2023年12月 4日 (月)

国際ウマ・イヌ運動解析学会(ICEL9)に参加しました

運動科学研究室の杉山です。

 本年夏(8月末)に、オランダはユトレヒト(図1)で開催された国際ウマ・イヌ運動解析学会(International conference on Canine and Equine Locomotion 9; ICEL9)に参加しました。父の仕事の関係で幼少時にオランダで数年暮らした経験から、私にはとても懐かしく、学会を含めて美しいオランダの一部を紹介したく思い筆をとりました。

 ユトレヒト大学は、オランダ最大の大学というだけでなく、ヨーロッパ全体でも屈指の規模を誇ります(図2)。会場となった講堂はセレモニーホールとしての特色を持ち、後方2階には大きなパイプオルガンがあって、いかにもヨーロッパを彷彿させる佇まいでした。

1_2図1. 美しいユトレヒトの街並み  

2_3 図2. 講演のためのステージ;日本と異なり、演者は中央の演題で喋り、右手奥のモニターと、これとは別に設けられた聴衆付近のモニターに発表スライドが映されるしくみでした。

 ICEL9では、主に乗用馬とスポーツドッグの動きを解析し、学術の視点から議論されます。総じて、動画やウェアラブル・デバイスなどを使って動物の動きを測定し、怪我の発生機序や事故防止について研究したものが数多く発表されました。ユトレヒト大学も運動解析学では有名な大学で、慣性センサーとモーションキャプチャを用いた歩様解析技術を使って、馬場馬術における人馬一体の動きの対称性を評価することに非常に高い関心を持ち、解析結果を報告していました。馬術ではウマの背中や腰部の関節可動域の動きとライダーの動きとのバランスが競技に影響してきます。ゆえに、人馬にモーションキャプチャのマーカーを取り付けた解析報告をはとても印象的でした(図3)。

Photo図3.馬の背腰に取付けられたモーションキャプチャ・マーカー

 近年、スポーツ競技に特化した動物の疾病の予防と診断には、運動中のモニタリングが重要であると結論付ける報告が多く、これらの研究成績を臨床にも応用しようと、ユトレヒト大学内の病院には巨大な歩様検査場が併設され(図4)、すでに実用に向けて動いているのは驚きでした。

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図4.ユトレヒト大学構内の歩様検査場

 オランダの9月は朝晩涼しく、厚手のコートを着ても問題ないような気候で、北海の怒涛や風や、霧雨の運河の橋の記憶が蘇えりました。今回、ICEL9に参加させていただき、運動解析の重要性を改めて認識でき、今後の研究の動機づけになりました。

2023年11月20日 (月)

馬の歯と歯擦りについて

企画調整室の山﨑と申します。

  馬の歯は全て、成馬になるまでに生え替わって永久歯となります。ですが、人間と違って永久歯に生え変わっても、臼歯だけは日々少しずつ伸び続けます。そのため、若い競走馬だと年に3、4回、年齢が高い乗馬でも年に2回は臼歯を擦ってあげないと、上顎の臼歯は外側が、下顎の臼歯は内側が伸びて尖ってしまいます。尖った歯は口粘膜を傷つけて口内炎ができたり、そうでなくても餌の食いつきが悪くなったり、またハミが当たると馬にとっては違和感があるので手綱操作が思うようにできなくなったりと悪いことばかりです。アニマルウエルフェアの観点から、不快な思いを馬たちがしないように、JRAでは馬の歯擦りを定期的に実施することを推奨しています。

  さて、歯擦りには馬の口を開けさせる金属製の道具が必要なのですが、JRAでは、かつては片手開口器(写真1)が最もよく使われていました。ただ、片手開口器は小さな道具で手軽なのですが、片方のそれも尖った奥歯だけで金属を噛まされる馬にとっては、フィット感が悪く嫌がることもしばしばです(写真1)。嫌がるだけならまだしも、届きもしないのに立ち上がってこの開口器を前足で叩き落とそうとする馬も…。その場合は、人馬ともに危険な状態となることもあります。

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                        写真1. 左:片手開口器を噛ませると、馬は少し嫌々します。                         

右:片手開口器(矢印)と各種歯擦り道具(歯鑢)

   馬の不快感を軽減し、かつ安全をより確保する目的で、近年フルマウス型開口器(写真2)が開発され、本会の競走馬診療所ではこれを主に使うようになりました。フルマウス型開口器は大造りではあるものの、しっかり噛ませれば外れることがなく、また尖っていない前歯に噛ませるタイプのため口へのフィット感が良く、嫌がる馬が少ないというメリットがあります。写真2は、ハミ受けが悪くなるほど臼歯が尖っていた乗用馬で、フルマウス型開口器で口を開けて歯鑢(シロ)と呼ばれる歯擦り器を使って臼歯を擦っているところです。嫌々の素振りもなく、落ち着いて作業をさせてくれました。 

  一般の方々にフルマウス型開口器を見ていただくと、「大きいので危険だ」という印象を持たれることがありますが、正しい使い方をする限りとても安全な器具です。このように、アニマルウエルフェアの観点からだけでなく、人馬の安全といった意味からも歯擦り道具は改良され進歩しているのです。

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写真2. 左:フルマウス型開口器を噛ませたところ

右:歯鑢を奥まで挿入しても、ちゃんと受け入れてくれています。

2023年11月15日 (水)

年に一度の「こども馬学講座」を開催しました!

総務課の甲斐谷です。

 11月3日(祝)に、競走馬総合研究所(以下、総研)では「こども馬学講座」を開催しました。このイベントは、小学校高学年のお子様に「ウマとはどんな生き物なのか」を知ってもらおうと、総研職員一丸となって“知識”と“体験”を提供するという年一回だけの総研イベントです。コロナでしばらく開催できませんでしたが、昨年再開し、今年は再開後2回目となりました。

 今年の講義は、獣医師の杉山研究員から馬体の仕組みや運動能力について優しく解説してもらいました。質問コーナーでは、子供たちは興味津々、積極的に応答してくれていました(写真1)。

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写真1. 質問コーナーにて積極的に挙手で応える子供達

 実技では、馬用の大型ルームランナーである「トレッドミル」で馬の走る姿を見学していただきました(写真2)。間近で走る馬の迫力に子供たちばかりでなく、保護者の方々も驚きと感動を持って食い入るように見学されていたのが印象的でした。20231108_153830_2

写真2. トレッドミルでは実際に馬を走らせて、そのフォームを解説しました。

 そして、ポニーとのふれあいタイム(写真3)、乗馬体験(写真4)、さらには装蹄師による「蹄鉄造り実演」(写真5)、来場者自ら行う「蹄鉄コースターづくり」(写真6)と盛りだくさんな内容が次から次へと。「蹄鉄造り実演」では、一本の鉄の棒が蹄鉄の形になっていく様子をじっくりと見てもらうとともに、出来あがった蹄鉄をゲットできる「ジャンケン大会」は大いに盛り上がりました。「蹄鉄コースターづくり」では、皆さん良いお土産ができたと喜んでいました。総じて、非常に濃い馬との1日を体験してもらえたと思います。

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写真3(左上) ポニーとの触れ合いタイム     写真4(右上)乗馬体験

写真5(左下) 職員装蹄師による蹄鉄造り実演    写真6(右下)蹄鉄コースターづくり

 「研究所」という特性上、普段からお客様が見学することができないため、「近くに住んでいるけれど、何をしている施設だったか分からなかった」などという感想を頂くこともあります。この企画は、日本で唯一の競走馬の研究施設を皆様にご理解いただく場としても提供されています。帰っていく皆さんが笑顔で「楽しかった」「勉強になった」と言ってくださり、私も嬉しい気持ちでいっぱいでした。参加者は保護者の方も含めて40人の定員制で、応募が多ければ抽選となります。来年も、同様に開催しようと考えておりますので、新しいお客様との出会いを期待しております。

 

2023年11月13日 (月)

火災予防運動期間です。さあ、消防訓練だ!

JRA総研;総務課の荒井です。

  11月9日(木)から15日(水)までは秋の全国火災予防運動期間です(参考)。火災予防運動期間は1950年代から制定されており、1989年からは、春は「消防記念日(3月7日)を最終日とする1週間」、秋は「119番の日を起点とする1週間」と年2回の実施が決まっています(気象条件の違いから一部の地域ではこの限りではありません)。競走馬総合研究所でも、秋のこの期間に合わせて所内で執務する全ての人々を対象に消防訓練を実施しています。

  消防訓練を企画するには、本会職員だけでなく関連団体職員や従事員の方々へも周知徹底が必要です。その意味で小さな企画であっても気を使う仕事なのですが、これを任されているのが私の所属する総務課という部署です。競走馬総合研究所という名称から、獣医さんや研究者だけが働いているイメージを持たれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。いえいえ、競走馬の様々な問題を解決しようと研究に励む方々が、効率よく仕事ができるように、人事厚生や会計の事務や施設管理などを総務課が担当しています。科学に直接携わらない私のような者も、研究をサポートするために働いているのです。

  消防局が常に諭している「火災は予防が最重要!」のお言葉と同様、競走馬の事故や流行的な感染も予防が大切です。私たち事務作業を中心としている者が間接的に研究をサポートすることで、競走馬に起こりうる事故を少しでも予防できていれば、こんなに嬉しいことはありません。そんな思いで、今年も消防訓練を遂行いたしました!

参考;総務省消防庁のお知らせ

https://www.fdma.go.jp/mission/prevention/prevention001.html(外部リンク)

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セイフティコーンを炎と見立てて、訓練用消火器で消火を模擬体験しています!



2023年11月 8日 (水)

薬剤耐性を警戒する世界的な啓発週間が来る!

微生物研究室の丹羽です。

 薬剤耐性 (AMR : Antimicrobial resistance) という言葉があります。最近はニュースなどでもしばしば取り上げられるので、皆さんもご存知かもしれません。薬剤耐性は、細菌、ウイルス、真菌(カビ)、寄生虫が不適切な抗菌薬使用を続けられることでその薬に耐性を獲得し、その薬が効かなくなってしまう現象をいいます。特に細菌の薬剤耐性が世界的に問題となっており、1980年代に出現したメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の出現以降、様々な薬剤に耐性を持つ多剤耐性細菌(たざいたいせいさいきん)が人類にとって脅威となっています。

 WHOは、抗菌薬の適正使用を呼びかける目的で、2015年から毎年11月18日を含む1週間を「世界抗菌薬啓発週間」に設定しました。2023年からは、新たに「世界AMR(薬剤耐性)啓発週間」と名前を変え、日本を含む各国政府とともに全世界的な取り組みを行っています(参考)。実は、これ人だけでなく家畜でも同じ問題を共有します。つまり、家畜の治療で不適切な抗菌薬の使用が続くと、薬剤耐性細菌が出現して家畜間で伝搬してしまいます。また、場合によっては人にも伝搬してしまうかもしれません。

 当然、馬の医療においても薬剤耐性菌の脅威が現実のものとなりつつあります。米国において子馬に肺炎を起こすロドコッカス・エクイという細菌は、治療薬であるリファンピシンとマクロライド系抗菌薬に耐性を獲得してしまい治療を難しくしてしまいました。国内では、2010年代以降、馬の手術部位に感染を起こすMRSA(図1)やある種の大腸菌などの多剤耐性菌が検出されるようになり、問題となってきました。これらの問題から、現在、総研の微生物研究室では馬における薬剤耐性細菌の監視や蔓延の防止に役立つ研究に取り組んでいます。

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図1 .寒天培地上での細菌培養;

MRSA(左)と通常の黄色ブドウ球菌(右)との薬剤感受性の違いシャーレに細菌が増殖しやすい特殊な寒天が敷かれ、その上に白くて丸い濾紙が置かれています。濾紙1枚にはそれぞれ1種の抗菌薬が染み込ませてあり、効果(感受性)がある抗菌薬では濾紙の周辺に染み出した薬の作用によって細菌が発育しないため、透明な円形部分(阻止円)が形成されています。左のMRSA培養では、右の通常の黄色ブドウ球菌のそれと比較し、多くの濾紙で阻止円が形成されていません。これは、MRSAが複数の抗菌薬に対して耐性を獲得している証拠です。

参考:https://www.cas.go.jp/jp/houdou/r01_amrtaisakusuisin.html

内閣官房HP;11月は「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」です(外部リンク)

2023年10月27日 (金)

あと1年を切りました

分子生物研究室の坂内です。

 何まであと1年かと言いますと、フランスのドーヴィルで行われる第12回国際馬伝染病会議(12th International Equine Infectious Diseases Conference)です。

公式サイト(外部)https://ieidc.org/

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 この学会は4年に1度開催される馬の感染症研究に特化した学会で、私が日本の国際委員を務めています。フランス大会は元々2020年に第11回大会として行われるはずでしたが、Covid-19のせいで1年延期、さらにはオンライン開催となってしまいました。そして今度こそフランス現地開催をと仕切り直し、2024年秋に向け私たちは準備を進めています。

 

 今年5月には各国の委員が現地ドーヴィルに集まって、会場の視察や準備会議を行いました。ドーヴィルはフランス北西部の海沿いにある落ち着いた観光地で、美しいビーチや中世の趣の残る古い街並み、そして種類豊富な魚介を中心とした料理が人々に至高の時間をもたらしてくれます。学会は2024年9月30日~10月4日、ちょうどパリオリンピック・パラリンピックが終わって、競馬の凱旋門賞の直前に開催されます。

Bar_du_soleil_2バーやレストランの並ぶドーヴィルのビーチ

Honfluer_2近隣のオンフルールに残る古い街並み

 私たち委員は、学会のコンテンツを充実させるべく、企画やスポンサー集めに尽力しているところです。競馬をはじめとする馬産業を感染症の脅威から守るため、研究者、臨床獣医師、行政関係者が世界中から集まるこの学会に、日本からも多くの方が参加されることを願っております。演題申し込みは2024年3月中旬から開始します。スポンサーも募集中ですので、ご興味のある方は総研分子生物研究室までお問い合わせください。

 関係者の皆さん、奮ってご参加ください。

 2024年秋、ドーヴィルでお会いしましょう。

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見た目も鮮やかな魚料理

 

2023年10月11日 (水)

北海道馬産地で蹄病について講演

競走馬総合研究所(総研)の桑野です。

 先日、北海道静内にて日本軽種馬協会(公社)が主催する2つの講習会(生産者向け:写真1、装蹄師・獣医師向け:写真2)に講師として呼ばれ、蹄病について講義をさせていただきました。生産地の熱気をお伝えするべく筆を取ります。

3写真1.静内エクリプスホテルで開催された生産者向け講習会。(満員御礼)

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写真2.日本軽種馬協会の研修所で開催された装蹄師・獣医師向け講習会。(満員御礼)

 歴史的に「ひづめ」とは皮爪(ひ・つめ)の読みに、さらに馬の基盤である足に相応しい漢字として帝を当てて「蹄」と書くようになったと伝えられています。大切な器官という認識の表れですね。現在では、蹄は角質だけでなく、蹄角質に覆われた全ての器官を指す用語として定義づけられています。

 当然、蹄の病気についても関心が持たれるのですが、世界的にこれを研究している者は少ないです。病気を解明するには薄くスライスして顕微鏡で観察したり、その成分を水に溶かして生物・化学的に解明しなくてはいけないのですが、蹄を覆っている硬くて水に溶けない角質がこれを難しくしています。

 競走馬総合研究所ではこの難問に挑戦して蹄病を研究し、対応方法を打ち出してきました。今回は、蟻洞(ぎどう)という蹄壁に空洞が発生する病気についてJRAトレーニングセンター(トレセン)の現状をお話ししました。競走馬はトレセンと生産地を行ったり来たりするので、蹄病はトレセン、生産地双方にとって共通の話題であり、トレセンでの出来事を知っておくことは生産地で働く人々にとっても有益な情報となるからです。

 より良い競走馬を育てあげる技術は様々あると思いますが、その中に護蹄(ごてい)管理も含まれています。生産地の皆様は、それこそ足元から学び、大切な競走馬達を育て上げているのです。

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2023年10月 2日 (月)

馬事公苑宇都宮事業所でラストイベント!

JRA総研の桑野です。

9月23日(祝・土)、栃木県宇都宮市にある馬事公苑宇都宮事業所(公苑宇都宮)にて「2023 馬に親しむ日」が催されました。このイベントを最後に、公苑宇都宮は東京へ帰っていきます。もしかしたら、宇都宮で馬のビッグイベントはもう見られないかもと思い、ちょいと覗いてきたのでご紹介します。

 まず、現在の公苑宇都宮の所在地には、元々J R A育成牧場だった所に東京から競走馬総合研究所(総研)が1997年に移設。総研がさらに栃木県下野市に移設後、空いた土地に今度は東京から馬事公苑が2017年に移ってきたという経緯があります。馬事公苑が宇都宮に移ってきた理由は、他でもなく東京2020オリンピック・パラリンピックの馬術競技会場に決まった馬事公苑(世田谷区)の改築に合わせて人馬を移動させるためでした。よって、移動されてきた職員さんは、育成場や研究所の名残がある中、乗馬に特化した施設に組み替えての業務となりきっと色々ご苦労なさったことでしょう。そんな中での最後のイベント。公苑側も熱を入れての開催となったそうです。その結果、嬉しいことに、今回のイベントには3269名(前年比214%)のお客様が来場してくださいました。

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 出し物としてはホースショーがメインですが、来場者の一番人気は乗馬体験です。朝から整理券を配ると、あっという間に捌けてしまいました。時間が来たら、手綱を引いてもらって広い屋内馬場を1周だけ乗馬できるのですが、いつもと異なり、今年は、ちびっこだけでなく、大人の方まで幅広い年齢層のお客様が乗せてもらえたようです。

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 オリンピックが1年延期される中、公苑宇都宮も東京へ戻るのが延期になり、ちょっと長く留まっていたことで周辺の方々にはしっくり馴染んできた頃だったかもしれません。それなのに、「もう帰ってしまうの!」と寂しがる声も。本年10月中には人馬のほとんどは東京に帰ってしまいますが、施設は残り、また新たな事業が模索されると聞いています。同じ栃木県内の事業所で働く職員としてその動向にはちょっと関心がありますね。そして、東京に帰った馬達には、たまには宇都宮の空気を思い出して、ほっこりしてほしいと願います。

Img_4795_4また戻ってきたいな…と思っているやらいないやら....

2023年9月28日 (木)

馬伝染性子宮炎の講習会

微生物研究室の木下です。

 日本軽種馬協会(公益社団法人)が主催する馬伝染性子宮炎 (CEM : Contagious Equine Metritis) に関する講習会が、根室振興局管内において2023年9月25日~26日に開催され、私は座学にて、CEMの概要についての講義を担当しました(写真1)。

1写真1. 座学風景

 届出伝染病に指定されているCEMは、ウマ科動物特有の性感染症で、交配や人工授精によって伝播する疾病です。牡馬は保菌するものの症状を出さず、牝馬にのみ子宮内膜炎や膣炎などの症状を引き起こし、不受胎の原因となる疾病のため、馬伝染性”子宮炎”という名前が付けられました。

 国内では2005年を最後に陽性症例は確認されていませんが、国外においてはヨーロッパを中心に2023年現在でも発生が報告されているため、国内への侵入と侵入初期における蔓延防止が重要となる疾病です。

 このCEM講習会は、CEMの国内侵入防止および蔓延防止を目的として、獣医師をはじめとし、全国各地の関係者にCEMに対する理解や正しい採材法(写真2&3)を伝えるために開催されています。

 本講習会を通じてCEMへの理解が深まり、国内における清浄性が今後も維持されることを望みます。

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写真2.牡の生殖器から細菌を含んでいる可能性のある垢を採材する方法の指導

3写真3. 同じく牝の生殖器から垢を採材する方法の指導








2023年9月11日 (月)

競走馬総合研究所(総研)にも秋が来た!

JRA総研の桑野です。

 今回は、総研で感じられる秋について溢れ話を少し。

 総研にはちょっとした雑木林、灌木そして藪がそこかしこにあります。夜になると薮からは虫の音が聞こえてきますが、その中に自生しているスズムシの美しい鈴の音が混じっております。残暑厳しい折、夕闇に響く鈴の音は少しですが暑さを和らげてくれます。

 それにしても、都会ではスズムシは売っているものと思われがちですが、沖縄を除く各都道府県ではそれなりに自生しているようです。温暖化の影響でしょう、昔はいなかった北海道ですら、移入された個体が自生しているそうです。ただ、全国的にだいぶ少なくなっているのは事実で、宮城県や群馬県では絶滅危惧種に指定されています(参考;日本のレッドデータ)。 

 さて晩夏になって、夏の間に繁茂した草木の刈り込みも始まりました(写真1)。普段は藪に隠れて姿を見せないスズムシも、刈り込み時には逃げ場を求めて這い出してくることも(写真2)。虫を見慣れない方が、室内に入り込んだオスをGと間違えて驚嘆する事件も発生! 音色の美しさと裏腹に真っ黒な姿で広い羽を持つオスはヤバいやつに見えるのも頷けます。

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    写真1. 下草の刈込み風景                    写真2. 落ち着かない様子のオス

 そんな総研ですが、馬たちは夜になると涼やかな虫の音を独り占めしているはず…。翌朝には「お腹すいた!」「早く出して!」というアピールしか見せないので、夜の音楽会をどう鑑賞しているのかわからないのですが、言葉を話せたら聞いてみたいものです。

 来年も同じように涼やかな音色を奏でてくれると期待してます。

参考;日本のレッドデータ(NPO法人 野生生物調査協会&Envision環境保全事務所)http://jpnrdb.com/search.php?mode=map&q=07090100480(外部リンク)