分子生物研究室の太田です。
「馬伝染性貧血」(通称:デンピン)は,古くから知られている馬属に特有のウイルス性疾病です。ワクチンも治療薬もないため,摘発された場合は家畜伝染病予防法に基づき殺処分されます。1978年に「寒天ゲル内沈降反応」という精度の高い検査法が導入され,感染馬の確実な摘発が可能となったことで,その後の摘発頭数は着実に減少しました。そして2017年,ついに国内の清浄化宣言が出されたのを受け,法律に基づく大規模な検査体制は廃止されました。
とはいえ現在でも世界各国で発生が報告されており,再び日本国内に侵入してくる可能性はゼロではありません。そのため分子生物研究室では,毎年一定数の馬を抽出し,国内の清浄度の維持確認のための自衛検査を継続しています。今回はこの「寒天ゲル内沈降反応」についてご紹介します。
① まず,一晩冷蔵庫で冷やして固まったゲルにパンチで穴を開け,穴の中のゲルを吸い出します。
② 上下4箇所の穴に検査する馬の血清を入れます。
③ 中央の穴に抗原を,両サイドの2箇所の穴に標準陽性血清を入れ,24時間反応させます(1枚のゲルで4×9=36頭分の検査ができます)。
④ ゲルに染み込んだ抗原と標準陽性血清(抗体)が反応し,標準沈降線が出現します。これと同じ線が抗原と馬の血清との間に見られた場合,その馬は陽性と判定されます。幸い今回検査した983検体は全て陰性でした。
極めて単純かつ古典的な検査法ですが,開発から50年以上たった今も,国際的な標準法として世界各国で広く用いられています。以前は穴の開いたゲルが国内メーカーから市販されていたのですが,清浄化に伴い検査件数が激減したことで販売中止となってしまいました。ちなみに今年の仕事始めは①の自作ゲルに穴を開ける作業でしたが,実はこの作業が最も大変で,研究室のスタッフ総出で行いました(もちろんソーシャルディスタンスを保ちつつ)。
病気が無くなるのは嬉しいことですが,思わぬところに影響が出ています。まぁ,嬉しい悲鳴といったところですね。
臨床医学研究室の三田です。
倒馬用スイングドアが更新されたので馬の倒馬方法について紹介します。
人の手術を行う時に患者さんが手術台に寝そべっているシーンをドラマなどで見ることがありますね。人の場合は患者さんが自ら手術台に寝そべってくれるのでよいのですが、馬の場合は自ら手術台に乗ってくれないのでとても大変です。手術台に乗せるためには、まずは安全に倒す処置が必要になります。この処置を倒馬(トウバ)といいます。倒馬には様々な方法がありますが、総研やトレーニング・センターでよく用いられる方法がスイングドアを用いるものです。
スイングドアを用いた倒馬の手順を簡単に説明すると、まずは写真のようにスイングドアと呼ばれる可動式の扉(写真手前、銀色)と壁の間に馬に入ってもらいます。ここで、適切な鎮静や筋弛緩処置がなされた後に馬に催眠薬を投与します。催眠薬を投与されてしばらくすると馬はたっていられない状態になるためバタンとたおれてしまいます。この時に馬や人がケガをしないための仕組みがスイングドアに備わっています。スイングドアは壁の間に馬を挟んでいるため馬が横にバタンと倒れてケガをすることが防げると同時に、頭に装着した無口とロープによって頭を高い位置で固定することができるので、馬が意識を失っても頭を地面にぶつけたりすることを防止できます。
何かと危険がつきものの大動物の手術ではいろいろなところで人馬の安全が図られていますね。

分子生物研究室の辻村です。
前回の記事で2020年のブログがきれいに締まったところ申し訳ありません。あと1回お付き合いください。
年末年始といえばお酒の消費量が増える季節ですね。今年は例年と状況が異なるところですが、お家で嗜まれる方は多いのではないでしょうか。アルコールが飲めるかどうかに遺伝子型が関係していることは、皆さんお聞きになったことがあるかと思います。よく知られるのが2型アルデヒド脱水素酵素遺伝子で、遺伝子型によって、飲める・飲めるが弱い・全く飲めないの3タイプに分かれるとされています。このような遺伝子型による違いは馬にもあって(もちろんお酒の強い・弱いではありません)、有名なのは競走馬の距離適性に関係するとされるスピード遺伝子です(https://sg-test.lrc.or.jp/:外部リンク)。また、興味深いところでは、セロトニン受容体の遺伝子型が馬の扱いやすさに関係するとの報告もあります(https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2015-12-14-0:外部リンク)。
そして、遺伝子型が注目されるといえばウイルスもそうで、私が研究対象としているウマヘルペスウイル1型では、ある遺伝子の1塩基の違いがウイルスの神経病原性に関係することが分かっています(http://nichiju.lin.gr.jp/mag/07012/a3.pdf:外部リンク)。
近年ますます身近になってきた遺伝子の話題。私もいつか自分のアルコール体質を調べたいと思っています(人並に飲めるつもりですが、果たしてどうか・・・)。

ヒトと比べると、まだまだ分からないことが多い馬の遺伝子。今後の研究の進展が期待されます。
分子生物研究室の根本です。
10月15日に北海道の静内で開催された生産地における軽種馬の疾病に関するシンポジウムにおいて、ウマコロナウイルス感染症について発表してきました。
本シンポジウムは、生産地における軽種馬の保健衛生に関する問題とその対応策の検討を目的として、JRA主催で毎年開催されています。参加者および発表者は、生産地の獣医師、生産育成関係者、外部学識経験者およびJRA職員になります。今年は新型コロナウイルス対策のためさまざまな対策を行っており、具体例として、例年より参加人数をしぼり、また発表者はフェイスシールドを着用し実施されました。
ウマコロナウイルスは新型コロナウイルスとは異なり、消化器症状を引き起こすウイルスになります。発表後は多くの質問を受け、本ウイルス感染症に対する関心の高さを感じてきました。ウマコロナウイルスは未知の部分の多いウイルスですが、少しでも解明されるように研究を進めていきたいと思っています。
なおウマコロナウイルスの詳細について興味のある方は、下記総説をご覧ください。
日本獣医師会雑誌 2018年第71巻第1号5-9頁
http://nichiju.lin.gr.jp/mag/07101/a2.pdf(外部リンク)


臨床医学研究室の田村です。
新人獣医師を対象とした研修が始まりました。
普段は両トレーニング・センターの競走馬診療所で臨床獣医師として勤務していますが、専門的な知識や技術を習得するために、競走馬総合研究所に出張して来ました。
例年は6月頃に実施していますが、今年は新型コロナウイルス感染症の影響があり、10月からのスタートになりました。
先日のブログにおいて、学会にWeb参加したことを紹介しましたが、この研修も一部にWeb講義を取り入れています。写真はフランスに留学中の先輩獣医師から、薬の使用方法について説明を受けているところです。双方向での会話が可能であり、研修生は講義後も熱心に質問をしていました。

JRAでは新人獣医師を対象にした研修の他にも、多数の研修を実施しています。知識や経験を新しい世代にしっかりと引き継ぐ体制を整えています。
研修期間はおよそ2週間です。熱いエールをお願いします。
微生物研究室の内田です。
先日、日本感染症学会の学術集会が行われました。COVID-19関連のニュースで名前がよく挙がるため、ご存知の方も多いと思いますが、日本感染症学会は、人の感染症専門医を中心とした学会です。
人の感染症と馬の研究、関係ないのではと思われるかもしれませんが、人の医療で問題となっている薬剤耐性菌や、クロストリディオイデス・ディフィシル感染症は馬の診療現場でも遭遇することがあります。微生物研究室でも、これらの細菌感染症の研究を行なっています。学術集会では、様々な感染症の研究報告や人の医療現場で行われている最新の治療法について知ることができ、大変刺激を受けました。

さて、今年はCOVID-19感染拡大防止のために、様々な学術集会が紙面開催、オンライン開催など、これまでとは異なる方式で行われていますが、日本感染症学会の学術集会も、現地とWebの同時開催で行われました。私たちは学術集会のライブ映像をオンライン視聴し、学術集会Web参加を初体験しました。研究所セミナー室でのオンライン視聴、直接質問ができないのは残念ですが、とても快適な環境で集中して発表を聞くことができました。
多くの変化があった2020年、学術集会のあり方も変わっていくことになりそうです。
分子生物研究室の坂内です。
本来であれば今頃は東京オリンピックの開催期間でしたので、それに伴う総研職員の仕事についてご紹介しようかというタイミングなのですが、COVID-19のせいで何もない夏になってしまいました。
オリンピックに限らず、私たちの業務に関係する様々な行事が延期や中止に追い込まれていますが、その中の一つに、第11回国際馬伝染病会議(The 11th International Equine Infectious Diseases Conference)があります。学会公式サイトhttps://eidc2021.com/(外部リンク)
馬の感染症研究に特化したこの国際学会は、オリンピックと同じく4年に一度開催され、昨年から私が国際委員として運営に参加しています。前々回は2012年に米国ケンタッキー州、前回は2016年にアルゼンチン共和国ブエノスアイレス市で行われ、第11回となる今回は2020年10月にフランス共和国ノルマンディー州での開催が予定されていました。馬産業の盛んな欧州やアメリカ大陸から遠いアジアにいる私たちにとって、世界の研究者と直接会って親交を深められる貴重な機会となるはずでしたが、残念ながら1年延期されることが決まりました。
ノルマンディーというと戦時中の悲劇が思い起こされますが、現在では美しい海岸沿いにリゾートホテルが建ち並ぶ一大観光地となっています。そして、競馬大国であり、乗馬の強豪国でもあるフランスに、来年こそはぜひ行きたい・・・。行けることを心から願っています。
※国際馬伝染病会議では現在スポンサーを募集しています。ご興味のある方は総研分子生物研究室までお問い合わせください。