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2022年3月 9日 (水)

馬鼻肺炎ELISA

 分子生物研究室の上林です。
 馬ヘルペスウイルスに起因する“馬鼻肺炎”いう呼吸器感染症をご存じでしょうか。日本国内では主に冬~春にかけて感染馬が増加する傾向があり、感染すると発熱を引き起こすことがあります。重症化することはほとんどありませんが、突然の熱発で出走を回避しなければならないという事態も起こりえますので、我々にとっては競走資源の確保という観点で注視すべき感染症です。

 そこで、ウイルス感染症を担当する当研究室では、競走馬群における馬鼻肺炎の疫学状況を監視する目的で、毎月トレセンで発熱した馬の血清を送付してもらい感染の有無を検査します。ここで我々が使用する検査法が“ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)”です。
 ELISAは抗原―抗体反応を利用した抗体検査法であり、今回のようにウイルスに対する抗体のみならず様々なタンパクの定量に使われる非常にポピュラーな実験系です。仕組みを簡単に説明すると以下の通りです。

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 プレートに抗原を固相化→血清を乗せて抗原に血清中抗体を結合→抗体にさらに酵素標識抗体(一般には二次抗体と呼びます)を付着させて発色。
 この発色の程度を吸光度として数値化して抗体価を算出します。血清中の抗体が多いほど二次抗体も多く付くため、発色が強くなるという仕組みです。下図左は試験後のプレートです。発色の程度が様々なのが見てわかるかと思います。右は最後の過程、吸光度を機械で測定しているところです。

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 当研究室では、この馬鼻肺炎の疫学調査を20年以上にわたって継続して行っています。1シーズン(秋~翌春)を通しての感染率は年によって様々で、数%~十数%に収まることがほとんどです。この検査を継続的に行うことで得られる疫学データは、流行の兆候を把握することに繋がるのはもとより、変遷を遂げてきたワクチン接種プログラムの効果を検証する重要な材料にもなります。今でも突発的に流行する年はあるものの、ワクチン接種方法の改善やワクチン改良の効果もあり、長い目で見れば競走馬群での馬鼻肺炎感染率は低下してきています。
 ELISAは1回の検査を実施するのに半日程度要します。毎年、膨大な数の検体をELISAで検査することになるため少し骨が折れる作業ではあるのですが、これが日本競馬を防疫の観点から守る仕事だと思うと気は抜けません。

 さて、今年初のGⅠフェブラリーステークスも終わり、もうすぐ春競馬が始まります。今年も競馬を楽しみましょう。