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乳母と孤児の離乳(生産)

 1歳馬のセリシーズンは残すところオータムセールのみとなりました。本年JRAが購買した馬たちは日高・宮崎の各育成牧場に入厩しております。

 本年も日高育成牧場・宮崎育成牧場からの育成編、日高育成牧場の生産馬に関する生産編の3本柱で、育成馬や生産馬の近況をお届いたしますのでよろしくお願いいたします。

 初回は日高育成牧場の生産に関するお話です。

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“乳母と孤児の離乳”

全国的に猛暑の話題が尽きない今年の夏ですが、北海道も同様で、例年と比較すると明らかな猛暑に見舞われました。例年、お盆が過ぎれば涼しくなりますが、今年は9月に入っても日中の気温は25℃を越える日も多く、残暑は厳しい日々が続いています。しかし、馬にとって不快な存在であるアブは姿を消したために、放牧地の馬達はそれほど不快ではないように映ります。

例年では、暑さのピークを過ぎ、涼しくなる8月中旬に離乳を実施しているのですが、今年の猛暑では、暑さとアブによる二重のストレスが子馬を襲うことも考えられたので、実施時期を遅らせることも考えました。しかし、幸いにもアブの飛来数は少なくなってきたために、離乳後のストレスも許容範囲であると判断し、予定通り8月中旬と下旬の2回に分けて離乳を実施しました。

今回は、4月にお伝えした育児放棄を受けた子馬と、ホルモン処置によって泌乳を誘発し、乳母として導入した代理母馬との別れを中心に離乳について綴りたいと思います。

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育児放棄の母馬から虐待を受ける子馬(生後2週目)

4月にお伝えしたとおり、当場で育児放棄が起こり、子馬への虐待がエスカレートしたために、空胎馬にホルモン剤を投与して、泌乳を誘発し、乳母として導入する試みを行いました。乳母と子馬の対面から6日目にようやく乳母が子馬を許容し、その後、子馬は乳母によって順調に育てられ、春の陽ざしの中で放牧中の2頭は、ほんとうの親子のように映りました。(育児放棄その1その2

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本当の親子のように見える乳母と子馬(生後3ヶ月目)

離乳は、例年どおり、群れの安定化を目的として、45組の親子の放牧群から同時に全ての母馬を引き離すことはせずに、半数ずつの母馬を前半と後半の2度に分けて引き離す、“間引き方法”によって実施しました。そして、注目の乳母と子馬の離乳は、前半の8月中旬に行われました。この日は、JBBAの研修生および当場で開催している“サマースクール”に参加している大学生の見学が行われていたため、いつもより多くの人が見守る中での離乳となりました。子馬は5.5ヶ月齢に達し、体重は235kgにまで増加し、同時期に生まれた子馬より少し小さくみえるものの、立派な馬体に成長し、離乳を迎えました。

子馬は、乳母が他の母馬とともに、1kmほど離れた放牧地に連れ出された直後こそ、少し落ち着かない様子でしたが、15分後には早くも落ち着き、残っている他の母馬を中心とする群れの中で、草を食べ始めました。一方、乳母は別の放牧地に放された瞬間に、馬場柵沿いを走り回り、子馬を呼び続けていました。1時間後に、ようやく少しは落ち着きはじめたものの、立ち止まっては耳を澄ませ、いななく行動は、夜中まで続きました。

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離乳翌日の手入れ時にも落ち着かない乳母

離乳翌日の子馬は、落ち着いており、体重も離乳した子馬の中では最小の4kgの減少にとどまり、馬房に他の子馬と一緒に収容した後も、仲良く戯れ、ストレスは見受けられませんでした。翌々日には、体重も離乳前に復し、餌も完食するようになりました。一方、乳母は離乳翌日も落ち着かず、体重は40kg減少し、離乳した他の母馬より10kgほど多い減少となりました。翌日の午後になって、ようやく落ち着きを取り戻しました。

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非常にリラックスしている離乳翌日の子馬の様子

このように、離乳に際して、子馬は何もなかったように振る舞う一方で、乳母は他の母馬と比較しても明らかに不安定な状態となりました。これらのことを鑑みると、子馬は成長すると母馬への依存度は小さくなっていく一方で、たとえ乳母であっても、一度備わった母性の強さというのは、子馬の母馬への思いとは、比べられないほど強いものであるように思われました。また、これだけ強い母性を持っていた乳母であったからこそ、孤児を許容することができたのだと感じました。