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2023年11月 8日 (水)

薬剤耐性を警戒する世界的な啓発週間が来る!

微生物研究室の丹羽です。

 薬剤耐性 (AMR : Antimicrobial resistance) という言葉があります。最近はニュースなどでもしばしば取り上げられるので、皆さんもご存知かもしれません。薬剤耐性は、細菌、ウイルス、真菌(カビ)、寄生虫が不適切な抗菌薬使用を続けられることでその薬に耐性を獲得し、その薬が効かなくなってしまう現象をいいます。特に細菌の薬剤耐性が世界的に問題となっており、1980年代に出現したメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の出現以降、様々な薬剤に耐性を持つ多剤耐性細菌(たざいたいせいさいきん)が人類にとって脅威となっています。

 WHOは、抗菌薬の適正使用を呼びかける目的で、2015年から毎年11月18日を含む1週間を「世界抗菌薬啓発週間」に設定しました。2023年からは、新たに「世界AMR(薬剤耐性)啓発週間」と名前を変え、日本を含む各国政府とともに全世界的な取り組みを行っています(参考)。実は、これ人だけでなく家畜でも同じ問題を共有します。つまり、家畜の治療で不適切な抗菌薬の使用が続くと、薬剤耐性細菌が出現して家畜間で伝搬してしまいます。また、場合によっては人にも伝搬してしまうかもしれません。

 当然、馬の医療においても薬剤耐性菌の脅威が現実のものとなりつつあります。米国において子馬に肺炎を起こすロドコッカス・エクイという細菌は、治療薬であるリファンピシンとマクロライド系抗菌薬に耐性を獲得してしまい治療を難しくしてしまいました。国内では、2010年代以降、馬の手術部位に感染を起こすMRSA(図1)やある種の大腸菌などの多剤耐性菌が検出されるようになり、問題となってきました。これらの問題から、現在、総研の微生物研究室では馬における薬剤耐性細菌の監視や蔓延の防止に役立つ研究に取り組んでいます。

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図1 .寒天培地上での細菌培養;

MRSA(左)と通常の黄色ブドウ球菌(右)との薬剤感受性の違いシャーレに細菌が増殖しやすい特殊な寒天が敷かれ、その上に白くて丸い濾紙が置かれています。濾紙1枚にはそれぞれ1種の抗菌薬が染み込ませてあり、効果(感受性)がある抗菌薬では濾紙の周辺に染み出した薬の作用によって細菌が発育しないため、透明な円形部分(阻止円)が形成されています。左のMRSA培養では、右の通常の黄色ブドウ球菌のそれと比較し、多くの濾紙で阻止円が形成されていません。これは、MRSAが複数の抗菌薬に対して耐性を獲得している証拠です。

参考:https://www.cas.go.jp/jp/houdou/r01_amrtaisakusuisin.html

内閣官房HP;11月は「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」です(外部リンク)