育成馬ブログ 生産編⑩「その1」

ホルモン処置乳母のその後

 

前回ご紹介したホルモン処置による泌乳誘発を行った乳母ワンモアについては、

その後も母子の関係を保持しながら、順調に子馬「ダンスウィズジェニの15(以下

ダンス15)」の子育てをしています。

 

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 ダンス15に「ちょっかい」をかける他の子馬を威嚇する乳母ワンモア

 

 

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2頭が寄り添いあう様子は実の母子にしか見えません。

 

ダンス15は、生まれた時の体重が29kgと通常の半分程度の未熟子でした。

実の母馬が重度の蹄葉炎を発症したため、妊娠期間中に栄養および運動が制限された状態で管理されていました。その影響で母体にいる時の栄養状態が余り良くなかったのかもしれません。

 

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出産直後のダンス15

 

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1ヶ月齢のダンス15

 

現在も同時期に生まれた馬と比較すると、大きさは見劣りますが、

小さいなりに順調に成長しており(グラフ)、放牧地で走り周る姿は元気いっぱいです。

また、1ヶ月齢を迎えた4月末には昼夜放牧を開始しています。

今後も、馬体重の推移等を観察していきながら、成長の様子を見守っていきたいと思います。

 

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               ダンスウィズジェニ15の馬体重(赤)

標準曲線(水色および紺色)

および同時期に生まれたビューティコマンダ15(黄)との比較

 

 

育成馬ブログ 日高⑧


 

○  育成馬展示会を開催しました(日高)

 

4月になり、日高地方にも春が訪れています。フキノトウが芽吹き、フクジュソウが可憐な花を咲かせました。最高気温が10度を超える日も増えて繁殖厩舎では産まれたばかりの当歳馬が元気に走りまわっています。北海道には最高のシーズンが訪れています。

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育成馬展示会を開催しました

日高育成牧場では4月13日(月)に育成馬展示会を開催しました。育成馬展示会は、JRAブリーズアップセール上場予定馬を馬主・調教師の皆様にご覧いただく機会であると同時に、生産者の皆様にJRA育成馬となった生産馬の成長ぶりを確認していただく機会でもあります。天候にも恵まれ、213名の馬主・調教師・生産者をはじめ軽種馬に携わる多くのお客様に来場していただきました。

当日は朝10時から55頭の比較展示を行い、その後1600m馬場にて44頭の騎乗供覧をご覧いただきました。比較展示ならびに騎乗供覧には軽種馬育成調教センター(BTC)の育成調教技術者養成コース32期生18名も参加しました。彼らはこれまで、育成馬を用いた初期馴致や実践騎乗研修を行い、育成馬とともに成長してきた今後を担う若者たちです。研修生たちは、比較展示や騎乗供覧を通して立派なホースマンに成長した姿を披露してくれました。

 

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比較展示の様子。55頭の育成馬を5班にわけて展示しました。各馬の担当者は普段から人馬の信頼関係を構築してよりよい展示ができるよう努力し、1人でも多くのお客様に足を止めていただけるよう頑張りました。

 

比較展示の後は1600m馬場にて44頭の騎乗供覧を行いました。併走を中心とした21組の騎乗供覧には前述のBTC研修生も騎乗しています。直近に迫ったJRAブリーズアップセールに向けて、それぞれの馬にとって無理のないスピードで現在の仕上がり具合を披露しました。

 

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内を走るのがBUセール上場番号60番 モンタナの13(牡、父:タイキシャトル)、外を走るのが上場番号62番 ヴァルネリーナの13(牡、父:サムライハート)。行く気満々の2頭の走行タイムはラスト2ハロンが13.7-11.4(秒/ハロン)でした。

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3頭併走での騎乗供覧。最内を走るのがBUセール上場番号26番 ペレブラッサムの13(牝、父:ドリームジャーニー)、中央を走るのが上場番号11番 ソフィアルージュの13(牝、父:エンパイアメーカー)、大外を走るのが上場番号29番 ウインゼフィールの13(牝、父:ハービンジャー)。綺麗に鼻面を揃えてゴール板を駆け抜けました。走行タイムはラスト2ハロンが12.7-11.9(秒/ハロン)でした。

 

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単走で迫力の走りをみせたのがBUセール上場番号25番 マルカジュリエットの13(牝、父:スウェプトオーヴァーボード)。ラスト2ハロンの走行タイムは11.7-11.2(秒/ハロン)でした。

 

 

今年のブリーズアップセールは4月28日(火)に中山競馬場で開催されます。多くのご来場者の皆様に楽しんでいただけるよう、残り少ない時間を使い育成馬の調整に全力で取り組んでまいります。

育成馬ブログ 生産編⑨「その2」

乳母付け

 

一般的に乳母付けは、性格が穏やかな品種の母馬を用いて、自身が産んだ子馬と錯覚させて行います。

一方、人工的に泌乳誘発した乳母は、自身でその年に出産していないため、錯覚を用いることは困難です。また、気性があまり穏やかではないサラブレッドを乳母として用いることも、大きな懸念材料となります。

 

出産翌日の午後、乳母付け開始です。

 

最初の顔合わせの時に、乳母ワンモアが若干威嚇するような仕草を見せたため、周囲の空気が一瞬凍りつきました。

しかし、哺乳を許容した後は、徐々に子馬を受け入れて、乳母付け後1時間もしないうちに、馬房内で保定せずに哺乳を許容し、さらには、子馬に近づこうとする人間を威嚇する仕草まで見せるようになりました。

 

あまりにあっけなく子馬を受け入れたため、身構えていたスタッフ一同は、拍子抜けするとともに、たとえサラブレッドであっても、気性によっては乳母の適正を有する馬がいることを認識し一安心ました。

 

もちろん、子馬との相性はあるのかもしれませんが、事前にこのような性格を見抜くことができれば、今後も必要な場合に適切な乳母付けができるようになるのかもしれません。

 

人工泌乳乳母の詳細については、こちらをご覧ください

 

(JRA育成牧場管理指針 生産編)

http://www.jra.go.jp/ebook/ikusei/seisan/index.html#page=44

 

(JRA育成馬日誌)

https://blog.jra.jp/ikusei/2010/03/2-b47b.html

 

https://blog.jra.jp/ikusei/2013/07/3-31c2.html

 

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乳母付け

 

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乳母として子育て中のワンモア

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

育成馬ブログ 生産編⑨「その1」

ホルモン剤で泌乳誘発した乳母の活用

 

サラブレッドの生産現場で乳母が必要なケースとしては、母馬の死亡や子馬への虐待が上げられます。海外では、泌乳量不足や母馬の他国への種付けなどに乳母が利用されることもあります。

 

日高育成牧場では、これまで、子馬を虐待する母馬や、泌乳量不足の母馬などの代用母として、人工的にホルモン剤を投与により泌乳誘発した乳母を活用してきましたが、

本年については、蹄疾患を有した母馬の代用として、この方法を用いました。

 

蹄疾患を有していたとしても、出産することは可能です。

しかし、健康な母馬と比較して、放牧地での運動量が不足するため、子馬が競走馬として成長するためには大きな弊害となります。

 

当場の繁殖牝馬ダンスウィズジェニ(以下ダンス)は、妊娠末期になっても蹄の状態が思わしくなく、このまま子馬を産んでも、放牧地で十分な運動ができないだろうと判断し、乳母付けの実施に踏み切りました。

 

乳母は18歳の空胎馬ワンモアベイビー(以下ワンモア)、これまで11頭の子馬を産み育てているベテラン母さんです。

ワンモアは、乳母として使われたことはありませんでしたが、これまでも放牧地で他の子馬に哺乳を許すなど、その適正が十分あると判断しました。

 

ダンスの予定日は3月20日。

3月初旬からワンモアに対してホルモン処置による泌乳誘発を行い、予定日前には1日あたり3リットル以上を搾乳できるようになりました。

 

予定日を10日過ぎた3月30日、無事出産、

ダンスから初乳を採取したところ、十分量の免疫グロブリンが含まれていましたが、運動不足からくるものか、乳房が硬く、子馬が十分哺乳することができません。このため、保存初乳を経鼻投与し、移行免疫不全症の予防に努めました。

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 無事出産したダンス

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保存初乳の経鼻投与

 

つづく

育成馬ブログ 日高⑦

○  春は、もうそこまで!(日高)

3月も半ばまで来ると、日高育成牧場でもさすがに最低気温がマイナス5℃を超える日はなくなりました。近年では比較的暖かかった今年の冬。雪が降るたびに「これが今年最後の雪だろう」と話しながら、春の訪れを楽しみにしつつ日々の調教に励んでいます。

 

育成馬の調教状況

さて、JRA育成馬の調教状況をお伝えします。現在も1週間の調教をパターン化してスピード調教は火曜と金曜に行い、その翌日と休み明けとなる月曜には馬をリラックスさせる目的で屋内800mトラックの調教(ハロン24-20程度で2,000~2,400m)を、木曜は長めの距離(3,200m)を乗る運動を行っています。今ではこの「1週間のパターン」が人馬ともに定着し、その曜日の目的に沿ったメリハリのある調教ができています。

スピード調教は、屋内800mトラックで1,200mのウォーミングアップ後に屋内坂路馬場を2本登坂(3ハロン54-51秒程度)しています。3月初旬からは、1本目は精神面の鍛錬を目的とした隊列を乱さない縦列調教を行い、2本目で「併走」の練習を開始しています。併走調教を始めると馬同士の走りたい気持ちが高まるため、スピードは勿論ですが馬の迫力が増してきます。これまで幼かった馬達も徐々に競走馬らしくなってきました。

 

最近の調教動画(坂路調教)をご覧下さい。

 

こちら→https://www.youtube.com/watch?v=xUFLcSEpmvc&feature=youtu.be

動画1. 屋内坂路で行った併走練習の様子。向かって右がグディニアの13(牝、父:プリサイスエンド、BU番号67)、左がウインゼフィールの13(牝、父:ハービンジャー、BU番号29)。この日のタイムは3ハロン16.7-16.9-16.8でした。

 

こちら→https://www.youtube.com/watch?v=5ZRshmoRmbM&feature=youtu.be

動画2. 同じく併走練習の様子。向かって右がシゲルハチマンタイの13(牝、父:エンパイアメーカー、BU番号30)、左がファミリア―ストーリーの13(牝、父:バゴ、BU番号54)。この日のタイムは17.7-17.5-16.8でした。

 

獣医検査を実施しました。

育成馬の調教が本格化しているなか、ブリーズアップセール開催に向けた準備も着々と進んでいます。レポジトリー(馬医療情報開示)の準備もそのひとつで、ノドの内視鏡検査や屈腱部のエコー検査、前肢の近位種子骨と飛節部のレントゲン検査等を日々行っています。

3月10日、11日には、美浦トレーニングセンター競走馬診療所の獣医職員が来場して「獣医検査」を実施しました。この検査は、育成馬の健康状態や現時点の疾病有無を確認することを目的としており、全馬の調教を見たうえで歩様の悪い馬やレポジトリー検査で所見のあった馬を詳細に検査します。育成期の疾病状況をトレセン獣医師に把握してもらうことは、セール売却後に入厩した際の「引継ぎ」になるため非常に重要な検査だと考えています。

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写真1.獣医検査風景。歩様検査や疾病確認、ノドの内視鏡検査などを行いました。医療情報に漏れがないよう、複数の目で確認します。

 

育成馬展示会を開催します

今年の育成馬展示会は4月13日(月)に開催します。当日は10時から育成馬の比較展示を行った後、1600mダート馬場において2頭併走で騎乗供覧を行います。この展示会は、セール出発前の「育成馬お披露目式」であると同時に、軽種馬育成調教センター(BTC)の育成調教技術者養成研修生の卒業イベントとしての側面も併せ持ちます。昨秋の初期馴致研修以降、育成馬の騎乗研修を通して育成馬とともに成長してきたBTC研修生たちは、この展示会を最後に立派なホースマンとしてデビューします。育成馬同様、彼らの展示・騎乗技術にも注目してください。

 

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写真2.昨年の展示会風景。今年も大勢のお客様の来場をお待ちしています!

育成馬ブログ 生産編⑧「その2」

・育成期の屈腱に関する調査

 

 JRA日高育成牧場では、3年間に亘ってJRA育成馬165頭の屈腱部の超音波検査を

実施し、若馬の屈腱部に関する調査を行いました。

 調査は、育成調教開始前の1歳9月、およびブリーズアップセール前の2歳4月の2回、

屈腱部を6つの部位に分けて、浅屈腱の断面積を測定し、左右で比較しました。

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 結果を見ると、

いずれの部位でも、浅屈腱の断面積は、1歳9月の方が大きく、2歳4月にかけて徐々に

小さくなる傾向にありました。

 また、いずれの時期も、以前にトレセンで調査した成馬の値を上回っていました。

   

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すなわち、育成期の若馬の浅屈腱は、成馬より太く、

育成調教を行う過程において、徐々に正常に近づくことがわかりました。


・育成期の屈腱の左右差

 

また、屈腱を3つの部位に分けて、左右の太さ、すなわち断面積を比較してみました。

すると、左右で断面積の差が20%以上あった馬は、1歳9月および2歳4月のいずれの時期においても、育成馬全体の20%近くに達しました。

 

 成馬においては、浅屈腱断面積に左右差が20%以上認められた場合、浅屈腱炎の前兆と考えられていますが、育成馬では、5頭に1頭にそのような所見を認めたのです。

 

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なお、このような所見を有した育成馬であっても、超音波検査で腱損傷所見が

認められない場合には、通常どおりの調教が実施されました。

 

それでは、このような左右差が認められた馬は、他の馬と比較して、競走成績は

劣っていたのでしょうか?

競走期に屈腱炎を発症したのでしょうか?

調査馬のうち、中央競馬に登録した143頭について調査したところ、

出走回数、入着回数、および浅屈腱炎の発症率に有意差はありませんでした。

 

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すなわち、育成期に屈腱が通常より太い、もしくは太さが左右で異なった場合であっても、競走期のパフォーマンスに及ぼすような病的な状態ではなく、調教運動を通して改善されていくことが分かりました。

 

なぜ、若馬の腱は一時的に太くなるのでしょうか?

今回の調査で解明することはできませんでしたが、運動や骨成長などにより、

未成熟な腱が負荷を受けた際に認められる生理的反応の1つなのかもしれません。

 

この調査は、我々が育成馬を調教していく過程で遭遇した「若馬の屈腱腫脹」について、それが病的なものか否かを解明する目的で実施したものです。

 

JRA日高育成牧場では、生産者、育成関係者、そして市場購買者の皆様が日頃から疑問に思っていることについて、今後とも育成馬を用いた科学的な調査を行っていきます。

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

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アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

 

育成馬ブログ 生産編⑧「その1」

 育成期の若馬の屈腱腫脹

 育成調教期の若馬で、「ウラがもやっとして、すっきりしない」「触わって腱が太く感じる」と表現するような、屈腱部のわずかな腫脹や帯熱を認めることはありませんか?

 我々、JRA日高育成牧場の育成馬でも、このような症状は珍しくない、一過性の現象であることを経験しています。

 

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 このような若馬に対して超音波検査を行った場合、浅屈腱が成馬と比較して太い、もしくは反対の正常肢と比較して太い所見は認められます。

 しかし、腱損傷を示す所見は認められません。

 

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 成馬においては、このような屈腱部の腫脹や帯熱は、浅屈腱炎すなわち「エビ」の症状もしくは前兆と理解されています。

 

 このため、若馬でこのような所見を認めた場合、育成調教の妨げとなるばかりではなく、市場価値の低下を招くことが懸念されます。

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 では、このような若馬の屈腱の腫脹や帯熱は、本当に屈腱炎の前兆なのでしょうか?競走期のパフォーマンスや屈腱炎発症に影響を及ぼすのでしょうか?

 

つづく

育成馬ブログ 日高⑥

○  アメニモマケズ(日高)

風ニモマケズ雪ニモ夏ノ暑サニモ負ケヌ丈夫ナ体ヲ持チ・・・。宮澤賢治さんの有名な一節が脳裏に浮かびます。立春を過ぎてからも厳しい寒さはしばらく続きますが、JRA育成馬を“心身ともに健康な馬”に鍛えるため、風の日も吹雪の日も、トレーニングを続けています。

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写真1.風雪のなか屋内坂路馬場へと向かうパキータの13(牡、父:タニノギムレット)。

 

育成馬の調教状況

さて、JRA育成馬の調教状況をお伝えします。現在も、屋内800mトラックで縦列のキャンター(1周:ハロン23秒程度)後に、手前を変えて2列縦隊でのキャンター(2周:ハロン20秒程度)を行う調教を基本メニューにしています。強負荷の調教は屋内坂路馬場で毎週火曜日と金曜日に実施しており、屋内800mトラックでキャンター2周のウォーミングアップをしてから坂路に向かいます。2月中旬には坂路で3ハロン57秒(ハロン19秒)の走行を無理なく安定してできるようになったため、坂路2本の調教(3ハロン57-54秒程度)に移行しています。現在もスピードを求めるのではなく隊列を乱さず前馬との距離を2馬身に維持することに主眼を置き、精神面の鍛錬を目指しています。調教ボリュームが増えるこの時期は、下肢部運動器疾患や飼葉を食べなくなる馬が出る時期です。各馬の体調を毎日確認しながら、個別の管理に気を緩められません。

 

最近の調教動画(坂路調教)をご覧下さい。

動画1.坂路2本目の調教映像。先頭からヨクバリージョの13(牡、父:メイショウボーラー)、アーバンライナーの13(牡、父:タニノギムレット)、フローラルホームの13(牡、父ヨハネスブルグ)、ホーマンソレイユの13(牡、父:エンパイアメーカー)。この2本目の3ハロンのタイムは19.0-17.9-17.3(秒/ハロン)でした。

 

動画2.同じく坂路2本目の映像。先頭からウインゼフィールの13(牝、父:ハービンジャー)、シゲルハチマンタイの13(牝、父:エンパイアメーカー)、クレイステルスの13(牝、父:メイショウボーラー)、ドリームチルチルの13(牝、父:アグネスデジタル)。この2本目の3ハロンのタイムは18.5-17.4-17.5(秒/ハロン)でした。

 

 

競馬学校騎手課程生徒の研修

2月初旬に競馬学校第32期騎手課程生徒の研修を実施しました。これから騎手としてデビューしていく彼らは、この研修でJRA育成馬に騎乗して競馬学校では経験できないデビュー前の若馬の騎乗を初体験します。これに加えて、民間の生産牧場や育成牧場を訪問・視察して、厳冬期の厳しい自然環境のもとでも鍛錬を続ける生産育成現場を知ってもらいます。これは、競走馬を育てるために必要な手間と労力、さらには競走馬が背負っている「様々な人の思い」を伝えることが目的です。 

生産地に滞在した時間は長くはありませんが、生徒一人一人が感じた何かを今後に活かして欲しいと思います。

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写真2.騎手課程生徒のJRA育成馬騎乗訓練。赤白の染分け帽が騎手課程生徒です。

 

トレッドミル内視鏡検査を行いました

 ブリーズアップセール上場にむけ、JRA育成馬の各種検査が始まっています。検査項目はノドの内視鏡検査や前肢屈腱部のエコー検査、前肢球節部や飛節部のX線検査などで、JRA育成馬を購買されるお客様に開示するレポジトリー資料を作成するために実施しています。

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ノドの内視鏡検査は全頭実施します。そのなかで、確認項目の1つである「喉頭片麻痺」に所見のある育成馬については、運動中の内視鏡検査を追加で実施し競走能力に影響のある所見であるか否かを判断します。日高育成牧場で行う運動時内視鏡検査は、「トレッドミル」と呼ばれるルームランナーのような機械の上で馬を走らせながら内視鏡検査を実施して、運動中のノドの様子を確認する検査です。今回、ドリームニキハートの13(牡、父:ケイムホーム、JRAホームブレッド)の安静時内視鏡検査結果に所見が見られたため、トレッドミルを用いた運動時内視鏡検査を実施しましたのでご紹介します。

ではまず、ノドの安静時内視鏡検査動画をご覧ください。

 

動画3.安静時内視鏡検査動画。中心部にあるドーム状に開いた披裂軟骨の動きに注目してください。向かって右側の披裂軟骨の動きが左側に比べて悪く、完全に開いていません。運動時にこの状態が続くと十分な酸素を取り込むことができず、競走能力を低下させることがあります。

 

続いてトレッドミルの上を走行させて実施した検査動画をご覧ください。

動画4.運動時内視鏡動画。運動中には左右両方の披裂軟骨が十分に開いていることがわかります。この状態が維持できていれば、競走能力に影響を及ぼすことはありません。

 

今回の検査で運動中のノドの状態に問題ないことが確認できましたので、JRAブリーズアップセールに上場すべく他馬と同様の調教を継続しています。なおJRAブリーズアップセールでは、レポジトリールームにおいて内視鏡動画を公開しています。

 

本州では春一番の噂も聞こえてきていますが北海道はまだまだ厳しい寒さが続いています。とはいえこの時期は育成馬がぐっと良くなる時期でもあります。ブリーズアップセールが近付き調教も本格化してきた日高育成牧場では、育成馬をご覧になられる購買関係者のご来場をお待ちしています。皆様、是非お越しくださいませ!

 

育成馬ブログ 生産編⑦ 「その2」

厳冬期の昼夜放牧が競走期パフォーマンスに及ぼす影響

それでは、厳冬期の昼夜放牧は、競走期のパフォーマンスに対して、どの程度の影響を及ぼすのでしょうか?

 

「厳冬期の昼夜放牧で体力や精神力が鍛えられる」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。実際にはどうでしょうか?

 

11月から翌年3月の冬期において、「昼夜放牧群」と「昼放牧+ウォーキングマシン(以下WM)群」に分けた2010~2012年に生まれた3世代について、現段階(2015年2月現在 3世代目は現3歳)での競走成績を比較します。

 

「昼夜放牧群」の11頭は、全て2歳で中央競馬に出走することができました。一方の「昼放牧+WM群」は、11頭のうち3頭はブリーズアップセールに欠場(理由はセール直前の跛行や、後期育成期における放牧地での事故)、7頭は中央競馬、1頭は地方競馬での2歳デビューを果たしています。

 

出走した「昼夜放牧群」と「昼放牧+WM群」の競走成績(中央および地方競馬)を比較すると、後者3頭がセールを欠場しているため、出走率では前者が上回っています。一方、出走馬(11頭 vs 8頭)で比較した出走回数、勝率、連対率、3着内率、獲得賞金は後者の方が上回っています。

 

 

出走率

1頭あたり出走回数

勝率

連対率

3着内率

獲得賞金(中央値)

昼夜群

(11頭)

100%

8.4回

45.5%

54.5%

54.5%

178万円

昼放牧

+WM群

(11頭)

72.7%

12.3回

87.5%

87.5%

87.5%

713万円

中央競馬および地方競馬における成績(2015年2月1日現在)

 

「昼夜群」と「昼放牧+WM群」の両者について、「どちらが優れているか」を単純比較することは、頭数が少ないことから容易ではありません。しかし、競走成績から考察すると両群いずれも、概ね問題ない飼養管理方法であるとも考えられます。

 

では、実際に厳冬期の子馬に対して、どちらを選択するべきなのでしょうか?

明確な答えはありませんが、厳冬期に安全に飼養できる放牧環境(凍結防止の水桶など)、牧場スタッフの人数、WMの有無、セリの上場時期など、様々な状況に応じた選択をすれば良いのかもしれません。

また、気象状況や、GPSを用いて計測した放牧地での移動距離などに応じて、放牧時間やWMの実施を選択する柔軟な対応をしてもよいのかもしれません。

 

現在、JRA日高育成牧場では、全頭に対して厳冬期の昼夜放牧を実施したうえで、「WM実施群」と「昼夜放牧のみの群」とに分けて、厳冬期の昼夜放牧における運動刺激が、馬体に及ぼす影響を調査しています。ここでも、興味深いデータが得られましたら、ご報告したいと思います。

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

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育成馬ブログ 生産編⑦ 「その1」

厳冬期の昼夜放牧

 JRA日高育成牧場では、この1~2月の厳冬期を含めて、通年昼夜放牧で子馬を管理しています。

今回はこの「厳冬期の昼夜放牧」について、馬体や競走期パフォーマンスに及ぼす影響について触れてみたいと思います。

 

馬体に及ぼす影響

現在はホームブレッド全頭に対して、厳冬期の昼夜放牧を実施していますが、2010~2012年に生まれた子馬については、11月から翌年3月まで「昼夜放牧群」と「昼放牧+ウォーキングマシン(以下WM)群」に分けて調査を行っていました。

(この期間以外は、生後1ヶ月から騎乗馴致開始前まで昼夜放牧を実施)

 

この調査によると、1~2月にかけての成長ホルモン様の作用を持つ「プロラクチン」の分泌が、昼夜放牧群では、昼放牧+WM群と比較して低い傾向にあることがわかりました。

また、心電計を用いた検査では、昼夜放牧群において、副交感神経の活動が優位、すなわち、「身体の代謝が低く抑えられている」ことがわかりました。

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すなわち、厳冬期における昼夜放牧は「子馬の成長や代謝を抑制する」との結論が示されました。

 

しかし、実際の馬体成長を比較してみると、体重、体高、胸囲、管囲のいずれの増加率も両群で有意差がないことがわかりました。

このことから、厳冬期の昼夜放牧を実施した場合、たとえ、プロラクチンの分泌濃度が低くても、「馬体の成長に及ぼす程の影響はなかった」と考えられました。

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あえて、馬体に及ぼす影響をあげるなら、冬毛が伸びるため、春時期においても毛づやの悪さが目立つことかもしれません。

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(次回につづく)