JRA育成馬の近況(日高)

今回はJRA育成馬たちの近況を紹介したいと思います。

12群の牡馬は1221日より2本の坂路調教を行っています。坂路2本は若馬にとってかなり強い運動負荷となるため、例年開始時期には頭を悩ませていますが、本年度は馬の動きや手応え、調教後の息遣いや息の入りなどから十分に体力がついていると判断して、初めて年内に2本目の坂路調教を試みました。1本目は集団でハロン22秒程度、2本目は2-3頭併走でハロン18秒程度の速度で、もったまま楽な手応えで駆け上がってきます。

13群の牝馬は屋内800mトラックで1000mの駈歩を行った後に、集団でハロン20秒程度の坂路調教を1本行っています。牝馬は運動強度が上がると特に飼葉食いが悪くなる場合があるので、様子を見ながら慎重に調教を進めています。

4群の馬は屋内800mトラックで、ハロン24秒程度の速度で、距離を伸ばして1600mの駈歩を行っています。今後、馬の状態を見ながら調教進度を上げていきたいと思っています。

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2本目の坂路をハロン18程度で併走する第12群の牡馬。右はマイネマリエの06(牡:父バブルガムフェロー)、左はリッショウスキーの06(牡:父ジャングルポケット)。

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集団で坂路調教を行う第1,3群の牝馬。先頭右端はミロヴァダンスの06(牝:父スペシャルウイーク)、中央はダンシングザードの06(牝:父ネオユニヴァース)、左端はチッキーズディスコの06(牝:父シンボリクリスエス)

本年度は前の馬について我慢することや馬込みの中でも折り合いをつけることを目的として、屋内800mトラックでも集団調教を行っています。直線の坂路と違い、コーナーが結構きついため、騎乗者の技量は要求されますが、有効な隊列ではないかと思っています。

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800m屋内トラックで集団調教する第12群の牡馬。先頭の右はシュバルブランの06(牡:父シルバーチャーム)、左はシラーの06(牡:父マイネルラヴ)

例年、跛行等の運動器疾患で長期の戦線離脱を余儀なくされる馬に悩まされるのですが、幸いなことに現在のところ全頭が順調に調教を実施しています。本年度は体力のある馬はより強く、無理をしない方がよいと判断した馬はゆっくりというように、個体の状態により調教進度の差を大きく設けていることが特徴です。また、毎日ウォーキングマシンを活用し、運動時間を長くしていることや馬場管理もこの結果に結びついているのではないかと考えています。

屋内800mトラックはオイルコーティングした砂にゴムチップを混ぜたオイルサンドという素材で、今話題のポリトラックにちょっと似た特性を持つ馬場です。馬場管理は調教の合間に2回と終了後の計3回ミキシングハローを用いて蹄跡を均し、ミスステップが起きにくいようにしています。また、定期的な散水やレベルハローを掛けてクッション砂厚を10cmの均等な深さに保つことで、常にクッション性がよく、しかもグリップ力に優れた馬場を維持できるように努めています。

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ミキシングハローはクッション砂をほぐす爪ハローと転圧するローラーを組み合わせたハローです。左はハロー掛け後の状態です。

今回で育成馬日誌の担当は最後になります。次回からは後任が引き継ぎますので、今後ともよろしくお願いいたします。

 

BTC利用者との意見交換会(日高)

今年5回目を迎えたBTC利用者との意見交換会は、「坂路調教の効果と馬場の特性」というテーマで1212日(水)に行いました。昨年700mから1000mに延長したことで調教強度が増して、トレーニング効果が上がった坂路馬場、今注目されているニューポリトラックを含めた馬場の特性等、安全かつ効果的なトレーニングをコンセプトに意見交換を行いました。このように利用者同士がお互いに刺激を与えあえる環境にあることがBTCの強みであり、利用馬の活躍にも繋がっているのではないかと思います。

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意見交換会風景:気楽に参加できるのがこの会の特徴です。

また、1129日(木)には総研から笠嶋研究役を招いて、獣医師を対象として不治の病といわれる屈腱炎について技術講習会を開催しました。胸骨の骨髄液を採取して、培養した幹細胞を移植する屈腱の再生療法への関心は高く、特に再生療法は万能な特効薬ではなく、正しい知識を理解したうえで治療を行う必要があるという言葉が印象的でした。

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胸骨の骨髄液を採取する場所をエコーで確認しているところ。第3あるいは第4胸骨腔から採取します。

JRA育成馬の紹介はこれまで馴致開始の早い第1・2群を中心にお伝えしてきましたが、いよいよ第3群の牝馬も1212日から坂路調教を開始しました。また、馴致最後の第4群も800m屋内トラックで駈歩調教まで進み、全馬の足並みが揃う日は遠くないようです。

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3群の坂路調教(一部第1群の牝馬を含む):初日にしては真直ぐ走ってくれました。集団調教の左からナイスジュノーの06(牝:父シルバーチャーム)、チケットトゥフライの06(牝:父ブライアンズタイム)、シルクマーメイドの06(牝:父コロナドズクエスト)、ディアンの06(牝:父マリエンバード)、メローホリデーの06(牝:父バブルガムフェロー)、ハッタロッチの06(牝:父アグネスデジタル)

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4群の800m屋内走路での調教:1列縦隊で前の馬について走ります。徐々に真直ぐ走れるようになってきています。先頭右からフジノバンナの06(牝:父ステイゴールド)、ナナコフレスコの06(牝:父コマンダーインチーフ)、エルカーサリバーの06(牝:父サニングデール)

講習用DVDを作成しています(日高)

JRAでは昨年度「育成牧場管理指針」と題した小冊子を作成し、今年はこれを基にした講習会を各地で催しています。日高育成牧場では7月に八戸で「馬の展示としつけ」というタイトルで、馬のトリミングの仕方と引き馬や駐立展示の方法について講習会を行いました。講習会はスライドによる講義と実馬を使った実技形式で行ったところ、特に実馬を用いた実演は視覚的にも分りやすく、スライドでは表現しにくい細かなところまで説明でき、非常に好評でした。

そこで、JRAでは「育成牧場管理指針」映像化の第1弾として、「馬のトリミングと展示方法」についてDVDを作成することにしました。年内には完成予定ですので、乞うご期待下さい。

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ビデオ撮影風景1:心配していた天気は予報と異なる快晴で絶好の撮影日和となりました。展示のモデル役はシラーの06(牡:父マイネルラヴ)

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ビデオ撮影風景2:トリミングはシーキングハーフォーチュンの06(牡:父フサイチコンコルド)が務めました。写真は前髪のトリミングをしているところ。

今年のBTC利用馬は新馬勝ちの数を含めて、例年に増して好成績を収めています。その理由の一つとして、700mから1000mに延長された屋内坂路馬場を挙げる関係者は少なくありません。日高育成牧場では毎年12月にBTC利用者と様々なテーマで意見交換会を実施していますが、今年は坂路調教の効果と馬場の特性をテーマに開催する予定でいます。

JRA育成馬で最初に馴致を始めた第1群は、1030日から坂路調教を開始しました。本年度は同じ速度でも平地より運動負荷が高く、直線でハミ受けを作りやすい坂路の特性を活かし、可能な限り早い時期からより積極的に屋内坂路馬場を使っていこうと考えています。第2群は1030日から屋内800mトラックで駈歩調教を開始し、安定した駈歩で走れることを目指しています。また、1112日現在で、第3群は速歩調教まで、最後に馴致を開始した第4群は馬房内で騎乗する直前まで馴致は進んでいます。

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1群坂路調教風景:右からチケットトゥフライの06(牝:父ブライアンズタイム)、ダンシングザードの06(牝:父ネオユニバース)、ハッタロッチの06(牝:父アグネスデジタル)、ミロヴァダンスの06(牝:父スペシャルウイーク)、チッキーズディスコの06(牝:父シンボリクリスエス)、オースミシャロンの06(牝:父タイキシャトル)

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2群調教風景:左からネバータッチミーの06(牡:父スキャン)、ニットウヒマワリの06(牡:父ワイルドラッシュ)、アーチェリーの06(牡:父シルバーチャーム)、シスタースルーの06(牡:父ラムタラ)、ウォーターセレブの06(牡:父スウェプトオーバーボード)。右上は今年から導入した新兵器のタイム計測装置。調教タイムはこれまでコースの一部を手動で計測していましたが、全ハロンのタイムを自動で計測できるようになりました。調教の客観的評価に欠かせないアイテムの登場です。

韓国からの研修生奮闘中(日高)

アンニョンハセヨ(こんにちは)

近年、日高育成牧場には年間を通して、韓国、中国や東南アジアなどの海外からも大勢の競馬関係者が見学に訪れてきます。当場の施設や利用馬の素晴らしさを紹介するとともに、日本の馬産や競馬をアピールすることは、我々の重要な仕事の一つとなっています。

特に本年は、1017日から約1ヶ月間にわたり、韓国から4名の研修生(KRA職員2名と生産者の後継者2名)がブレーキングの実習に訪れています。彼らの中には日本語を話せる者はおらず、かろうじて英語を話せる者が1名だけで、当初はどんな研修になるか危惧していましたが、馬の世界は万国共通で、身振り手振りを交えながら、あっという間に当場の馬取扱職員の中に溶け込んでくれました。施設や馬はもちろんですが、競馬サークルの財産は人です。彼らがこの研修で多くのことを学んで、韓国競馬の発展に寄与してくれることを願っています。

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ブレーキングを見学する研修生たち

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収牧のために馬を引く研修生

今年入厩したJRA育成馬は、入厩日、性別、誕生日や疾病等により4群に分けて馴致を開始しました。9月上旬に馴致を開始した第1群の馬たちは、現在、屋内800mトラックでゆっくりした速度で約1200mの駈歩を行っています。この日誌がアップする頃には屋内坂路を使った調教ができればと思っています。

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屋内800mトラックで駈歩を行う第1群の馬たち:先頭3頭は右プリンセスバローズの06(牡:父ボストンハーバー)、中央ハートフルソングの06(牡:父クロフネ)、左セイウンクノイチの06(牡:父グラスワンダー)

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クーリングダウンを行う第1群の馬たち:後ろの山々は赤や黄色に染まり、これからの厳しい季節を前に、日高は今が一番美しい季節です。

馬体写真撮影の変遷(日高)

近年、せり名簿に併せて馬体写真カタログを作成するせり主催者が増えてきました。写真により、事前に馬体をイメージできるというメリットがある反面、写りが悪いとマイナスイメージを与えてしまう怖さもあります。

1回目となった2005JRAブリーズアップセール開催にあたり、写真カタログ用の撮影を3月中旬に行いました。日高では撮影場所の選定にあたり、平坦で脚元がよく見えて、しかも雪などの自然現象の影響が最小限の場所ということで、初年度は厩舎の中庭で撮影することにしました。

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1回のJRAブリーズアップセール用の写真:馬は重賞を2勝したダイワパッション号(牝:父フォーティナイナー)

背景にクリーム色の壁と緑色の馬房の扉が写ってしまい、背景がうるさく感じられました。そこで、2年目はアイボリー色のボードを背景に撮影を行いました。

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第2回のJRAブリーズアップセール用の写真:馬は新馬、オープンを連勝して、先週の秋華賞に出走したハロースピード号(牝:父マヤノトップガン)

ボードで背景はすっきりしましたが、アイボリー色は明るすぎたため、やや馬体が暗く見えてします傾向がありました。そこで、3年目はボードをモスグリーン色に変更しました。さらに今まで1回だった撮影回数を、入厩間もない時期と売却前の時期の2回とすることで、写真で馬体の成長が比較できるように工夫しました。

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第3回のJRAブリーズアップセール用の売却前の写真:馬は今年の2歳新馬を勝ったベストロング号(牡:父コロナドズクエスト)

ボードをモスグリーン色にしたことで、これまでの欠点は解消されたものの、撮影条件上、馬とボードの距離を近づけての撮影となるために、背景にもピントが合ってしまい、どうしても馬体を浮き上がらせることができませんでした。そこで、今年は日高山脈を背景にした撮影場所を新たに作りました。放牧柵が少し気になりますが、これまで以上に馬のよさを引き出せる場所だと思います。今後もよりよい写真撮影を目指していきたいと思います。

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今年作った新たな撮影場所。下をウレタン敷きにすることで、馬の肢元がはっきり見えます。遠くには美しい日高山脈の山々が広がる素晴らしい背景です。

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背景が遠くなり、ズームレンズを用いて被写界深度を浅くすることで、馬体を浮き上がらせることができました。馬は今年のサマーセールでJRA最高価格馬(税込み1312.5万)となったシラーの06(牝:父マイネルラヴ)。写真からも皮膚の薄い素晴らしい馬体の持ち主であることがわかります。今年のJRA育成馬期待の1頭です。

サマーセール購買のJRA育成馬が入厩しました(日高)

820日~24日の5日間にわたり開催された北海道市場サマーセールにおける購買で、今年のJRA育成馬は全て揃いました。1歳馬がファーストクロップとなるシルバーチャーム、サニングデールやネオユニバース産駒を初めとして、2歳新種牡馬ランキングでトップを争うコロナドズクエスト産駒等、47種牡馬の産駒で80頭のラインナップと例年にも増して多彩な顔ぶれとなっています。これから随時紹介していきますのでお楽しみに。

これらのサマーセール購買馬は翌週から順次入きゅうしてきました。今年は特徴検査や歩様検査等の馬体検査、血液検査、尿検査および写真撮影という通常の入きゅう時検査に加えて、日本で36年ぶりに発生した馬インフルエンザに対応して、同検査も併せて実施しましたが、結果は幸いなことに全馬陰性でした。  

また、サマーセール購買馬のうち宮崎育成牧場で育成する馬は、例年は牧場から馬運車で直接、宮崎に輸送しますが、今年は一度日高育成牧場に入きゅうして、馬インフルエンザの検査で2回の陰性を確認後に宮崎に送り出しました。

サマーセール購買馬は、この後しばらく昼夜放牧を行った後に9月下旬から順次ブレーキングを開始する予定です。

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入きゅう時の馬体検査風景:いい馬がたくさんいて今後が楽しみ。四長白が派手なニシノファンシーの06(牡:父マヤノットプガン)

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入きゅう時の馬体写真撮影:ビッキーロイヤルの06(牡:父スペシャルウィーク)はサマーセールで1260万円(税込)で購買。今後、全馬の馬体写真をJRAホームページにアップしていきます。

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入きゅう初日の放牧風景:初めての放牧です。細心の注意を払い、フェンスに向けて馬を立たせ一斉に放します。手前から順にナスノジュノーの06(牝:父シルバーチャーム)、ディアンの06(牝:父マリエンバード)、シルクマーメードの06(牝:父コロナドズクエスト)、スキードリームの06(牝:父アグネスフライト)

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放牧初日で元気に走る馬たち。新しい群れの誕生です。

北海道で1歳馬セリ開催される

79日には日本競走馬協会主催のセレクトセール、16日には日高軽種馬農業協同組合等主催の北海道セレクションセールの各1歳セリが開催されました。セリ上場馬は前者ではセリ前々日の7日から、後者では本年度から1歳馬と当歳馬のセリ日程を入れ替えたことで、セリ前日の15日からセリ会場に入きゅうしたことで、より事前に馬をチェックしやすい体制になったのではないかと思います。

JRAでは1歳馬を購買するに当たり、血統はもちろんのこと上場される全ての馬を見て、馬体や肢勢、馬の動き等を総合的に勘案して購買候補馬を選定しています。一昨年からセレクトセールではノドの内視鏡所見と四肢関節部のX線所見、北海道セレクションセールでは四肢関節部のX線所見が開示されるようになり、候補馬選定に必要な情報が新たに加わりました。

開示情報を利用する上で大切なことは所見を的確に評価し判断することです。馬は生き物であり、全く所見もない馬は珍しいくらいで、所見があっても競走には影響がないと考えられる場合もあります。せっかく気に入った馬を所見があるというだけであきらめてしまうのはもったいないことだと思います。JRAではこれまで集積してきた種々の所見と競走期パフォーマンス成績との関連について取りまとめています。また、セリで購買される方を対象として、内視鏡検査やOCD※1に関する小冊子を作成していますので、ぜひ活用していただきたいと思います。

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セリ前日に複数の目で1頭々々念入りに馬体検査を行い、購買候補馬を選定します。

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馬体検査に併せて、歩様検査で馬の動きをチェックします。

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今年から上場者であるコンサイナーのブースが登場しました。購買者のニーズに対応する環境作りがセリ市場の活性化につながるのではないでしょうか。

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レポジトリーのX線画像のイメージ写真:球節部の種子骨の形、辺縁や線状陰影の数や太さによりG0(所見なし)からG3まで4段階に評価します。この種子骨はG2のものです。

OCD※1OCDOsteoChondoritis Dissecansの略で日本語では離断性骨軟骨症といいます。OCDは成長中の長骨と関節の表面の軟骨が正常に発達せず、軟骨としてそのまま表面に残ってしまうときに発生します。

待望の屋外1600mダートトラック開場

日高地方も長い冬が終わり、春の到来を告げる幕開けとして、日高育成牧場の屋外調教施設の1600mダートトラックが326日に開場しました。日高育成牧場は4月上旬に育成馬展示会をこのコースで開催していますが、ここ数年は開場が遅れ、展示会の1週間前ほどにやっと使用可能となり、ぎりぎりの状況で展示会に間に合わせていました。しかし、今年は暖冬と路盤改修工事のおかげで、昨年と比べて約10日早いオープンとなり、十分余裕を持って展示会に望むことができます。

そのため、昨年まではブリーズアップセール用の調教ビデオ撮影を展示会当日に併せて行っていましたが、今年は展示会とは別に46日に調教ビデオ撮影日を設定することができ、皆様に1日でも早く調教の様子をご覧頂くことができると思います。現在のところ日高からは51頭のJRA育成馬を423日に阪神競馬場で開催される第3回ブリーズアップセールに上場する予定でいます。

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初めて1600mダートトラックで駈歩を行うJRA育成馬。

 育成馬展示会はJRA育成馬のお披露目の場だけでなく、1月から騎乗研修を続けていたBTC研修生のお披露目の場でもあります。3ヶ月に渡る厳しい訓練の成果で、職員と併走してスピード調教できるまで成長してくれました。

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調教ビデオ撮影風景:左はエルソルの05(牡:父タニノギムレット)、右はグロウゲンザンの05(牡:父スクワートルスクワート)

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調教ビデオ撮影風景:左はハローヘレンの05(牡:父ヘクタープロテクター)、右はハロースィーティの05(牡:父ティンバーカントリー)

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調教ビデオ撮影風景:左はレモングラスの05(牡:父アグネスタキオン)、右はレガシークラウドの05(牡:父スクワートルスクワート)

坂路調教2本(日高)

ブリーズアップセールまで残すところ1ヶ月半となり、JRA育成馬の調教も日ごとに強さを増してきています。12月中旬からスピード調教日として週2回の屋内坂路調教を行っていますが、坂路は平地に比べて馬への負荷が大きいため、最初のうちは坂路調教1本のみとし、次に屋内800m走路で駈歩1000m後に坂路調教1本と徐々にステップアップし、2月下旬からは坂路調教2本を開始しました。

3年前に坂路調教2本を行ったときは、運動強度が強くなりすぎたせいか歩様が悪くなる馬が出たため、いつ開始するかずっと頭を痛めて、なかなか決断がつかなかったのですが、もう十分に体力がついたと判断して、牡馬を対象として行うことに決めました。

1本目はハロン20秒程度の速度として、6-7頭が1団となり駆け上がる集団調教とし、馬群の中で我慢させることを覚えさせ、2本目はハロン16秒程度で2頭併走調教としました。ほとんどの馬がじっと手綱を持ったまま楽な手応えで駆け上がり、調教後の息使いも楽で、一段とパワーアップした印象です。

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坂路1本目の集団調教:左からハローヘレンの05(牡:父ヘクタープロテクター)、オグラテスコの05(牡:父チーフベアハート)、アラビックナイトの05(牡:父コロナドズクエスト)、リキアイワンダーの05(牡:父キャプテンスティーヴ)、オグリウェルズの05(牡:父デヒア)、ハロースウィーティの05(牡:父ティンバーカントリー)

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1本目の調教を終え、2本目のスタート地点に向かうJRA育成馬。

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坂路2本目の併走調教:左からフェアリーアフランの05(牡:父バブルガムフェロー)、マチカネホホエミの05(牡:父ヘクタープロテクター)

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坂路2本目の併走調教:左からレモングラスの05(牡:父アグネスタキオン)、ミスムーンライトの05(牡:父ゴールドアリュール)

V200測定(日高)

タイトルからいきなり「V200」という聞き慣れない言葉で恐縮ですが、JRA育成馬は毎年2月と4月の2回、調教中の心拍数を測定し体力評価を行っています。

心拍数は最高心拍数※1に達するまで、速度が速くなるに従い、直線的に増加することから、下図のように心拍数が200/minのときの速度(m/min)を求めることができます。この値をV200と呼び、有酸素運動能力2の指標として用いられています。V200が大きいほど心拍数が200/minのときの速度が速く、同じ速度で走るときの心拍数は低いことから有酸素運動能力が高いことになります。

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V200の算出方法:グラフの横軸に速度、縦軸に心拍数をとり、データをプロット(青点)し、回帰直線(黒線)を引きます。そこで、心拍数が200の時の速度(赤線)を求めることで、V200(赤字)が算出できます。

V200はヒトでは個体ごとの有酸素運運動能力の科学的指標として確立していますが、馬の場合は人が騎乗しての野外試験のため、速度の規定が難しいこと、馬の情動や騎乗者の体重・技術の影響を受けることから、個体ごとの有酸素運動能力の指標としては精度が高いとはいえず、現在のところ群れ全体の調教進度の判定に利用しており、育成期の適正な調教強度を検討するうえでの科学的指標の一つとして用いられています。

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ハートレイト(HR)モニターと呼ばれるこの装置は、鞍下ゼッケンと腹帯に電極を装着することで、騎乗者の腕にはめた時計に心拍数が記録されます。

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HRモニターを装着して併走調教を行う左ヤナビの05(牝:父ボストンハーバー)、右イシノエスパーの05(牝:父キングヘイロー)。最後はハロン18秒程度で調教を行いました。

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過去9年間のJRA育成馬の2月のV200の推移:牡牝ともに02年以前より、03年以降のV200が高い傾向にあることがわかります。これは近年、JRA育成馬に早い時期からより強い強度の運動を負荷していることから、2月の時点で有酸素運動能力が高くなっているものと考えられます。

最高心拍数※1:これ以上は運動強度を強くしても上昇しないと考えられている心拍数。ヒトでは220-年齢拍/min、馬では220230/minといわれている。

有酸素運動能力2:運動能力の一つの指標で、酸素を利用してエネルギーを産生する能力のことをいう。