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育成馬お披露目(宮崎)

 宮崎育成牧場では、全馬の入厩が完了してから1ヶ月半が過ぎようとしています。この時期の育成牧場では、騎乗馴致と並行して写真撮影が行われています。

写真撮影については、これまでにも何度か紹介してきましたが、四肢の位置、体重のかけ具合、顔の方向、耳の向き、タテガミや尻尾の状態など細かい部分に注意を払いながら、馬体の良さを伝えることができる写真を撮影することはなかなか大変です。入厩から様々な場面で真剣勝負を繰り広げてきましたが、この写真撮影も人間の要求を育成馬に伝えその動きをコントロールする真剣勝負といえるものです。

撮影した写真を基に、宮崎育成牧場では見学者向けにパンフレットを作成しています。〔写真1

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【写真1】宮崎育成牧場 育成馬12-13パンフレット

先日撮影した写真を基に作成した本年度の育成馬のパンフレット。宮崎育成牧場の見学者に配布されています。

この作成したパンフレットも活用し、宮崎育成牧場では恒例となっている秋の育成馬見学会を実施しました〔写真2〕。これは、世代毎に育成馬の入厩後の10月と、BUセールのため宮崎を離れる直前の3月に実施しているもので、会を始めてからこの世代が3世代目になります。

「入厩時とその後の成長が比較できる」と好評で、秋の見学会でお気に入りの育成馬を見つけ、春にその成長を確認し、その後の競走馬としての活躍を応援するという楽しみ方をされている方も多いようです。

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【写真2】宮崎育成牧場 秋季育成馬見学会の様子

好天にも恵まれ、多くのお客様がお越しになり、和やかな雰囲気の中、育成馬見学会が実施されました。

本年の宮崎の育成馬には同じ父を持つ馬が2組あり(父アルデバランのオス2頭〔写真3〕、父バゴのメス2頭)いずれも同じ性別であるため、今回は並べて展示し比較していただきました。ご覧になっているお客様は、それぞれの馬の共通点や相違点、母父の影響などを興味深く観察されている様子でした。

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【写真3】同じ父(アルデバラン)を持つ、イナズマローレルの11(母父ピルサドスキー)とレイナフェリスの11(母父コマンダーインチーフ)の表情

毛色などは異なるものの、骨格や目元および鼻周囲の雰囲気は似ている部分が多いのではないでしょうか

また、育成馬の展示に加えて、競走馬の豆知識も併せて紹介しております。今回は、競走馬の個体識別に用いられているマイクロチップについて紹介する中で、実際に育成馬のマイクロチップを読み取り健康手帳に記載されている番号と照合する検査をご覧いただいたところ、多くのお客様が興味を示されていました。

育成馬の騎乗馴致も概ね順調にすすんでおります〔写真4〕。進捗状況は個体差が大きく様々ですが、昨日は悩みの種だった育成馬が一日で飛躍的な成長を遂げることも珍しくなく、1日毎に成長の具合が手に取るようにわかる楽しい時期です。

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【写真4】ペン内でドライビングを行うレイナフェリスの11(父アルデバラン

サマーセールで購買し9月に入厩した馬達も、ペン内で2本の調馬索を用いたランジングに加えて、ドライビングを実施し、基本的なハミ受けを学んでいます。

先に入厩した育成馬たちは現在、500mの内馬場で調教を実施中です〔写真5〕。まもなくスタンド前の1600m馬場での調教を開始できる予定で、公園や、ウインズにお越しの皆様に調教風景を披露できる日も遠くないことと思います。

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【写真5500m内馬場で速歩調教を行う左からドラールフォンテンの11(父ステイゴールド)、ホッカイラヴの11(父オペラハウス)およびシアトリカルポーズの11(父アドマイヤムーン

温暖な宮崎を象徴する青々とした放牧地横の500m内馬場で速歩調教を実施する、セレクト、セレクションおよび八戸セールで購買した牝馬3頭。速歩調教初日のため人馬共に緊張気味です。

 

活躍馬情報(事務局)

先週日曜日の東京競馬1R(2歳未勝利戦)におきまして、JRA育成馬エバーグレーズ号が優勝しました。同馬は日高育成牧場で育成調教され、今年4月に開催されたブリーズアップセールにて取引された馬です。

本年当セールで取引された育成馬は、8頭(新馬戦優勝4頭含む)が勝ちあがりました。今後のますますの活躍を期待しております。

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10/21 4回東京競馬7日目 第1R 2歳未勝利 芝1,400m

エバーグレーズ号(アリゲーターアリーの10) 牝 2

【 厩舎:伊藤 正徳(美浦) 父:シンボリクリスエス セレクションセール購買 】

【腹帯馴致】について(日高)

 今夏の東日本は、記録的な残暑に見舞われました。北海道浦河も、9月に入っても30℃を超すなど、9月中旬までの平均気温は観測史上最高で、半世紀に1度ともいわれる残暑となりました。この残暑厳しい中、サマーセールで購買した40頭が、829日と30日の両日に分かれて入厩しました。9月上旬にはセレクトおよびセレクションセール購買馬を中心に22頭の牡馬を1群として、また、10月初旬からは21頭牝馬を2群として、騎乗馴致を開始しました(写真1)。日高育成牧場は、来年のブリーズアップセールに向けて活気づいてきました。

 騎乗馴致の開始に伴い、BTC育成調教技術者養成研修生の騎乗馴致実習も始まりました。研修生達は、3週間かけて、ランジング、ローラーの装着、ドライビング、そして騎乗に至るまでの過程を学びます。実習前には、馬は人を乗せるのが当たり前だと考えていた研修生達が、実習を通して、騎乗馴致の重要さを感じ取っていく姿は、非常に印象的に映ります。

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写真1.安全に騎乗するために、騎乗前にはドライビングを実施し、扶助を理解させます。写真はパディントンの11(牡、父:バゴ)。

さて、今回は騎乗馴致について触れたいと思います。騎乗馴致は「ブレーキング」とも呼ばれ、草食動物としての“馬”らしい行動を壊し(Break)、新たにヒトとの約束事を構築することを意味します。1群の牡馬の多くは7月下旬に入厩しており、約1.5ヶ月の昼夜放牧によって、心身もとに“馬”らしい状態になっていたために、まさに「ブレーキング」という言葉がふさわしく感じられます。騎乗馴致は、馬体のパッティング、腹帯馴致、ランジング、ドライビングを経て、ペンでの騎乗までを3週間程度かけて、段階的に進めていきます。

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写真2.「ストラップ馴致」は腹帯馴致の有効な手段となります。

動画1.「ストラップ」による腹帯の馴致方法。

しかしながら、どんなに細心の注意を払って、騎乗馴致を進めていても、危険な場面に遭遇することは少なくありません。その危険な場面とは、初めて「腹帯」および「騎乗」を実施するときです。なぜならば、これらは、騎乗馴致を開始する前には、決して経験することのない刺激となるからです。これらのうち、騎乗は、「装鞍」や「横乗り」などによって、段階的に慣らしていくことが可能となります。一方、「腹帯」は「装着するか装着しないか」、つまり「全か無」の刺激しか与えることができないために、騎乗馴致時において、ひとつの山場となっています。そのために、ローラー装着前の腹帯馴致として、JRA育成牧場では、「ストラップ」による馴致方法を導入しています(写真2)。この「ストラップ」は、革ベルトとリングというシンプルな構造のため、解除が容易であり、使用方法も簡便です。さらに、馬に対して、段階的に圧迫に慣らすことが可能であるために、非常に推奨できる方法であります(動画1)。「ストラップ」による腹帯馴致方法を導入してから、ローラー装着時に「カブリ(Bucking)」(動画)と呼ばれる、四肢で跳ね上がる反応を見せる馬は減るようになりました。この「カブリ」は、大きな呼吸によって胸郭が膨らみ、ローラーによる経験したことのない圧迫を強く感じて驚き、それを振り解こうとする必然的な反応であります。馬が「カブリ」を見せた場合には、必ず、ムチなどの扶助を使って馬を前に出し、馴致者の安全を確保するとともに、扶助に従って、前に出ることによって、問題が解決されるということを理解させます。この際にも、馴致者は冷静に明確な指示を出すことが要求されます。ローラー装着後は、ローラーを装着したまま馬房に収容し、1時間程度様子を見てはずします。しかし、ローラーに対する反応は個体差がありますので、過敏に反応する馬に対しては、馴致終了後も、ローラーを装着したままウォーキングマシンで運動させたり、あるいは放牧するなど、ローラーの圧迫に慣らすことが有効です。

動画2.ローラー装着時の「カブリ」の様子。コロナガールの11(牝、父:デュランダル)。

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写真3.ローラーに過敏に反応する馬に対しては、ローラーを装着したまま放牧し、ローラーの圧迫に慣らすこともあります。コロナガールの11(牝、父:デュランダル)。

 馴致の進行程度は、個体差があるので、「急がば回れ」の諺のとおり、個々の馬に合わせて、段階的に進めていきたいと思っています。次回は、走路での走行している姿をお伝えするとともに、初雪についてもご報告できるかもしれません。

JRAホームブレッド(生産馬)の2歳世代中央初勝利

 

先週の4回東京競馬第2レースにおいて、キングアドバンス号(美浦・勢司和浩厩舎)が1着となり、JRAホームブレッド(生産馬)の2歳世代の中央競馬初勝利を挙げましたのでお知らせします。

 

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10/14 4回東京競馬5日目第2R 2歳未勝利 ダート1600m

 

キングアドバンス号(フジティアスの10) 牡 2

 

【厩舎:勢司 和浩 父:ケイムホーム JRAホームブレッド】

 

 

 

本年のブリーズアップセールで取引された育成馬は、7頭(新馬戦優勝4頭を含む)が勝ちあがりました。今後のますますの活躍を期待しております。

 

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JRAホームブレッド(Homebred)とは、JRA育成馬のうち、JRA自らが生産した馬の名称です。同馬はJRA日高育成牧場にて生産・育成され、本年4月、JRAブリーズアップセールの新規馬主限定セッションにおいて取引されました。

 

 JRAでは、我が国の生産育成分野のレベルアップに資することを目的として、これらの馬を活用し、「母馬のお腹の中から競走馬まで一貫した調査研究や技術開発」を行い、その成果の普及に取り組んでおります。生産育成業務の成果については、JRAホームページ内のJRA育成馬サイト「JRA育成馬を用いた生産育成業務」で詳細を紹介しております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

離乳後に注意しなくてはならない病気(生産)

今年は異常に暑く、ようやく秋の訪れを感じる涼しさになってきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか? 日高育成牧場では獣医・畜産学系の学部に在学中の大学生を対象に、大学の夏休み期間中「サマースクール」を実施しました(写真1)。これは、馬に興味がある学生に対して、牧場の作業や講義・実習を通して広く馬産業に携わる人材を養成する目的で実施しているものです。毎年6月頃JRAのホームページ上で募集しますので、興味のある学生の皆さんは是非来年応募していただきたいと思います。

さて、今回のテーマは、ちょうど今頃行なわれる離乳のお話です。離乳自体につきましては、昨年の当ブログでご紹介しておりますので、今回は離乳後に注意しなくてはならない病気について、当歳馬、繁殖牝馬両方の面からお話したいと思います。

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写真1 サマースクールの様子

当歳馬

 当歳馬は離乳することで母乳からの栄養供給がなくなるため、離乳前から十分に濃厚飼料に馴らしておくなど、離乳後スムーズに十分な栄養補給ができるようにするための準備が大切です。離乳後の時期の当歳馬に起こりやすい病気で、特に最近問題になっているのは「ローソニア感染症」です。この病気はLawsonia intracellularis という病原体が感染することで発症します。元々豚の感染症として知られていたものが、近年馬にも感染することがわかり、問題となっています。日本でも胆振地区の一部では集団発生が見られたり、ここ浦河町でも発生が確認されるなど、注意が必要です。

 発症すると、発熱、元気消失、食欲低下など他の一般的な感染症と同様な症状のほか、四肢の浮腫や下痢が認められるのが特徴です(写真2、3)。診断は、血液検査で低蛋白血症が認められるほか、腹部超音波検査で小腸壁の肥厚が確認できることもあります。確定診断には、血清中の抗体検査あるいは糞便中のPCR検査という専門機関での特殊な検査が必要です。治療としてはリファンピシン、クロラムフェニコール、オキシテトラサイクリン、ドキシサイクリンなどの抗生物質を投与します。

 死亡率は決して高くありませんが、下痢が長期に渡る結果、腸管からの栄養摂取が上手く行かなくなり、成長不良となってしまいます。ワクチンもまだ開発されておらず、絶対的な予防法は存在しないため、離乳時にかかる子馬のストレスをなるべく軽減し、子馬の健康状態を良好に保つことが重要です。

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写真2 ローソニア罹患馬。両後肢の浮腫が認められる。

(出典 Equine vet. Educ. (2009) 21 (8) 415-419

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写真3 ローソニア罹患馬の下痢

(出典 Equine vet. Educ. (2009) 21 (8) 415-419

繁殖牝馬

 一方、母馬は離乳することで今まで子馬が飲んでいた乳が溜まることになるため、「乳房炎」という病気になることがあります。これは乳腺が細菌感染することが原因で発症します。離乳直後に起こるイメージですが、実は離乳した4~8週間後に最も発症が多いと言われています。

症状としては、乳房が著しく腫れ(写真4)、触ると痛みを示し、乳房が腫脹している方の後肢の跛行を示すこともあります。原因菌は主にStreptococcus zooepidemicus などのグラム陽性菌と呼ばれる種類の細菌ですので、ペニシリン(マイシリン)やセファロチン(コアキシン)などの一般的な抗生物質がよく効きます。早期発見・早期治療できれば予後は良いので、離乳後は母馬の乳房をこまめに観察するように心がけましょう。

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写真4 乳房炎(右の乳房が感染)

 離乳はこのような疾病の発症を始め、子馬、母馬両方に負担がかかる、デリケートなイベントです。皆様の愛馬がこの時期を上手く乗り切り、将来健全な競走馬になれるよう心から願っています。