育成馬ブログ 日高⑦

ブリーズアップセールが近付いてきました!(日高)

 

例年と比較にならないほど暖かい冬となった日高育成牧場では、

全国各地に大きく遅れることなく待望の春を迎えました。

 

日中の気温が10℃を上回る日も増え、

道路脇の積雪もわずかに残るだけとなっています。

 

馬場凍結のため使用できなくなっていた屋外1600mダートトラックも

例年より早い3月28日から使えることになりました。

春の訪れを待っていた育成馬たちは、これからぐんと良くなっていきます。

 

 

育成馬の調教状況

 

まずはJRA育成馬の調教状況についてお伝えします。

 

1週間の調教メニューは前回の同ブログから変わらず、

現在も毎週2回の坂路調教を実施しています。

 

2月末までは、

縦列で坂路2本(3ハロン54~51秒程度)を駈けあがる調教を繰り返して、

基礎体力を育みつつ綺麗なフォームで走れるよう努めてきました。

 

しかし現在は、殆どの馬に十分な体力がついてきたため、

坂路調教の2本目を「併走」にすることで

「走りたい」「併走馬に負けたくない」気持ちを膨らませる調教を行っています。

 

 動画1.屋内1000m坂路コースでの調教 

併走馬同士をしっかり近づけて走行できるよう練習しています。

1組目:向かって左がリスキーディール14(父:シンボリクリスエス、BU番号48番)、

右がノーブルビューティ14(父:タイキシャトル、BU番号19番)。

2組目:向かって左がグラッドリー14(父:サウスヴィグラス、BU番号20番)、

右がコロナガール14(父:サマーバード、BU番号46番)。

3組目:向かって左がスターリースカイ14(父:ケイムホーム、BU番号45番)、

右がキングズラヴ14(父:サマーバード、BU番号18番)。

 

 

 

今後は屋外1600mダートトラックが使えるようになる3月28日まで

坂路調教を継続し、それ以降は1600m馬場での調教にシフトしていきます。

  

 

手術実施馬や跛行馬のリハビリテーション

 

アスリートである育成馬の調教を進めると怪我や故障がついて回ります。

跛行や疾病の程度により休養期間や治療内容は異なりますが、

重度の跛行や手術を要する疾病に罹患すると休養が長引くため、

その後のリハビリは重要です。

 

現在、当場ではこのような馬のリハビリテーションに

トレッドミル運動を併用して安全な早期回復を目指しています。

トレッドミルは馬用のルームランナーで、運動負荷量を調節することができるうえに

人が騎乗しないため馬の下肢部にかかる負担を大幅に軽減できます。

 

週に3回、1回の運動量は速歩1~1.5km、駈歩1~2km程度で

約1カ月実施します。

まだ一部の長期休養馬に実施した段階ではありますが、

確かな手ごたえを感じています。

 


 

動画2.トレッドミルを用いたリハビリテーション 

先日手術した育成馬のリハビリにトレッドミルを用いています。

馬の様子を観察しながら徐々に運動負荷を増やし、

安全なリハビリを行いたいと考えています。

 

ブリーズアップセールに向けた準備

 

約1カ月後に迫ったブリーズアップセールに向け、着々と準備が進んでいます。

 

先日、馬運車の積込みに慣らすための「馬運車馴致」を実施しました。

写真にある馬積み所に慣らして当場所有の馬運車に乗せておくことで、

輸送当日の出発遅延を防止し、

輸送でかかるストレスを少しでも軽減することが主な目的です。

 

今年の育成馬たちは皆おとなしく、問題ある馬はいませんでした。

出発当日、スムーズに積み込めることを祈っています。

      

Photo

         

今年のJRAブリーズアップセールは中山競馬場で4月26日(火)に開催します。

育成馬と向きあえる残り期間は約1カ月。

残りわずかな時間を有効に使い、後悔しないように過ごしていきたいと思います。

育成馬ブログ 生産編⑦「その3」

子馬の保定 その3 タオルパッティングを利用したレントゲン馴致

 

馬の性格は様々で、生まれた時から落ち着いている子馬もいる一方で、

怖がりで敏感な子馬がいることも事実です。

例えば、後者に対してX線検査をする際、

X線のカセットを最初からいきなり後肢に触れさせた場合には、

カセットもしくは保持者の手を子馬に蹴られるのがオチです。

  

この際、毎日の手入れの時間の「タオルパッティング」をお薦めします。

最初はタオルが後肢、股間、ヒバラなどに触れた時に

怖がって蹴り上げたり、動き回って逃げまわったりします。

 

しかし、数日間継続して実施することで、

「タオルが馬に対して危害を加える存在ではないこと」を認識して、

落ち着いて立っていることができるようになります。

 

これができたら、カセットに似た硬い板などを

後肢や股間などの検査で触れる部分に当てて慣らします。

  

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タオルパッティングを利用したX線馴致

 


YouTube: タオルパッティングを利用したX線馴致

 

  

この場合に重要なことは、人間がリラックスしていることです。

人間が落ち着くことにより、

馬はタオルが体に触れることが恐怖ではないことを理解します。

 

一方、人間がイライラもしくは緊張しながら実施すると、

タオルが触れることによる恐怖心を植え付けることになります。

 

また、このような馴致は短期間にできるものではないことも認識する必要があります。

毎日の手入れの中で少しずつ人馬の信頼関係を積み上げていくものです。

  

 

There is nothing so good for the inside of a man

                                 as the outside of a horse.

イギリスの政治家John Lubbock 「人間の成長にとって、馬ほど優れたものはない」

  

 

子馬を保定するうえで、道具や鎮静剤を用いた方法、

他馬を利用した方法を選択せざるをえない場面もあると思います。

しかし、それらの手法に頼ることなく、

人馬が1対1で向き合ったうえで保定することは、

人間にとっては、馬の取り扱い技術を向上させる貴重な機会になることでしょう。

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。

当ブログに対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。

皆様からいただきましたご意見は、

JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

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育成馬ブログ 生産編⑦「その2」

子馬の保定 その2 日常の取り扱いにおける「リーダーシップ」と「オン・オフ」

 

「リーダーシップ」と「オン・オフ」の方法を

毎日の取り扱いで継続的に用いることにより、

保定が必要な場面で適切な制御が可能になります。

  

毎日の取り扱いにおける利用例として、

「集放牧の際に他の馬と間隔を空けて引き馬をする」

「馬体検査の際に、1頭のみで駐立させる」などがあげられます。

 

特に引き馬は子馬の躾に極めて有効です。

なぜなら、馬の群れの中でのリーダーは、

他馬のスピードをコントロールすると言われているため、

引き馬でのスピードコントロールは、

引き手をリーダーとして認識させる絶好の機会になるからです。

このため、前の馬をリーダーと認識するような前後を接近させた引き馬ではなく、

前の馬との間隔を空けて、引き手をリーダーと認識するような引き馬が推奨されます。

                

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集団生活を基本とする馬は、他の馬の存在に安心感を得る動物です。

しかし、子馬をコントロールする際に、

他馬と一緒にいることで落ち着かせる方法を選択することもまた、

道具や鎮静剤を用いた方法と同様、

人馬の信頼関係構築のための貴重な機会を失うことになります。

 

このため、「馬体検査の際に、1頭のみで駐立させる」など、

あえて人間と馬が1対1で向き合う機会を数多く設けたうえで、

確固としたリーダーシップ、

適切なオン・オフを用いながら引き馬や駐立を実施することで、

人間に対する安心感や信頼感を醸成することができるのです。

 

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人馬が1対1で向き合うことは、信頼関係構築の貴重な機会

 

 

(つづく)

育成馬ブログ 生産編⑦「その1」

子馬の保定 その1

 

子馬を取り扱ううえで、

「保定」すなわち「馬の動きを制限すること」が求められるケースは少なくありません

 

日高育成牧場では、日常の手入れや治療はもちろんのこと、

毎月実施している馬体検査、X線検査、内視鏡検査、写真撮影の際に、

子馬を適切に保定することが要求されます。

 

X X線検査や内視鏡検査では、適切な保定が要求される。

 

 

保定には目的に合わせた様々な方法があります。

鼻捻子など制御力の強いもの、枠馬の利用、

または、鎮静剤の投与も保定の1つと言えます。

  

しかし、当場の子馬に対しては、

鼻捻子による強い保定、枠場の利用、鎮静剤の投与は

可能な限り実施しないよう努めています。

 

なぜならば、子馬に対して何らかの処置をする際に、

最初から上記の道具や鎮静剤を用いた方法を選択することは、

「子馬に対する躾の貴重な機会を失うこと」になるからです。

  

では、どのように子馬を保定するのかというと、

「リーダーシップ」と「オン・オフ」を利用します。

 

「リーダーシップ」は文字通り、

人間が馬に対して指示を与えて動きをコントロールすることです。

 

「オン・オフ」については、

「オン」は馬への指示を意味しており、

馬が理解した段階で「オフ」、すなわち何もせずに馬へ安心感を与えることで、

人間の指示を受け入れさせる方法です。

 

これに反して、

馬が理解しているにもかかわらず、「オン」の指示を継続的に与えると、

馬が混乱して人間の指示を受け入れなくなります。

 

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正しく駐立できたら、「オフ」の雰囲気で馬に安心感を与える。

 

(つづく)

育成馬ブログ 宮崎⑦

○強調教後の乳酸値測定(宮崎)

 

3月に入り、まだまだ朝は肌寒く感じる日もありますが、

日中は春を感じる日が多くなってきた宮崎です。

 

さて、3月は卒業式など別れの季節というイメージがありますが、

JRAでも人事異動が行われ、スタッフの入れ替えが行われました。

宮崎から北海道に旅立つ者、一方、北海道から宮崎に赴任する者もおり、

それぞれ新しい職場での活躍が期待されます。

 

新しいメンバーも加わりました宮崎育成牧場ですが、

これまで同様に、スタッフ一丸となって育成馬の管理に励んでいきたいと思います。

 

季節の変化に敏感な育成馬達は毛艶に輝きが増し、

調教中の動きも俊敏さが目立つようになってきており、

我々以上に春の訪れを喜んでいるかのように映ります。

 

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写真① 調教後、牡はサンシャインパドック(左)、牝は放牧地(右)に放牧しています。

牝の放牧地では青草が生い茂ってきており、春を感じさせます。

 

 

育成馬の近況

 

さて、宮崎育成牧場のJRA育成馬22頭は、

4月26日(火)にJRA中山競馬場で開催されるブリーズアップセールに向けて

調教メニューをこなしています。

 

500mトラック馬場では、速歩2周の後、直線はキャンター、

コーナーは速歩という調教を左右両手前で2周ずつ実施しています。

 

500mトラック馬場での調教は、

ウォーミングアップとしての目的があることはもちろん、

スピード調教を繰り返していくと、

ハミにかかる傾向が強くなるのを改善する目的もあるため、

ハミを必要以上に取らずに、

馬自身のバランスで走行させることを主眼に置いて実施しています。

 

一方、調教のベースとなる1600m馬場では、

4頭単位の1列縦隊で

ハロン22~20秒のイーブンペースでの

2400~3000mのステディキャンターを基本調教としています。

 

週1~2回のスピード調教では、

1200mを2本走行させるインターバルトレーニングを実施し、

2本目に3ハロンを45~48秒(ハロン15~16秒)程度で走行しています。

 


YouTube: 【動画】15 16育成馬日誌宮崎⑦

動画 2月下旬の調教動画。

   

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写真② 週1回実施している牡馬の強調教時の様子。

内:上場番号13番フラワーパフュームの14(牡 父:シンボリクリスエス)、

外:上場番号62番エイシンブランディの14(牡 父:ヴァーミリアン)。

 

強調教後の乳酸値測定

 

ここからは、宮崎育成牧場で実施している

「強調教後の乳酸値測定」について触れてみたいと思います。

 

乳酸値は運動強度(速度、距離あるいは運動持続時間など)を上げていくと、

上昇していきます。

これは

「速筋線維が糖を分解することによって乳酸を生成するためであり、

またアドレナリンのような糖利用を高めるホルモンが放出されるため」

といわれています。

 

一方、乳酸値は最初から直線的に上昇するのではなく、

ある運動強度を超えた時点(LT:乳酸性作業閾値)から急速に上昇していきます。

これは

「運動時の酸素需要量と供給量のバランスが維持されていれば

乳酸は蓄積されず、需要供給のバランスが崩れると上昇していく」

という性質によるものです。

 

調教が進むと同じ運動強度でも、乳酸値が上昇しなくなります。

この理由は、有酸素運動能が高まり、

同じ運動強度でも糖を利用する無酸素性エネルギーを利用しないで

走行できるようになるためです。

 

「乳酸」という言葉から「疲労物質」という言葉を連想する方が多いと思われます。

つまり、単純に「乳酸値が高い」=「過負荷」と結びつけてしまう傾向があります。

 

この考え方は正しいと思われる反面、

アスリートにおいては、乳酸を多く出せるということは、

それだけ筋肉が糖を利用して、エネルギーを作り出す能力が高い、

つまり絶対的なスピードに優れているという見方もあるようです。

 

過去の育成馬の乳酸値と競走成績を照らし合わせてみると、

この考え方は競走馬にも当てはまるように思われます。

つまり、育成期においては、まず乳酸を多く産生できる負荷をかけること、

すなわち、筋肉に糖を最大限に利用させることが

トレーニングの第一歩であると考えられます。

 

その後、さらに調教が進むと、同じ負荷をかけた場合には、

長距離競走に適した馬では、乳酸値の上昇は抑えられるのに対して、

短距離競走に適した馬では、乳酸値が上昇しやすい傾向があります。

 

これらのことは、

長距離適性の高い馬は、蓄積した乳酸を再びエネルギーとして利用できる

「乳酸処理能」

を高めることができる能力がある一方で、

短距離適性の高い馬は乳酸が溜まった状態でもさらに運動を継続できる

「耐乳酸能」

を高めることができる能力があると考えられるのではないかと思われます。

 

乳酸値の測定など、科学的指標に頼ることによって客観性は高まる一方で、

データへの興味が高まることによって

機械的に調教メニューを立ててしまう状況に陥りやすく、

馬の状態を省みない状況を生み出す過ちを犯しがちになります。

そのため、常に走行時や走行後の息遣いのみならず、

特に牝馬ではメンタル面を確認しながら、

各馬に応じた負荷をかけるよう慎重に検討しております。

 

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写真③ 乳酸値測定に使用している簡易キッド(ラクテート・プロ2:アークレイ社製)。

本体価格は約6万円、1回の測定にかかる経費は約220円です。

育成馬ブログ 日高⑥

○  春近し!(日高)

 

バレンタインデーの2月14日、関東地方をはじめ日本各地で春一番が吹きました。

 

先日発表された3カ月予報でも3月からの気温は平年よりも高い予報となっており、

3月に入ると一気に春の気候に切り替わりそうです。

 

JRA日高育成牧場のある浦河町でも気温が上昇する日が増え、

近隣中学校の校庭に作られたスケートリンクの氷も解けてしまいました。

待ちに待った春は、すぐそこまで来ています。

 

 

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写真1. 中学校の校庭に水をまいて作ったスケートリンク。

学校の授業でも活躍したリンクですが現在は氷が解けて滑れなくなってしまいました。

  

 

育成馬の調教状況

 

まずはJRA育成馬の調教状況についてお伝えします。

調教メニューは前回の同ブログから変わっておらず、

毎週2回(火曜日・金曜日)の坂路調教を実施しています。

 

坂路調教を行う日はまず、

屋内800mトラックでハッキング(キャンター2周)を行ってから、

坂路2本(縦列、3ハロン54~51秒程度)を駆けあがっています。

 

現時点の坂路調教では過剰にスピードを求めず、きれいな隊列のなかで

正しい走行フォームで走ることに重点を置いています。

 

とはいえ3ハロン51秒程度の登坂では息遣いや馬の表情、

さらには体力測定のために行っている乳酸値測定や心拍数の検査で

「余裕がある」と感じられる馬が増えてきたことから、

スピード調教に移行しても耐えられるだけの体力が備わってきたと考えています。

 

3月中旬を目処に坂路での併走調教を開始し、

徐々に馬の「走りたい気持ち」を膨らませる調教にシフトしていきます。

 


YouTube: 屋内1000m坂路馬場での調教風景

動画1.屋内1000m坂路コースでの調教。

先頭を走るのはイフリータ14(父:ケイムホーム)。

2本走行した後にも、全馬余裕たっぷりでした。

 

  

競馬学校騎手課程生徒の研修を行いました

 

先日、競馬学校から騎手課程第33期生が来場して生産地研修を実施しました。

 

この研修では生産牧場やスタリオンの見学なども行いますが、

メインは普段騎乗することのない若馬(JRA育成馬)の調教騎乗です。

 

彼らは競馬学校での基礎課程を修了してトレセンでの実践課程に進んでおり、

馬産地日高で毎年行われるこの研修で

若馬の騎乗方法や競走馬との違いなどを勉強します。

 

3日間の研修で10数頭の育成馬に騎乗し、

多くのことを感じてもらえたのではないかと思っています。

 

研修を通して生産・育成の現場で馬に携わる人々から直接話を聞くことで、

将来レースで騎乗するサラブレッドが背負っている

“様々な人の思い”を感じてもらうことができたと思います。

 

研修で学んだことを活かし、

競馬ファンの皆様や牧場関係者に愛される立派な騎手に育ってほしいです。

 


YouTube: 屋内800mトラックで育成馬に騎乗する騎手課程生徒

動画2.屋内800mトラックで育成馬に騎乗する騎手課程生徒(赤白の染め分け帽)。

前列左からフラワーロック14(父:キングズベスト)

サンセットロード14(父:ロージズインメイ)

後列左からタヒチアンメモリ14(父:フリオーソ)

ダノンスズラン14(父:ステイゴールド)

ナイキトライアンフ14(父:アルデバラン)

   

春が近づくにつれ、育成馬達もぐんと成長して良くなってくるこの季節。

日高育成牧場では購買関係者や生産牧場の皆様のご来場をお待ちしております。

是非お気軽に当牧場へお越しください!

育成馬ブログ 生産編⑥

●馬鼻肺炎の流産が多発しています!!

 

軽種馬防疫協議会の報告によると、

日高地方において馬鼻肺炎ウイルス(以下EHV-1)に起因した流産が

12 戸29 症例(2 月12 日現在)発生しており、

過去最高の流産頭数を示した2013-14 年シーズンに並ぶ発生頭数となっています。

 

特に同一牧場で複数が流産する「続発例」が多く見られ、

これも2013-14 年と同様の特徴を示しているようです。

 

http://keibokyo.com/wp-content/uploads/2016/02/16

軽防協ニュース号外【馬鼻肺炎】.pdf

  

1ehv

EHV-1ウイルスは、妊娠末期の流産および生後直死を引き起こす。

  

馬鼻肺炎の流産を発症させるEHV-1ウイルスは、

馬に一度感染すると、その体内に一生潜伏し、潜伏ウイルス保有馬になります。

 

そして何らかのタイミングで突然再活性化し、妊娠馬であれば流産を引き起こします。

また、再活性化した馬は感染源となり、ウイルスを周囲の馬に拡散します。

 

一度感染すると一生保有すること、潜伏したウイルスを死滅させる治療法がないこと

などの理由から、EHV-1ウイルスは撲滅困難なことで知られています。

 

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予防措置として、

 

「予防接種」「妊娠馬の隔離」「妊娠馬のストレスの軽減」「消毒」

 

などがあげられますが、

上記のようなウイルス特性から推察するに、

パーフェクトに予防することもやはり困難です。

 

このため、発生した場合を想定した「続発防止措置」が、

予防策と同等かそれ以上に重要といえます。

  

 

●流産が発生したら!!2つのT

 

EHV-1による流産は、

妊娠9ヶ月、時期としては2~3月に多発することが知られています。

 

このため、特にこの時期に流産もしくは生後1~2日後に子馬が死亡した場合には、

EHV-1感染を想定した「続発防止措置」が必要となります。

 

なお、流産がEHV-1によるものかどうかは、

家畜保健衛生所で検査を受けなければ確認することができませんので、

検査結果が判明するまでは、EHV-1感染に対する措置を講ずる必要があります。

 

続発防止措置には、2つのT、「徹底消毒」と「単独隔離」が重要となります。

 

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●「徹底消毒」

 

流産を発見したら、徹底的に消毒しましょう。 

流産胎子、羊水、胎盤には多量のウイルスが含まれています。

 

また、母馬からも多くのウイルスが排出されます。

このため、胎子や胎盤はもちろんのこと、寝藁や馬房壁、

母馬の馬体も消毒液を用いて消毒します。

 

この場合には、金属腐食性がなく、生体にも比較的安全とされる

コマやクリアキルなどの逆性せっけんの使用が推奨されます。

 

また、低温では消毒液の効果が低下するため、

温かいお湯で希釈した消毒液を大量に用いて徹底的に消毒します。

  

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「徹底消毒」胎子、胎盤、寝藁、馬房壁、母馬の馬体を消毒

  

 

なお、消毒後の胎子は、液漏れしないように密封したビニール袋等に入れて、

最寄りの家畜保健衛生所に搬入し検査を受けます。

また、消毒後の寝藁は焼却処理することが推奨されます。

 

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消毒後の胎子は密封したビニール袋に入れて家畜保健衛生所へ搬入する。

寝藁は焼却する。

 

 

 

●「単独隔離」

 

流産をおこした母馬は、ウイルスの感染源になるため、

他の妊娠馬への継続発生を防止するために、

牧場内の他の厩舎へ隔離する必要があります。

 

この際、他の馬がいる厩舎に隔離した場合、

それらに感染し、牧場全体の被害を拡大させる可能性がありますので、

出来るだけ単独隔離が可能な厩舎への移動が推奨されます。

 

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流産した母馬は、単独隔離する。

  

  

また、流産発生に備えて、消毒薬やバケツ・じょうろなどの必要品の準備に加えて、

事前に母馬の隔離場所などを決めるなどの行動計画を作成し、

厩舎スタッフで共有することも重要な続発防止措置であるといえます。

  

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。

当ブログに対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。

皆様からいただきましたご意見は、

JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

育成馬ブログ 日高⑤

○  育成馬の体力測定(日高)

 

 前回お伝えしたとおり、暖冬の影響で日高育成牧場の育成馬59頭は

比較的過ごしやすい日々を送っています。

 朝夕の気温は氷点下10度を下回るものの、降雪があっても昼間に気温が

あがるため根雪にならずに溶けてしまいます。

 坂路馬場までのアクセス路確保に心配することのない恵まれた環境の中、

育成馬達の心身を鍛錬する日々が続いています。

  

育成馬の調教状況

 

 まずはJRA育成馬の調教状況についてお伝えします。日高では育成馬59頭を

出生時期や成長度合い、馬格や血統等を参考に3群にわけて騎乗馴致を開始し、

群ごとに運動メニューを作成して調教を進めてきました。しかし1月中旬には

最後に馴致を開始した3群の馬達にも基礎体力がつき、同じ調教メニューが

こなせるようになったため、全馬が同じ調教メニューをこなしています。

 現在は屋内800mトラックにおいて縦列のキャンター(1周:ハロン22秒程度)を

行った後、手前を変えて2or3列縦隊でのキャンター(2周:ハロン20秒程度)を行う

メニューをベースにしています。強い負荷を課す坂路調教は毎週火曜日・金曜日に

実施しており、屋内800mトラックでハッキング(キャンター2周)を行ってから坂路2本

(縦列、3ハロン54秒程度)を駆けあがります。

 体力のついた若馬は坂路で速く走りたがりますが、今はあえてスピードを求めず、

きれいな隊列で距離を詰め、正しい走行フォームで走ることに主眼を置いています。

全身を使って後躯をきちんと踏みこませた走りを教えることが現時点の課題だと考え

ています。

 また、休み明けの月曜日と坂路翌日にあたる水曜日・土曜日には800m屋内

トラックで「リラックス」させることに主眼を置いた調教を、木曜日にはスタミナ強化を

目指して普段より少し長い距離を乗る調教を行っています。

 このように1週間の調教メニューをパターン化することで、育成馬に「オン」と「オフ」を

理解させ、日々の調教にメリハリをつけられるように心がけています。

 

 


YouTube: 屋内1000m坂路コースでの調教風景

動画1.屋内1000m坂路コースでの調教 

先頭からグレインラインの14(父:エンパイアメーカー)、

シルクハリウッドの14(父:タニノギムレット)、

クイーンマーメイドの14(父:トビーズコーナー)

  

 

育成馬の体力測定

 

 現在、育成馬の体力測定として毎週金曜日の坂路調教後に『乳酸値測定』を

行っています。これは坂路調教直後に採血を行い、血液中の乳酸値を測定して

馬個別のトレーニング効果を判断するものです。

 調教後の息遣いや騎乗者の感触などの感覚的なデータと乳酸値という科学的

データをあわせることで、各馬の現在の状態を判断しています。

 これと別に行っている体力測定に「V200値測定」があり、これは群全体のトレーニン

グ効果を見る検査として利用しています。「V200値」は心拍数が200拍/分に達した

時の走行速度を意味しており、競走馬でもこのV200値やVHRmax(最大心拍数に

達したときの走行速度)を測定して体力・持久力評価に用いています。

 日高育成牧場では17年前から2月と4月にV200値の測定を行っています。

毎年同時期に同じ馬場で測定するこのデータは、その世代の調教効果を過去と

比較する際に有用です。

 乳酸値測定は馬個別の体力変化を調べるために、V200値測定は“調教群”として

トレーニング効果が期待どおり得られているか判断するために使っています。

 

V200_2                       

写真1.V200測定を行う育成馬。最後の直線はハロン17秒で駈け抜けます。

 

 

 今年は2月3日に牡(24頭)、2月4日に牝(23頭)のV200値測定を実施しました。

全測定馬の平均値は631.7 m/min(牡平均:629.8、牝平均:633.7)であり、

今年の群は過去10年の2月平均のなかで最も高い値を示しました。

 このことから、現時点では調教負荷が適切にかかり、有酸素能が高められていると

考えられます。次回の検査は4月に行う予定なので、結果が出たら同ブログ内で

報告しようと思います。

 

  

 

 

セリ名簿用写真撮影を始めました

 

 4月26日に開催されるJRAブリーズアップセールに向けた準備を少しずつ始めて

います。その1つとして、例年より半月ほど早い2月初旬から写真撮影も開始しまし

た。これは今年のセリ名簿にはブラックタイプに加え、直近の育成馬写真も掲載する

ことが決まっているためです。撮影開始から2分とかからずに終わる馬もいれば、

いつまでも落ち着かず時間のかかる馬もいますが、現在のところ撮影は順調に

進んでいます。

 

Photo_2

写真2.写真撮影を行うエブリシング14(牝、父:サマーバード、BU番号:50)。

  

 毎年のことですが、育成馬の写真撮影を始めるとセールが近づいてきたと感じます。

我々JRA職員が育成馬に手をかけられる時間はセールまでの残りわずかな時間で

す。この限られた時間を有効に使い、競走馬としてデビューしてから後悔しないよう、

スタッフ一丸となって日々の管理にあたろうと思います。

育成馬ブログ 生産編⑤「その2」

・SUKOYAKA馬体

 SUKOYAKA馬体は、

子馬や繁殖牝馬の個体情報を記録し、管理するためのソフトです。

 定期的に測定した馬体重を入力すると、自動的にグラフ化してくれます。

また、子馬については、標準曲線と比較することもできます。

 

Photo_4

SUKOYAKA馬体 

測定体重の入力により、標準曲線と比較したグラフを作成することができる。

 

 標準曲線は、日高管内の30牧場の約2,400頭の子馬の馬体重データ4万点を

別・生まれ月ごとに分けた平均値をもとに作成したものです。

 

 この標準曲線と登録馬のデータを比較することで、

子馬が順調に成長しているかうかを確認することができます。

 

 ただし、「標準曲線はあくまで目安である」ということを念頭に置いて利用して下さい。

 

すなわち、

標準曲線を「上回ったら、飼料を減らす」、「下回ったら、飼料を増やす」

など機械的に利用するのではなく、

あくまで、実際の馬を観察したうえで、

BCS、体高、胸囲、管囲、疾病の有無、放牧草の状態などの情報と併せて

飼養管理に活用するとが合理的です。

 

 

1標準曲線との比較は馬の成長把握の1つの材料

 

 また、子馬および繁殖牝馬の様々なデータ蓄積は、生産牧場における

適切な飼養管理、もしくは管理方法の改善に大きく寄与します。

 

 ビジネスの世界で使われているPDCAサイクル、

つまり  Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)

4段階を繰り返すことにより業務を継続的に改善する手法は、

生産牧場でも活用することができます。

 

PdcaSUKOYAKAを活用した牧場におけるPDCAサイクル

  

 この場合、正しくCheck(評価)するためには、「事実の正しい認識」が重要です。

つまり、「曖昧な主観的感覚」ではなく、「客観的なデータ」の検証が必要になります。

 SUKOYAKA馬体は、馬体重だけではなく、

体高などの測尺値やBCS、出産、病気、離乳などの様々なイベント、

給与飼料や病名などの必要に応じたコメントを入力し、

データとして蓄積することができます。

 

Photo_5馬体重以外にも、測尺値やBCS、必要に応じたコメントの入力が可能

 

 

Photo_6

イベントやコメントなどはグラフにも反映される。

 

 これらの蓄積データを活用することにより、

過去に実施した飼養管理方法の評価「振り返り」が可能となり、

適切な改善へとつながります。

    

     

「振り返り」の具体例としては、

 

「昨年の世代と比較して、今年の1歳馬は骨疾患が多い。

昨年と今年の馬体成長や BCSに違いはあるだろうか?」

 

「今年の1歳馬は冬期のBCS保持が困難だった。

離乳期の馬体重やBCSは 問題なかっただろうか?」

 

「今年は繁殖牝馬の受胎成績が良くなかった。

成績が良かった昨年の馬体重や BCSと比較してみよう」

 

などがあげられます。

 

 このようなデータを活用した評価をすることで、

具体的な改善策が浮かび易くなりす。

また、栄養指導者などの第三者に相談する場合でも、

過去の蓄積データを示すことで、より適切な解決策の発見につながります。

 

是非、軽種馬牧場管理ソフト「SUKOYAKA」をご活用ください!!

 

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育成馬ブログ 生産編⑤「その1」

・栄養管理・馬体情報管理ソフト「SUKOYAKA」がリリースされました!

 

JBBAから軽種馬牧場管理ソフト「SUKOYAKA」がリリースされました。

SUKOYAKAは、軽種馬の栄養管理と馬体情報管理をサポートするソフトで、

JBBA日本軽種馬協会のウエブサイトからダウンロード(無料)できます。

(こちらからダウンロードできますhttp://jbba.jp/assist/sukoyaka/index.html

 

 当ソフトは、「SUKOYAKA栄養」と「SUKOYAKA馬体」の二つで構成されています。

 

Jbba

JBBA日本軽種馬協会のウエブサイトから、ソフトをダウンロード

 

 

・SUKOYAKA栄養

SUKOYAKA栄養は、各馬のステージにあった養分要求量を計算し、

現在与えている飼料の充足率を確認することができるソフトです。

 

簡単に言うと、

子馬であれば

「今与えているエサもしくは新たに導入しようとしているエサを与えることによって、

 病気にならずに適切な成長ができるか」

妊娠馬であれば、

「母体も健康で、健康な子馬を出産することができるかどうか」

「それらのエサをどのくらい与えればよいのか」

これらを判断するうえでの目安を提示してくれるものです。

 

Sukoyaka

SUKOYAKA栄養

 

では、具体的な飼料設計の例を見ていきましょう。

 

11_2

ここでは22時間放牧の昼夜放牧をしている1歳馬(9ヶ月齢 馬体重350kg)の

飼料を考えてみます。

 

この時期、北海道では積雪があるため、

放牧草からの栄養摂取は考慮しないこととします。

(実際には積雪量によっては雪の下にある青草を食べますが)

 

まず、エンバク(カナダ産)とルーサン乾草で設計してみます。

 

3kg5kg

この場合、SUKOYAKA栄養で計算すると、

DE(エネルギー)とCP(タンパク質)は充足していることが確認できます(図1)。

 

Decp 

DE(エネルギー)とCP(タンパク質)の充足率(図1)

 

 一方、銅や亜鉛など、欠乏症により子馬の骨軟骨症(成長過程における

軟骨の骨化不良により引き起こされる骨端炎、OCD、ボーンシストなどの総称)が

引き起こされるミネラル類については、充足率が14~15%であり、

明らかに不足していることが分かります(図2)。

 

2

銅や亜鉛などミネラルの充足率(図2)

 

では以下のようにエンバクの一部をバランサータイプの飼料に置き換えてみましょう。

 

Photo_2

エンバク3kgを2kgに減らし、代わりにバランサータイプ飼料1kgを与えます。

 

これにより、濃厚飼料を増やすことなく、

銅や亜鉛などのミネラルも充足することができました(図3)。

 

Photo_3

 バランサータイプの飼料を利用した場合の充足率(図3)

 

 ただし、エネルギー、タンパク質、ミネラルおよびビタミンの充足率が

すべて100%以上であれば良いかといえば、決してそうではなく、

あくまで計算上の目安でしかありません。

 

 子馬の馬体成長や疾病発症に影響を及ぼす要因としては、

飼料から摂取する栄養以外に、遺伝や環境(気候など)なども無視できません。

 あくまで算出された値を目安として、個体ごとの健康状態や発育の程度、

疾病の有無などを把握しながらの飼料調整が必要となります。

 

 このため、定期的な馬体重や体高などの測定、

BCSや疾患の有無を確認するための馬体検査などの実施が推奨されます。

 

Bcs

 飼料設計には馬体重やBCSの測定による成長度合いの把握が必要

 

 これらの体重測定や馬体検査で得られたデータは、

その都度の飼料設計に利用できるだけではなく、

継続的に複数年(複数世代)のデータを蓄積していくことで、

飼養管理方法の改善にもつなげることができます。

これをサポートするツールが「SUKOYAKA馬体」です。

 

つづく