育成馬ブログ 生産編⑩「その1」

人工哺乳

 

母馬の死亡やフォールリジェクト(育子拒否)などによる孤子、

もしくは初産などでよく見られる母乳の分泌不全症などの場合には、

乳母もしくは人工哺乳が必要となります。

 

特に孤子の場合には、適切な馬体成長のみならず、

競走馬としての躾を考慮した場合にも、

乳母を用意することが最良の選択肢になります。

しかし、乳母が準備できるまでの間、

もしくは、人間の手だけで育てざるを得ない場合には、

人工哺乳を実施しなくてはなりません。

  

まずは初乳!!

 

人工哺乳が成功する最重要ポイントは

「十分量の初乳の投与」です。

良質な保存初乳を生後すぐに0.5~1リットル与えましょう。

以前のブログでも触れましたが、

良質な保存初乳がない場合には、

市販されている牛の初乳が利用可能です

(あくまで緊急用として利用してください)。

 

また、フォールリジェクトされた子馬が感染症にかかり、

死亡する話をよく聞きます。

おそらく、十分量の初乳を摂取していなかったのでしょう。

このため、「出産直後の哺乳行動」と「血中IgG濃度」の

ダブルチェックの確実な実施が望まれます。

  

馬用の人工乳

 

人工乳として、

市販されている馬用ミルクを使用することが推奨されます。

すぐに入手できない場合には、

牛乳で代用することもできます。

ただし、通常の牛乳は馬の母乳と比較して脂肪分が多く、

ラクトースが少ないことが知られています。

このため、低脂肪乳1リットルあたりに、

ブドウ糖20g添加したものを与えると良いでしょう。

 

2 

 

人工哺乳の量と回数

 

出産直後の子馬が必要とする母乳の量は体重の約10%ですが、

生後10日には体重の25~30%にまで達します。

そして、5週間を過ぎると体重の17~20%になります。

 

また、この時期の子馬の哺乳回数は、

1時間あたり約3回であり、比較的頻繁ですが、

人間が与える場合は、

生後1週間であれば1~2時間に1回、

2週齢以降は4~6時間に1回で良いでしょう。

 

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成長の確認

 

子馬が十分量の母乳を摂取しているかどうか確認することは、

適切な成長のために重要です。

このためには、

定期的に計測する体重および体高の値は

極めて有用な指標になります。

2ヶ月齢までの子馬が十分量の母乳を摂取している場合、

1日あたりの体重増は1~2kg、

体高の伸びは0.3~0.4cmになります。

  

つづく

 

育成馬ブログ 生産編⑨

第12回JRAブリーズアップセールを終えて

 

本年のJRAブリーズアップセールも、上場馬全頭をご購買いただき、

盛況のうちに終了することができました。

 

この場を借りて、ご購買者の皆さま、

セールにご来場いただいた購買関係者の皆さまに厚く御礼申し上げます。

 

さて、当セールの魅力は、多くのご購買者にとって分かりやすい運営、

レポジトリー(医療情報公開)を通した市場の信頼性、

ご購買直後に即戦力となる鍛え上げられた上場馬など多々あります。

 

これらの魅力を維持、

向上させるために様々な部署の職員が一丸となって

当セールの運営にあたっています。

 

今回の育成馬ブログでは、

BUセール開始当初からその運営に携わり、

本年1月に56歳の若さで急逝された

故坂本浩治氏について触れたいと思います。

 

坂本氏は、昭和60年にJRAに入会し、

日高育成牧場での育成調教業務、

アイルランドにおける2年に及ぶ研修、

厩舎関係者や育成牧場関係者などに対する技術普及など、

JRAの生産育成業務に深く携わり、

我が国の強い馬づくりに対して長年に亘り尽力してきました。

 

また、セールに関しては、市場の透明性確保、

そして、馬に対する躾やトリミングなどを通して

お客様に馬を()せる(・・)姿勢にも強い信念を持って取り組んでいました。

                   

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市場での購買検査風景 

トレードマークであったハンティング帽をかぶる坂本氏(右端)

  

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坂本氏の馬に対するアフィニティ(親和性)やリーダーシップは、

多くのホースマンの心に深く刻まれた。

   

育成牧場の現場においては、

馬に対するアフィニティ(親和性)やリーダーシップなど、

アイルランドで学んだ技術や精神を日高育成牧場で実践し、

多くの人に伝えてきました。

 

この坂本氏の考え方に感化されたのは、

一緒に働いた我々JRA職員にとどまらず、

JRA調教師などの厩舎関係者、

民間育成牧場の関係者など枚挙にいとまがありません。

 

また、アイルランドのトップ・トレーナーのエイダン・オブライエン師も

「浩治は現在の私の厩舎における

馬の管理方法をいくつか確立していくうえで、

キーパーソンの1人でした」

と話すように、

欧米でも十分通用するホースマンであったともいえます。

 

これらの坂本氏の精神は、「JRA育成牧場管理指針」

http://jra.jp/ebook/ikusei/nichijo/#page=2)などの

普及冊子としてまとめられており、

現在も日高育成牧場のみならず、

多くの民間育成牧場スタッフのためのテキストブックとして、

若馬の騎乗馴致やセリ展示など多くの場面で活用されています。

  

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民間牧場の関係者を対象とした講習会で講師を務める坂本氏

  

 

坂本氏が常日頃から願っていたのは「日本競馬の民度向上」でした。

 

ヨーロッパの大レースのパドックで見られる華やかな雰囲気、

正装して馬を引く厩舎関係者、

躾ができており、人を信頼し、指示に従って落ち着いて歩く出走馬。

  

日本競馬が、競走成績のみならず、

馬の取り扱いや関係者の服装などについても、

欧米の競馬先進国に追いつくことを願ってやみませんでした。

現在G1競走を中心に行われている「ベストターンドアウト賞」は、

その願いが形になったものの1つです。

 

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ベストターンドアウト賞 審査の様子(平成28年 皐月賞)

  

このように,坂本氏の生涯は生産育成業務をとおして

我が国における強い馬づくり、

日本競馬の民度向上に捧げられたと言って過言ではありません。

 

国内外を問わず

多くのホースマンに大きな影響を与えてくれた

坂本氏の素晴らしい人生に感謝して,

心よりご冥福をお祈りします。

 

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育成馬ブログ 生産編⑧「その3」

難産症例 -両臀部屈曲位(ドッグ・シッティング)-

 

前回までの説明を踏まえたうえで、

日高育成牧場で発生した難産症例について紹介します。

  

本症例は胎子の姿勢異常(両臀部屈曲位)により難産を呈しましたが、

病院への輸送タイミングを逸したため、残念ながら胎子が死亡した事例です。

 

なお、母馬は9歳のサラブレッドで産歴5頭、

これまでの出産では大きなトラブルは認められませんでした。

 

経過

14:00     放牧地にて陣痛を認めたため、集牧し馬房内で様子を見る。

15:00     破水するが尿膜水量は少なく、足胞は現れない。

15:50     再び尿膜水が排出される。羊膜が現れるが、直後に膣内に戻る。

5分後に羊膜が再度現れるが、胎子の蹄は確認できず。

その後も横臥と起立を繰り返すが娩出は進まない。

16:40     最終的に娩出できず、胎子は死亡。

          

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2回目の破水後に現れた羊膜(左)正常な足胞(右)

 

 

 

胎勢

 

本症例は、両臀部が屈曲するとともに、

後肢の蹄が骨盤上口に固定されている

「両臀部屈曲位(ドッグ・シッティング)」とよばれる異常胎勢でした(下図左)。

 

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両臀部屈曲位(ドッグ・シッティング)(左)分娩時の正常な胎子(右)

  

この場合、胎子の前半身のみが部分的に娩出されますが、

それ以降は怒責によっても娩出されません。

 

このため、本症例のように分娩に時間がかかっている場合は、

これを疑う必要があります。

なお、産道保護のため、

頭部、両前肢および胸部が正常に触知できたとしても、

無理な牽引は禁忌とされています。

  

多くの場合は、病院における全身麻酔下での仰臥位での整復

あるいは帝王切開が適応されます。

もし、胎子を子宮内に押し戻すことが可能であれば、

骨盤上口に固定された蹄をはずすことで整復できますが、

娩出動作によって産道に子馬がきつく押し込まれている場合には

極めて困難です。

 

ある調査によると、

両臀部屈曲位はのべ517回の分娩中に2回(発生率0.38%)

認められたということです。

  

本症例で認められた分娩時の異常所見をまとめます。

 

・破水後の尿膜水量が明らかに少ない。

・破水後から1時間近く羊膜が現れない。

・羊膜内に胎子の蹄が認められない。

・羊膜が現れた後も、スムーズに胎子が娩出されない。

  

これらのような分娩時の進行停滞や異常所見が認められた場合には、

躊躇せずに病院へ輸送すべきです。

  

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

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育成馬ブログ 生産編⑧「その2」

正常分娩の進行

 

では、正常分娩の進行について具体的に説明します。

  

①陣痛症状の発現

 

陣痛は疼痛程度や持続時間に個体差があり、

分娩の数日前から兆候が断続的に認められることや、

数日間の間隔が空くことも珍しくありません。

 

しかし、著しい疼痛や不穏な状態が、

長時間にわたり持続するにも関わらず破水が認められない場合には、

何らかの異常があると考えるべきです。

  

②破水

 

正常分娩と難産を見極めるうえでの重要なポイントは破水です。

破水とは、

胎子を包んでいる二重の膜の外側である

尿膜絨毛膜の破裂にともなう尿膜水の排出です。

 

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前述したように、明瞭な陣痛症状が

長時間継続しているにも関わらず破水が認められない場合、

破水から5分を経過しても足胞が出現しない場合にも

何らかの異常があると考えられます。

 

なお、破水後には膣内の胎子の状態を確認します。

正常であれば、触知によって蹄底を下向きに伸展した両前肢と鼻端を

確認することができます(下図)。 

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破水直後の胎子の様子

正常姿勢の場合、蹄底を下向きに伸展した両前肢と鼻端を触知することができる

  

なお、陣痛発現から破水まで、

子宮内の胎子は図Ⅰから図Ⅳのように

母馬の背中に対して仰向けの状態から回転しながら膣外口に向かいます。

 

多くの場合、図Ⅳの姿勢で破水を迎えますが、

まれに図Ⅱや図Ⅲの状態で破水することがあります。

これらの場合、

蹄底が上向きもしくは横向きの状態で触知されることがありますが、

心配いりません。

母馬の起立と横臥の繰りかえしや、

馬房内での常歩運動により自然に正常な姿勢に至ります。

 

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③足胞の出現

 

破水から5分以内に足胞が出現します。

正常な羊膜は白っぽく、滑らかで光沢があり、羊膜中の羊水は透明です(写真)。

以下の場合は異常ですので注意してください。

 

・破水から5分以内に足胞が認められない。

・羊膜内に胎子の蹄が認められない。

・羊膜が肥厚している。

・羊水が緑~茶色に混濁している。

・羊膜ではなく尿膜絨毛膜の赤い胎盤(レッドバック)が認められる。

 

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足胞の出現 このときに羊膜および羊水の色調などを確認する。

 

 

④娩出

 

娩出の際、頻繁に寝返りを打ったり、

横臥と起立を繰り返したりすることも少なくありませんが、

著しい場合は何らかの異常が発生している可能性があります。

 

 

育成馬ブログ 生産編⑧「その1」

難産 ―病院へ連れていく決断―

 

出産シーズンの生産牧場において、

子馬が無事に産まれてくることが何よりであることは言うまでもありません。

しかし、人為的介助を必要としない正常分娩はおよそ9割と言われており、

残りの1割は何らかの対応や処置が必要となります。

 

 

特に分娩時の胎子の異常に起因する難産に対しては、

正確かつ迅速な判断が求められます。

 

なかでも最も重要なジャッジは「病院への輸送」です。

ここでいう病院とは、「二次診療施設」、

すなわち全身麻酔下での整復および帝王切開が可能な病院を指します。

 

病院に連れていく判断、

つまり「牧場現場での整復が不可能であると判断」するうえで重要なことは

「正常分娩との違い」を見極めることです。

  

正常分娩では、

   ①陣痛症状の発現

→②破水

→③足胞(羊膜に包まれた胎子の蹄)の出現

→④娩出

がスムーズに進みます(下図)。

 

これに反して、①から④の進行がスムーズではなく、

いずれかのポイントで停滞した場合には、何らかの異常が疑われるため、

獣医師による整復や病院への輸送を考慮すべきです。

  

分娩に際しては、時間経過の把握も極めて重要です。

一般的には、②破水から③足胞の出現までは5分以内、

②破水から④娩出までの時間は20~30分程度ですが、

いずれも個体差がみられます(下図)。

 

特に娩出までの時間は、

経産馬では出産を重ねる毎に時間が短縮される傾向がみられ、

5分間程度で終了する場合もある一方、

初産馬は時間を要することが多いようです。

 

なお、破水から40分を経過しても胎子が娩出されない場合は、

胎子の生死に関わる可能性があります。

獣医師の到着や病院への輸送時間を考慮した場合、

できるだけ早い段階で異常兆候を把握して、

正確な判断を下す必要があります。

  

以上のことから、正常分娩で認められる

①陣痛→②破水→③足胞出現→④娩出までの進行にスムーズさを欠き、

経過時間の著しい延長が認められた場合には、

病院への輸送を決断するべきです。

 

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育成馬ブログ 日高⑧

○  育成馬展示会を開催しました(日高)

 

4月11日(月)、日高育成牧場では育成馬展示会を開催しました。

この育成馬展示会は、馬主・調教師をはじめとした購買関係者の皆様に

JRAブリーズアップセール上場予定馬をご覧いただくのと同時に、

JRA育成馬の生産者の皆様に各馬の成長ぶりを披露する場でもあります。

 

イベント後には粉雪が舞うほどの寒さとなりましたが、

当日は全国各地から221名ものお客様にご来場いただきました。

お越しいただきました皆様、この場を借りて御礼申し上げます。

 

当日はまず、JRAブリーズアップセール欠場馬(3頭)を除く

56頭の比較展示を行いました。

 

大勢のお客様に最初は戸惑っていた育成馬達も、

展示者の指示に促されて徐々に落ち着きを取り戻していました。

 

その後は1600mダート馬場に移動して、50頭の騎乗供覧を行いました。

ここでは2頭併走を中心に、ハロン13秒程度での走行フォームをご覧いただきました。

綺麗な隊列での調教に力を入れてきましたが、

多くの馬がその成果を発揮できたものと感じています。

 

今回の展示会には軽種馬育成調教センター(BTC)の

育成調教技術者養成コース33期生も参加しました。

彼らはJRA育成馬を用いて馴致や騎乗調教の実践的な研修を行うことで、

育成馬とともに成長して来ました。

間もなく育成の現場に巣立っていく彼らは、

展示会という舞台でそれぞれの成長を披露してくれました。

立派なホースマンとなり競馬サークルを盛り立ててくれる事を、

心から期待しています。

   

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写真.1 比較展示の様子。56頭の育成馬を5班にわけて展示しました。

 

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写真.2 騎乗供覧の様子。

外がダームドゥラック14(牡、父:ロージズインメイ、BU番号65)、

内がクルミ14(牡、父:ストリートセンス、BU番号38、騎乗者はBTC研修生)です。

綺麗な併走を披露した2頭のタイムは、

ラスト2ハロン13.4-12.9(秒/ハロン)でした。

 

今年のJRAブリーズアップセールは4月26日(火)に中山競馬場で開催します。

育成馬達が巣立っていくまでの残り少ない時間、

育成馬の調整に全力で取り組もうと思います。

育成馬ブログ 日高⑦

ブリーズアップセールが近付いてきました!(日高)

 

例年と比較にならないほど暖かい冬となった日高育成牧場では、

全国各地に大きく遅れることなく待望の春を迎えました。

 

日中の気温が10℃を上回る日も増え、

道路脇の積雪もわずかに残るだけとなっています。

 

馬場凍結のため使用できなくなっていた屋外1600mダートトラックも

例年より早い3月28日から使えることになりました。

春の訪れを待っていた育成馬たちは、これからぐんと良くなっていきます。

 

 

育成馬の調教状況

 

まずはJRA育成馬の調教状況についてお伝えします。

 

1週間の調教メニューは前回の同ブログから変わらず、

現在も毎週2回の坂路調教を実施しています。

 

2月末までは、

縦列で坂路2本(3ハロン54~51秒程度)を駈けあがる調教を繰り返して、

基礎体力を育みつつ綺麗なフォームで走れるよう努めてきました。

 

しかし現在は、殆どの馬に十分な体力がついてきたため、

坂路調教の2本目を「併走」にすることで

「走りたい」「併走馬に負けたくない」気持ちを膨らませる調教を行っています。

 

 動画1.屋内1000m坂路コースでの調教 

併走馬同士をしっかり近づけて走行できるよう練習しています。

1組目:向かって左がリスキーディール14(父:シンボリクリスエス、BU番号48番)、

右がノーブルビューティ14(父:タイキシャトル、BU番号19番)。

2組目:向かって左がグラッドリー14(父:サウスヴィグラス、BU番号20番)、

右がコロナガール14(父:サマーバード、BU番号46番)。

3組目:向かって左がスターリースカイ14(父:ケイムホーム、BU番号45番)、

右がキングズラヴ14(父:サマーバード、BU番号18番)。

 

 

 

今後は屋外1600mダートトラックが使えるようになる3月28日まで

坂路調教を継続し、それ以降は1600m馬場での調教にシフトしていきます。

  

 

手術実施馬や跛行馬のリハビリテーション

 

アスリートである育成馬の調教を進めると怪我や故障がついて回ります。

跛行や疾病の程度により休養期間や治療内容は異なりますが、

重度の跛行や手術を要する疾病に罹患すると休養が長引くため、

その後のリハビリは重要です。

 

現在、当場ではこのような馬のリハビリテーションに

トレッドミル運動を併用して安全な早期回復を目指しています。

トレッドミルは馬用のルームランナーで、運動負荷量を調節することができるうえに

人が騎乗しないため馬の下肢部にかかる負担を大幅に軽減できます。

 

週に3回、1回の運動量は速歩1~1.5km、駈歩1~2km程度で

約1カ月実施します。

まだ一部の長期休養馬に実施した段階ではありますが、

確かな手ごたえを感じています。

 


 

動画2.トレッドミルを用いたリハビリテーション 

先日手術した育成馬のリハビリにトレッドミルを用いています。

馬の様子を観察しながら徐々に運動負荷を増やし、

安全なリハビリを行いたいと考えています。

 

ブリーズアップセールに向けた準備

 

約1カ月後に迫ったブリーズアップセールに向け、着々と準備が進んでいます。

 

先日、馬運車の積込みに慣らすための「馬運車馴致」を実施しました。

写真にある馬積み所に慣らして当場所有の馬運車に乗せておくことで、

輸送当日の出発遅延を防止し、

輸送でかかるストレスを少しでも軽減することが主な目的です。

 

今年の育成馬たちは皆おとなしく、問題ある馬はいませんでした。

出発当日、スムーズに積み込めることを祈っています。

      

Photo

         

今年のJRAブリーズアップセールは中山競馬場で4月26日(火)に開催します。

育成馬と向きあえる残り期間は約1カ月。

残りわずかな時間を有効に使い、後悔しないように過ごしていきたいと思います。

育成馬ブログ 生産編⑦「その3」

子馬の保定 その3 タオルパッティングを利用したレントゲン馴致

 

馬の性格は様々で、生まれた時から落ち着いている子馬もいる一方で、

怖がりで敏感な子馬がいることも事実です。

例えば、後者に対してX線検査をする際、

X線のカセットを最初からいきなり後肢に触れさせた場合には、

カセットもしくは保持者の手を子馬に蹴られるのがオチです。

  

この際、毎日の手入れの時間の「タオルパッティング」をお薦めします。

最初はタオルが後肢、股間、ヒバラなどに触れた時に

怖がって蹴り上げたり、動き回って逃げまわったりします。

 

しかし、数日間継続して実施することで、

「タオルが馬に対して危害を加える存在ではないこと」を認識して、

落ち着いて立っていることができるようになります。

 

これができたら、カセットに似た硬い板などを

後肢や股間などの検査で触れる部分に当てて慣らします。

  

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タオルパッティングを利用したX線馴致

 


YouTube: タオルパッティングを利用したX線馴致

 

  

この場合に重要なことは、人間がリラックスしていることです。

人間が落ち着くことにより、

馬はタオルが体に触れることが恐怖ではないことを理解します。

 

一方、人間がイライラもしくは緊張しながら実施すると、

タオルが触れることによる恐怖心を植え付けることになります。

 

また、このような馴致は短期間にできるものではないことも認識する必要があります。

毎日の手入れの中で少しずつ人馬の信頼関係を積み上げていくものです。

  

 

There is nothing so good for the inside of a man

                                 as the outside of a horse.

イギリスの政治家John Lubbock 「人間の成長にとって、馬ほど優れたものはない」

  

 

子馬を保定するうえで、道具や鎮静剤を用いた方法、

他馬を利用した方法を選択せざるをえない場面もあると思います。

しかし、それらの手法に頼ることなく、

人馬が1対1で向き合ったうえで保定することは、

人間にとっては、馬の取り扱い技術を向上させる貴重な機会になることでしょう。

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

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育成馬ブログ 生産編⑦「その2」

子馬の保定 その2 日常の取り扱いにおける「リーダーシップ」と「オン・オフ」

 

「リーダーシップ」と「オン・オフ」の方法を

毎日の取り扱いで継続的に用いることにより、

保定が必要な場面で適切な制御が可能になります。

  

毎日の取り扱いにおける利用例として、

「集放牧の際に他の馬と間隔を空けて引き馬をする」

「馬体検査の際に、1頭のみで駐立させる」などがあげられます。

 

特に引き馬は子馬の躾に極めて有効です。

なぜなら、馬の群れの中でのリーダーは、

他馬のスピードをコントロールすると言われているため、

引き馬でのスピードコントロールは、

引き手をリーダーとして認識させる絶好の機会になるからです。

このため、前の馬をリーダーと認識するような前後を接近させた引き馬ではなく、

前の馬との間隔を空けて、引き手をリーダーと認識するような引き馬が推奨されます。

                

3 

                 

集団生活を基本とする馬は、他の馬の存在に安心感を得る動物です。

しかし、子馬をコントロールする際に、

他馬と一緒にいることで落ち着かせる方法を選択することもまた、

道具や鎮静剤を用いた方法と同様、

人馬の信頼関係構築のための貴重な機会を失うことになります。

 

このため、「馬体検査の際に、1頭のみで駐立させる」など、

あえて人間と馬が1対1で向き合う機会を数多く設けたうえで、

確固としたリーダーシップ、

適切なオン・オフを用いながら引き馬や駐立を実施することで、

人間に対する安心感や信頼感を醸成することができるのです。

 

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人馬が1対1で向き合うことは、信頼関係構築の貴重な機会

 

 

(つづく)

育成馬ブログ 生産編⑦「その1」

子馬の保定 その1

 

子馬を取り扱ううえで、

「保定」すなわち「馬の動きを制限すること」が求められるケースは少なくありません

 

日高育成牧場では、日常の手入れや治療はもちろんのこと、

毎月実施している馬体検査、X線検査、内視鏡検査、写真撮影の際に、

子馬を適切に保定することが要求されます。

 

X X線検査や内視鏡検査では、適切な保定が要求される。

 

 

保定には目的に合わせた様々な方法があります。

鼻捻子など制御力の強いもの、枠馬の利用、

または、鎮静剤の投与も保定の1つと言えます。

  

しかし、当場の子馬に対しては、

鼻捻子による強い保定、枠場の利用、鎮静剤の投与は

可能な限り実施しないよう努めています。

 

なぜならば、子馬に対して何らかの処置をする際に、

最初から上記の道具や鎮静剤を用いた方法を選択することは、

「子馬に対する躾の貴重な機会を失うこと」になるからです。

  

では、どのように子馬を保定するのかというと、

「リーダーシップ」と「オン・オフ」を利用します。

 

「リーダーシップ」は文字通り、

人間が馬に対して指示を与えて動きをコントロールすることです。

 

「オン・オフ」については、

「オン」は馬への指示を意味しており、

馬が理解した段階で「オフ」、すなわち何もせずに馬へ安心感を与えることで、

人間の指示を受け入れさせる方法です。

 

これに反して、

馬が理解しているにもかかわらず、「オン」の指示を継続的に与えると、

馬が混乱して人間の指示を受け入れなくなります。

 

Photo 

正しく駐立できたら、「オフ」の雰囲気で馬に安心感を与える。

 

(つづく)