育成馬ブログ 宮崎④

○初期馴致の目的(宮崎)

 11月下旬までは日中に暑いと感じることもあった南国宮崎でも、最低気温が10℃

を下回り、最高気温も15℃を下回る日が徐々に増えてきており、本格的な冬を迎え

ようとしています。とはいえ、北海道の10月上旬ぐらいの気温であり、さらに例年と

比較すると気温が少し高いため、冬は南国で過ごすのが人馬ともに良いと実感して

おります。

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写真① 南国宮崎では12月に入っても秋に播種したイタリアンライグラスが繁茂しています。

育成馬の近況

 宮崎育成牧場所属のJRA育成馬の近況をお伝えいたします。9月上旬から騎乗

馴致を開始している1群(牡馬11頭)は、角馬場での速歩およびハッキング、500m

トラック馬場で約800mのハッキングを実施し、その後1600mトラック馬場に場所を

変えて一列縦隊で1200mと1600m、合計2800mのキャンターを実施しています。

スピードはハロン22~24秒程度とゆっくりとしたキャンターですが年内は落ち着いて

真っ直ぐ走行させることを主眼に置いて調教を進めていきたいと考えています。

 一方、10月上旬から騎乗馴致を開始している2群(牝馬11頭)は、11月中は

角馬場および500mトラック馬場において速歩中心の調教を実施してきましたが、

12月に入ってからは、1群の牡と同様に1600mトラック馬場でのキャンター調教を

実施できるまでになりました。まだまだ、何かに驚いて走行中にフラフラすることも

ありますが、牡と同様に落ち着いて真っ直ぐ走行させることを第一に調教を進めて

います。

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写真② 1600m馬場で隊列を整えたキャンターを実施する1群牡の育成馬。

先頭からエレガントトークの14(牡 父:マンハッタンカフェ)、

スイートピグレットの14(牡 父:クロフネ)、ラブシービルの14(牡 父:サマーバード)、

エーシンブランディの14(牡 父:ヴァーミリアン)。                                                                              

初期馴致の目的

 JRA育成馬に対する初期馴致は「育成牧場管理指針」に基づいて実施しています。

初期馴致のプロセスのなかで重点的に取り組んでいるのはドライビングです。

ドライビングというのは、騎乗せずに2本のロングレーンを使用して、馬車の御者の

ように馬を後ろから制御することです。欧州では競走馬の騎乗に先立って実施されて

います。初期馴致時に実施するドライビングには、後方からの御者の指示と内方の

リードレーンの操作を馬に対して受け入れさせる効用があります。つまり、騎乗前に

馬に「扶助」を受け入れさせるために実施しています。

 初期馴致の最終目標は人が馬に騎乗することであるため、可能な限り早く騎乗した

方が効率的であるという考え方が一般的であるかもしれません。しかし、何をすれば

良いかということを理解していない若馬に対して、約束事である「扶助」を一つ一つ

繰り返して確実に理解させることが最も重要であるため、ドライビングを重点的に実施

すべきであると考えています。

                                                                

ドライビング動画リンク

https://www.youtube.com/watch?v=POrJ6MKYjdQ&feature=youtu.be

                                                                          

 本年は9月中旬から10月下旬まで馬場の改修工事が行われたため、工事車両が

往来し、さらに工事が進行するなかでのドライビングの実施となりました。当初は、

馬が驚くために馴致中には工事を中断していただこうと考えていましたが、人と馬との

信頼関係を構築するとともに、工事が行われている環境に慣らしさえすれば、重機の

音や動きに対応することが可能となっていきました。

 馬の馴致調教とは、決して人が思い描いたひとつの「型」に馬をはめ込むことでは

なく、馴らすことによって馬が自ら進んで行動するように導くことであるということを

改めて理解することができました。馬の行動は人が導いた結果であるということを

肝に命じ、馬の目線に立って馬の個性を考えながら馴致調教を進めていきたいと

思います。最良のホースマンとは、ひとつの「型」に馬をはめ込んで問題を解決する

のではなく、多くの引き出しを持ったなかで状況に応じて対応できる者のことであり

さらに、どのような状況下でも、「忍耐強く」馬と接することができる者のことではないか

と思っています。

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写真③ 本年は馬場改修工事が行われたため、工事車両が往来するなかでの

ドライビングの実施となりました。

 

育成馬ブログ 宮崎③

○秋の育成馬見学会の開催(宮崎)

 10月に入り、宮崎でも秋の気配を感じるようになってきました。特に、朝夕の冷たい

は早くも冬の到来さえ予感させます。寒暖の差が激しくなる季節の変わり目でも

ありますので、人馬ともに体調管理を第一に考えて、育成調教を実施しています。

育成馬の近況

 2群に分けて騎乗馴致を進めている育成馬の近況をお伝えいたします。9月中旬

から騎乗馴致を開始している1群(牡馬11頭)は、最初の4週間はドライビング中心に

馴致メニューを組み、現在は角馬場での騎乗による速歩調教を重点的に実施し、

500m馬場においてハッキング程度のキャンター調教を行えるまでになっています。

11月からは1600m馬場でのキャンター調教を実施する予定です。

 一方、10月上旬から騎乗馴致を開始している2群(牝馬11頭)は、ドライビングを

中心に実施しながら、徐々に丸馬場での騎乗も行っている現状です。11月には

角馬場において集団での速歩調教を開始する予定です。

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写真① 500m馬場で隊列を整えた速歩を実施する1群の牡の育成馬。

腹帯馴致について

 JRA育成馬に対する騎乗馴致は、「育成牧場管理指針」に基づいて実施して

います。騎乗馴致において、馬にとっての大きな山場は「ローラー」と呼ばれる「腹帯」

を初めて装着するときだと思われます。なぜならば、「腹帯」による圧迫は自然状態下

では決して経験することのない刺激であり、さらに、「腹帯」は一旦装着すると

締め具合が固定されてしまうため、段階的に慣らしていくことが困難であるからです。

JRA育成牧場では「育成牧場管理指針」にも記載しているとおり、腹帯による圧迫を

段階的に慣らしていくために「ストラップ」による馴致方法を導入しています(図1)。

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図1.「ストラップ馴致」は腹帯馴致の有効な手段となります。

 

 この「ストラップ」は、革ベルトの一端にリングというシンプルな構造で、留め金などに

より締め付けた状態を固定しないため、解除が容易であり、使用方法も簡便です。

さらに、馬に対して、段階的に圧迫に慣らすことが可能であるために、非常に有効な

方法です。しかし、「ストラップ」による腹帯馴致方法を実施しても、敏感な反応の

良い馬は、ローラー装着時に「カブリ(Bucking)」(動画)と呼ばれる「四肢で跳ね

上がる反応」をみせます。

動画 ローラー装着時の「カブリ」の様子。プルームリジェールの14(牝 父:スマートファルコン)

⇒ https://www.youtube.com/watch?v=rYnN5dW81SU

 この「カブリ」という反応は、大きな呼吸を行うことによって胸郭が膨らみ、経験した

ことのないローラーによる強い圧迫を感じて驚き、それを振り解こうとする自然な反応

です。馬が「カブリ」を見せた場合には、必ず、ムチなどの扶助を使って馬を前に出し

馴致者の安全を確保するとともに、馬に対して扶助に従って前に出ることによって、

問題が解決されるということを理解させます。この際にも、馴致者は冷静に明確な

指示を出すことが要求されます。ローラーに対して激しい「カブリ」をみせた馬に対して

は、馴致終了後も、ローラーを装着したままウォーキングマシンでの運動、あるいは

放牧を行ってローラーの圧迫に慣らすことが効果的です。

 馴致の進度は、個体差があるので、「急がば回れ」の格言のとおり、個々の馬に

合わせて、段階的に進めていきたいと思っています。

育成馬見学会

 さて、前回の育成馬日誌でも案内させていただきました「秋の育成馬見学会」を

10月17日(土)に開催しました。このイベントは、毎年、10月中旬のこの時期と

ブリーズアップセールの約1ヶ月前の3月中旬の年2回実施しております。地元宮崎に

お住まいのお客様に宮崎の地で成長していく育成馬の姿を間近で見て、少しでも

身近に感じていただくこと、さらに3月の見学会では「サポーターズクラブ」と題して、

お気に入りの馬を牡牝それぞれ1頭ずつ選んでいただき、その馬が競走馬として

活躍した際にはゴール前写真をプレゼントするなど、JRA育成馬への応援を通じて

より競馬に親しんでいただくことを趣旨に実施しています。

 また、実馬展示に先立ち、「サラブレッドの血統」をテーマにした簡単な講義を行い

ました。このような座学をとおして、少しでも競馬の面白さを感じていただけたらと

思っています。

 今回の育成馬見学会には、104名ものお客様にご来場いただきました。我々

スタッフにとっては、このような大勢の方々の前で育成馬を展示する機会は少ない

ため、良い馴致の機会と捉えています。展示では、普段と異なる雰囲気を察知して

落ち着かない馬も散見されましたが、多くの馬は大人しく駐立することができました。

この調子で3月に行われる「春の育成馬見学会」まで、根気よく馬の調教および管理

に取り組んでいきたいと思います。

 育成馬見学会に参加していただきました方々には、この紙面をお借りして、改めて

お礼申し上げます。

 

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写真② 育成馬見学会は晴天にも恵まれ、100名を超えるお客様に

      ご来場いただきました。

育成馬ブログ 宮崎②

○  馬に親しむ日の開催(宮崎)

 

 

JRA宮崎育成牧場における馬事普及業務の最大のイベントともいえる

「馬に親しむ日」を8月30日に開催いたしました。

 前日から激しい雨が降り続き、当日の天気予報も雨となっておりましたが、

開場となった9時には雨も止み、開会式がスタートしました。

「馬に親しむ日」の名のとおり、乗馬試乗会、流鏑馬(やぶさめ)、ホースショー、

ポニーショー、馬に関するクイズ大会、さらには草競馬やポニー競馬など

盛りだくさんのイベントが行われました。

 

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写真① ミニチュアポニーのモック(左)とプリン(右)のショー

 

 多くのイベントの中でもポニー競馬は、予選2組を勝ち上がった人馬6頭が

決勝戦に進出し、10月11日(日)に開催される「第7回ジョッキーベイビーズ」の

九州地区代表の1枚の切符をかけた熱いレースが繰り広げられました。

結果は鹿児島県から参加の「サツマヨカニセ号」に騎乗した福元君(小学6年生)が

ゴール前で見事に差し切り、九州地区代表の座に輝きました。

ポニー競馬に参加した子供達の騎乗技術のレベルは上がってきており、

人馬の実力が拮抗してきたため、来年はさらに熱い戦いが予想されるため、

早くも来年が待ち遠しいです。

 

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写真② ポニー競馬には12頭がエントリーし、上位6頭で決勝が行われました。

優勝は5番サツマヨカニセ号(左)に騎乗した福元君(小6)で、10月11日に東京

競馬場で行われます「第7回ジョッキーベイビーズ」の九州地区の代表となりました。

 

 

今年はスペシャルゲストとして名古屋競馬で活躍する木之前騎手をお招きし、

トークショー、ポニー競馬のパドック解説のみならず、ポニー競馬の優勝騎手への

プレゼンターまでお願いしました。実は木之前騎手は地元宮崎県三股町の

出身であり、小学6年生から当宮崎育成牧場の乗馬スポーツ少年団で乗馬を

はじめ、騎手を目指すようになったという背景をお持ちであり、まさに凱旋といった

感じがしました。木之前騎手のポニー競馬の騎手たちへの温かいまなざしは

とても印象的でした。

 

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写真③ スペシャルゲストの木之前騎手(右)から「第7回ジョッキーベイビーズ」の

招待状を受け取る優勝騎手の福元君(真中)とサツマヨカニセ号(左)。

 

 

 時折小雨に見舞われましたが、大きな天気の崩れはなかったのも幸いし、

お蔭様で4,200名ものお客様が来場され、お楽しみいただきました。

普段、馬とはあまり身近でないお客様が、このようなイベントを通じて馬と触れあう

ことによって、馬のみならず競馬への興味を深めていただけるのではないかと

思っております。この場をお借りいたしまして、ご来場いただきましたお客様、

ならびにご協力いただきました関係者の皆様に感謝申し上げます。

 馬に親しむ日が終わると、いよいよ育成業務が本格化します。北海道から

44時間の輸送を経て、9月3日には宮崎育成牧場所属の育成馬15頭が

宮崎に到着しました。これにより、本年度の宮崎育成牧場繋養馬22頭(牡11頭、

牝11頭)が全て入厩したことになります。今後は牡から順次、騎乗馴致を開始していく

予定です。なお、本年は日高育成牧場で生産したJRAホームブレッド2頭についても、

宮崎育成牧場で後期育成を行います。

 

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写真④ 「北の国」北海道から44時間かけて「南国」宮崎に到着した育成馬は

輸送の疲れも見せず、放牧地を元気に駆け回っていました。

 

 なお、昨年も開催いたしました「一般市民向け育成馬見学会」を本年は

10月17日(土)に開催する予定です。詳しくは場内の掲示板、もしくは

宮崎育成牧場ホームページのイベント情報(http://jra.jp/miyazaki/05.html

をご覧ください。職員一同、皆様のご来場を心よりお待ちしております。

育成馬ブログ 宮崎①

 ○  JRA育成馬の入厩(宮崎)

1歳セリでの購買

本年度の1歳セリは7月7日(火)に開催されました八戸市場からスタートしました。八戸市場では54頭が上場され、31頭が売却されました(売却率は57.4%)。JRAは八戸市場において、4頭(牡1頭、牝3頭)を購買しました(写真1)。

1写真1.八戸市場において購買した本年度のJRA育成馬第1号となったタイキノワールの14(牝 父:ストーミングホーム) 【馬市ドットコム様提供】

続いて開催されたのは、今や日本一のセリにとどまらず、世界でも有数のセリとなった「JRHAセレクトセール」でした。北海道の苫小牧市の「ノーザンホースパーク」において、7月13日(月)に行われ、238頭が上場され、210頭が売却されました(売却率は88.2%)。JRAはセレクトセール(1歳セール)において、牝2頭を購買しました。

セレクトセールの1週間後の7月21日(火)には、北海道静内町で「HBAセレクションセール」が開催されました。本年のセレクションセールには、231頭が上場され、166頭が売却されました(売却率は71.9%)。JRAは10頭(牡:6頭、牝:4頭)を購買しました。

7月セリの締めは7月28日(火)に鹿児島で開催された九州市場でした。21頭が上場され、9頭が売却されました(売却率は42.9%)。JRAは牝1頭を購買しました。

いずれのセリも多くのお客様が参加されており、さらに、昨年と比較すると売却率も上昇しており、非常に盛況な印象を受けました。これらのセリでの盛り上がりとともに、競馬全体が盛り上がっていくことを期待せずにはいられません。

 

JRA育成馬の入厩(宮崎)

さて、7月25日には宮崎育成牧場に八戸市場およびセレクションセールで購買した6頭のJRA育成馬が入厩いたしました。育成馬6頭は北海道静内を7月23日の15時に出発し、函館から青森間のフェリー経由で本州に渡り、42時間かけて宮崎に到着しました(写真2)。到着後に発熱を認める馬もいましたが、大事には至らず、放牧することができました。

Photo写真2.北海道から宮崎への長距離輸送の途中で、少し疲れた表情を見せるセイカシリアスの14(牝 父:パイロ)

セリ上場のために舎飼中心の個体管理が行われていた馬達は、自身が“馬”であることを再確認するかのように放牧地内を疾走します(写真3)。その後、特に牡は新しい群れの中で“我こそは”と強さをアピールし、群れの中での順位が決まるまでは、しばしば争いが繰り返されます(写真4)。そのため、放牧時のケガなどのアクシデントの発生にはハラハラさせられます。

Photo_4写真3.到着後の初めての放牧時に疾走する育成馬

このようなアクシデントを承知の上で、入厩数日後には夜間放牧を開始します。その理由は、“騎乗馴致”が始まるまでの間に成長を待つとともに“草食動物”として “馬”らしく行動させることが重要であると考えているからです。競走馬を取り扱う上で忘れてはならないことは、馬は“草食動物”であるということを理解することだと考えています。

Photo_5写真4.“我こそは”と自らの強さをアピールするフラワーパフュームの14(牡 父:シンボリクリスエス)

欧州では調教後に、ハミを装着したまま、放牧地の草を食べさせることも珍しくはありません。青草だけを食べさせる目的であれば、刈り取った青草を馬房で食べさせれば良いようにも思われます。しかし、地面に生えている草を摘んで食する行動そのものによって、“草食動物”としての本能が惹起され、メンタル面を安定させる効果が期待されます。

このように、欧州では、馬は“草食動物”であるということを常に念頭に置いて、馬と接しているように感じられます。私達もこの意識を忘れることなく、来年4月のブリーズアップセールまで馴致および調教を行っていきたいと考えております。

育成馬ブログ 宮崎⑧

調教後の乳酸値の測定(宮崎)

 宮崎では3月22日に桜の開花が発表され、それ以降は宮崎らしい快晴の日々が続き、少し体を動かすと汗をかいてしまうほどの暖かい日が多くなってきており、まさに春爛漫といったところです。

 そろそろ桜の見ごろも過ぎ去る頃ではありますが、ブリーズアップセール上場のために、まもなく宮崎を離れる育成馬とともに宮崎のベストシーズンともいわれている「短い春」を過ごしています。

                       

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写真① 桜の木をバックに500m馬場でのウォーミングアップを実施する育成馬。

 

 

育成馬を知ろう会

 ここからは、3月30日~31日の2日間に渡って開催いたしました「育成馬を知ろう会」についてご紹介いたします。この企画は比較的馬主歴の浅いJRAの馬主の皆様に対して、「馬の見方」、「セリにおけるレポジトリーの見方」などの講義、あるいは「調教師と交流」を趣旨に、JRA馬事部生産育成対策室および当場が主催する形で実施いたしました。

 初日は「馬の見方」の講義の後に、実際に乗馬を教材にして馬のコンフォメーションに関する理解を深めていただきました。続いて、その知識を基にブリーズアップセール上場予定馬をご覧いただきました。また、初日の日程終了後には、参加していただきました調教師との意見交換会が開催されました。

 

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写真② 「育成馬を知ろう会」の初日は、実際に乗馬を教材にして「コンフォメーション」の理解を深めていただきました。

 

 

 2日目は、小雨の降る中、ブリーズアップセールに向けての最終段階の育成馬のスピード調教をご覧いただきました。また、調教の合間には、「セリにおけるレポジトリーの見方」の講義の後に、実際に乗馬の内視鏡検査をご覧いただき、競走馬の「喉(ノド)」の疾病に関する理解を深めていただきました。

 ご多忙中にもかかわらず、今回参加していただきました皆様方には、この場をお借りしてお礼申し上げます。


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写真③ 2日目はBUセール上場予定馬の調教を間近でご覧いただきました。

 

 

調教後の乳酸値の測定

 ここからは、宮崎育成牧場で実施している「調教後の乳酸値の測定」について触れてみたいと思います。

 「乳酸」からは「疲労」という言葉が連想される方が多いのではないでしょうか?運動強度を上げていくと、LT(乳酸性作業閾値)と呼ばれる地点を超える負荷から急速に血中乳酸濃度が高くなります。これは速筋線維が糖を分解することによって乳酸を生成するためであり、またアドレナリンのような糖利用を高めるホルモンが放出されるためであるといわれています。

 トレーニングが進むと同じ運動強度でも、乳酸濃度が上がらなくなります。この理由は、有酸素運動能が上がり、同じ運動強度でも糖を利用する無酸素性エネルギーを利用しないで走行できるようになるためです。さらに、乳酸値の測定は、コンディション判定のツールとしても利用されています。同じ負荷をかけているにもかかわらず、乳酸値が高い場合には、コンディションが良くない状態であることが推測されます。

 育成馬のスピード調教後の乳酸値を測定していると、乳酸値と馬の走行や息遣い等の状態とが一致しない場合が少なからずあります。つまり、単純に「乳酸値が高い」=「過負荷」と結びつけることができないように感じられます。

 スポーツ選手においては、乳酸を多く出せるということは、それだけ筋肉が糖を利用して、エネルギーを作り出す能力が高い、つまり絶対的なスピードに優れているとも考えられています。この考え方は育成馬にも当てはまるような気がします。そしてトレーニングとは、蓄積した乳酸を再びエネルギーとして利用できる「乳酸処理能」を高める、あるいは乳酸が溜まった状態でもさらに運動を継続できる「耐乳酸能」を高めることであるように思われます。前者は長距離馬に、後者は短距離馬に必要な要素ではないかと想像しています。

 そのためにも、育成期の馬においては、まず乳酸を産生できる状態を作ることがトレーニングの第一歩なのではないかと考えています。昔から「ハロン15‐15」と呼ばれる調教がひとつの目安とされてきたのは、「ハロン15‐15」の負荷が乳酸を産生できるステージであることを先人の方々は経験的に理解していたからであると想像されます。

宮崎育成牧場「育成馬展示会」のお知らせ

 宮崎育成牧場では、ブリーズアップセールに先立ちまして、本年も4月6日(月)に「育成馬展示会」を開催いたします。なお、本年も朝10時開始となりますこと併せてお知らせいたします。以下に簡単な当日のスケジュールをお示しいたします。

10:10 ~ 比較展示

11:10 ~ 騎乗供覧

 皆様方のご来場を心よりお待ちしております。

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写真④ 昨年の展示会の調教供覧の様子。左:デイドリーム号(2014年2回小倉 芝1200m 2歳新馬優勝 父:アドマイヤムーン 母:シルクヴィーナス)、右:ノーブルルージュ号(2014年3回阪神 芝1400m 2歳新馬優勝 父:ショウナンカンプ 母:スプラッシュビート)

育成馬ブログ 宮崎⑦

○GPS腕時計による調教タイム計測(宮崎)

前回のブログで、宮崎がプロ野球のキャンプ地として選ばれる理由は、「晴天率が高い」ということを綴りましたが、2月末から3月初旬にかけては、一転して天候の優れない日が多々ありました。しかし、ようやく朝夕の寒さも和らぎはじめ、場内にある桜のつぼみもの膨らみも徐々に目立つようになってきており、春を感じることができるようになりました。

季節の変化に敏感な育成馬達は、毛艶に輝きが増し、調教中の動きも俊敏さが目立つようになってきており、我々以上に春の訪れを喜んでいるかのように映ります。

                       

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写真① 3月初旬は天気に恵まれない日が続きましたが、雨の日でもでも寒さを感じることなく、グラスピッキングが行える季節となってきました。

 

 

育成馬の近況

さて、宮崎育成牧場のJRA育成馬22頭は、4月28日(火)にJRA中山競馬場で開催されるブリーズアップセールに向けて調教メニューをこなしています。

500mトラック馬場では、速歩2周の後、直線はキャンター、コーナーは速歩という調教を左右両手前で2周ずつ実施しています。500mトラック馬場での調教は、ウォーミングアップとしての目的があることはもちろん、スピード調教を繰り返していくと、ハミにかかる傾向が強くなるのを改善する目的もあるため、ハミを必要以上に取らずに、馬自身のバランスで走行させることを主眼に置いて実施しています。

一方、調教のベースとなる1600m馬場では、4~5頭単位の1列縦隊でハロン22~20秒のイーブンペースでの2400~3000mのステディキャンターを基本調教としています。週1~2回のスピード調教では、1200mを2本走行させるインターバルトレーニングを実施し、2本目に3ハロンを45~48秒(ハロン15~16秒)程度で走行しています。

スピード調教時には調教後に血中乳酸値濃度を測定し、科学的な側面から適切な負荷を模索しています。科学的指標に頼ることによって客観性は高まる一方で、データへの興味が高まることによって機械的に調教メニュー立ててしまう状況に陥りやすく、馬の状態を省みない状況を生み出す過ちを犯しがちになります。そのため、常に走行時や走行後の息遣いのみならず、特に牝馬ではメンタル面を確認しながら、各馬に応じた負荷をかけるよう自問自答しています。

順調に調教を実施できている馬では、血中乳酸値濃度の個体差も少なくなってきており、ある程度のスピード調教を実施できる基礎体力は養成できた段階に入ったものと感じています。


動画 2月下旬の調教動画。

   

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写真② 週1~2回実施している牝馬の強調教時の様子。メンタル面を考慮して、縦列中心で実施しています。

 

 

GPS腕時計による調教タイム計測

ここからは、宮崎育成牧場で実施している「GPS腕時計」による調教タイム計測について触れてみたいと思います。

「GPS」という言葉からは、カーナビやスマートフォンが連想されますが、昨今では腕時計にも「GPS」が搭載され、マラソンランナーのマストアイテムとなっています。「GPS腕時計」にはストップウォッチ機能を用いたタイム計測はもちろん、走行距離、走行スピードや走行ペースなどを計測することもできます。さらに、トラック周回や一定距離毎の区間タイムを自動的に測定する「オートラップ機能」を搭載しているため、一度ボタンを押しさえすれば、ランニング中にボタンを操作することなく、ラップタイムを計測することが可能となります。

この「GPS腕時計」の「オートラップ機能」を利用し、200m毎の区間タイムを自動計測するように設定することによって、200m毎、つまり1ハロン毎のラップタイムの自動計測が可能となります。騎乗中にタイムを確認することは困難ですが、調教後には腕時計のボタン操作のみでラップタイムを確認できます。さらに、パソコンやスマートフォンにデータを取り込むことによって、毎日のデータが保存でき、リアルタイムでデータの共有が可能となります。

「GPS腕時計」は2万円程度で購入できるため、比較的安価で容易に調教タイム計測が可能となります。ただし、「GPS腕時計」のなかには、200m単位での「オートラップ機能」の設定ができない機種もありますので、ご注意ください。

 

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写真③ 「GPS腕時計」に取り込まれたデータはパソコン等で保存でき、データが共有できます(左)。また、パソコン上では1ハロン毎のラップタイムのみならず、走行ルートやラップ計測区間等の詳細な情報も表示されます(右)。

育成馬ブログ 宮崎⑥

○育成馬調教見学会の開催(宮崎)

宮崎での初春の風物詩となっているプロ野球球団のキャンプが、本年も2月からスタートしています。本年は、恒例となっているソフトバンク、巨人(宮崎市)、広島、西武(日南市)に加え、新たにオリックスが宮崎市清武町にキャンプインしており、活気づいています。宮崎がキャンプ地として選ばれる理由は、「気候の温暖さ」という点では沖縄には及びませんが、この時期の宮崎は「晴天率が高い」という点であるといわれています。

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写真① 宮崎サンマリンスタジアムでの巨人軍キャンプを視察に来た松井秀喜氏。

この理由のとおり、2月に入ってからは晴天の日が多いのを実感しながら、4月のブリーズアップセールに向けて育成馬の調教を実施している今日この頃です。

 

育成馬の近況

さて、宮崎育成牧場のJRA育成馬22頭の近況をお伝えいたします。宮崎育成牧場は、屋内坂路など多種多様なBTC調教施設を利用できる日高とは異なり、500mおよび1600mトラックダート馬場のみを使用しての調教となります。同じ環境で調教をできるということは、馬のメンタル面を安定させるためには大きなメリットとなる一方で、調教内容が単調になりやすいというデメリットも見え隠れします。

 

動画 2月初旬の1群牡の調教動画。

 

500mトラック馬場では、ウォーミングアップとして、同じ環境で同じ調教を実施することによるメリットであるメンタル面の安定を主眼に置いて、速歩2周の後、直線でのキャンター、コーナーでの速歩という調教を左右2周ずつ実施しています。これにより、競走馬の礎となる①前に(Go forward)、②真っ直ぐ(Go straight)、③落ち着いて(Go calmly)走行させることが達成されます。

一方、1600m馬場では、3月からのスピード調教に向けて、現在は基礎体力養成を主眼に調教を実施しています。4~5頭単位の1列縦隊でハロン22~20秒のイーブンペースでの2400mのステディキャンターを基本調教としています。週1回は群れを意識して馬群の中で落ち着くことと、および1600m馬場の利点を生かした長距離を一定ペースで走行することによって持久力を向上させることを目的として3000mのステディキャンターを実施しています。

また、週1回実施している強調教時には、1000mを2本走行させるインターバルトレーニングのスタイルを行うことによって、馬自らが“オン”の日であることを理解するように工夫しています。1本目は4~5頭単位の1列縦隊でハロン22~20秒でのステディキャンターを実施し、2本目は4頭単位の2列縦隊で3ハロンを54~51秒、つまりハロン18~17秒ペースでの強調教を実施しています。

 

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写真② 週1回実施している強調教時の様子。左:クリスタルストーンの13(牡父ゴールドアリュール)、右:スマートウェーブの13(牡 父メイショウボーラー)

このように1600m馬場では、調教内容が単調になりやすいデメリットを解消するために、1週間の調教の流れをパターン化して、馬が“オン”と“オフ”の切り替えを自らできるように工夫する試みを行っています。

 

育成馬調教見学会

ここからは、2月7日に開催いたしました「育成馬調教見学会」についてご紹介いたします。この見学会は、地元の一般来場者の方々が、育成馬の疾走する姿を間近で見ることができるイベントです。毎年10月と3月に開催している立ち馬展示をご覧いただく、「育成馬見学会」とともに、宮崎の地で成長していく育成馬の姿を間近で見て、少しでも身近に感じていただくことを趣旨に実施しています。

当日は晴天にも恵まれ、40名を越えるお客様にご来場いただきました。来場いただいたお客様には、少し高台からブリーズアップセール上場予定馬が疾走する蹄音や馬の息遣いを間近で感じていただきました。

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写真③ 育成馬調教見学会は晴天にも恵まれ、40名を超えるお客様にお集まりいただきました。

参加していただきました方々には、この紙面をお借りして、改めてお礼申し上げます。なお、3月21日(祝・土)には「育成馬見学会」を開催する予定です。「サポータズクラブ」にご登録いただいている皆様には、3月上旬にご案内をお送りいたします。皆様のご来場をお待ちしております。

育成馬ブログ 宮崎⑤

○暖地育成のメリットとは(宮崎)

新年あけましておめでとうございます。今年もJRA育成馬日誌をよろしくお願い申し上げます。

さて、日本列島は真冬と呼べる時期に突入しておりますが、ここ南国宮崎ではどんなに寒い日でも日中は気温が10℃を超え、人も馬も快適に過ごしております。多数のプロ野球チームが、ここ宮崎をキャンプの候補地として選ぶ理由がわかる気がします。競走馬の世界においても、例えば米国では冬は温暖なフロリダやカリフォルニアに馬を移動させ育成する方法が採用されています。今回は、冬に温暖な気候の下で育成するメリットについて考えてみたいと思います。

 

育成馬の近況

宮崎育成牧場のJRA育成馬たちの近況ですが、まずウォーミングアップとして500mトラック馬場で直線キャンター、コーナー速歩という調教を左右2~3周ずつ実施しています。これは騎乗者の扶助に従う馬を作ること、落ち着いて運動する馬を作ることを目的に行っています。続いて1600mトラック馬場に場所を変えて、一列縦隊および二列縦隊で2000mから2400mのキャンターを実施しています。ハロン24~22秒程度とゆっくりとしたキャンターですが、今後のスピード調教に耐えられる基礎体力を付けるとともに、将来実際の競馬で馬群の中でしっかりと折り合って走れることをイメージして調教しています。年末年始は放牧およびウォーキングマシンによる運動で管理しましたが、真冬でも青草が生い茂る放牧地で充分にリフレッシュさせることができました(写真①)。

 

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写真① 真冬でも青草の生い茂る放牧地でのびのび育つ馬たち。左からウェーブピアサーの13(牝 父:ヨハネスブルグ)、シルバーパラダイスの13(牝 父:ファルブラヴ)、スズカララバイの13(牝 父:サウスヴィグラス)。

 

暖地育成のメリット(過去の研究データからわかったこと)

さて、今回は、冬に温暖な気候の下で育成するメリットについて考えてみたいと思います。日高および宮崎育成牧場では、長年にわたりJRA育成馬の様々なデータを測定してきました。中でも月に1回“測尺”と呼ばれる体高、胸囲、管囲、体重の測定を行っています(写真②)。東京農工大学との共同研究により、この“測尺値”さらに血液中の各種ホルモンを日高育成牧場で育成したウマと比較したところ、非常に興味深い結果が得られました。

 

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写真② 月に1回、体高・胸囲・管囲・体重の測定を実施しています。

 

大きく育つ

1歳9月の入厩直後から、ブリーズアップセール直前の2歳3月までの体高・胸囲・管囲・体重の増加率を比較したところ、日高育成牧場と比較して宮崎育成牧場で育成したウマの方が全ての項目において増加率が統計学的に有意に高いことがわかりました(写真③)。言い換えると、1歳の時点でほぼ同じ程度の大きさのウマが2頭いたとして、1頭を日高でもう1頭を宮崎で育成したと仮定すると、宮崎で育成したウマの方が大きく育つ可能性が高いということです。なぜこのような差がつくのか複数の理由が考えられますが、一つにはまず宮崎の方が気候的に温暖であることが挙げられます。寒冷な環境下では、ウマをはじめ動物は体温を維持するためにより多くのエネルギーを燃やして代謝を上げなくてはなりませんが、温暖な気候の下ではそのエネルギーを馬体の成長に回すことができます。そのほか、後ほど述べる血液中のホルモンの濃度にも差が見られ、その影響もあることが考えられました。

 

Photo_3写真③ 1歳9月から2歳3月までの体高・胸囲・管囲・体重の増加率(ライトコントロール導入前)。日高育成牧場と比較して宮崎育成牧場で育成した方が全ての項目において増加率が有意に高いことがわかりました(提供:東京農工大学)。

 

故障が少ない!?

さらに、血液中の各種ホルモンの濃度を比較したところ、女性ホルモンの一種である“エストロゲン”が宮崎で育成されたウマに多く分泌されていることがわかりました。このエストロゲンというホルモンは、卵巣での排卵の制御などといった本来の作用のほかに、「骨を丈夫にする」という重要な作用があります。ヒトの女性では閉経後にこのエストロゲンの分泌量が大きく低下し、骨粗しょう症の原因になることが知られています。このホルモンが高かったということで、理論的には「宮崎のウマの方が骨が丈夫で故障しにくい」と言えます。実際のところは馬場の違いなどもあり、故障率自体には統計学的な差が見られていませんが、非常に興味深い結果です。プロ野球選手が冬季キャンプに温暖な宮崎を選ぶのも、もしかしたら経験的に暖かい気候の下で練習した方が故障するリスクが低いことを肌で感じているのかもしれませんね。

 

寒冷地で育成する場合には(ライトコントロールのススメ)

では、現在宮崎ではなく北海道でウマを育成している場合、どうすれば温暖な地方で調教するメリットに近づけるのでしょうか?JRAではその後の調査で、1歳の冬からライトコントロールを実施することで、成長率およびホルモン分泌に差がなくなることを確かめています。具体的には、12月の冬至の前後から昼14.5時間、夜9.5時間になるようにタイマーを使って馬房内をライトで照らします(写真④)。本当は暖かい地方で育成する方が自然で良いことなのでしょうが、こうすることで寒冷下で育成するデメリットを小さくすることができます。ライトコントロールをする場合には早く冬毛が抜けることもわかっていますので、馬服を着用させるなどしてしっかりと保温することを忘れずに!

 

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写真④ 日高など寒冷地で育成する場合、ライトコントロールが有効です(昼を14.5時間、夜を9.5時間にする)。

育成馬ブログ 宮崎④

○育成馬検査(宮崎)

11月下旬までは、日中に暑いと感じることもあった南国宮崎も、最低気温が5℃前後になる朝もあり、日中の最高気温も15℃を下回る日が徐々に増えてきており、いよいよ本格的な冬を迎えています。昼夜の寒暖差が大きくなるこの時期は、育成馬の体調が崩れることも多いため、管理には細心の注意を払いたいと思っています。

 

育成馬の近況

宮崎育成牧場所属のJRA育成馬の近況をお伝えいたします。9月上旬から騎乗馴致を開始している1群(牡馬10頭)は、500mトラック馬場で約800mのハッキングを実施し、その後1600mトラック馬場に場所を変えて、一列縦隊および二列縦隊でのキャンターをそれぞれ1200mずつ、合計2400mのキャンターを実施しています。スピードはハロン25秒程度とゆっくりとしたキャンターですが、年内は競走馬の礎となる①前に(Go forward)、②真っ直ぐ(Go straight)、③落ち着いて(Go calmly)走行させることを主眼に置いて調教を進めていきたいと考えています。巨大なピラミッドほど大きな土台が不可欠であるといわれているように、調教をピラミッドに例えるなら、今はまさに強固な土台を構築しなければならない時期であると捉えています。

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写真① 1600mトラック馬場で隊列を整えたキャンターを実施する1群牡の育成馬。先頭からエキゾチックエレガンスの13(牡 父:アドマイヤムーン)、スタートラッカーの13(牡 父:ファスリエフ)、アイアンドユーの13(牡 父:ジャングルポケット)。

 

一方、10月上旬から騎乗馴致を開始している2群(牝馬12頭)は、11月中は角馬場および500mトラック馬場において速歩中心の調教を実施してきましたが、12月に入ってからは、1群の牡と同様に1600mトラック馬場でのキャンター調教を実施できるまでになりました。まだまだ、何かに驚いて走行中にフラフラすることもありますが、牡と同様に年内は強固な土台作りに主眼を置いて調教を進めていきたいと考えています。

 

速歩調教

前述のとおり、宮崎育成牧場では、競走馬の礎となる①前に(Go forward)、②真っ直ぐ(Go straight)、③落ち着いて(Go calmly)走行させることを目標に掲げて調教を実施しています。また、これを実現するために、初期調教時には「速歩調教」に重点を置いています。この理由は以下のとおりです。

5000万年の時を経て、肉食動物から逃げるために進化し、現在の体型にたどりついた馬、その中でも速く走るために改良されたサラブレッドは、おそらく走ることに関して、ある程度完成したフォームを身につけていると考えられます。そのため、馬の動きを邪魔しないように騎乗すること、つまり、騎乗者の重心と馬の重心とを一致させ、馬の動きを邪魔しないと同時に、馬に人が騎乗することを許容させることが、馬の持っている能力を可能な限り発揮させる上で重要なことであると考えています。

速歩は対角に位置する前後肢が、ほとんど同時に動くことから、3種の歩様の中でも重心の移動および頭頚の動きが最も少ないという特徴があります。つまり、騎乗者は馬の重心位置に近い「鐙」の一点で体重を支えることによって、騎乗者の重心と馬の重心とを一致させやすくなるとともに、馬の背を解放することによって、馬の負担の軽減と馬自身によるバランスでの走行が容易となります。そのため、初期調教時のみならず、毎日の調教においても、「速歩調教」を重要視しています。

さらに、馬自身によるバランスでの走行を馬が自ら習得できるように、角馬場での8の字乗りや、キャンターと速歩との移行の繰り返しを実施していきます。この繰り返しにより、キャンター時にも真っ直ぐ落ち着いた走行が比較的容易に可能となります。

このように、騎乗者を乗せた状態で最大限の能力を発揮させることのみならず、人馬ともに安全に調教を実施するためにも、「速歩調教」は重要なプロセスと考えています。

 

https://www.youtube.com/watch?v=xnYaMI1K_a0&list=UUuJUbfPa_aC8HuimSIEq24g

動画 角馬場および500mトラック馬場を利用した「速歩調教」の様子。馬自身によるバランスでの走行を馬自らが習得できるように、速歩のみならず、速歩とキャンターとの移行を繰り返し実施しています。

 

育成馬検査

11月下旬には、育成馬検査が実施されました。育成馬検査とは、JRA生産育成対策室の職員が日高および宮崎育成牧場で繋養している育成馬を第三者の視点から、市場での購買時からの馬体の成長具合、現在の調教進度、馬の取り扱いなどをチェックし、ブリーズアップセール上場に向けての中間確認を行う検査です。

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写真② 11月下旬に行われた育成馬検査における展示および馬体検査の様子。

 

「馬を見ていただく」という緊張感のなか、育成馬の調教供覧、展示および馬体検査は無事に終了しました。今回の検査を終え、日常的に接する中では見落としていた指摘を受け、個々の馬の発育および調教進度状況を再認識することができました。

 

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写真③ 育成馬検査における“ベストターンドアウト賞”の審査で最優秀馬に選ばれたエキゾチックエレガンスの13(写真左牡 父:アドマイヤムーン)とウェーブピアサーの13(写真右 牝 父:ヨハネスブルグ)。

育成馬ブログ 宮崎③

○育成馬見学会の開催(宮崎)

10月に入り、宮崎では2週連続して週末に台風が襲来しました。特に台風19号は県内各所で厳戒態勢がとられましたが、幸い大きな被害には至らなかったようです。この台風の影響により、育成馬の調教や放牧管理が予定どおりに進まないこともありましたが、「急がば回れ」の格言のとおり、当初の計画に追い付こうとせずに、馬のメンタル面を第一に考えて、調教および管理を実施しています。

 

育成馬の近況

2群に分けて騎乗馴致を進めている育成馬の近況をお伝えいたします。9月中旬から騎乗馴致を開始している1群(牡馬10頭)は、ドライビングおよび騎乗による速歩調教を重点的に実施し、現在は1600m馬場でのハッキング程度のキャンター調教を実施するまでに進んでいます。

一方、10月上旬から騎乗馴致を開始している2群(牝馬12頭)は、ドライビングを中心に実施しながら、徐々に丸馬場での騎乗も行っています。11月初旬には500m内馬場において集団での速歩調教を開始する予定です。

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写真① 500内馬場で隊列を整えた速歩を実施する1群の牡の育成馬。

 

ドライビング

JRA育成馬に対する騎乗馴致は、「育成牧場管理指針」に基づいて実施しています。騎乗馴致の中でも、重点的に取り組んでいるのはドライビングです。ドライビングというのは、騎乗せずに2本のロングレーンを使用して、馬車の御者のように馬を後ろから制御することです。騎乗馴致時に行うドライビングには主に以下の効用があると考えられています。

①   騎乗することなく基本的なハミ受け、例えば開き手綱による「内方姿勢」のバランスを馬に習得させることができる。

②   後方からの御者の指示と内方のリードレーンの操作を馬に対して受け入れさせ、騎乗せずに騎乗者の重心と一致しやすい重心移動を習得させることができる。

③   脇腹に調馬索が触れることに慣れさせることにより、騎乗者の脚による後方からの指示に慣れさせることができる。

④   馬は後方からの扶助に従って自ら前に進まなければならないため、常に馬の気持ちを前向きにすることができる。

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写真② 馬車の御者のように騎乗せずに馬を後方から制御するドライビングの様子。

 

最終目標は騎乗することであるため、ドライビングを省略し、可能な限り早く騎乗した方が効率が良いという考え方もあるかもしれません。しかし、騎乗馴致とは積木を下から一段ずつ積み重ねていく作業と同様に、一つ一つ繰り返して確実に馬に理解させる「忍耐」の作業です。このように、騎乗馴致では、騎乗できるようになることを最終目的としてはならず、騎乗者を乗せた時に馬がバランスを取りやすい体勢を習得させること、つまり、騎乗者を乗せた状態で最大限の能力を発揮させることを最終目的とします。また、人馬ともに安全に騎乗へと移行させるためにも、ドライビングは非常に重要なプロセスと考えられます。

 

動画 騎乗者を乗せた時に馬がバランスを取りやすい体勢を習得させるために、立ち木を利用したスラロームや放牧地での速歩での手前変換をドライビングで繰り返し実施しています。

⇒ http://youtu.be/LRrayz-c8ho

 

育成馬見学会

さて、前回の育成馬日誌でも案内させていただきました「育成馬見学会」を10月18日(土)に開催しました。このイベントは、毎年、10月中旬のこの時期とスピード調教を始める3月中旬の年2回実施しており、地元宮崎にお住まいのお客様に宮崎の地で成長していく育成馬の姿を間近で見て、少しでも身近に感じていただくこと、さらに3月の見学会では「サポーターズクラブ」と題して、お気に入りの馬を牡牝それぞれ1頭ずつ選んでいただき、その馬が競走馬として活躍した際にはゴール前写真などをプレゼントさせていただくことによって、JRA育成馬を応援してより競馬に親しんでいただくことを趣旨に実施しています。

また、本年は実馬展示に先立ち「馬の見方」をテーマに簡単な講義を行ったところ、お客様からは「初めて知る話で面白かった」「馬への親しみや興味がさらに深まった」など大変好評でした。

この育成馬見学会は、私たちにとっても大勢のお客様に育成馬を慣らすための良い機会となるため、大人しく展示ができるように意識して当日に備えました。その成果が実ったのか、天候が良く、無風状態に助けられたのか、当日の育成馬達は80名を超えるお客様を前にしても、大人しく駐立している馬がほとんどでした。調教が進むにつれ少し神経質になる馬も出てくるかもしれませんが、この調子で3月の見学会まで「忍耐」を持って、馬の調教および管理に取り組んでいきたいと思います。

育成馬見学会に参加していただきました方々には、この紙面をお借りして、改めてお礼申し上げます。

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写真③ 育成馬見学会は晴天にも恵まれ、80名を超えるお客様にお集まりいただきました。