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2022年5月 6日 (金)

米国ケンタッキー州の子馬でのB群ロタウイルスの流行

 分子生物研究室の根本です。今回は子馬の下痢症の集団発生で検出された珍しいロタウイルスについて紹介します。


 ロタウイルスはヒトの赤ちゃんや子馬に感染し、下痢などの消化器症状を引き起こすウイルスです。現在のところロタウイルスはA群からJ群に分類されており、ウマではA群ロタウイルスのみが下痢をしている子馬から検出されていました。しかし2021年の出産シーズン(2月から3月)に、アメリカの馬産地であるケンタッキー州において、初めてB群ロタウイルスによる子馬の下痢の集団発生がありました。なおB群ロタウイルスはヒトやウシ、ブタなどに感染することが知られています。


 この流行で、下痢を発症した子馬は生後2-7日齢と非常に幼弱でした。農場によっては100%の子馬が下痢の症状を示したことから、非常に伝染力が強いことがわかります。一方、下痢を示した子馬の母馬は、下痢を示しませんでした。原因究明のため、ケンタッキー大学の研究者たちは、下痢便を電子顕微鏡で観察したところ、ロタウイルス様の粒子を観察することができました。しかし、子馬の下痢を引き起こす主要なウイルスであるA群ロタウイルスがリアルタイムRT-PCR法で陰性であったことから、さらに次世代シーケンサーによる遺伝子検査が実施されました。この遺伝子検査により、これまでウマでは報告のなかったB群ロタウイルスが検出されました。ロタウイルスの遺伝子は11つの分節に分かれています。今回子馬から検出されたB群ロタウイルスの11遺伝子を調べると、2つがB群ウシロタウイルス、9つがB群ヤギロタウイルスの遺伝子と最も近縁であることがわかりました。これらの結果から、今回のB群ロタウイルスはウシやヤギといった反芻動物のロタウイルスが混ざり合ってできたことが示唆されました。


 しかし、どのようにして反芻動物からウマに感染したのか、いつからB群ロタウイルスが馬群内に存在しているのかなどは不明であり、今後の研究の進展が望まれます。これまで日本国内において、ウマにおけるB群ロタウイルスによる下痢症の発生報告はありませんが、子馬の下痢症の原因となりうることを念頭に今後は研究を進める必要がありそうです。

[参考文献]
Uprety et al., Identification of a Ruminant Origin Group B Rotavirus Associated with Diarrhea Outbreaks in Foals. Viruses 2021.13:1330.

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A群ロタウイルス感染子馬の下痢症状
(JRA日高育成牧場 遠藤祥郎 博士 撮影、
Nemoto and Matsumura, J. Equine Sci. 2021. 32: 1–9.より引用)