« アジア競馬会議@メルボルン | メイン | 繋駕競走 »

2023年3月15日 (水)

心房細動治療薬のキニジンについて

臨床医学研究室の黒田です。

本日は本年取り組んでいる研究の硫酸キニジンの薬物動態について御紹介します。

硫酸キニジンとは、最近ではエフフォーリア号が発症したことで有名な心房細動の治療薬です。

左右の心房と心室からなる心臓は、通常心房が先に収縮して心室に血液を送り、次に心室が収縮して全身に血液を送ります。

心房細動では、心房の収縮が細かく震えるように無秩序に発生し、その結果心室の収縮も不規則になってしまいます。

馬においては、通常の生活や軽度の運動は可能ですが、競馬のような強い運動時では血液循環不全から急な失速や息切れといった運動不耐性を示します。

JRAの症例では約93%の症例が発症後24時間以内に自然に治癒しますが、48時間以上改善しない場合は治療が必要と考えられています。

治療は、古くから用いられている薬物療法と、近年報告が増えてきている心臓カテーテルを用いた電気刺激によるものがあります。

薬物治療において、最も一般的なものがクラスIaの抗不整脈薬であるキニジンになります。キニジンはナトリウムチャンネルをブロックし、活動電位の伝達速度を遅らせる働きにより、バラバラな心房の収縮を抑制して治療する薬物です。

JRAにおけるキニジンによる心房細動治癒率は91%と高く、効果が期待できる薬物ですが、心臓に働きかける薬物には生死にかかわる副作用があり、この薬物も取り扱いが難しいことが知られています。

すでに馬における薬物動態の報告は多いのですが、標準的な投与法が定まっていない現状があります。その原因として、投与量と治癒効果や副作用との関係に大きなバラツキがあり、低用量でも副作用が出たり、高用量でも治癒しない症例が存在しています。

おそらく、この薬物の効果を発揮する治癒濃度の範囲と、副作用が出る危険な濃度の範囲が非常に近いため、今までの薬物濃度の平均値を基に作成された投与法では、一部の馬では危険な濃度に達している可能性があります。

これに対し、私は薬物濃度のバラツキを解析する母集団薬物動態解析法を用いて、多数の馬に安全な投与法の検討を進めております。

Fig1

こちらは健康な馬6頭のキニジン濃度推移になります。

これに加えて、実際に治療した症例の濃度の解析も進めており、より安全で効果的な治療法の確立を目指していきたいと考えています。