育成馬ブログ 生産編③「その3」

子馬の栄養管理 タンパク質③

 

 では、当場の離乳後の当歳馬(6ヶ月齢)を例に、タンパク質の摂取量を検討して

みましょう。

 

 22時間放牧時の6ヶ月齢の子馬の青草の摂取量は約16kg、タンパク質含有量は

約800gであり、この時期の要求量をほぼ充たしています。しかし、制限アミノ酸である

リジンの要求量は充たされていません(グラフ)。

               

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青草(16kg)のみの摂取時におけるタンパク質およびリジンの充足率

 

  ここで、タンパク質含量30%の飼料1kgを与えた場合、タンパク質の充足率は

約140%、リジンのそれは約130%になり、質量ともに十分なタンパク質を与える

ことができます。


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青草(16kg)にタンパク質含量30%の飼料1kgを与えた場合の充足率

 

 

つづく

育成馬ブログ 生産編③「その2」

子馬の栄養管理 タンパク質②

 

 それでは、与えるタンパク質の「質」、アミノ酸についてはどのように考えればよいの

でしょうか?

 

 アミノ酸はタンパク質を構成する化合物であり、このうち生体内で合成できないアミノ

酸を「必須アミノ酸」とよびます

 必須アミノ酸の摂取方法について、栄養学の教科書では「樽」に例えています。

 必須アミノ酸が樽を構成する「樽板」、摂取量が樽板の「高さ」、合成されるタンパク

質の量が樽の中に入る「水の量」になります。このため、一番低い樽板、すなわち

「制限アミノ酸(飼料中最も少ないアミノ酸)」の高さまでしか水が入らず(タンパク質

合成に利用されず)、他のアミノ酸の水面から上部は利用されない無駄なアミノ酸に

なると考えられます。

 このことから、制限アミノ酸の摂取量を考慮したタンパク質摂取が求められます。

通常、制限アミノ酸は「リジン」ですので、リジンが豊富に含まれた飼料を与えることが

推奨されます。

 

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 アミノ酸の樽

「一番低い樽板=制限アミノ酸」の高さまでしか、水は入らない

制限アミノ酸を十分摂取することで、他のアミノ酸の無駄を防ぐ。

 

つづく

22

 

育成馬ブログ 生産編③「その1」

子馬の栄養管理 タンパク質①

 

 10月現在、離乳後のJRAホームブレッド当歳8頭は、牧草豊富な広い放牧地

(8ha)で22時間の昼夜放牧を実施しています。

 

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青草が豊富な放牧地での22時間の昼夜放牧

 

 全頭いずれも集牧時(朝8~10時)に、バランサー型の飼料「スタム30」

(タンパク質含量30%)1kgを給餌しています。 

 

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現在、当歳に与えているバランサー型飼料「スタム30」

 

 このような給餌方法に対して、時々、以下のような問い合わせがあります。

 

 「タンパク質含量30%の飼料を子馬に与えた場合、タンパク質過剰によって

  DOD(発育期整形外科的疾患)の発症リスクが高まるのではないか?」

 

 はたして事実でしょうか?

 

 この話を整理して考える場合、2つのポイントを考慮しなくてはなりません。

 

①タンパク質含量30%の飼料を与えると、タンパク質過剰を引き起こす。

②タンパク質過剰がDODを引き起こす原因である。

 

①については、飼料中のタンパク質含量ではなく、実際に子馬に与えるタンパク質の

量と質を考慮する必要があります。

 

軽種馬飼養標準においては、6ヶ月齢の子馬のタンパク質要求量は800g(1日当り

であり、米国においてNRC(National Research Council)が作成した飼養標準

では、概ね680~810gの範囲とされています。すなわち、タンパク質含量30%の

飼料1kgを与えたとしても、タンパク質量は300gであり要求量の半分以下にしか

なりません。

 

 22時間放牧中の当歳馬が1日に食べる放牧地の青草の量は約16kgと推定され

ます。放牧草(日高地区の平均)に含まれるタンパク質量は16kg中に約800gなの

で、タンパク質含量30%の飼料と合わせると要求量の約1.4倍の1100gのタンパク

質給与になります。

 

 育成期の若馬、競走馬および繁殖馬など様々な馬のライフステージの飼養管理に

おいて、タンパク質給与量が要求量の1.5倍を超えることは珍しくありません。それ

だけ一般的なサラブレッドの飼料中には、タンパク質が豊富に含まれているということ

です。

 

 海外の様々な指導書において、タンパク質の過剰摂取は避けるべきと言われます

が、その量について明確なガイドラインはありません。実際、国内で要求量の1.5倍

程度のタンパク質を摂取したことにより、馬の健康に悪影響を及ぼしたという報告は

なく、ホームブレッドに与えている要求量の1.4倍程度のタンパク質は過剰な量とは

いえません。

 

 以上のことから、タンパク質含量30%の飼料を過剰に与えない限りは問題ないこと

がわかります。

 

つづく

育成馬ブログ 日高②

 

○  順調に騎乗馴致を進めています(日高)

 

朝晩の気温がぐっと下がってきた日高地方。山は綺麗に紅葉して、川には鮭が遡上

しています。まもなく訪れる冬に向けて準備が進む日高育成牧場から、育成馬の

近況を報告します。

 

オータムセールでの購買

今年もJRAはオータムセールに参加し、2頭の育成馬を購買しました。同セールが

終了し、購買馬は全部で74頭(八戸市場4、セレクトセール2、セレクションセール10、

九州1歳市場1、サマーセール55、オータムセール2)になりました。

これにJRAホームブレッド7頭を含めた81頭が来年のJRAブリーズアップセールに

向けて調教されていくことになります。

 

育成馬の近況

日高育成牧場には現在、59頭のJRA育成馬が在厩しています。今年の騎乗馴致も

3群にわけて実施しており、最初に馴致を開始した第1群(牡22頭)は800m屋内

馬場で速歩・駈歩ができるようになりました。第2群(牝22頭)は10月5日から騎乗

馴致を開始し、ラウンドペンでのランジングを行っています。第3群は昼夜放牧を

行い馬体の健全な発育を促しつつ、人馬の信頼関係構築に励んでいる段階です。

概ね順調に騎乗馴致を終えた第1群ですが、馴致を進める際の馬の反応はさまざま

です。引き馬から騎乗までの行程を全く問題なくクリアできる優等生は殆どおらず、

鞍付け前に行う「ローラー」と呼ばれる馴致道具を嫌いなかなか受け入れられない

馬やお尻にレーンがあたるのを嫌う馬など、馴致中の反応は馬ごとに違います。

各々がもつ苦手な項目を解決するため、ときには少し前のステップに戻り、ときには

他馬の倍以上の時間をかけて進めてきました。若馬の馴致では、馬にわかりやすく

人馬ともに安全に実施することが最も大切だと思います。それぞれの馬の理解度を

見極めて、馬にあわせて慌てずに馴致・調教を進めていきたいと思います。

                         

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写真1.800m屋内馬場で速歩調教を行う第1群の牡馬。左端の誘導馬に続くダームドゥラック14(牡、父:ロージズインメイ)、ウエスティンタイム14(牡、父:スズカマンボ)、ウルトラペガサス14(牡、父:ルーラーシップ)、グラッドリー14(牡、父:サウスヴィグラス)。

 

BTC研修生の馴致実習

日高育成牧場では例年BTC(軽種馬育成調教センター)の育成調教技術研修生の

馴致実習を受け入れており、今年も33期生17名が研修しています。研修生には

入学するまで馬に接したことのなかった生徒も多く、若馬を取扱うのはJRAでの研修

がはじめてです。育成馬と日々触れ合い、実際に騎乗馴致を行うことで多くのことを

 

 


YouTube: 研修生の馴致訓練

 

動画1.騎乗馴致を実践するBTC研修生。3週間前には若馬と触れ合ったことも

なかった研修生も、JRA育成馬を使って多くの技術を身につけています。

 

●「元JRA育成馬」の近況

最後に余談ですが、JRAブリーズアップセールで売却することのできなかった育成馬

の近況をお伝えします。日高育成牧場にはセイウンワンダー号やモンストール号など

活躍した当場出身の育成馬と一緒に、ブリーズアップセール未売却となった元育成馬

たちが繁殖牝馬や乗馬として繋養されています。

先日、モンストール号など乗馬として訓練してきた元JRA育成馬が一般のお客様向け

試乗会にデビューできるかの確認を行いました。試乗したのはJRA職員の家族で、

子供たちが騎乗したときの落ち着きなどを確認したところ問題なく、「確認試験」は

終了しました。バスツアーなどの乗馬試乗会で近々「デビュー」することができそう

です。

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写真2.「元JRA育成馬」達による試乗会練習。競走馬として活躍することはできませんでしたが、馬事普及という分野で長く活躍してほしいと思います。

 

育成馬ブログ 生産編②「その3」

実践研修プログラムのご案内(10 月~12 月)

 

JBBA 軽種馬経営高度化指導研修事業の一環として、JRA 日高育成牧場で

実施する「実践研修プログラム」についてご案内いたします。

 

本研修は、これまでの講習会などで行われてきた「講師からの一方通行の情報提供」

ではなく、参加者が主体となって内容を自由に選択できる研修です。

JRA日高育成牧場は、参加者のご要望に最大限お応えする「情報提供」はもとより、

参加者の皆様に充実した「学びの場・機会」を提供していきたいと考えています。

 

この機会に是非、職場の同僚やご近所の牧場のみなさんをお誘いの上でお申込み

下さい。

当場の職員も皆様にお会いし、一緒に馬を見ながらディスカッションできることを

楽しみにしています。

 

実践研修プログラムの主なポイント

 

①少人数(4~6名)での参加が原則

 (2~3名の場合には要相談、他グループとの合同もあり)

②参加者が自由に研修内容を選択できる

③講義・実技・ディスカッションの3部構成

 

期間:10月~12月までの月~金曜

場所: JRA日高育成牧場(現地集合・現地解散となります)

対象: 競走馬の生産・育成に従事している方

 

詳細はこちらをご覧ください。

http://www.jbba.jp/150910.pdf

 

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実践研修プログラム(夏期)の様子

 

参加者の声(2015年実践研修プログラム夏期 アンケート回答より)

 

ž   実馬を使った、いつでも質問できる研修でした。貴重な時間が過ごせました。

 

ž   もう少し時間が長いと良い。とても充実した講習会だと思いますので

 今後も参加したい。

 

ž   盛り沢山の内容でとても得した気分です。ひとつひとつ、トップレベルの技術を

 教えていただける貴重な研修でした。

 

ž   馴致の仕方について、どうしてこうするのか説明がわかりやすかった。実際に

 馬を使って説明してもらえることも良い。

 

ž   一緒に参加した他の牧場の方からも色々な意見、体験談が聞けて大変興味

 深かった。

育成馬ブログ 生産編②「その2」

離乳 その2

 

子守役の牝馬の必要性については議論の余地があるかもしれませんが、母馬を

全頭間引いた後の子馬達の落ち着いた様子を見る限りでは、少なからず効果は

あったような気がします。

 

離乳から1週間後、牧柵修理のために重機車両が放牧地内に入ってきたときの

ことです。

 

そわそわして走り周りそうな子馬達をよそに、子守役の牝馬は落ち着いて草を食んで

いました。その後方で戸惑いながらもじっとしている子馬達の様子を見ると、ある程度

の精神的な支えになっているのではないかと感じました。

 

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工事車両(左奥)に戸惑う様子を見せる子馬達(右馬群)と

落ち着いて草を食む子守役の牝馬(左)

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同じく戸惑う様子を見せる子馬達(左馬群)と落ち着いて草を食む子守役の牝馬(右)

 

 

8頭の子馬達については、現在使用している放牧地(4ha)から、その2倍の広さに

あたる8haの放牧地に移動させて、伸び伸びと育てていきます。

なお、子守役の牝馬は次の放牧地で子馬達が落ち着いた後に、群から引き離す

予定です。

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対する

ご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、

JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

 

育成馬ブログ 生産編②「その1」

離乳 その1

 

JRA日高育成牧場では、本年生産したホームブレッド8頭の離乳を8月中旬から

9月初旬にかけて段階的に行いました。

 

離乳は例年どおり、段階的に母馬を放牧群から引き離す「間引き法」、事前に性格が

穏やかな牝馬を子守役として群に加える「コンパニオン牝馬の導入」の2つの方法を

用いました。

方法の詳細はこちらをご覧下さい。

https://blog.jra.jp/ikusei/2013/09/4-174b.html

 

本年についても、離乳時の事故など大きなトラブルがなく、例年以上に馬群が

落ち着いていた印象が見受けられました。

  

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子馬から離される母馬。左後方は落ち着いて草を食べる子馬達。

(撮影 田中哲実氏)

 

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母馬がいないことに気付いて走り回る子馬達。(撮影 田中哲実氏)

 

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10分も立たないうちに落ち着きを取り戻し草を食む子馬達。

右から2頭目は子守役の牝馬(撮影 田中哲実氏)

 

この方法を実施するための条件は、母馬を子馬から完全に引き離すことができる

施設があることです。

母子お互いの姿が見えたり、泣き声がそれぞれの耳に届いたりする場所にしか

母馬を移動できない場合には、子馬が柵を飛越するなどの事故のリスクがあるため、

この方法を実施すべきではないでしょう。

また、たとえ母馬ではなくても隣接する放牧地に他の馬がいる場合には、

事故のリスクは避けられないため注意が必要です。

 

つづく

 

育成馬ブログ 日高①

○  サマーセールでの育成馬購買(日高)

 

お盆を過ぎても暑い日が続く今年の日本列島ですが、北海道浦河町にある日高育成牧場ではシーズンを通して最高気温が30度を超える日のない比較的過ごしやすい夏となりました。早くも秋の気配が漂いはじめており、空模様や虫の鳴き声が変わりゆく季節を感じさせてくれます。

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写真1.朝もやの中、放牧地で元気に青草を頬張るJRA育成馬たち。まさに「馬肥ゆる秋」です。写真左からセレーサ14(牡、父:ステイゴールド、購買価格:1,200万円)、ビューティコマンダ14(牡、父:アルデバラン、JRAホームブレッド)、ハートノイヤリング14(牡、父:アイルハヴアナザー、購買価格:1,100万円)、スノーボードロマン14(牡、父:バゴ、JRAホームブレッド)。

 

1歳市場「サマーセール」に参加しています

季節の変わり目にあたるこの時期、馬産地北海道の風物詩ともいえる国内最大規模の1歳馬市場「サマーセール」が開催されています。今年は8月24日から4日間のスケジュールで1,300頭近い1歳馬が上場されます。国内外から購買者が集まるこのセールにはJRAも参加し、今年育成するJRA育成馬を購買しています。

セールに向けた事前検査を実施しました

サマーセール当日は朝8時から比較展示が行われ、12時からセリがはじまります。購買者は午前中に組まれた展示時間を使って、血統情報の出ているセリ名簿と実馬の馬体や健康状態、性格などを見比べて購買候補馬を決定します。一般的な購買者は馬を選定してから検査するため時間的に余裕がありますが、1日300頭以上が上場されるこの市場で全馬を時間内に確認することは不可能です。そこでJRAでは、上場馬を多く預託しているコンサイナーにお願いして、事前に牧場をまわり上場馬を検査させてもらっています。今年は48か所のコンサイナーの皆様に協力していただき、767頭の事前検査を行うことができました。協力していただきましたコンサイナーの皆様にはこの場を借りて御礼申し上げます。

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写真2.事前検査では、経験豊富なJRAの獣医・装蹄職員が購買候補馬を選定します。今年は殆ど雨も降らず、快適な環境のなかで検査することができました。

 

 

在厩している育成馬の近況

さて、現在日高育成牧場には17頭のJRA育成馬(セレクトセール購買馬2頭、セレクションセール購買馬8頭、日高育成牧場で生産したJRAホームブレッド7頭)が在厩しています。育成厩舎に入厩してすぐに夜間放牧(午後15時に放牧して朝8時に集牧)をはじめましたので、夜間放牧の期間も既に1カ月が経過したことになります。最初は新しい仲間との出会いに戸惑っていた馬達。今ではお互いに寄り添いながら、仲良く新鮮な青草を食べています。

騎乗馴致の準備をしています

現在、育成馬達は夜間放牧を行いながら9月から行う騎乗馴致の準備をしています。騎乗馴致がはじまると放牧地でのんびり草を食む生活が一変し、背中に人が騎乗することを受け入れて人の指示で動かなくてはなりません。馴致開始までの期間、引き馬や手入れなどを利用して人馬の信頼関係を構築する作業を地道に行っています。

馴致を開始する前に必ず実施するのが口腔内検査と歯科処置です。馴致を行う過程において、馬を操作するために必要な「ハミ受け」を教えます。ハミは馬を操作する際にハンドルの役割をする馬具で、馬がハミを気持ちよく受け入れられる環境を作る必要があります。

検査では口内炎や斜歯・狼歯の有無を確認します。馬の口内炎は多くの場合、飼料や草を上下の歯ですりつぶす際に臼歯(奥歯)が必要以上に尖ってしまい、口腔粘膜を傷つけておこります。斜歯とはその尖った歯のことで、尖っている場合には数種類の専用ヤスリを使って整えます。また、狼歯とはちょうど人の八重歯のように歯肉から少しだけ頭を出している(もしくは埋没している)歯で、ハミがあたると馬に不快感を与えるため取り除く必要があります。

JRAでは馴致を開始する前にこれらの検査・処置を全馬に行っています。これは騎乗馴致が始まると馬には多くのストレスがかかるため、馬が少しでもハッピーな状態で様々な課題に取り組める下地を作りたいと考えているからです。

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写真3.口腔内検査を行っています。人馬とも安全に、しっかり検査するため枠場を使って検査しています。

 

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写真4.抜き取った狼歯。形や大きさは様々で、多くの馬で上顎に左右1本ずつみられます。稀に下顎にもみられ、狼歯がない馬もいます。

今回は以上です。次回の日高育成牧場ブログでは騎乗馴致の様子についても触れていきたいと思っています。

育成馬ブログ 生産編①「その2」

・当歳馬に与えるクリープフィード その2

 

クリープフィード投与の2つ目の目的は、離乳後の「成長停滞」を防止もしくは最小限度に

抑制することです。

 

離乳後の子馬を観察すると、少なからず体重増加が滞ります。極端な体重減少でなけれ

ば、一時的な成長停滞そのものが中長期的な健康に及ぼす影響は大きくないかもしれま

せん。

 

しかし、体重増加が停滞した後に起こる「急成長」は、OCD(離断性骨軟骨症)などの

骨疾患発症に影響を及ぼすとの調査報告もあるため看過できません(図1)。

 

そこで、離乳前に一定量のクリープフィードを食べることに慣らしておき、「成長停滞」と

それに引き続いて起こる「急成長」を予防し、スムーズに成長させる工夫が必要になるの

です。

 

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1.スムーズな成長曲線(左)と「成長停滞」と「急成長」が認められる成長曲線(右)。

後者はOCDなどのDODを発症し易い成長と考えられている。

 

なお、クリープフィードの給餌を離乳直前に開始しても、食べ慣れるまでに時間がかかる

うえ、離乳ストレスによる食欲低下も念頭に置かなくてはなりません。

 

このため、クリープフィードの開始時期は、母乳量が低下し始める2ヵ月齢が目安になり

す。もちろん、過剰摂取による過肥、骨端炎および胃潰瘍には十分注意する必要があり

すので、給餌量を決定する際には、これらの疾患の徴候、子馬の体重、増体量、ボディ

コンディションスコア、放牧地の草の状態を考慮しなければなりません。

 

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給餌量の決定には、骨端炎や胃潰瘍の徴候、馬体重、増体量、ボディコンディションスコア、放牧地の草の状態などの把握が重要。

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

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育成馬ブログ 生産編①「その1」

・当歳馬に与えるクリープフィード その1

 

 8月に入り暑い日が続いていますが、本年生まれた当歳馬たちにとっては母子の別れ、

「離乳」の時期が近づいています。

 

 離乳方法の選択如何によっては、子馬の成長阻害や大きな事故に繋がる可能性が

あります。また、その後の取扱いに支障をきたすような精神的ダメージを負うこともある

かもしれません。このため、牧場の放牧地や厩舎などの施設環境を考慮した、最善の

離乳方法を選択する必要があります。

 

 当歳馬の離乳を成功させるための重要ポイントの1つとして、それまで母乳から摂取

していた栄養を牧草や固形飼料で代替することができるようになっていること、すなわち、

一定量(1~1.5kg)の固形飼料、いわゆるクリープフィードを食べられるようになっている

ことがあげられます。

 

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クリープフィードを食べる当歳馬

 

 ところで、なぜクリープフィードを与える必要があるのでしょうか? 

 クリープフィードを与える目的は大きく2つあります。

 

 1つ目は母乳から得られる栄養の補填です。母馬の泌乳量は出産後から徐々に低下

していき、そこから摂取できるカロリーや栄養成分も同様に低下します。特にカルシウムや

銅などのミネラル含量は、生後1ヶ月を待たずして子馬の栄養要求量を充たさなくなります(図1)。

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図1.母乳からの摂取ミネラルの要求量に対する割合(7週齢)

 

 このうち銅は、子馬の骨端炎やOCDなどの骨疾患の発症を抑制するために重要な働き

をするミネラルの1つです。もともと、母乳に含まれる銅の量は少なく、生まれて間もない

子馬は、母乳から十分な量の銅を摂取することができません。このため、子馬は母体に

いる胎子のときに、母馬から銅を受け取り肝臓に蓄えておき、生後はその蓄えを利用して

いると考えられています(図2)。しかし、肝臓に蓄えられた銅は、生後2~3ヶ月で枯渇

することが知られています。

 

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図2.胎子は母馬から受け取った銅を肝臓に蓄積し、生後に利用する。

 

 もちろん、良好な牧草が繁茂した放牧地で飼養されていれば、子馬にとって必要な

カロリーは母乳と牧草から摂取することも可能かもしれません。しかし、健康な馬体成長

に欠かせないミネラルは固形飼料で補う必要があります。

 

つづく