育成馬検査(日高)

130日(火)、31日(水)の両日、JRAの本部生産育成対策部員2名が来場し育成馬検査が行われました。検査担当の2人は前日夕方に日高入りする予定でしたが、千歳空港が降雪のため閉鎖、急遽変更した羽田-帯広便まで欠航してしまい、一時は開催が危ぶまれましたが、翌朝の帯広便で到着し、何とか検査が実施できました。

育成馬検査ではJRA育成馬の調教状況や馬体をチェックします。これらを把握した上で、ブリーズアップセールの名簿作成作業が開始されます。例年この時期には肩跛行などで休養を要する馬が出るのですが、幸いなことに本年度は現在のところほぼ順調に調教を実施できています。

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11頭立ち馬と引き馬で検査を行います。この日は小雪のぱらつく天候でしたが、翌日はなんと雨中での検査となりました(本部のある検査員が来ると必ず天気が・・・)

昨年1218日(月)に喉頭蓋エントラップメント※1整復術を実施したイナリカレンの05(牝:父マイネルラブ)は順調に回復し、14日(木)から騎乗調教を再開し、現在は他馬と同程度の調教を行えるまでになっています。同馬は臨床的には異常呼吸音等の症状はなく、全馬に実施している内視鏡検査で発見することができました。この病気に罹患した有名馬にはシーキングザパールなどがいます。JRA育成馬では過去にアスカノヒミコ03年産)が発症、手術後ブリーズアップセールで売却され中央で勝利を挙げています。2_2

屋内800m走路でハロン20秒程度の併走調教を行うイナリカレンの05(右)、左はタガノブルードレスの05(牝:父コロナドズクエスト)

喉頭蓋エントラップメント※1:喉頭蓋は喉頭の入り口にある弁のようなもので、飲み込む食物が気管に入り込まないように蓋をする役割を持っています。喉頭蓋エントラップメントは喉頭腹側にある披裂喉頭蓋ヒダが喉頭蓋の背側面を包み込む疾患で、競走馬に見られる、ノドの病気の一つです。放置しておくとプアーパフォーマンスの原因となる場合があります。手術は披裂喉頭蓋ヒダを縦正中切開することにより正常な位置に整復します。

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左は術前の映像で矢印に示すように喉頭蓋が披裂喉頭蓋ヒダに包まれている。右は術後2週間の映像で喉頭蓋が露出し正常に回復している。

BTC生徒実践研修(日高)

15日よりBTC生徒の騎乗研修が始まりました。BTCでは事業の一つとして、将来、生産地で技術的中核となるべき育成調教技術者の人材養成事業を行っています。日高育成牧場では、実際に競走馬となる若馬を経験させることを目的として、JRA育成馬や当場で生産した研究馬を用いて、秋にはブレーキング実習、年明けからは騎乗研修を実施し、バックアップしています。

彼らは訓練用馬と違い、軟らかく反応の早い若馬に戸惑い、最初はなかなか上手に騎乗することはできません。時には落馬もすることもありますが、日々経験を積むことで馬とともに成長し、卒業間近の4月上旬には当場で開催されるJRA育成馬の展示会で、訓練の成果を披露してくれるはずです。

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 覆馬場で速歩を行うBTC生徒:騎乗姿勢はまだ何となくぎこちない。

 

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 屋内800mトラックにて単走で駈歩を行うBTC生徒

JRA育成馬は現在、馴致による群分けから、牡牝による群分けに変り、牡馬は2400mの駈歩を牝馬は1600mの駈歩を実施しています。例年この時期はアクセス路が凍結して屋内坂路にいけないのですが、今年は雪がなく、週に2回ほど1000mに延長された屋内坂路でF20-18程度のスピード調教を行っています。また、馬の闘争心を養うために併走調教を行っています。

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屋内坂路馬場に向かうJRA育成馬:右手に見えるのが屋内坂路馬場。1月だというのに全く雪がない。

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併走でスピード調教を行う左はミスクラブアップルの05(牡・父シンボリクリスエス)、右はプライヴェイトアイの05(牡・父アラムシャー):徐々に力強い走りができるようになってきました。

BTC:財団法人軽種馬育成調教センターの略で、浦河町にある日高育成総合施設軽種馬育成調教場の運営・管理を行うほか、育成調教技術者の養成等の事業を行っています。

育成馬にライトコントロール(日高)

明けましておめでとうございます。本年もJRA育成馬日誌よろしくお願いします。

昨年に引き続いて、今年のJRA育成馬に1220日からライトコントロールを始めました。ライトコントロール法とは、繁殖牝馬には一般的に用いられている方法で、季節繁殖性の動物※1である馬に対して、電球や蛍光灯の照明で人工的に日照時間を長くし、性腺機能の発達を促すことで、初回排卵を早め、種付や出産時期を早めることができます。

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ライトコントロールは馬房内に100ワット電球一つを点灯し、冬至の1220日頃から4月まで、タイマーで人工的に昼14.5時間、夜9.5時間の環境を作るだけで、安価で手軽に行えます。

話は宮崎育成牧場に勤務していた10年近く前に遡りますが、冬季の育成は北の日高より南の宮崎で馬が仕上げやすいこと、アメリカの2歳トレーニングセール上場馬の調教はカリフォルニアやフロリダで行われていたことから、暖地育成に着目していました。その結果、冬の宮崎は日高と比べて日照時間は長く、気温は暖かく、性ホルモンの分泌時期が早く濃度が高いことがわかりました。性ホルモンは骨や筋肉の発育に関与しており、馬の成長が早くなっているのではないかと考えました。

そこで、昨年度日高の育成馬に光の刺激であるライトコントロールを実施したところ、牝馬の性ホルモンの分泌時期が早く、濃度が高くなること、牡馬の筋肉量の増加が多い可能性があること、冬毛の脱毛が促進されることがわかりました。冬季に気候条件の悪い日高で、早い時期に強いトレーニングが必要な育成馬には、ライトコントロールという飼養管理方法が有用ではないかと思います。今年も引き続き研究を実施しております。これまでの詳しい成績はこちらをご覧下さい

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雌の血中プロジェステロン(黄体ホルモン)はライトコントロール群が明らかに濃度が高く、早期に排卵していることがわかります。

12日には今年で97回目を迎えた新年恒例の「騎馬参拝」が行われました。人馬の無病息災を祈願し、日高育成牧場から浦河神社まで往復20kmの道のりを馬に騎乗して参拝します。浦河神社の101段の石段を駆け登る「騎馬参拝」は大勢の観客が詰めかける浦河の正月の風物詩となっています。3kiba1

浦河神社の参拝を終え、石段を降りる乗馬:テレビや新聞の報道では石段を駆け登るシーンが使われますが、実は降りるほうが数段恐いのです。4kiba2

公道を隊列を組んで進む乗馬を車が追い越しているところ:日高育成牧場から浦河神社の往復は公道を通るので細心の注意が必要。今年は雪がなくて大助かり。

季節繁殖性の動物※1:年間を通して排卵して1年中出産が可能なヒトと違い、馬は冬季は卵巣が活動を休止し、春になり日照時間が長くなると排卵が始まり交配が可能となります。通常馬の初回排卵は4月頃始まりますが、ライトコントロール法により、2-3月に初回排卵を誘発することが可能となります。

ゲート練習(日高)

日高育成牧場のゲート馴致は宮崎育成牧場と同様、ブレーキング時にドライビングで通過することから開始し、騎乗後は広いゲートから徐々に狭いゲートへと毎日通過を繰り返すことで慣らしていきます。最終的には扉を閉めてゲート内で駐立後、常歩で発進するところまで教えています。一つだけ違うところは暖か~い宮崎は練習用ゲートが屋外にありますが、寒~い日高は屋内にあることです。

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毎日、覆馬場でウォーミングアップ後にゲートを通過してから主運動を行っています。先頭はレモングラスの05(牡:父アグネスタキオン)

調教は事前にウォーキングマシンで運動後、馬装して覆馬場に集合します。そこで速歩のウォーミングアップと歩様検査を行い、馬に異常がないことを確認してから、主運動とクーリングダウンを行い、約50分間の騎乗運動が終了します。

主運動は現在、第1・2※1は屋内800m走路で駈歩2400mまたは延長された坂路1本、第34※1は屋内800m走路でそれぞれ駈歩1600mと1200mの調教を行っています。第12群の馬は単走だけでなく、闘争心を養うために徐々にスピードを増して併走調教も行っています。

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真剣な眼差しで歩様をチェックする獣医知識を持った調教責任者。初期の段階で異常を発見して対応することが大切です。

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併走調教を行う左オグラテスコの05(牡:父チーフベアハート)、右エイシンベーリングの05(牡:父カリズマティック)。徐々にスピードを上げた中で力強い走りができるようになってきました。

 1211日(月)にBTC利用者を対象とした意見交換会を開催しました。4回目となる今年は「育成馬の肢蹄管理」をテーマとして、肢軸検査2を参考にした装削蹄等、日高育成牧場の方針を話題提供した後で会場の皆さんと意見交換を行いました。育成場での調教の重要性が増す中、装蹄技術向上へのニーズは高まっています。そのためには装削蹄を装蹄師に任せきりにするのではなく、育成場の責任者や獣医師が連携してディスカッションしていく必要性を痛感しました。

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BTC利用者、装蹄師、獣医師等50人を越える参加者で、熱気あふれる意見交換が行われました。

14※1:日高育成牧場では馬の入厩日、性別、馬格、疾病、生年月日等を参考にして、ブレーキングを開始した時期で4群に分けています。

肢軸検査2:レントゲンで蹄と第1・2指(趾)骨の角度を確認する検査。3骨の肢軸が一致するように装削蹄を行います。

屋内坂路馬場リニューアルオープン(日高)

700mから1000mに延長工事を行っていた屋内坂路馬場が完成し、121日にリニューアルオープンしました。新しい馬場の感触を確かめに早速JRA育成馬を連れて行ってきました。

700mの旧スタート地点から手前側に300m延長されたコースは、新スタート地点から川に沿って緩やかな右カーブを描きながら旧コースに接続しています。馬場材はウッドチップで非常にクッション性がよく走りやすく、スタート地点から約350mは平坦で、その後200m2.5%、300m3.5%、50m5.5%の傾斜で残りがゴール前の踊り場となっています。

スタート地点は屋内直線馬場と同様な作りとなり、混雑時でもゆったりと旋回できるように改善されました。右カーブでゴール地点を視認できないため、スタート地点にはモニターが設置され、途中の状況を確認できるようになっています。屋内のため見た目はコーナーがきつそうな印象を受けましたが、騎乗した感想ではほとんど気にならないということでした。

BTC利用者が待ち望んでいた馬場の完成です。栗東や美浦トレセンでは坂路延長後に馬の故障が増えた実例がありオーバーワークへの注意が必要ですが、上手に利用することで強い馬づくりの進展が期待できる素晴しい施設の完成だと思います。

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延長された屋内坂路馬場:左手の登り口から右端までが新設された部分で、緩やかな右カーブで旧コースと接続しています。

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スタート地点:常歩でゆったり旋回しながら出発を待ちます。中央やや右にモニターと赤字でタイム計測番号が表示されています。先頭からエイシンベーリングの05(牡・父カリズマティック)、ミスムーンライトの05(牡・父ゴールドアリュール)、レモングラスの05(牡・父アグネスタキオン)、チアリーダーの05(牡・父スキャターザゴールド)

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集団で屋内坂路を駈け上がってくるJRA育成馬:先頭はミスクラブアップルの05(牡・父シンボリクリスエス)、ウッドチッブコースはクッション性がよく走りやすいコースとなっています。

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調教を終えクーリングダウン中のJRA育成馬:雪景色の日高山脈と青く澄んだ空がとても美しい。

グラス坂路で調教を行っています(日高)

日高育成牧場の「日高育成総合施設軽種馬育成調教場」には様々な調教施設がありますが、その中でも全長約2400mのグラス坂路馬場は当場自慢の馬場の一つで、景観が素晴しく施設見学のコースにも組み込まれています。JRA育成馬の第1※111月からこのコースで調教を行っています。最大勾配約4%の自然の丘陵を利用した坂路は若馬には結構タフで、調教中に鹿、狐、雉等の野生動物に遭遇することもあり、常に神経を集中させておく必要があります。また、アクセス路は砂利敷きの坂道で、最初のうちは砂利が蹄を刺激して馬は歩きづらそうでしたが、何日か経つとスムーズに歩けるようになってきました。霜が降りて馬場状態が悪化する前までの短い期間の利用ですが、屋内の恵まれた施設だけでなく、様々な環境を経験することは人馬にプラスになると期待しています。

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スタートから約600m地点で4%の勾配を上ってきた馬群が見えてきたところ。遠くには太平洋が望めます。

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スタート地点から1000mを過ぎたところ。柏の木はすでに葉を落としています。

生産地は10月を過ぎると年明けから続く、出産・種付け・離乳2・せりという多忙なシーズンが1段落し、次の出産が始まるまで、生産者や育成者等を対象とした講習会が盛んになる充電期間となります。

1030日には美浦の勢司調教師と栗東の角居調教師を迎えて、人材養成の考え方や馬のメンタルトレーニング等、強い馬をつくるために両調教師が日頃考えて実践していることについての講演が開催され、約400名の来場者と熱気あふれる意見交換が行われました。競走馬になるためにはたくさんの人の手が入ります。馬の取扱い意識が統一されることは大切なことで、今回の意見交換会は意義のある催しであったと思います。

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講演会風景:直後にオーストラリアのメルボルンカップでデルタブルースとポップロックがワンツーフィニッシュしたことで、よりインパクトの強い講演会となりました。

111日には当場主催で日高・胆振地区の獣医師を対象として「馬の上気道疾患と内視鏡検査」の講習会を開催しました。上気道疾患はせりにおける情報開示等で、生産者や購買者の関心が高まっているところでもあり、少しでも参考になれば幸いです。なお、育成期の上気道所見と競走期パフォーマンスの関連について興味のある方はJRA育成研究のデータがありますのでご覧下さい。

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馬がトレッドミル3運動中に内視鏡検査を行っているところ。上気道疾患を診断する際に馬が運動中の状態を観察することが必要な場合があります。

1※1、:日高育成牧場では馬の入厩日、性別、馬格、疾病、生年月日等を参考にして、4群に分けてブレーキングを開始しています。第1群は95日から開始しました。

離乳2:生後約6ヶ月で子馬が親離れすること。

トレッドミル3:馬用のルームランナー、人が騎乗せず馬を運動することができます。

浦河で当歳馬の品評会が開催されました(日高)

1027日(金)に浦河町軽種馬生産振興会青年部の主催による当歳馬の品評会が開催されました。品評会は準備が大変なことや地区の意識が変わったこと等で、近年開催数が減っていましたが、浦河地区では青年部の努力で復活しました。当日は10頭の当歳馬が出陳され、大勢の人の前で立ち姿や歩きが披露されました。当歳馬の馴致等、事前の準備は大変だったと思いますが、青年部が活性化しお互いに刺激しあうことは必ず地区の振興につながっていくことと思います。

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品評会で見事に最優秀賞を獲得した(有)酒井牧場から出陳されたペリウィンクルの18(父:マヤノトップガン)。馬の手入れ、チフニーを付けての展示や馬体の作り。さらに馬の引きかたや馬自身の歩き等いずれも高評価でした。

日高育成牧場では馬の成長を把握するために、月に1度、測尺(そくしゃく)を行っています。一般的には、き甲の頂点から地面までの垂直距離を測る体高、き甲の頂点に近い部位を通って、胸郭のまわりを測る胸囲、左前肢の管中央の周囲を測る管囲の3部位からなります。測尺は簡単にできるため、昔から馬の大きさを知る指標として用いられています。

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測尺部位:赤線は体高でき甲から地面までの距離、白線は胸囲で胸郭の周囲長、青線は管囲で管部の周囲長

さらに月に2度、体重とボディコンディションスコア(BCS※1を測っています。体重の推移を知り、馬の脂肪のつき方をみることで、成長や調教強度に応じた飼料給与量が適切であるか判断し、馬の適正な発育に努めています。

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ボディコンディションスコア(BCS※1:外貌からみた馬体の脂肪のつき方を1から9までで数値化したもの。育成馬の標準は概ねスコア5で、太るほど数値が高くなり、痩せるほど数値は低くなります。日高育成牧場では肋骨部、背中央部、尾部の3部位を測定しています。

また、一昨年からエコー機器を用いて馬の臀部の脂肪厚を測定しています。この値から馬の体脂肪率や除脂肪体重を推測することができます。冬季間の牝馬は体重が増えても脂肪として蓄積されるだけで、なかなか筋肉量が増加しにくい傾向にあり、図らずしも「冬場の牝馬は仕上がりにくい」という厩舎格言を裏付けた結果となりました。

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エコー機器を用いて臀部の脂肪厚を測定しているところ。馬の臀部にプローブを当てるだけで、簡単に測定することができます。

ブレーキングの様子がNHKニュースで放映されました(日高)

920日(水)から第2※1のブレーキングを開始しました。これに併せてNHK室蘭放送局の太田記者が取材に来ました。やらせなしのぶっつけ本番でしたが、初めてのラウンドペンでのランジングにもかかわらず、どの馬も人の指示に従いスムーズにこなしてくれました。また、第1※1のドライビングや馬房での騎乗の様子も併せて撮影しました。太田記者は人が騎乗できるまでに多くの過程があることや馬が素直に従っている姿に感心していました。この模様は当日と翌日に北海道内で放映されました。130秒という短い枠の中で全てを紹介することはできませんでしたが、競馬に詳しい方でも競走馬として出走するまでのことをご存知の方は多くないと思います。これからも機会を捉えて積極的に発信していきたいと思います。

Img_1983_1 ラウンドペンでのランジングを撮影する太田記者。ブレーキング初日で上からの撮影にも動じず、エイシンベーリングの05(牡・父カリズマティック)はとても素直にランジングを行えました。

ドライビングとは馬の後ろで、人が2本の調馬索(ロングレーン)を用いて馬を操作することで、馬の背に騎乗することなく口向きを作るために行います。口向きは車で例えるとハンドルとブレーキに該当し、これ無くしては安全に騎乗することはできません。これまでのブレーキングの過程は安全にドライビングに移行するためのものといっても言い過ぎではないほど重要なステップです。

061024pic2 コーンを用いてドライビングでスラロームを行うショッキングピンクの05(牝・父スターオブコジーン)また、ドライビング中でゲートを通過しておくと、騎乗してからのゲート馴致が容易になります。

061024pic3ドライビングでゲートを通過するスイートイブンの05(牝・父ティンバーカントリー

1群の馬たちは順調にブレーキングを消化し、104日(水)から屋内800m走路での騎乗調教を開始しました。誘導馬に先導され、まだフラフラした足取りですが着実に競走馬としてのステップを歩み始めています。

061024pic4 誘導馬に先導され800m走路を運動するJRA育成馬:右からミスクラブアップルの05牡・父シンボリクリスエス)、リキワイワンダーの05(牡・父キャプテンスティーヴ)、メンデスキャンドルの05(牡・父フォーティナイナー)、誘導馬、ヒットザボードの05(牡・父コロナドズクエスト)、レガシークラウドの05(牡・父スクワートルスクワート

1※1、2※1:日高育成牧場では馬の入厩日、性別、馬格、疾病、生年月日等を参考にして、4群に分けてブレーキングを開始しています。第1群は95日から開始していました。

ブレーキング(騎乗馴致)を始める前に(日高)

ブレ-キングとは馬に鞍をつけて人が騎乗できるように教育することです。馬にとってみれば、わけのわからない馬具を付けられ、胸部を締め付けられた上に背中に跨られるわけで不安で一杯なはずです。しかし、この過程を経なければどんなに走る能力があっても競走馬になることはできません。馬が納得して自ら受け入れ、心に傷跡を残さないようにすることが肝心です。

馬は自然界では集団で生活する動物であり、必ず群れの中に順位が形成され強いリーダーのもと群れは安定します。対人関係も同様で、人が馬のリーダーになることで馬は人と一緒にいることに安心して信頼するようになります。馬に接する基本は褒めることですが、特に牡馬は自分がボスと勘違いしやすい傾向があり、ときには毅然とした態度で序列を明確にすることも必要です。ただし、馬を怖がって懲戒することは百害あって一利なしです。

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パッティング:タオルを用いて全身をパタパタと叩きますが、馬はじっとしています。

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ストラップ馴致:ベルトのようなストラップを用いて、馬の胸部を締め付けることに慣らします。

日高育成牧場では円滑で安全にブレーキングを進めるために、事前に様々な準備を行っています。タオルを用いたパッティングもその一つです。タオルで全身を隈なく触り、最終的にはパタパタと叩きます。最初は不安で体を硬くさせていた馬が、慣れると全く動じなくなります。パッティングは馬が人を受け入れてくれたかのバロメーターになります。特に敏感な部分である頭頂部、胸下、飛節の上は念入りに実施します。

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日々の馬体チェック:馬をつなぐことなく肢元を触っても馬はじっとしています。

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ウォーキングマシンの馴致:放牧地への行き帰りにウォーキングマシンを通します。

サマーセールが終了し、JRA育成馬が入きゅうしてきました。

8月21日から25日まで、新ひだか町の北海道市場でサマーセールが開催されました。1,122頭のサラブレッド1歳馬が上場された大規模なセールですが、売却率は5年ぶりに30%を越え、売却総額も前年を1.3億円ほど上回る、約18.2億円でした。せりの会場では馬を見に来場しているバイヤー(購買者)の数が多く感じられ、実際のせりでも例年以上のせり合いで、目当ての馬を購入することは簡単ではありません。数字だけでなく景気が回復しつつあることが感じられた市場となりました。

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活発なせりあいとなったサマーセール

それでも新種牡馬のアラムシャーやコロナドズクエストの産駒をはじめとして、素質あふれる若馬を購入できたと思います。最高価格馬は1950万円(税抜)で落札した母ハローヘレンの牡馬で、姉に今年の2歳戦で2連勝と活躍しているJRA育成馬ハロースピードがいます。父はマヤノトップガンからヘクタープロテクターに変わっていますが、姉に負けず劣らず伸びのある好馬体をしており、非常に楽しみな1頭です。

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最高価格馬のハローヘレンの05

サマーセールで購入した馬の日高育成牧場への入きゅうは8月30日から始まり、9月1日には今年のラインナップが揃いました。入きゅう時に血液検査、特徴照合や歩様検査等の馬体検査および写真撮影を行いましたが、ほとんどの馬がおとなしく躾られており、牧場やコンサイナーのしっかりした教育の成果が伺えました。馬体の写真撮影には、よりよい映像を得ることを目的として、背景ボードに光線が吸収されにくいモスグリーンを採用したところ、昨年以上に馬体がはっきり見えるようになりました。
 また、レントゲンによる蹄の撮影を行ないました。これは肢軸(しじく)検査と呼ばれるもので、これを参考に今まで以上によい装削蹄につなげられればと思っています。「蹄なくして馬なし」といわれるほど、蹄の状態を把握することは重要です。

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入きゅう時の綿密な馬体検査
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蹄の状態をレントゲン像で確認します