを作成配布し、番号ゼッケンをつけた育成馬達をご覧になっていただいております。宮崎にお越しの際には是非スケジュールに加えてみてください。

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【写真3】 調教公開にお越しいただいたお客様の前で番号ゼッケンを装着し一列で駆歩調教を披露する育成馬達

前から⑯クイーンズバンダムの10(父ザール)、⑮フラワーブリーズの10(父ブラックタイド)、⑬フェアリーステップの10(父ネオユニヴァース)

 

JRAホームブレッド(生産馬)初勝利 (事務局)

先週の5回中山競馬第3レースにおいて、マロンクン号(美浦・牧 光二厩舎)が1着となり、JRAホームブレッド(生産馬)が中央競馬初勝利を挙げましたのでお知らせします。

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123日(土) 5回中山競馬1日目 3R

 2歳未勝利戦(芝:1200m

 

     マロンクン号(ワンモアベイビーの09)  牡

   父:デビッドジュニア  厩舎:牧 光二(美浦)

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 「JRAホームブレッド(JRA Homebred)」とは、JRA育成馬のうち、JRA自らが生産した馬の名称です。同馬はJRA日高育成牧場にて生産・育成され、本年4月のJRAブリーズアップセールに上場・売却されたJRAホームブレッド初年度産駒の1頭です。

JRAでは、わが国の生産育成分野のレベルアップに資することを目的として、これらの馬を活用し、「母馬のお腹の中から競走馬までの一貫した調査研究や技術開発」を行い、その成果の普及・啓発に取り組んでいます

JRAホームブレッドやその母馬を用いた生産育成業務の成果については、JRAホームページ内のJRA育成馬サイト「JRA育成馬を用いた生産育成研究業務」(リンク: http://www.jra.go.jp/training/research.html)で詳細を紹介しております。

2011JRAブリーズアップセールで落札されたJRAホームブレッド一覧

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 ・ 詳細はこちらです(JBISサーチ)

  → http://www.jbis.or.jp/breeder/9000501300/achievement/

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なお、マロンクン号は、本年のブリーズアップセールでの新たな取り組みである “ファイナルステージ 売却馬の初勝利ともなりました。

    ファイナルステージとは:セール当日落札されなかった上場馬を、馬主の皆様に早期(セール翌日)にご購買いただくための取り組みです。詳細は下記リンクをご覧下さい。

 ・リンク:https://blog.jra.jp/ikusei/2011/04/post-1c4e.html

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活躍馬情報(事務局)

先週の東京競馬においてJRA育成馬タイセイスティング号が「からまつ賞(2500万下)」に優勝致しました。同馬は宮崎育成牧場で育成調教され、本年のブリーズアップセールにて取引された馬です。

なお、次走は1214日に川崎競馬場で開催されます「全日本2歳優駿(G1)」に出走予定です。

また、同馬の優勝により、2011JRAブリーズアップセールで取引された育成馬は、11頭勝ちあがり(内新馬戦優勝5頭)、延べ15勝(内オープン競走3レース)となりました。

それでは、今後もJRA育成馬の活躍にご期待頂ければ幸いです!

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1126日(土) 5回東京競馬7日目 9R】  

からまつ賞(ダート:1600m

タイセイスティング号(ミラクルケープの09 牡

父:ゴールドアリュール  厩舎:新開 幸一(美浦)

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                       ※JBISサーチ提供

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