育成馬ブログ 生産編④

馬鼻肺炎ワクチンの効果

 

昨シーズンの日高管内における

馬鼻肺炎による流産発生頭数は例年より多い53頭、

今シーズンも1月14日時点ですでに9頭の発生が報告されています。

 

馬鼻肺炎の流産に対しては、

「適切な飼養管理(妊娠馬の隔離など)」

「ワクチン接種」

「流産発生を想定した準備」

が予防策の3本柱として極めて重要であり、

このうち1つでも欠かすことができません。

 

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馬鼻肺炎の流産予防策の3本柱

 

このうちのワクチンについては、

正確な知識を持ったうえで

適切に接種することが馬の飼養管理者には求められます。

生産現場でこのような話を耳にすることがあります。

「馬鼻肺炎のワクチンは流産予防に効果がないのではないか?」

「ワクチン接種が流産をおこすのではないか?」

始めにお断りしておきますが、

これらの話は明らかに間違っています。

特に後者、

「ワクチン接種が流産を引き起こすこと」

は絶対にありません。

 

しかし、流産発生状況を見てみると、

ワクチン接種馬でも流産しています。

このことから、

ワクチンの流産予防効果を疑う人がいても

何ら不思議ではありません。

ワクチンの効果については

「馬鼻肺炎ウイルスの流産に対しては、

ワクチンでは完全には予防することができない」

というのが正確なところです。

 

では、なぜ完全に予防することができないのでしょうか?

それは馬鼻肺炎ウイルス(以下、EHV-1)の特性にあります。

EHV-1は免疫回避能力に長けているウイルスなのです。

どういうことでしょうか?

 

多くのウイルスや細菌などの病原体は、

免疫が備わったウマの体内に入った際には、

抗体や白血球などによる攻撃を受けることで

死滅もしくは病原性が減弱します。

 

一方、EHV-1の場合は

ウマのリンパ球内に入り込んで隠れることで、

抗体や白血球による攻撃から逃れ、

血液を介して子宮・胎盤にまで到達して流産を引き起こします。

したがって、ワクチンで十分な免疫が誘導されていても

流産が起こる場合があるのです。

  

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EHV-1は免疫による攻撃を逃れる性質を有している。

  

だからといって

ワクチン接種が意味をなさないわけではありません。

馬鼻肺炎ワクチンに認められている重要な効果の1つに、

感染・発症したウマの鼻からのウイルス拡散の防止効果があります。

 

この効果をもたらす、

免疫のメカニズムの詳細は明らかではありませんが、

鼻粘膜において、リンパ球に入る前、

あるいはリンパ球から粘膜細胞に移行する際に

外に出たEHV-1を、

ワクチンによって誘導された抗体が攻撃することが

関与しているのかもしれません。

 

 

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リンパ球の外に出たEHV-1を抗体や免疫細胞が攻撃する。

  

過去のブログ

https://blog.jra.jp/ikusei/2016/02/post-5999.html

でも触れたように、

EHV-1は多くのウマの神経節やリンパ節に潜伏しており、

それらが「再活性化」することで体内に拡がり

呼吸器症状や流産を引き起こします。

ただし、

再活性化は比較的多くのウマで

頻繁に起こっているらしいのですが、

流産発生頭数を考えると

「再活性化=必ず流産」ということではなさそうです。

 

しかし、1頭のウマが再活性化したEHV-1を

鼻からバラ撒くことで同居馬への感染が拡がり、

厩舎全体さらには牧場全体のウイルス量が増加することで、

流産発生リスクは確実に高まります。

このことから、ワクチン接種の効果としては、

再活性化した1頭のウマからの

ウイルス拡散を抑えることができて、

厩舎全体あるいは牧場全体の感染リスク、

ひいては流産発生リスクを減少させることだと考えられます。

 

ですから、

牧場内のワクチン接種プログラムを考慮する場合には、

「一部の妊娠馬だけ接種する」

「同居している空胎馬や当て馬には接種しない」

などといった考え方は、

このワクチンの効果的な使用法とは言えません。

可能な限り牧場全体のウマに接種することが望ましいのですが、

最低限、妊娠馬だけを他のウマから隔離した厩舎で飼養し、

妊娠馬全頭に確実にワクチンを接種する方法が推奨されます。

 

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ワクチンではEHV-1の再活性化を防げないが、

ウイルス拡散を抑えることはできる。

  

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育成馬ブログ 日高③

○  本年もよろしくお願いいたします(日高)

 

日高育成牧場から本年最初の投稿となります。

昨年に引き続き、

同ブログならびにJRA育成馬をよろしくお願いします。

 

今年も1月5日の金杯から中央競馬がスタートしましたが、

この日の京都12レースで

JRA育成馬のオールインワン号が3勝目をあげ、

幸先の良いスタートを切る事ができました。

オーナーはじめ関係者の皆さま、おめでとうございます!

 

さて、JRA育成馬たちは

この年末年始を放牧とウォーキングマシン運動で過ごしました。

短期休養でリフレッシュした育成馬たちは

4日から通常調教を再開しています。

今回は、育成馬達の近況と年末年始のトピックスをお伝えします。

                       

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写真1.調教後のクーリングダウンで屋内馬場の外周を歩く育成馬。

トレーニング後に日高の澄んだ空気を吸うと人馬共にリラックスできます。

  

 

育成馬の近況

 

まずはJRA育成馬の近況をお伝えします。

昨年内は騎乗馴致を開始した時期ごとに

3群にわけて調教を行っていましたが、

全馬の足並みが揃った現在は皆が同じメニューをこなしています。

 

基本メニューは

屋内800mトラックをキャンター1周(縦列:ハロン22秒程度)した後、

手前を変えてキャンター2周(2列縦隊:ハロン20秒程度)する調教です。

12月以降はこれに加えて週2回の坂路調教も行っています。

 

1月現在、坂路調教日には

屋内800mトラックでウォーミングアップ

(キャンター2周:ハロン22秒程度)をしてから、

1000m坂路1本(ラスト3ハロンを20-20-20秒)を駆けあがっています。

 

調教時には定期的に心拍数の測定と血中乳酸値の測定を行い、

馬の体力を見た目(客観的データ)だけでなく

科学的指標でも判断するようにしています。

当初はハロン20秒のイーブンペースのキャンターで

息を切らして汗まみれになっていた馬たちも、

現在は爽やかな顔をして登坂できています。

心拍数や血中乳酸値の値からも馬の成長が伺えるので、

間もなく次のステップに進むことができそうです。

 

 

動画1.坂路調教映像。先頭馬は馬場の中央を真直ぐ走行し、

後続馬は前馬の真後ろでじっと我慢して走行することを目標にしています。

先頭を走るのはオウバイの15(牡、父:トーセンホマレボシ)。

 

  

浦河および荻伏軽種馬生産振興会青年部の視察

 

続いて年末年始のトピックスを紹介します。

昨年12月6日、浦河・荻伏地区の青年部メンバーによる

育成馬見学会が行われました。

当日は青年部メンバーがピックアップした

21頭の育成馬を比較展示し、

あわせて800m馬場での調教風景も見ていただきました。

生産者やコンサイナーである青年部メンバーと

様々な意見交換を行うことができ、

私たちにとってもとても良い刺激になりました。

是非また見に来ていただければと考えています。

 

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写真2.育成馬の展示風景。3~4頭にわけた比較展示を行いました。

 

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写真3.調教風景。角馬場で準備運動を行った後、

800m馬場で調教を視察してもらいました。

  

 

BTC利用者との意見交換会

 

続く12月8日、当場で恒例となった

“BTC利用者との育成に関する意見交換会”を開催しました。

テーマは前年のアンケート結果から

「若馬のゲート馴致について」を選びました。

当日は競馬開催時に発走委員として執務しているJRA職員も出席して、

①JRA育成馬のゲート馴致

②トレセン入厩に向けたゲート練習

についての話題提供を行ってから会場の参加者と意見を出し合いました。

 

今回、特に白熱した意見交換が行われたのは、

ゲートから馬を後退させて後扉から出す

「後出し馴致の活用法」と、

「ゲートが怖くなってしまった馬の矯正方法」です。

ゲート馴致に対する考え方や

ゲート試験に向けたアプローチは様々ですが、

育成に携わる参加者同士で意見交換を行う非常に有意義な時間となりました。

 

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写真4.意見交換会当日の風景

  

 

騎馬参拝

 

元旦翌日の1月2日、

こちらも恒例となった「騎馬参拝」が行われました。

人馬の無病息災を祈願するため、

日高育成牧場から西舎神社まで乗馬に騎乗して参拝します。

今年は好天に恵まれ、

多数の参拝者が見守る中を全馬無事に参拝することができました。

人馬ともに怪我のない1年になることを祈っています。

 

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写真5.騎馬参拝に臨む人馬

  

寒さも厳しくなって参りましたが、

是非ともJRA育成馬の姿を見にお越しください。

日高育成牧場では、皆様のご来場をお待ちしております!

 

育成馬ブログ 生産編③「その2」

おとなしい馬?or うるさい馬? その2

 

ブルーシート馴致を実施して、

当場の子馬5頭を刺激に対する反応で

大きく2つのグループに分けることができました。

 

今回は「刺激に対する反応」という

性格の1面のみにフォーカスしていますが、

結局のところ「おとなしい」と表現されている馬は、

「様々な刺激に対する反応が少ない、もしくは遅い」

「多くの刺激を過去に受けており、鈍感になっている」

「人に従順」

「活力(元気)がない」

などのうちのどれか、もしくはいくつかが重複しているのかもしれません。

 

一方、「うるさい」と表現される馬は、

「様々な刺激に対する反応が敏感で早い」

「様々な刺激に対する経験に乏しい」

「こわがり」

「テンションがあがりやすい」

「人の指示に従わず自己主張してくる」

「人の指示を理解できない」

「活力(元気)がある」

などがあげられるかもしれません。

  

このように考えると、

馬の性格を「おとなしい」と「うるさい」の

単純な二元論では分けられないことが理解できますし、

いくつかの性格に関しては、

生まれ持った性質である一方で、

残りのそれはトレーニングや人の接し方で

反対側の性格に変えることも可能です。

 

競走馬や将来競走馬になる育成馬にとって

必要な性格を上から選択していくと、

「人に従順」

「活力(元気)がある」

などは異論がないかもしれません。

 

それでは「刺激に対する反応」については、いかがでしょうか? 

観光用の乗馬であれば、

乗馬未経験者が騎乗する機会が多いため、

むしろ「反応が遅い、鈍感」の馬が適しているのかもしれません。

 

しかし、競走馬は

「素早くゲートから出る」

「ゴール前一瞬のスピードで前の馬をとらえる」

など、どちらかというと刺激に対しては敏感で反応が素早く、

状況によってはテンションが上がり易い性格も1つの武器になりえます。

 

このため、このようなサラブレッド特有の

「反応の過敏さ」と上手くつきあっていくことが、

競走馬や育成馬を取り扱う人間には求められるのです。

 

例えば、騎乗馴致やゲートなど

競走馬になるために避けて通れないいくつかのステップについては、

個々の性格を考慮して、

馬によっては他の馬よりも、

ゆっくり時間をかけて経験させることが重要です。

 

また、馬の過敏な反応に人間が呼応しないことも重要です。

怖がって反応している馬に対して、

扱う人間が同じように過敏に反応してしまっては、

さらに馬の恐怖は増幅されます。

このため、人間は泰然自若として、

落ち着いた態度で接することで、

馬を落ち着かせることが必要となります。

むしろ、馬は恐怖を感じる状況で、

落ち着いた態度をとる人間をリーダーとして認めます。

 

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馬の過敏な反応に人間が呼応しない

 

 

そういう意味では、恐怖を感じている馬に対して、

人間が短気を起こして怒ることは

全くもって逆の事をしているといえます。

このようなことから、

サラブレッド競走馬を取り扱う人には、

個々の馬の性格や馬が何を感じているのかを把握し、

それに応じた対応をとることができる

一定の技量と豊富な経験、

そして冷静で落ち着いた態度が必要なのかもしれません。

 

「うるさい馬」とは本当はどのような性格か、

なぜ「うるさく」感じられるのか、

今一度、馬と向き合って考える時間を設けてみてはいかがでしょうか。

 

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育成馬ブログ 生産編③「その1」

おとなしい馬?or うるさい馬? その1

 

競走馬や育成馬の個々の性格を語る際に、

彼ら(彼女ら)を取り扱う人が

「おとなしい馬」と「うるさい馬」

の二元論で表現することが時々あります

(以前と比較して随分と少なくなった気がしますが)。

果たしてこれは正しい表現方法なのでしょうか?

 

おそらく、もっと多くの表現方法があるはずですし、

たとえ1頭の馬でも、

場所や状況に応じて雰囲気や態度が異なることもあると思います。

今回の当欄では、馬の様々な性格に関して、

人間がどのように向き合っていったら良いのか、

当場の子馬達の現在の様子を紹介しながら、

考えていきたいと思います。

 

本年産のJRAホームブレッド5頭は

12月現在で8~9か月齢、

離乳後に現在の放牧地に移動してきてから

3か月以上が経過しました。

 

前回のブログで紹介したように、

どの馬も「集放牧時の駐立や常歩検査の練習」、

「後膝レントゲン馴致」を問題なくこなします。

  

毎月1回実施しているノドの内視鏡検査も、

軽く鼻をつまむだけで素直に受け入れてくれます。

鼻粘膜を傷つけるほど強引に内視鏡を挿入しない限り、

痛みを伴う検査でもないので、

鼻捻子を使用しませんし、枠馬にも入れません。

  

 

当歳馬の内視鏡

  

このように、こちらの要求の多くを受け入れてくれる子馬達にも、

さらなる経験を積ませたいとの考えから、

新たにブルーシートを用いた引き馬を始めました。

 

これは、いつもの集放牧の際に、

ブルーシートの上を歩かせるという単純なものですが、

歩く際のシートのガサガサした音や、

時折風に煽られて膨れ上がるシートに

恐怖を感じて近寄らない馬もいるほどで、

彼らにとって難易度は低くなさそうです。

  

しかし、実施後2週間が経過すると、

面白い傾向を観察することができました。

当たり前のことかもしれませんが、

5頭(①~⑤)それぞれの反応が異なるのです。

 

 

当歳ブルーシート馴致

  

①全く反応せずに躊躇なく通過

②多少気にするが躊躇なく通過

③警戒心強く近寄らず、怖がりながら通過

④警戒心強く、なかなか近寄らず、一歩一歩慎重に、怖がりながら通過

⑤警戒心かなり強く、全く近寄らず、一歩一歩慎重に、怖がりながら通過

  

この5頭をあえて2つのグループに分けると、

①と②のように

「新たな刺激に対して恐怖を感じることが少なく、

受け入れが早いグループ」と、

③~⑤の馬のように

「新たな刺激に対して恐怖を感じやすく、

テンションがあがりやすいグループ」になるかと思います。

  

つづく

育成馬ブログ 日高②

○  寒くても元気いっぱい!(日高)

 

日高育成牧場のある浦河町では、

例年よりかなり早い10月20日に初雪が降りました。

その後も道路上に「根雪」はないものの、

11月末には終日気温があがることなく

最低気温が氷点を下回る毎日です。

寒さが日々厳しくなっている北海道から、

元気いっぱい調教に励む育成馬の近況をお伝えします。

  

育成馬の近況

 

JRA育成馬の近況をお伝えします。

最初に馴致を終了した第1群(牡23頭)は、

屋外1600mダート馬場での縦列調教(1周:ハロン20秒程度)を

繰り返し実施しています。

屋内800m馬場に比べて

外部からの様々な刺激を受けやすい屋外馬場で、

落ち着いた縦列走行ができています。

 

この時期の調教の基礎である、

①前に(Go forward)

②真っ直ぐ(Go straight)

③落ち着いて(Go calmly)

走行することができ、力強さも感じられるようになってきました。

 

動画1.屋外1600m馬場で駈歩調教を行う牡馬。

先頭からムツミマーベラスの15(父:ヴァーミリアン)、

サワヤカブランの15(父:ルーラーシップ)、

フローラルホームの15(父:バゴ)、

ルカダンスの15(父:エイシンフラッシュ)、

カネトシフィオーレの15(父:プリサイスエンド)。

 

また、10月に入って馴致を開始した第2群(牝22頭)は、

これまで屋内トラックにおいて、

ハロン26-24秒程度で1周(縦列)+2周(2列縦隊)

の調教を繰り返してきました。

当初は真っ直ぐ走れない、

または馬群を気にして落ち着かない馬もいましたが、

現在は綺麗な隊列で安定した(真っ直ぐ:Go straight)走行ができています。

11月中旬からは順次、

屋外1600mダート馬場でのキャンターも開始しています。

 

 

動画2.屋内800m馬場で駈歩調教を行う牝馬。

先頭内レディーロックフォードの15(父:ヨハネスブルグ)、

先頭外マイネレーヌの15(父:ビクトワールピサ)、

2列目内マイネナデシコの15(父:ゴールドアリュール)、

2列目外アサクサコンソメの15(父:ハービンジャー)。

 

最後に馴致を開始した第3群(牡11頭、牝4頭)も

極めて順調に調教が進んでいます

既に800m屋内トラックでの基礎固めは終了しており、

年内に無理なく1・2群と合流できそうです。

  

トレッドミルを導入しました

 

この11月、日高育成牧場育成馬厩舎に

馬用トレッドミルが導入されました。

既存の研究用トレッドミルに比べ簡易なタイプですが、

育成厩舎横に設置されたことで

日常管理の中での使用が可能となりました。

 

現在は主に疾病からの立ち上げが必要な

育成馬のリハビリ用に使用していますが、

次年度からは騎乗馴致前の基礎体力作りへの

応用なども検討しています。

これから様々なデータをとりつつ、

より良い使用方法を検討しようと思います。

新しい知見が得られた際には同ブログでも報告します。

   

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写真1.トレッドミル運動でのリハビリに臨む育成馬。

胸に巻いているのはハートレートモニターで、

運動中の心拍数をモニタリングします。

 

 

動画3.トレッドミル運動中の育成馬。

人が騎乗せずに落ち着いてまっすぐ走ることができるので、

運動器疾患からのリハビリにとても有効です。

  

育成馬検査を実施しました

 

11月8日・9日にJRA馬事部生産育成対策室の職員が来場し、

育成馬検査を行いました。

例年11月と翌年の1月に実施するこの検査は、

育成馬の成長度合いや調教状態を把握することを目的に実施しており、

あわせてベストターンドアウト賞の審査も実施しています。

 

この検査で実施するベストターンドアウト賞の審査基準は、

「馬のしつけと手入れが行き届き、かつ人馬の一体感を感じさせる

展示・引き馬・調教が行えていること」です。

育成馬の視察でお客様や生産牧場の関係者が来場した際に、

気持ちよく見て頂く準備ができているか否かを確認し、

受賞できなかった人馬には何が不足していたのか、

これまでの日々を振り返る良い機会となります。

お客様に馬を見ていただけるチャンスを最大限に活かすため、

今後も継続していきたいと考えております。

 

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写真2.育成馬検査風景。悪天候のため、

今回は角馬場横の通路で馬を展示しました。

 

寒さも厳しくなってきましたが、

是非ともJRA育成馬の姿を見にお越しください。

皆様のご来場をお待ちしております!

育成馬ブログ 生産編②「その2」

3.後膝のレントゲンの馴致

 

市場レポジトリーでは、

購買者から後膝のレントゲンが求められるようになりました。

もちろん、上場しない場合であっても、

この部位の撮影を実施する機会は少なくありません。

 

一方、後膝や股間にレントゲンのカセットが触れて馬が蹴り上げて、

撮影者や撮影補助者が大怪我をするケースも少なくありません。

このため、まだ体が小さく、力が弱い当歳のこの時期に

後膝のレントゲンの馴致を実施することをおすすめします。

 

敏感な馬については、最初はタオルパッティングから実施し、

徐々にカセットに慣れさせていきましょう。

 


YouTube: 後膝レントゲン検査の馴致

 

(※タオルパッティングを用いた方法については、こちらをご覧ください)

https://blog.jra.jp/ikusei/2016/03/post-84bd.html

  

 

当歳馬の躾の基本的な考え方

 

以上の躾の基本的な考え方は、

「人間が馬に求めていることは、

危険なものでも痛みを伴うものでもないと、馬に納得させること」です。

  

例えば、レントゲンのカセットが股間に触れたところで、

痛みを感じる馬はいません。

これまで触られたことが無い部位であり、

本能的に「何か痛い目に遭うのではないか」と、

恐怖を感じているだけです。

 

他の馬と離れて不安を感じるのは、

自分だけ群と離れて、守ってくれる馬がおらず、

痛い目に遭わされるのではないかと、

恐怖を感じているだけです。

  

このため、人間が馬に対して

「カセットが股間に触れても痛くないこと」

「1頭だけで残されても人間が安心感を与えてくれること」

を納得させることが、

人馬の信頼関係の構築に繋がります。

  

紀元前の哲学者クセノフォンは、

「馬を群衆に慣れさせる方法は、

馬を群衆のいるところに連れていき、

騒音や目に見えるものすべてが

怖いものではないということを教えることだ」と言っています。

2000年以上、

連綿と世界中のホースマンに受け継がれてきた

馬の躾の基本方針ですね。

                          

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育成馬ブログ 生産編②「その1」

・離乳後、当歳馬をしつけるための「3つの方法」

 

離乳直後の当歳馬は、

「母馬」という絶大な安心感を喪失するため、

少なからず精神的に不安定な状態に陥ります。

このため、馬によっては

離乳後に取扱いが困難になる場合もあり、

これまで以上に人に対する信頼感や

安心感を育む努力が必要になります。

  

一方、放牧地で十分な青草を食べながら、

他の馬たちと一緒に自発的な運動をすることが、

この時期の子馬の健康な成長にとって必要不可欠であるため、

必然的に人間と接する時間は限られます。

このため、短時間で効果的な躾を実施することが求められます。

  

そこで、今回の育成馬ブログでは、

離乳後の当歳に対して日高育成牧場で実施している

「集放牧の時間を利用した躾」について、

3つの方法をご紹介します。

毎日継続して、これらを実施することで、

人馬の信頼関係をしっかり構築していくことができます。

  

1.間隔を離した引き馬

 

集放牧時、群のままで前の馬との間隔をつめる引き馬では、

馬は落ち着いて歩きます。

しかし、場合によっては、引いている人ではなく、

前の馬をリーダーとして認識しています。

このため、前の馬との間隔を空けることで、

引いている人がリーダーとなり、人馬の関係を構築します。

「常に馬の意識を人間に向けさせること」を念頭に置き、

前に歩かない馬や、逆に前に行きたがる馬の場合、

引いている人が馬のスピードをコントロールしましょう。

 

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前の馬との間隔を空けた引き馬

  

2.駐立・常歩展示の練習

 

集放牧時に、

放牧地と厩舎の途中で駐立・常歩展示の練習をします。

重要なことは、必ず1頭で実施することです。

落ち着くからといって、

他の馬を近くに残しておくことは、「全く意味がありません」。

馬が寂しがったとしても、

人間がリーダーとなって安心感を与えましょう。

 

駐立および常歩展示、

いずれの場合であっても重要なことは、

「人と馬の距離感」です。

特にリード(引き綱)はゆったりと保持し、

決して短く保持して

無理矢理抑え付けることがないように気を付けましょう。

ここでも同様に、

馬の意識を人間に向けさせることがポイントになります。

 


YouTube: 駐立展示の練習

 

 


YouTube: 常歩展示の練習

 

つづく

育成馬ブログ 日高①

○  今シーズンのJRA育成馬が揃いました!(日高)

  

今年の異常気象、ここ北海道も例外ではありません。

6月には100ミリ以上の大雨が4回もみられ、

それ以降も台風による「記録的大雨」が

道内各地に大きな被害をもたらしました。

 

そうかと思えばサマーセール終了後の9月になっても、

熱中症に注意が必要な猛暑日がみられました。

気候は不順となりましたが、

JRA育成馬は皆ここまで順調に成長しています。

 

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写真1.放牧地で朝を迎えたJRA育成馬たち。

一晩中、牧草を食べ歩いた疲れからか、迎えに行っても起きようとしません。

  

 

1歳市場「サマーセール」が終了しました

 

8月末、この時期の風物詩ともいえる

国内最大規模の1歳馬市場「サマーセール」が

北海道市場で開催されました。

 

今年は例年より1日長い5日間(8月22日~26日)のスケジュールで、

1,267頭の1歳馬が上場されました。

JRAはこのセールで55頭の育成馬を購買し、

そのうち43頭が日高育成牧場に入厩しています。

 

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写真2.サマーセール当日の購買馬検査。

天気はイマイチでしたが素晴らしい1歳馬を購買できました。

今から期待が膨らみます!

 

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写真3.サマーセール購買馬(牝馬)の入厩直後の放牧風景。

  

 

今年もサマーセール事前検査を実施しました

 

サマーセール当日は朝8時から比較展示が行われ、

11時半からセリがはじまります。

購買者は午前中の展示時間を使って、

セリ名簿と実馬の馬体や健康状態、

性格などを見比べて購買候補馬を決定します。

 

一般的な購買者は馬を選定してから検査するため

時間的に余裕がありますが、

JRAのようにすべての馬を確認するとなると時間が足りません。

 

そこでJRAでは、

今年も上場馬を多く預託しているコンサイナーにお願いして

事前の検査をさせてもらいました。

今年は45の牧場で709頭の検査をさせてもらいました。

協力していただきましたコンサイナーの皆様には、

この場を借りて御礼申し上げます。

 

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写真4.事前検査ではJRAの獣医・装蹄職員が購買候補馬を選定しました。

  

  

オータムセールも終了しました

 

10月3日から開催されたオータムセールにおいて、

JRAは2頭の1歳馬を購買しました。

今年のセールは活況かつ熱気あふれたものとなり、

JRAもかなり苦戦しながらの購買となりました。

JRAはオータムセール終了時点で合計74頭の1歳馬を購買し、

7月上旬の八戸市場からスタートした今年の育成馬購買が終了しました。

  

騎乗馴致を開始しています

 

10月6日現在、日高育成牧場には

60頭(市場購買馬54頭、JRAホームブレッド6頭)の

1歳馬が入厩しています。

 

このうち牡馬23頭は、9月5日から騎乗馴致を開始しました。

馴致の流れや方法は例年とほぼ同じなのですが、

年々馬が大人しく扱いやすくなっていると感じます。

今年の牡馬23頭も殆ど問題なく、

スムーズに騎乗まで進めることができました。

 

10月3日からは牝馬22頭の騎乗馴致を開始していますが、

こちらも油断することなく、人馬ともに安全に進めていきたいと思います。

  


YouTube: 第1群の調教風景

動画1.馴致開始から19日目の調教状況(牡馬)。

前の馬について落ち着いて走ることができています。

  

 

BTC研修生の馴致研修を行っています

 

日高育成牧場では今年も、

BTC(軽種馬育成調教センター)の

育成調教技術研修生の馴致実習を受け入れ、

現在34期生20名が研修しています。

 

研修生には入学するまで馬に接したことのなかった生徒も多く、

若馬を取扱うのはJRAでの研修がはじめてです。

育成馬と日々触れ合い、

実際に騎乗馴致を行うことで

多くのことを吸収してほしいと思います。  

 

Photo_5

写真5.乗馬を使って馴致練習をする研修生。

研修では実際のJRA育成馬を用いた騎乗馴致にも携わりました。

  

今回は以上です。

北海道は現在、季節の変わり目で気温も下がりはじめています。

次回のブログでは寒さの中で元気に成長している

育成馬達の調教動画を中心にお伝えしようと思います。

育成馬ブログ 生産編①

離乳後の当歳馬たち

 

9月中旬、ようやく北海道らしい涼しい気候になり、

日高育成牧場の当歳馬5頭は、

大きな病気もなく、順調に成長しています。

 

すべての当歳は8月末までに離乳が終了しており、

現在は「保母役」の牝馬(繁殖を引退した19歳の馬)に

見守られながら、22時間の昼夜放牧をしています。

  

9月15日現在、

放牧地の青草と1日1kgのバランサータイプの飼料のみで、

ADG(1日あたりの体重増加量)は

0.8~1.0kg/日と安定して推移しています。

  

心地よい気候の中で、

夢中で青草を食べる当歳馬達を見ていると、

この離乳期の当歳にとって放牧地の青草が

何よりも重要であることを実感します。

  

1 

 「保母役」の牝馬と当歳たち

 

2

虹をバックに青草を食べる当歳たち

  

  

ローソニア感染症に注意!!

 

この時期の当歳馬にとって、注意しなくてはならない病気は

「ローソニア感染症」です。

  

ローソニア感染症は、

Lawsonia Intracellurarisという細菌による感染症で、

症状は、

・元気消失

・食欲不振

・体重減少・削痩

・発熱(39℃以上)

・毛艶悪化

・皮下浮腫

・下痢

・軽度の疝痛

など多岐にわたります。

 

3

ローソニア感染症の主な症状

  

  

ただし、注意が必要なのは、下痢や浮腫などの症状がなく、

食欲低下や体重減少のみが認められる感染馬もいるということです。

また、当歳馬だけではなく、1歳馬も発症することがあります。

  

血液検査をすると、

特徴的な「低タンパク血症」を確認することができますので、

上記の症状を認めた場合には、

早めに獣医師に検査してもらうことが重要です。

 

なぜなら、重篤化した場合、

抗生物質を長期間投与することに加え、

大幅な体重減少・削痩により市場価値が低下し、

場合によっては死亡例も認められるためです。

  

この病気は、離乳や寒冷によるストレスが

引き金になっていると言われていますが、

現在までのところ感染経路や発症要因などは十分わかっていません。

  

なお、ワクチン接種の予防効果がある程度認められています。

当歳馬に投与する場合には、

離乳ストレスによる発症を予防する目的で、

離乳前に接種するとよいでしょう。

  

いまだに感染経路や発症要因が

解明されていない本疾患に対しては、

「早期発見・早期治療」と「ワクチン接種」が

被害を最小限度に止めるための重要な措置と言えます。

 

4

ローソニアワクチンの接種

  

  

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

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育成馬ブログ 生産編⑩「その2」

人工哺乳の方法 ~躾の観点から~

 

人工乳を与える場合には、躾(しつけ)の観点から、

人間の関与を最小限にする工夫が必要になります。

あまりに熱心に与えた場合、

結果として子馬が人に危害を及ぼすリスクを生じることがあります。

 

子馬が、どこにいくにも人間についてきたり、

衣類を噛んだり、ぶつかってきたり、立ち上がったり、

乗っかったりするなどの行動は、

小さいうちは問題ありませんが、

大きくなった際にはきわめて危険です。

さらに、成馬になった時に、

人間をリスペクトせずに問題行動を起こすことがあります。

 

このことから、出産直後は哺乳瓶を使用せざるを得ませんが、

翌日以降はバケツから飲むように馴致を開始し、

できるだけ早く哺乳瓶の使用を終了させることが望まれます。

 

また、バケツから飲むようになったら、

馬房壁などに設置した飼い桶などから、

子馬自身が飲むようにさせることもできます(動画参照)。

 

また、早い時期からミルクペレットやクリープフィードなどの

固形飼料を食べさせてもよいでしょう。

 

3

                 人工哺乳は人間の関与を最小限にすることが重要

 

 

飼い桶からミルクを飲む子馬(Youtube)

  

これに加えて、

放牧地で他の複数組の母子と一緒に過ごす時間を

なるべく長くとりましょう。

 

子馬は群(むれ)の中で、

「馬としての社会性」を学習することができ、

結果として人間をリスペクトする性質を身につけることも可能となります。

  

4

子馬は群(むれ)の中で、「馬としての社会性」を学習する。

  

5

本年出産のJRAホームブレッド タキオンメーカーの16(父アルデバラン)

初産で乳房の発達が悪かったため、

出産直後は人工哺乳を併用しましたが、

母馬に大事に育てられ、順調に成長してます。

  

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