« 2015年9月 | メイン | 2015年11月 »

育成馬ブログ 宮崎③

○秋の育成馬見学会の開催(宮崎)

 10月に入り、宮崎でも秋の気配を感じるようになってきました。特に、朝夕の冷たい

は早くも冬の到来さえ予感させます。寒暖の差が激しくなる季節の変わり目でも

ありますので、人馬ともに体調管理を第一に考えて、育成調教を実施しています。

育成馬の近況

 2群に分けて騎乗馴致を進めている育成馬の近況をお伝えいたします。9月中旬

から騎乗馴致を開始している1群(牡馬11頭)は、最初の4週間はドライビング中心に

馴致メニューを組み、現在は角馬場での騎乗による速歩調教を重点的に実施し、

500m馬場においてハッキング程度のキャンター調教を行えるまでになっています。

11月からは1600m馬場でのキャンター調教を実施する予定です。

 一方、10月上旬から騎乗馴致を開始している2群(牝馬11頭)は、ドライビングを

中心に実施しながら、徐々に丸馬場での騎乗も行っている現状です。11月には

角馬場において集団での速歩調教を開始する予定です。

1516

写真① 500m馬場で隊列を整えた速歩を実施する1群の牡の育成馬。

腹帯馴致について

 JRA育成馬に対する騎乗馴致は、「育成牧場管理指針」に基づいて実施して

います。騎乗馴致において、馬にとっての大きな山場は「ローラー」と呼ばれる「腹帯」

を初めて装着するときだと思われます。なぜならば、「腹帯」による圧迫は自然状態下

では決して経験することのない刺激であり、さらに、「腹帯」は一旦装着すると

締め具合が固定されてしまうため、段階的に慣らしていくことが困難であるからです。

JRA育成牧場では「育成牧場管理指針」にも記載しているとおり、腹帯による圧迫を

段階的に慣らしていくために「ストラップ」による馴致方法を導入しています(図1)。

1516_2
図1.「ストラップ馴致」は腹帯馴致の有効な手段となります。

 

 この「ストラップ」は、革ベルトの一端にリングというシンプルな構造で、留め金などに

より締め付けた状態を固定しないため、解除が容易であり、使用方法も簡便です。

さらに、馬に対して、段階的に圧迫に慣らすことが可能であるために、非常に有効な

方法です。しかし、「ストラップ」による腹帯馴致方法を実施しても、敏感な反応の

良い馬は、ローラー装着時に「カブリ(Bucking)」(動画)と呼ばれる「四肢で跳ね

上がる反応」をみせます。

動画 ローラー装着時の「カブリ」の様子。プルームリジェールの14(牝 父:スマートファルコン)

⇒ https://www.youtube.com/watch?v=rYnN5dW81SU

 この「カブリ」という反応は、大きな呼吸を行うことによって胸郭が膨らみ、経験した

ことのないローラーによる強い圧迫を感じて驚き、それを振り解こうとする自然な反応

です。馬が「カブリ」を見せた場合には、必ず、ムチなどの扶助を使って馬を前に出し

馴致者の安全を確保するとともに、馬に対して扶助に従って前に出ることによって、

問題が解決されるということを理解させます。この際にも、馴致者は冷静に明確な

指示を出すことが要求されます。ローラーに対して激しい「カブリ」をみせた馬に対して

は、馴致終了後も、ローラーを装着したままウォーキングマシンでの運動、あるいは

放牧を行ってローラーの圧迫に慣らすことが効果的です。

 馴致の進度は、個体差があるので、「急がば回れ」の格言のとおり、個々の馬に

合わせて、段階的に進めていきたいと思っています。

育成馬見学会

 さて、前回の育成馬日誌でも案内させていただきました「秋の育成馬見学会」を

10月17日(土)に開催しました。このイベントは、毎年、10月中旬のこの時期と

ブリーズアップセールの約1ヶ月前の3月中旬の年2回実施しております。地元宮崎に

お住まいのお客様に宮崎の地で成長していく育成馬の姿を間近で見て、少しでも

身近に感じていただくこと、さらに3月の見学会では「サポーターズクラブ」と題して、

お気に入りの馬を牡牝それぞれ1頭ずつ選んでいただき、その馬が競走馬として

活躍した際にはゴール前写真をプレゼントするなど、JRA育成馬への応援を通じて

より競馬に親しんでいただくことを趣旨に実施しています。

 また、実馬展示に先立ち、「サラブレッドの血統」をテーマにした簡単な講義を行い

ました。このような座学をとおして、少しでも競馬の面白さを感じていただけたらと

思っています。

 今回の育成馬見学会には、104名ものお客様にご来場いただきました。我々

スタッフにとっては、このような大勢の方々の前で育成馬を展示する機会は少ない

ため、良い馴致の機会と捉えています。展示では、普段と異なる雰囲気を察知して

落ち着かない馬も散見されましたが、多くの馬は大人しく駐立することができました。

この調子で3月に行われる「春の育成馬見学会」まで、根気よく馬の調教および管理

に取り組んでいきたいと思います。

 育成馬見学会に参加していただきました方々には、この紙面をお借りして、改めて

お礼申し上げます。

 

1516_3
写真② 育成馬見学会は晴天にも恵まれ、100名を超えるお客様に

      ご来場いただきました。

活躍馬情報(事務局)

先週土曜日の東京2R(2歳未勝利)で、

日高育成牧場で育成されたアーバンスター号が優勝しました。

同馬は2015年JRAブリーズアップセールで取引され、

4戦目での勝ち上がりとなりました。今後のますますの活躍を期待しております。

201510102r__g
10月10日 4回東京競馬2日目 第2R  2歳未勝利 ダート 1,300m

アーバンスター号(アーバンライナーの13) 牡

【 厩舎:池上 昌弘 厩舎(美浦) 父:タニノギムレット 】

育成馬ブログ 日高②

 

○  順調に騎乗馴致を進めています(日高)

 

朝晩の気温がぐっと下がってきた日高地方。山は綺麗に紅葉して、川には鮭が遡上

しています。まもなく訪れる冬に向けて準備が進む日高育成牧場から、育成馬の

近況を報告します。

 

オータムセールでの購買

今年もJRAはオータムセールに参加し、2頭の育成馬を購買しました。同セールが

終了し、購買馬は全部で74頭(八戸市場4、セレクトセール2、セレクションセール10、

九州1歳市場1、サマーセール55、オータムセール2)になりました。

これにJRAホームブレッド7頭を含めた81頭が来年のJRAブリーズアップセールに

向けて調教されていくことになります。

 

育成馬の近況

日高育成牧場には現在、59頭のJRA育成馬が在厩しています。今年の騎乗馴致も

3群にわけて実施しており、最初に馴致を開始した第1群(牡22頭)は800m屋内

馬場で速歩・駈歩ができるようになりました。第2群(牝22頭)は10月5日から騎乗

馴致を開始し、ラウンドペンでのランジングを行っています。第3群は昼夜放牧を

行い馬体の健全な発育を促しつつ、人馬の信頼関係構築に励んでいる段階です。

概ね順調に騎乗馴致を終えた第1群ですが、馴致を進める際の馬の反応はさまざま

です。引き馬から騎乗までの行程を全く問題なくクリアできる優等生は殆どおらず、

鞍付け前に行う「ローラー」と呼ばれる馴致道具を嫌いなかなか受け入れられない

馬やお尻にレーンがあたるのを嫌う馬など、馴致中の反応は馬ごとに違います。

各々がもつ苦手な項目を解決するため、ときには少し前のステップに戻り、ときには

他馬の倍以上の時間をかけて進めてきました。若馬の馴致では、馬にわかりやすく

人馬ともに安全に実施することが最も大切だと思います。それぞれの馬の理解度を

見極めて、馬にあわせて慌てずに馴致・調教を進めていきたいと思います。

                         

1_2
写真1.800m屋内馬場で速歩調教を行う第1群の牡馬。左端の誘導馬に続くダームドゥラック14(牡、父:ロージズインメイ)、ウエスティンタイム14(牡、父:スズカマンボ)、ウルトラペガサス14(牡、父:ルーラーシップ)、グラッドリー14(牡、父:サウスヴィグラス)。

 

BTC研修生の馴致実習

日高育成牧場では例年BTC(軽種馬育成調教センター)の育成調教技術研修生の

馴致実習を受け入れており、今年も33期生17名が研修しています。研修生には

入学するまで馬に接したことのなかった生徒も多く、若馬を取扱うのはJRAでの研修

がはじめてです。育成馬と日々触れ合い、実際に騎乗馴致を行うことで多くのことを

 

 


YouTube: 研修生の馴致訓練

 

動画1.騎乗馴致を実践するBTC研修生。3週間前には若馬と触れ合ったことも

なかった研修生も、JRA育成馬を使って多くの技術を身につけています。

 

●「元JRA育成馬」の近況

最後に余談ですが、JRAブリーズアップセールで売却することのできなかった育成馬

の近況をお伝えします。日高育成牧場にはセイウンワンダー号やモンストール号など

活躍した当場出身の育成馬と一緒に、ブリーズアップセール未売却となった元育成馬

たちが繁殖牝馬や乗馬として繋養されています。

先日、モンストール号など乗馬として訓練してきた元JRA育成馬が一般のお客様向け

試乗会にデビューできるかの確認を行いました。試乗したのはJRA職員の家族で、

子供たちが騎乗したときの落ち着きなどを確認したところ問題なく、「確認試験」は

終了しました。バスツアーなどの乗馬試乗会で近々「デビュー」することができそう

です。

2_2
写真2.「元JRA育成馬」達による試乗会練習。競走馬として活躍することはできませんでしたが、馬事普及という分野で長く活躍してほしいと思います。

 

育成馬ブログ 生産編②「その3」

実践研修プログラムのご案内(10 月~12 月)

 

JBBA 軽種馬経営高度化指導研修事業の一環として、JRA 日高育成牧場で

実施する「実践研修プログラム」についてご案内いたします。

 

本研修は、これまでの講習会などで行われてきた「講師からの一方通行の情報提供」

ではなく、参加者が主体となって内容を自由に選択できる研修です。

JRA日高育成牧場は、参加者のご要望に最大限お応えする「情報提供」はもとより、

参加者の皆様に充実した「学びの場・機会」を提供していきたいと考えています。

 

この機会に是非、職場の同僚やご近所の牧場のみなさんをお誘いの上でお申込み

下さい。

当場の職員も皆様にお会いし、一緒に馬を見ながらディスカッションできることを

楽しみにしています。

 

実践研修プログラムの主なポイント

 

①少人数(4~6名)での参加が原則

 (2~3名の場合には要相談、他グループとの合同もあり)

②参加者が自由に研修内容を選択できる

③講義・実技・ディスカッションの3部構成

 

期間:10月~12月までの月~金曜

場所: JRA日高育成牧場(現地集合・現地解散となります)

対象: 競走馬の生産・育成に従事している方

 

詳細はこちらをご覧ください。

http://www.jbba.jp/150910.pdf

 

1

2

33

実践研修プログラム(夏期)の様子

 

参加者の声(2015年実践研修プログラム夏期 アンケート回答より)

 

ž   実馬を使った、いつでも質問できる研修でした。貴重な時間が過ごせました。

 

ž   もう少し時間が長いと良い。とても充実した講習会だと思いますので

 今後も参加したい。

 

ž   盛り沢山の内容でとても得した気分です。ひとつひとつ、トップレベルの技術を

 教えていただける貴重な研修でした。

 

ž   馴致の仕方について、どうしてこうするのか説明がわかりやすかった。実際に

 馬を使って説明してもらえることも良い。

 

ž   一緒に参加した他の牧場の方からも色々な意見、体験談が聞けて大変興味

 深かった。

育成馬ブログ 生産編②「その2」

離乳 その2

 

子守役の牝馬の必要性については議論の余地があるかもしれませんが、母馬を

全頭間引いた後の子馬達の落ち着いた様子を見る限りでは、少なからず効果は

あったような気がします。

 

離乳から1週間後、牧柵修理のために重機車両が放牧地内に入ってきたときの

ことです。

 

そわそわして走り周りそうな子馬達をよそに、子守役の牝馬は落ち着いて草を食んで

いました。その後方で戸惑いながらもじっとしている子馬達の様子を見ると、ある程度

の精神的な支えになっているのではないかと感じました。

 

21

工事車両(左奥)に戸惑う様子を見せる子馬達(右馬群)と

落ち着いて草を食む子守役の牝馬(左)

22

同じく戸惑う様子を見せる子馬達(左馬群)と落ち着いて草を食む子守役の牝馬(右)

 

 

8頭の子馬達については、現在使用している放牧地(4ha)から、その2倍の広さに

あたる8haの放牧地に移動させて、伸び伸びと育てていきます。

なお、子守役の牝馬は次の放牧地で子馬達が落ち着いた後に、群から引き離す

予定です。

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対する

ご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、

JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

アドレス jra-ikusei@jra.go.jp