育成馬ブログ 生産編⑨ 「その1」

育成馬ブログ 生産編⑨ 

 

本年のJRAホームブレッド第一子が誕生!!

~出産直後における移行免疫不全症の検査 その1~

 

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                クリスコンフリクトの14(牡 父バゴ)出産翌日

 

3月31日に本年初のホームブレッド、クリスコンフリクトの14(父バゴ)が誕生しました。

初産のため、出産時体重が48kgと小さく、繋(つなぎ)もやわらかく、やや弱い印象を受けました。

 

肢が弱々しく、なかなか起立しなかったため、起立および哺乳のサポート(それぞれ90分後および2時間後)を実施したところ、とりあえず哺乳できるようになり、

母馬の初乳BRIX値も23%と問題ないため、翌朝まで様子を見ることにしました。

 

以前のブログでもふれたとおり(https://blog.jra.jp/ikusei/2014/02/post-ef69.html)、子馬の感染症予防策の1つとして、出産後の血液中の抗体IgGの濃度を調べて、移行免疫不全症の検査をすることは極めて重要です。

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血液のIgG濃度を測定する方法は、いくつかありますが、安価で簡易的に利用できる方法は、グルタルアルデヒド凝固試験ですhttps://blog.jra.jp/ikusei/2012/03/post-27e9.html

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グルタルアルデヒド凝固試験:血清IgG濃度が正常値であれば、数分で凝固する。 

1.グルタルアルデヒドを純水で10%に希釈した溶液を用意する

 

2.血清500μℓに10%グルタルアルデヒドを50μℓ加える

 

3.血清が固まる時間を測る

 

4.10分以内で固まればIgGは800mg/mℓ以上(正常)

 

5.10~60分で固まればIgGは400~800mg/mℓ(部分的移行免疫不全症)

 

6.60分を越えても固まらない場合は400mg/mℓ以下(移行免疫不全症)

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また、短時間で具体的な数値が出る検査として、米国製の測定キット「DVMstat」が有用です。

測定方法は簡単で、子馬から採取した血清をキットの溶液(抗ウマIgGヤギ血清)に加えて、専用の機械(吸光光度計)で濃度を測定します。

いずれの検査も、子馬が初乳を吸収できる時間帯である生後12時間以内における診断が可能であるため、治療として初乳の投与を選択することができます。

DvmstatDVMstat:短時間での血清IgG濃度の測定が可能

 

つづく

From 日高育成牧場 ⑧

 育成馬展示会を開催しました(日高)

 

4月に入り、日高地方にも春が訪れています。育成馬の冬毛は抜け、騎乗者の服装も防寒服から薄手のジャンパーにかわり、繁殖厩舎では産まれたばかりの当歳馬が元気に跳ねまわっています。1600mダートコースを覆っていた雪が解けるのも早かったため、今年の馬場開きは例年よりも少し早い3月31日となりました。北海道には最高のシーズンが訪れています。

育成馬展示会の概要について

日高育成牧場では4月14日(月)に育成馬展示会を開催しました。10時過ぎから57頭の比較展示を行い、その後1600m馬場にて43頭の騎乗供覧をご覧いただきました。当日は天候に恵まれたこともあり、馬主・調教師・生産者をはじめ210名のお客様が来場されました。

この展示会、以前は生産者の皆様にその成長ぶりを見ていただくという趣旨が強かったのですが、近年はBUセールでのご購買を検討していただいている馬主・調教師の皆様が多く来場されます。各馬の担当者は普段から展示や併走調教のしつけを行い、1人でも多くのお客様に足を止めてみていただけるよう、頑張ってきました。

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比較展示では57頭の育成馬を5班に分けてじっくりご覧いただきました。

また、この展示会には軽種馬育成調教センター(BTC)が行っている育成調教技術者養成コース31期生21名も参加しました。彼らは育成馬を用いた初期馴致や実践騎乗研修を行い、育成馬とともに立派に成長してきた今後を担う若者たちです。21名全員が比較展示や騎乗供覧を通して立派に成長した姿を披露してくれました。今後、立派なホースマンとして飛躍することを期待しています。

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BTC 31期研修生が行う比較展示の様子を見学する32期研修生たち。1年後の自分の姿を思い描く、良い機会になったのではないかと思います。

育成馬の紹介

さて、ブリーズアップセール(BUセール)が近付いてきましたので、注目の育成馬6頭の紹介をさせていただきます。

育成馬展示会の騎乗供覧1組目からはメモリーズオブユーの12(牡、父:アドマイヤジャパン、BUセール上場番号:20番)とニシノボナリーの12(牡、父:バゴ、BUセール上場番号:22番)をご紹介します。メモリーズオブユーの12は入厩した頃はやや華奢で幼いところをみせていましたが、乗り込むにつれて動きの良さが目立つようになり、春になって垢抜けてきた印象がある馬です。性格も前向きで、今回の騎乗供覧でも負けん気の強さを前面に出した走りを披露してくれました。ニシノボナリーの12は、普段は大変穏やかで扱いやすい馬で、BTC研修生を最も多く乗せた育成馬の 1頭です。しかし、併走で調教を行うと相手の馬に対して気の強さをみせ、スピード感溢れる走りをみせてくれます。今回の騎乗供覧では、持ったままでラスト2ハロンを13.3-12.3(2ハロン合計25.6秒)で馬体をしっかり併せて駈け抜けました。

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迫力のある併走調教を披露することができたメモリーズオブユーの12(外)とニシノボナリーの12(内)。

 

騎乗供覧2組目からはピサノアリュメールの12(牝、父:ハービンジャー、BUセール上場番号:31番)とゴールドデイの12(牝、父:マンハッタンカフェ、BUセール上場番号:35番)をご紹介します。ピサノアリュメールの12の2代母はマーメイドステークスなどを制したシャイニンレーサーです。入厩時にはやや小ぶりな印象だった同馬は、母系の良さからか春になって馬体の充実が目立つようになりました。今回の騎乗供覧では、しなやかで素軽い走りを披露してくれました。ゴールドデイの12は父 マンハッタンカフェから譲り受けた皮膚の薄さと伸びのある背中が目をひきます。今回の併走調教では一瞬で加速する瞬発力とストライドの大きい走法を見せてくれました。騎乗供覧では、抑えきれない手応えのなかラスト2ハロンを14.1-12.2(2ハロン合計26.3秒)の走破タイムで競うように駈け抜けていきました。

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ピサノアリュメールの12(内)とゴールドデイの12(外)の併走調教。

 

騎乗供覧3組目からはアドマイヤアイドルの12(牝、父:バゴ、BUセール上場番号:33番)とアラデヤの12(牝、父:タイキシャトル、BUセール上場番号:53番)をご紹介します。アドマイヤアイドルの12は父 バゴに似た皮膚の薄い好馬体の持ち主です。騎乗者の指示に従順で前向きな扱いやすい馬で、騎乗供覧では柔らかさとスピードを兼ね備えた軽快な走りを見せてくれました。アラデヤの12はニュージーランドトロフィーなど重賞2勝の活躍をしたマイネルスケルツィを兄に持ちます。本展示会でも前向きな気性と鋭く切れる走りを披露し、威風堂々と存在感を示していました。騎乗供覧では、ラスト2ハロンを13.1-12.4(2ハロン合計25.5秒)で駈け抜けました。

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アドマイヤアイドルの12(内)とアラデヤの12(外)の併走調教。

なお、当日の調教映像はこちらのアドレスでご覧いただけます。

 

今年のブリーズアップセールは4月29日(祝)に中山競馬場で開催されます。多くのご来場者の皆様に楽しんでいただけるよう、育成馬の調整に全力で取り組んでまいります。

ブリーズアップセールが近付いてきました!(日高⑦)

 関東地方では3月18日に春一番が吹きました。気象庁によると、これは1951年に統計を取り始めてから3番目に遅い記録だそうです。とはいえ3月下旬の日本列島に暦通り春が訪れていることは間違いなさそうです。日高育成牧場では、今でも雪が降ったりやんだりの繰り返しですが、晴天で気温の高い日には地表を覆っていた雪や氷塊が溶けて土の色が確認できるようになってきました。春の訪れを待っていた育成馬たちは、ここにきてぐんと良くなってきています。

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日高育成牧場を覆っていた雪も解けて春らしい景色になってきました。冬場は路盤が凍結するため使用できなくなる屋外1600m馬場も間もなく利用できそうです。

育成馬の近況

 JRA育成馬の調教は、来月のJRAブリーズアップセールに向けて負荷を強めつつ順調に進められています。調教のベースとなる800m屋内トラックでは基礎体力を養成するため2400m~3200m(F22~20秒)の調教を週4回実施し、火曜日と金曜日の週2回は800m屋内トラックで1200mのウォーミングアップをしたのち1000m屋内坂路コースで2本のキャンターを実施しています。屋内坂路コースでは1本目を3~4頭の縦列で56-54秒/3F程度、2本目を併走で50-48秒/3F程度のスピードを目安として調教しています。

 

調教撮影DVDの収録

 さて、日高育成牧場では3月19・20日の2日間、屋内坂路馬場で調教撮影を行いました。各馬の走行フォームを見ていただくことに主眼を置き、ラスト2ハロンを16秒-15秒で登坂する姿を撮影しました。この映像が収録されたDVDは最近の調教状況をご確認いただく目的で、ブリーズアップセールの購買登録をしていただきました馬主の方々に順次郵送させていただきます。また、JRA育成馬サイトJBISサーチ ライブ配信ページでも同内容の調教動画を4月上旬から配信します。育成馬たちが元気に走る姿を是非ご覧ください。

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撮影のために坂路上にはカメラや機材が設置されました。1本目の坂路調教で駆けあがってきた育成馬たちは、ゴール地点に普段見慣れないカメラがあるので驚いた様子でした。

 

BTC研修生による騎乗

 前回の日高ブログで競馬学校騎手課程生徒の騎乗研修について触れましたので、今回はBTC研修生の騎乗研修について少しご紹介します。現在、31期の研修生21名が3班に分かれてJRA育成馬の騎乗研修に来ています。9月末からのブレーキング(初期馴致)研修にも来ていたので、ブレーキングに携わった育成馬たちに久々に再会し騎乗していることになります。研修が始まるまで育成馬に携わったことのなかった21名の生徒達は、1年足らずの研修期間で大きく成長し力の強い育成馬たちを無難に乗りこなします。彼らの技術面の成長には毎度のことながら感心させられます。今後予定している育成馬展示会(4月14日:於 日高育成牧場)での騎乗に向けて、さらに技術を磨いてほしいです。

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800m屋内トラックで2列縦隊の調教を行う生徒(後列2騎)。騎乗しているのはフレンドリータッチの12(写真右から2番目、BU番号:6。牝、父:ボストンハーバー)とタケイチゼットの12(写真左端、BU番号:76。牝、父:アルデバラン)。

 

ブリーズアップセールに向けた準備

 1カ月後に迫ったブリーズアップセールに向けた準備が着々と進められています。その中でちょっと変わった準備(?)があるのでご紹介します。セール会場となる中山競馬場までは馬運車で約24時間の道のりで、途中フェリーにも乗るためできるだけ計画通りに輸送する必要があります。計画どおりに輸送できなくなる最大の原因は「馬が馬運車に乗らない」です。慣れない馬運車を物見して入らなかったり、中で大暴れしたり…。これらを避けるため事前に「馬運車の馴致」を行っています。当場で所有している馬運車に育成馬を乗せてみて、馬積み場や馬運車に慣れさせることと車内の環境に慣らして長時間輸送でのストレスを軽減することが主な目的です。今年の育成馬たちは比較的おとなしく、現在のところ問題のある馬はいません。無事に輸送するためにもスムーズな積み込みができることを祈っています。

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馬積み場で馴致を行う育成馬たち。実際の輸送ではもっと大きい馬運車に乗るため、この馬運車に乗れていれば安心です。

 

 今年のブリーズアップセールは4月29日(祝)に開催いたします。育成馬たちと向きあっていられる残り期間は約1カ月となりました。セールが終わってから後悔しないためにも、1日1日を大事にしていきたいと思います。

育成馬ブログ 生産編⑧ 「その4」

子馬の引き方③

 

リードの装着

 

では、リード装着時期の目安は、いつでしょうか?

 

明確な答えはありませんが、子馬の頸部が安定する2~3ヵ月齢になるものと思われます。ただし、リードは止め具がない1本のロープであり、鼻革の下部で折り返して使用します。

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リードは止め具がない1本のロープ

(鼻革の下部で折り返して使用)

 

この方法は、リードの頭絡への装着部位に「遊び」ができるため、頭絡への過剰なプレッシャーを防止することができます。

また、子馬が突発的な動きをしても、頚へのダメージが最低限で済みます。さらに、たとえ放馬しても、リードが容易に外れることで、リードを肢で踏む、もしくは絡ませることによる転倒を防ぐことができます。

 

なお、リードの使用、不使用にかかわらず、子馬を力ずくで保持することは回避すべきです。前述したように、頚へのダメージが懸念されるとともに、頭絡への持続的なプレッシャーは、子馬の頭の中を混乱させる原因となり、理想とする「馬自身のバランスによる歩行」から乖離してしまうためです。

 

「どうしても子馬を放したくない」という気持ちは理解できますが、その気持ちが強すぎるあまり、子馬が窮屈そうに歩いている場合も少なくありません。

 

生後間もない子馬は、たとえ放れたとしても、必ず母馬について行きます。ですから、子馬が突発的な動きをした場合であっても、無理に保持しようとせずに、ルーズに持つ、もしくは放すことも一手かと思います。

 

生まれたばかりの子馬は、成馬と異なり、人間の指示に従って歩くことはできません。しかし、ほぼ毎日実施する引き馬によって、人をリーダーと認め、人馬の信頼関係が構築されていくのです。

 

人間の子供に対するしつけと同様、生まれた直後から、馬の性格に対する理想を描きながら日々接することが、ホースマンの役割であり、この仕事の醍醐味でもあるのではないでしょうか。

 

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

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アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

 

 

育成馬ブログ 生産編⑧ 「その3」

 育成馬ブログ 生産編⑧ 「その3

 

子馬の引き方②

 

子馬自身のバランスで歩く

子馬を引く場合に重要なことは、

  「人の指示に従って歩くこと」

  「子馬自身のバランスで歩くこと」の2点です。

 

  前者は容易に理解できるかと思いますが、後者「自身のバランス」とは何を意味するのでしょうか?

  これは、子馬が歩く際に「引っ張られたり、押されたりしない」状態であり、人間の指示に従ったうえで、馬自らの意思を持って歩くということです。

 

  わかり易く、人間の子供に例えれば、

  「親に言われて嫌々、勉強・お手伝いをする」のではなく、

  「子供が自らすすんで、勉強・お手伝いをする」といったイメージでしょうか?

 

  ただし、人間の子供と異なり、「勉強をして希望の学校に入る」「お手伝いをしてお小遣いをもらう」といったモチベーションを馬はもっていません。

 

  そこで、馬に対しては、「オンとオフ」を用います。

 

  馬が前に歩き出すまでは、様々な刺激によるプレッシャー、すなわち「オン」を与えて前進を促します。

  そして、前進を開始したら、その瞬間にプレッシャーの解除、すなわち「オフ」を与えることによって、子馬に人間の指示を理解してもらうのです。

 

プレッシャーの与え方-前進しない時-

 

  では、具体的に前進しない場合のプレッシャー。すなわち「オン」はどのように与えればよいのでしょうか?

 

  生後直後は、別のスタッフに後方から前進を促してもらいます。

  最初は、後方から臀部を押し続けなくてはなりませんが、前進するようになったら、押すことをやめる、すなわちプレッシャーを解除して、子馬自身に歩いてもらいます。

 

  最終的には、子馬自ら歩くようになり、もう1名のスタッフは、後ろから見守るだけになります。

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後方からの「オン」で前進を促す     

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子馬が前進したら「オフ」にする

 

  また、1名で引くことができるようになっても、子馬が前進しないことは頻繁にあります。この場合、保持者は、様々な方法を用いて子馬に「オン」の合図を与えますが、パッティング(右手で臀部や肋部を軽く叩く方法)が効果的かつ容易な方法です。7
パッティングによる「オン」の合図

(右手で臀部や肋部を軽く叩く方法)

 

  また、上記以外にも、子馬が立ち止まった際には、無理にプレッシャーを与えずに、子馬を軸にした回転を用いて前進させることも可能です。

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子馬を回転させることで前進させる

(子馬が立ち止まった場合)

 

 

上記いずれの方法を用いた場合であっても、子馬が自身のバランスで歩いてくれたら、必ず、プレッシャーを解除して「オフ」の雰囲気をつくりましょう(つづく)。

育成馬ブログ 生産編⑧ 「その2」

育成馬ブログ 生産編⑧ 「その2

 

子馬の引き方①

「日本と比較して海外の馬は大人しい」

よく耳にする言葉ですが、これは事実でしょうか?

 

答えは「No」だと思います。

 

世界有数の馬産国アイルランドにおいては、多くの馬が大人しいのは事実かもしれませんが、取扱いに苦労する馬もいないわけではありません。

 

そのような例外の原因として、生まれ持った気性もあるかもしれませんが、多くは生まれてから手をかけられることなく、四六時中放牧されていた馬でした。

 

では、どのように手をかければ、「大人しい」すなわち人に対して従順な馬に育て上げることができるのでしょうか?

 

その答えは簡単ではありませんが、生後から継続的に実施する「引き馬」が、良いトレーニング方法の一つといえます。

 

生後直後の引き馬

アイルランドにおいては、生後から母子を1人で引く方法が用いられています。

 

とはいえ、生後直後の子馬は自ら前進しないため、もう1名が後方からサポートして前進を促します。

これを毎日継続的に実施することで、子馬の肩の左側に人間がいる「引き馬の位置関係」を覚えさせるとともに、人馬の信頼関係を構築することができるのです。

         

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生後直後の母子の引き馬

(アイルランド キルダンガン・スタッド)

 

その後も基本的には、子馬の保持にはリードを使用せずに、

「両手で抱える」

「頚もしくは肩の外側に手をかける」

などの方法を用います。

  

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両手で抱える

  

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頚もしくは肩の外側に手をかける

 

リードを使用しない理由は、生後間もない子馬の頸部に対するダメージが危惧されるためです。

アイルランドでも、牧場によってはリードを使用していますが、その場合であっても、目的は「リードに対する馴致」であって、決して馬を保持するために使用しているわけではありません(つづく)。

 

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生後直後のリード使用の目的は馴致

(強く保持することはない)

 

育成馬ブログ 生産編⑧ 「その1」

講演会「競馬とドーピング~アナボリック・ステロイド~」

 

去る2月27日に新冠町でアナボリック・ステロイド(以下AS)に関する講演会が開催されました。

 

講師はJRA馬事部獣医課の課長補佐であり、馬の禁止薬物と診療に関する諮問委員会の委員を務める草野寛一によるものでした。

 

発表で一貫していたのは、

「ASの使用は、エンターテーメント・スポーツである競馬のイメージダウン、ひいては競馬産業の衰退を引き起こしかねないので止めましょう」とのメッセージでした。

 

現在、南米を除くほとんどの競馬開催国においては、ASは禁止薬物に指定されています。

その多くの主催者は、「競走時」における使用禁止に止まらず、「競走時以外」における使用も禁止していくべく取り組んでおり、「競技外検査」として「調教時の検査」など抜き打ち的な検査を実施している主催者もあります。

JRAも2014年4月1日より、この「競技外検査」を開始します。

 

一昔前までASは馬の治療薬として使用されていましたが、現在では、オリンピックなどの人の競技と同様に、競馬の世界においても使用の正当性が認められない薬物になっています。

ASにおける繁殖機能障害などの副作用も見過ごすことができません。

 

今後とも、関係者が一丸となって、競馬というエンターテーメント・スポーツのイメージダウンを防いでいきましょう。

 

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厳冬期の子馬の管理(生産)

 2月に入り、相変わらず寒さと降雪は続いています。以前のブログでも触れたとおり、昨年産まれた7頭の1歳馬は22時間の昼夜放牧を継続実施しています。

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 今のところ、全頭大きな病気や怪我がなく順調に育っていますが、やはり増体重の停滞している馬が数頭います。青草がない環境ではやむを得ないところですが、秋にしっかり栄養摂取していたおかげで、BCSが落ち込んでいる馬は今のところいません。また、懸念していた移動距離の低下についても、「飼い桶の移動」や「放牧草の複数個所の設置」などにより、徐々にではありますが増加してきました。

 

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現在の管理状況は以下のとおりです。

放牧時間:午前10:30~翌朝8:30(合計22時間)

放牧地面積: 1頭あたり0.9~1.4ha

WM:30分間(時速6.0km、WM実施群のみ) 

1日あたりの増体重:0~0.6kg

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昼夜放牧中のホームブレッド ビューテコマンダの13(11ヶ月齢 父ヨハネスブルグ)

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ハフリンガー種のあて馬の活用(生産)

 日高育成牧場ではハフリンガー種のあて馬「スワロー君」を繋養しており、春季発情移行期における繁殖牝馬に対する発情誘起を行っています。

 

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 スワロー君はそれだけではなく、多くのハフリンガー種の特徴である「ユニバーサル・ドナー」すなわち輸血用馬としても活躍しています。ユニバーサル・ドナーの血液は、輸血をされる馬に対して、溶血の副作用を引き起こさないため、外傷による大量出血や出産後に発症する「新生児溶血性貧血」に対する緊急輸血にも利用可能です。また、あらかじめユニバーサル・ドナーの血漿を採取・保存しておくことにより、移行免疫不全症や低タンパク血漿の治療にも使用することができます。当場では定期的にスワロー君から血液を採取して、緊急時のために血漿を保存しています。

 

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子馬の感染症予防(生産)

 以前のブログでも触れたとおり、生後30日以内の子馬の8%、すなわち12頭に1頭が何らかの感染症にかかるといわれています。子馬が感染症にかかりやすい理由は、体内に侵入してきた病原体に対する防御機能が未発達であるためです。

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 子馬は母馬からの抗体を受け取ることにより、病原体から身を守ります。馬の場合、人間のように胎盤を通した抗体の受け渡しができないため、初乳の中に抗体を含ませることによって、子馬に与えています。つまり、出産直後の子馬に対して確実に初乳を飲ませることが、子馬の感染症予防の第一歩といえます。

 

2 移行免疫不全症とは、母馬からの抗体の受取り不足、すなわち、子馬の体内における抗体の量が不十分な状態を表しており、子馬の感染リスクが高まることが知られています。

3 移行免疫不全症は、子馬の血液に含まれる抗体の1つであるIgGの濃度により診断します。初乳を正常に飲んだ子馬の血中IgG濃度は、通常は800mg/dl以上ですが、移行免疫不全症の場合、400mg/dl以下となります。IgG濃度が400mg/dl以下の場合には、保存初乳の経口投与、もしくは血漿輸液による治療を実施します。 

 出産シーズンはすでに始まっていますが、感染症を可能な限り予防し、元気で健康な子馬を育てましょう!

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