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2024年1月

2024年1月18日 (木)

競走馬総合研究所のマクロ(肉眼)標本

こんにちは。微生物研究室の岸です。

 少し前になりますが、国立科学博物館がクラウドファンディングによる寄付を募ったところ、予想を上回る資金が集まり注目を集めていましたね。博物館には剥製、骨格、発掘された埋蔵物などの標本を保管する役割があるのですが、こういった標本を守りたいという国民の思いが表れたのではないでしょうか。かく言う私も標本好きの一人で、今回は、競走馬総合研究所(総研)で保有しているマクロ標本について触れてみたいと思います。

 総研は、馬の全身骨格、馬体を構成する骨の標本、全身模型などの比較的大型の標本を保有し、獣医師や学生の教育、本会職員の研修用として使っています。研究施設という性格上一般の方々には常態的に開放できないので、この場を借りてこれらの一部を紹介してみましょう。

 写真1は、馬の全身骨格標本、写真2は前肢を正面から写したものです。馬を正しく診療するためには、まず骨格を把握しておかないと、跛行検査も、触診検査も、レントゲン撮影もおぼつかなくなります。よって、本会に入会したての獣医師には、基本構造として馬の全身骨格を頭に入れてもらっています。

Photo写真1. 全身骨格標本

矢印は人の手首に相当する腕節(わんせつ)と呼ばれる部分です。

写真右下の丸囲みは中指一本での駐立を示しています。

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写真2.前肢正面からの写真

正面から見ると、人の手首に相当する部分から下が非常に長いことや、

中指のみで立っていることがよく分かります。

 続いて写真3は、軽種馬(クオーター)の全身模型(レプリカ)です。この模型では頸静脈を模倣した赤い液体を蓄えられるチューブが頚部に走行しており、注射の練習ができます。また、腹部には各種臓器の模型が入っていて直腸検査の練習もできます。

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写真3. クオーター種の模型(レプリカ)

 最後に写真4は、オス馬の頭部の骨標本(半分に割ってある)です。頭の輪郭を連想しにくいと思い、馬の頭部のどのあたりかの相関図を一緒に示します。この骨標本では下顎骨を取り除いており、頭骨から上顎骨までをお見せしています。画面左の大きな窪みが大脳や小脳を容れる頭蓋腔(ずがいくう)、真ん中から右の方に鼻腔があり、その下方に上顎があります。上顎には臼歯(きゅうし)、犬歯(けんし)、切歯(せっし)が生えていますが、メスには基本的に犬歯がありません。最前位の臼歯と最後の切歯の間にはほとんど歯が無いことになりますが、この部分は槽間縁(そうかんえん)と呼ばれ、馬がハミを受けるところです。舌を出しながら走っている馬を見たことがありませんか。そんな馬たちは、この槽間縁から舌を出しています。上顎骨や下顎骨の骨折、副鼻腔炎、歯の疾患などに現場で対応する際、このような頭部の骨標本の詳細を勉強しておくことが必要となります。

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写真4 馬の頭部の骨標本:

上段の骨が相当する部分を下段の模式図(水色)に示します。

 以上のように総研の標本とは、ただ眺めるだけでなく、病気の馬達にどう向き合うかを探り、獣医医療に応用する目的で保管されているのです。

2024年1月12日 (金)

幹細胞を凝集体にすると浅屈腱炎への治療効果が向上する

臨床医学研究室の田村です。

陸上選手やスポーツ選手は、日々のトレーニングや競技によって、アキレス腱や膝・肘の靭帯を痛めてしまうことがあります。 競走馬も馬場を速い速度で走り抜けるため、腱炎や靱帯炎を発症してしまうことがあります。競走馬総合研究所では、そうしたケガの治療方法についても研究を進めています。中でも間葉系幹細胞を利用した再生医療には20年近く取り組んでおり、数多くの競走馬に適用してきました(写真1)。

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写真1. 浅屈腱炎を発症した競走馬の病変部に間葉系幹細胞を投与しているところ。

 その幹細胞治療も進化しています。従来は幹細胞を培養したら、そのままの状態で投与していました(写真2)。ですが、最近では、さらに治療効果を向上させるため、もうひと手間かけています。その工夫とは、培養したのち数百個の幹細胞をおにぎりのように凝集体(写真3)にして投与するものです。

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写真2(左図)従来の培養された間葉系幹細胞; 紡錘形から星形の単細胞が増殖しているところ

写真3(右図)新しい手法で培養された凝集体型の幹細胞;増殖した幹細胞が球状に凝集している



 JRA総研では、従来の幹細胞と、凝集体にした幹細胞の治療効果を比較する研究を実施しました。その結果、凝集体にした幹細胞のほうが、腱炎の損傷部を早く治すことがわかりました。すなわち、凝集体にすることによって、一つ一つの幹細胞が本来持っている能力をさらに引き出せると考えられました。

 既に、浅屈腱炎や繋靱帯などを発症してしまった競走馬に対して、この新しい治療法を利用しています。今後も、より良い治療法を開発することを目標として、研究を積み重ねていきたいと思います。また、こうした治療技術が人間のスポーツ選手にも応用できるようになれば、ウマとヒトの関係性を深める素晴らしい機会になると考えています。

これからも応援を頂けますよう、どうぞよろしくお願いします。

2024年1月 4日 (木)

オランダの国際学会(ICEL9)に参加-その2

運動科学研究室の杉山です。

まずは明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。 

 さて、皆さんは、お正月に色々な日本の食文化を堪能したことでしょう。それと遜色ないと思えるオランダの食文化があります。これ、昨年12月4日掲載の当ブログ

国際ウマ・イヌ運動解析学会(ICEL9)に参加しました」(https://blog.jra.jp/kenkyudayori/2023/12/icel9-cec8.html

で書ききれなかったので、もう少し説明させていただきます。

 学会が実施されたユトレヒトは観光都市としてもにぎわいを見せており、オランダ料理を提供するレストランも多く営業されていました。皆様オランダといえばチーズが有名ですが、オランダ国内ではハーリングというニシンの一種を軽く塩漬けにした半生タイプの魚料理が大変ポピュラーなのをご存知でしょうか。オランダの伝統料理といえば欠かせない食材です。現地の食べ方は、頭だけ切ったハーリングの尻尾を持って、口を上に向けて腰に手をあてて直立したままお口の中に落とし込む一気食い!この食べ方は昔ながらの習慣です。観光客に優しい店主のおじさんは、私には小さく切って出してくれました(写真1)。久しぶりに食べたハーリング・・・美味しい!パンに挟むのも人気だそうです、ごちそうさまでした。

Photo写真1.ピクルスと玉ねぎの付け合せは王道

 次にお勧めなのが、ビターバレン;Bitterballenというクリームコロッケのような揚げ物です(写真2)。クロケット;Kroketという細長いタイプもあるのですが、こちらは日本のコロッケの語源になりました。ですが、お勧めはまん丸のビターバレンです。中身は牛肉をミンチにして小麦粉と混ぜ、バターと香辛料と塩で味付けしたものですが、たいへん美味です。オランダに行きましたらぜひ食べてみてください。

Photo_3写真2. あと100個は食べられたかも

 最後に紹介するのがアムステルダムの人気店マネケンピス;Mannekenpisのフライドポテトです。コスパがよく大人気です。皆さんがいつも食べているフライドポテト(フレンチフライが本当の名前かな)と同じものですが、食べ方がちょっと違います。フライドポテトを食べる時、皆様はソースに何を選んでいますか?大多数の方はケチャップかと思います。オランダ流の食べ方はなんとマヨネーズ。太めのあつあつフライドポテトにたっぷりのマヨネーズをつけてハフハフ・・・! マヨラーでなくても、ほら、口の中が潤ってきませんか? マヨネーズも、普通のマヨからスパイシーマヨ、カレーマヨなど20種類以上と豊富。私のおすすめはザーンセ・マヨ;Zaanse Mayoというオランダの伝統的なマヨネーズ(写真3)。これは塩分が非常に少ないので、卵の風味とお酢の酸味がしっかり効いていてフライドポテトに非常によく合います。ただ、お腹が空いているうちに食べきらないと・・・。

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写真3.  マネケンピス;Mannekenpisとは、小便小僧という意味。

ぎょっとしますが味は確かです。

 以上おすすめの食べ物3選でした。オランダに行く機会があればこの3つは食べて欲しいです。そして、かつて日本の鎖国時代、世界で唯一交易があったオランダで、遠くは日本の長崎出島に向けて出航したオランダ船乗り達の勇気と根性にも思いを馳せてみてください!