ウマとその他動物の瞳孔のかたち
競走馬総合研究所の桑野と申します。
今回は、ウマをはじめ動物の黒目について小話を書きます。眼球の色がついている部分を専門用語で虹彩(こうさい)、その真ん中にある「黒目」と呼ばれている部分を瞳孔(どうこう)といいます。暗い場所で散大している瞳孔は、どの動物も丸っぽく動物種による違いが明確でありませんが、日中、瞳孔が縮まっている状態(縮瞳)で観察すると動物ごとに様々な形があることが分かります。今回、全ての動物についての説明は省きますが、一般に知られている1)横長、2)縦長、3)まん丸の3つの瞳孔の形とその形がどう動物の暮らしに役立っているのかを考えてみます。
馬は虹彩が大きいので目が全部黒目に見えてしまいますが、本当の黒目すなわち瞳孔は図のように地面と水平な横長をしています(図1)。これはウシ、ヒツジ、ヤギ、キリンといった反芻する草食獣も同じです(図2)。広く水平に焦点を絞るこのタイプの瞳孔は、平原を広く見渡して餌となる草を探すのに有力なだけでなく、肉食獣の接近に気付きやすい構造と言えるでしょう。草より低いところしか見渡さない小型草食獣であるウサギは丸い瞳孔をしています。平原を広く見渡す必要がないからでしょう。
図1. 馬の黒目は水平な棒状をしています
一方、肉食獣の方は、薮から顔を出して獲物との距離感を測る大型のトラやライオンや、隠れることなく集団で獲物を襲う犬や狼では焦点を一点に絞れる丸い瞳孔をしています(図2)。対して、薮の中から獲物を単独で狙う小型の肉食獣であるキツネやネコは瞳孔が縦長になる傾向にあります(図2)。これは、きっと茎と茎の縦長の隙間から獲物を狙う時に焦点が合いやすいからでしょう。家畜化された家ネコは考えないでくださいね。ワニは藪から獲物を狙いませんが、水面上あるいは水中直下から獲物を狙います。水中でどう獲物が見えるかわかりませんが、縦長の瞳孔であることにきっとメリットがあるのでしょう。ヘビはワニと同じですが、どうしてか分かりません。
図2. 動物の瞳孔の形のあれこれ
このようにネコ科だから縦長スリット、イヌ科だから丸、草食獣だから水平スリットという訳ではなく、体のサイズと食性によって瞳孔の形が似たり、異なったりするのは面白いですね。今度、馬の目を見るとき目の中の黒目をちょっと意識してみると面白いですよ。