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育成馬ブログ 日高④

○  本年もよろしくお願いします!(日高)

 日高から本年最初の投稿となります。昨年に引き続き、JRA育成馬ブログをよろしく

お願いします。例年1月には育成牧場全域が雪に覆われ一面銀世界となりますが、

今年は暖冬の影響で雪も少なく、比較的過ごしやすい冬となっています。

年末年始に短期間の放牧休養を挟み、リフレッシュした育成馬達は元気に調教を

再開しています。

 

育成馬の調教状況

 まずはJRA育成馬の調教状況についてお伝えします。

第1群(牡23頭)は、屋内800mトラックをキャンター1周(縦列:ハロン22秒程度)

した後、手前を変えてキャンター2周(2 or 3列縦隊:ハロン20秒程度)する調教を

こなしています。スタミナがついて速く走りたがる馬も増えてきましたが、行きたい

気持ちを我慢させて前後左右の間隔を詰め、競馬を意識した調教を目指しています。

12月からは屋内坂路馬場で週2回(火曜・金曜)の調教も開始しました。1月初旬

現在、坂路調教日には屋内800mトラックでウォーミングアップ(キャンター2周)を

してから、1000m坂路を1本(3ハロン54秒程度)駆けあがっています。


YouTube: 第1群(牡)の坂路調教

 

動画1.第1群の坂路映像。先頭からハンプトンコート14(父:バゴ)、

カネマサバレリーナ14(父:スマートファルコン)、

シルクハリウッド14(父:タニノギムレット)、

グレインライン14(父:エンパイアメーカー)、

ウエスティンタイム14(父:スズカマンボ)。

 

 1群より3週間遅く坂路調教を開始した第2群(牝21頭)もしっかり体力をつけ、

現在は1群と同内容の調教がこなせています。牝馬は牡馬より真面目で頑張り

過ぎてしまうことが多いので、オーバーワークにならないよう気をつけて調教して

います。


YouTube: 第2群(牝)の坂路調教

 

動画2.第2群の坂路映像。先頭からフラワーロック14(父:キングズベスト)、

オーブシュプレーム14(父:デュランダル)、タヒチアンメモリ14(父:フリオーソ)、

ダノンスズラン14(父:ステイゴールド)、サンセットロード14(父:ロージズインメイ)、

フェルガーナ14(父:サマーバード)。

 

 最後に馴致を開始した第3群(牡7頭、牝8頭)も12月末から坂路調教を開始しま

した。現在は1・2群と合流して、同じメニューをこなすべく基礎体力強化に努めて

います。

 


YouTube: 第3群(牝)の坂路調教

 

動画3.第3群(牝馬)の坂路映像。先頭からイフリータ14(父:ケイムホーム)、

アンプリペアード14(父:カネヒキリ)、バクシンスクリーン14(父:アルデバラン)、

ペパーミントグラス14(父:ペパーミントグラス)。

 

騎乗者目線の映像(坂路)

 ここで、JRA育成馬の利用している屋内1,000m坂路馬場についてご紹介します。

BTC屋内坂路馬場は全長1,000mの屋根付き馬場で、スタートして300mは

平坦コース、その後右にカーブしてから徐々に傾斜角度があがっていきます。

調教スピード(ハロンタイム)はスタート後150m地点からの600m(3ハロン)が

計測されます。

           

Photo 図.坂路模式図 

 

 全長1,000m、幅員10m、最大斜度5.5%のこの施設を騎乗者目線で撮影して

みました。撮影に使用したのはGo Pro Hero4という小型カメラです。装着しても

調教への支障はありません。

Photo_2

写真1.ヘッドライトのようにヘルメットに装着した小型カメラ

 


YouTube: 動画4騎乗者目線の調教映像

  

動画4.騎乗者目線での坂路調教映像。

 

 監視室のモニターではわからない、調教中の他馬の動きや騎乗馬の息遣いが

ダイレクトに伝わるこの映像技術を育成馬の調教に活用できないか、現在模索して

いるところです。

 

BTC 33期研修生の騎乗研修について

 1月13日からBTC研修生の騎乗研修を開始しました。この研修、研修生にとっては

9月・10月に馴致実習で触れ合ったJRA育成馬との2か月振りの再会であり、

はじめて若馬に騎乗する機会でもあります。久しぶりに再開した研修生たちは、

JRA育成馬の成長ぶりに驚いていました。4月11日(月)の育成馬展示会までという

短い研修期間ではありますが、彼らが育成牧場の最前線で働く際に役立つような

経験ができるよう、しっかりサポートしたいと思います。

Btc

写真2.BTC研修生の騎乗研修風景(向かって右側の騎乗者がBTC研修生)。

 

騎馬参拝に参加しました

 最後のトピックスは騎馬参拝です。騎馬参拝は明治43年、浦河町に旧農林水産省

日高種畜牧場が開設されて以来続く伝統行事で、今年107回目を迎えました。

人馬の無病息災を祈願し、馬に乗って西舎神社に御参りするという、馬産地浦河

ならではの一大イベントです。今年は過去に殆ど例のない雨天での開催となりました

が、当場の乗馬5頭も参加して人馬の安全祈願を行いました。

Photo_3

写真3.騎馬参拝。ちびっ子ライダーもそろいのハッピで参拝しました。

 

 日高育成牧場ではいつでも皆様のお越しをお待ちしています。是非育成馬の成長を

見にお越しください。

活躍馬情報(事務局)

先週土曜日の中京7R(3歳未勝利)で、宮崎育成牧場で育成されたワンアフター号が優勝しました。同馬は2015年JRAブリーズアップセールで取引され、2戦目での勝ち上がりとなりました。

また、日曜日の中京3R(3歳未勝利)で、日高育成牧場で生産・育成されたJRAホームブレッドであるヨシオ号が優勝しました。同馬は11戦目での勝ち上がりとなりました。

今後のますますの活躍を期待しております。

Bj0t8297201601237rg1月23日 1回中京競馬3日目 第7R  3歳未勝利 芝 1,400m

ワンアフター号(エキゾチックエレガンスの13) 牡

【 厩舎:西村 真幸 厩舎(栗東) 父:アドマイヤムーン 】

Bj0t9838201601243rg

1月24日 1回中京競馬4日目 第3R  3歳未勝利 ダート 1,200m

ヨシオ号(フローラルホームの13) 牡

【 厩舎:森 秀行 厩舎(栗東) 父:ヨハネスブルグ 】

活躍馬情報(事務局)

1月9日土曜日の中山1R(3歳未勝利)で、

日高育成牧場で育成されたルグランシェクル号が優勝しました。

同馬は2015年JRAブリーズアップセールで取引され、

7戦目での勝ち上がりとなりました。今後のますますの活躍を期待しております。

201601091r__3

1月9日 1回中山競馬2日目 第1R  3歳未勝利 ダート 1,200m

ルグランシェクル号(バラベルサイユの13) 牡

【 厩舎:斎藤 誠 厩舎(美浦) 父:パイロ 】

育成馬ブログ 生産編④

・強い馬づくりのための生産育成技術講座2015 

 ~移行免疫不全症に関するお問い合わせ~

 

 去る11月19および20日の両日に「強い馬づくりのための生産育成技術講座

2015」が浦河町および日高町門別で開催されました。

 

 各会場では以下の講演が行われ、浦河103名、門別206名の多くの皆様方に

ご参加いただき、盛況のうちに終了しました。

 

『分娩日の予測法 -乳汁のpH・Brix測定について-』

『子馬の飼養管理 -生後から2ヶ月齢-』

『BTC屋内坂路馬場の運動負荷について -美浦トレセン坂路馬場との比較-』

(※浦河会場のみ)

『ローソニア感染症対策』(※門別会場のみ)

 

 講演では質疑応答が活発に行われましたが、当日のみならず終了後も複数の方

から「移行免疫不全症」についてのお問い合わせをいただきましたので、回答を

含めてご紹介します。

 

1

講演会の様子(門別会場)

 

 

Q.移行免疫不全症の検査は、獣医師でなければ出来ないのでしょうか?

 

A.子馬の血中IgG濃度を測定するため、採血が必要になりますので、獣医師による

検査となります。ただし、獣医師以外でも可能な方法もありますので、ご紹介します。

 

 正確な検査ではありませんが、哺乳前後のBRIX値を比較することで、移行免疫

不全症かどうかの推定が可能です。

 

①哺乳前の初乳のBrix値を事前に測定し、出産10~12時間後のBrix値を再測定

して比較する。

 

②その数値の差が10以上であれば、子馬は十分量の初乳を摂取し、満足できる移行

疫を獲得したと推定できる。

 

③一方、Brix値の差が10未満の場合、子馬は十分量の初乳を摂取しておらず、

移行免疫不全の状態にあると推定できる。

 

例えば、哺乳前のBRIX値が25%の場合、

12時間後の値が15%以下に下がっていれば十分量の初乳を摂取したこととなり、

16%以上であれば十分量は摂取していないと推定できる。

 

2

哺乳前後のBRIX値による移行免疫不全症の推定法

 

 なお、この検査では、保存初乳を採取していないことが条件です。

 採取した場合には利用できません。

 

 また、繰り返すようですが、子馬の血中IgG濃度を正確に計測できる検査ではあり

ません。このため、少なくとも以下の場合には、出産8~12時間後における血液検査

が推奨されます。

 

・出産前に漏乳が認められた(出産時のBRIX値が低い)。

・母馬の乳の出が悪い。

・子馬が初乳を飲めていない。

・フォールリジェクト(育子拒否)。

 

参考文献:Korosue K, Murase H, Sato F, Ishimaru M, Kotoyori Y, Nambo Y. Correlation of serum IgG concentration in foals and refractometry index of the dam's pre- and post-parturient colostrums: an assessment for failure of passive transfer in foals. J Vet Med Sci. 74(11):pp1387-95. (2012)

 

Q.馬の初乳の代替品として、牛の初乳を投与しても効果はあるのか?

 

A.米国のLavoieらが行った調査では、「通常どおり母馬から初乳を摂取した子馬

6頭(対照群)」と、「牛の初乳400mlを2時間間隔で20時間後まで合計4リットルを

投与した子馬6頭(投与群)」を比較したところ、血中IgG値に有意差は認められ

なかったと報告されています。

 ただし、初乳投与後のIgGの半減期(血中濃度が半分になる期間)は、対照群では

26日間であったのに対し、投与群では9日間と約3分の1程度の期間であったことが

確認されています。また、牛の初乳中にも厩舎環境に存在する多くの病原体に対して

の抗体は含まれていますが、馬特有の病原体に対しての抗体は含まれていないこと

も念頭に置く必要があります。

 これらのことから、積極的に推奨することはできませんが、馬の初乳が不足している

際、やむを得ない場合の緊急用として、牛の初乳をストックしておいても良いかもしれ

ません。

 

参考文献:Lavoie JP, Spensley MS, Smith BP, Mihalyi Absorption of bovine colostral immunoglobulins G and M in newborn foals. J.Am J Vet Res. 1989 Sep;50(9):1598-603.

 

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