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2022年5月

2022年5月25日 (水)

毛刈りのシーズン

 企画調整室の小野です。


 今年もやってまいりました羊の毛刈りのシーズン。
 競走馬総合研究所では、ウマだけでなく、ヒツジを3頭飼育しております。
 ウマの研究所なのに何のため?と思うかもしれませんが、ヒツジから採血した血液は、ウイルスに対する血中の抗体価を測定するために利用されています。感染症の研究には欠かせない存在なのです。

 ヒツジの毛刈りに不慣れなわれわれだと時間ばかりかかって、ヒツジの安らかな生活に迷惑?をかけてしまいます。ですから、依頼して毛刈りしていただきました。

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 まずわれわれがなかなかできないのが、おとなしく捕まえることです。口元を素早く押さえてコントロール下において、姿勢を変えてしっかり保定されていました。あられもない姿ですが、少し後ろに倒れるくらいが、おなかを圧迫しなくておとなしくじっとしてくれているのだとか。

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 あっという間に刈られていきます。外は汚れていても、中はきれいでふわふわなクリーム色です。羊毛として使用する際は、脂も多いのでまず塩水で洗うそうです。


 ヒツジの毛刈りですが、一般的に年に一度夏に向けて、肉用のヒツジは早めの3月~5月ごろ、羊毛用のヒツジは5~6月ごろ、子羊は毛が短くても熱中症予防のため7月ごろに刈るそうです。

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見た目にもスッキリしましたね。
 

2022年5月18日 (水)

多血小板血漿(PRP)を使った屈腱炎治療

 臨床医学研究室の福田です。

 昨年、当ブログにて、私が今取り組んでいる多血小板血漿(PRP)治療の研究について簡単に紹介させていただきました。→こちらです! 

 先日、馬の屈腱炎治療のためにPRPを投与する機会がありましたので、簡単にレポートいたします。
競走馬の屈腱炎は不治の病といわれ、過去ではアグネスタキオン、クロフネといった多くの競走馬が引退に追い込まれています。

Ebi1 赤で囲まれた部分が腫れている屈腱部です。反対の足に比べて太くなっているのがわかりますか?

Ebiprp 腫れている部分にPRP(黄色い液体)を注射器で注入しています。
PRPの投与が有効であれば、投与された部分を中心に新しい組織が再生します。
この馬は乗用馬なのですがまだ若く、この治療で腱の具合が良くなればまだまだ人を乗せて活躍できることでしょう。

今後の治療経過に注目しています。

 

2022年5月12日 (木)

顕微鏡観察標本の作製方法 ①

 微生物研究室 上野です。
 当研究室は細菌などの微生物に関する検査だけでなく,病理検査も担当しています。病理検査では,病気の馬より採取した臓器・組織から作製した標本を用い,病変の形態学的な評価を行います。
 今日は一般的な病理組織標本~ホルマリン固定パラフィン包埋(ほうまい)標本の作製方法について2回にわたり紹介いたします。

固定
 採取された組織は,一般的には薬品による固定(化学的固定)が施されます。固定の主な目的は採取時の形状を保つこと,すなわち「自家融解や細菌による腐敗を防止すること」や「組織や細胞のタンパク質を変化させて形態や内部に含まれる物質を保存すること」にあります。通常はホルマリン(ホルムアルデヒド水溶液)を用いますが,目的によっては高濃度のアルコールも使用します。

切り出し
 固定後の組織から検査に必要な部分を選択し,標本作製に適した大きさ・形にナイフで切り取ります(図1,2)。骨などの石灰化した組織は,そのままでは硬すぎて切ることができないので,カルシウムなどを取り除くための脱灰(だっかい)処理を事前に行います。

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図1 ホルマリン固定後の採取組織(鼻にできたイボ)
上:表面からみたところ。
下:縦断面。この面を顕微鏡観察します。

2図2 サンプル処理用カセット *蓋を外しています
取り間違えが無いよう,サンプル毎に個別のカセットに入れ処理を進めます。

包埋(ほうまい)
 顕微鏡観察のためには極めて薄く組織を切らなければなりません。通常私たちは3-5 μm(1000分の3-5 mm)の標本を作製しています。固定処理でもある程度の“硬さ“は生じるのですが,レバニラ炒めのレバー程度の硬さであるので,そのままでは顕微鏡観察ができるほど薄く切ることはできません。そこで組織に適度な硬さを与えるための物質~パラフィン(蝋)を組織に浸透させます。パラフィンは水をはじく性質があり,固定後の状態のままでは組織に浸透しないので,アルコールによる脱水→アルコールとパラフィンの両者に親和性のある物質(キシレン等)による中間処理→溶融パラフィンの浸透と手順を進めます。細かくは数時間おきに十数段階の手順を要しますが,専用の機械が自動的に処理してくれます(図3)。パラフィン浸透が終わった組織は,溶融パラフィンと共に冷やし固めてブロック状にします(図4,5)。

3図3 自動包埋装置

4図4 パラフィン浸透が終わった組織
溶融パラフィンと共に所定の型枠に入れて冷やします。

5図5 パラフィンブロック
冷やし固める途中で台座(サンプル処理用カセットを流用)を取り付けます。

*次回はパラフィン浸透組織の薄切(はくせつ)と染色方法についてご紹介します。

2022年5月 6日 (金)

米国ケンタッキー州の子馬でのB群ロタウイルスの流行

 分子生物研究室の根本です。今回は子馬の下痢症の集団発生で検出された珍しいロタウイルスについて紹介します。


 ロタウイルスはヒトの赤ちゃんや子馬に感染し、下痢などの消化器症状を引き起こすウイルスです。現在のところロタウイルスはA群からJ群に分類されており、ウマではA群ロタウイルスのみが下痢をしている子馬から検出されていました。しかし2021年の出産シーズン(2月から3月)に、アメリカの馬産地であるケンタッキー州において、初めてB群ロタウイルスによる子馬の下痢の集団発生がありました。なおB群ロタウイルスはヒトやウシ、ブタなどに感染することが知られています。


 この流行で、下痢を発症した子馬は生後2-7日齢と非常に幼弱でした。農場によっては100%の子馬が下痢の症状を示したことから、非常に伝染力が強いことがわかります。一方、下痢を示した子馬の母馬は、下痢を示しませんでした。原因究明のため、ケンタッキー大学の研究者たちは、下痢便を電子顕微鏡で観察したところ、ロタウイルス様の粒子を観察することができました。しかし、子馬の下痢を引き起こす主要なウイルスであるA群ロタウイルスがリアルタイムRT-PCR法で陰性であったことから、さらに次世代シーケンサーによる遺伝子検査が実施されました。この遺伝子検査により、これまでウマでは報告のなかったB群ロタウイルスが検出されました。ロタウイルスの遺伝子は11つの分節に分かれています。今回子馬から検出されたB群ロタウイルスの11遺伝子を調べると、2つがB群ウシロタウイルス、9つがB群ヤギロタウイルスの遺伝子と最も近縁であることがわかりました。これらの結果から、今回のB群ロタウイルスはウシやヤギといった反芻動物のロタウイルスが混ざり合ってできたことが示唆されました。


 しかし、どのようにして反芻動物からウマに感染したのか、いつからB群ロタウイルスが馬群内に存在しているのかなどは不明であり、今後の研究の進展が望まれます。これまで日本国内において、ウマにおけるB群ロタウイルスによる下痢症の発生報告はありませんが、子馬の下痢症の原因となりうることを念頭に今後は研究を進める必要がありそうです。

[参考文献]
Uprety et al., Identification of a Ruminant Origin Group B Rotavirus Associated with Diarrhea Outbreaks in Foals. Viruses 2021.13:1330.

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A群ロタウイルス感染子馬の下痢症状
(JRA日高育成牧場 遠藤祥郎 博士 撮影、
Nemoto and Matsumura, J. Equine Sci. 2021. 32: 1–9.より引用)