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育成馬ブログ 生産編⑥

●馬鼻肺炎の流産が多発しています!!

 

軽種馬防疫協議会の報告によると、

日高地方において馬鼻肺炎ウイルス(以下EHV-1)に起因した流産が

12 戸29 症例(2 月12 日現在)発生しており、

過去最高の流産頭数を示した2013-14 年シーズンに並ぶ発生頭数となっています。

 

特に同一牧場で複数が流産する「続発例」が多く見られ、

これも2013-14 年と同様の特徴を示しているようです。

 

http://keibokyo.com/wp-content/uploads/2016/02/16

軽防協ニュース号外【馬鼻肺炎】.pdf

  

1ehv

EHV-1ウイルスは、妊娠末期の流産および生後直死を引き起こす。

  

馬鼻肺炎の流産を発症させるEHV-1ウイルスは、

馬に一度感染すると、その体内に一生潜伏し、潜伏ウイルス保有馬になります。

 

そして何らかのタイミングで突然再活性化し、妊娠馬であれば流産を引き起こします。

また、再活性化した馬は感染源となり、ウイルスを周囲の馬に拡散します。

 

一度感染すると一生保有すること、潜伏したウイルスを死滅させる治療法がないこと

などの理由から、EHV-1ウイルスは撲滅困難なことで知られています。

 

2ehv

  

予防措置として、

 

「予防接種」「妊娠馬の隔離」「妊娠馬のストレスの軽減」「消毒」

 

などがあげられますが、

上記のようなウイルス特性から推察するに、

パーフェクトに予防することもやはり困難です。

 

このため、発生した場合を想定した「続発防止措置」が、

予防策と同等かそれ以上に重要といえます。

  

 

●流産が発生したら!!2つのT

 

EHV-1による流産は、

妊娠9ヶ月、時期としては2~3月に多発することが知られています。

 

このため、特にこの時期に流産もしくは生後1~2日後に子馬が死亡した場合には、

EHV-1感染を想定した「続発防止措置」が必要となります。

 

なお、流産がEHV-1によるものかどうかは、

家畜保健衛生所で検査を受けなければ確認することができませんので、

検査結果が判明するまでは、EHV-1感染に対する措置を講ずる必要があります。

 

続発防止措置には、2つのT、「徹底消毒」と「単独隔離」が重要となります。

 

3 

  

●「徹底消毒」

 

流産を発見したら、徹底的に消毒しましょう。 

流産胎子、羊水、胎盤には多量のウイルスが含まれています。

 

また、母馬からも多くのウイルスが排出されます。

このため、胎子や胎盤はもちろんのこと、寝藁や馬房壁、

母馬の馬体も消毒液を用いて消毒します。

 

この場合には、金属腐食性がなく、生体にも比較的安全とされる

コマやクリアキルなどの逆性せっけんの使用が推奨されます。

 

また、低温では消毒液の効果が低下するため、

温かいお湯で希釈した消毒液を大量に用いて徹底的に消毒します。

  

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「徹底消毒」胎子、胎盤、寝藁、馬房壁、母馬の馬体を消毒

  

 

なお、消毒後の胎子は、液漏れしないように密封したビニール袋等に入れて、

最寄りの家畜保健衛生所に搬入し検査を受けます。

また、消毒後の寝藁は焼却処理することが推奨されます。

 

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消毒後の胎子は密封したビニール袋に入れて家畜保健衛生所へ搬入する。

寝藁は焼却する。

 

 

 

●「単独隔離」

 

流産をおこした母馬は、ウイルスの感染源になるため、

他の妊娠馬への継続発生を防止するために、

牧場内の他の厩舎へ隔離する必要があります。

 

この際、他の馬がいる厩舎に隔離した場合、

それらに感染し、牧場全体の被害を拡大させる可能性がありますので、

出来るだけ単独隔離が可能な厩舎への移動が推奨されます。

 

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流産した母馬は、単独隔離する。

  

  

また、流産発生に備えて、消毒薬やバケツ・じょうろなどの必要品の準備に加えて、

事前に母馬の隔離場所などを決めるなどの行動計画を作成し、

厩舎スタッフで共有することも重要な続発防止措置であるといえます。

  

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

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皆様からいただきましたご意見は、

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2016JRAブリーズアップセール関連情報(事務局)

○上場番号が決定しました!!

2016JRAブリーズアップセールの上場番号が決定いたしました。

以下のリンク先、JRAホームページ上で公開しておりますのでご覧ください。

   http://jra.jp/training/bus.html

 

また、今後セールに関わる更新情報等がありましたら、

当ブログや上のホームページにて公開いたしますのでご確認ください。

今後ともJRAブリーズアップセールをよろしくお願いいたします!!

育成馬ブログ 宮崎⑥

○育成馬調教見学会の開催(宮崎)

 

 南国宮崎では、初春の風物詩となっているプロ野球球団のキャンプが2月1日から

スタートしています。昨年同様、巨人、ソフトバンク、オリックス(宮崎市)、広島、西武

(日南市)の5球団がキャンプインしています。

 

 宮崎がキャンプ地として選ばれる理由は、温暖な気候はもちろん、宮崎県を挙げて

取り組んでいる充実したスポーツ施設環境といわれています。キャンプが始まると、

県内外から多くの観光客が訪れ、活気づきます。

 宮崎の春は、そこまで来ているように感じられます。

 

Photo

写真① 宮崎市清武総合運動公園でキャンプ中のオリックスの選手たち。

 

 

育成馬の近況

 

 さて、宮崎育成牧場のJRA育成馬22頭の近況をお伝えいたします。

 最初にウォーミングアップとして500mトラック馬場で直線をキャンター、コーナーを

速歩という調教を左右3周ずつ実施しています。この調教メニューは、騎乗馴致後から

毎日実施している、いわゆる「ルーティーン」であり、同じ環境で同じ調教を実施する

ことによるメリットであるメンタル面の安定を主眼に置いています。

 

 一方、1600m馬場では、3月からの本格的なスピード調教に向けて、現在は基礎

体力養成を主眼に調教を実施しています。

 4~5頭単位の1列縦隊でハロン22~20秒のイーブンペースでの2400mの

ステディキャンターを基本調教としています。

 週1回は群れを意識して馬群の中で落ち着くこと、および1600m馬場の利点を

生かした長距離を一定ペースで走行することによって持久力を向上させることを

目的として3000mのステディキャンターを実施しています。

 

 また、週1回実施している強調教時には、普段とは異なるパターン、つまり、1200m

を2本走行するインターバルトレーニングを行うことによって、馬に“オン”の日である

ことを理解させるように工夫しています。

 1本目は4~5頭単位の1列縦隊でハロン22~20秒でのステディキャンターを実施

し、2本目は4頭単位の2列縦隊で3ハロンを54~51秒、つまりハロン18~17秒

ペースでの強調教を実施しています。

 

 このように1週間の調教の流れをパターン化して、馬が“オン”と“オフ”の切り替えを

自らできるように工夫する試みを行っています。

 

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写真② 週1回実施している強調教時の様子。

左:エーシンブランディの14(牡 父:ヴァーミリアン)、

右:フラワーパフュームの14(牡  父:シンボリクリスエス)

 

育成馬調教見学会

 

 ここからは、2月13日(土)に開催いたしました「育成馬調教見学会」について

ご紹介いたします。この見学会は、地元の一般来場者の方々が、育成馬の疾走する

姿を間近で見ることができるイベントです。

 毎年10月と3月に開催している立ち馬展示をご覧いただく、「育成馬見学会」ととも

に、宮崎の地で成長していく育成馬の姿を間近で見て、少しでも身近に感じていただく

ことを趣旨に実施しています。

 

 当日は小雨の降るあいにくの天候にもかかわらず、40名を越えるお客様にご来場

いただきました。降雨のため室内からの見学となってしまいましたが、ブリーズアップ

セール上場予定馬が疾走する姿を間近でご覧いただきました。

 

Photo_3

写真③ 小雨の降る天候にもかかわらず、育成馬調教見学会には

40名を超えるお客様にお集まりいただきました。

 

参加していただきました方々には、この紙面をお借りして、改めてお礼申し上げます。

なお、3月26日(土)には「春の育成馬見学会」を開催する予定です。

「サポータズクラブ」にご登録いただいている皆様には、3月上旬にご案内をお送り

いたします。皆様のご来場をお待ちしております。

育成馬ブログ 日高⑤

○  育成馬の体力測定(日高)

 

 前回お伝えしたとおり、暖冬の影響で日高育成牧場の育成馬59頭は

比較的過ごしやすい日々を送っています。

 朝夕の気温は氷点下10度を下回るものの、降雪があっても昼間に気温が

あがるため根雪にならずに溶けてしまいます。

 坂路馬場までのアクセス路確保に心配することのない恵まれた環境の中、

育成馬達の心身を鍛錬する日々が続いています。

  

育成馬の調教状況

 

 まずはJRA育成馬の調教状況についてお伝えします。日高では育成馬59頭を

出生時期や成長度合い、馬格や血統等を参考に3群にわけて騎乗馴致を開始し、

群ごとに運動メニューを作成して調教を進めてきました。しかし1月中旬には

最後に馴致を開始した3群の馬達にも基礎体力がつき、同じ調教メニューが

こなせるようになったため、全馬が同じ調教メニューをこなしています。

 現在は屋内800mトラックにおいて縦列のキャンター(1周:ハロン22秒程度)を

行った後、手前を変えて2or3列縦隊でのキャンター(2周:ハロン20秒程度)を行う

メニューをベースにしています。強い負荷を課す坂路調教は毎週火曜日・金曜日に

実施しており、屋内800mトラックでハッキング(キャンター2周)を行ってから坂路2本

(縦列、3ハロン54秒程度)を駆けあがります。

 体力のついた若馬は坂路で速く走りたがりますが、今はあえてスピードを求めず、

きれいな隊列で距離を詰め、正しい走行フォームで走ることに主眼を置いています。

全身を使って後躯をきちんと踏みこませた走りを教えることが現時点の課題だと考え

ています。

 また、休み明けの月曜日と坂路翌日にあたる水曜日・土曜日には800m屋内

トラックで「リラックス」させることに主眼を置いた調教を、木曜日にはスタミナ強化を

目指して普段より少し長い距離を乗る調教を行っています。

 このように1週間の調教メニューをパターン化することで、育成馬に「オン」と「オフ」を

理解させ、日々の調教にメリハリをつけられるように心がけています。

 

 


YouTube: 屋内1000m坂路コースでの調教風景

動画1.屋内1000m坂路コースでの調教 

先頭からグレインラインの14(父:エンパイアメーカー)、

シルクハリウッドの14(父:タニノギムレット)、

クイーンマーメイドの14(父:トビーズコーナー)

  

 

育成馬の体力測定

 

 現在、育成馬の体力測定として毎週金曜日の坂路調教後に『乳酸値測定』を

行っています。これは坂路調教直後に採血を行い、血液中の乳酸値を測定して

馬個別のトレーニング効果を判断するものです。

 調教後の息遣いや騎乗者の感触などの感覚的なデータと乳酸値という科学的

データをあわせることで、各馬の現在の状態を判断しています。

 これと別に行っている体力測定に「V200値測定」があり、これは群全体のトレーニン

グ効果を見る検査として利用しています。「V200値」は心拍数が200拍/分に達した

時の走行速度を意味しており、競走馬でもこのV200値やVHRmax(最大心拍数に

達したときの走行速度)を測定して体力・持久力評価に用いています。

 日高育成牧場では17年前から2月と4月にV200値の測定を行っています。

毎年同時期に同じ馬場で測定するこのデータは、その世代の調教効果を過去と

比較する際に有用です。

 乳酸値測定は馬個別の体力変化を調べるために、V200値測定は“調教群”として

トレーニング効果が期待どおり得られているか判断するために使っています。

 

V200_2                       

写真1.V200測定を行う育成馬。最後の直線はハロン17秒で駈け抜けます。

 

 

 今年は2月3日に牡(24頭)、2月4日に牝(23頭)のV200値測定を実施しました。

全測定馬の平均値は631.7 m/min(牡平均:629.8、牝平均:633.7)であり、

今年の群は過去10年の2月平均のなかで最も高い値を示しました。

 このことから、現時点では調教負荷が適切にかかり、有酸素能が高められていると

考えられます。次回の検査は4月に行う予定なので、結果が出たら同ブログ内で

報告しようと思います。

 

  

 

 

セリ名簿用写真撮影を始めました

 

 4月26日に開催されるJRAブリーズアップセールに向けた準備を少しずつ始めて

います。その1つとして、例年より半月ほど早い2月初旬から写真撮影も開始しまし

た。これは今年のセリ名簿にはブラックタイプに加え、直近の育成馬写真も掲載する

ことが決まっているためです。撮影開始から2分とかからずに終わる馬もいれば、

いつまでも落ち着かず時間のかかる馬もいますが、現在のところ撮影は順調に

進んでいます。

 

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写真2.写真撮影を行うエブリシング14(牝、父:サマーバード、BU番号:50)。

  

 毎年のことですが、育成馬の写真撮影を始めるとセールが近づいてきたと感じます。

我々JRA職員が育成馬に手をかけられる時間はセールまでの残りわずかな時間で

す。この限られた時間を有効に使い、競走馬としてデビューしてから後悔しないよう、

スタッフ一丸となって日々の管理にあたろうと思います。

育成馬ブログ 生産編⑤「その2」

・SUKOYAKA馬体

 SUKOYAKA馬体は、

子馬や繁殖牝馬の個体情報を記録し、管理するためのソフトです。

 定期的に測定した馬体重を入力すると、自動的にグラフ化してくれます。

また、子馬については、標準曲線と比較することもできます。

 

Photo_4

SUKOYAKA馬体 

測定体重の入力により、標準曲線と比較したグラフを作成することができる。

 

 標準曲線は、日高管内の30牧場の約2,400頭の子馬の馬体重データ4万点を

別・生まれ月ごとに分けた平均値をもとに作成したものです。

 

 この標準曲線と登録馬のデータを比較することで、

子馬が順調に成長しているかうかを確認することができます。

 

 ただし、「標準曲線はあくまで目安である」ということを念頭に置いて利用して下さい。

 

すなわち、

標準曲線を「上回ったら、飼料を減らす」、「下回ったら、飼料を増やす」

など機械的に利用するのではなく、

あくまで、実際の馬を観察したうえで、

BCS、体高、胸囲、管囲、疾病の有無、放牧草の状態などの情報と併せて

飼養管理に活用するとが合理的です。

 

 

1標準曲線との比較は馬の成長把握の1つの材料

 

 また、子馬および繁殖牝馬の様々なデータ蓄積は、生産牧場における

適切な飼養管理、もしくは管理方法の改善に大きく寄与します。

 

 ビジネスの世界で使われているPDCAサイクル、

つまり  Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)

4段階を繰り返すことにより業務を継続的に改善する手法は、

生産牧場でも活用することができます。

 

PdcaSUKOYAKAを活用した牧場におけるPDCAサイクル

  

 この場合、正しくCheck(評価)するためには、「事実の正しい認識」が重要です。

つまり、「曖昧な主観的感覚」ではなく、「客観的なデータ」の検証が必要になります。

 SUKOYAKA馬体は、馬体重だけではなく、

体高などの測尺値やBCS、出産、病気、離乳などの様々なイベント、

給与飼料や病名などの必要に応じたコメントを入力し、

データとして蓄積することができます。

 

Photo_5馬体重以外にも、測尺値やBCS、必要に応じたコメントの入力が可能

 

 

Photo_6

イベントやコメントなどはグラフにも反映される。

 

 これらの蓄積データを活用することにより、

過去に実施した飼養管理方法の評価「振り返り」が可能となり、

適切な改善へとつながります。

    

     

「振り返り」の具体例としては、

 

「昨年の世代と比較して、今年の1歳馬は骨疾患が多い。

昨年と今年の馬体成長や BCSに違いはあるだろうか?」

 

「今年の1歳馬は冬期のBCS保持が困難だった。

離乳期の馬体重やBCSは 問題なかっただろうか?」

 

「今年は繁殖牝馬の受胎成績が良くなかった。

成績が良かった昨年の馬体重や BCSと比較してみよう」

 

などがあげられます。

 

 このようなデータを活用した評価をすることで、

具体的な改善策が浮かび易くなりす。

また、栄養指導者などの第三者に相談する場合でも、

過去の蓄積データを示すことで、より適切な解決策の発見につながります。

 

是非、軽種馬牧場管理ソフト「SUKOYAKA」をご活用ください!!

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

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育成馬ブログ 生産編⑤「その1」

・栄養管理・馬体情報管理ソフト「SUKOYAKA」がリリースされました!

 

JBBAから軽種馬牧場管理ソフト「SUKOYAKA」がリリースされました。

SUKOYAKAは、軽種馬の栄養管理と馬体情報管理をサポートするソフトで、

JBBA日本軽種馬協会のウエブサイトからダウンロード(無料)できます。

(こちらからダウンロードできますhttp://jbba.jp/assist/sukoyaka/index.html

 

 当ソフトは、「SUKOYAKA栄養」と「SUKOYAKA馬体」の二つで構成されています。

 

Jbba

JBBA日本軽種馬協会のウエブサイトから、ソフトをダウンロード

 

 

・SUKOYAKA栄養

SUKOYAKA栄養は、各馬のステージにあった養分要求量を計算し、

現在与えている飼料の充足率を確認することができるソフトです。

 

簡単に言うと、

子馬であれば

「今与えているエサもしくは新たに導入しようとしているエサを与えることによって、

 病気にならずに適切な成長ができるか」

妊娠馬であれば、

「母体も健康で、健康な子馬を出産することができるかどうか」

「それらのエサをどのくらい与えればよいのか」

これらを判断するうえでの目安を提示してくれるものです。

 

Sukoyaka

SUKOYAKA栄養

 

では、具体的な飼料設計の例を見ていきましょう。

 

11_2

ここでは22時間放牧の昼夜放牧をしている1歳馬(9ヶ月齢 馬体重350kg)の

飼料を考えてみます。

 

この時期、北海道では積雪があるため、

放牧草からの栄養摂取は考慮しないこととします。

(実際には積雪量によっては雪の下にある青草を食べますが)

 

まず、エンバク(カナダ産)とルーサン乾草で設計してみます。

 

3kg5kg

この場合、SUKOYAKA栄養で計算すると、

DE(エネルギー)とCP(タンパク質)は充足していることが確認できます(図1)。

 

Decp 

DE(エネルギー)とCP(タンパク質)の充足率(図1)

 

 一方、銅や亜鉛など、欠乏症により子馬の骨軟骨症(成長過程における

軟骨の骨化不良により引き起こされる骨端炎、OCD、ボーンシストなどの総称)が

引き起こされるミネラル類については、充足率が14~15%であり、

明らかに不足していることが分かります(図2)。

 

2

銅や亜鉛などミネラルの充足率(図2)

 

では以下のようにエンバクの一部をバランサータイプの飼料に置き換えてみましょう。

 

Photo_2

エンバク3kgを2kgに減らし、代わりにバランサータイプ飼料1kgを与えます。

 

これにより、濃厚飼料を増やすことなく、

銅や亜鉛などのミネラルも充足することができました(図3)。

 

Photo_3

 バランサータイプの飼料を利用した場合の充足率(図3)

 

 ただし、エネルギー、タンパク質、ミネラルおよびビタミンの充足率が

すべて100%以上であれば良いかといえば、決してそうではなく、

あくまで計算上の目安でしかありません。

 

 子馬の馬体成長や疾病発症に影響を及ぼす要因としては、

飼料から摂取する栄養以外に、遺伝や環境(気候など)なども無視できません。

 あくまで算出された値を目安として、個体ごとの健康状態や発育の程度、

疾病の有無などを把握しながらの飼料調整が必要となります。

 

 このため、定期的な馬体重や体高などの測定、

BCSや疾患の有無を確認するための馬体検査などの実施が推奨されます。

 

Bcs

 飼料設計には馬体重やBCSの測定による成長度合いの把握が必要

 

 これらの体重測定や馬体検査で得られたデータは、

その都度の飼料設計に利用できるだけではなく、

継続的に複数年(複数世代)のデータを蓄積していくことで、

飼養管理方法の改善にもつなげることができます。

これをサポートするツールが「SUKOYAKA馬体」です。

 

つづく

育成馬ブログ 宮崎⑤

○調教時における速歩について(宮崎)

  

 全国的に1月中旬になってようやく真冬と感じる寒さになりましたが、

今冬は暖冬との声が聞かれています。

南国宮崎も例外ではなく、正月三ヶ日には最高気温が20℃を超える日もありました。

 昨年と同時期の芝の状態(写真①)を比較してみると、

宮崎も暖冬であることが確認できます。

宮崎の短い冬は、あっという間に過ぎ去って行きそうです。                                                                                       

Photo                      

写真① 昨年と今年の同時期の芝状態を見比べると、暖冬であることが明らかです。

 

育成馬の近況

 

 宮崎育成牧場所属のJRA育成馬の近況をお伝えいたします。

最初にウォーミングアップとして

500mトラック馬場で直線をキャンター、

コーナーを速歩という調教を左右3周ずつ実施しています。

 その後は1600mトラック馬場に場所を変えて、

一列縦隊で2400mのステディキャンターを実施しています。

ハロン20秒程度のイーブンペースで走行し、基礎体力を付けるとともに、

馬群の中で落ち着いて走れることを目標に調教しています。

2月からは週に1回の強調教を実施する予定です。

 

Photo_2

写真② 1600m馬場で隊列を整えたキャンターを実施する育成馬。

先頭からサニーサイドの14(牝 父:ステイゴールド)、

ジョイオブフライトの14(牝 父:アイルハヴアナザー)、

プルームリジェールの14(牝 父:スマートファルコン)、

マイネミニケリーの14(牝 父:ニューイングランド)。

 

速歩調教

 

 騎乗馴致では、

前に(Go forward)、②真っ直ぐ(Go straight)、③落ち着いて(Go calmly)

走行させることを目標に掲げて取り組んでいます。

これを実現するために、初期調教時には、「速歩」に重点を置いています。

 

 その理由は、馬の動きを邪魔しないように騎乗すること、

つまり、騎乗者の重心と馬の重心とを一致させ、馬の動きを邪魔しないと同時に、

馬に人が騎乗することを許容させることこそが、馬の持っている能力を

可能な限り発揮させる上で重要なことであると考えているからです。

 

 つまり、速歩は対角に位置する前後肢がほとんど同時に動くことから、

3種の歩様の中で、重心の移動および頭頚の動きが最も少ない

という特徴があります。

 そのため、騎乗者は馬の重心に近い「鐙」の一点で体重を支えることによって、

騎乗者の重心と馬の重心とを一致させやすくなるとともに、

馬の背を解放することによって、馬の負担の軽減と

馬自身によるバランスでの走行が容易となるからです。

 

 さらに、馬自身によるバランスでの走行を馬が自ら習得できるように、

角馬場での8の字乗りや、キャンターと速歩との移行の繰り返しを実施します。

この繰り返しにより、

キャンター時にも真っ直ぐ落ち着いた走行が比較的容易になります。

 初期調教を終えた後も、前述のとおり、ウォーミングアップとして、

500mトラック馬場で「直線(約150m)をキャンター」、「コーナー(約100m)を速歩」

という調教を実施し、

毎日の「ルーティーン」という位置づけで、

馬自身のバランスで走行しやすい「速歩調教」を重要視しています。

動画 角馬場(10月下旬)および500mトラック馬場(1月中旬)での「速歩調教」の

様子。馬自身によるバランスでの走行を習得できるように、速歩とキャンターとの移行

を繰り返し実施しています。

 

育成馬検査

 

 1月中旬に育成馬検査が実施されました。

育成馬検査とは、JRA生産育成対策室の職員が

日高および宮崎育成牧場で繋養している育成馬を、

第三者の視点から市場での購買時からの馬体の成長具合、現在の調教進度、

馬の取り扱いなどをチェックし、ブリーズアップセール上場に向けての

中間確認を行う検査です。

検査に合わせて、

牡牝それぞれの「ベストターンドアウト賞」の審査が行われたため、

緊張感が漂う中、育成馬の調教供覧、展示および馬体検査が行われました。

Photo_3

写真③ 育成馬検査における「ベストターンドアウト賞」の審査で最優秀馬に選ばれた

ヴァルホーリングの14(写真左 牡 父:ジャングルポケット)と

プルームリジェールの14(写真右 牝 父:スマートファルコン)