育成馬見学会を開催しました(宮崎)

 南国宮崎でも朝晩は肌寒い日が増えてきました。夕方6時を過ぎるとあたりは真っ暗、季節の移り変わりを実感します。秋と冬の混在するこの時期は人馬ともに体調管理が難しい時期ですが、宮崎育成牧場に入厩した22頭の育成馬たちは皆元気に過ごしています。今夏は例年より雨が少なく1ヶ月近く雨が降らない時期もありましたが、最近は毎週のように雨が降り、台風が次から次へとやってきます。現在行っている夜間放牧(夕方16時に放牧に出し、朝8時に収牧する)は基本的には雨天決行で実施していますが、今年は台風の影響で10月下旬までに3回も放牧を中止せざるを得ない日がありました。夜間放牧を行わなかった翌日の調教・騎乗馴致では一晩馬房で過ごしたストレスからか馬たちは元気一杯なので、台風による2次災害ともいえる怪我や落馬事故などをおこさないよう、馬の様子を注意深く観察しながら調教に臨もうと思います。

 さて、前回の育成馬日誌(宮崎)でご紹介した「一般向け育成馬見学会」を10月19日(土)に開催しました。毎年行っているこのイベントは、入厩してまもなくの10月頃とブリーズアップセール上場のために宮崎の地を離れる直前の3月頃の年2回、一般来場者の方々に宮崎で成長していく育成馬の姿をお披露目しています。競走馬になってからも地元で育った育成馬を応援してもらいたいとの考えのもと実施してきたこのイベント、最近のアンケートでは「10月と3月で大きく変わる馬の姿を見るのが楽しみです」というご感想も多く戴いています。回数を重ねるごとに参加者数が増え、一人でも多くの人に育成馬を応援してもらえるよう、今後更なる努力を重ねていきたいです。

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 育成馬を見学する来場者(上)と来場者に配布した在厩馬パンフレット(下)。当日は台風の余波で80%の雨予報となっていましたが、雨に降られることなく40名の方々にお集まりいただき、じっくりと育成馬たちをご覧戴くことができました。

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 来場者アンケートで圧倒的に応援者が多かったメジロレーマーの12(牡、父:ハーツクライ、購買価格:1417.5万円)。落ち着きと風格を漂わせて、他を寄せ付けない抜けた1番人気となりました。

 さて、22頭の育成馬は夜間放牧と併行して順調に騎乗馴致・調教をこなしています。九州・八戸の2市場で購買した6頭(牡:3、牝:3)は現在、500m内馬場にて1000mのハッキングを行った後に1600m馬場にて4ハロン程度のキャンター調教を実施しています。ゆっくりとしたキャンター調教ではありますが、各馬の個性が少しずつ出てきています。最初だけ元気一杯の馬や静かに指示を待てる馬、常に冷静で他の馬の情動に左右されない馬など。今後はスタミナをつける調教を継続しつつ性格的な相性の合う騎乗者への乗り替りを進めていく予定です。

 セレクション・サマーセールで購買した16頭中11頭の騎乗馴致は順調に進み、装鞍して円形馬場でのランジングを実施し、終了後には円形馬場内で跨れるまでに至っています。11月初旬には500m内馬場での運動を開始し、先に調教を開始した上記6頭とも近いうちに合流できそうです。

 残る5頭は馬体重が少なかったり体質が弱かったりしたために騎乗馴致の開始時期を若干遅れさせましたが、ここにきて成長が如実に感じられるようになってきたため10月中旬から騎乗馴致を開始しています。現在はまだランジングをはじめて間もない段階ですが、賢い馬ばかりで問題らしい問題は見当たりません。じっくり時間をかけて先を行く17頭に追いついていこうと思っています。

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 1600m馬場で調教中の九州・八戸市場購買馬6頭。前からウィギングの12(牡、父:キンシャサノキセキ)、ニシノアリスの12(牡、父:チーフベアハート)、タイセイローザの12(牡、父:バゴ)、オンワードスワンの12(牝、父:ケイムホーム)、スプラッシュビートの12(牝、父:ショウナンカンプ)、ルックミーウェルの12(牝、父:オンファイア)。順調に調教が進められています。

 

 JR九州が10月15日から運行を開始したクルーズトレイン「ななつぼしin九州」。九州5県を4日間かけて周遊するこの豪華寝台列車は宮崎育成牧場のすぐ横を通ります。7両ある車体には煌びやかな装飾がなされ、全国から大注目を集めるこの列車。我々もこの列車のように、いつも地元の皆様から愛され全国に輝きを放ち続けられるような牧場となれるよう、日々の業務に励んでいきたいと思います。

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 朝9時前に牧場横を通る「ななつぼしin九州」。写真には写っていませんが、居合わせた育成馬たちは後ろで一様に驚いた顔をしていました。

本格的に育成業務を開始しました!(宮崎)

 去る8月29日、サマーセールで購買した16頭が宮崎育成牧場に入厩しました。北海道から馬運車に揺られ続けること48時間。疲れていないはずはないのですが、初めて降り立つ宮崎の地で元気一杯の姿をみせてくれました。輸送環境に恵まれたこともあり、輸送性肺炎を発症したり疲労のために休養を余儀なくされたりする馬はおらず、非常に順調な長距離輸送を実施することができました。

 

 宮崎に到着した馬たちはマイクロチップを用いた個体識別と入厩検疫用の採血を行った後、「アナボリックステロイド」検査を行うための採尿を実施しました。JRAでは毎年、市場で購買した1歳馬のアナボリックステロイド(AS)検査を実施しています。筋肉増強作用を有するASは競馬の公正を害する「禁止薬物」に指定されており、繁殖機能に障害を与えることからも、使用するべきではない薬物です。購買馬が「アナボリックフリー」であることを確認するため、今年は全国の市場で購買した40頭分の尿検査に加え、全馬の血液検査も実施しています。日本競馬のイメージを損ねるASが、今後も使用されないことを願っています。

 

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宮崎到着後にAS検査用の採尿を行うシンコウイマージンの12(牡、父:アジュディミツオー、サマーセール購買馬、購買価格:525万円)。初めての環境にも臆せず、堂々とした振る舞いを見せる期待馬です。

 

 さて、今回16頭が無事に入厩したところで、今シーズン育成する22頭(牡10頭、牝12頭)が揃いました。これからは基礎体力を養成するための長期間の夜間放牧と、騎乗馴致開始に向けた「しつけ」をじっくり行います。今年の22頭は(現時点では)皆大人しく、体温計を用いた検温や裏堀り、馬体洗浄などが行えるようになるまであまり時間を要しませんでした。10年前の育成馬と比較したら本当に驚くほど大人しく、扱いやすい馬ばかりです。これは生産牧場の技術・意識が高くなり、子馬のうちからしっかりと手をかけられているためだと思います。さらに、セリ上場前にコンサイナー(立ち姿や歩き方、馬体のつくりや毛ヅヤ、躾などを改良して好条件で売却できるように委託される業者)による躾がしっかりなされている馬が増えてきたため、大人しいだけでなく人間との信頼関係が構築されている馬も多くなりました。

 

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入厩から1週間、馬体の洗浄を行う牝馬。写真左がバブリングブライドの12(牝、父:タニノギムレット、セレクションセール購買馬、購買価格:525万円)、写真右がロージーズシスターの12(写真右、牝、父:スペシャルウィーク、サマーセール購買馬、購買価格:525万円)。顔にシャワーをかけられても平気になりました。

 

 入厩してしばらくは環境に慣らす目的で昼放牧を実施しますが、今回入厩した16頭は宮崎の環境にすぐ慣れたため1週間足らずで夜間放牧に移行しました。現在は先に入厩していた6頭を含む全馬22頭が夜間放牧を行っています。

 

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早朝、青々とした放牧地で夜間放牧を行うメジロレーマーの12(牡、父:ハーツクライ、購買価格:1,417.5万円)。兄にフィールドルージュがいる良血馬です。

 

 先に入厩した6頭の騎乗馴致も非常に順調です。現在はラウンドペン(円形馬場)内で騎乗して、速歩ができるまでになりました。今後500m馬場での騎乗に移っていきますが、慎重かつ大胆に進めていきたいと思います。

 

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補助者が離れて速歩運動を行うウィギングの12(牡、父:キンシャサノキセキ、購買価格:693万円)。9月下旬から500m馬場での運動を開始します。

 

 『魅せる育成』をコンセプトに開かれた育成業務を展開している当場では、8月25日に開催したイベント「馬に親しむ日」で育成馬の展示を行いました。当日ご来場いただいた地元九州の皆様にお披露目したのは「九州産馬」ルックミーウエルの12です。ご来場いただいた2,680名のお客様の前で、牝馬ながら帯同馬なしで凛々しい立ち姿を披露できました。

 

Photo_5イベントで地元の皆様にお披露目されたルックミーウェルの12(牝、父:オンファイア、購買価格:325.5万円)。当日は生産者の本田土寿氏も応援に駆けつけました。

 

 『魅せる育成』第2弾として予定しているイベントは、昨年も開催した「一般市民向け育成馬見学会」です。10月19日(土)の午後、ご来場いただきました皆様に育成馬22頭の比較展示を行う予定です。詳しくは場内の掲示板もしくは宮崎育成牧場ホームページのイベント情報をご覧ください。職員一同、皆様のご来場を心よりお待ちしております。

今シーズンの育成馬が入厩しています!(宮崎)

 今年も例年よりも2週間早く2歳馬のデビュー戦がはじまりました。2013JRAブリーズアップセールでご購買いただいたJRA育成馬も、順調かつ続々とデビューし、その走りに一喜一憂する日々です。7月21日現在、宮崎育成牧場で育成した2歳馬はまだ勝ち上がっていませんが、今後の活躍に期待しています。

 去る7月7日(日)の福島競馬場で、昨年宮崎育成牧場を巣立ったフレックスハート号(牝馬、父:ハーツクライ、育成馬名:デヴォアの10、木村哲也厩舎)が未勝利戦を勝ち上がりました。好スタートから道中しっかり我慢して、最後はあっさり抜け出して完勝、という素晴らしい内容でした。オーナーならびに厩舎関係者の皆様、おめでとうございます。

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写真1:3歳未勝利戦を勝ちあがったフレックスハート号。今後末永い活躍を陰ながら応援しています。

 

さて、宮崎育成牧場には既に6頭の1歳馬が入厩し、来年のデビューに向けた準備を開始しています。最初に入厩したのは九州市場で購買したルックミーウエルの12(牝馬、父:オンファイア、購買価格:325.5万円)。小柄ながら均整の取れた馬体をもち、展示での動きの柔らかさが目を引きました。6月14日に入厩し、現在の馬体重は360Kg。青草が豊富にある放牧地で夜間放牧を長期間行うことで、馬体の成長を促しているところです。

今月4日には八戸市場で購買した5頭(牡3、牝2)が入厩しました。この中で、最も目を引くのは新種牡馬キンシャサノキセキを父に持つウィギングの12(牡、購買価格:693万円)です。八戸市場の比較展示では、品のある顔立ちと大物感のある立ち居振る舞いで多くの購買者から注目を集め最高価格馬となりました。八戸から宮崎までの48時間余の輸送でも微塵の疲れも見せず、到着後に行った環境に慣らすための放牧で他の牡馬2頭を圧倒して、既に群れのボスとして君臨しています。

 

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写真2:早朝、青々とした放牧地で夜間放牧を終える八戸市場購買の牡馬3頭。群れを率いるのはウィギング12(写真左)。ボスの座を虎視眈々と狙うのは、ニシノアリスの12(写真中央、牡、父:チーフベアハート、購買価格:693万円)とタイセイローザの12(写真右、牡、父:バゴ、購買価格:315万円)。

 

これら6頭の育成馬たちは、夜間放牧(夕方16時から放牧に出して翌朝8時に収牧する放牧形態)と1日20分程度のウォーキングマシン運動で基礎体力作りを行っています。これに並行して手入れや引き馬などの馴致(訓練)を行い、7月24日から本格的な騎乗馴致を開始しました。順調であれば、サマーセールで購買する馬たちが宮崎に来る頃には500m馬場での軽運動が行えているかもしれません。

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写真3:夜間放牧から戻り、手入れ中の牝馬。はじめは怖がった温水シャワーでの全身洗浄も、気持ちのよいものだとわかった今は大人しく受入れています。写真左が九州産馬ルックミーウエルの12。右がスプラッシュビートの12(牝、父:ショウナンカンプ、購買価格:262.5万円)。

 

宮崎育成牧場では、昨年までに引き続き『魅せる育成』をコンセプトに、開かれた育成業務を展開します。昨年10月にも開催した「一般市民向け育成馬見学会」をはじめ地元学生向けの講習会などを行うことで、1人でも多くの人に宮崎育成牧場の育成業務を知ってもらい、育成馬を応援してもらうことが目的です。今年の『魅せる育成』第1弾は、8月25日(日)に当場で開催する「馬に親しむ日」での育成馬展示です。これまで同様、地元九州の皆様へのお披露目は「九州産馬」ルックミーウエルの12を予定しています。当日は4,000名近い来場者が見込まれるため、慣れない環境でも落ち着いて展示できるように事前に念入りな場所慣らしを行いたいと考えています。

JRA宮崎育成牧場では、馬主・調教師はもちろん購買関係者の皆様にいつでも育成馬をご覧いただけるよう環境を整えております。お近くにお越しの際には育成牧場にご連絡いただき、元気に過ごす育成馬たちをご覧ください。育成牧場職員一同、皆様のご来場を心よりお待ちしております。

育成馬展示会を開催しました(宮崎)

 宮崎育成牧場では、3月25日(月)に育成馬展示会を開催しました。今年の宮崎は例年より雨が多く、前日まで雨が残ったため天気の心配が最後まで付き纏いましたが、展示会当日には宮崎らしい絶好の日和の中で、約60名の馬主・調教師・生産者および来賓の皆様のご来場をいただき、この宮崎の地で鍛えられた若馬たちの様子をじっくりご覧いただくことができました。ご来場いただきました皆様、本当にありがとうございました。

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馬主・調教師をはじめ、多くのお客様にご来場いただき、盛況な育成馬展示会となりました。

 開会の挨拶に続き、JRAブリーズアップセールに上場予定の育成馬全22頭をご覧いただく「比較展示」を行いました。牡牝別の合計6班にわけ、3~4頭ずつ7分程度の時間で各馬の仕上がり具合を確認していただきました。調教前のフレッシュな状態をご覧頂くため元気を持て余す馬が出るのではないかと心配しましたが、事前に練習を繰り返したためおとなしく駐立できた馬が多かったように思います。ブリーズアップセールにはさらに多くのお客様が来場されるため、その雰囲気に圧倒されないようにさらに練習を続けるつもりです。

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各馬の様子をじっくりと確認していただくことができました。多くの来場者が注目するサンセットムーンの11(牡、父:ステイゴールド、ブリーズアップセール上場番号:17番)。

 比較展示後には、会場を1600mダートコースに移して10頭の騎乗供覧をご覧いただきました。これまで宮崎育成牧場で取り組んできたインターバルトレーニングの様子をご覧頂くため、内馬場でのウォーミングアップの後に6ハロンの駈歩を2本行う「通常メニュー」を供覧しました。1本目のキャンターは縦列で実施し、ラスト3ハロンを18-18-18秒程度で走行しました。走りたい気持ちをマックスまで高めた2本目は併走で実施し、ラスト2ハロンを14-14秒の指示で走行しました。宮崎で鍛えられた育成馬たちの、元気溢れる動きをご覧いただけたのではないかと思っています。

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元気一杯の走りを見せた牝馬2頭。内(白帽)がウエスタンバスターの11(牝、父:ブラックタイド、ブリーズアップセール上場番号:49番)、外(青帽)がアイビスティアラの11(牝、父:ヨハネスブルグ、ブリーズアップセール上場番号:30番)。ラスト2ハロンは13.9-13.5(秒/ハロン)でした。

 例年、騎乗供覧しない馬たちの調教は午前中に終わらせていました。しかし、多くの関係者から「午前中だと見に来ることができない」との声が寄せられたため、今年は展示会終了後の15:00頃から9頭の調教を行いました。参加していただいた多くの皆様に残っていただき、騎乗供覧と同内容の調教をご覧頂くことができました。来年以降は開始時間も工夫してさらに多くの人が参加しやすいイベントにしていきたいです。

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併走調教する青森産馬2頭。内(白帽)がグランドアピアの11(牡、父:キャプテンスティーヴ、ブリーズアップセール上場番号:19番)、外(青帽)がカリカーの11(牡、父:カリズマティック、ブリーズアップセール上場番号:41番)。ラスト2ハロンは14.9-14.5(秒/ハロン)でした。

 育成馬の場合、展示会のような強負荷の調教後には疲労が残りやすく、体調を崩すことも少なくありませんし、運動負荷が強すぎて跛行することもあります。さらに、4月中旬にはセール会場となる中山競馬場に入厩するため、24時間の馬運車輸送も待ち構えています。

 普段よりさらに細心の注意が必要になるこれからの時期、各馬の状態に応じた調教・調整を心がけ、肉体的にも精神的にも健康な状態でブリーズアップセールに臨めるよう努力する所存です。育成馬のゴール地点はブリーズアップセールではありません。夏に始まる競馬デビューに向けて、最高の状態を作る準備をすることこそが、我々宮崎育成牧場 育成チームの「仕事」なのです。

隊列の使い分け(宮崎)

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桜が咲くと春の到来を感じます。朝夕もほとんど冷え込まなくなってきました。

 JRAブリーズアップセール開催まで約1ヶ月となりました。宮崎育成牧場では、育成馬のスピード調教が計画通り順調に進められています。現在は内馬場(500m馬場)でのウォーミングアップ後、1600m馬場にて1200mのキャンター2本(ベーススピードは1ハロン19秒程度)を実施しています。スピード調教(インターバル2本目をラスト3ハロン45秒程度)を週に1~2回、ハロン20秒で2000mを一本で走りぬくスタミナ強化調教を週に2回実施しています。ほとんどの馬が手綱を抑えて走りたい気持ちを温存させながら、指示どおりのタイムで走れるようになってきました。イメージどおりの調教ができた日には思わず頬が緩んでしまいますが、日々のケアを怠らず万全の体勢でセールに望みたいと思っています。

 宮崎育成牧場では、調教内容や馬の精神状態を見て4つの隊列を使い分けます。休み明けの月曜日や馬がピリっとしてきた時などには「一団」で調教を行います。これは群れの中で走らせることで馬はリラックスし、自然な動きをみせてくれるためです。騎乗調教を開始した直後にも、前後左右に馬がいる環境に慣れさせ前馬のキックバックに抵抗しない精神力を養うことを目的として、一団調教を多用します。

 スピード調教の際には「併走」で調教を行います。隣を走る馬に負けない気持ち(闘争心)を養うことが目的で、各馬の能力や調教進度、相性の良し悪しを考慮してパートナーを決定します。パートナー選びはかなり慎重に行っています。というのも、相手の選択を間違えるときれいな併走調教ができないだけではなく、大きく遅れた馬が心に傷を残してしまうことになるためです。最終的にはstirrup-to-stirrup(アブミとアブミがぶつかる位の間隔)で走れることが目標なので、スピード調教をしながら横の間隔を詰める練習が続きます。

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1600m馬場での3頭併走調教。外(右)がカリカーの11(牡:父カリズマティック)、中がエンゼルアーチの11(牡:父ゴールドアリュール)、内(左)がエンジェルステージの11(牡:父ブラックタイド)。横の間隔を詰める練習をしているところです。

 縦列調教は、4頭程度のグループで前の馬と指定された間隔を開けて走行します。先頭を走る馬は騎乗者の指示に従いひるまず前にいく練習ができ、後続の馬たちは馬の後ろで走りたい気持ちを我慢することで推進力を養うことができます。先頭は毎日交代し、どの馬も先頭ができるようになることが目標です。

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1列での調教。先頭がカメレオンの11(牝:父バゴ)、2番手がウエスタンバスターの

11(牝:父ブラックタイド)、3番手がビッグキャンドルの11(牝:父ダンスインザダーク)。今後、前馬との距離を徐々に開いていきます。

 調教の最後のステージで行うのが「単走」調教です。一列調教ができるようになったら、前の馬との間隔を少しずつ開いていき、最終的には2ハロン程度開けてスタートできるようにします。周囲に馬がいないことに不安を感じる馬もいますが、騎乗馴致のときから培ってきた騎乗者との信頼関係があれば問題ありません。不安に思う馬をなだめ、走ることに集中させて真っ直ぐ走らせることが騎乗者に求められます。ブリーズアップセールでの騎乗供覧は、基本全馬が単走です。セール出発までの残り1ヶ月、全22頭を単走でお披露目できるようにしっかり練習をつんでいきたいと思います。

 セールまでの残された時間をカウントダウンするようになると、22頭との様々なエピソードが思い出されます。放牧から帰るのを嫌い逃げ回った馬、治療が嫌いで全力で抵抗し1本の注射をするために1時間近く格闘した馬、多頭数での調教が苦手で騎乗者を何度も振り落とした馬など。当時は今後のことを考えて眠れないほど悩んだりもしましたが、今振り返ると懐かしく感じます。

 曖昧になった記憶を辿る際、昨年売却馬から開始した各馬別の「育成馬の日誌」をみると当時のことが鮮明に思い出されます。その日騎乗した職員が記入する日誌には、毎日の調教内容や治療経過などに加えて調教時の問題点や明日への課題なども記入し、騎乗者が替わる際には引継ぎでも使用しています。ある新鋭厩舎で使用しているのを真似てはじめたこの日誌、とても役に立っています。

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毎日記入している日誌。短いながらも、その馬と歩んできた歴史が詰まっています。

 さて、宮崎育成牧場では3月25日(月)13時から馬主・調教師の皆様を対象とした育成馬展示会を開催いたします。当日は13:10頃から6班に分けて全馬をご覧頂く「比較展示」を、14:10頃から10頭程度の調教状況をご覧頂く「騎乗供覧」を行います。騎乗供覧終了後にはご指定の馬を再度ご覧頂ける自由展示も行います。ご購買をお考えの皆様、是非温暖な宮崎の地へ足を運んでいただけたらと思います。また、昨年までは展示会で騎乗供覧をしない馬の調教を当日の朝実施していましたが、本年は育成馬展示会終了後の13:40頃から行います。お時間が許しましたら是非ご覧ください。

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暖かい宮崎の地で、皆様のお越しをお待ちしております。

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

平素はJRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

ヴァイタルウォーク(宮崎)

 北海道では恒例の札幌雪祭りが開催されるこの時期。全国的に寒い日が続いていますが、南国の地 宮崎では2月とは思えないような暖かく過ごしやすい日々が続いています。2013年に入り、最高気温が10℃を下回ったのはわずか数日、全国的に暖かくなった24日には最高気温が23℃まで上昇しました。

 今春、宮崎県ではプロ野球5球団のキャンプに加え、WBC日本代表(侍ジャパン)の春季合宿も行われます。サッカーJリーグのキャンプまで含めると実に26チームが宮崎県内でキャンプを行う予定で、温暖な宮崎の気候がアスリートの調整に適していることを証明しているのではないでしょうか。育成馬たちも温暖な気候の中、青々とした生牧草を頬張りながら今夏のデビューに向けた鍛錬に励んでいます。キャンプの見学などで宮崎にお越しの皆様、宮崎育成牧場に立ち寄られてはいかがでしょうか。毎週土曜日には調教公開も行っています。是非お越し下さい。

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【写真1】:雨上がりの育成厩舎。「空が広い」宮崎では綺麗な虹のアーチを見ることができます。

 現在22頭すべての育成馬が順調に調教を消化しています。先月から本格化した1600m馬場の調教ですが、現在は内馬場(500m馬場)でのウォーミングアップ後、1600m馬場に入り1200mのキャンター2本(ベーススピードは1ハロン20秒程度)を実施しています。週2回程度行うスピード負荷日(2本目をハロン17程度)でも、調教後の息遣いもスムーズでまだまだ物足りない顔をしている馬もおり、今から楽しみが尽きません。

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【写真21600m馬場で併走の練習を行う2頭。外(右)が青森産馬グランドアピアの11(牡:父キャプテンスティーヴ)、内(左)が九州産馬マヤノビジューの11(牡:父ケイムホーム)。この日の調教タイムは、最後の3Fが20.1-18.3-17.2/Fでした。

 JRAの両育成牧場では、調教後のクーリングダウンを「ヴァイタルウォーク(Vital Walk)」で行えるよう常に意識しています。ヴァイタルウォークとは、全身を使った闊達な常歩のことをいいます。JRA競走馬総合研究所のデータによりますと、ヴァイタルウォークを行った際、通常の常歩を行う場合の心拍数と比較して約1014拍/分も上昇します。これは同じスピードで3%の坂道を上っているのと同じ負荷に相当するそうです。時間をかけた速い常歩、すなわちヴァイタルウォークは結構な運動量になることがわかります。調教終了後の育成馬をのんびりとした常歩でリラックスして歩かせてあげたい、とも思いますが、ヴァイタルウォークを行う有益性を考えると馬たちには頑張ってもらわざるを得ません。

 宮崎育成牧場では、今年からヴァイタルウォークを実践するためクーリングダウンを行う際に常歩のタイム測定をしています。1600m調教馬場の裏手にある杉林にスタート地点とゴール地点を決め、この常歩区間をどの馬が最も早く歩くことができるかを競い合います。測定タイムは職員皆の目に触れるところに貼り出し、競争心を煽ることで馬を早く歩かせる、すなわちヴァイタルウォークを誘起します。開始前の平均タイムが340秒程度、現在は同じ距離を310秒程度で歩けるようになりました。ブリーズアップセールに登場する頃にはヴァイタルウォークが身についた馬に育っていて欲しいものです。

 

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【写真3】調教が終わり、杉林でヴァイタルウォークに励む育成馬たち。ついて歩く調教監督者も汗をかくほどのスピードで歩けるようになりました。

 さて、「魅せる育成」に取り組んでいる宮崎育成牧場ではこれまで、「一般の方々向けの育成馬見学会」や毎週土曜日に1600m馬場での調教をご覧頂く「調教公開」などを実施してきました。これらは地元宮崎の方々に育成馬やその調教風景を見学していただく機会を設け、育成牧場の業務内容を披露することで競馬やJRA育成馬に対する更なる興味を喚起することを目的として実施しています。

 29日(土)には宮崎育成牧場で初の試みとなる「調教見学会」を開催しました。過去の見学会に来場されたお客様を招待して、調教やウォーキングマシン運動、ゲート練習の様子をはじめ、馬房で過ごす育成馬の素顔など普段見ることのできない「バックヤード」部分についてもご紹介しました。来場された23名のお客様は、調教担当者の解説を聞きながら真剣な眼差しで調教に臨む育成馬たちをみておられました。短い時間ではありましたが、これから活躍が期待される若きアスリートの姿を見てお楽しみいただけたものと思います。

 今後とも、ウインズ宮崎に来場された皆様や育成牧場に遊びに来られた方々に育成馬を披露する機会を定期的に設け、育成馬の成長する様子を楽しんでいただける環境を作っていきます。これらの機会を通じて育成馬に興味を持っていただくことで競馬が好きになり、競馬産業の裾野が少しでも広がることこそが、私たち宮崎育成牧場職員の願うところです。

南国の冬 (宮崎)

年が明け、冬本番の宮崎で育成馬達は元気に調教を積んでいます。

南国とはいえ、宮崎でも冬は氷点下に冷え込むことも珍しくありません。少々問題となるのが、馬場がそれまでの雨などによる水分を多く含んでいる場合です。早朝からハロー掛けなど対応を試みるのですが、冷え込みが厳しい場合はハローの爪も入らない程固まってしまいます。こうなると自然融解を待つことになります(宮崎の冷え込みは、ほぼ放射冷却によるもの。従って冷え込む日は、ほぼ快晴!)。太陽が昇ると、みるみる馬場は使用可能な状態に戻り、南国の太陽のパワーを実感できます。

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時には凍結する宮崎のダートコース

海の砂を使用しているため、砂には小さな貝殻がたくさん混じっています。全国的にも珍しい!?

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放牧地で草を食むシーソングの11(牝:父バゴ

厳冬期でも、放牧地には豊富な青草。暖地での育成の利点です。

これまでは、入厩時期によって馴致のステージが異なり1群と2群に分かれていた育成馬達は、年明けからは牡牝それぞれ1グループで調教を行っています。これまでの6~7頭程のグループからそれぞれ11頭へ頭数も増え、馬体の成長も伴い調教に迫力が増してきました。

多頭数の調教では、他の馬を過度に気にする馬もいれば、多頭数の方が落ち着く馬もいて様々です。例年と比較して、全体的に概ね落ち着いている印象です。

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集団調教:宮崎“ALL牡”調教

にぎやかな朝の調教風景。先頭はエンジェルステージの11(牡:父ブラックタイド

1600m馬場での本格的な調教も始まっています。多くの馬が安定して真っ直ぐに一定のスピードで走ることが出来るようになってきました。現在は隊列を工夫し周囲の馬のプレッシャーに慣れる調教を積み重ねています。

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1600m馬場での調教風景

例年取り組んでいるインターバルトレーニング、6F(1200m)×2

2本目は併走の練習。

外:サンセットムーンの11(牡:父ステイゴールド)内:オマイタの11(牡:父ヨハネスブルグ

この日の調教タイムは、最後の3F、20.4―19.9-20.0秒/

まもなく、ウインズや公園へお越しのお客様に調教を公開する予定です。土曜日には調教ゼッケンを装着し、当日の調教メニュー等をご案内いたします。

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      宮崎の新年の参拝は青島神社・裸参りです。筆者は3回目の参加。

      育成馬の活躍と競馬の益々の発展を祈念してまいりました。

育成牧場の冬仕度(宮崎)

南国宮崎も冷え込む日が多くなり冬が近づいてきたようです。

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写真1.牧場内で育つスウィートスプリング

まだ、あまり知られていない柑橘類。見た目に反し糖度が高く美味。食べ頃です。

育成業務は馴致を終え1600m馬場で本格的な調教を開始したところです。総駆歩距離2700m、走速度は約20秒/ハロン(1ハロン≒200m)の調教を毎日積み重ね体力の増強を図っています。

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写真2.以前に紹介した蟻洞を伴った蹄

蹄壁も成長し疼痛も緩和。接着装蹄から通常の装蹄に切り替え順調に調教を実施しています。

調教に励む職員の中に、昭和47年のJRA入会以来、宮崎一筋で育成馬の騎乗に取り組んできた人がいます。来年の9月に定年を迎えるため騎乗するのは現在入厩している育成馬が最後の世代となります。通常、体力の衰えなどから、一定の年齢までで育成馬の騎乗をとりやめることとしています。定年まで騎乗を続けることは、技術が維持されていることはもちろん、本人の強い意思・信念があってこその、極めて稀な例です。40年の間に携わった担当馬は100頭に迫るとのこと、入会以前は馬に触ったこともなく、この宮崎で技術の研鑽を重ねてきました。若馬に負担をかけない綺麗な前傾姿勢を保った騎乗姿は、年齢を感じさせることがなく、若い職員の良い手本となっています。

この方の40年間が決して順調だった訳ではなく、落馬での骨折入院のほか、大病を患い生死の境をさまよったこともあったと伺っています。その時もベッドの横には育成馬の写真を掲げ、病を克服した後にはもう一度育成馬に騎乗するという強い信念をもって闘病生活をおくっていたとのことです。

毎朝の調教で親子程歳の差のある若手職員と育成馬を通じて熱心に騎乗論や管理技術論を交わす姿をみると、生涯をかけて育成業務に取り組んできた情熱を改めて感じずにはいられません。

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写真3.1600m馬場で調教を行うグランドアピアの11(牡・父キャプテンスティーヴ)とI職員(1953年生)

また、宮崎育成牧場では冬を前にクリッピングを行っています。これは、冬季の調教による汗や馬体洗浄後の乾燥を容易にし、用途に応じた馬服を着せることにより被毛管理と腹部の冷えを防ぐために実施しています。

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写真4.クリッピングを施されたレイナフェリスの11(牡・父アルデバラン

冬を迎える準備が日に日に整っていきます。

育成馬お披露目(宮崎)

 宮崎育成牧場では、全馬の入厩が完了してから1ヶ月半が過ぎようとしています。この時期の育成牧場では、騎乗馴致と並行して写真撮影が行われています。

写真撮影については、これまでにも何度か紹介してきましたが、四肢の位置、体重のかけ具合、顔の方向、耳の向き、タテガミや尻尾の状態など細かい部分に注意を払いながら、馬体の良さを伝えることができる写真を撮影することはなかなか大変です。入厩から様々な場面で真剣勝負を繰り広げてきましたが、この写真撮影も人間の要求を育成馬に伝えその動きをコントロールする真剣勝負といえるものです。

撮影した写真を基に、宮崎育成牧場では見学者向けにパンフレットを作成しています。〔写真1

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【写真1】宮崎育成牧場 育成馬12-13パンフレット

先日撮影した写真を基に作成した本年度の育成馬のパンフレット。宮崎育成牧場の見学者に配布されています。

この作成したパンフレットも活用し、宮崎育成牧場では恒例となっている秋の育成馬見学会を実施しました〔写真2〕。これは、世代毎に育成馬の入厩後の10月と、BUセールのため宮崎を離れる直前の3月に実施しているもので、会を始めてからこの世代が3世代目になります。

「入厩時とその後の成長が比較できる」と好評で、秋の見学会でお気に入りの育成馬を見つけ、春にその成長を確認し、その後の競走馬としての活躍を応援するという楽しみ方をされている方も多いようです。

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【写真2】宮崎育成牧場 秋季育成馬見学会の様子

好天にも恵まれ、多くのお客様がお越しになり、和やかな雰囲気の中、育成馬見学会が実施されました。

本年の宮崎の育成馬には同じ父を持つ馬が2組あり(父アルデバランのオス2頭〔写真3〕、父バゴのメス2頭)いずれも同じ性別であるため、今回は並べて展示し比較していただきました。ご覧になっているお客様は、それぞれの馬の共通点や相違点、母父の影響などを興味深く観察されている様子でした。

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【写真3】同じ父(アルデバラン)を持つ、イナズマローレルの11(母父ピルサドスキー)とレイナフェリスの11(母父コマンダーインチーフ)の表情

毛色などは異なるものの、骨格や目元および鼻周囲の雰囲気は似ている部分が多いのではないでしょうか

また、育成馬の展示に加えて、競走馬の豆知識も併せて紹介しております。今回は、競走馬の個体識別に用いられているマイクロチップについて紹介する中で、実際に育成馬のマイクロチップを読み取り健康手帳に記載されている番号と照合する検査をご覧いただいたところ、多くのお客様が興味を示されていました。

育成馬の騎乗馴致も概ね順調にすすんでおります〔写真4〕。進捗状況は個体差が大きく様々ですが、昨日は悩みの種だった育成馬が一日で飛躍的な成長を遂げることも珍しくなく、1日毎に成長の具合が手に取るようにわかる楽しい時期です。

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【写真4】ペン内でドライビングを行うレイナフェリスの11(父アルデバラン

サマーセールで購買し9月に入厩した馬達も、ペン内で2本の調馬索を用いたランジングに加えて、ドライビングを実施し、基本的なハミ受けを学んでいます。

先に入厩した育成馬たちは現在、500mの内馬場で調教を実施中です〔写真5〕。まもなくスタンド前の1600m馬場での調教を開始できる予定で、公園や、ウインズにお越しの皆様に調教風景を披露できる日も遠くないことと思います。

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【写真5500m内馬場で速歩調教を行う左からドラールフォンテンの11(父ステイゴールド)、ホッカイラヴの11(父オペラハウス)およびシアトリカルポーズの11(父アドマイヤムーン

温暖な宮崎を象徴する青々とした放牧地横の500m内馬場で速歩調教を実施する、セレクト、セレクションおよび八戸セールで購買した牝馬3頭。速歩調教初日のため人馬共に緊張気味です。

 

育成業務開始(宮崎)

831日にサマーセールで購買した15頭が宮崎育成牧場に入厩し、今シーズンの育成馬22頭が揃いました。

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【写真1.】夜間放牧中の育成馬

夜間放牧中、常に周囲の環境の変化に気を配りながら青草を食べ運動しています。

左:ホッカイラヴの11(父オペラハウス)、右:シアトリカルポーズの11(父アドマイヤムーン

入厩した馬達は、馴致開始を前に様々な処置や検査が行われます。その中で近年目立ってきているのが蹄に発症する蟻洞です。この病気は蹄にカビの一種である糸状菌(人の水虫と類似)が増殖してしまう病気です。本年度の宮崎育成牧場の育成馬22頭のうち程度の差はあるものの4頭に蟻洞が認められました。

蟻洞の治療は、菌糸の侵食した部分を削切し空気に曝すことで菌糸の増殖を抑え、蹄壁の成長を待つことを基本とします。

重症の1頭では、菌の侵食は蹄壁の40%にも及び一部は知覚部にも達し、削切することによって跛行を呈しました。

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【写真2.】左前肢に認められた蟻洞

縦方向には蹄壁の約40%に及んでいた上に、奥方向への侵食も激しく一部は知覚部に達していました。

歩様検査では患肢が外側になった時に疼痛感を示していました。一般的に下肢部に跛行の原因が存在する場合、患肢が内側に位置した場合により負重がかかり跛行は増悪することが多いのですがこの馬は逆です。直進方向でも疼痛を示すことは殆どなく球節の沈下も良好。歩様だけを観察すると下肢部が原因ではなく肩部筋群の損傷に起因する跛行と見誤るほどでした。

装蹄師、担当者とともに歩様や蟻洞の様子を詳細に観察し検討を重ねたところ、蟻洞が中心線より内側に存在しているため、【図1.】で黄色で示すような内側からの力が加わったときに蹄には赤色の作用が生じ疼痛を示すのではないかとの仮説を導き、今後馴致をすすめていく際にどの様な処置を施せば、蹄に加わる赤色の力を軽減できるか考えました。

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【図1.】蟻洞の位置と、蹄に作用する力の模式図

出された結論は、①前述した蹄に加わる力を軽減するために装蹄を施す。②より強固に蹄壁を固定するためには削切した部分をエクイロックスで充填することが望ましいが、好気的環境を保つために充填はしない。③成長過程である蹄の発育を妨げない(蹄釘を使用する十分なスペースが未だない)ため接着蹄鉄を使用する。

以上の処置を施したところ跛行は、ほぼ消失。

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【写真3.】接着蹄鉄を施した蹄

疼痛は大幅に緩和し、肢動脈の亢進も緩和。通常の馴致メニューに復帰することが可能となりました。

夜間放牧やラウンドペンでの初期馴致など通常のメニューに戻ることが出来ました。この処置が功奏しなかった場合は、蹄が伸びるまで数ヶ月単位で指(蹄?)をくわえて待つしかなく、馴致・調教メニューに重大な遅滞が生じこの馬の競走馬としての運命をも左右してしまう可能性もあっただけに一安心です。

競走馬の育成業務とは、目の前に起こる様々な問題を、これまでの経験や知見をもとに議論を重ね書物を紐解き、様々な方のご意見を伺うなどして、できる限りの情報を集め原因を推察、解決方針を決定し実行、結果を再検証し、新たな方針を決定することの繰り返しです。

うまくいくことよりも、うまくいかないことの方が多い仕事ですが、うまくいくまで何度でもチャレンジです。また、うまくいかなかった時に後悔しないためにも、多くの情報(観察)の収集と正確な決断が出来るようにしたいものです。

このシーズンも様々な問題が待ち受けていることでしょう。そんなトラブルの処理方法や結果の検証も育成研究のひとつではないかと考えています。

常に積極的な解決方法を模索し、結果を広く還元すべく育成業務をすすめていくつもりです。本年度も宮崎育成牧場の育成馬の応援をどうぞよろしくお願いいたします。