競馬学校の騎手課程生徒の研修(日高)

 日高育成牧場のある浦河でも、日中は運動をすると少し汗をかく日もあり、少しずつではありますが、春の訪れを感じさせる今日この頃です。我々は気温の上昇や雪解けの進行程度によって春の訪れを感じることが一般的ですが、自然界に生きる動物が最も春の訪れを感じることができるのは、日照時間の延長ではないかと想像します。実際、冬期にも昼夜放牧を継続している1歳馬達も日照時間の延長を体感して春の訪れを感じているためなのか、1月初旬と比較すると放牧地でじゃれ合う姿も目立つようになってきました。

●ライトコントロール法

 このように、長日性季節繁殖動物である馬は、日照時間、つまり光によって季節を感じています。この現象を利用したのが「ライトコントロール法」です。このライトコントロール法は、電球や蛍光灯の照明によって日照時間を人工的に延長させ、冬期に卵巣活動が休止している繁殖牝馬の性腺機能の発達を促すことで初回排卵を早めるために開発された方法です。

 JRAでは、繁殖牝馬に発情を誘発するライトコントロール法を育成馬に応用しています。この育成馬への応用の背景には、冬期は日高育成牧場よりも宮崎育成牧場の方が、馬を仕上げやすいという経験、また、冬期の日照時間が日高育成牧場よりも長い宮崎育成牧場の馬は、骨や筋肉の発育に関与する性ホルモンの分泌量が日高育成牧場の馬よりも高いという事実が存在しています。

 ライトコントロール法(1歳の12月から2歳の4月までの間、馬房の天井にタイマー式の100W白色電球を設置し、昼14.5時間、夜9.5時間の環境を作出)を育成馬に応用することにより、牡馬では筋肉量が増加し、また、牝馬では性ホルモンの分泌時期が早くなり、分泌量も高くなること、さらに、毛艶は牡牝に関わらず良くなる効果を認めています。これらの結果は、冬期の北海道において競走馬の育成を行う場合には、効果的な方法であると考えられます。

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 育成馬へのライトコントロール法の応用。LED電球によってもライトコントロールの効果が得られます。

●育成馬の近況

 JRA育成馬の調教は、2月に入りさらに本格化しています。調教のベースとなる800m屋内トラックでは2,400m~3,200m(F24~22秒)の調教を実施し、基礎体力を養成する目的で“リラックス”した状態での調教に主眼を置き、メンタル面を落ち着かせ、競馬に不可欠な隊列を整えた調教を心掛けています。一方、週2回は屋内  1,000m坂路コースにおいて、3~4頭を1つのロットとした縦列でのストリングを組んでのステディキャンターを2本実施しています。1本目が60秒/3F、2本目が54秒/3Fをスピードの目安とし、“On the bridle”での走行を意識しています。また、坂路調教の翌日には再び800m屋内トラックで“リラックス”した状態での調教を実施しています。このように、1週間の調教の流れをパターン化することによって、馬への“オン”と“オフ”の区別の理解を促し、肉体的な疲労の回復のみならず、メンタル面のケアも心掛けています。

 日頃の調教から、スピードよりも“On the bridle”の手応えを重要視し、ブリーズアップセールの“走行タイムよりも馬の走法や出来映えをアピールする”というスローガンに則した仕上げ、また、ブリーズアップセールが目標ではなく競馬で能力を発揮できることを目標としています。

 

 

 

 競馬学校の騎手課程生徒の騎乗研修期間2/7~11)中の調教動画。いずれも赤白帽色の騎乗者が騎手課程生徒になります。

●競馬学校騎手課程生徒の研修

 さて、日高育成牧場ではJRA育成馬を活用して騎乗技術者、牧場従業員、獣医師など広く生産・育成および競馬に携わる優秀な人材を競馬サークルに供給することができるよう、様々な実践研修を行っています。今回は、その中でも最も若い研修生である競馬学校の騎手課程生徒30期生7名の研修について触れてみたいと思います。

 ご存じのようにブリーズアップセールの騎乗供覧では、JRA育成牧場の職員はもちろん、現役騎手の他、騎手になるための教育の一環として競馬学校の騎手課程生徒達が騎乗しています。実は、これらの中で、最も騎乗数が多いのは騎手課程生徒です。

 

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 ブリーズアップセールの騎乗供覧に備えて育成馬に騎乗する騎手課程生徒(先頭右、後方左右の赤白帽色)。左先頭からエイシンパンドラの11(牝父:ダンスインザダーク)、キャニオンリリーの11(牝 父:ヨハネスブルグ)、右先頭からクレバーマリリンの11(牝 父:ディープスカイ)、アポインテッドラブの11(牝父:マツリダゴッホ)

 今回の研修では、ブリーズアップセールの騎乗供覧に備えたJRA育成馬の騎乗研修(騎乗研修の様子は上の動画をご参照下さい)が主となり、1日に3頭の育成馬に騎乗しました。研修中は騎乗研修以外にも、早朝から朝飼付け、騎乗前の馬房掃除、騎乗後の手入れにとどまらず、近隣牧場の見学、セリに上場するためのコンサイナー業務に関する講義、さらには浦河ポニー乗馬スポーツ少年団との交流など普段では体験できないことを経験できたのではないでしょうか。これらの経験の中でも、生産者の方々の繁殖牝馬や1歳馬に対する思いを聞く機会を得て、1頭の競走馬が競馬場で出走するまでには、多くの人々が関わっていることを改めて理解できたものと思います。

 

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 浦河ポニー乗馬スポーツ少年団の練習に参加した競馬学校の騎手課程生徒。

 4月23日(火)にJRA中山競馬場で開催されるブリーズアップセールでは、JRA育成馬のみならず、騎手課程生徒の騎乗ぶりにも注目していただきたいと思います。当日は、是非、JRA中山競馬場までお越し下さい。

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 ブリーズアップセールでは競馬学校の騎手課程生徒の騎乗ぶりにも注目して下さい。写真は2012 JRAブリーズアップで騎手課程生徒を背に力強い走行を披露したシンネン号(2月16日1回小倉3日目10Rあすなろ賞優勝馬 父:ステイゴールド 母:キタサンバースデー)。※写真提供:馬市ドットコム様

厳冬期の1歳馬の管理~移動距離を増やす工夫~(生産)

先月に比べて若干寒さも和らいできましたが、まだまだ寒い日が続き春は遠いと感じる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。「寒いと動きたくなくなる」のは人間も馬も一緒なのか、過去の研究から冬は放牧地での移動距離が少なくなることがわかっています。日高育成牧場ではこの時期、1歳馬の放牧地の四隅の雪の上にルーサン乾草を撒いています(写真1これにより、馬は食べるために放牧地を移動しなくてはならず、運動量を増やすことができます。

今回はこのような冬に移動距離を増やす工夫について述べたいと思います。

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写真1 放牧地の四隅にルーサン乾草を撒いています

なぜ移動距離を増やす必要があるか?

そもそも、なぜ移動距離を増やす必要があるのでしょうか?それについては、まず(春から秋にかけての)昼夜放牧がなぜこれほどまでに広まってきたかというところから考えていきたいと思います。

昼夜放牧を行なうメリットとして、草食動物である馬を野生に近い環境で過ごすことは生理的に自然であり、長い時間牧草を食べることで自然な栄養を摂取できること、群れで行動する時間が長くなることで社会性が身につくことなどが挙げられます。中でも一番のメリットは昼放牧と比較して移動距離、すなわち運動量が増え、骨や腱の成長が促されることです。

おそらくもともとは実際に馬を管理している現場のホースマンたちが「昼放牧より昼夜放牧の方が“骨太”になる」という印象を持っていたため、「昼夜放牧の方が良い」と広まっていったのではないかと推測されますが、過去に当歳から1歳にかけての馬を用いて放牧時間と骨や腱の成長を調査した研究がなされています。1歳馬を用いて、24時間放牧を行なった群と、12時間放牧を行なった群、24時間馬房に入れっぱなしだった群の骨密度を比較した調査では、放牧時間が長いほど骨密度が増加したという結果が得られています(図1)腱に関する研究では、運動を負荷した馬としなかった馬の浅屈腱の断面積の比較したところ、運動開始2ヶ月後から運動を負荷した馬の断面積が大きい傾向が認められたという結果が示されたという報告があります。このことから、運動を負荷すると骨が丈夫になり腱の発育が早まると考えられます。

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図1 放牧時間が長ければ長いほど、骨は丈夫になります

JRAでは、以前からGPS装置を用いて放牧地内での馬の移動距離を調査してきました。その結果、昼夜放牧と昼放牧を比較すると、移動距離に2~3倍もの差があることがわかっています。今までの話をまとめると下記の通りです。

昼夜放牧をすることで運動量UP

→骨が丈夫になり、腱の成長が早まる

→強い馬づくりに繋がる!

では、話を冬に移しましょう。同じくJRAの過去の調査では、当歳の冬においては昼夜放牧(17時間)した場合で4~6km、昼放牧(7時間)した場合で2~5kmと、春から秋にかけてのように放牧時間を延ばしてもはっきりとした差がつかなかったという結果に終わっています(図2)これではせっかく昼夜放牧を行なっても馬体の成長には繋がらず、いたずらに馬を消耗させてしまうだけ、ということになりかねません。そこで、馬の移動距離を増やす工夫が必要になる、というわけです。

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図2 昼夜放牧を実施しても、何も工夫しなければ冬には移動距離が減ります

移動距離を増やす工夫

それでは、ここ日高育成牧場で試みている「移動距離を増やす工夫」についてご紹介していきたいと思います。

まずは冒頭で述べた「放牧地の四隅の雪の上にルーサン乾草を撒くこと」です。ルーサンを食べるために、馬は放牧地内を探し回るようになります。チモシーなどイネ科の牧草でも代用は可能ですが、嗜好性が良いためまずはルーサンを撒き、雪が深くなり掘って下草を食べることもできなくなってきたらチモシー乾草もプラスして置くようにしています。厳冬期には繊維分を腸管内で発酵する際に生じる熱が体温維持に重要であると言われているという観点からも、こうして積極的に乾草を食べさせることは大切です。

次に、「積雪が深くなってきて馬が歩きづらくなってきた際には、重機で雪を押して道を作ること」です。この場合も馬がより長い距離を歩くように長方形の放牧地であればまず牧柵に沿って道を作った後、斜めに対角線を描くように雪を押します。こうすることで馬が動きやすくなり、結果移動距離が増やせます。この方法で注意すべき点は、下草が見えてしまうまで雪を深く掘り過ぎないということです。そこまで掘り下げてしまうと、草地が痛み翌春の放牧地の回復が遅くなってしまいます。また、暖かい日が続いて雪が融け、その後寒い日が続くと地面がカチカチに凍り、馬が転倒して怪我をする危険が出てきたり硬くてかえって歩かなくなったりするためこまめな観察とメンテナンスが重要です。

このような工夫を試みた結果、従来は昼夜放牧を行なっても1日4~6kmしか歩かなかった馬が、6~12kmと春から秋にかけてと遜色ないくらい移動するようになりました(図3)日高育成牧場では生産馬を冬季に昼夜放牧群と昼放牧群の2群に分けて管理していますが、昼放牧群についてはウォーキングマシン(WM)を併用し、両群ともに同様の運動量を確保しています。

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図3 工夫することで冬でも6~12kmの移動距離を維持しています

このように、厳冬期に昼夜放牧を実施する際には、春から秋にかけてとは違った工夫が必要となります。寒い冬を上手く乗り切り、健康で丈夫な馬を育てましょう。

(次回へ続く)

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

平素はJRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

ベストターンドアウト賞(日高)

  前号では、今冬の12月の北海道の降雪の多さについて触れましたが、年が明けて最も寒さが厳しくなるといわれている小寒から大寒にかけての期間は、一転して寒さが和らぎ、1月下旬にしては珍しい降雨を認めました。2月に入っても冷え込みが厳しい日は少なく、このまま春を迎えるのではないかと思わせるほどです。

 BTC育成調教技術者養成研修生

 本年も小寒の頃の恒例行事となっているBTC育成調教技術者養成研修生の騎乗実習が始まりました。本年の研修生は19名で、49日(火)に予定されている育成馬展示会までの約3ヶ月間、67名ずつの3班に分かれ、1週間交代でJRA育成馬を活用した騎乗実習を行います。騎乗実習開始時には初めて騎乗する若馬の動きに対応しきれないことも少なくありませんが、卒業後のそれぞれの進路に向けたモチベーションによって著しい成長を成し遂げる姿を見守ることは、我々にとって楽しみのひとつになっています。将来、研修生たちが育成牧場の最前線で仕事をする際に、この騎乗実習で得た経験が役立ったと思えるようにサポートしたいと思っております。

 また、育成馬も騎乗馴致から関わってきた担当者以外の騎乗者に騎乗されるという経験を積むことができます。これによって特定の騎乗者に関わらず、騎乗者自体をリスペクトしているかどうかを確認することができます。この経験を乗り越えることにより、馬自身のキャパシティーが上がることも期待できるために育成馬の成長にも役立っています。

 

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  BTC研修生(2および4番手がBTC研修生)の騎乗実習が始まりました。先頭からボンビバンの11(牡 父:マンハッタンカフェ)、オンワードシルフィの11(牡 父:ケイムホーム)、シルバーインゴッドの11(牡 父:アドマイヤジャパン)、マチカネアオイの11(牡 父:ヴィクトリー)、ガクエングレイスの11(牡 父:チチカステナンゴ)。

●育成馬の近況

 JRA育成馬の調教は、1月に入り徐々に本格化してきました。12月までは騎乗馴致を開始した順番にグループ分けしていましたが、1月からは騎乗馴致の開始時期に関わることなく、牡および牝の2群に分けて調教を実施しています。

800m屋内トラックでは1列縦隊で1周もしくは2周駆歩(ハロン24秒まで)を行った後に、2頭併走で2周駆歩(ハロン22秒まで)の計2,4003,200mの調教をベースに、週2回は800m屋内トラックで1列縦隊での2周駆歩(ハロン22秒まで)を行った後に、坂路での調教(ハロン19秒まで)を実施しています。坂路調教を開始した12月上旬には、坂路を1本駆け上がるのが精一杯でしたが、この2ヶ月で体力も向上し、ステディキャンターのスピードも上がり、坂路調教後もすぐに息が入るようになってきました。また、牡馬では余裕が出てきてやんちゃな素振りを見せる馬も出てきました。

一方、牝馬は調教強度の増加に伴い、特に繊細な馬では飼葉を残すなど精神面のストレスを受けているようにも見受けられるため、今後の強調教の実施に際しては、肉体面のみならず精神面のコンディションに注意を払わなければならないと考えています。前号での①前に(Go forward②真っ直ぐ(Go straight③落ち着いて(Go calmly走行させることが競走馬の礎であるということを肝に命じて調教を進めていきたいと考えています。

1月最終週の牡(前半の角馬場での速歩から坂路調教まで)および牝(後半の角馬場での速歩から坂路調教まで)の調教動画。ステディキャンターのスピードも上がり、体力の向上が見られます。※なお、ゼッケン番号とブリーズアップセール番号は異なりますので、ご注意ください。

●育成馬検査

1月下旬に育成馬検査が実施されましたので、少し触れてみたいと思います。育成馬検査とはJRA生産育成対策室の職員が日高育成牧場で繋養している育成馬を第三者の視点から、市場での購買時からの馬体の成長具合、現在の調教進度、馬の取り扱いなどをチェックし、ブリーズアップセール上場に向けての中間確認を行う検査のことです。この検査に備えて、年明けからは日頃にも増して馬の手入れに時間をかけ、タテガミや尾のトリミングにも取り組んできました。

検査は2日間かけて行われ、2日目は雪が舞う中の検査となりましたが、第3者に見られるという緊張感のなか、育成馬の展示が行われました。育成馬の検査のみならず、手入れ、トリミング、しつけ、さらには騎乗時のプレゼンテーションも含め、最も手入れが行き届き美しく仕上げられた馬および担当者に贈られる“ベストターンドアウト賞”、また、検査時の展示の仕方が優れた者に贈られる“ベストハンドラー賞”の審査も同時に行われ、2頭の最優秀馬と1人のベストハンドラーが選ばれました。

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雪が舞う中、実施された育成馬検査の様子。今回は“ベストハンドラ―賞”も新設され、緊張感が漂う中、セール本番さながらの展示が行われました。

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“ベストターンドアウト賞”の審査で最優秀馬に選ばれたケイアイリュージンの11(写真左 牡 父:ディープスカイ)とラインクリスタルの11(写真右 牡父:アグネスデジタル)。

今回の検査を通して、日常では見落としていた指摘を受け、個々の馬の発育および調教進度状況を再認識することができました。また、423日(火)に開催されるブリーズアップセールおよび49日(火)に開催される育成馬展示会のためのみならず、馬主、調教師、牧場関係者などのお客様の来場に備えて、馬を展示し、見て頂くという姿勢を再確認する機会にもなりました。浦河にお越しの際は、お気軽にご来場いただき、JRA育成馬をご覧いただきたいと思っております。

厳冬期の1歳馬の管理~脱水に注意!(生産)

先月までは暖かい日が多かったここ浦河ですが、今月に入り寒さの厳しい日が続いています。朝にはマイナス15℃を下回ることもあり、明け1歳馬にとっては初めて経験する厳しい環境です。昼夜放牧を行なっている群(以下、昼夜群)の放牧地には、悪天候時の風除け付近に寝床兼食料として乾草を敷き詰めていますが、思惑どおり夜間には利用してくれているようです(写真1)。冬場は雪が積もり地面は冷たいので、このような工夫をすることで馬房にいる時と変わらないような快適な環境を提供できると考えています。

 さて、前回から過去2年間行なってきた厳冬期の飼養管理についての調査の結果について振り返っておりますが、今回は血液検査の結果から注意すべき点について述べたいと思います。

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思惑どおり、夜間には寝床兼食料の乾草を利用してくれています

・血液検査の結果から

 血液検査では、免疫状態の指標である白血球などの血球数の検査や、ヒトの健康診断でも測定される血液生化学的検査(よくお酒を飲むヒトが「肝臓の値(γ-GTP)が上がっています」などと言われるものと一緒です)を実施しました。

 興味深い所見としては、昼夜群において腎臓の機能の指標であるBUNという値の有意な上昇が認められました(図1)。BUNの値は生理基準値(11.222.4mg/dl)を上回ることもありました。この理由には、昼夜群では脱水が起こり、腎血流量が減少していた可能性が疑われました。

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腎臓の機能の指標であるBUNの値

 2年目である2011-2012シーズンには数件の民間牧場にご協力いただき、血液検査を実施させていただいたのですが、厳冬期にも昼夜放牧を実施している牧場でも、BUNの値が上昇していない牧場がありました。その牧場では強化プラスチック製の電気を利用して冬でも凍結しないウォーターカップを使用していました(図2)。日高育成牧場ではコンクリート製の水桶を使用し、夜間水が凍結しないように常時少しずつ水を流すなどの工夫をしていましたが、それでも厳寒期には表面が凍結してしまい、日によっては馬が夜間に水を飲みにくい状態になってしまっていました。厳冬期に昼夜放牧を実施する際にはこのような設備投資も検討する必要があります。

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・脱水すると・・・

では、脱水すると、馬にはどのような弊害があるのでしょうか。まだ、科学的には証明されていないそうですが、一般的に「便秘」の発症に寒冷期の水分欠如と脱水が関与していると言われています。「便秘」による疝痛は症状がマイルドなことが多く、昼夜放牧をしていると馬房に入れる時間が短いためボロの量の観察も不十分になりがちです。ヒトの目が届かない夜間に馬が疝痛を発症し、気づくのが遅れて重症になってしまうことがないよう、特に注意が必要と思われました。

 また、脱水と言えば夏の暑い時期に運動し、汗をかくことによって起こるイメージですが、今回の血液検査の結果から厳冬期も注意が必要であることがわかりました。脱水の評価は、春から秋の毛が短い時期であれば肩の部分の皮膚をつまみ、皮膚の緊張感が減少する(つまんだ皮膚が戻らなくなる)ことで検査できますが、冬毛で覆われる厳冬期には評価しづらくなります。

 以上のことから、厳冬期に昼夜放牧を実施する際には、夜間の水桶の凍結防止など馬が脱水することがないように十分気をつける必要があると思われました。

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脱水を評価するための皮膚つまみ反射

Color Atlas of Diseases and Disorders of the Foalより)

(次回へ続く)

BTC利用者との意見交換会(日高)

騎馬参拝

日高育成牧場では、浦河町乗馬クラブやポニー少年団の子供たちとともに、新年恒例の騎馬参拝で2013年の幕が上がりました。騎馬参拝を行った西舎神社で、本年の人馬の安全を祈念しました。

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新年恒例の騎馬参拝で人馬の安全を祈念いたしました。

前号では、今冬は北海道各地において、過去100年間で最も遅い初雪を記録したことをお伝えしました。しかし、初雪以降は、北海道各地でその遅れを挽回するかのように降雪が続き、札幌、旭川では初雪が解けることなく、そのまま根雪になりました。この初雪がそのまま根雪になるという例は、観測記録上初めてだそうです。日高育成牧場のある浦河でも、昨年末のクリスマス寒波の影響を受けて大雪に見舞われ、一面銀世界に景色が変わり、厳冬期に突入しました。しかし、年末には一転して気温が上昇したため降雨になり、路面のみならずパドックもアイスバーンとなってしまいました。調教後や休日にはパドック放牧を実施しているため、砂を撒いてパドック整備を実施しました。今後は、春まで雨が降らないことを祈るばかりです。

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昨年末の寒波により一面銀世界へと景色が変わりました。

育成馬の近況

このような厳しい寒さの中、JRA育成馬の調教は徐々に本格化してきました。1群の牡馬および2群の牝馬は、800m屋内トラックでの2400m(1周+2周、ハロン22秒まで)のキャンターをベースに、週2回は800m屋内トラックで2周キャンター(ハロン22秒)を実施した後に坂路調教(1本、ハロン20秒)を実施しています。また、週1回は800m屋内トラックでの3200m(2周+2周、ハロン22秒まで)のキャンターを実施しています。

この時期の2歳馬の調教において重要なことは、①前に(Go forward、②真っ直ぐ Go straight落ち着いて(Go calmly走行させることであると考えています。これらのことを実行するためには、馬に騎乗者を乗せたバランスを習得させ、キャンターを実施するために適正な筋力を養成させるとともに、騎乗馴致から継続して実施している扶助を理解させることが不可欠です。このシンプルな走行が競走馬としての基礎となるため、焦らずにじっくりと調教を進めていくように心掛けています。

 

         

昨年12月第4週目の調教動画。角馬場での速歩の後、800屋内トラックでの一列縦隊、2列あるいは3列の隊列でのキャンターを実施します。また、週2回は坂路調教を実施しています。①前に(Go forward、②真っ直ぐ Go straight落ち着いて(Go calmly走行させることを主眼としています。

BTC利用者との意見交換会

ここからは昨年12月に行われました恒例のBTC利用者との意見交換会」について触れさせていただきます。今回馬の個性と調教」というテーマに基づき、当場から「ミオスタチン遺伝子と距離適性」および「馬の個性と騎乗方法」と題した話題を提供した後、BTC利用者の中から代表とし参加していただきました3名のパネリストの方々を中心に意見交換が行われました

パネリストの皆様は、それぞれ「馬術」、「ナチュラルホースマンシップ」、「海外での経験」という異なるバックグラウンドを基に競走馬を調教しておられるため、多種多様な意見が飛び交うものと想像していました。しかし、実際には共通した意見も多く、特に、馬という動物は、接し方や取り扱い方によって容易に変わってしまうため、余裕をもって慌てずに馬に接するとともに、常に馬をよく観察し、馬を理解しようと心掛けることが重要であるという共通した考えが印象的でした。3名のパネリストの方々、および参加していただいた方々にはこの場をお借りして御礼申し上げます。このBTC利用者との意見交換会」は本年も12月ごろに開催する予定でありますので、多くの参加をお待ちしています。

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馬の個性と調教というテーマに基づき開催した「BTC利用者との意見交換会」

活躍育成馬が日高に帰ってきました(日高)

 新年あけましておめでとうございます。昨年に引き続き、本年もJRA育成馬日誌をよろしくお願いいたします。

 2005年にJRAがブリーズアップセールをスタートさせてから、8年が経過しましたが、この度記録に残る、そして記憶に残るセール出身活躍馬の2頭が相次いで、日高に凱旋しましたのでお知らせいたします。

 まず1頭目はセイウンワンダー(父グラスワンダー)です。同馬は2008年のJRA賞最優秀2歳牡馬で、朝日杯フューチュリティS(GⅠ)など重賞3勝を挙げました。以前抽選馬と呼ばれた時代も含め、JRA育成馬の長い歴史の中で牡馬のG勝馬はこの馬だけです。また同馬は第4回セールの最高価格取引馬(2,730万円)です。第1回の取引馬でフィリーズレビュー(G)など重賞2勝を挙げたダイワパッション(3,045万円で落札、父フォーティナイナー)に続き、その年の最高価格取引馬が活躍したことで、ブリーズアップセールの信頼度を一気に上昇させた功労馬です。

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 写真1.2009年の皐月賞、セイウンワンダーは僅差の3着(左端)。この年の牡馬クラシック3冠路線で、3着以内に2度食い込んだのは、唯一この馬だけでした(菊花賞も3着)。

 もう1頭はJRAホームブレッドとして、史上初の勝利を収めたマロンクン(父デビッドジュニア)です。「JRAホームブレッド(JRA Homebred)」とは、JRA育成馬のうち、JRA自らが生産したサラブレッドの名称で、当場にて生産・育成されました。同馬は第7回のセールにはじめて上場されたホームブレッド初年度産駒の1頭です。セイウンワンダー号とは対照的に、セール翌日の“ファイナルステージ”(セール当日落札されなかった上場馬を、早期に購買いただく取組み)で売却された馬の初勝利ともなりました。

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 写真2.2011年の2歳新馬戦(11/5東京・芝1,400m)、マロンクンはあと2完歩というところまで粘り2着。次走でJRAホームブレッド初勝利の快挙を達成しました。

 JRAでは、わが国の生産育成分野のレベルアップに資することを目的として、これらの馬を活用し、「母馬のお腹の中から競走馬までの一貫した調査研究や技術開発」を行い、その成果の普及・啓発に取り組んでいます。JRA育成馬達がこうした活躍をしてくれることが、私達の行う生産育成業務への関心が高まり、ひいては成果の普及につながるものと考えています。

 なお、JRAホームブレッドやその母馬を用いた生産育成業務の成果については、JRAホームページ内のJRA育成馬サイト「JRA育成馬を用いた生産育成研究業務」で詳細を紹介しております。

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 写真3.10/8に日高育成牧場に凱旋したセイウンワンダーは、現在、障害馬術の競技馬になることを目標に日々訓練に励んでいます。競走馬時代のイメージとはかけ離れた穏やかな表情を見せます。

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 写真4.10/29に生まれ故郷の日高育成牧場に帰郷したマロンクン。現在、セイウンワンダーに負けないように障害馬術の競技馬になる訓練を実施しています。

 漆黒の青毛セイウンワンダーに対し、その名のとおり栗毛が美しいマロンクン、好対照な毛色のこの2頭が、乗馬としてどのような活躍をしてくれるのか楽しみです。

厳冬期の当歳馬の管理~過去2年間の調査で見えてきた課題~(生産)

今年も残すところあとわずかとなり、何かと忙しい年の瀬ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?冬になり、当歳馬たちは昨年同様、「昼夜放牧群(以下、昼夜群)」と「昼放牧+ウォーキングマシン群(以下、昼W群)」の2群に分けて管理し、データを集積しています。3年目となる今年は気温が高くいまだに雨が降ったりするここ浦河町ですが(写真1)、果たして過去2年間と比較してどんなデータが得られることでしょうか。

さて、今回から数回に渡り、過去2年間行なってきたこの厳冬期の当歳馬の飼養管理についての調査の結果を踏まえて、見えてきた管理上の課題について確認したいと思います。まず、今回は体重増加について述べたいと思います。

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写真1 今年はまだ青草(?)が食べられます

昼夜放牧と昼放牧での体重増加の違い

 まず、調査期間中の体重増加を比較してみました(図1)。2年目の2011年~2012年シーズンの方が昼夜群・昼W群ともに体重が大きい傾向にありましたが、体重増加のトレンドとしては2年間で同じ動きが見られました。

 まず昼夜群の方は、途中大きな体重減少こそないものの、12月下旬から1月中旬にかけて一時、体重増加が停滞もしくは体重が減少するような期間が認められました。この原因については、単純に寒冷刺激によるストレスや、後ほどご紹介するホルモン分泌などが影響しているのではないかと考えられました。

 一方、昼W群は全体的に順調に体重が増加しましたが、11月下旬の調査開始当初に一時的に体重が減少する傾向が認められました。これは、調査期間に入る前はもともと全頭昼夜放牧していたのを昼放牧に切り替えたことにより放牧時間が大幅に短縮し、青草などの腸管内容物が減少したことや、環境変化による一過性のストレスが原因と考えられました。1年目と2年目の違いにつきましては、種牡馬の違いによる成長カーブの差の影響などが考えられました。

 以上のことから、厳冬期のこの時期に順調に体重を増加させるためには、昼夜群に関しては馬服を着せたりすることでできるだけ寒冷刺激を与えないようにしたりする必要があるのではないかと考えられました。昼W群に関しては、当場のように昼夜放牧から切り替える牧場ではいかにストレスをかけずに昼放牧に切り替えるか、例えば一気に昼放牧に切り替えるのではなく放牧時間を徐々に短縮して馬たちに「気がついたらいつの間にか昼放牧になっていた」と思わせるような方法が良いのではないかと考えられました。

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図1 体重増加の違い

 講習会でこの調査に関するお話をさせていただくと、体重増加について、「調査期間後はどうなっているの?」という質問を良く受けます。調査期間後の1月下旬以降は、1年目と2年目でベースラインの差はありましたが、昼夜群と昼W群で体重増加のトレンドに差は認められませんでした(図2)。すなわち、気温の上では1月から2月にかけての方が寒くなることがしばしばありますが、当歳馬の管理上はむしろその前のちょうど調査期間である11月下旬から1月中旬にかけての時期を問題なくやり過ごすことの方が重要ではないかと思われました。ちょうどこの時期は1年の中で最も日照時間の短い期間に該当します。ひょっとしたら馬たちの成長にとっては、寒さよりも日照時間の方が関連が強いのかもしれません。

 ちなみに、当場では調査期間後は2月いっぱいまで2群に分けて管理し、3月より全頭昼夜放牧を実施しております。

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図2 調査期間後の体重増加の違い

体重増加とホルモンの関係

 次に、体重増加とホルモンのお話です。この調査では血液中の数種類のホルモンを測定しましたが、中でもプロラクチンというホルモンの分泌と体重増加に相関が示唆されるような傾向が認められました(図3)。

プロラクチンとは本来乳腺の発達や妊娠維持に関わるホルモンですが、春機発動に関与するなど馬体の成長にも影響することが知られています。この血中プロラクチン濃度は、過去2年間ともに昼夜群と比較して昼W群で有意に高い値となりました。 また、1年目と2年目を比較すると、体重のトレンドと同様に昼夜群と昼W群の両方で2年目の方がプロラクチンの濃度が高いことがわかりました。

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図3 プロラクチンの分泌と体重増加の関係

 次回以降も、厳冬期の当歳馬の飼養管理についての調査の結果をご紹介していきたいと思います。来年以降も、JRAが行なう調査・研究につきまして、皆様のご理解とご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

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セリと育成馬を知ろう会 in ひだか(日高)

今夏の記録的な残暑が影響しているのか、本年は北海道各地において、過去100年間で最も遅い初雪、特に旭川では明治21年からの観測史上で最も遅い初雪を記録しています。しかし、冬は必ずやってくるもので、11月中旬には日高山脈に初冠雪を、浦河でも11月下旬には初雪を認めました。

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写真1.調教を終えクーリングダウンを行う馬の背景にある日高山脈は11月中旬に初冠雪を認めており、冬の到来を感じさせます。

3群に分けて騎乗馴致を進めてきたJRA育成馬の近況ですが、各群とも順調に進んでいます。現在は、全群とも800m屋内トラック馬場での調教を行えるまでになりました。そのなかでも、9月上旬から騎乗馴致を開始している1群(牡馬24頭)は、800m屋内トラック馬場での調教実施時には、1列縦隊で1周した後、手前を変えて二列縦隊でキャンターを2周、合計2,400mのキャンターを行っています。また、1群の牡馬はBTC1600mトラック馬場においても1周のキャンター調教を行っています。この広い調教コースでは、ある程度のスピードで(F2320程度)まっすぐに走行することを馬に教える目的で調教を実施しています。

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写真21600mトラック馬場での調教を行う1群の牡馬。先頭はマチカネアオイの10(牡 父ヴィクトリー)、2番手は12年ファンタジーステークス勝ち馬「サウンドリアーナ号」の半弟であるオテンバコマチの10(牡 父アルデバラン)

一方、10月初旬から騎乗馴致を開始している2群(牝馬23頭)は、牝馬ということもあり、牡馬と比較して、騎乗に至るまでの過程において、腹帯を嫌う馬、ランジングレーンがお尻に触れることを嫌う馬、さらには騎乗直後に“カブル”馬なども認められたため、馬に扶助を理解させることを第一に考え、その理解を日々積み重ねていくように、騎乗馴致に時間を費やしました。その甲斐あって、現在では、800m屋内トラック馬場での集団調教が可能な段階にまで進んでおり、合計2,400mのキャンターを行うまでに至っております。

さて、今回は少しさかのぼって1017日~18日にJRAの馬主の方を対象に行われた「セリと育成馬を知ろう会」についてご紹介いたします。この企画は、比較的馬主歴の短い方を対象に、HBA日高軽種馬農協の主催のもと、JRA馬事部生産育成対策室および当場が協力する形で実施されました。

初日はBTC調教施設および日高育成牧場の広大な調教施設の見学、JRA育成馬(1歳馬)の騎乗馴致や「馬の見方」の紹介、そして、夜には調教師や市場主催者との懇談会が実施されました。翌日の2日目は、HBAオータムセールにおいて、上場馬の比較展示やセリを見学し、購買までの流れを紹介したのち、JBBA静内種馬所において「北米リーディングサイアー」である“エンパイアメーカー”などの種牡馬見学が行われました。

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写真3.ラウンドペン内の騎乗馴致を見学される馬主の皆様

今回の企画は、比較的馬主歴の短い馬主の方々に対して、「馬の見方の理解」「馬のライフサイクルの理解」「調教師と交流」あるいは「セリ市場での購買に向けた体験」をしていただくことを趣旨に行われており、参加された馬主の方からは、「来年セリ市場で購買するための良い経験となった」、「調教師やセリ関係者との接点ができて良かった」などのご感想を頂戴しました。

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写真4.「馬の見方」に関する講義では馬のコンフォメーションに関する説明が行われました

日高育成牧場のJRA育成馬と実際のセリ市場を活用したこのような企画が、馬主の方に「セリ市場に参加しよう」、「競走馬を所有しよう」という意欲を持っていただくきっかけになるよう、来年以降も協力させていただきたいと考えています。なお、JRAでは来年3月にも「育成馬を知ろう会in宮崎」をJRA宮崎育成牧場にて開催予定です。お問合せ等は、JRA馬事部生産育成対策室までご連絡願います。

当歳馬品評会&強い馬づくりのための生産育成技術講座(生産)

 だんだん日も短くなり、冬の訪れを感じる今日この頃ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?当歳馬たちは現在、昼夜放牧を継続していますが、昨年同様厳冬期には「昼夜放牧群」と「昼放牧+ウォーキングマシン群」の2群に分けて管理し、データを集積していく予定です(写真1)。

さて、今回のテーマは、先日行なわれました当歳馬品評会のお話と、近々開催される「強い馬づくりのための生産育成技術講座」のご案内です。

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写真1 昼夜放牧している当歳馬たち

当歳馬品評会

 これは浦河町軽種馬生産振興会青年部の主催で、一時期開催されていなかったそうですが昨年より再開されました。今年はJRA日高育成牧場を含む7つの牧場が参加し、各牧場を巡回する方式で行なわれました(写真2)。参加者全員の投票制で「最優秀賞」「優秀賞1席」「優秀賞2席」が決められ、今年の「最優秀賞」は宮内牧場生産のソフィアルージュの24(牡、父エンパイアメーカー)が受賞しました(写真3)。また、「優秀賞1席」には田中スタッド生産のママラヴズマンボの2012(牝、父ホワイトマズル)、「優秀賞2席」には高村牧場生産のチェリーエンジェルの2012(牡、父エンパイアメーカー)が選ばれました(写真4)。

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写真2 品評会の様子

JRA日高育成牧場にて)

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写真3 最優秀賞受賞馬

(宮内牧場 ソフィアルージュの24 牡 父エンパイアメーカー

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写真4 受賞者の皆さん

 この当歳馬品評会の趣旨は、「これに向けて馬を仕上げていこう」というよりもむしろ日頃の管理のまま展示し、お互いに当歳馬の飼養管理について意見を交換し合い、勉強していこうというものです。昨年はお互い遠慮がちでしたが、再開2年目となる今年はだいぶ打ち解け、「飼料は何をどのくらい与えているか?」「昼夜放牧はいつまで継続する?」などといった基本的なことから、「この時期多発する皮膚病についてどう対処しているか?」「今年ローソニア感染症(※)にかかった子馬がいたが、こうやって対処した」など専門的な会話まで意見を交換することができ、非常に有意義なイベントとなりました。※ローソニア感染症につきましては、前回の当ブログを参照。

 昼食時には学会などで行なわれる「ランチョンセミナー」を模して、JRA日高育成牧場で現在取り組んでいる「研究紹介」を行ないました。今回は昨年の「競走馬に関する調査研究発表会」で日高育成牧場から発表した演題のうち、「幼駒における近位種子骨骨折の発症に関する調査」について紹介し、ここでも活発な意見交換が行なわれました。夜は懇親会が行なわれ、酒の勢いも手伝って(?)生産者の皆さんの馬づくりにかける熱い気持ちが伝わってきました。我々の生産・育成研究の目的の一つが「生産地の様々な問題点を解決するため」ですが、このような交流を通して自分たちの牧場で生産しているだけでは気づかない、様々な問題を認識することができました。

強い馬づくりのための生産育成技術講座

 JRA日高育成牧場では、毎年11~12月に「強い馬づくりのための生産育成技術講座」という講習会を行なっています。これは、生産牧場関係者向けに最新のトピックを紹介するものです。今年のテーマは「レポジトリー」「妊娠期の検査」「厳冬期の昼夜放牧」についてです。「レポジトリー」については、今まで獣医師向けにはたくさん講習会が開かれてきましたが、今回は生産牧場関係者の視点に立った説明をいたします。今までJRA育成馬で蓄積してきたデータをご披露し、大丈夫な所見、注意しなければならない所見について、解説していきたいと思います。「妊娠馬の検査」については、現在は獣医師による妊娠鑑定が種付け後5~7週を最後に行われ、その後は分娩まで何もしないという流れが一般的でしたが、近年胎盤炎など流産の原因となる疾患が血液中のホルモンの数値や超音波検査による胎盤の厚さの計測などで予測できるようになっています。それらについて解説いたします。最後に「厳冬期の昼夜放牧」についてですが、今年7月の「生産地における軽種馬の疾病に関するシンポジウム講演抄録」で紹介したJRAホームブレッドを「昼夜放牧群」と「昼放牧+ウォーキングマシン群」の2群に分けて行なった調査の2年分のデータを合わせて発表したいと思います。多数の皆様のご来場を心よりお待ちいたしております。

詳細は下記のとおりです。

強い馬づくりのための生産育成技術講座2012

JRA日高育成牧場では、競走馬の資質向上や生産育成関係者への情報・技術普及を目的として「強い馬づくりのための生産育成技術講座2012」を開催いたします。
入場無料で一般の方もご参加いただけます。皆様のご来場をお待ちしております。

開催日時および場所;

①平成24117日(水) 18:30-20:30

北海道浦河郡浦河町 基幹集落センター堺町会館

②平成24118日(木) 18:30-20:30

北海道沙流郡日高町 門別総合町民センター

研修対象;北海道地区軽種馬生産育成関係者

講演内容

・いまさら聞けないレポジトリー。その基本について知ろう!

中井健司(JRA日高育成牧場業務課)

・お腹の胎子は大丈夫?妊娠期の検査について知ろう!

南保泰雄(JRA日高育成牧場生産育成研究室)

・昼夜放牧のススメ。厳冬期の昼夜放牧は有効か?

遠藤祥郎(JRA日高育成牧場業務課)

司会進行  佐藤文夫(JRA日高育成牧場生産育成研究室)

              日高軽種馬生産振興会青年部連合会

【共 催】

 日高軽種馬生産振興会青年部連合会

【後援】

 日高軽種馬農業協同組合

【お問い合わせ・連絡先】

 JRA日高育成牧場 生産育成研究室

 TEL0146-28-2084(土・日・祝除く9:0017:00

※講演内容につきましては予告なく変更する場合がございますので予めご了承下さい。

【腹帯馴致】について(日高)

 今夏の東日本は、記録的な残暑に見舞われました。北海道浦河も、9月に入っても30℃を超すなど、9月中旬までの平均気温は観測史上最高で、半世紀に1度ともいわれる残暑となりました。この残暑厳しい中、サマーセールで購買した40頭が、829日と30日の両日に分かれて入厩しました。9月上旬にはセレクトおよびセレクションセール購買馬を中心に22頭の牡馬を1群として、また、10月初旬からは21頭牝馬を2群として、騎乗馴致を開始しました(写真1)。日高育成牧場は、来年のブリーズアップセールに向けて活気づいてきました。

 騎乗馴致の開始に伴い、BTC育成調教技術者養成研修生の騎乗馴致実習も始まりました。研修生達は、3週間かけて、ランジング、ローラーの装着、ドライビング、そして騎乗に至るまでの過程を学びます。実習前には、馬は人を乗せるのが当たり前だと考えていた研修生達が、実習を通して、騎乗馴致の重要さを感じ取っていく姿は、非常に印象的に映ります。

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写真1.安全に騎乗するために、騎乗前にはドライビングを実施し、扶助を理解させます。写真はパディントンの11(牡、父:バゴ)。

さて、今回は騎乗馴致について触れたいと思います。騎乗馴致は「ブレーキング」とも呼ばれ、草食動物としての“馬”らしい行動を壊し(Break)、新たにヒトとの約束事を構築することを意味します。1群の牡馬の多くは7月下旬に入厩しており、約1.5ヶ月の昼夜放牧によって、心身もとに“馬”らしい状態になっていたために、まさに「ブレーキング」という言葉がふさわしく感じられます。騎乗馴致は、馬体のパッティング、腹帯馴致、ランジング、ドライビングを経て、ペンでの騎乗までを3週間程度かけて、段階的に進めていきます。

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写真2.「ストラップ馴致」は腹帯馴致の有効な手段となります。

動画1.「ストラップ」による腹帯の馴致方法。

しかしながら、どんなに細心の注意を払って、騎乗馴致を進めていても、危険な場面に遭遇することは少なくありません。その危険な場面とは、初めて「腹帯」および「騎乗」を実施するときです。なぜならば、これらは、騎乗馴致を開始する前には、決して経験することのない刺激となるからです。これらのうち、騎乗は、「装鞍」や「横乗り」などによって、段階的に慣らしていくことが可能となります。一方、「腹帯」は「装着するか装着しないか」、つまり「全か無」の刺激しか与えることができないために、騎乗馴致時において、ひとつの山場となっています。そのために、ローラー装着前の腹帯馴致として、JRA育成牧場では、「ストラップ」による馴致方法を導入しています(写真2)。この「ストラップ」は、革ベルトとリングというシンプルな構造のため、解除が容易であり、使用方法も簡便です。さらに、馬に対して、段階的に圧迫に慣らすことが可能であるために、非常に推奨できる方法であります(動画1)。「ストラップ」による腹帯馴致方法を導入してから、ローラー装着時に「カブリ(Bucking)」(動画)と呼ばれる、四肢で跳ね上がる反応を見せる馬は減るようになりました。この「カブリ」は、大きな呼吸によって胸郭が膨らみ、ローラーによる経験したことのない圧迫を強く感じて驚き、それを振り解こうとする必然的な反応であります。馬が「カブリ」を見せた場合には、必ず、ムチなどの扶助を使って馬を前に出し、馴致者の安全を確保するとともに、扶助に従って、前に出ることによって、問題が解決されるということを理解させます。この際にも、馴致者は冷静に明確な指示を出すことが要求されます。ローラー装着後は、ローラーを装着したまま馬房に収容し、1時間程度様子を見てはずします。しかし、ローラーに対する反応は個体差がありますので、過敏に反応する馬に対しては、馴致終了後も、ローラーを装着したままウォーキングマシンで運動させたり、あるいは放牧するなど、ローラーの圧迫に慣らすことが有効です。

動画2.ローラー装着時の「カブリ」の様子。コロナガールの11(牝、父:デュランダル)。

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写真3.ローラーに過敏に反応する馬に対しては、ローラーを装着したまま放牧し、ローラーの圧迫に慣らすこともあります。コロナガールの11(牝、父:デュランダル)。

 馴致の進行程度は、個体差があるので、「急がば回れ」の諺のとおり、個々の馬に合わせて、段階的に進めていきたいと思っています。次回は、走路での走行している姿をお伝えするとともに、初雪についてもご報告できるかもしれません。