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育成馬ブログ 生産編③「その4」

子馬の栄養管理 タンパク質④

 

 それでは、「②タンパク質過剰がDODを引き起こす原因である」については事実で

しょうか?

 

 ある調査によると、NRC飼養標準の70%、100%、130%のエネルギーおよび

タンパク質を離乳後の当歳馬に与えた場合、130%のエネルギーを与えた場合に、

最も多くの骨成長異常が認められ、130%のタンパク質を与えた場合にはほとんど、

もしくは全く異常が認められませんでした。

 一方、70%のタンパク質給与の場合には、馬体や骨の成長不良が認められたと

いうことです。

 

 この調査の他にも同様の報告があり、現在では、炭水化物の過剰摂取がDODの

リスクを高め、タンパク質についてはむしろ欠乏した場合にリスクが高まるとの理解が

一般的になっています。

 また、DODの原因としては、これら以外にもカルシウムや銅などのミネラルの欠乏、

遺伝、急成長、外傷など他のリスクファクターの存在も無視できません。

 

 例えば、タンパク質含量15%の飼料で、30%のそれと同量のタンパク質を与える

ためには、後者と比較して倍量を与えることになります。すなわち、エネルギーが倍に

なり、DODのリスクが高まります。このため、タンパク質含量30%の飼料はエネルギ

ー供給を抑制しつつ、十分量かつ良質なタンパク質を与えることができる飼料といえ

ます。もちろん、タンパク質以外にもミネラルやビタミンの必要量が摂取できる配合に

なっていることが条件です。

 

 本年12月に、JBBAから軽種馬栄養計算ソフト「SUKOYAKA」がリリースされます。

「離乳後の子馬には、どのような飼料が適しているのだろうか?」

「妊娠後期の繁殖馬に対してはどのような飼料をどのくらい与えたらよいのだろうか?」

 このような栄養や飼料に関する疑問をお持ちの方にとって、お役に立てる内容に

なっております。どうぞ、ご期待ください。

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JBBA軽種馬栄養計算ソフト「SUKOYAKA」

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対する

ご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、

JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

活躍馬情報(事務局)

先週土曜日の京都8R(京都ジャンプS(JGⅢ))で、日高育成牧場で育成されたダンツミュータント号が優勝しました。同馬は2011年JRAブリーズアップセールで取引された6歳馬ですが、これまで平地3勝、障害3勝の計6勝と大活躍しております。

また、日曜日の東京1R(2歳未勝利)で、日高育成牧場で育成されたジャルーズ号が優勝しました。同馬は2015年JRAブリーズアップセールで取引され、3戦目での勝ち上がりとなりました。今後のますますの活躍を期待しております。 

_2015__3
 11月14日 5回京都競馬3日目 8R 京都ジャンプステークス(JGⅢ) 障 3,170m

ダンツミュータント号(ウメノローマンの09) 牡

【厩舎:本田 優 厩舎(栗東) 父:マイネルラヴ】

 

_201511151r_g

11月15日 5回東京競馬4日目 第1R  2歳未勝利 ダート 1,400m

ジャルーズ号(ソフィアルージュの13) 牝

【 厩舎:栗田 徹 厩舎(美浦) 父:エンパイアメーカー 】

育成馬ブログ 生産編③「その3」

子馬の栄養管理 タンパク質③

 

 では、当場の離乳後の当歳馬(6ヶ月齢)を例に、タンパク質の摂取量を検討して

みましょう。

 

 22時間放牧時の6ヶ月齢の子馬の青草の摂取量は約16kg、タンパク質含有量は

約800gであり、この時期の要求量をほぼ充たしています。しかし、制限アミノ酸である

リジンの要求量は充たされていません(グラフ)。

               

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青草(16kg)のみの摂取時におけるタンパク質およびリジンの充足率

 

  ここで、タンパク質含量30%の飼料1kgを与えた場合、タンパク質の充足率は

約140%、リジンのそれは約130%になり、質量ともに十分なタンパク質を与える

ことができます。


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青草(16kg)にタンパク質含量30%の飼料1kgを与えた場合の充足率

 

 

つづく

育成馬ブログ 生産編③「その2」

子馬の栄養管理 タンパク質②

 

 それでは、与えるタンパク質の「質」、アミノ酸についてはどのように考えればよいの

でしょうか?

 

 アミノ酸はタンパク質を構成する化合物であり、このうち生体内で合成できないアミノ

酸を「必須アミノ酸」とよびます

 必須アミノ酸の摂取方法について、栄養学の教科書では「樽」に例えています。

 必須アミノ酸が樽を構成する「樽板」、摂取量が樽板の「高さ」、合成されるタンパク

質の量が樽の中に入る「水の量」になります。このため、一番低い樽板、すなわち

「制限アミノ酸(飼料中最も少ないアミノ酸)」の高さまでしか水が入らず(タンパク質

合成に利用されず)、他のアミノ酸の水面から上部は利用されない無駄なアミノ酸に

なると考えられます。

 このことから、制限アミノ酸の摂取量を考慮したタンパク質摂取が求められます。

通常、制限アミノ酸は「リジン」ですので、リジンが豊富に含まれた飼料を与えることが

推奨されます。

 

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 アミノ酸の樽

「一番低い樽板=制限アミノ酸」の高さまでしか、水は入らない

制限アミノ酸を十分摂取することで、他のアミノ酸の無駄を防ぐ。

 

つづく

22

 

講演会のおしらせ

強い馬づくりのための生産育成技術講座2015

 

 JRA日高育成牧場では、競走馬の資質向上や生産育成関係者への情報・技術

及を目的として「強い馬づくりのための生産育成技術講座2015」を開催いたします。

 入場無料で一般の方もご参加いただけます。皆様のご来場をお待ちしております。

 

開催日時および場所

 ① 平成27年11月18日(水) 18:30-20:00

   浦河町 浦河総合文化会館・文化ホール4F

 ② 平成27年11月19日(木) 18:30-20:00

   日高町 門別総合町民センター・大集会室2F

 

対象者; 軽種馬生産育成関係者

 

講演内容

・  『分娩日の予測法 -乳汁のpH・Brix測定について-』

                       (日高育成牧場 生産育成研究室 村瀬 晴崇)

 

・  『子馬の飼養管理 -生後から2ヶ月齢-』

                       (日高育成牧場 専門役 冨成 雅尚)

 

・  『BTC屋内坂路馬場の運動負荷について -美浦トレセン坂路馬場との比較-』

                       (日高育成牧場 生産育成研究室 羽田 哲朗)                 

                       (※浦河会場のみ)

 

・  『ローソニア感染症対策』

                       (日高育成牧場 業務課 宮田 健二) 

                       (※門別会場のみ)

 

司会進行 佐藤 文夫(JRA日高育成牧場生産育成研究室)

日高軽種馬生産振興会青年部連合会

 

【共 催】

 日高軽種馬生産振興会青年部連合会

 JRA日高育成牧場

 

【後援】

 日高軽種馬農業協同組合

 

【お問い合わせ・連絡先】

 JRA日高育成牧場 生産育成研究室

 TEL:0146-28-2084(土・日・祝除く9:00~17:00)

育成馬ブログ 生産編③「その1」

子馬の栄養管理 タンパク質①

 

 10月現在、離乳後のJRAホームブレッド当歳8頭は、牧草豊富な広い放牧地

(8ha)で22時間の昼夜放牧を実施しています。

 

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青草が豊富な放牧地での22時間の昼夜放牧

 

 全頭いずれも集牧時(朝8~10時)に、バランサー型の飼料「スタム30」

(タンパク質含量30%)1kgを給餌しています。 

 

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現在、当歳に与えているバランサー型飼料「スタム30」

 

 このような給餌方法に対して、時々、以下のような問い合わせがあります。

 

 「タンパク質含量30%の飼料を子馬に与えた場合、タンパク質過剰によって

  DOD(発育期整形外科的疾患)の発症リスクが高まるのではないか?」

 

 はたして事実でしょうか?

 

 この話を整理して考える場合、2つのポイントを考慮しなくてはなりません。

 

①タンパク質含量30%の飼料を与えると、タンパク質過剰を引き起こす。

②タンパク質過剰がDODを引き起こす原因である。

 

①については、飼料中のタンパク質含量ではなく、実際に子馬に与えるタンパク質の

量と質を考慮する必要があります。

 

軽種馬飼養標準においては、6ヶ月齢の子馬のタンパク質要求量は800g(1日当り

であり、米国においてNRC(National Research Council)が作成した飼養標準

では、概ね680~810gの範囲とされています。すなわち、タンパク質含量30%の

飼料1kgを与えたとしても、タンパク質量は300gであり要求量の半分以下にしか

なりません。

 

 22時間放牧中の当歳馬が1日に食べる放牧地の青草の量は約16kgと推定され

ます。放牧草(日高地区の平均)に含まれるタンパク質量は16kg中に約800gなの

で、タンパク質含量30%の飼料と合わせると要求量の約1.4倍の1100gのタンパク

質給与になります。

 

 育成期の若馬、競走馬および繁殖馬など様々な馬のライフステージの飼養管理に

おいて、タンパク質給与量が要求量の1.5倍を超えることは珍しくありません。それ

だけ一般的なサラブレッドの飼料中には、タンパク質が豊富に含まれているということ

です。

 

 海外の様々な指導書において、タンパク質の過剰摂取は避けるべきと言われます

が、その量について明確なガイドラインはありません。実際、国内で要求量の1.5倍

程度のタンパク質を摂取したことにより、馬の健康に悪影響を及ぼしたという報告は

なく、ホームブレッドに与えている要求量の1.4倍程度のタンパク質は過剰な量とは

いえません。

 

 以上のことから、タンパク質含量30%の飼料を過剰に与えない限りは問題ないこと

がわかります。

 

つづく