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2022年11月

2022年11月10日 (木)

馬感染症研究会を開催

分子生物研究室の上林です。
秋も深まり、栃木の木々も紅く色づき始めました。
先週末はGⅠ天皇賞(秋)が開催されました。1998年天皇賞(秋)を彷彿とさせるような大逃げの展開もあり、非常に興奮する面白いレースでした。

さて、先月末に総研で「馬感染症研究会」が開催されました。
これは、全国の家畜保健衛生所や動物検疫所の獣医師の方が集まり、馬の伝染病に関する情報交換をしたり、総研の研究者による講義・実習を受けたりして馬の伝染病に関する知見を高める場となります。
家畜保健衛生所は、各都道府県に設置されており、牛・豚・鶏をはじめとした家畜の伝染病の発生予防のための様々な業務を担っています。動物検疫所は、主に動物の輸出入の際の伝染病侵入予防のための責務を果たしています。いずれも、我が国の畜産業を守っていく存在として非常に重要な存在です。そんな機関で働く先生方に、普段は触れる機会の少ない馬についても伝染病の診断にかかわる知識と技術を有していただくために、本研究会は開催されています。

今年は全国から約20名の獣医師が集まりました。
細菌やウイルスが原因となる伝染病に関する講義に加え、馬の触り方や検体の採取方法に関する実習が実施されました。
普段馬に触れる機会が少ないせいか、皆さん熱心に実習に取り組まれている姿が印象的でした。

Photo_3

僅か3日間の開催ではありますが、この経験を通じて少しでも皆さんの馬に関する知識と技術の向上に貢献できていればと思います。
我々としても各自治体に勤務される獣医師の方とお話をできる貴重な機会なので、今後もこの場を大事にしていこうと思います。

長―く効く薬の話

臨床医学研究室の三田です。

 

寒くなってきて風邪が流行る時期になってきました。

我が家でも子供が咳込んでいたので漢方薬を処方してもらったのですが毎食後に飲ませる必要があり、たまに忘れてしまいます・・・。飲み忘れるのが漢方薬ならまだいいのですが、もしこれがホルモン剤や抗菌薬であれば飲み忘れによって体調を崩したり、病気をぶり返してしまうなど大きな問題になってしまいます。そこで、今回のブログでは現在私の研究で取り組んでいる、少ない服用回数で長く効く薬の話をしたいと思います。

 

上記のような「患者が医師の処方通りに服薬できるか(服薬コンプライアンス)」という問題は数十年前から話題にされており、特にホルモン剤注射を頻回にわたって服用しなければならない患者さんにとっては毎日の負担が非常に大きいそうです。そこで製薬会社では薬剤を人工合成したポリマーを用いて加工することで少数回の服用でとても長く効く薬を開発してきました。つまり、一般的に薬を単独で体に投与すると数時間で代謝されてしまい効果が無くなっていきますが、体の中で徐々に分解されるポリマーを使って薬剤をコーティングすることで薬剤が長期間にわたって徐々に分解されるようにする仕組みです。この技術によって現在商品化されているホルモン剤の中には1回の投与で数か月も体の中で有効濃度を保てる薬もあります。薬の加工技術は年々進化しており、薬を必要な量・必要な部位へ・必要な期間にわたって作用させるための研究が様々な薬で行われています。

馬の診療でも頻回の投与が大変だったり、目的の部位だけに薬を届けたい場面があり、私の研究では馬で使用している抗菌薬でこのようなことができないか検討を重ねています。下の写真は先ほど説明した、①薬剤を加工する前と②ポリマーで加工した後の電子顕微鏡写真です。結晶構造だった薬がポリマーで包まれて丸くなっている様子がわかると思います。

①加工前の結晶状の抗菌薬

Photo

②ポリマーで加工した抗菌薬Photo_2

 

この形を見て先日の皆既月食を思い出してしまいました。

いつしかこの薬剤がウマの体のなかで満月のように輝いた効果を発揮できるよう研究をすすめているところです。