育成馬ブログ 生産編⑪「その2」

当歳馬の駆虫に関するQ&A

 

先日、ブログ読者の方から、子馬の駆虫方法に関するお問い合わせをいただきましたので、回答と併せてご紹介します。

 

「生後1ヶ月が過ぎた子馬に、駆虫剤を与え始めるのはいつ頃からが良いでしょうか?

また、子馬に与える駆虫剤は成馬と同じものでも問題ないでしょうか?」

 

Q1.いつ頃から駆虫剤を与え始めるのがよいか?

 

A.生後2ヶ月

 

子馬で特に問題となる寄生虫は馬回虫です。

馬回虫は、子馬(特に15ヶ月齢未満)の小腸に大量寄生することがあり、

これにより、子馬は疝痛や腸管破裂を起こし、場合によっては開腹手術が必要となり、死に至るケースもあります。

この病気をアスカリド・インパクション(回虫便秘)と言います。

 

馬回虫が寄生した場合、寄生1ヶ月後では幼虫の段階であり、駆虫剤の効果が半分程度であることが知られています。

一方、寄生3ヶ月後には馬回虫は成虫になり、駆虫剤の効果は高まりますが、アスカリド・インパクションのリスクも高まります。

 

これらのことから、たとえ子馬が生後すぐに虫卵を摂取したとしても、生後2ヶ月までは、駆虫剤が十分な効果を示さない幼虫の状態ではないかと考えられます。

しかし、3ヶ月以上何もせず放置すると、腸の中で成長して大きくなり、疝痛を起こすリスクが高くなります。

以上の理由から、生後2ヶ月頃から、概ね2ヶ月間隔で駆虫をするのが「妥当」ではないか、と考えられています。

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 Q2.投与する駆虫剤は成馬のものと同じでよいか?

 

A.同じで問題ないが、フルベンダゾールなどベンズイミダゾール系の駆虫剤が推奨されます。

 

アスカリド・インパクションは、ある種の駆虫剤の投与後に発症が多いことが知られています。

それは、イベルメクチンやピランテルなど、成馬で一般的に使用されている薬剤です。

このため、「子馬の糞便から回虫や回虫卵が排出されている場合」「牧場が回虫卵で汚染されている場合」には、これらの薬剤の投与はリスクを伴いますので、投与を避けた方が良いでしょう。

このため、アスカリド・インパクションの発症リスクが少ないと言われている、ベンズイミダゾール系の駆虫剤の投与が推奨されています。

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最も重要なことは、投与前に寄生虫の有無を確認すること、すなわち虫卵検査を実施することです。

子馬の糞便の採取が困難な場合は、親馬や牧場全体の馬における虫卵汚染の状態を把握することが推奨されます。

もし、回虫卵の汚染が認められる場合には、子馬に対してはベンズイミダゾール系の駆虫剤を投与した方がよいでしょう。

 

 

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糞便を用いた虫卵検査

 

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回虫卵(顕微鏡写真)

 

 

近年、薬に耐性をもつ寄生虫が問題視されています。

その原因は、「同じ駆虫剤を継続してすべての馬に投与する方法」であると考えられています。

 

このため、最近では糞便検査を実施し、寄生虫卵の有無のみならず、個数を計測したうえで、必要に応じた駆虫処置をする「ターゲットワーミング」という方法が推奨されています。

 

ターゲットワーミングについては、以前のブログで紹介していますので、参考にして下さい。

 

生産現場における駆虫 その1「耐性寄生虫の発生原因」

https://blog.jra.jp/ikusei/2013/10/1-7158.html

 

生産現場における駆虫 その2「ターゲットワーミング」

https://blog.jra.jp/ikusei/2013/10/2-1c95.html

 

生産現場における駆虫 その3「寄生虫をゼロにする必要はない」

https://blog.jra.jp/ikusei/2013/10/3-98d7.html

 

生産現場における駆虫 その4「駆虫剤投与以外に実施すること」

https://blog.jra.jp/ikusei/2013/10/4-d493.html

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

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育成馬ブログ 生産編⑪「その1」

獣医・畜産系学生向け「サマースクール2015」の開催について

 

北海道の馬産地日高で牧場実習をしてみませんか?

JRA日高育成牧場では、獣医・畜産系大学の学生を対象としたサマースクールを

開催します。

 

牧場での体験学習を通じて、馬がどのような動物なのか理解し、飼養技術や獣医療、

さらには競馬開催業務まで、馬に関する幅広い知識・技術を学びます。

 

日程は、8月18日(火)~27日(木)の10日間、

参加条件は獣医・畜産学系の大学2~5年生です。

 

詳細な内容・応募方法については、下記ホームページをご覧ください。

http://www.jra.go.jp/news/201505/052502.html

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育成馬ブログ 日高⑨

○  トレーニングセールに上場します(日高)

 

 先月開催しました2015JRAブリーズアップセールでは、上場したすべての馬を

ご購買いただくことができました。ご来場いただきました皆様、誠にありがとう

ございました。

 6月6日からは2歳戦が始まりますが、ご購買いただきましたJRA育成馬が早期から

活躍してくれますことを期待しています。

 JRAブリーズアップセール欠場馬のうち8頭は、5月26日(火)にJRA札幌競馬場で

開催されるトレーニングセールに上場する予定です。今回の上場予定馬にとって、

当セールは競走馬としてのスタートラインに立つラストチャンスです。公開調教で

良いパフォーマンスをご覧いただけるよう、しっかり仕上げてセールに臨みたいと

思っています。

 

 

上場予定馬

 No.292 ローランウィスパー13(牝、父:ブラックタイド)

 No.293 ウインクルディール13(牝、父:アルデバラン)

 No.294 オヘソノタカラモノ13(牡、父:ナカヤマフェスタ)

 No.295 カシノリボン13(牝、父:タニノギムレット)

 No.296 コンゴウマライカ13(牝、父:ケイムホーム)

 No.297 シルキーメイン13(牡、父:カジノドライヴ)

 No.298 スペシャルウーマン13(牝、父:バトルプラン)

 No.299 フォレストメリー13(牡、父:ブラックタイド)

 

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写真1.調教後にグラスピッキングをする上場予定馬。日々これまで以上に厳しいトレーニングメニューをこなしていますが、調教後には青々とした牧草が食べられます。

 

 トレーニングセールの騎乗供覧はセリ前日の5月25日(月)、9:30から札幌競馬場

ダートコースで行われます。JRAブリーズアップセール同様、多数のお客さまのご来場

を心よりお待ち申し上げます。

 

育成馬ブログ 生産編⑩「その2」

・電気牧柵の利用

 

サラブレッドの生産現場では、鹿の放牧地への侵入防止策として電気牧柵が利用されています。日高育成牧場でも、3年前ほど前から設置しており、一定の効果をあげています。

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鹿対策として設置している電気牧柵

 

一方、本年からの新たな試みとして、放牧地内の「間仕切り」を目的として電気牧柵の利用を開始しました。これは、アイルランドなどの牧場で一般的に行われている方法を参考にしたものです。

 

「間仕切り」をしている放牧地は、生後間もない子馬が利用します。

 

これまで当場では、母子の放牧地として、「砂パドック(1アール以下)」「インドアパドック(約1アール)」「約2ヘクタールの放牧地」「約4ヘクタールの放牧地」がありました。

 

このため、狭い砂パドックやインドアパドックで過ごした後は、いきなり広めの2haの放牧地に放されることになります。

 

昨年までは、広い放牧地に放されて、勢いよく走る母馬の後を生後間もない子馬が追いかける光景をヒヤヒヤした思いで見ていました。

この場合、骨折や腱断裂など大きな事故が起こっても不思議ではありませんでした。

 

一方、2~4週間もの長期間に亘って、狭いだけではなく、衛生環境もあまり良くない砂パドックやインドアパドックに閉じ込めておくことは、母子いずれにとっても健康的とは言えません。

 

そこで、2ヘクタールの放牧地を1ヘクタール以下の大きさに間仕切りすることで、生後1週間の子馬が利用可能な放牧地を設置しました。

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2ヘクタールの放牧地を間仕切りして、1ヘクタール以下の放牧地にリフォーム

 

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 電気牧柵で仕切られた放牧地

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乾電池式のパワーユニット(電力装置)を使用

 

利用した電気牧柵は、馬にとって視認性が高い、幅4cmの帯状のものです。

あらかじめ、出産前の母馬を電気牧柵の放牧地に放して、良く見せておくことで馴致しておきました。

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馬にとって視認性が高い、幅4cmの帯状の電気牧柵用テープ

 

興味本位でテープに触る子馬もいますが、一度電気を感じると怖がって近づかなくなります。

 

もちろん、何かのタイミングでパニックになった場合には、母子ともに突破するリスクは十分ありますので、あくまでも放牧地内の間仕切りに使用を限定した方が良さそうです。

 

電気牧柵の利点は、通常の牧柵と比較して安価で、一度設置した後も容易に移設できることです。このため、必要に応じて放牧地を何度でもリフォームすることができます。

 

また、放牧地の一部を養生したい場合や、何らかの理由で運動制限したい馬に対して、青草を食べさせたい場合にも有効かもしれません。

この場合であっても、突破されるリスクはありますので、その点を勘案した選択的な使用が推奨されます。

 

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運動制限したい馬で、青草を食べさせたい場合にも有効

 

 

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育成馬ブログ 生産編⑩「その1」

ホルモン処置乳母のその後

 

前回ご紹介したホルモン処置による泌乳誘発を行った乳母ワンモアについては、

その後も母子の関係を保持しながら、順調に子馬「ダンスウィズジェニの15(以下

ダンス15)」の子育てをしています。

 

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 ダンス15に「ちょっかい」をかける他の子馬を威嚇する乳母ワンモア

 

 

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2頭が寄り添いあう様子は実の母子にしか見えません。

 

ダンス15は、生まれた時の体重が29kgと通常の半分程度の未熟子でした。

実の母馬が重度の蹄葉炎を発症したため、妊娠期間中に栄養および運動が制限された状態で管理されていました。その影響で母体にいる時の栄養状態が余り良くなかったのかもしれません。

 

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出産直後のダンス15

 

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1ヶ月齢のダンス15

 

現在も同時期に生まれた馬と比較すると、大きさは見劣りますが、

小さいなりに順調に成長しており(グラフ)、放牧地で走り周る姿は元気いっぱいです。

また、1ヶ月齢を迎えた4月末には昼夜放牧を開始しています。

今後も、馬体重の推移等を観察していきながら、成長の様子を見守っていきたいと思います。

 

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               ダンスウィズジェニ15の馬体重(赤)

標準曲線(水色および紺色)

および同時期に生まれたビューティコマンダ15(黄)との比較

 

 

育成馬ブログ 日高⑧


 

○  育成馬展示会を開催しました(日高)

 

4月になり、日高地方にも春が訪れています。フキノトウが芽吹き、フクジュソウが可憐な花を咲かせました。最高気温が10度を超える日も増えて繁殖厩舎では産まれたばかりの当歳馬が元気に走りまわっています。北海道には最高のシーズンが訪れています。

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育成馬展示会を開催しました

日高育成牧場では4月13日(月)に育成馬展示会を開催しました。育成馬展示会は、JRAブリーズアップセール上場予定馬を馬主・調教師の皆様にご覧いただく機会であると同時に、生産者の皆様にJRA育成馬となった生産馬の成長ぶりを確認していただく機会でもあります。天候にも恵まれ、213名の馬主・調教師・生産者をはじめ軽種馬に携わる多くのお客様に来場していただきました。

当日は朝10時から55頭の比較展示を行い、その後1600m馬場にて44頭の騎乗供覧をご覧いただきました。比較展示ならびに騎乗供覧には軽種馬育成調教センター(BTC)の育成調教技術者養成コース32期生18名も参加しました。彼らはこれまで、育成馬を用いた初期馴致や実践騎乗研修を行い、育成馬とともに成長してきた今後を担う若者たちです。研修生たちは、比較展示や騎乗供覧を通して立派なホースマンに成長した姿を披露してくれました。

 

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比較展示の様子。55頭の育成馬を5班にわけて展示しました。各馬の担当者は普段から人馬の信頼関係を構築してよりよい展示ができるよう努力し、1人でも多くのお客様に足を止めていただけるよう頑張りました。

 

比較展示の後は1600m馬場にて44頭の騎乗供覧を行いました。併走を中心とした21組の騎乗供覧には前述のBTC研修生も騎乗しています。直近に迫ったJRAブリーズアップセールに向けて、それぞれの馬にとって無理のないスピードで現在の仕上がり具合を披露しました。

 

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内を走るのがBUセール上場番号60番 モンタナの13(牡、父:タイキシャトル)、外を走るのが上場番号62番 ヴァルネリーナの13(牡、父:サムライハート)。行く気満々の2頭の走行タイムはラスト2ハロンが13.7-11.4(秒/ハロン)でした。

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3頭併走での騎乗供覧。最内を走るのがBUセール上場番号26番 ペレブラッサムの13(牝、父:ドリームジャーニー)、中央を走るのが上場番号11番 ソフィアルージュの13(牝、父:エンパイアメーカー)、大外を走るのが上場番号29番 ウインゼフィールの13(牝、父:ハービンジャー)。綺麗に鼻面を揃えてゴール板を駆け抜けました。走行タイムはラスト2ハロンが12.7-11.9(秒/ハロン)でした。

 

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単走で迫力の走りをみせたのがBUセール上場番号25番 マルカジュリエットの13(牝、父:スウェプトオーヴァーボード)。ラスト2ハロンの走行タイムは11.7-11.2(秒/ハロン)でした。

 

 

今年のブリーズアップセールは4月28日(火)に中山競馬場で開催されます。多くのご来場者の皆様に楽しんでいただけるよう、残り少ない時間を使い育成馬の調整に全力で取り組んでまいります。

育成馬ブログ 生産編⑨「その2」

乳母付け

 

一般的に乳母付けは、性格が穏やかな品種の母馬を用いて、自身が産んだ子馬と錯覚させて行います。

一方、人工的に泌乳誘発した乳母は、自身でその年に出産していないため、錯覚を用いることは困難です。また、気性があまり穏やかではないサラブレッドを乳母として用いることも、大きな懸念材料となります。

 

出産翌日の午後、乳母付け開始です。

 

最初の顔合わせの時に、乳母ワンモアが若干威嚇するような仕草を見せたため、周囲の空気が一瞬凍りつきました。

しかし、哺乳を許容した後は、徐々に子馬を受け入れて、乳母付け後1時間もしないうちに、馬房内で保定せずに哺乳を許容し、さらには、子馬に近づこうとする人間を威嚇する仕草まで見せるようになりました。

 

あまりにあっけなく子馬を受け入れたため、身構えていたスタッフ一同は、拍子抜けするとともに、たとえサラブレッドであっても、気性によっては乳母の適正を有する馬がいることを認識し一安心ました。

 

もちろん、子馬との相性はあるのかもしれませんが、事前にこのような性格を見抜くことができれば、今後も必要な場合に適切な乳母付けができるようになるのかもしれません。

 

人工泌乳乳母の詳細については、こちらをご覧ください

 

(JRA育成牧場管理指針 生産編)

http://www.jra.go.jp/ebook/ikusei/seisan/index.html#page=44

 

(JRA育成馬日誌)

https://blog.jra.jp/ikusei/2010/03/2-b47b.html

 

https://blog.jra.jp/ikusei/2013/07/3-31c2.html

 

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乳母付け

 

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乳母として子育て中のワンモア

 

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育成馬ブログ 生産編⑨「その1」

ホルモン剤で泌乳誘発した乳母の活用

 

サラブレッドの生産現場で乳母が必要なケースとしては、母馬の死亡や子馬への虐待が上げられます。海外では、泌乳量不足や母馬の他国への種付けなどに乳母が利用されることもあります。

 

日高育成牧場では、これまで、子馬を虐待する母馬や、泌乳量不足の母馬などの代用母として、人工的にホルモン剤を投与により泌乳誘発した乳母を活用してきましたが、

本年については、蹄疾患を有した母馬の代用として、この方法を用いました。

 

蹄疾患を有していたとしても、出産することは可能です。

しかし、健康な母馬と比較して、放牧地での運動量が不足するため、子馬が競走馬として成長するためには大きな弊害となります。

 

当場の繁殖牝馬ダンスウィズジェニ(以下ダンス)は、妊娠末期になっても蹄の状態が思わしくなく、このまま子馬を産んでも、放牧地で十分な運動ができないだろうと判断し、乳母付けの実施に踏み切りました。

 

乳母は18歳の空胎馬ワンモアベイビー(以下ワンモア)、これまで11頭の子馬を産み育てているベテラン母さんです。

ワンモアは、乳母として使われたことはありませんでしたが、これまでも放牧地で他の子馬に哺乳を許すなど、その適正が十分あると判断しました。

 

ダンスの予定日は3月20日。

3月初旬からワンモアに対してホルモン処置による泌乳誘発を行い、予定日前には1日あたり3リットル以上を搾乳できるようになりました。

 

予定日を10日過ぎた3月30日、無事出産、

ダンスから初乳を採取したところ、十分量の免疫グロブリンが含まれていましたが、運動不足からくるものか、乳房が硬く、子馬が十分哺乳することができません。このため、保存初乳を経鼻投与し、移行免疫不全症の予防に努めました。

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 無事出産したダンス

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保存初乳の経鼻投与

 

つづく

育成馬ブログ 日高⑦

○  春は、もうそこまで!(日高)

3月も半ばまで来ると、日高育成牧場でもさすがに最低気温がマイナス5℃を超える日はなくなりました。近年では比較的暖かかった今年の冬。雪が降るたびに「これが今年最後の雪だろう」と話しながら、春の訪れを楽しみにしつつ日々の調教に励んでいます。

 

育成馬の調教状況

さて、JRA育成馬の調教状況をお伝えします。現在も1週間の調教をパターン化してスピード調教は火曜と金曜に行い、その翌日と休み明けとなる月曜には馬をリラックスさせる目的で屋内800mトラックの調教(ハロン24-20程度で2,000~2,400m)を、木曜は長めの距離(3,200m)を乗る運動を行っています。今ではこの「1週間のパターン」が人馬ともに定着し、その曜日の目的に沿ったメリハリのある調教ができています。

スピード調教は、屋内800mトラックで1,200mのウォーミングアップ後に屋内坂路馬場を2本登坂(3ハロン54-51秒程度)しています。3月初旬からは、1本目は精神面の鍛錬を目的とした隊列を乱さない縦列調教を行い、2本目で「併走」の練習を開始しています。併走調教を始めると馬同士の走りたい気持ちが高まるため、スピードは勿論ですが馬の迫力が増してきます。これまで幼かった馬達も徐々に競走馬らしくなってきました。

 

最近の調教動画(坂路調教)をご覧下さい。

 

こちら→https://www.youtube.com/watch?v=xUFLcSEpmvc&feature=youtu.be

動画1. 屋内坂路で行った併走練習の様子。向かって右がグディニアの13(牝、父:プリサイスエンド、BU番号67)、左がウインゼフィールの13(牝、父:ハービンジャー、BU番号29)。この日のタイムは3ハロン16.7-16.9-16.8でした。

 

こちら→https://www.youtube.com/watch?v=5ZRshmoRmbM&feature=youtu.be

動画2. 同じく併走練習の様子。向かって右がシゲルハチマンタイの13(牝、父:エンパイアメーカー、BU番号30)、左がファミリア―ストーリーの13(牝、父:バゴ、BU番号54)。この日のタイムは17.7-17.5-16.8でした。

 

獣医検査を実施しました。

育成馬の調教が本格化しているなか、ブリーズアップセール開催に向けた準備も着々と進んでいます。レポジトリー(馬医療情報開示)の準備もそのひとつで、ノドの内視鏡検査や屈腱部のエコー検査、前肢の近位種子骨と飛節部のレントゲン検査等を日々行っています。

3月10日、11日には、美浦トレーニングセンター競走馬診療所の獣医職員が来場して「獣医検査」を実施しました。この検査は、育成馬の健康状態や現時点の疾病有無を確認することを目的としており、全馬の調教を見たうえで歩様の悪い馬やレポジトリー検査で所見のあった馬を詳細に検査します。育成期の疾病状況をトレセン獣医師に把握してもらうことは、セール売却後に入厩した際の「引継ぎ」になるため非常に重要な検査だと考えています。

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写真1.獣医検査風景。歩様検査や疾病確認、ノドの内視鏡検査などを行いました。医療情報に漏れがないよう、複数の目で確認します。

 

育成馬展示会を開催します

今年の育成馬展示会は4月13日(月)に開催します。当日は10時から育成馬の比較展示を行った後、1600mダート馬場において2頭併走で騎乗供覧を行います。この展示会は、セール出発前の「育成馬お披露目式」であると同時に、軽種馬育成調教センター(BTC)の育成調教技術者養成研修生の卒業イベントとしての側面も併せ持ちます。昨秋の初期馴致研修以降、育成馬の騎乗研修を通して育成馬とともに成長してきたBTC研修生たちは、この展示会を最後に立派なホースマンとしてデビューします。育成馬同様、彼らの展示・騎乗技術にも注目してください。

 

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写真2.昨年の展示会風景。今年も大勢のお客様の来場をお待ちしています!

育成馬ブログ 生産編⑧「その2」

・育成期の屈腱に関する調査

 

 JRA日高育成牧場では、3年間に亘ってJRA育成馬165頭の屈腱部の超音波検査を

実施し、若馬の屈腱部に関する調査を行いました。

 調査は、育成調教開始前の1歳9月、およびブリーズアップセール前の2歳4月の2回、

屈腱部を6つの部位に分けて、浅屈腱の断面積を測定し、左右で比較しました。

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 結果を見ると、

いずれの部位でも、浅屈腱の断面積は、1歳9月の方が大きく、2歳4月にかけて徐々に

小さくなる傾向にありました。

 また、いずれの時期も、以前にトレセンで調査した成馬の値を上回っていました。

   

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すなわち、育成期の若馬の浅屈腱は、成馬より太く、

育成調教を行う過程において、徐々に正常に近づくことがわかりました。


・育成期の屈腱の左右差

 

また、屈腱を3つの部位に分けて、左右の太さ、すなわち断面積を比較してみました。

すると、左右で断面積の差が20%以上あった馬は、1歳9月および2歳4月のいずれの時期においても、育成馬全体の20%近くに達しました。

 

 成馬においては、浅屈腱断面積に左右差が20%以上認められた場合、浅屈腱炎の前兆と考えられていますが、育成馬では、5頭に1頭にそのような所見を認めたのです。

 

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なお、このような所見を有した育成馬であっても、超音波検査で腱損傷所見が

認められない場合には、通常どおりの調教が実施されました。

 

それでは、このような左右差が認められた馬は、他の馬と比較して、競走成績は

劣っていたのでしょうか?

競走期に屈腱炎を発症したのでしょうか?

調査馬のうち、中央競馬に登録した143頭について調査したところ、

出走回数、入着回数、および浅屈腱炎の発症率に有意差はありませんでした。

 

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すなわち、育成期に屈腱が通常より太い、もしくは太さが左右で異なった場合であっても、競走期のパフォーマンスに及ぼすような病的な状態ではなく、調教運動を通して改善されていくことが分かりました。

 

なぜ、若馬の腱は一時的に太くなるのでしょうか?

今回の調査で解明することはできませんでしたが、運動や骨成長などにより、

未成熟な腱が負荷を受けた際に認められる生理的反応の1つなのかもしれません。

 

この調査は、我々が育成馬を調教していく過程で遭遇した「若馬の屈腱腫脹」について、それが病的なものか否かを解明する目的で実施したものです。

 

JRA日高育成牧場では、生産者、育成関係者、そして市場購買者の皆様が日頃から疑問に思っていることについて、今後とも育成馬を用いた科学的な調査を行っていきます。

 

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