育成馬ブログ 生産編④(その2)

●分娩と交配(種付)

 

○馬房に子馬を置いていく種付

 

種付は、子馬を馬房内に置いて、

母馬のみ馬運車に載せ種馬場に連れて行くというスタイルでした(図3)。

この際、牧場のスタッフは種付には立ち会わず、

輸送業者が母馬を預かって連れて行くのが一般的でした。

 

この方法で必ず注意しなくてはならないのが、

帰厩時に興奮した母馬が子馬を蹴ってしまうことがあるため(動画参照)、

最初の授乳までは母馬を保定すべきだということです。

 

なお、ケンタッキーには牧場が密集しており、

どの種馬場に行くにも母馬が出発してから帰厩するまで

1.5から2時間で戻ることができる環境でした。

 

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図3 種付は子馬を馬房内に置いて、輸送業者が母馬のみ種馬場に連れて行く

 

参考動画 種付けからの帰厩後にパニックになる母馬(JRA日高育成牧場)

 

 

○妊娠鑑定

 

妊娠鑑定は交配14日後、28日後、60日後に行われ、

さらに分娩予定日の1ヶ月前にも検査されていました(図4)。

 

初回である交配14日後の検査では胚の有無が確認され、

双胎が認められれば破砕が行われていました。

交配28日後の検査でも胚の生存を確認するとともに、

14日後および28日後にはエコー検査と併せて採血が行われ、

血中の黄体ホルモン濃度(=プロジェステロン濃度、P4レベル)が

測定されていました。

その結果、4ng/ml以下であれば

プロジェステロン製剤のレギュメイトの投与が

分娩1ヶ月前まで続けられるなど、

早期胚死滅の予防策がとられていました。

 

交配60日後の検査では、胎子の雌雄鑑別が、

分娩予定日の1ヶ月前には胎盤炎の兆候の有無を確認していました。

 

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図4 妊娠鑑定ではプロジェステロン濃度の測定と雌雄鑑別が行われる

 

次回は当歳馬の飼養管理について述べたいと思います。

育成馬ブログ 生産編④(その1)

前回から引き続き「ケンタッキーの馬産」について

紹介していきたいと思います。

今回は、分娩と交配(種付)についてお話します。

 

●分娩と交配(種付)

 

○分娩時の流れ

 

ダービーダンファームでの分娩時の流れを図1にまとめました。

まず、破水したら5m×5m程度の分娩用の広い馬房に繁殖牝馬を移します。

次に、マネージャーが産道内に手を入れて子宮内の胎子の姿勢を確認します。

そして、母馬のいきみに合わせて、子馬を牽引します。

牽引は3人で行われ、それぞれ胎子の頭、左前肢、右前肢を担当します。

子馬が娩出され臍帯が切れた後、

クリップで止血しクロルヘキシジンなどで消毒します。

母馬に鎮痛剤であるバナミンのペースト製剤を投与し、

後産をヒモで縛ります。

子馬全頭に浣腸をします。

母馬の乳汁をしぼり、Brix値をチェックします。

この時、Brix値が20より低ければ

冷凍保存してあるストック初乳を子馬に与えます。

 

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図1 分娩時の流れ

 

○積極的な分娩介助と米国での分娩の考え方

 

米国ではどこの牧場でも分娩時に積極的な介助がなされていました。

この背景には、ヒトの女性に無痛分娩が普及しており、産休が短く、

すぐに仕事復帰するという習慣が影響していると考えられました。

すなわち、馬もなるべくお産を軽くして、

早く次の妊娠に備えるという考え方がなされていました。

 

これは、現在JRAが推奨している

なるべく分娩介助しない“自然分娩”とは異なる考え方でした。

デメリットとして、子宮など産道の損傷、子馬の肋骨骨折、育児拒否などが

挙げられ、特に子馬の肋骨骨折は多い印象を受けました。

 

○交配(種付)適期の判断

 

交配適期の判断のために、獣医師が牧場に往診に来て、

馬房で直腸検査を始めとする検査が実施されていました。

観察する項目は日本と同じく、

エコー検査で卵胞の大きさと成長度合および子宮の浮腫を確認し、

膣検査で子宮外口の軟化を確認していました(図2)。

そして、交配の24時間前に排卵誘発剤のデスロレリンを投与し、

種付に向かっていました。

 

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図2 交配(種付)適期は獣医師が往診で卵巣と子宮を検査し判断する

 

(つづく)

育成馬ブログ 日高③

●育成馬のデンタルケアについて ~狼歯~

 

北海道は徐々に気温が低くなってきており、

秋の訪れとともに冬の気配も感じられます。

9月上旬から馴致を始めた育成馬の牡馬は騎乗馴致も終わり、

集団でのキャンター調教を始めています。

一方で、牝馬は10月上旬から騎乗馴致を始め、

現在はダブルレーンによるドライビングを中心に行っています。

 

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騎乗調教(牡)の風景

 

さて、今回は騎乗馴致の準備として大事な

デンタルケア「狼歯の抜去」について、ご紹介します。

 

 

○「狼歯」とは?

 

第1前臼歯の別名です。

馬の進化の過程で退化した歯で、

ハミが収まる部分に生えています(図・写真1)。

ここにハミが当たると痛みを感じるため、

口向きが悪くなる原因となります。

このことからJRA育成馬では馴致が始まる前に全頭抜歯しています。

 

Photo_2狼歯(図) A:狼歯 B:犬歯

 

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馬の左狼歯(写真1)

 

海外の教科書では牡馬の14.9%、

牝馬の24.4%に狼歯が萌出すると書かれています。

本年のJRA育成馬においても、

確かに牡馬(27頭中19頭萌出)より

牝馬(30頭中27頭萌出)に多く認められました。

一方、教科書とJRA育成馬との萌出割合は大きく異なっていますが、

調査年齢や品種に違いがあるのかもしれません。

 

狼歯には太い歯や細く小さい歯、

埋没している歯など様々な形態のものが認められます。

写真2は同じ馬から抜歯した左右の狼歯です。

大きさ、形も左右で異なっているのが分かります。

ほとんどの馬が上顎に生えていますが、

まれに下顎にも生えていることもあります。

 

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抜去した狼歯(写真2)

 

狼歯には歯根がなく、歯肉との結合がゆるいため、

比較的容易に抜去出来ます。

抜歯後の縫合などは必要なく、歯肉は1週間で治癒します。

抜歯する際には、写真3のような先端が円形や半円形の道具を使います。

抜歯の最中で狼歯が折れて根元が一部残ることもありますが、

その後に問題になることはありません。

(もちろん全て取りきることがベストです。)

 

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抜歯の道具(写真3)

 

狼歯を抜去後は、臼歯の尖っている部分を鑢(ヤスリ)で整えていきます。

これで騎乗馴致の準備「狼歯」+整歯が終了です。

これで馬がハミをより快適に受け入れられる環境になり、

スムーズに騎乗馴致が進みます。

育成馬ブログ 生産編③(その2)

●繁殖牝馬の飼養管理

 

○分娩前の運動(GPSを用いた調査)

 

ケンタッキーでは分娩前に繁殖牝馬が放牧地内をどのくらい運動しているか、

GPS装置を使って調査してみました(図3)。

その結果、24時間放牧の群では、

移動距離が1日7.6km程度であったのに対し、

昼放牧群では2.4km程度まで移動距離が減少しました(中央値)。

 

参考までにJRA日高育成牧場では

昼放牧時の移動距離は2.5km程度とケンタッキーと同等ですが、

ウォーキングマシンを使用した運動でさらに2.5km程度常歩しているため、

合計では5.0km程度歩いているという計算になります。

 

次回詳しく述べますが、米国では分娩時に積極的に介助するため、

分娩前に運動を負荷して筋肉を維持しておくという考えには

至らないのかもしれません。

反対にJRA日高育成牧場では

分娩時になるべくヒトが介助しない“自然分娩”を推奨しているため、

運動を負荷して分娩時に必要な筋肉を維持しています。

 

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図3 分娩前の運動(GPSを用いた調査)

 

○繁殖牝馬の飼葉

 

繁殖牝馬の飼葉は、

タンパク質が14%の大粒のペレットが使用されていました。

詳しい成分については図4に示したとおりです。

朝と夕方の1日2回4ポンド、約1.8kgこのペレットを与えるのが基本で、

繁殖牝馬のボディコンディションスコアに応じて量を増減させていました。

 

分娩後の3日間はふすま、スイートフィード、コーン油を混ぜて

お湯でふやかしたブランマッシュを与えていました。

 

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図4 繁殖牝馬の飼葉

 

次回は分娩と交配(種付)について述べたいと思います。

育成馬ブログ 生産編③(その1)

●繁殖牝馬の飼養管理

 

前回から引き続き「ケンタッキーの馬産」について

紹介していきたいと思います。

今回は、繁殖牝馬の飼養管理についてお話します。

 

○繁殖牝馬の飼養管理の違い

 

日本(日高地方)と米国(ケンタッキー州)の

繁殖牝馬の飼養管理の違いについて図1にまとめました。

まず分娩前の管理についてですが、

日本では分娩前にウォーキングマシンもしくは

引き馬による運動を課す牧場が多いのに対し、

米国ではそのような特別な運動は課されていませんでした。

 

また、近年日本では分娩時に子馬を引っ張らない

“自然分娩”が普及しつつありますが、

米国では子馬を引っ張りかつ母馬に鎮痛剤を投与するなど、

積極的な分娩介助がなされていました。

ヒトの医療で出産する際に“無痛分娩”が普及していることが

背景にあるのではないかと考えられました。

 

種付の際には、日本では牧場のスタッフが

母子両方を馬運車に載せて種馬場まで連れて行くのが一般的ですが、

米国では牧場のスタッフは立ち会わず、

輸送業者が種馬場まで母馬を連れて行く、

その際子馬は馬房内に置いて行くというスタイルが普及していました。

 

そのほか、日本ではエコー検査で子宮内に空気が認められた場合など

必要な馬のみ陰部縫合いわゆるキャスリックが行われていますが、

米国では伝統的に牝馬全頭に対し陰部縫合が行われていました。

 

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図1 繁殖牝馬の飼養管理の違い

 

○分娩前の繁殖牝馬の放牧

 

繁殖牝馬の管理について、個別に説明していきます。

まず分娩前の放牧については、

空胎馬は基本的に24時間放牧されていました(図2)。

感染症予防のため、空胎馬は妊娠馬から隔離され、

本場から離れた分場で管理されていました。

 

妊娠馬については、分娩予定日まで1ヶ月以上間隔がある馬については

空胎馬と同じく24時間放牧され、放牧地で飼付がなされていました。

分娩予定日の1ヶ月未満になると、分娩厩舎付近に集められ、

1日8時間程度の昼放牧に切り替えられていました。

放牧地で分娩してしまうこともあるため、30分毎にスタッフが見回り、

分娩監視をしていました。

 

放牧地の広さを決める際の目安に

“1 acre, 1 horse(ワンエーカー、ワンホース)”という言葉が

使われていました。

これは馬1頭当たり1エーカー(約0.4ヘクタール)以上の

広さが必要という意味です。

この基準より広い放牧地が用意できれば、

馬は栄養面でも運動面でも支障をきたすことなく

すこやかに成長することができると考えられていました。

 

また、温暖なケンタッキーと言えども12月から2月までは

寒さで放牧地の牧草が伸びなくなるため、

草架を使用し放牧地内に乾草が置かれていました。

中に入れる乾草はルーサン、もしくは

ルーサンとオーチャードのミックスが使われていました。

 

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図2 分娩前の繁殖牝馬の放牧

 

(つづく)

育成馬ブログ 日高②

●跛行(支跛)診断のポイント

 

現在、日高育成牧場の育成厩舎には

セレクト・セレクション・サマーセールの各市場で購買した1歳馬52頭と

JRAホームブレッド3頭の計55頭が入厩しています。

 

牡馬27頭は9月初旬から馴致を順次進めていますが、

牝馬28頭は10月からの馴致開始に備え昼夜放牧を実施して

馬体づくりにつとめています。

 

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左写真)ドライビング調教(コーラルチャイムズの16 父アルデバラン)

右写真)放牧中の1歳牝馬

(左エメラルドコーストの16 父ディープブリランテ、

右レディパッションの16 父ルーラーシップ)

 

さて、今回の当ブログでは育成馬を調教する際には

避けて通ることができない「跛行」について、

その基本的な診断法について簡単に説明したいと思います。

 

○馬の跛行診断

 

跛行とは、馬が歩様に異常をきたしている状態をいいます。

原因はさまざまです。

 

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左図1:関節炎や骨折、右図2:局所感染

 

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左図3:骨膜炎や打撲、右図4:筋肉痛や横紋筋融解症

 

跛行している馬が育成馬や競走馬であれば競走や調教に支障をきたしますし、

繁殖牝馬であればストレスや運動不足で妊娠へ悪影響がでるほか、

授乳馬の場合は一緒に行動する子馬の運動量も低下してします。

 

○跛行の分類

 

一言で跛行と言っても症状によって分類されています。

 

・肢に体重を乗せた際に痛む支柱肢跛行(支跛=シハ)

・肢を挙げるとか前に振り出すと痛む懸垂肢跛行(懸跛=ケンパ)

・上記の両方の症状を示している混合跛行(混跛=コンパ)

 

今回は、骨折や蹄病等の疾患の際に多く観察される支跛について解説します。

 

馬は一定のリズムを刻みながら歩行します。

跛行診断は、硬い平地で常歩と速歩を前後左右から見て、

このリズムの乱れを見極める必要があります。

 

○跛行している肢を簡単に発見するためのチェックポイント

 

・前肢の跛行(支跛) ⇒ 頭部の上下動に注目!

痛い方の肢に体重がかかると痛みが増すため

頭を上げてかばう動作を見せます。

 

5_2図5:前肢の跛行

 

動画1:前肢の跛行(繋靭帯炎)

 

・後肢の跛行(支跛) ⇒ 腰の上下動と球節の沈み込みに注目

痛い方の腰の上下動が大きくなり痛い方の肢で

負重している時間が短くなります。

また、正常な方に体重をかける時間が長くなるので、

そちらの球節が深く沈み込みます。

 

6図6:後肢の跛行


 動画2:後肢の跛行(挫跖)

 

今回は、跛行診断のほんの一部のみ紹介させていただきました。

早期に愛馬の跛行を発見し、

適切な治療につながる一助となることを願っています。

 

※動画を多用して跛行診断についてより細かく解説した番組が、

グリーンチャンネルの「馬学講座ホースアカデミー」のコーナーで

2018年1月に放送予定となっていますので、そちらもご覧ください。

育成馬ブログ 生産編②(その2)

●ケンタッキーの馬産

 

○馬産全体の違い

 

馬産全体の違いについて説明します(図3)。

日本の生産牧場では牧場が繁殖牝馬を所有する

自己所有馬の割合が多いのに対し、

米国では馬主が生産牧場に預託料を支払って繁殖牝馬を預ける

預託馬の割合が多いです。

私が研修したダービーダンファームでは、約8割の馬が預託馬で、

自己所有馬は2割しかいませんでした。

 

また、日本の生産牧場には採草地を有し、

そこで作った自家製の乾草を馬の食用に使用していますが、

米国では採草地がなく牧場の土地を目一杯使って広い放牧地として利用し、

そこで作られた乾草は食用としては使用せず敷料として使用し、

麦稈代を節約していました。

 

さらに、日本では種牡馬はスタリオンステーションとして独立した

種馬場で繋養されているのに対し、

米国では大手の生産牧場の中に種牡馬厩舎および種付場が作られており、

種牡馬はそこで繋養されていました。

 

また、日本の牧場の従業員はほとんどが日本人ですが、

米国ではヒスパニックと呼ばれる中南米からの移民がほとんどでした。

そのため、ほとんどのマネージャーが英語だけでなく

スペイン語を話せる必要がありました。

 

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図3 馬産全体の違い

 

 

○放牧地内で乾草を作り、敷料として使う

 

米国の牧場には採草地がなく、

牧場の土地を目一杯使って広い放牧地として利用していました。

自家製の一番乾草を採った後、馬を放牧し、

その後は掃除刈りで維持するという草地管理を行っていました。

放牧地内で作製された乾草は、

食用にするのではなく敷料とすることで購入する麦稈の量を減らし、

節約していました。

なお、放牧地にはペレニアルライグラス、ケンタッキーブルーグラス、

オーチャードグラスがミックスされた種を

春と秋の2回播いていました(図4)。

 

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図4 放牧地内で乾草を作り、敷料として使う

 

次回は繁殖牝馬の飼養管理について述べたいと思います。

育成馬ブログ 生産編②(その1)

●ケンタッキーの馬産

 

今回から「ケンタッキーの馬産」について紹介していきたいと思います。

まず今回は、広い米国の中でもなぜケンタッキーが生産の中心なのか、

また馬産全体の日本との違いについてお話します。

 

○米国のサラブレッドが生まれてから出走するまで

 

米国のサラブレッドが生まれてから出走するまでの流れですが、

生産牧場で1歳の夏まで過ごし、

ブレーキングが行われる1歳の秋から育成牧場に移って調教される点は

日本と同じです(図1)。

異なるのは、競走馬としてデビューした後、

JRAでは美浦もしくは栗東トレーニング・センターで調教され、

レースのある週末のみ競馬場に行くのに対し、

米国ではレースが開催される競馬場で調教が行われている点です。

JRAの函館や札幌競馬場開催時の滞在競馬、

もしくは地方競馬と同じ状況だと言えばイメージし易いかと思います。

 

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図1 サラブレッドが生まれてから出走するまで

 

○なぜケンタッキー州が最大の馬産地なのか?

 

米国では毎年約2万頭のサラブレッドが生産されていますが、

中でもケンタッキー州は最大の馬産地であり、

約12,000頭が生産されています(図2)。

これは日本全体の生産頭数の約2倍にもなります。

では、広い米国の中でもなぜケンタッキー州が馬産に適しているとされ、

サラブレッドの生産が盛んに行われているのでしょうか?

 

まず1つ目として、この地には「ライムストーン」

と呼ばれる石灰岩の地層が存在し、土壌中にカルシウム分が供給され、

牧草中のミネラル分が豊富になり、馬の骨が丈夫になることが挙げられます

また2つ目として、ケンタッキーブルーグラスという

馬の放牧地に適した牧草が自生していたことも挙げられます。

さらに3つ目として、夏は暑くなり過ぎず、

冬は寒くなり過ぎない、馬に適した気候が挙げられます。

ケンタッキー州の牧場地帯の中心であるレキシントンは、

日本でいうと新潟市と同じ緯度にあります。

最後に4つ目として、東海岸に位置していることが挙げられます。

米国東海岸にはニューヨークなどの大都市があり、

経済の中心となっていることから馬主が集まりやすいという利点があります。

 

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図2 広い米国の中でもケンタッキー州が最大の馬産地

 

(つづく)

育成馬ブログ 日高①

●仔馬の内反肢勢

 

仔馬の肢勢は発育スピード、遺伝、放牧地の硬さなどによる環境など、

様々な影響を受けて変化していきます。

生後間もない子馬の異常肢勢は、成長に伴い治癒する場合もありますが、

重症例を放置することで、競走期のパフォーマンスに

悪影響を及ぼすことも少なくありません。

今回のブログでは、球節以下が体の内側に曲がる

「内反肢勢」について取り上げます。

 

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右後球節以下の「内反肢勢」

 

上記のとおり「内反肢勢」とは、

下肢関節が体の中心に向かって曲がる肢軸異常であり、

蹄尖が内を向く「内向肢勢」とは区別されます(図1)。

 

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図1.標準、内向、内反肢勢の違い

 

「内反肢勢」は成長に伴う自然治癒が期待できないため、

放置せずに装蹄療法などによる肢軸矯正を実施すべきです。

 

内反に対する肢軸矯正には、重症度にあわせて様々なものがありますが、

重要なことは「早期発見・早期治療」です。

 

これには仔馬の成長スピードが関係しています。

仔馬の肢の成長は体から一番遠い下肢部から始まり、

6ヶ月齢で球節以下の成長板は完全に閉鎖します。

このため、成長板閉鎖前であればある程度の効果が得られるものの、

その後は十分な効果が期待できません。

 

具体的な装蹄療法について説明します。

 

軽度であれば、内側蹄負面の多削による左右バランスの調整で

対処できますが、中程度から重度のものでは蹄の外側に

エクステンション(充填剤や特殊蹄鉄などを使用した張り出し)を

装着する方法がとられます(図2)。

ただし、エクステンションでも良化が見込めないような

重症例に対しては外科手術を行うこともあります。

 

仔馬の肢軸異常は

「昨日大丈夫だったから今日も大丈夫!」という事は一切ありません。

当場でも厩舎スタッフ・装蹄師・獣医師が毎日の馬体検査を行っています。

仔馬の肢軸異常は日常の微妙な変化を見逃さず

早期に対処することが重要だといえるでしょう。

 

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 図2.エクステンションを接着し装蹄療法を施した症例

育成馬ブログ 生産編①(その2)

●1歳馬のセールス・プレップについて(その4)

 

○グルーミング(手入れ)

 

ウォーキングマシンによる運動が行われない日は、

念入りなグルーミング(手入れ)が行われていました(図3)。

中でも最も力が入れられていたのが、ゴムブラシで全身を強く擦ることで、

古い体毛をできるだけ抜き、皮膚の血行を促していました。

最初の1週間は変化に気づかないレベルでしたが、

2~3週間続けていると明らかに新陳代謝が良くなり、

自然な艶が出てきました。

そのほか、セリの直前にはトリミングが行われ、

たてがみがきれいに整えられ、耳毛や距毛は短くカットされました。

 

2図3 セリ上場馬のグルーミング(手入れ)

 

 

○セールス・プレップにおける日米の考え方の違い

 

育成牧場で行われることが多いわが国のセールス・プレップと異なり、

生産牧場で行われるケンタッキーのセールス・プレップでは、

考え方が異なるように感じました。

すなわち、日本ではセールス・プレップが“後期育成の入り口”と

位置づけられ、ランジングを行うなど馬を従順にしていくことで

ブレーキングへの移行をスムーズにするという意図があるのに対し、

米国のセールス・プレップは“中期育成の延長”という考え方で、

放牧時間を極力短縮しないなど1歳馬の自然な成長を

促したいという意向が感じられました(図4)。

どちらにもメリットとデメリットがあると思いますが、

わが国においても生産牧場でセールス・プレップを行う際には、

ケンタッキーの自然な成長を促すやり方を

参考にしてみるのも一考の価値があるのではないでしょうか。

 

1図4 日米でセールス・プレップの位置づけが異なる

 

(おわり)