離乳後の子馬の管理 (生産)

本年生まれた7頭のホームブレッドは、これまで大きな病気や怪我もなく順調に育っており、現在は当場で最も土壌が良く、面積が大きい放牧地で管理されています。

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   現在の管理状況は以下のとおりです。

 

放牧時間:午前10:30~翌朝8:30(合計22時間)

 

飼料:オールインワン飼料(JRAオリジナル)3kg(朝2kg、午後1kg)

 

放牧地面積:8ha(1頭あたり1.1ha)

 

1日の移動時間:9~17km(平均11km、10~11月)※GPSで測定

 

1日あたりの増体重:0.8~1.2kg(10~11月平均)

 

また、当場では、毎日の馬体観察および馬体重、定期的な体高、胸囲、管囲、BCSの測定をしています(図1)。

 

このように全頭に対してほぼ同様に管理し、継続的な観察を行ったとしても、成長度合いや骨端炎の発症程度などは馬によって異なるなど、子馬たちに多くのことを教わりながら、あらためて馬づくりの難しさを実感しているところです。

 

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ビューティコマンダの13(牡:父ヨハネスブルグ)の体重推移と馬体写真

 

今後は、12月以降も22時間の昼夜放牧を継続し、

厳冬期における成長停滞および基礎代謝の低下を改善する目的で、馬服を着用し、

うち4頭については、ウォーキングマシンでの運動を試験的に実施する予定です。

 

 

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<スワロウテイルさん>

以前、離乳前に母馬を失った際に乳母による飼育は可能かどうかの質問をさせていただきました。
馬関係のコミックでは乳母をあてがうも乳母の実子との折り合いが悪く、結局は人工飼育に切り替えざるを得ないストーリーになっていました。
実際は母馬喪失の際はすぐに人工飼育を開始しますか?その場合、仔馬の免疫に有益な初乳に含まれる成分はどのように補うんでしょう?

<事務局より>

スワロウテイル様 ご質問ありがとうございます。
ご質問いただいたようなケースでは、乳母を導入するか人工哺乳を開始する必要があります。どちらも一長一短がありますが、一般的には乳母を選択することが多いようです。また、通常の初乳から得られる免疫タンパクの代替として血漿輸液を用いて子馬に免疫タンパクを付与する方法がとられることもありますが、必ずしも初乳を飲めない子馬の免疫がゼロという訳ではありませんので、個々のケースに応じた処置が選択されます。

「騎乗馴致」が始まりました(日高)

 今夏の北海道は、特に7月上旬から8月中旬までが暑く、平均気温が過去10年間で2番目に高かったようですが、お盆を過ぎたあたりから暑さが和らぎ、9月中旬に全国的に記録的な大雨をもたらした台風18号が通過後は、急激に秋を感じる涼しい朝が続くようになりました。9月27日には旭川市で初霜が観測されるなど、道内18の地点で氷点下を記録する寒さとなりました。日高育成牧場のある浦河西舎でも5℃を記録しました。このような冬を感じる寒さの中、騎乗馴致を進めています。

 騎乗馴致は3つの群に分けて実施しています。21頭の牡馬を1群として9月初旬から、そして、23頭の牝馬を2群として9月下旬から騎乗馴致を開始しています(写真1)。このように、来年のブリーズアップセールに向け、日高育成牧場は活気づいてきました。

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写真1.騎乗前にはドライビングを実施し、安全に騎乗するために扶助を理解させます。写真はプルームリジェールの12(牡、父:ハーツクライ)。

 JRA育成馬の騎乗馴致は、「育成牧場管理指針」にも記載しているとおり、「タオルパッティング」、「馬房内での回転」および「ストラップによる圧迫馴致」などの「プレ馴致」から始めます。「タオルパッティング」は、触られることを嫌う部位などを重点的にタオルで触れることによって慣らして、人の様々なアクションが無害であるということを理解させるために実施します。「馬房内での回転」は、ラウンドペンでのランジングや騎乗時に人の指示や音声コマンドに従って、回転できるように慣らします。また、「ストラップによる圧迫馴致」(写真2)は、段階的に腹部の圧迫に慣らすために実施します。これらに共通するのは「慣らす」ということです。「プレ馴致」から「騎乗馴致」に至るまでで、最も大切なことは、馬を「慣らす」ということであり、そのためには、馬に対する「寛容」な気持ちが不可欠です。

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写真2.「プレ馴致」で実施する「ストラップ馴致」は腹帯馴致の有効な手段となります。

このように、細心の注意を払って馴致を進めていても、「ローラー」と呼ばれる「腹帯」の装着時の「カブリ(Bucking)」と呼ばれる、四肢で跳ね上がる反応を見せる馬は必ず認められます(動画)。この「カブリ」は、大きな呼吸によって胸郭が膨らみ、ローラーによる経験したことのない腹部の圧迫を強く感じて驚き、それを振り解こうとする本能的な反応です。馬が「カブリ」を見せた場合には、ムチなどの扶助を使って馬を前進させ、馴致者の安全を確保します。また、扶助に従って、前進することにより、問題が解決されるということを理解させます。この際にも、馴致者は「寛容」な気持ちで、冷静に明確な指示を出すことが要求されます。

動画.ローラー装着時の「カブリ」の様子。ケイアイリードの12(牡、父:カネヒキリ)。

例年と同様に、騎乗馴致の開始に伴い、BTC育成調教技術者養成研修生の騎乗馴致実習も始まっています。研修生達は、3週間かけてランジング、ローラーの装着、ドライビング、そして騎乗に至るまでの過程を学びます。実際に競走馬になるJRA育成馬を用いて、騎乗馴致の過程を体験することは、優秀なホースマンになる上で必ずや研修生達の大きな財産になることと思います。

研修初日には、馬装の方法のみならず、作業の流れも分からず、緊張しているのが手に取るように分かります。これと同じことが、騎乗馴致初日にラウンドペンの中に入る1歳馬にも当てはまります。騎乗馴致初日の馬は、ラウンドペンの中で何をしたらよいかということを全く理解していません。研修生たちは、一つのことが終われば、次のことを率先して実施しようと努力します。これは、研修生たちは自らの目標に向かって取り組んでいるため、様々な難題も自ら克服しようとします。一方、馬は自ら騎乗されたい、あるいは競走馬になりたいという目標など持っているはずもありません。そのため、ラウンドペンの中に入った瞬間に鞭で追ってキャンターを実施して嫌な思いをさせてはならず、「プレ馴致」で馴らしてきたことをラウンドペンの中でも繰り返し実施し、ラウンドペンの中は安全であるということを理解させることが最も重要です。研修生達には、研修初日の自らの精神状態を、騎乗馴致初日の馬の精神状態に置き換えて、馬の立場に立って馴致を進めていくことの大切さを学んでほしいと願っています。

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写真3.JRA職員の指導の下、ドライビング実習を実施するBTC生徒。モントレゾールの12(牡、父:ステイゴールド)。

生産現場における駆虫 その4「駆虫剤投与以外に実施すること」(生産)

生産現場においては、駆虫剤を投与する以外にも有効な寄生虫対策があります。

 

・放牧地のローテーション

・放牧地の糞塊除去

・放牧地のハローがけ(ハローがけ後は一定期間休牧)

・大量寄生馬の隔離

・過密放牧の回避

・牛・羊などとの混合放牧

 

 

 

 

 

 

 

 

前回までお話ししたターゲット・ワーミングと、これらを併用することで耐性寄生虫の発生を可能な限り抑制できると思われます。

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「放牧地のローテーション」や「糞塊除去」は寄生虫駆除に有効な方法

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アイルランドで実施されている牛との混合放牧

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生産現場における駆虫 その3「寄生虫をゼロにする必要はない」(生産)

前回触れた「ターゲット・ワーミング」のつづきです。

 

「ターゲット・ワーミング」は、薬剤感受性が高い寄生虫(薬が効く虫)を一定割合生存させておくことによって、耐性寄生虫の割合を減らすことができる方法です。

 

これにより、本当に駆虫が必要な時に駆虫剤が効果を示すようになるのです。

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この方法の根底には「寄生虫をゼロにする必要がない」との考え方が存在します。

「寄生虫=害虫=全滅させる必要がある」という概念は間違いだと考えられるようになったのです。

 

すべての寄生虫が馬に健康被害をもたらすのでしょうか?

この疑問は解決されていません。

 

デンマークで行われたトロッター競走馬を対照とした調査によると、

円虫卵が多く認められた馬のほうが、入着(1~3着)する可能性が高いとの結果が得られました。

円虫寄生が競走パフォーマンスを高めるとは想像できませんが、少なくとも競走馬の場合には負の影響はないと考えられます。

 

もちろん、成馬であっても大量寄生による疝痛・栄養障害などの健康状態に与える影響は否定されていません。

 

しかし、子馬のアスカリド・インパクションなど、本当に必要な時のために、現在有効な駆虫薬を残しておくことは極めて重要です。

 

なぜなら、新たな駆虫薬の開発には長い年月を必要とするからです。

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現在使用可能な駆虫剤は、必要な時のために温存!!

つづく

 

生産現場における駆虫 その2「ターゲット・ワーミング」(生産)

耐性寄生虫の出現を可能な限り抑制する方法として、

欧米では「ターゲット・ワーミングTarget worming」と呼ばれる駆虫方法が提唱されています。

 

ポイントは3つです。

 

    ①虫卵検査の実施

    ②必要な馬に限定した駆虫

    ③薬剤のローテーション

 

 

 

 

すなわち、虫卵検査を実施して、必要な馬に対してのみ駆虫を実施する方法です。

また、異なる薬剤を交互に使用することで、1つの薬剤に対する耐性寄生虫の出現を抑制します。

 

具体的には、

2ヶ月間隔で繋養全馬に対する虫卵検査を実施

・各寄生虫につき糞1g250個以上の卵が認められた場合のみ駆虫

・イベルメクチン、ピランテル、フェンベンダゾールを2ヶ月ごとに交代で投与

・条虫駆除を目的としたプラジクアンテルは秋に1回(もしくは春との2回)のみ投与

・駆虫2週間後に再検査をして、駆虫剤の効果を確認

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただし、2歳未満の子馬に対しては、虫卵数に関わらず、2ヶ月毎に駆虫を実施します。

理由は、子馬にとっての脅威「アスカリド・インパクション(回虫便秘)」の防止です。

アスカリド・インパクションは、子馬の腸管の中に回虫が充満し、最悪の場合には腸管破裂による死亡を引き起こします。

 

成馬になると、回虫に対して抗体ができると言われています。

このため、抗体ができる前の若馬に対してのみ、徹底的に駆虫するのです。

この場合の駆虫は上記3つの薬剤を交代で使用することにより、耐性寄生虫の発生を抑えます。

 

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虫卵検査により、大量寄生が認められた馬のみ駆虫する

 

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薬剤のローテーション投与

 

つづく

生産現場における駆虫 その1「耐性寄生虫の発生原因」(生産)

生産現場で問題となる耐性寄生虫、すなわち駆虫剤に効果を示さない寄生虫、

その発生原因となるポイントは3つ。

 

  ①すべての馬に対する駆虫 

  ②定期的な駆虫

  ③同じ駆虫剤の継続投与

 

 

 

 

 

では、耐性寄生虫は、どのようなメカニズムで発生するのでしょうか?

以下のようなモデルが紹介されています。

 

耐性寄生虫は突然出現するものではなく、もともと、寄生虫群のなかに存在しています。

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この寄生虫群に同じ駆虫剤を投与し続けると、耐性寄生虫だけ生き残ります。

 

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すると、耐性寄生虫同士の交配が増加し、耐性寄生虫が多数を占めるようになります。

このように一度でも耐性寄生虫が多数を占めてしまった場合、耐性寄生虫は消失しません。

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それでは、どのような駆虫をすれば良いのでしょうか?

 

つづく

あて馬の活用 その2「ユニバーサルドナー」(生産)

スワロー君に期待されている役割は「あて馬」だけではありません。

 

スワロー君の品種である「ハフリンガー種」は、他の品種に比較して「ユニバーサルドナー」である確率が高い品種です。

 

「ユニバーサルドナー」というのは、他の馬にその血液を投与した場合であっても、赤血球を破壊させる副作用がない、すなわち安全に輸血できる血液を持っている馬のことです。

 

ハフリンガー種の8割以上はこの「ユニバーサルドナー」であるといわれており、スワロー君も検査の結果、それに該当することが分かりました。

 

このため、スワロー君は「あて馬」としての役割のみならず、「輸血用馬」として、子馬の移行免疫不全症(出産直後に母馬から受け取る抗体が少ない病体)などの治療にも活躍することになります。

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ユニバーサルドナーとしての活躍も期待されるスワロー君

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子馬に対する血漿輸液療法

 

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あて馬の活用 その1(生産)

 先日、日高育成牧場にハフリンガー種の「スワロー君(オス3歳)」がやってきました。

スワロー君は、来年の繁殖シーズンから当場で「あて馬」として活躍します。

馬は季節繁殖動物であり、春に繁殖シーズンを迎え、この時期に牝馬は発情します。


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「あて馬」としての活躍が期待されるスワロー君

 

あて馬は、「試情」すなわち、牝馬の発情を確認し、交配に適切な日を判断することが主な役割です。

 

 しかし、それ以外にも、繁殖シーズン、特にシーズン始め(春先)に良好な発情が来ない牝馬に対して、刺激を与えて発情を呼び込む役割も持っています。

 

馬産国アイルランドにおいては、空胎馬に対して1月から毎日「試情」を行うことにより、牝馬に刺激を与え、早春からの発情を呼び込んでいます。

 

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アイルランドにおいては空胎馬に対して毎日「試情」する。

 

つづく

 

離乳 ~その4~(生産)

本年、日高育成牧場で実施した離乳方法は以下のとおりです。

 

【1週目】7組の母子のうち、2頭の離乳を実施。

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【1週目】穏やかな性格の牝馬(本年出産なし)をコンパニオンとして導入。

 

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【2週目】3頭の離乳を実施

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【3週目】残り2頭の離乳を実施

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【離乳後】

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この方法の利点は、

同じ群の多くの馬が落ち着いていることです。

 

離乳直後は、放牧地を走り回りますが、

周りの大多数の馬が落ちついているため、われに帰って、群の中に溶け込みます。

離乳後、数時間の監視をしていますが、大きな事故につながるような行動はありませんでした。

 

どのような方法を実施しても、母馬がいなくなった子馬のストレスは回避できません。

しかし、このような段階的な離乳により、可能な限りストレスを緩和することができると思います。

 

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コンパニオンとして導入した繁殖牝馬を中心に落ち着いた様子をみせる当歳

 

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離乳 ~その3~(生産)

 離乳を実施するうえで、考慮しなくてはならないリスクには以下のようなものがあります。

 

①成長停滞

 

②悪癖の発現

 

③疾患発症(ローソニア感染症など)

 

④事故

 

これらのリスクをゼロにすることはできません。

しかし、予防策として、

 

「離乳前に固形飼料を一定量食べさせておくこと」

「ストレスを可能な限り抑制すること」

 

以上のことを念頭においた離乳の実施方法により、

リスクを最小限に抑制することは可能です。

 

このため、実施時期や環境にも注意を払う必要があります。

 

著しい暑さ、激しい降雨、アブなどの吸血昆虫など子馬のストレスとなる環境要因をなるべく回避することに加え、栄養豊富な青草が生い茂っている時期に実施することも重要です。

 

つづく

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離乳直後にフェンスを飛越したことによる事故