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育成馬見学会を開催しました(宮崎)

 南国宮崎でも朝晩は肌寒い日が増えてきました。夕方6時を過ぎるとあたりは真っ暗、季節の移り変わりを実感します。秋と冬の混在するこの時期は人馬ともに体調管理が難しい時期ですが、宮崎育成牧場に入厩した22頭の育成馬たちは皆元気に過ごしています。今夏は例年より雨が少なく1ヶ月近く雨が降らない時期もありましたが、最近は毎週のように雨が降り、台風が次から次へとやってきます。現在行っている夜間放牧(夕方16時に放牧に出し、朝8時に収牧する)は基本的には雨天決行で実施していますが、今年は台風の影響で10月下旬までに3回も放牧を中止せざるを得ない日がありました。夜間放牧を行わなかった翌日の調教・騎乗馴致では一晩馬房で過ごしたストレスからか馬たちは元気一杯なので、台風による2次災害ともいえる怪我や落馬事故などをおこさないよう、馬の様子を注意深く観察しながら調教に臨もうと思います。

 さて、前回の育成馬日誌(宮崎)でご紹介した「一般向け育成馬見学会」を10月19日(土)に開催しました。毎年行っているこのイベントは、入厩してまもなくの10月頃とブリーズアップセール上場のために宮崎の地を離れる直前の3月頃の年2回、一般来場者の方々に宮崎で成長していく育成馬の姿をお披露目しています。競走馬になってからも地元で育った育成馬を応援してもらいたいとの考えのもと実施してきたこのイベント、最近のアンケートでは「10月と3月で大きく変わる馬の姿を見るのが楽しみです」というご感想も多く戴いています。回数を重ねるごとに参加者数が増え、一人でも多くの人に育成馬を応援してもらえるよう、今後更なる努力を重ねていきたいです。

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 育成馬を見学する来場者(上)と来場者に配布した在厩馬パンフレット(下)。当日は台風の余波で80%の雨予報となっていましたが、雨に降られることなく40名の方々にお集まりいただき、じっくりと育成馬たちをご覧戴くことができました。

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 来場者アンケートで圧倒的に応援者が多かったメジロレーマーの12(牡、父:ハーツクライ、購買価格:1417.5万円)。落ち着きと風格を漂わせて、他を寄せ付けない抜けた1番人気となりました。

 さて、22頭の育成馬は夜間放牧と併行して順調に騎乗馴致・調教をこなしています。九州・八戸の2市場で購買した6頭(牡:3、牝:3)は現在、500m内馬場にて1000mのハッキングを行った後に1600m馬場にて4ハロン程度のキャンター調教を実施しています。ゆっくりとしたキャンター調教ではありますが、各馬の個性が少しずつ出てきています。最初だけ元気一杯の馬や静かに指示を待てる馬、常に冷静で他の馬の情動に左右されない馬など。今後はスタミナをつける調教を継続しつつ性格的な相性の合う騎乗者への乗り替りを進めていく予定です。

 セレクション・サマーセールで購買した16頭中11頭の騎乗馴致は順調に進み、装鞍して円形馬場でのランジングを実施し、終了後には円形馬場内で跨れるまでに至っています。11月初旬には500m内馬場での運動を開始し、先に調教を開始した上記6頭とも近いうちに合流できそうです。

 残る5頭は馬体重が少なかったり体質が弱かったりしたために騎乗馴致の開始時期を若干遅れさせましたが、ここにきて成長が如実に感じられるようになってきたため10月中旬から騎乗馴致を開始しています。現在はまだランジングをはじめて間もない段階ですが、賢い馬ばかりで問題らしい問題は見当たりません。じっくり時間をかけて先を行く17頭に追いついていこうと思っています。

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 1600m馬場で調教中の九州・八戸市場購買馬6頭。前からウィギングの12(牡、父:キンシャサノキセキ)、ニシノアリスの12(牡、父:チーフベアハート)、タイセイローザの12(牡、父:バゴ)、オンワードスワンの12(牝、父:ケイムホーム)、スプラッシュビートの12(牝、父:ショウナンカンプ)、ルックミーウェルの12(牝、父:オンファイア)。順調に調教が進められています。

 

 JR九州が10月15日から運行を開始したクルーズトレイン「ななつぼしin九州」。九州5県を4日間かけて周遊するこの豪華寝台列車は宮崎育成牧場のすぐ横を通ります。7両ある車体には煌びやかな装飾がなされ、全国から大注目を集めるこの列車。我々もこの列車のように、いつも地元の皆様から愛され全国に輝きを放ち続けられるような牧場となれるよう、日々の業務に励んでいきたいと思います。

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 朝9時前に牧場横を通る「ななつぼしin九州」。写真には写っていませんが、居合わせた育成馬たちは後ろで一様に驚いた顔をしていました。

活躍馬情報(事務局)

 先週の競馬で、2歳のJRA育成馬が優勝しました。これによって、10頭が勝ちあがり、合計14勝(交流重賞1勝を含む)となりました。今後益々の活躍を期待しております。 

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10/26 4回東京競馬8日目 第1R 2歳未勝利戦 ダート1,400m

ロマンシーズ号(フレンドリータッチの11) 牡 2歳

【 厩舎:石毛 善彦(美浦) 父:アルデバランⅡ JRAホームブレッド 】

トレセン周辺での育成技術講習会のご案内について

 競走馬の育成技術の普及を目的として、トレセン近隣の育成牧場関係者を主な対象とした育成技術講習会を下記のとおり開催するのでご案内いたします。

1.日時・場所

 1)平成25年10月30日(水) 17:00~19:00(意見交換会~19:30)

    美浦トレーニングセンター 厚生会館分館2階大会議室

 2)平成25年11月 6日(水) 17:00~19:00(意見交換会~19:30)

    栗東トレーニングセンター 厚生会館別館2階大会議室

 

2.講演内容(敬称略)

 パネルディスカッション

 「海外で競馬を学ぶ-海外経験者が「世界の馬づくり」を語る」

 1)美浦パネリスト

   田中 敬太 氏(㈱ビットコントロール)

   冨成 雅尚 氏(JRA日高育成牧場 専門役)

   中内田 充正 氏(栗東トレーニングセンター 技術調教師)

   本木 剛介 氏(元バリードイルレーシング)

 2)栗東パネリスト

   大舘 敦志 氏(UPHILL)

   冨成 雅尚 氏(JRA日高育成牧場 専門役)

   中内田 充正 氏(栗東トレーニングセンター 技術調教師)

   本木 剛介 氏(元バリードイルレーシング)

 

3.意見交換会 19:00~19:30予定

  同会場にて、講師と受講者の皆様とで意見交換会を実施いたします。

 

4.その他

 (公社)競走馬育成協会及び(公財)軽種馬育成調教センターとの共催により実施

活躍馬情報(事務局)

 

 先週の競馬で、2頭のJRA育成馬が優勝しました。 これによって、本年の当セールで取引された2歳育成馬は9頭が勝ちあがり、合計13勝(交流重賞1勝含む)となりました。今後のますますの活躍を期待しております。

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10/19 4回東京競馬6日目 第1R 2歳未勝利戦 ダート1,400m

アイナマーリエ号(フジノバイオレットの11) めす 2歳

【 厩舎:栗田 徹(美浦) 父:サウスヴィグラス 北海道サマーセール購買 】

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10/20 3回新潟競馬4日目 第2R 2歳未勝利戦 芝1,400m

アマノウインジー号(タイキシャインの11) 牡 2歳

【 厩舎:湯窪 幸雄(栗東) 父:ヨハネスブルグ 北海道セレクションセール購買】

「騎乗馴致」が始まりました(日高)

 今夏の北海道は、特に7月上旬から8月中旬までが暑く、平均気温が過去10年間で2番目に高かったようですが、お盆を過ぎたあたりから暑さが和らぎ、9月中旬に全国的に記録的な大雨をもたらした台風18号が通過後は、急激に秋を感じる涼しい朝が続くようになりました。9月27日には旭川市で初霜が観測されるなど、道内18の地点で氷点下を記録する寒さとなりました。日高育成牧場のある浦河西舎でも5℃を記録しました。このような冬を感じる寒さの中、騎乗馴致を進めています。

 騎乗馴致は3つの群に分けて実施しています。21頭の牡馬を1群として9月初旬から、そして、23頭の牝馬を2群として9月下旬から騎乗馴致を開始しています(写真1)。このように、来年のブリーズアップセールに向け、日高育成牧場は活気づいてきました。

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写真1.騎乗前にはドライビングを実施し、安全に騎乗するために扶助を理解させます。写真はプルームリジェールの12(牡、父:ハーツクライ)。

 JRA育成馬の騎乗馴致は、「育成牧場管理指針」にも記載しているとおり、「タオルパッティング」、「馬房内での回転」および「ストラップによる圧迫馴致」などの「プレ馴致」から始めます。「タオルパッティング」は、触られることを嫌う部位などを重点的にタオルで触れることによって慣らして、人の様々なアクションが無害であるということを理解させるために実施します。「馬房内での回転」は、ラウンドペンでのランジングや騎乗時に人の指示や音声コマンドに従って、回転できるように慣らします。また、「ストラップによる圧迫馴致」(写真2)は、段階的に腹部の圧迫に慣らすために実施します。これらに共通するのは「慣らす」ということです。「プレ馴致」から「騎乗馴致」に至るまでで、最も大切なことは、馬を「慣らす」ということであり、そのためには、馬に対する「寛容」な気持ちが不可欠です。

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写真2.「プレ馴致」で実施する「ストラップ馴致」は腹帯馴致の有効な手段となります。

このように、細心の注意を払って馴致を進めていても、「ローラー」と呼ばれる「腹帯」の装着時の「カブリ(Bucking)」と呼ばれる、四肢で跳ね上がる反応を見せる馬は必ず認められます(動画)。この「カブリ」は、大きな呼吸によって胸郭が膨らみ、ローラーによる経験したことのない腹部の圧迫を強く感じて驚き、それを振り解こうとする本能的な反応です。馬が「カブリ」を見せた場合には、ムチなどの扶助を使って馬を前進させ、馴致者の安全を確保します。また、扶助に従って、前進することにより、問題が解決されるということを理解させます。この際にも、馴致者は「寛容」な気持ちで、冷静に明確な指示を出すことが要求されます。

動画.ローラー装着時の「カブリ」の様子。ケイアイリードの12(牡、父:カネヒキリ)。

例年と同様に、騎乗馴致の開始に伴い、BTC育成調教技術者養成研修生の騎乗馴致実習も始まっています。研修生達は、3週間かけてランジング、ローラーの装着、ドライビング、そして騎乗に至るまでの過程を学びます。実際に競走馬になるJRA育成馬を用いて、騎乗馴致の過程を体験することは、優秀なホースマンになる上で必ずや研修生達の大きな財産になることと思います。

研修初日には、馬装の方法のみならず、作業の流れも分からず、緊張しているのが手に取るように分かります。これと同じことが、騎乗馴致初日にラウンドペンの中に入る1歳馬にも当てはまります。騎乗馴致初日の馬は、ラウンドペンの中で何をしたらよいかということを全く理解していません。研修生たちは、一つのことが終われば、次のことを率先して実施しようと努力します。これは、研修生たちは自らの目標に向かって取り組んでいるため、様々な難題も自ら克服しようとします。一方、馬は自ら騎乗されたい、あるいは競走馬になりたいという目標など持っているはずもありません。そのため、ラウンドペンの中に入った瞬間に鞭で追ってキャンターを実施して嫌な思いをさせてはならず、「プレ馴致」で馴らしてきたことをラウンドペンの中でも繰り返し実施し、ラウンドペンの中は安全であるということを理解させることが最も重要です。研修生達には、研修初日の自らの精神状態を、騎乗馴致初日の馬の精神状態に置き換えて、馬の立場に立って馴致を進めていくことの大切さを学んでほしいと願っています。

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写真3.JRA職員の指導の下、ドライビング実習を実施するBTC生徒。モントレゾールの12(牡、父:ステイゴールド)。

生産現場における駆虫 その4「駆虫剤投与以外に実施すること」(生産)

生産現場においては、駆虫剤を投与する以外にも有効な寄生虫対策があります。

 

・放牧地のローテーション

・放牧地の糞塊除去

・放牧地のハローがけ(ハローがけ後は一定期間休牧)

・大量寄生馬の隔離

・過密放牧の回避

・牛・羊などとの混合放牧

 

 

 

 

 

 

 

 

前回までお話ししたターゲット・ワーミングと、これらを併用することで耐性寄生虫の発生を可能な限り抑制できると思われます。

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「放牧地のローテーション」や「糞塊除去」は寄生虫駆除に有効な方法

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アイルランドで実施されている牛との混合放牧

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

JRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

生産現場における駆虫 その3「寄生虫をゼロにする必要はない」(生産)

前回触れた「ターゲット・ワーミング」のつづきです。

 

「ターゲット・ワーミング」は、薬剤感受性が高い寄生虫(薬が効く虫)を一定割合生存させておくことによって、耐性寄生虫の割合を減らすことができる方法です。

 

これにより、本当に駆虫が必要な時に駆虫剤が効果を示すようになるのです。

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この方法の根底には「寄生虫をゼロにする必要がない」との考え方が存在します。

「寄生虫=害虫=全滅させる必要がある」という概念は間違いだと考えられるようになったのです。

 

すべての寄生虫が馬に健康被害をもたらすのでしょうか?

この疑問は解決されていません。

 

デンマークで行われたトロッター競走馬を対照とした調査によると、

円虫卵が多く認められた馬のほうが、入着(1~3着)する可能性が高いとの結果が得られました。

円虫寄生が競走パフォーマンスを高めるとは想像できませんが、少なくとも競走馬の場合には負の影響はないと考えられます。

 

もちろん、成馬であっても大量寄生による疝痛・栄養障害などの健康状態に与える影響は否定されていません。

 

しかし、子馬のアスカリド・インパクションなど、本当に必要な時のために、現在有効な駆虫薬を残しておくことは極めて重要です。

 

なぜなら、新たな駆虫薬の開発には長い年月を必要とするからです。

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現在使用可能な駆虫剤は、必要な時のために温存!!

つづく

 

生産現場における駆虫 その2「ターゲット・ワーミング」(生産)

耐性寄生虫の出現を可能な限り抑制する方法として、

欧米では「ターゲット・ワーミングTarget worming」と呼ばれる駆虫方法が提唱されています。

 

ポイントは3つです。

 

    ①虫卵検査の実施

    ②必要な馬に限定した駆虫

    ③薬剤のローテーション

 

 

 

 

すなわち、虫卵検査を実施して、必要な馬に対してのみ駆虫を実施する方法です。

また、異なる薬剤を交互に使用することで、1つの薬剤に対する耐性寄生虫の出現を抑制します。

 

具体的には、

2ヶ月間隔で繋養全馬に対する虫卵検査を実施

・各寄生虫につき糞1g250個以上の卵が認められた場合のみ駆虫

・イベルメクチン、ピランテル、フェンベンダゾールを2ヶ月ごとに交代で投与

・条虫駆除を目的としたプラジクアンテルは秋に1回(もしくは春との2回)のみ投与

・駆虫2週間後に再検査をして、駆虫剤の効果を確認

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただし、2歳未満の子馬に対しては、虫卵数に関わらず、2ヶ月毎に駆虫を実施します。

理由は、子馬にとっての脅威「アスカリド・インパクション(回虫便秘)」の防止です。

アスカリド・インパクションは、子馬の腸管の中に回虫が充満し、最悪の場合には腸管破裂による死亡を引き起こします。

 

成馬になると、回虫に対して抗体ができると言われています。

このため、抗体ができる前の若馬に対してのみ、徹底的に駆虫するのです。

この場合の駆虫は上記3つの薬剤を交代で使用することにより、耐性寄生虫の発生を抑えます。

 

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虫卵検査により、大量寄生が認められた馬のみ駆虫する

 

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薬剤のローテーション投与

 

つづく

活躍馬情報(事務局)

 10月10日の門別競馬11Rエーデルワイス賞<JpnⅢ>におきまして、JRA育成馬フクノドリーム号が優勝しました。フクノドリーム号は、新種牡馬ヨハネスブルグ産駒で、3連勝での重賞制覇を飾りました。同馬は日高育成牧場で育成調教され、今年4月に開催されたブリーズアップセールにて取引された馬です。

 今後のますますの活躍を期待しております。

 

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10/10 門別競馬 第11R 第16回エーデルワイス賞 ダート 1,200m

フクノドリーム号(キャニオンリリーの11) めす 2歳

【 厩舎:杉浦 宏昭(美浦) 父:ヨハネスブルグ 北海道サマーセール購買 】

 

生産現場における駆虫 その1「耐性寄生虫の発生原因」(生産)

生産現場で問題となる耐性寄生虫、すなわち駆虫剤に効果を示さない寄生虫、

その発生原因となるポイントは3つ。

 

  ①すべての馬に対する駆虫 

  ②定期的な駆虫

  ③同じ駆虫剤の継続投与

 

 

 

 

 

では、耐性寄生虫は、どのようなメカニズムで発生するのでしょうか?

以下のようなモデルが紹介されています。

 

耐性寄生虫は突然出現するものではなく、もともと、寄生虫群のなかに存在しています。

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この寄生虫群に同じ駆虫剤を投与し続けると、耐性寄生虫だけ生き残ります。

 

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すると、耐性寄生虫同士の交配が増加し、耐性寄生虫が多数を占めるようになります。

このように一度でも耐性寄生虫が多数を占めてしまった場合、耐性寄生虫は消失しません。

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それでは、どのような駆虫をすれば良いのでしょうか?

 

つづく