育成馬ブログ 生産編⑥(その1)

前回から引き続き「ケンタッキーの馬産」について

紹介していきたいと思います。

最終回となる今回は、繁殖牝馬と子馬の獣医療についてお話します。

 

○繁殖牝馬は基本的に全頭陰部縫合(キャスリック)

 

陰部縫合いわゆるキャスリックは、

子宮内に空気が入るのを防ぎ受胎率を向上させる手技の一つで、

日本では陰部のコンフォメーションが悪い場合など

必要な馬のみに実施されています。

ケンタッキーでは、オーナーがアメリカ人の牧場では

基本的に繁殖牝馬全頭に対して実施されていました。

一方、オーナーがアメリカ人以外の牧場では、

日本と同様必要な馬のみに実施されていました。

通常、縫合は分娩後および種付後に獣医師が行い、

切開は分娩前および種付前にマネージャーが実施します(図1)。

 

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図1 繁殖牝馬は基本的に全頭陰部縫合(キャスリック)

 

○子宮内膜炎の診断と治療

 

繁殖牝馬の不受胎の原因になる子宮内膜炎については、

すべての症例で子宮スワブが採材され、

細菌培養検査および抗菌薬感受性試験を実施し、

検出された細菌およびその細菌に対して

有効な抗菌薬を同定した上で治療が行われていました。

図2のグラフは

ケンタッキー州内の馬病院での子宮スワブ検査で検出された細菌ですが、

日本と同じく連鎖球菌および大腸菌が多いことがわかります。

 

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図2 子宮内膜炎に対しては全ての症例でスワブ検査が行われていた

 

(つづく)

育成馬ブログ 日高⑤

●ボディコンディションスコア(BCS)

 

日高育成牧場では、育成馬(当歳~2歳)と

繫殖牝馬に対して毎月1回(後期育成では月2回)の

ボディコンディションスコア(BCS)の評価を行うことで、

栄養状態の把握および給餌量の設定をしています。

今回のブログでは、このBCSについて説明します。

 

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後期育成馬に対するBCS評価は毎月2回実施している。

 

○BCSとは?

 

「調教中の育成馬に対して、今の飼料の量は足りているのだろうか?」

このような疑問は、育成馬の飼養管理者にとっては

常日頃から頭を悩ませるものです。

 

飼料の給与量について考える際には、

その馬にとって適切なエネルギー量(カロリー)を

与えているか否かが重要ポイントの1つになります。

人間と同様に消費量を上回るエネルギーを与えた場合には太りますし、

不足する場合には痩せていくことになります。

もちろん、単なる見た目の問題だけではなく、

エネルギーの過不足はその馬自身の健康状態や

調教のパフォーマンスなどにも影響を及ぼします。

このため、個々の馬に応じて適切なエネルギー量を与える必要があり、

それを見極めるために重要な指標の1つが

ボディコンディションスコア(BCS)なのです。

 

BCSは脂肪の付き具合を数値化したもので、

脂肪がほとんど無く、削痩している状態の1点から、

極度の肥満の9点までの数値を用います。

例えば、馬の脂肪の付き具合を評価する場合に

「太っている」「やせている」という言葉ではなく、

「BCS8」「BCS3」という数値で表します。

 

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○BCSの見方

 

馬のBCSは、馬体の6つの部位

「頸(くび)」「き甲」「肩後方」「肋部」「背~腰の脊椎」「尾根」を

対象としており、

これらの部位を観察して、実際に触ることにより、

脂肪の付き具合を確認します。

 

BCSを測定するためのポイントは、

これら6部位の骨の構造を理解することです。

やせている馬、すなわちBCSが低い馬は骨が見える、

もしくは骨を容易に触ることができます。

一方、太っている馬、すなわちBCSが高い馬は、

骨が見えない、もしくは触ることができません。

背中の場合には背骨、肋部の場合には肋骨が「見えるかどうか」を確認し、

もし見えない場合であれば「触れるかどうか」を確認します。

例えば、「肋骨が見えないが、容易に触ることができる」のであれば、

BCS5になります。

 

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肋部のBCS5(普通):肋骨は見分けられないが触ると簡単にわかる。

 

さらに、骨の周囲の脂肪の厚さや量を感触で判断します。

例えば、脂肪がある程度ついているものの、

厚みがそれほどない場合には

弾力感をイメージする「スポンジ状」という言葉で表現されます。

一方、それよりも脂肪量が多く、

触ると沈み込むような感触を持つ場合には「柔軟」と表現されており、

「スポンジ状」よりも高いスコアとして評価します。

 

○BCS(ボディコンディションスコア)

 

BCS 1 (削痩)

・脊椎(胸椎、腰椎)の突起や

 肋骨、股関節結節、座骨結節は顕著に突出している。

・き甲、肩、頸の骨構造が容易に認められる。

・脂肪組織はどの部分にも触知できない。

 

BCS 2 (非常にやせている)

・脊椎(胸椎、腰椎)の突起や

 肋骨、股関節結節、座骨結節などが突出している。

・き甲、肩、頸の骨構造がわずかに認められる。

 

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BCS 3 (やせている)

・肋骨をわずかな脂肪が覆う。

・脊椎の突起や肋骨は容易に識別できる。

・股関節結節は丸みを帯びるが容易に見分けられる。

 座骨結節は見分けられない。

・尾根は突出しているが、個々の椎骨は識別できない。

・き甲、肩、頸の区分が明確である。

 

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BCS 4 (少しやせている)

・肋骨がかすかに識別できる。

・背に沿って脊椎の突起が触知できる。

・尾根周囲には脂肪が触知できる。

 

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BCS 5 (普通)

・肋骨は見分けられないが触れると簡単にわかる。

・背中央は平ら。

・き甲周囲は丸みを帯びるようにみえる。

・肩はなめらかに馬体へ移行する。

・尾根周囲の脂肪はスポンジ状。

 

Bcs5

 

BCS 6(少し肉付きが良い)

・肋骨上の脂肪はスポンジ状。

・背中央にわずかな凹みがある。

・き甲の両側、肩周辺や頸筋に脂肪が蓄積し始める。

・尾根周囲の脂肪は柔軟。

 

Bcs6

 

BCS 7(肉付きが良い)

・個々の肋骨は触知できるが、肋間は脂肪で占められている。

・背中央は凹む。

・き甲周囲、肩後方部や頸筋に脂肪が蓄積する。

・尾根周囲の脂肪は柔軟。

 

Bcs7

 

BCS 8(肥満)

・肋骨の触知は困難。

・背中央は凹む。

・き甲周囲は脂肪で充満。肩後方は脂肪が蓄積し平坦。

・尾根周囲の脂肪は柔軟。

 

Bcs8

 

BCS 9 (極度の肥満)

・肋周辺を脂肪が覆う。

・背中央は明瞭に凹む。

・尾根周辺、き甲、肩後方および頸筋は脂肪で膨らむ。

・ひばらは隆起し平坦。

 

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育成馬ブログ 生産編⑤(その2)

あけましておめでとうございます。

本年も育成馬ブログをよろしくおねがいします。

今回は前回の続きで、当歳馬の飼養管理の続きです。

 

○子馬の放牧

 

子馬の放牧については成長の段階に合わせて変更されていました(図3)。

生後まもない子馬は小さなパドックで

5時間程度の昼放牧から始められていました。

1週間経った子馬は中ぐらい(0.5~1.0ha)のパドックで

別の母子と2組で昼放牧されていました。

そして2週齢で放牧地を変えずにそのまま昼夜放牧が行われていました。

その後、4週齢で大きな放牧地に集団で昼夜放牧されるという流れでした。

温暖な気候を活かし、日本より早期に昼夜放牧を開始し、

丈夫な体質の馬を作るという考え方がなされていました。

 

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図3 2週齢から早くも昼夜放牧が開始される

 

○米国式の子馬の引き方

 

生まれたばかりの新生子馬は、引き手を後ろに回し、

後躯を持ち上げるようにして歩かせていました(図4)。

一人で母子を引く場合は、母馬が右、子馬が真ん中、

そして人が左という引き方をしていました。

この方法のメリットは、

多くの人が利き手となる右手で母馬を御せることで、

なおかつ母馬を保持しながらになりますが

同じく器用な右手で子馬のお尻に合図して

前進を促すことができる点だと思われました。

 

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図4 米国式の子馬の引き方

 

次回は繁殖牝馬と子馬の獣医療について述べたいと思います。

育成馬ブログ 生産編⑤(その1)

前回から引き続き「ケンタッキーの馬産」について

紹介していきたいと思います。

今回は、当歳馬の飼養管理についてお話します。

 

○当歳馬の飼養管理の違い

 

当歳馬の飼養管理の違いについて図1にまとめました。

米国では免疫を高めるため子馬に血漿製剤を、

牧場によっては全頭に対し、投与していました。

この血漿製剤は日本では市販されていないものです。

また、日本の日高地方では特に1~2月は寒いので

子馬に馬服を着せるのが一般的で、

牧場によってはインドアパドックが利用されていますが、

ケンタッキーでは暖かいので子馬に馬服を着せる必要がありませんでした。

同様の理由で日本では2ヶ月齢前後まで大きくなってから

親子での昼夜放牧が開始されるのが一般的ですが、

ケンタッキーでは2週齢前後から早くも昼夜放牧が開始されていました。

また、親子を一人で引く方法が日本と米国では異なり、

日本では人が真ん中になり、

子馬が右、母馬が左という引き方が一般的ですが、

米国では人が一番左に位置し、

子馬が真ん中、母馬が右という引き方をしていました。

 

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図1 当歳馬の飼養管理の違い

 

○新生子馬のベビーチェックと血漿製剤について

 

分娩翌朝に子馬は必ずベビーチェックと呼ばれる

獣医師による各種検査を受けていました。

内容は肋骨骨折、眼瞼内反、黄疸などの確認です(図2)。

さらに、子馬から採血し、血清中のIgG量を測定することで

移行免疫不全のチェックを行っていました。

その後、牧場によってはIgGの数値にかかわらず

子馬全頭に血漿製剤を投与していました。

これは、ロドコッカスなど子馬が感染しやすい病原体に対する

抗体価が高めたられた製品で、日本では市販されていません。

ケンタッキーは日高と比べて温暖で病原体の活性が高いせいか、

子馬の感染症が多い印象でした。

その予防手段の一つとして血漿製剤の投与が普及していました。

 

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図2 分娩翌朝に獣医師によるベビーチェックと血漿製剤の投与が行われる

 

(つづく)

育成馬ブログ 日高④(その2)

●喉頭部超音波検査について

 

前回の内容に引き続き喉の話題となりますが、

今回は喉頭部超音波(エコー)検査について説明します。

 

日高および宮崎の両育成牧場では、

今年から育成馬全頭に対し喉頭部のエコー検査を行っています。

この検査は、喉頭片麻痺やその前駆病態の診断の指標として、

喉頭の動きを支配している

筋肉群(外側輪状被裂筋:CAL、背側輪状被裂筋:CAD)を

評価することの有用性を調査しています。

 

喉頭部エコーは以下のように枠場にて鎮静下で行われます(図1)。

 

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図1 喉頭部エコーの様子

 

喉頭片麻痺は被裂軟骨小角突起が外転機能不全を起こすことで

気道狭窄と呼吸障害を呈す疾患であり、

そのほとんどは迷走神経の枝の反回神経が障害され、

被裂軟骨の運動に関わる喉頭部の筋肉が麻痺に陥ることにより起こります。

この場合、CALやCADの筋組織全体が

萎縮および変性することが知られており、エコー検査により、

萎縮については断面積の低下として、

変性については輝度の増加(白っぽく見える)として描出されます。

 

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図2.CAL縦断面:正常像と比較して

喉頭片麻痺症例のCALの輝度が高い(色が白い)

 

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図3.CAD横断面:正常像と比較して

喉頭片麻痺症例のCADは薄く、輝度が高い。

 

このように、エコー検査は極めて有用な診断手法ですが、

単独でパフォーマンスへの影響の有無を判断することはできません。

そのため、安静時および運動時内視鏡、

さらに騎乗時の呼吸音やパフォーマンスなどの

総合的な診断が必要になります。

 

喉頭部エコー検査は近年その注目を集めていますが、

まだまだ研究途上の分野でもあり、

エコー所見と呼吸器異常との関連性には

明らかになっていないことが沢山あります。

日高・宮崎の両育成牧場では、

育成馬の喉頭部エコーと内視鏡のデータを併せて蓄積していくことで、

競走能力に影響を及ぼす呼吸器病態を解明し、

より早く、正確な診断を行えるよう研究を進めています。

育成馬ブログ 日高④(その1)

●運動時内視鏡検査(overground endoscopy:OGE)について

 

今回のトピックは運動時内視鏡検査(以下OGE)についてです。

皆様ご存知の通り、競走馬の運動能力と呼吸器疾患は

切っても切り離せない関係にあります。

従来、呼吸器疾患に伴う異常呼吸音(“ヒューヒュー”という喘鳴音や、

”ゴロゴロ”という湿性の音など、様々なものを含む)は、

運動をしていない状態、いわゆる「安静時」に内視鏡で検査されてきました。

しかしながら、調教では異常呼吸音が聞こえるにも関わらず、

落ち着いた状態で行う安静時には異常が認められない、

という症例は少なくありません。

そこで、調教を行いながら内視鏡検査を行うために

近年導入された検査方法が、今回紹介するOGEです。

これを用いることにより、

安静時に認められない異常も診断できるようになりました(図1)。

 

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図1.赤字が安静時内視鏡では検査できないもの

 

OGEでは、バッテリーやポンプなどの機器を鞍下ゼッケンに収納し、

スコープ部分を頭絡に固定する

ポータブルタイプの内視鏡を使用します(図2,3)。

 

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図2.オーバーグラウンド内視鏡(DRS®:Optomed社製運動時内視鏡)

 

騎乗運動中に内視鏡検査を行えるため、

異常呼吸音の発生時の状況を再現した検査ができます。

そのため、安静時では異常所見が認められなかった馬でも、

OGEを実施して初めて原因を突き止められることがあります。

また、披裂軟骨の内転や不完全外転などの喉頭片麻痺の所見に加えて、

被裂喉頭蓋ヒダ虚脱や声帯虚脱といった、

OGEでのみ確認できる所見を発見することもできるようになりました。

現在日高育成牧場では、安静時内視鏡で異常が認められた馬や

調教時に異常呼吸音が認められた馬に対し、OGEを実施しています。

 

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図3.装着時

 

実際に認められるOGE所見には以下のようなものがあります。
① 喉頭片麻痺

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図4.左被裂軟骨小角突起が麻痺して

動かないことにより気道が狭くなっている

 

治療:喉頭形成術(Tie-back手術) 

 

② 軟口蓋背方変位(DDSP)

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図5.喉頭蓋が軟口蓋(赤丸)下に潜っている

 

治療:舌縛り、コーネルカラーの装着、Tie-forward手術

 

③ 被裂喉頭蓋ヒダ虚脱(ADAF)

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図6.被裂喉頭蓋ヒダ(黄矢印)が内側に虚脱している

 

治療:被裂喉頭蓋ヒダ切除術

 

④ 声帯虚脱(+喉頭片麻痺)

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図7.声帯(赤丸)が両側で内側に虚脱している

 
治療:声帯切除術(+喉頭片麻痺の程度によっては喉頭形成術)

 

呼吸器の機能異常は競走能力に大きく影響する可能性があるため、

競走馬として走ることを宿命に生まれてきたサラブレッドにとって

重大な問題です。

異常呼吸音を呈する疾病や所見が

パフォーマンスに及ぼす影響は様々ですが、

これらの症状に対して適切な処置を行うためには、

「正確な診断」が極めて重要であり、

それにはOGEによる運動時の診断が不可欠であると言えます。

さらに、現在日高育成牧場では

喉頭部の形態や機能異常をより詳細に評価するため、

喉頭部超音波検査も併せて行っています(次へ続く)。

育成馬ブログ 生産編④(その2)

●分娩と交配(種付)

 

○馬房に子馬を置いていく種付

 

種付は、子馬を馬房内に置いて、

母馬のみ馬運車に載せ種馬場に連れて行くというスタイルでした(図3)。

この際、牧場のスタッフは種付には立ち会わず、

輸送業者が母馬を預かって連れて行くのが一般的でした。

 

この方法で必ず注意しなくてはならないのが、

帰厩時に興奮した母馬が子馬を蹴ってしまうことがあるため(動画参照)、

最初の授乳までは母馬を保定すべきだということです。

 

なお、ケンタッキーには牧場が密集しており、

どの種馬場に行くにも母馬が出発してから帰厩するまで

1.5から2時間で戻ることができる環境でした。

 

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図3 種付は子馬を馬房内に置いて、輸送業者が母馬のみ種馬場に連れて行く

 

参考動画 種付けからの帰厩後にパニックになる母馬(JRA日高育成牧場)

 

 

○妊娠鑑定

 

妊娠鑑定は交配14日後、28日後、60日後に行われ、

さらに分娩予定日の1ヶ月前にも検査されていました(図4)。

 

初回である交配14日後の検査では胚の有無が確認され、

双胎が認められれば破砕が行われていました。

交配28日後の検査でも胚の生存を確認するとともに、

14日後および28日後にはエコー検査と併せて採血が行われ、

血中の黄体ホルモン濃度(=プロジェステロン濃度、P4レベル)が

測定されていました。

その結果、4ng/ml以下であれば

プロジェステロン製剤のレギュメイトの投与が

分娩1ヶ月前まで続けられるなど、

早期胚死滅の予防策がとられていました。

 

交配60日後の検査では、胎子の雌雄鑑別が、

分娩予定日の1ヶ月前には胎盤炎の兆候の有無を確認していました。

 

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図4 妊娠鑑定ではプロジェステロン濃度の測定と雌雄鑑別が行われる

 

次回は当歳馬の飼養管理について述べたいと思います。

育成馬ブログ 生産編④(その1)

前回から引き続き「ケンタッキーの馬産」について

紹介していきたいと思います。

今回は、分娩と交配(種付)についてお話します。

 

●分娩と交配(種付)

 

○分娩時の流れ

 

ダービーダンファームでの分娩時の流れを図1にまとめました。

まず、破水したら5m×5m程度の分娩用の広い馬房に繁殖牝馬を移します。

次に、マネージャーが産道内に手を入れて子宮内の胎子の姿勢を確認します。

そして、母馬のいきみに合わせて、子馬を牽引します。

牽引は3人で行われ、それぞれ胎子の頭、左前肢、右前肢を担当します。

子馬が娩出され臍帯が切れた後、

クリップで止血しクロルヘキシジンなどで消毒します。

母馬に鎮痛剤であるバナミンのペースト製剤を投与し、

後産をヒモで縛ります。

子馬全頭に浣腸をします。

母馬の乳汁をしぼり、Brix値をチェックします。

この時、Brix値が20より低ければ

冷凍保存してあるストック初乳を子馬に与えます。

 

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図1 分娩時の流れ

 

○積極的な分娩介助と米国での分娩の考え方

 

米国ではどこの牧場でも分娩時に積極的な介助がなされていました。

この背景には、ヒトの女性に無痛分娩が普及しており、産休が短く、

すぐに仕事復帰するという習慣が影響していると考えられました。

すなわち、馬もなるべくお産を軽くして、

早く次の妊娠に備えるという考え方がなされていました。

 

これは、現在JRAが推奨している

なるべく分娩介助しない“自然分娩”とは異なる考え方でした。

デメリットとして、子宮など産道の損傷、子馬の肋骨骨折、育児拒否などが

挙げられ、特に子馬の肋骨骨折は多い印象を受けました。

 

○交配(種付)適期の判断

 

交配適期の判断のために、獣医師が牧場に往診に来て、

馬房で直腸検査を始めとする検査が実施されていました。

観察する項目は日本と同じく、

エコー検査で卵胞の大きさと成長度合および子宮の浮腫を確認し、

膣検査で子宮外口の軟化を確認していました(図2)。

そして、交配の24時間前に排卵誘発剤のデスロレリンを投与し、

種付に向かっていました。

 

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図2 交配(種付)適期は獣医師が往診で卵巣と子宮を検査し判断する

 

(つづく)

育成馬ブログ 日高③

●育成馬のデンタルケアについて ~狼歯~

 

北海道は徐々に気温が低くなってきており、

秋の訪れとともに冬の気配も感じられます。

9月上旬から馴致を始めた育成馬の牡馬は騎乗馴致も終わり、

集団でのキャンター調教を始めています。

一方で、牝馬は10月上旬から騎乗馴致を始め、

現在はダブルレーンによるドライビングを中心に行っています。

 

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騎乗調教(牡)の風景

 

さて、今回は騎乗馴致の準備として大事な

デンタルケア「狼歯の抜去」について、ご紹介します。

 

 

○「狼歯」とは?

 

第1前臼歯の別名です。

馬の進化の過程で退化した歯で、

ハミが収まる部分に生えています(図・写真1)。

ここにハミが当たると痛みを感じるため、

口向きが悪くなる原因となります。

このことからJRA育成馬では馴致が始まる前に全頭抜歯しています。

 

Photo_2狼歯(図) A:狼歯 B:犬歯

 

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馬の左狼歯(写真1)

 

海外の教科書では牡馬の14.9%、

牝馬の24.4%に狼歯が萌出すると書かれています。

本年のJRA育成馬においても、

確かに牡馬(27頭中19頭萌出)より

牝馬(30頭中27頭萌出)に多く認められました。

一方、教科書とJRA育成馬との萌出割合は大きく異なっていますが、

調査年齢や品種に違いがあるのかもしれません。

 

狼歯には太い歯や細く小さい歯、

埋没している歯など様々な形態のものが認められます。

写真2は同じ馬から抜歯した左右の狼歯です。

大きさ、形も左右で異なっているのが分かります。

ほとんどの馬が上顎に生えていますが、

まれに下顎にも生えていることもあります。

 

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抜去した狼歯(写真2)

 

狼歯には歯根がなく、歯肉との結合がゆるいため、

比較的容易に抜去出来ます。

抜歯後の縫合などは必要なく、歯肉は1週間で治癒します。

抜歯する際には、写真3のような先端が円形や半円形の道具を使います。

抜歯の最中で狼歯が折れて根元が一部残ることもありますが、

その後に問題になることはありません。

(もちろん全て取りきることがベストです。)

 

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抜歯の道具(写真3)

 

狼歯を抜去後は、臼歯の尖っている部分を鑢(ヤスリ)で整えていきます。

これで騎乗馴致の準備「狼歯」+整歯が終了です。

これで馬がハミをより快適に受け入れられる環境になり、

スムーズに騎乗馴致が進みます。

育成馬ブログ 生産編③(その2)

●繁殖牝馬の飼養管理

 

○分娩前の運動(GPSを用いた調査)

 

ケンタッキーでは分娩前に繁殖牝馬が放牧地内をどのくらい運動しているか、

GPS装置を使って調査してみました(図3)。

その結果、24時間放牧の群では、

移動距離が1日7.6km程度であったのに対し、

昼放牧群では2.4km程度まで移動距離が減少しました(中央値)。

 

参考までにJRA日高育成牧場では

昼放牧時の移動距離は2.5km程度とケンタッキーと同等ですが、

ウォーキングマシンを使用した運動でさらに2.5km程度常歩しているため、

合計では5.0km程度歩いているという計算になります。

 

次回詳しく述べますが、米国では分娩時に積極的に介助するため、

分娩前に運動を負荷して筋肉を維持しておくという考えには

至らないのかもしれません。

反対にJRA日高育成牧場では

分娩時になるべくヒトが介助しない“自然分娩”を推奨しているため、

運動を負荷して分娩時に必要な筋肉を維持しています。

 

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図3 分娩前の運動(GPSを用いた調査)

 

○繁殖牝馬の飼葉

 

繁殖牝馬の飼葉は、

タンパク質が14%の大粒のペレットが使用されていました。

詳しい成分については図4に示したとおりです。

朝と夕方の1日2回4ポンド、約1.8kgこのペレットを与えるのが基本で、

繁殖牝馬のボディコンディションスコアに応じて量を増減させていました。

 

分娩後の3日間はふすま、スイートフィード、コーン油を混ぜて

お湯でふやかしたブランマッシュを与えていました。

 

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図4 繁殖牝馬の飼葉

 

次回は分娩と交配(種付)について述べたいと思います。