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2025年1月21日 (火)

ウイルスのダブル流行が起こらない? インターフェロンの存在

企画の杉田(薬剤師)です。

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 馬の話題からそれますが、2025年が明けて世間ではインフルエンザの患者数が増加。ちょっと騒ぎになっていますね。この現象については、新型コロナが蔓延した数年の間、インフルエンザは流行しなかったため、インフルエンザウイルスに対する抗体(抵抗力)を持っている者が減少して、今になってインフルエンザに抵抗できない多くの方々が発症しているという説が一般的です。

 と、ここで「はて、一つのウイルスが流行している時期、別のウイルスの流行が見られないのはなぜだろう?」という疑問が生じます。各人にウイルス感染が起これば、当然、体の抵抗力は弱るので、その人は他のウイルスにもかかりそうなものです。このような複数のウイルス感染が比較的、同時に流行しない現象は「ウイルス干渉」と呼ばれます。

 20世紀中頃、2つの呼吸器感染症RSウイルスとインフルエンザウイルスの流行期がずれて、2つが同時に流行らないことが疑問視されました。そこで、複数のウイルス感染症が同時に流行しない仕組みが生体にあるはずだと考えられ、培養細胞を使った研究が始まり、複数のウイルス感染を防御する干渉因子;Interference factorの存在が確認されました(参考文献)。そしてInterferon(インターフェロン)と呼ばれ、現代ではI型インターフェロン、II型インターフェロンなど複数のインターフェロンが、人のみならずその他の哺乳類、それどころか魚や爬虫類にも見つかっており、それぞれの体を守っていることが分かっています。

 以前、“馬の輸送熱”を防止するのにインターフェロンが有効であるとの研究結果から、輸送直前に市販のインターフェロン製剤を馬の舌下に投与する方法が提案されました。また、小動物臨床では感染やアレルギー疾患にインターフェロン製剤が用いられています。のみならず癌にも有効なことがあり、癌治療にもインターフェロン製剤は使われます。ただ、お医者さんや獣医さんに行っても、あまりインターフェロンの話は聞きませんねえ。いかほどのパワーがあるのかわからない部分もあるのですが、薬として使う場合は、体で作られる量よりはるかに多い量を投与しないと効果が得られません。そのためなのか、発熱や頭痛など予測できない副作用が起こることがあって使いにくいとも言われます。より研究が進んで効果のある使いやすいインターフェロン製剤ができると嬉しいですね。

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(参考文献)Virus Interference: I. The Interferon, A. lsaacs and J. Lindenmann, 2008, Cancer Journal for Clinicians, 38 (5), p280-290