JRAホームブレッド初産駒が誕生~妊娠後期の繁殖牝馬の管理~(生産)

 3月11日、本年度のJRAホームブレッド初産駒ビューティコマンダの13(牡:父ヨハネスブルグ)が誕生しました(写真1)。出生時の体重は64kgで、骨量豊富なしっかりした子馬です。このような大きな子馬にもかかわらず、分娩は比較的スムーズで、一切の介助なく破水後7分で出産しました。この母馬は一昨年の初産こそ破水後30分の時間を要しましたが、2産目にあたる昨年は10分に短縮していました(いずれの年も「牽引」はしていません)。

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写真1 本年度のJRAホームブレッド初産駒ビューティコマンダの13(父ヨハネスブルグ、牡)

妊娠後期におけるウォーキングマシンの利用による難産予防

 このようなスムーズな出産は、経産歴や骨盤構造などの母馬の特性によるところも大きいと思いますが、日高育成牧場においては、難産予防として分娩の1~2ヶ月前からウォーキングマシンによる常歩運動(5km/hの速度で20~30分)を実施しています(写真2)。

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写真2 妊娠後期におけるウォーキングマシンの利用により、難産を予防することができる。

妊娠後期における適切なボディコンディションスコアは6.0前後

 妊娠後期の運動は、「分娩に耐えうる体力の維持」、「胎子への酸素供給増大による虚弱子の発生リスクの低下」、「子宮内の胎子スペースを圧迫する内臓脂肪の除去」など多くの理由から難産を予防することができると考えられています。妊娠後期の繁殖牝馬にとっては体調および体型の適正な維持が極めて重要であり、ボディコンディションスコアが6.0前後になるように調整することが望まれます(図1)。

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図1 妊娠馬は適切な体型BCS.0前後を維持させることが重要。

冬季の放牧地においては運動量が著しく減少する。

 しかし、冬季の日高地方においては、放牧地が雪や氷で覆われるため、食べる草が無いこと、歩行が困難になることなどが原因となり、放牧地における運動量が著しく減少するため、ウォーキングマシンを活用して不足運動量を補わなくてはなりません。

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写真3 雪と氷で覆われた放牧地においては、妊娠馬の運動量は著しく減少する。

妊娠後期の牝馬を管理するうえでの問題点

 一方、妊娠後期における胎子重量の増加により、蹄質が弱い馬は裂蹄や挫跖などの蹄疾患を発生することがあるため、すべての馬を確実に運動させることは容易ではありません。また、過度なボディコンディションスコアの低下は、胎子の発育や出産後の泌乳ばかりでなく、その後の受胎能力にも著しい影響を及ぼすため、給餌量の減少のみに依存した体型管理は避けなければなりません。

 このような様々な理由から、妊娠後期の牝馬の管理は「適正体型のストライクゾーン」が極めて狭く、当育成牧場においては今後もその管理法に関する技術開発について検討していきたいと考えています。

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ブリーズアップセールで開示される個体情報②~X線画像~(日高)

今回は、ブリーズアップセールで開示しているX線画像情報とその判断方法を紹介いたします。

①前肢球節種子骨のX線所見と競走パフォーマンスとの関連

 前肢球節種子骨のX線所見については、線状陰影(写真①)などを基に評価しています。この評価は、程度が軽いものから順にグレード0~3の4段階に分類されます。種子骨のグレード別に2および3歳時の出走回数ならびに総獲得賞金、初出走までに要した日数、出走率について調査を実施した結果、外見上に腫脹などの臨床症状が認められない場合、競走成績に影響しないことが明らかになっています。また、外見上、腫脹等の異常がない馬でも約10%の馬に何らかの陳旧性骨病変(剥離骨折やOCD)を有していることも明らかになりました。しかし、陳旧性骨病変は、関節の腫脹などの臨床症状がない場合、競走能力への影響がないことも明らかになっています。一方、前肢の種子骨グレードが高い馬は、グレードの低い馬に比べて繋靭帯炎を発症するリスクが高いことが分かっていることから、前肢の種子骨グレードが高い場合には、飼養管理や調教に気をつける必要があるといえます。

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写真①線状陰影などを基にした球節種子骨の分類。程度が軽いものから順にグレード0~3の4段階に分類されます。

②飛節OCDと競走パフォーマンスとの関連

 OCDOsteochondrosis Dissecans:離断性骨軟骨症)は、発育の過程で関節軟骨に壊死が起こり、骨軟骨片が剥離した状態です(写真②)。飛節部のOCDは軟腫や跛行の原因となる場合がありますが、調教が順調に進められている場合には、競走能力に影響がないといわれています。また、OCDは関節鏡による手術で簡単に除去することが可能で、予後も極めて良好です。飛節にOCDを有しても、腫脹や跛行などの臨床症状がない場合の手術の必要性はわかっていませんが、その多くは手術の実施の有無に関わらず、競走能力に影響がないものと考えられています。

 

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写真②飛節部のOCDの多くは競走能力に影響がないと考えられています。

③最後に

近年、市場におけるレポジトリーの普及とともに、高価な競走馬購買後の疾病発症リスクを回避し、その後のトレーニングをスムーズに行うために、レポジトリー活用の必要性はますます高まっています。また、レポジトリーが普及するにつれ、上気道の内視鏡像や四肢のX線所見がパーフェクトな馬は多くないことが明らかとなってきました。このことは、レポジトリーで確認できる小さな異常は馬自らが克服することもあり、また、獣医師の治療によって治癒することも多く、競走能力に影響がない場合が多いことを意味しています。一方、レポジトリーで異常がないことを確認していても、購買後に異常を発症することがないことを保証しているわけではありません。つまり、レポジトリーが馬の健康を保証するものではないということも事実です。

ブリーズアップセール当日は、会場内の個体情報開示室に、内視鏡やX線所見について説明を行うための獣医職員を配置しております(写真③)。レポジトリーに関することのみならず、どのような疑問でも質問していただき、皆様方のご購買とその後のスムーズな管理・調教の参考にしていただければ幸いです。

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写真③ブリーズアップセールの情報開示室(レポジトリールーム)での応対の様子。

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育成馬展示会の開催(日高)

今冬の大雪の影響により、北海道各地では除雪費が追加される措置がとられるほど積雪量が多く、根雪がゼロとなる「長期積雪最終日」が例年より大幅に遅れています。日高育成牧場のある浦河も例外ではなく、「育成馬展示会」の騎乗供覧の会場となるBTC調教施設内の屋外1600mトラック馬場の開場は、44日と例年より10日ほど遅れました。このため、「育成馬展示会」までの準備期間は5日しかなく、不安を抱いたまま49日の本番当日を迎えることとなりました。

当日は、馬主・調教師・生産者をはじめとして200名の方々にご来場いただきました。この展示会は、以前は生産牧場の皆様にその成長ぶりを見ていただくという趣旨が強かったのですが、BUセールでの売却以降は、購買に興味を持たれた馬主や調教師の方々の来場が増えてくるようになりました。育成馬展示会まで5日間しか期間が無く、恥ずかしくない供覧をお見せできるか不安もありましたが、何とかしっかりとした動きをご覧いただくことができたのではないかと思っております。

また、「育成馬展示会」は、軽種馬育成調教センター(BTC)の育成調教技術者養成研修生の卒業のイベントとしての側面もあります。JRA日高育成牧場では、昨年秋の初期馴致研修および本年1月からの実践騎乗研修を実施してきました。研修生たちは、立ち馬展示や騎乗供覧の場でこれまで学んできた成果を遺憾なく発揮してくれました。立派なホースマンとして飛躍することを期待しています。

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立ち馬展示のみならず、騎乗供覧でもこれまで学んできた成果を遺憾なく発揮してくれたBTC生徒達。これからの活躍を期待しています。右がBTC生徒騎乗のBU番号3フレンドリータッチの11JRAホームブレッド 牡 父:アルデバラン)、左がサウンドリアーナ12年ファンタジーステークス優勝馬)の半弟となるBU番号21オテンバコマチの11(牡父:アルデバラン)。

※展示会の騎乗供覧の映像は、JBISライブ配信ページにて馬ごとにご覧いただけます。

  JBIS ライブ配信  http://live.jbis.or.jp/

ブリーズアップセールで開示される個体情報(内視鏡像)

 JRAブリーズアップセールは、新しく馬主になられた方をはじめ、セリに慣れていない方でも「セリの入門編」として、わかりやすく参加しやすい運営を目指しています。セリの透明性を高めるための情報開示は、そのセリ運営のひとつです。また、購買後に競馬出走に向けてスムーズな調教へ移行できることを目的として、内視鏡所見やX線画像所見の評価、病歴あるいは飼養管理など多岐にわたる情報を提供しています。

 セリにおいて情報を開示する際には、多すぎる無意味な情報によって購買者が混乱しないように注意する必要があります。特に購買者は、開示された疾病情報が今後の調教過程や競走馬としての能力にどのような影響を及ぼすのかについて関心が高いものと思われます。したがって、JRAブリーズアップセールでは、これまで10年以上にわたって実施してきた育成研究の成果から、今後の出走や調教に耐えうると判断した馬を選別して上場することとしています。また、医療情報開示室(レポジトリールーム)では、10年以上にわたって蓄積してきた内視鏡やX線画像などの様々な検査所見と競走パフォーマンスとの関連について分析した成果を活用し、各馬の所見についての情報を提供しています。今回はブリーズアップセールで開示している上気道内視鏡所見とその判断方法を紹介いたします。

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ブリーズアップセールの個体情報冊子の記載内容

LH(喉頭片麻痺)

 いわゆる喘鳴症(ノドナリ)は、吸気時に披裂軟骨(気管の入口)が完全に開かず気道が狭くなり、運動中に空気が吸い込む際にヒューヒューという異常呼吸音(喘鳴音)を発します。また、披裂軟骨の動きの程度が悪い場合(喉頭片麻痺)、競走能力にも影響を及ぼすとされています。その原因となる喉頭片麻痺は、グレードⅠ~Ⅳの4段階に分類されます。JRA育成馬を用いた調査では、若馬の14%以上がグレードⅡ以上の所見を有していること、また、グレードⅡまでは競走成績に影響を及ぼさないことが明らかになっています。一方、グレードⅢ以上の有所見馬になると、喘鳴症を発症することが多くなることから、麻痺して動かない披裂軟骨を固定する喉頭形成術が適応されます。喘鳴症の程度は安静時の内視鏡検査のみでは判らないことが多く、手術実施の確定診断にはトレッドミル走行時の内視鏡検査が有効な確定法となります。

                        症 状

 I

左右の披裂軟骨の動きが常に同調かつ対称であり、完全外転が獲得・維持されうる。

 II

披裂軟骨の動きが非同調で、かつ喉頭が左右不対称な状態を示すこともあるが、披裂軟骨の完全外転は獲得・維持されうる。

 III

披裂軟骨の動きが非同調で、喉頭が左右不対称である。披裂軟骨の完全外転は獲得・維持されない。

 IV

披裂軟骨と声帯ヒダは動かない。

                LH(喉頭片麻痺)のグレード分類基準

DDSP(軟口蓋背方変位)

 走行中に軟口蓋が喉頭蓋の上方(背方)に変位し、走行中に「ゴロゴロ」と喉が鳴る疾病です。この疾病は、グレード034段階に分類されます。若馬は喉頭蓋が未発達であるため、成馬と比較してDDSPを発症しやすく、安静時検査におけるグレードの程度と競走パフォーマンスには関連がないことが明らかとなっています。しかし、若馬でDDSPを発症する馬は、初出走までの期間が長くなることもわかっており、症状を有する場合は、馬体の成長を待って競馬に出走させる必要があります。

             症 状

 0

嚥下を促しても発症しない

 1

嚥下により発症するが、続く嚥下1回で復する

 2

嚥下により発症するが、続く嚥下2回以上で復する

 3

嚥下を伴わなくても容易に発症する

   DDSP(軟口蓋背方変位)のグレード分類基準

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LH(喉頭片麻痺)(左)およびDDSP(軟口蓋背方変位)(右)の内視鏡像

ELE(喉頭蓋の挙上)

 喉頭蓋が挙上し、気道が狭くなった状態です。極端な異常ではない限り、競走成績に影響を及ぼしません。

AE(喉頭蓋の異常)

 喉頭蓋が未発達なため、矮小、菲薄な状態です。一般的に、若馬は成馬と比較して喉頭蓋の形成不全(矮小、弛緩、菲薄、背側中央部の凸面)が多く認められ、DDSPを誘発しやすくなります。しかし、AEの所見は年齢とともに消失することが多いため、極端な異常ではない限り、競走成績に影響を及ぼしません。

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ELE(喉頭蓋の拳上)(左)およびAE(喉頭蓋の異常)(右)の内視鏡像

 喘鳴症のみならず、ノド(上気道)の状態は安静時の内視鏡検査のみでは判らないことが多いため、ブリーズアップセールでは、疑わしい所見を認めた場合には、トレッドミルでハロン15秒程度のスピードを上げた走行時の内視鏡検査を実施し、その検査結果の情報開示を行っています。

 次回はX線画像に関する個体情報について触れてみたいと思います。

育成馬の近況(日高)

JRA育成馬の調教は、423日(火)にJRA中山競馬場で開催されるブリーズアップセールに向けて順調に調教メニューをこなしております。調教のベースとなる800m屋内トラックでは、引き続き2400m3200mF2422秒)の調教を実施し、基礎体力を養成する目的で“リラックス”した状態での調教に主眼を置き、メンタル面を落ち着かせ、競馬に不可欠な隊列を整えた調教を心掛けています。

この800m屋内トラックでの調教をベースとしながら、週2回の坂路調教を実施し、1週間の調教の流れをパターン化させ、馬に調教コースによる“オン”と“オフ”の区別の理解を促すよう心掛けています。また、体力面および心肺機能も強化され、坂路調教では“On the bridle”での2本のステディキャンター(54秒/3F)を安定して走行できるようになってきたため、3月上旬から2本目は併走でのキャンターを実施しています。下の動画は37日に実施した初めての併走調教の動画になります。4月上旬にJBIS-Search上で皆様に配信を予定しております調教映像では、少し速めの併走調教(48秒/3F)の様子をお届けできると思います。

37日に実施した初めての併走調教の動画。1本目は34頭を1つのロットとした縦列でのストリング、2本目は併走でのステディキャンター実施しました。

厳冬期の1歳馬の管理~代謝とまとめ~(生産)

前回まで3回にわたって日高育成牧場で行なっている厳冬期の管理に関する調査・研究で得られた結果について述べさせていただきましたが、今回でまとめとしたいと思います。最後は代謝の話になります。

体温が低下する
 まず、昼夜放牧している群(以下、昼夜群)では、昼放牧している群(以下、昼W群)と比較して体温が有意に低い傾向が認められました(図1)。動物は例えば“冬眠”する時などに体温を下げることにより代謝を落とし、これにより脳などの中枢神経を守るということが知られています。今回の結果はそこまで大げさなものではありませんが、厳冬期に昼夜放牧を継続していると外気温の低下に対応するため代謝を落としている自然な反応と推察されました。

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                                                                              図1 体温

代謝に関わるホルモン
 昼夜群が代謝を落としている傾向は、血液中のホルモンの数値にも現れていました。サイロキシンは甲状腺から分泌され、代謝量の制御に関わることが知られています。このホルモンの数値は、統計学的有意差はありませんでしたが、昼夜群の方が低い傾向がありました(図2)。サイロキシンはヒトの方では成長にも影響を与えていることが示されており、厳冬期に昼夜群の体重増加が停滞する原因の一つになっている可能性があります。

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                                    図2 代謝に関わるホルモン濃度(サイロキシン)

副交感神経活動(HFパワー)
 馬房内安静時にホルター型心電計を装着して、副交感神経活動の指標であるHFパワーという数値を測定しました。HFパワーとは副交感神経活動が亢進するにつれ、数値が上昇します。その結果、HFパワーは昼夜群で上昇する傾向にありました(図3)。競走馬の運動科学的な分野において、副交感神経活動の亢進には、ポジティブな面とネガティブな面があります。ポジティブな面としてはかつて現役時代のテイエムオペラオーのHFパワーを測定した研究では競走馬の平均的な数値より高い値であったという結果が出ています。この場合は遺伝的要因やトレーニングによりいわゆる“スポーツ心臓”となり安静時の心拍数が著しく低下したことを意味します。逆にネガティブな面では、絶食を続けた馬のHFパワーが上昇したという研究もあります。この場合はエネルギー不足に対して代謝を落として体が適応した結果を意味します。今回の昼夜群の上昇は後者を意味する可能性が高いと言えます。

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                                       図3 副交感神経活動(HFパワー)

まとめ
 前3回も含めて、厳冬期の管理に関する調査・研究で得られた結果についてまとめます(図4)。昼夜群では、体重増加の停滞や体温の低下、HFパワーの上昇など基礎代謝の低下が示唆される結果が得られました。昼W群では、プロラクチンやサイロキシンといったホルモンが高い値を示し、基礎代謝が維持されていることが示唆される結果が得られました。
 将来アスリートとなるサラブレッド競走馬においては、基礎代謝の低下を防止した方が良さそうな感じはしますが、そもそもこの当歳馬から1歳馬にかけての厳冬期に代謝が落ちた影響が、競走期である2歳の夏以降にどれほど影響があるのかはまだわかっていません。今後は、厳冬期の昼夜群においては基礎代謝低下を防止する管理方法、昼W群においてはWMによる適切な運動負荷について調査を継続し、競走期への影響までを含めた成績を比較・検討していきたいと思います。

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                                                      図4 まとめ

 以上、4回にわたり厳冬期の管理に関する調査・研究について述べさせていただきました。今後もJRAが行なう調査・研究にご注目いただけましたら幸いです。

競馬学校の騎手課程生徒の研修(日高)

 日高育成牧場のある浦河でも、日中は運動をすると少し汗をかく日もあり、少しずつではありますが、春の訪れを感じさせる今日この頃です。我々は気温の上昇や雪解けの進行程度によって春の訪れを感じることが一般的ですが、自然界に生きる動物が最も春の訪れを感じることができるのは、日照時間の延長ではないかと想像します。実際、冬期にも昼夜放牧を継続している1歳馬達も日照時間の延長を体感して春の訪れを感じているためなのか、1月初旬と比較すると放牧地でじゃれ合う姿も目立つようになってきました。

●ライトコントロール法

 このように、長日性季節繁殖動物である馬は、日照時間、つまり光によって季節を感じています。この現象を利用したのが「ライトコントロール法」です。このライトコントロール法は、電球や蛍光灯の照明によって日照時間を人工的に延長させ、冬期に卵巣活動が休止している繁殖牝馬の性腺機能の発達を促すことで初回排卵を早めるために開発された方法です。

 JRAでは、繁殖牝馬に発情を誘発するライトコントロール法を育成馬に応用しています。この育成馬への応用の背景には、冬期は日高育成牧場よりも宮崎育成牧場の方が、馬を仕上げやすいという経験、また、冬期の日照時間が日高育成牧場よりも長い宮崎育成牧場の馬は、骨や筋肉の発育に関与する性ホルモンの分泌量が日高育成牧場の馬よりも高いという事実が存在しています。

 ライトコントロール法(1歳の12月から2歳の4月までの間、馬房の天井にタイマー式の100W白色電球を設置し、昼14.5時間、夜9.5時間の環境を作出)を育成馬に応用することにより、牡馬では筋肉量が増加し、また、牝馬では性ホルモンの分泌時期が早くなり、分泌量も高くなること、さらに、毛艶は牡牝に関わらず良くなる効果を認めています。これらの結果は、冬期の北海道において競走馬の育成を行う場合には、効果的な方法であると考えられます。

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 育成馬へのライトコントロール法の応用。LED電球によってもライトコントロールの効果が得られます。

●育成馬の近況

 JRA育成馬の調教は、2月に入りさらに本格化しています。調教のベースとなる800m屋内トラックでは2,400m~3,200m(F24~22秒)の調教を実施し、基礎体力を養成する目的で“リラックス”した状態での調教に主眼を置き、メンタル面を落ち着かせ、競馬に不可欠な隊列を整えた調教を心掛けています。一方、週2回は屋内  1,000m坂路コースにおいて、3~4頭を1つのロットとした縦列でのストリングを組んでのステディキャンターを2本実施しています。1本目が60秒/3F、2本目が54秒/3Fをスピードの目安とし、“On the bridle”での走行を意識しています。また、坂路調教の翌日には再び800m屋内トラックで“リラックス”した状態での調教を実施しています。このように、1週間の調教の流れをパターン化することによって、馬への“オン”と“オフ”の区別の理解を促し、肉体的な疲労の回復のみならず、メンタル面のケアも心掛けています。

 日頃の調教から、スピードよりも“On the bridle”の手応えを重要視し、ブリーズアップセールの“走行タイムよりも馬の走法や出来映えをアピールする”というスローガンに則した仕上げ、また、ブリーズアップセールが目標ではなく競馬で能力を発揮できることを目標としています。

 

 

 

 競馬学校の騎手課程生徒の騎乗研修期間2/7~11)中の調教動画。いずれも赤白帽色の騎乗者が騎手課程生徒になります。

●競馬学校騎手課程生徒の研修

 さて、日高育成牧場ではJRA育成馬を活用して騎乗技術者、牧場従業員、獣医師など広く生産・育成および競馬に携わる優秀な人材を競馬サークルに供給することができるよう、様々な実践研修を行っています。今回は、その中でも最も若い研修生である競馬学校の騎手課程生徒30期生7名の研修について触れてみたいと思います。

 ご存じのようにブリーズアップセールの騎乗供覧では、JRA育成牧場の職員はもちろん、現役騎手の他、騎手になるための教育の一環として競馬学校の騎手課程生徒達が騎乗しています。実は、これらの中で、最も騎乗数が多いのは騎手課程生徒です。

 

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 ブリーズアップセールの騎乗供覧に備えて育成馬に騎乗する騎手課程生徒(先頭右、後方左右の赤白帽色)。左先頭からエイシンパンドラの11(牝父:ダンスインザダーク)、キャニオンリリーの11(牝 父:ヨハネスブルグ)、右先頭からクレバーマリリンの11(牝 父:ディープスカイ)、アポインテッドラブの11(牝父:マツリダゴッホ)

 今回の研修では、ブリーズアップセールの騎乗供覧に備えたJRA育成馬の騎乗研修(騎乗研修の様子は上の動画をご参照下さい)が主となり、1日に3頭の育成馬に騎乗しました。研修中は騎乗研修以外にも、早朝から朝飼付け、騎乗前の馬房掃除、騎乗後の手入れにとどまらず、近隣牧場の見学、セリに上場するためのコンサイナー業務に関する講義、さらには浦河ポニー乗馬スポーツ少年団との交流など普段では体験できないことを経験できたのではないでしょうか。これらの経験の中でも、生産者の方々の繁殖牝馬や1歳馬に対する思いを聞く機会を得て、1頭の競走馬が競馬場で出走するまでには、多くの人々が関わっていることを改めて理解できたものと思います。

 

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 浦河ポニー乗馬スポーツ少年団の練習に参加した競馬学校の騎手課程生徒。

 4月23日(火)にJRA中山競馬場で開催されるブリーズアップセールでは、JRA育成馬のみならず、騎手課程生徒の騎乗ぶりにも注目していただきたいと思います。当日は、是非、JRA中山競馬場までお越し下さい。

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 ブリーズアップセールでは競馬学校の騎手課程生徒の騎乗ぶりにも注目して下さい。写真は2012 JRAブリーズアップで騎手課程生徒を背に力強い走行を披露したシンネン号(2月16日1回小倉3日目10Rあすなろ賞優勝馬 父:ステイゴールド 母:キタサンバースデー)。※写真提供:馬市ドットコム様

厳冬期の1歳馬の管理~移動距離を増やす工夫~(生産)

先月に比べて若干寒さも和らいできましたが、まだまだ寒い日が続き春は遠いと感じる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。「寒いと動きたくなくなる」のは人間も馬も一緒なのか、過去の研究から冬は放牧地での移動距離が少なくなることがわかっています。日高育成牧場ではこの時期、1歳馬の放牧地の四隅の雪の上にルーサン乾草を撒いています(写真1これにより、馬は食べるために放牧地を移動しなくてはならず、運動量を増やすことができます。

今回はこのような冬に移動距離を増やす工夫について述べたいと思います。

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写真1 放牧地の四隅にルーサン乾草を撒いています

なぜ移動距離を増やす必要があるか?

そもそも、なぜ移動距離を増やす必要があるのでしょうか?それについては、まず(春から秋にかけての)昼夜放牧がなぜこれほどまでに広まってきたかというところから考えていきたいと思います。

昼夜放牧を行なうメリットとして、草食動物である馬を野生に近い環境で過ごすことは生理的に自然であり、長い時間牧草を食べることで自然な栄養を摂取できること、群れで行動する時間が長くなることで社会性が身につくことなどが挙げられます。中でも一番のメリットは昼放牧と比較して移動距離、すなわち運動量が増え、骨や腱の成長が促されることです。

おそらくもともとは実際に馬を管理している現場のホースマンたちが「昼放牧より昼夜放牧の方が“骨太”になる」という印象を持っていたため、「昼夜放牧の方が良い」と広まっていったのではないかと推測されますが、過去に当歳から1歳にかけての馬を用いて放牧時間と骨や腱の成長を調査した研究がなされています。1歳馬を用いて、24時間放牧を行なった群と、12時間放牧を行なった群、24時間馬房に入れっぱなしだった群の骨密度を比較した調査では、放牧時間が長いほど骨密度が増加したという結果が得られています(図1)腱に関する研究では、運動を負荷した馬としなかった馬の浅屈腱の断面積の比較したところ、運動開始2ヶ月後から運動を負荷した馬の断面積が大きい傾向が認められたという結果が示されたという報告があります。このことから、運動を負荷すると骨が丈夫になり腱の発育が早まると考えられます。

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図1 放牧時間が長ければ長いほど、骨は丈夫になります

JRAでは、以前からGPS装置を用いて放牧地内での馬の移動距離を調査してきました。その結果、昼夜放牧と昼放牧を比較すると、移動距離に2~3倍もの差があることがわかっています。今までの話をまとめると下記の通りです。

昼夜放牧をすることで運動量UP

→骨が丈夫になり、腱の成長が早まる

→強い馬づくりに繋がる!

では、話を冬に移しましょう。同じくJRAの過去の調査では、当歳の冬においては昼夜放牧(17時間)した場合で4~6km、昼放牧(7時間)した場合で2~5kmと、春から秋にかけてのように放牧時間を延ばしてもはっきりとした差がつかなかったという結果に終わっています(図2)これではせっかく昼夜放牧を行なっても馬体の成長には繋がらず、いたずらに馬を消耗させてしまうだけ、ということになりかねません。そこで、馬の移動距離を増やす工夫が必要になる、というわけです。

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図2 昼夜放牧を実施しても、何も工夫しなければ冬には移動距離が減ります

移動距離を増やす工夫

それでは、ここ日高育成牧場で試みている「移動距離を増やす工夫」についてご紹介していきたいと思います。

まずは冒頭で述べた「放牧地の四隅の雪の上にルーサン乾草を撒くこと」です。ルーサンを食べるために、馬は放牧地内を探し回るようになります。チモシーなどイネ科の牧草でも代用は可能ですが、嗜好性が良いためまずはルーサンを撒き、雪が深くなり掘って下草を食べることもできなくなってきたらチモシー乾草もプラスして置くようにしています。厳冬期には繊維分を腸管内で発酵する際に生じる熱が体温維持に重要であると言われているという観点からも、こうして積極的に乾草を食べさせることは大切です。

次に、「積雪が深くなってきて馬が歩きづらくなってきた際には、重機で雪を押して道を作ること」です。この場合も馬がより長い距離を歩くように長方形の放牧地であればまず牧柵に沿って道を作った後、斜めに対角線を描くように雪を押します。こうすることで馬が動きやすくなり、結果移動距離が増やせます。この方法で注意すべき点は、下草が見えてしまうまで雪を深く掘り過ぎないということです。そこまで掘り下げてしまうと、草地が痛み翌春の放牧地の回復が遅くなってしまいます。また、暖かい日が続いて雪が融け、その後寒い日が続くと地面がカチカチに凍り、馬が転倒して怪我をする危険が出てきたり硬くてかえって歩かなくなったりするためこまめな観察とメンテナンスが重要です。

このような工夫を試みた結果、従来は昼夜放牧を行なっても1日4~6kmしか歩かなかった馬が、6~12kmと春から秋にかけてと遜色ないくらい移動するようになりました(図3)日高育成牧場では生産馬を冬季に昼夜放牧群と昼放牧群の2群に分けて管理していますが、昼放牧群についてはウォーキングマシン(WM)を併用し、両群ともに同様の運動量を確保しています。

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図3 工夫することで冬でも6~12kmの移動距離を維持しています

このように、厳冬期に昼夜放牧を実施する際には、春から秋にかけてとは違った工夫が必要となります。寒い冬を上手く乗り切り、健康で丈夫な馬を育てましょう。

(次回へ続く)

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ベストターンドアウト賞(日高)

  前号では、今冬の12月の北海道の降雪の多さについて触れましたが、年が明けて最も寒さが厳しくなるといわれている小寒から大寒にかけての期間は、一転して寒さが和らぎ、1月下旬にしては珍しい降雨を認めました。2月に入っても冷え込みが厳しい日は少なく、このまま春を迎えるのではないかと思わせるほどです。

 BTC育成調教技術者養成研修生

 本年も小寒の頃の恒例行事となっているBTC育成調教技術者養成研修生の騎乗実習が始まりました。本年の研修生は19名で、49日(火)に予定されている育成馬展示会までの約3ヶ月間、67名ずつの3班に分かれ、1週間交代でJRA育成馬を活用した騎乗実習を行います。騎乗実習開始時には初めて騎乗する若馬の動きに対応しきれないことも少なくありませんが、卒業後のそれぞれの進路に向けたモチベーションによって著しい成長を成し遂げる姿を見守ることは、我々にとって楽しみのひとつになっています。将来、研修生たちが育成牧場の最前線で仕事をする際に、この騎乗実習で得た経験が役立ったと思えるようにサポートしたいと思っております。

 また、育成馬も騎乗馴致から関わってきた担当者以外の騎乗者に騎乗されるという経験を積むことができます。これによって特定の騎乗者に関わらず、騎乗者自体をリスペクトしているかどうかを確認することができます。この経験を乗り越えることにより、馬自身のキャパシティーが上がることも期待できるために育成馬の成長にも役立っています。

 

Btc

  BTC研修生(2および4番手がBTC研修生)の騎乗実習が始まりました。先頭からボンビバンの11(牡 父:マンハッタンカフェ)、オンワードシルフィの11(牡 父:ケイムホーム)、シルバーインゴッドの11(牡 父:アドマイヤジャパン)、マチカネアオイの11(牡 父:ヴィクトリー)、ガクエングレイスの11(牡 父:チチカステナンゴ)。

●育成馬の近況

 JRA育成馬の調教は、1月に入り徐々に本格化してきました。12月までは騎乗馴致を開始した順番にグループ分けしていましたが、1月からは騎乗馴致の開始時期に関わることなく、牡および牝の2群に分けて調教を実施しています。

800m屋内トラックでは1列縦隊で1周もしくは2周駆歩(ハロン24秒まで)を行った後に、2頭併走で2周駆歩(ハロン22秒まで)の計2,4003,200mの調教をベースに、週2回は800m屋内トラックで1列縦隊での2周駆歩(ハロン22秒まで)を行った後に、坂路での調教(ハロン19秒まで)を実施しています。坂路調教を開始した12月上旬には、坂路を1本駆け上がるのが精一杯でしたが、この2ヶ月で体力も向上し、ステディキャンターのスピードも上がり、坂路調教後もすぐに息が入るようになってきました。また、牡馬では余裕が出てきてやんちゃな素振りを見せる馬も出てきました。

一方、牝馬は調教強度の増加に伴い、特に繊細な馬では飼葉を残すなど精神面のストレスを受けているようにも見受けられるため、今後の強調教の実施に際しては、肉体面のみならず精神面のコンディションに注意を払わなければならないと考えています。前号での①前に(Go forward②真っ直ぐ(Go straight③落ち着いて(Go calmly走行させることが競走馬の礎であるということを肝に命じて調教を進めていきたいと考えています。

1月最終週の牡(前半の角馬場での速歩から坂路調教まで)および牝(後半の角馬場での速歩から坂路調教まで)の調教動画。ステディキャンターのスピードも上がり、体力の向上が見られます。※なお、ゼッケン番号とブリーズアップセール番号は異なりますので、ご注意ください。

●育成馬検査

1月下旬に育成馬検査が実施されましたので、少し触れてみたいと思います。育成馬検査とはJRA生産育成対策室の職員が日高育成牧場で繋養している育成馬を第三者の視点から、市場での購買時からの馬体の成長具合、現在の調教進度、馬の取り扱いなどをチェックし、ブリーズアップセール上場に向けての中間確認を行う検査のことです。この検査に備えて、年明けからは日頃にも増して馬の手入れに時間をかけ、タテガミや尾のトリミングにも取り組んできました。

検査は2日間かけて行われ、2日目は雪が舞う中の検査となりましたが、第3者に見られるという緊張感のなか、育成馬の展示が行われました。育成馬の検査のみならず、手入れ、トリミング、しつけ、さらには騎乗時のプレゼンテーションも含め、最も手入れが行き届き美しく仕上げられた馬および担当者に贈られる“ベストターンドアウト賞”、また、検査時の展示の仕方が優れた者に贈られる“ベストハンドラー賞”の審査も同時に行われ、2頭の最優秀馬と1人のベストハンドラーが選ばれました。

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雪が舞う中、実施された育成馬検査の様子。今回は“ベストハンドラ―賞”も新設され、緊張感が漂う中、セール本番さながらの展示が行われました。

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“ベストターンドアウト賞”の審査で最優秀馬に選ばれたケイアイリュージンの11(写真左 牡 父:ディープスカイ)とラインクリスタルの11(写真右 牡父:アグネスデジタル)。

今回の検査を通して、日常では見落としていた指摘を受け、個々の馬の発育および調教進度状況を再認識することができました。また、423日(火)に開催されるブリーズアップセールおよび49日(火)に開催される育成馬展示会のためのみならず、馬主、調教師、牧場関係者などのお客様の来場に備えて、馬を展示し、見て頂くという姿勢を再確認する機会にもなりました。浦河にお越しの際は、お気軽にご来場いただき、JRA育成馬をご覧いただきたいと思っております。

厳冬期の1歳馬の管理~脱水に注意!(生産)

先月までは暖かい日が多かったここ浦河ですが、今月に入り寒さの厳しい日が続いています。朝にはマイナス15℃を下回ることもあり、明け1歳馬にとっては初めて経験する厳しい環境です。昼夜放牧を行なっている群(以下、昼夜群)の放牧地には、悪天候時の風除け付近に寝床兼食料として乾草を敷き詰めていますが、思惑どおり夜間には利用してくれているようです(写真1)。冬場は雪が積もり地面は冷たいので、このような工夫をすることで馬房にいる時と変わらないような快適な環境を提供できると考えています。

 さて、前回から過去2年間行なってきた厳冬期の飼養管理についての調査の結果について振り返っておりますが、今回は血液検査の結果から注意すべき点について述べたいと思います。

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思惑どおり、夜間には寝床兼食料の乾草を利用してくれています

・血液検査の結果から

 血液検査では、免疫状態の指標である白血球などの血球数の検査や、ヒトの健康診断でも測定される血液生化学的検査(よくお酒を飲むヒトが「肝臓の値(γ-GTP)が上がっています」などと言われるものと一緒です)を実施しました。

 興味深い所見としては、昼夜群において腎臓の機能の指標であるBUNという値の有意な上昇が認められました(図1)。BUNの値は生理基準値(11.222.4mg/dl)を上回ることもありました。この理由には、昼夜群では脱水が起こり、腎血流量が減少していた可能性が疑われました。

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腎臓の機能の指標であるBUNの値

 2年目である2011-2012シーズンには数件の民間牧場にご協力いただき、血液検査を実施させていただいたのですが、厳冬期にも昼夜放牧を実施している牧場でも、BUNの値が上昇していない牧場がありました。その牧場では強化プラスチック製の電気を利用して冬でも凍結しないウォーターカップを使用していました(図2)。日高育成牧場ではコンクリート製の水桶を使用し、夜間水が凍結しないように常時少しずつ水を流すなどの工夫をしていましたが、それでも厳寒期には表面が凍結してしまい、日によっては馬が夜間に水を飲みにくい状態になってしまっていました。厳冬期に昼夜放牧を実施する際にはこのような設備投資も検討する必要があります。

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・脱水すると・・・

では、脱水すると、馬にはどのような弊害があるのでしょうか。まだ、科学的には証明されていないそうですが、一般的に「便秘」の発症に寒冷期の水分欠如と脱水が関与していると言われています。「便秘」による疝痛は症状がマイルドなことが多く、昼夜放牧をしていると馬房に入れる時間が短いためボロの量の観察も不十分になりがちです。ヒトの目が届かない夜間に馬が疝痛を発症し、気づくのが遅れて重症になってしまうことがないよう、特に注意が必要と思われました。

 また、脱水と言えば夏の暑い時期に運動し、汗をかくことによって起こるイメージですが、今回の血液検査の結果から厳冬期も注意が必要であることがわかりました。脱水の評価は、春から秋の毛が短い時期であれば肩の部分の皮膚をつまみ、皮膚の緊張感が減少する(つまんだ皮膚が戻らなくなる)ことで検査できますが、冬毛で覆われる厳冬期には評価しづらくなります。

 以上のことから、厳冬期に昼夜放牧を実施する際には、夜間の水桶の凍結防止など馬が脱水することがないように十分気をつける必要があると思われました。

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脱水を評価するための皮膚つまみ反射

Color Atlas of Diseases and Disorders of the Foalより)

(次回へ続く)