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2022年3月

2022年3月18日 (金)

抗菌薬還流療法

臨床医学研究室の三田です。

ウマの臨床現場で遭遇する細菌感染症では抗菌薬を用いて治療することが一般的です。

抗菌薬の投与方法は色々ありますが基本的には血流を介して抗菌薬を病巣に届けられるかがカギになるため、外傷などで組織に空隙がある場合や骨折手術の螺子やプレート周囲など血流が乏しい部位では感染制御が難しくなることがあります。

そこで近年ヒトの医療で注目されているのが軟部組織内抗菌薬還流療法(intra-Soft tissue Antibiotics Perfusion〔iSAP〕)です(イメージ図参照)。これは高濃度の抗菌薬を皮下などの感染巣に持続的に注入するものです。

この方法では血流が乏しい部位に対しても抗菌薬を作用させることが可能となるばかりでなく、全身投与では到底達成できないような高濃度の抗菌薬を作用させることができるため低濃度の抗菌薬で死なない細菌に対しても有効となる場合があります。

 

 

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画像はiSAPのHPより引用させていただきました。

https://www.ismap-clap.com/isap(外部サイト))

ウマでこの治療方法を応用するためには課題が多いですが実現すればより早期に感染コントロールができる可能性もあるので注目の治療法として紹介しました。

2022年3月14日 (月)

米国ルイジアナ便り

こんにちは。微生物研究室の越智です。


 現在,私は解剖病理学の研修のために米国・ルイジアナ州立大学にいます。ルイジアナ州は,アメリカ南部のメキシコ湾に面しており,2月でも比較的温暖だと聞いていましたが,実際には最低気温20℃の日の翌日に最高気温が10℃になる日も多く,体調管理に気を遣う日々です。


 私の所属先は,ルイジアナ州立大学獣医学部 Louisiana Animal Disease Diagnostic Laboratory (LADDL)です。LADDLは同獣医学部の診断施設であるだけではなく,ルイジアナ州およびその周辺地域からの依頼を受けてさまざまな検査,調査や研究を行っています。日本に置き換えると,獣医学部(学科)の研究室が家畜保健衛生所の機能をかねているようなイメージです。そのため,毎日多くの病理解剖やバイオプシー(病理組織診断)が行われており,病理医にとっては夢のような環境です。このような環境で1年間勉強ができることをとても楽しみにしています。(アメリカは狂犬病発生国ですので,十分に気をつけるようにと最初に説明されました。大学生の時に受けた狂犬病ワクチンが初めて役に立っています。)


 私の通勤ルートには,Tiger stadiumというアメリカンフットボール専用の超巨大スタジアムがあります。約10万人の観客を収容でき,収容人数では世界9位の規模です。コロナ禍が収まり,このスタジアムでアメフトを観戦するのも楽しみの1つです。

Photoタイガースタジアム@ルイジアナ州立大学

2022年3月 9日 (水)

馬鼻肺炎ELISA

 分子生物研究室の上林です。
 馬ヘルペスウイルスに起因する“馬鼻肺炎”いう呼吸器感染症をご存じでしょうか。日本国内では主に冬~春にかけて感染馬が増加する傾向があり、感染すると発熱を引き起こすことがあります。重症化することはほとんどありませんが、突然の熱発で出走を回避しなければならないという事態も起こりえますので、我々にとっては競走資源の確保という観点で注視すべき感染症です。

 そこで、ウイルス感染症を担当する当研究室では、競走馬群における馬鼻肺炎の疫学状況を監視する目的で、毎月トレセンで発熱した馬の血清を送付してもらい感染の有無を検査します。ここで我々が使用する検査法が“ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)”です。
 ELISAは抗原―抗体反応を利用した抗体検査法であり、今回のようにウイルスに対する抗体のみならず様々なタンパクの定量に使われる非常にポピュラーな実験系です。仕組みを簡単に説明すると以下の通りです。

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 プレートに抗原を固相化→血清を乗せて抗原に血清中抗体を結合→抗体にさらに酵素標識抗体(一般には二次抗体と呼びます)を付着させて発色。
 この発色の程度を吸光度として数値化して抗体価を算出します。血清中の抗体が多いほど二次抗体も多く付くため、発色が強くなるという仕組みです。下図左は試験後のプレートです。発色の程度が様々なのが見てわかるかと思います。右は最後の過程、吸光度を機械で測定しているところです。

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 当研究室では、この馬鼻肺炎の疫学調査を20年以上にわたって継続して行っています。1シーズン(秋~翌春)を通しての感染率は年によって様々で、数%~十数%に収まることがほとんどです。この検査を継続的に行うことで得られる疫学データは、流行の兆候を把握することに繋がるのはもとより、変遷を遂げてきたワクチン接種プログラムの効果を検証する重要な材料にもなります。今でも突発的に流行する年はあるものの、ワクチン接種方法の改善やワクチン改良の効果もあり、長い目で見れば競走馬群での馬鼻肺炎感染率は低下してきています。
 ELISAは1回の検査を実施するのに半日程度要します。毎年、膨大な数の検体をELISAで検査することになるため少し骨が折れる作業ではあるのですが、これが日本競馬を防疫の観点から守る仕事だと思うと気は抜けません。

 さて、今年初のGⅠフェブラリーステークスも終わり、もうすぐ春競馬が始まります。今年も競馬を楽しみましょう。