育成馬ブログ 生産編⑤「その2」

・SUKOYAKA馬体

 SUKOYAKA馬体は、

子馬や繁殖牝馬の個体情報を記録し、管理するためのソフトです。

 定期的に測定した馬体重を入力すると、自動的にグラフ化してくれます。

また、子馬については、標準曲線と比較することもできます。

 

Photo_4

SUKOYAKA馬体 

測定体重の入力により、標準曲線と比較したグラフを作成することができる。

 

 標準曲線は、日高管内の30牧場の約2,400頭の子馬の馬体重データ4万点を

別・生まれ月ごとに分けた平均値をもとに作成したものです。

 

 この標準曲線と登録馬のデータを比較することで、

子馬が順調に成長しているかうかを確認することができます。

 

 ただし、「標準曲線はあくまで目安である」ということを念頭に置いて利用して下さい。

 

すなわち、

標準曲線を「上回ったら、飼料を減らす」、「下回ったら、飼料を増やす」

など機械的に利用するのではなく、

あくまで、実際の馬を観察したうえで、

BCS、体高、胸囲、管囲、疾病の有無、放牧草の状態などの情報と併せて

飼養管理に活用するとが合理的です。

 

 

1標準曲線との比較は馬の成長把握の1つの材料

 

 また、子馬および繁殖牝馬の様々なデータ蓄積は、生産牧場における

適切な飼養管理、もしくは管理方法の改善に大きく寄与します。

 

 ビジネスの世界で使われているPDCAサイクル、

つまり  Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)

4段階を繰り返すことにより業務を継続的に改善する手法は、

生産牧場でも活用することができます。

 

PdcaSUKOYAKAを活用した牧場におけるPDCAサイクル

  

 この場合、正しくCheck(評価)するためには、「事実の正しい認識」が重要です。

つまり、「曖昧な主観的感覚」ではなく、「客観的なデータ」の検証が必要になります。

 SUKOYAKA馬体は、馬体重だけではなく、

体高などの測尺値やBCS、出産、病気、離乳などの様々なイベント、

給与飼料や病名などの必要に応じたコメントを入力し、

データとして蓄積することができます。

 

Photo_5馬体重以外にも、測尺値やBCS、必要に応じたコメントの入力が可能

 

 

Photo_6

イベントやコメントなどはグラフにも反映される。

 

 これらの蓄積データを活用することにより、

過去に実施した飼養管理方法の評価「振り返り」が可能となり、

適切な改善へとつながります。

    

     

「振り返り」の具体例としては、

 

「昨年の世代と比較して、今年の1歳馬は骨疾患が多い。

昨年と今年の馬体成長や BCSに違いはあるだろうか?」

 

「今年の1歳馬は冬期のBCS保持が困難だった。

離乳期の馬体重やBCSは 問題なかっただろうか?」

 

「今年は繁殖牝馬の受胎成績が良くなかった。

成績が良かった昨年の馬体重や BCSと比較してみよう」

 

などがあげられます。

 

 このようなデータを活用した評価をすることで、

具体的な改善策が浮かび易くなりす。

また、栄養指導者などの第三者に相談する場合でも、

過去の蓄積データを示すことで、より適切な解決策の発見につながります。

 

是非、軽種馬牧場管理ソフト「SUKOYAKA」をご活用ください!!

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。

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アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

 

育成馬ブログ 生産編⑤「その1」

・栄養管理・馬体情報管理ソフト「SUKOYAKA」がリリースされました!

 

JBBAから軽種馬牧場管理ソフト「SUKOYAKA」がリリースされました。

SUKOYAKAは、軽種馬の栄養管理と馬体情報管理をサポートするソフトで、

JBBA日本軽種馬協会のウエブサイトからダウンロード(無料)できます。

(こちらからダウンロードできますhttp://jbba.jp/assist/sukoyaka/index.html

 

 当ソフトは、「SUKOYAKA栄養」と「SUKOYAKA馬体」の二つで構成されています。

 

Jbba

JBBA日本軽種馬協会のウエブサイトから、ソフトをダウンロード

 

 

・SUKOYAKA栄養

SUKOYAKA栄養は、各馬のステージにあった養分要求量を計算し、

現在与えている飼料の充足率を確認することができるソフトです。

 

簡単に言うと、

子馬であれば

「今与えているエサもしくは新たに導入しようとしているエサを与えることによって、

 病気にならずに適切な成長ができるか」

妊娠馬であれば、

「母体も健康で、健康な子馬を出産することができるかどうか」

「それらのエサをどのくらい与えればよいのか」

これらを判断するうえでの目安を提示してくれるものです。

 

Sukoyaka

SUKOYAKA栄養

 

では、具体的な飼料設計の例を見ていきましょう。

 

11_2

ここでは22時間放牧の昼夜放牧をしている1歳馬(9ヶ月齢 馬体重350kg)の

飼料を考えてみます。

 

この時期、北海道では積雪があるため、

放牧草からの栄養摂取は考慮しないこととします。

(実際には積雪量によっては雪の下にある青草を食べますが)

 

まず、エンバク(カナダ産)とルーサン乾草で設計してみます。

 

3kg5kg

この場合、SUKOYAKA栄養で計算すると、

DE(エネルギー)とCP(タンパク質)は充足していることが確認できます(図1)。

 

Decp 

DE(エネルギー)とCP(タンパク質)の充足率(図1)

 

 一方、銅や亜鉛など、欠乏症により子馬の骨軟骨症(成長過程における

軟骨の骨化不良により引き起こされる骨端炎、OCD、ボーンシストなどの総称)が

引き起こされるミネラル類については、充足率が14~15%であり、

明らかに不足していることが分かります(図2)。

 

2

銅や亜鉛などミネラルの充足率(図2)

 

では以下のようにエンバクの一部をバランサータイプの飼料に置き換えてみましょう。

 

Photo_2

エンバク3kgを2kgに減らし、代わりにバランサータイプ飼料1kgを与えます。

 

これにより、濃厚飼料を増やすことなく、

銅や亜鉛などのミネラルも充足することができました(図3)。

 

Photo_3

 バランサータイプの飼料を利用した場合の充足率(図3)

 

 ただし、エネルギー、タンパク質、ミネラルおよびビタミンの充足率が

すべて100%以上であれば良いかといえば、決してそうではなく、

あくまで計算上の目安でしかありません。

 

 子馬の馬体成長や疾病発症に影響を及ぼす要因としては、

飼料から摂取する栄養以外に、遺伝や環境(気候など)なども無視できません。

 あくまで算出された値を目安として、個体ごとの健康状態や発育の程度、

疾病の有無などを把握しながらの飼料調整が必要となります。

 

 このため、定期的な馬体重や体高などの測定、

BCSや疾患の有無を確認するための馬体検査などの実施が推奨されます。

 

Bcs

 飼料設計には馬体重やBCSの測定による成長度合いの把握が必要

 

 これらの体重測定や馬体検査で得られたデータは、

その都度の飼料設計に利用できるだけではなく、

継続的に複数年(複数世代)のデータを蓄積していくことで、

飼養管理方法の改善にもつなげることができます。

これをサポートするツールが「SUKOYAKA馬体」です。

 

つづく

育成馬ブログ 日高④

○  本年もよろしくお願いします!(日高)

 日高から本年最初の投稿となります。昨年に引き続き、JRA育成馬ブログをよろしく

お願いします。例年1月には育成牧場全域が雪に覆われ一面銀世界となりますが、

今年は暖冬の影響で雪も少なく、比較的過ごしやすい冬となっています。

年末年始に短期間の放牧休養を挟み、リフレッシュした育成馬達は元気に調教を

再開しています。

 

育成馬の調教状況

 まずはJRA育成馬の調教状況についてお伝えします。

第1群(牡23頭)は、屋内800mトラックをキャンター1周(縦列:ハロン22秒程度)

した後、手前を変えてキャンター2周(2 or 3列縦隊:ハロン20秒程度)する調教を

こなしています。スタミナがついて速く走りたがる馬も増えてきましたが、行きたい

気持ちを我慢させて前後左右の間隔を詰め、競馬を意識した調教を目指しています。

12月からは屋内坂路馬場で週2回(火曜・金曜)の調教も開始しました。1月初旬

現在、坂路調教日には屋内800mトラックでウォーミングアップ(キャンター2周)を

してから、1000m坂路を1本(3ハロン54秒程度)駆けあがっています。


YouTube: 第1群(牡)の坂路調教

 

動画1.第1群の坂路映像。先頭からハンプトンコート14(父:バゴ)、

カネマサバレリーナ14(父:スマートファルコン)、

シルクハリウッド14(父:タニノギムレット)、

グレインライン14(父:エンパイアメーカー)、

ウエスティンタイム14(父:スズカマンボ)。

 

 1群より3週間遅く坂路調教を開始した第2群(牝21頭)もしっかり体力をつけ、

現在は1群と同内容の調教がこなせています。牝馬は牡馬より真面目で頑張り

過ぎてしまうことが多いので、オーバーワークにならないよう気をつけて調教して

います。


YouTube: 第2群(牝)の坂路調教

 

動画2.第2群の坂路映像。先頭からフラワーロック14(父:キングズベスト)、

オーブシュプレーム14(父:デュランダル)、タヒチアンメモリ14(父:フリオーソ)、

ダノンスズラン14(父:ステイゴールド)、サンセットロード14(父:ロージズインメイ)、

フェルガーナ14(父:サマーバード)。

 

 最後に馴致を開始した第3群(牡7頭、牝8頭)も12月末から坂路調教を開始しま

した。現在は1・2群と合流して、同じメニューをこなすべく基礎体力強化に努めて

います。

 


YouTube: 第3群(牝)の坂路調教

 

動画3.第3群(牝馬)の坂路映像。先頭からイフリータ14(父:ケイムホーム)、

アンプリペアード14(父:カネヒキリ)、バクシンスクリーン14(父:アルデバラン)、

ペパーミントグラス14(父:ペパーミントグラス)。

 

騎乗者目線の映像(坂路)

 ここで、JRA育成馬の利用している屋内1,000m坂路馬場についてご紹介します。

BTC屋内坂路馬場は全長1,000mの屋根付き馬場で、スタートして300mは

平坦コース、その後右にカーブしてから徐々に傾斜角度があがっていきます。

調教スピード(ハロンタイム)はスタート後150m地点からの600m(3ハロン)が

計測されます。

           

Photo 図.坂路模式図 

 

 全長1,000m、幅員10m、最大斜度5.5%のこの施設を騎乗者目線で撮影して

みました。撮影に使用したのはGo Pro Hero4という小型カメラです。装着しても

調教への支障はありません。

Photo_2

写真1.ヘッドライトのようにヘルメットに装着した小型カメラ

 


YouTube: 動画4騎乗者目線の調教映像

  

動画4.騎乗者目線での坂路調教映像。

 

 監視室のモニターではわからない、調教中の他馬の動きや騎乗馬の息遣いが

ダイレクトに伝わるこの映像技術を育成馬の調教に活用できないか、現在模索して

いるところです。

 

BTC 33期研修生の騎乗研修について

 1月13日からBTC研修生の騎乗研修を開始しました。この研修、研修生にとっては

9月・10月に馴致実習で触れ合ったJRA育成馬との2か月振りの再会であり、

はじめて若馬に騎乗する機会でもあります。久しぶりに再開した研修生たちは、

JRA育成馬の成長ぶりに驚いていました。4月11日(月)の育成馬展示会までという

短い研修期間ではありますが、彼らが育成牧場の最前線で働く際に役立つような

経験ができるよう、しっかりサポートしたいと思います。

Btc

写真2.BTC研修生の騎乗研修風景(向かって右側の騎乗者がBTC研修生)。

 

騎馬参拝に参加しました

 最後のトピックスは騎馬参拝です。騎馬参拝は明治43年、浦河町に旧農林水産省

日高種畜牧場が開設されて以来続く伝統行事で、今年107回目を迎えました。

人馬の無病息災を祈願し、馬に乗って西舎神社に御参りするという、馬産地浦河

ならではの一大イベントです。今年は過去に殆ど例のない雨天での開催となりました

が、当場の乗馬5頭も参加して人馬の安全祈願を行いました。

Photo_3

写真3.騎馬参拝。ちびっ子ライダーもそろいのハッピで参拝しました。

 

 日高育成牧場ではいつでも皆様のお越しをお待ちしています。是非育成馬の成長を

見にお越しください。

育成馬ブログ 生産編④

・強い馬づくりのための生産育成技術講座2015 

 ~移行免疫不全症に関するお問い合わせ~

 

 去る11月19および20日の両日に「強い馬づくりのための生産育成技術講座

2015」が浦河町および日高町門別で開催されました。

 

 各会場では以下の講演が行われ、浦河103名、門別206名の多くの皆様方に

ご参加いただき、盛況のうちに終了しました。

 

『分娩日の予測法 -乳汁のpH・Brix測定について-』

『子馬の飼養管理 -生後から2ヶ月齢-』

『BTC屋内坂路馬場の運動負荷について -美浦トレセン坂路馬場との比較-』

(※浦河会場のみ)

『ローソニア感染症対策』(※門別会場のみ)

 

 講演では質疑応答が活発に行われましたが、当日のみならず終了後も複数の方

から「移行免疫不全症」についてのお問い合わせをいただきましたので、回答を

含めてご紹介します。

 

1

講演会の様子(門別会場)

 

 

Q.移行免疫不全症の検査は、獣医師でなければ出来ないのでしょうか?

 

A.子馬の血中IgG濃度を測定するため、採血が必要になりますので、獣医師による

検査となります。ただし、獣医師以外でも可能な方法もありますので、ご紹介します。

 

 正確な検査ではありませんが、哺乳前後のBRIX値を比較することで、移行免疫

不全症かどうかの推定が可能です。

 

①哺乳前の初乳のBrix値を事前に測定し、出産10~12時間後のBrix値を再測定

して比較する。

 

②その数値の差が10以上であれば、子馬は十分量の初乳を摂取し、満足できる移行

疫を獲得したと推定できる。

 

③一方、Brix値の差が10未満の場合、子馬は十分量の初乳を摂取しておらず、

移行免疫不全の状態にあると推定できる。

 

例えば、哺乳前のBRIX値が25%の場合、

12時間後の値が15%以下に下がっていれば十分量の初乳を摂取したこととなり、

16%以上であれば十分量は摂取していないと推定できる。

 

2

哺乳前後のBRIX値による移行免疫不全症の推定法

 

 なお、この検査では、保存初乳を採取していないことが条件です。

 採取した場合には利用できません。

 

 また、繰り返すようですが、子馬の血中IgG濃度を正確に計測できる検査ではあり

ません。このため、少なくとも以下の場合には、出産8~12時間後における血液検査

が推奨されます。

 

・出産前に漏乳が認められた(出産時のBRIX値が低い)。

・母馬の乳の出が悪い。

・子馬が初乳を飲めていない。

・フォールリジェクト(育子拒否)。

 

参考文献:Korosue K, Murase H, Sato F, Ishimaru M, Kotoyori Y, Nambo Y. Correlation of serum IgG concentration in foals and refractometry index of the dam's pre- and post-parturient colostrums: an assessment for failure of passive transfer in foals. J Vet Med Sci. 74(11):pp1387-95. (2012)

 

Q.馬の初乳の代替品として、牛の初乳を投与しても効果はあるのか?

 

A.米国のLavoieらが行った調査では、「通常どおり母馬から初乳を摂取した子馬

6頭(対照群)」と、「牛の初乳400mlを2時間間隔で20時間後まで合計4リットルを

投与した子馬6頭(投与群)」を比較したところ、血中IgG値に有意差は認められ

なかったと報告されています。

 ただし、初乳投与後のIgGの半減期(血中濃度が半分になる期間)は、対照群では

26日間であったのに対し、投与群では9日間と約3分の1程度の期間であったことが

確認されています。また、牛の初乳中にも厩舎環境に存在する多くの病原体に対して

の抗体は含まれていますが、馬特有の病原体に対しての抗体は含まれていないこと

も念頭に置く必要があります。

 これらのことから、積極的に推奨することはできませんが、馬の初乳が不足している

際、やむを得ない場合の緊急用として、牛の初乳をストックしておいても良いかもしれ

ません。

 

参考文献:Lavoie JP, Spensley MS, Smith BP, Mihalyi Absorption of bovine colostral immunoglobulins G and M in newborn foals. J.Am J Vet Res. 1989 Sep;50(9):1598-603.

 

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育成馬ブログ 日高③

○  厳しい寒さの中で(日高)

  去る11月24日、JRA日高育成牧場のある北海道浦河町では例年より少し遅めの

初雪が観測されました。11月までは気温も少し高めで過ごしやすい日も多かった

今冬ですが、ここにきて寒さが厳しくなってきました。毎日の最低気温は氷点下に

達し、放牧地の水桶は凍りついています。寒さに呼応するように、育成馬たちの調教

メニューはどんどん強度を増していきます。

 

育成馬の近況

 JRA育成馬の近況をお伝えします。9月初旬に馴致を開始した第1群(牡23頭)は

屋内800mトラックで1周+2周の縦列調教(ハロン24-22秒程度、前馬との距離:

1馬身)を繰り返し行い、前後の馬に慣らし真っ直ぐ走る訓練を行ってきました。

11月には屋外1600m馬場での縦列調教(1周:ハロン22秒程度)も併用し、馬場

凍結のため1600m馬場が使えなくなった27日からは屋内坂路馬場でのキャンター

調教を開始しました。屋内坂路馬場で調教する日は屋内800mトラックでキャンター

2周のウォーミングアップをしてから坂路を1本駆けあがります。現在は馬場に慣らす

ことが主目的で、体力がつくのを待って強度をあげていきます。


YouTube: 屋外1600m馬場で駆歩調教を行う第1群の牡馬

 

動画1.屋外1600m馬場で駈歩調教を行う牡馬たち。

先頭からハンプトンコート14(父:バゴ)、パピュラ14(父:サマーバード)、

カネマサバレリーナ14(父:スマートファルコン)、

ゴッドビラブドミー14(父:デュランダル)、クルミ14(父:ストリートセンス)、

シルクアウローラ14(父:ケイムホーム)。

 

 また、10月初旬に馴致を開始した第2群(牝21頭)は現在、屋内800mトラックで

1周+2周の縦列調教(ハロン26-24秒程度、前馬との距離:1馬身)を繰り返し

行っている段階です。当初は落ち着きのない馬や我慢のきかない馬もいましたが、

ここにきて綺麗な隊列で安定した調教ができるようになりました。力強い走りをみせて

くれる馬も増えてきて、日々の成長を肌で感じることができます。まもなく、屋内坂路

馬場での調教を開始する予定です。


YouTube: 屋内800mトラックで駈歩調教を行う第2群の牝馬

 

動画2.屋内800mトラックで駈歩調教を行う牝馬たち。

先頭からタヒチアンメモリ14(父:フリオーソ)、

サンセットロード14(父:ロージズインメイ)、

ハローオンザヒル14(父:ゼンノロブロイ)、フェルガーナ14(父:サマーバード)、

ダノンスズラン14(父:ステイゴールド)。

 

 最後に馴致を開始した第3群(牡7頭、牝8頭)はまもなく馴致を完了できるところまで

きています。現在は屋内800mトラックで行う両手前1周ずつの縦列調教を通して、

現段階の目標と考える①前に(Go forward)、②真っ直ぐ(Go straight)

落ち着いて(Go calmly)走ることを教えています。第3群の15頭は段階的に

無理なく調教強度を増やしていき、年内に1・2群と合流することを目指しています。


YouTube: 屋内800mトラックで駈歩調教を行う第3群

 

動画3.屋内800mトラックで駈歩調教を行う第3群の馬たち。

先頭からトミケンソリッド14(牝、父:アンライバルド)、

誘導馬をおいてリスキーディール14(牡、父:シンボリクリスエス)、

シャトルシャロン14(牡、父:ヨハネスブルグ)、

クィーンマーメイド14(牡、父:トビーズコーナー)、キャリコローズ14(牡、父:パイロ)、

イフリータ14(牝、父:ケイムホーム)

 

育成馬検査を実施しました

 11月25日、26日にJRA馬事部生産育成対策室の職員が来場し、育成馬検査を

行いました。この検査は購買以降の馬体の成長具合や調教進度などを確認する

定期検査で、騎乗馴致が終わる11月下旬と調教が本格化する1月中旬の計2回

実施しています。

Photo

 この検査の主目的は現時点の馬の状態を把握することですが、育成馬と毎日

接している我々が見落としている点や「お客様が来られた時にいつでも対応できる

準備ができているか」を確認することも目的にしています。検査では「馬がよく躾け

られており美しく手入れされ、かつ人馬の一体感を感じさせる展示・引馬(リード)が

行えるか」をみるベストターンドアウト賞の審査も併せて実施しました。審査では、

これまでの騎乗馴致で培ってきた人馬の信頼関係や日頃の手入れ、何より「お客様に

見て頂く」姿勢が試されます。育成馬には「見られる」経験を積み重ねることで落ち

着いた展示ができるようにしつけ、購買関係者の皆様が来場された際に楽しんで馬を

みていただけるよう訓練しています。

  北海道はこれから本格的な冬を迎えます。日々成長していく育成馬の姿を見に、

ぜひ日高育成牧場まで足を運んでください。皆様のお越しをお待ちしております。

育成馬ブログ 生産編③「その4」

子馬の栄養管理 タンパク質④

 

 それでは、「②タンパク質過剰がDODを引き起こす原因である」については事実で

しょうか?

 

 ある調査によると、NRC飼養標準の70%、100%、130%のエネルギーおよび

タンパク質を離乳後の当歳馬に与えた場合、130%のエネルギーを与えた場合に、

最も多くの骨成長異常が認められ、130%のタンパク質を与えた場合にはほとんど、

もしくは全く異常が認められませんでした。

 一方、70%のタンパク質給与の場合には、馬体や骨の成長不良が認められたと

いうことです。

 

 この調査の他にも同様の報告があり、現在では、炭水化物の過剰摂取がDODの

リスクを高め、タンパク質についてはむしろ欠乏した場合にリスクが高まるとの理解が

一般的になっています。

 また、DODの原因としては、これら以外にもカルシウムや銅などのミネラルの欠乏、

遺伝、急成長、外傷など他のリスクファクターの存在も無視できません。

 

 例えば、タンパク質含量15%の飼料で、30%のそれと同量のタンパク質を与える

ためには、後者と比較して倍量を与えることになります。すなわち、エネルギーが倍に

なり、DODのリスクが高まります。このため、タンパク質含量30%の飼料はエネルギ

ー供給を抑制しつつ、十分量かつ良質なタンパク質を与えることができる飼料といえ

ます。もちろん、タンパク質以外にもミネラルやビタミンの必要量が摂取できる配合に

なっていることが条件です。

 

 本年12月に、JBBAから軽種馬栄養計算ソフト「SUKOYAKA」がリリースされます。

「離乳後の子馬には、どのような飼料が適しているのだろうか?」

「妊娠後期の繁殖馬に対してはどのような飼料をどのくらい与えたらよいのだろうか?」

 このような栄養や飼料に関する疑問をお持ちの方にとって、お役に立てる内容に

なっております。どうぞ、ご期待ください。

41
JBBA軽種馬栄養計算ソフト「SUKOYAKA」

 

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育成馬ブログ 生産編③「その3」

子馬の栄養管理 タンパク質③

 

 では、当場の離乳後の当歳馬(6ヶ月齢)を例に、タンパク質の摂取量を検討して

みましょう。

 

 22時間放牧時の6ヶ月齢の子馬の青草の摂取量は約16kg、タンパク質含有量は

約800gであり、この時期の要求量をほぼ充たしています。しかし、制限アミノ酸である

リジンの要求量は充たされていません(グラフ)。

               

31
青草(16kg)のみの摂取時におけるタンパク質およびリジンの充足率

 

  ここで、タンパク質含量30%の飼料1kgを与えた場合、タンパク質の充足率は

約140%、リジンのそれは約130%になり、質量ともに十分なタンパク質を与える

ことができます。


32

青草(16kg)にタンパク質含量30%の飼料1kgを与えた場合の充足率

 

 

つづく

育成馬ブログ 生産編③「その2」

子馬の栄養管理 タンパク質②

 

 それでは、与えるタンパク質の「質」、アミノ酸についてはどのように考えればよいの

でしょうか?

 

 アミノ酸はタンパク質を構成する化合物であり、このうち生体内で合成できないアミノ

酸を「必須アミノ酸」とよびます

 必須アミノ酸の摂取方法について、栄養学の教科書では「樽」に例えています。

 必須アミノ酸が樽を構成する「樽板」、摂取量が樽板の「高さ」、合成されるタンパク

質の量が樽の中に入る「水の量」になります。このため、一番低い樽板、すなわち

「制限アミノ酸(飼料中最も少ないアミノ酸)」の高さまでしか水が入らず(タンパク質

合成に利用されず)、他のアミノ酸の水面から上部は利用されない無駄なアミノ酸に

なると考えられます。

 このことから、制限アミノ酸の摂取量を考慮したタンパク質摂取が求められます。

通常、制限アミノ酸は「リジン」ですので、リジンが豊富に含まれた飼料を与えることが

推奨されます。

 

21
 アミノ酸の樽

「一番低い樽板=制限アミノ酸」の高さまでしか、水は入らない

制限アミノ酸を十分摂取することで、他のアミノ酸の無駄を防ぐ。

 

つづく

22

 

育成馬ブログ 生産編③「その1」

子馬の栄養管理 タンパク質①

 

 10月現在、離乳後のJRAホームブレッド当歳8頭は、牧草豊富な広い放牧地

(8ha)で22時間の昼夜放牧を実施しています。

 

11

青草が豊富な放牧地での22時間の昼夜放牧

 

 全頭いずれも集牧時(朝8~10時)に、バランサー型の飼料「スタム30」

(タンパク質含量30%)1kgを給餌しています。 

 

12
現在、当歳に与えているバランサー型飼料「スタム30」

 

 このような給餌方法に対して、時々、以下のような問い合わせがあります。

 

 「タンパク質含量30%の飼料を子馬に与えた場合、タンパク質過剰によって

  DOD(発育期整形外科的疾患)の発症リスクが高まるのではないか?」

 

 はたして事実でしょうか?

 

 この話を整理して考える場合、2つのポイントを考慮しなくてはなりません。

 

①タンパク質含量30%の飼料を与えると、タンパク質過剰を引き起こす。

②タンパク質過剰がDODを引き起こす原因である。

 

①については、飼料中のタンパク質含量ではなく、実際に子馬に与えるタンパク質の

量と質を考慮する必要があります。

 

軽種馬飼養標準においては、6ヶ月齢の子馬のタンパク質要求量は800g(1日当り

であり、米国においてNRC(National Research Council)が作成した飼養標準

では、概ね680~810gの範囲とされています。すなわち、タンパク質含量30%の

飼料1kgを与えたとしても、タンパク質量は300gであり要求量の半分以下にしか

なりません。

 

 22時間放牧中の当歳馬が1日に食べる放牧地の青草の量は約16kgと推定され

ます。放牧草(日高地区の平均)に含まれるタンパク質量は16kg中に約800gなの

で、タンパク質含量30%の飼料と合わせると要求量の約1.4倍の1100gのタンパク

質給与になります。

 

 育成期の若馬、競走馬および繁殖馬など様々な馬のライフステージの飼養管理に

おいて、タンパク質給与量が要求量の1.5倍を超えることは珍しくありません。それ

だけ一般的なサラブレッドの飼料中には、タンパク質が豊富に含まれているということ

です。

 

 海外の様々な指導書において、タンパク質の過剰摂取は避けるべきと言われます

が、その量について明確なガイドラインはありません。実際、国内で要求量の1.5倍

程度のタンパク質を摂取したことにより、馬の健康に悪影響を及ぼしたという報告は

なく、ホームブレッドに与えている要求量の1.4倍程度のタンパク質は過剰な量とは

いえません。

 

 以上のことから、タンパク質含量30%の飼料を過剰に与えない限りは問題ないこと

がわかります。

 

つづく

育成馬ブログ 日高②

 

○  順調に騎乗馴致を進めています(日高)

 

朝晩の気温がぐっと下がってきた日高地方。山は綺麗に紅葉して、川には鮭が遡上

しています。まもなく訪れる冬に向けて準備が進む日高育成牧場から、育成馬の

近況を報告します。

 

オータムセールでの購買

今年もJRAはオータムセールに参加し、2頭の育成馬を購買しました。同セールが

終了し、購買馬は全部で74頭(八戸市場4、セレクトセール2、セレクションセール10、

九州1歳市場1、サマーセール55、オータムセール2)になりました。

これにJRAホームブレッド7頭を含めた81頭が来年のJRAブリーズアップセールに

向けて調教されていくことになります。

 

育成馬の近況

日高育成牧場には現在、59頭のJRA育成馬が在厩しています。今年の騎乗馴致も

3群にわけて実施しており、最初に馴致を開始した第1群(牡22頭)は800m屋内

馬場で速歩・駈歩ができるようになりました。第2群(牝22頭)は10月5日から騎乗

馴致を開始し、ラウンドペンでのランジングを行っています。第3群は昼夜放牧を

行い馬体の健全な発育を促しつつ、人馬の信頼関係構築に励んでいる段階です。

概ね順調に騎乗馴致を終えた第1群ですが、馴致を進める際の馬の反応はさまざま

です。引き馬から騎乗までの行程を全く問題なくクリアできる優等生は殆どおらず、

鞍付け前に行う「ローラー」と呼ばれる馴致道具を嫌いなかなか受け入れられない

馬やお尻にレーンがあたるのを嫌う馬など、馴致中の反応は馬ごとに違います。

各々がもつ苦手な項目を解決するため、ときには少し前のステップに戻り、ときには

他馬の倍以上の時間をかけて進めてきました。若馬の馴致では、馬にわかりやすく

人馬ともに安全に実施することが最も大切だと思います。それぞれの馬の理解度を

見極めて、馬にあわせて慌てずに馴致・調教を進めていきたいと思います。

                         

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写真1.800m屋内馬場で速歩調教を行う第1群の牡馬。左端の誘導馬に続くダームドゥラック14(牡、父:ロージズインメイ)、ウエスティンタイム14(牡、父:スズカマンボ)、ウルトラペガサス14(牡、父:ルーラーシップ)、グラッドリー14(牡、父:サウスヴィグラス)。

 

BTC研修生の馴致実習

日高育成牧場では例年BTC(軽種馬育成調教センター)の育成調教技術研修生の

馴致実習を受け入れており、今年も33期生17名が研修しています。研修生には

入学するまで馬に接したことのなかった生徒も多く、若馬を取扱うのはJRAでの研修

がはじめてです。育成馬と日々触れ合い、実際に騎乗馴致を行うことで多くのことを

 

 


YouTube: 研修生の馴致訓練

 

動画1.騎乗馴致を実践するBTC研修生。3週間前には若馬と触れ合ったことも

なかった研修生も、JRA育成馬を使って多くの技術を身につけています。

 

●「元JRA育成馬」の近況

最後に余談ですが、JRAブリーズアップセールで売却することのできなかった育成馬

の近況をお伝えします。日高育成牧場にはセイウンワンダー号やモンストール号など

活躍した当場出身の育成馬と一緒に、ブリーズアップセール未売却となった元育成馬

たちが繁殖牝馬や乗馬として繋養されています。

先日、モンストール号など乗馬として訓練してきた元JRA育成馬が一般のお客様向け

試乗会にデビューできるかの確認を行いました。試乗したのはJRA職員の家族で、

子供たちが騎乗したときの落ち着きなどを確認したところ問題なく、「確認試験」は

終了しました。バスツアーなどの乗馬試乗会で近々「デビュー」することができそう

です。

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写真2.「元JRA育成馬」達による試乗会練習。競走馬として活躍することはできませんでしたが、馬事普及という分野で長く活躍してほしいと思います。