乳酸値を指標とした調教負荷(宮崎)

 年が明け、宮崎も冬本番を迎えています。とはいえ日高育成牧場(マイナス20℃!)とは異なり、夜間でも氷点下まで冷え込む日はほとんどなく、日中は気温が15℃以上に上昇する日もあります。夜間に気温が下がって馬場が凍結しても、南国の強い日差しを受けて9時過ぎには自然融解するため、調教にはほとんど支障ありません。放牧地に年中ある青々とした牧草と、冬でも降雪や馬場凍結などの影響をほとんど受けない環境こそ、宮崎で育成業務を行う最大のメリットであり南九州が育成に適した地域であると考える最大の理由です。

 昨年末、調教が進むにつれて徐々にテンションが高くなってきていた育成馬たち。年末年始の1週間を牡馬10頭は日中一杯のパドック放牧に加えランジングを隔日で実施しました。牝馬12頭は年末年始のみ昼放牧から夜間放牧に戻してランジングは行わずに管理しました。短期休養あけの年始の調教を事故なく実施することができ、リフレッシュした育成馬たちは元気に調教を再開しています。

 現在、全22頭の調教の足並みが揃いました。500m内馬場において約1000mのスローキャンターを行った後、1600m馬場で2000mの連続したキャンター(スピードはハロン19-18秒程度)をメインメニューとして基礎体力の向上に努め、週に2回程度1200mのキャンターを2本(スピードはハロン20~18秒程度)行うインターバルトレーニングを実施しています。調教時の隊列については前後間隔を詰めた2頭併走を基本としています。一般に、併走調教はお互いに走りたい気持ちを高めて走るスピード調教で用います。しかし、現在行っている併走調教は競って速く走るというよりも、左右に馬がいることに慣らすことが目的です。競馬は集団の中で走るので、縦列や併走でトレーニングすることは重要であると考えます。

 

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併走調教を行う牝馬。向かって左がプラントオジジアンの12(父:エンパイアメーカー)、右がシルクヴィーナスの12(父:アドマイヤムーン)。2頭とも兄が京成杯の勝ち馬であるという共通点があります(プラントオジジアンの12の兄はサンツェッペリン号、シルクヴィーナスの12の兄はプレイアンドリアル号)。ともに宮崎育成牧場の期待馬です。

 今後の運動メニューを考える際、現在の調教でどれだけの負荷がかけられているのか、馬の運動能力を伸ばすトレーニングができているのか、という不安・疑問は常に付きまといます。負荷が強すぎれば若馬の肉体に無理がかかり、歩様の乱れや骨や腱の疾患につながります。といって軽すぎる負荷では心肺機能の鍛錬になりません。日々の調教を通して、馬が持って生まれた「走る能力」を最大限まで引き出せる体質づくりには、過剰ではないぎりぎりの運動負荷をかけ続ける必要があります。通常、調教後の馬の息遣いや疲労の残り方、騎乗時の手応えなどを参考に判断していますが、これらは感覚的なものなので確たる指標として扱うのは難しい部分があります。日高・宮崎の両育成牧場で毎年実施しているV200値の測定も、有酸素運動能力の科学的指標としてヒトでは確立していますが、馬の場合は速度の規定が難しいことや馬の情動や騎乗者の体重・技術などの影響を受けやすいため必ずしも精度の高い検査とはいえません。

 そこで、昨シーズンから運動時の乳酸値測定を行い、数字として得られた「科学的な指標」と馬の息遣いや疲労具合などの「感覚的な評価」とを一体化する作業を行い、その後の調教内容を決定する際の参考にしています。乳酸値は簡易キッドを用いることで簡単に測定でき、どれだけの運動負荷をかけられたかが調教直後にわかるという利点があります。乳酸値測定を開始してからは、調教⇒採血⇒測定⇒分析⇒翌日の調教という手順で、その日の調教結果を翌日以降に素早くフィードバックできるようになりました。

 乳酸値は運動強度(タイムや距離、運動持続時間など)に依存して上昇しますが、最初から直線的に上昇するのではなく、ある運動強度を超えた時点から上昇していきます。これは「運動時の酸素需要量と供給量のバランスが維持されていれば血中乳酸は蓄積せず、需要供給のバランスが崩れると上昇していく」という性質によるものです。調教で育成馬が無酸素運動をしたのか、有酸素運動のみであったのかを見極める際、運動後の血中乳酸値が4mmol/Lを超えているか否かを判断の目安にしています。というのは、馬は最大酸素摂取能力の80~85%程度の負荷をかけられると有酸素運動の継続ができなくなり無酸素運動を開始しますが、この時点の乳酸濃度が4mmol/L程度だからです。

 以下の写真はある馬が2000mキャンターをハロン19秒程度で走行した直後に採血を行い測定した乳酸値です。普段から同程度のスピード・距離で調教を繰り返し行っているため息の入りも早く、発汗もわずかでした。感覚的には「そろそろペースを上げていこうか」と考えている段階において、乳酸値が2.9mmol/Lという科学的指標を確認できたため、翌日以降の運動強化を決定しました。とはいえ同じ強度の運動を負荷しても運動耐性や筋肉量などの個体差により乳酸値の測定結果はバラバラです。限られた時間内に多頭数の調教を行う必要があるため、群の中でも前方と後方のスピード指示を変えるなどして馬別にトレーニング強度を変更して、より効果的で無理のない調教を負荷していきたいと考えています。

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現在宮崎育成牧場で乳酸値測定に使用している簡易キッド(アークレイ社製 ラクテート・プロ2)。本体価格が約6万円、測定するたびにかかる経費は1頭あたり約220円です。

 さて、「魅せる育成」に取り組んでいる宮崎育成牧場では、これまで地元の皆様に育成馬をご覧いただく「育成馬見学会」や朝の調教を自由に見学できる「公開調教」などを行ってきました。今後も来場者の皆様に「質の高い育成業務」をみていただくため、また現在育成馬が抱えている課題を明確にするために必須の恒例行事である「育成馬検査」を実施しました。この検査はJRA馬事部生産育成対策室から専門的な知識をもった職員が来場し、客観的な視点から育成馬の検査を行うものです。検査者をお客様に見立ててすべての馬を「きれいに魅せる」ことができるか、育成馬と毎日接しているうちに見落としている問題がないか、を確認することが目的です。

 例年ブリーズアップセールが近付くにつれて、ご来場いただけるお客さまも増えていきます。育成馬たちを最大限気持ちよくご覧いただけるよう、気を引き締めて準備を進めていきます。是非当場まで足を運んでいただき、大きく成長した育成馬たちをご覧いただきたいと思っています。

 

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育成馬検査では疾病の有無の確認に加えて1頭ずつ大人しく展示できるかも検査されます。検査馬はシンコウイマージンの12(牡、父:アジュディミツオー)。本馬の姉には札幌記念を制したフミノイマージン号がいます。

 

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調教時の動きとは別に、歩様の確認も行います。闊達に元気良く歩けるかどうかが検査されます。検査馬はルックミーウェルの12(牝、父:オンファイア)。この世代のJRA育成馬で唯一となる九州産馬です。

順調に調教が進んでいます(宮崎)

  南国宮崎も本格的な冬を迎えています。日の入りが早くなり、気温も10℃を超える日が少なくなってきました。朝晩の気温低下により体調を崩さないよう、育成馬の体調管理には細心の注意を払いながら日々の調教を行っています。

 12月に入り、宮崎育成牧場に入厩した全22頭が1600m馬場での集団調教ができるようになりました。現在は500m内馬場において約1,000mのスローキャンターを行った後、1600m馬場で6ハロンもしくは8ハロンのキャンター(スピードはハロン22-20秒程度)をメインメニューとして基礎体力の向上に努めています。調教では前の馬について真っ直ぐ走ること、馬込みの中で騎乗者の指示に従って走ることなどを課題とし、調教後のクーリングダウンでは馬をリラックスさせてゆっくり歩くのではなく、騎乗者の扶助で闊達な常歩を行うヴァイタルウォークを行うことを課題として取り組んでいます。11月頃には体力もなくフラフラと走っていた育成馬たちですが、長期間実施してきた夜間放牧と毎日の調教を積み重ねた効果で見た目にもわかるほど成長し、走りにも力強さを感じられます。

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(写真)競馬場時代の面影を今に伝えるスタンドと、その前を併走でほぼ等間隔の隊列をつくり駆け抜ける牝馬たち。きわめて順調に調教が進められています。

 毎日の調教後に必ず行うのがゲート馴致です。これは馬にゲートが怖くない・安心できる場所であることを理解させるために、騎乗馴致を開始した日から毎日時間をかけて実施しています。JRA育成馬のゲート馴致の達成目標は「前扉を閉めたゲートに騎乗した状態で入り、後ろ扉を閉める。ゲート内でおとなしく10秒程度駐立したら前扉を開けて、騎乗者の扶助により常歩で発進する」というものです。宮崎育成牧場には練習用ゲートが2機あり、運動中・放牧時などいつでも見える場所に設置してあります。身近な場所にあるゲートを毎日通過することで、馬にゲートを「日常の一部」として理解させ、恐怖心をもたせない工夫をしています。

 毎年細心の注意を払い時間をかけて実施しているゲート馴致ですが、これまで何度も失敗しては悩み、試行錯誤しながら新しい方法を実践してという繰り返しを経験してきました。なるべく馬に理解しやすい方法で実施したいと考え、現在新しい試みにチャレンジしています。昨年まではクーリングダウンのコース上に練習用ゲート2機を置いていましたが、今年は片方の練習用ゲートを500m馬場の内側にある放牧地に設置しました。この放牧地にはイタリアンライグラスが播種してあるためゲートは豊富な青草に囲まれており、ゲートを通過した育成馬はすぐに青草のピッキングができます。調教後の緊張感は青草があることで緩み、安心した状態でゲートを通過したらご褒美として青草を頬張ることができます。南国宮崎の特性を活かしたゲート練習の方法として試していますが、今のところかなり良い感触です。これまでの方法でゲート練習をした際に落ち着かなかった馬たちも、放牧地のゲートではリラックスして通過・駐立ができるようになりました。既に半数近い馬が目標を達成して手応えを感じているところですが、ゲート馴致は一瞬の油断で積み重ねてきた全てを失ってしまうことがあるため、今後も慎重に繰り返して全馬がゲートを「あたり前」に通過・駐立できるようにしたいです。

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(写真)馬場内にある放牧地の中に設置した練習用ゲート。周囲に豊富な青草があり、練習用ゲートもリラックスして通過・駐立ができています。

 さて、宮崎育成牧場から馬診療技術に関するトピックスがありますのでご報告します。12月中旬に美浦トレーニングセンター 競走馬診療所の協力を得て、「背負い型内視鏡(モバイル内視鏡)検査」の装着実験を行いました。この検査方法は、美浦トレーニングセンターの20頭ほどの競走馬で既に使用実績があります。通常の安静時内視鏡検査とは異なり咽喉部の状態を騎乗・調教しながら内視鏡でみる検査で、類似した検査にトレッドミルを用いた内視鏡検査があります。トレッドミル内視鏡検査との大きな違いは、人が乗ったまま検査を行うところです。宮崎育成牧場にはトレッドミルがないため、調教時に異常呼吸音が聴取された馬がいても通常の安静時内視鏡検査しか行うことができません。今回この実験を行った目的は、トレッドミル内視鏡検査にかわる検査方法として背負い型内視鏡検査を育成馬に応用できるか否かを見定める、というものでした。

 今回は2頭の在厩馬を用い2回の検査を行いました。検査馬は背中に小型パソコンとバッテリーを背負い(騎乗者の両膝部分)、内視鏡が取り付けられた特殊な頭絡をつけて馬場を走行します。内視鏡を装着したときには鼻への違和感から歩くのを嫌がる素振りもみせましたが、その後すぐに落ち着き、ハロン15秒程度での2度の走行実験を無事終了することができました。

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(写真)寛馬房で内視鏡を装着する検査馬(乗馬:8歳)。初めての経験に少々不安そうです。

 準備運動開始から検査終了までに要した時間は1時間半ほど、装着時に鼻出血を起こす可能性があるなど100%安全な検査だとはいえませんが、調教時に異常呼吸音を確認した育成馬への応用は十分可能であると感じました。

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(写真)背負い型内視鏡装置を装着し、馬装の確認を行っている検査馬(2歳)。昨年までJRA育成馬だったこちらの馬も大人しく検査を受け入れました。

育成馬見学会を開催しました(宮崎)

 南国宮崎でも朝晩は肌寒い日が増えてきました。夕方6時を過ぎるとあたりは真っ暗、季節の移り変わりを実感します。秋と冬の混在するこの時期は人馬ともに体調管理が難しい時期ですが、宮崎育成牧場に入厩した22頭の育成馬たちは皆元気に過ごしています。今夏は例年より雨が少なく1ヶ月近く雨が降らない時期もありましたが、最近は毎週のように雨が降り、台風が次から次へとやってきます。現在行っている夜間放牧(夕方16時に放牧に出し、朝8時に収牧する)は基本的には雨天決行で実施していますが、今年は台風の影響で10月下旬までに3回も放牧を中止せざるを得ない日がありました。夜間放牧を行わなかった翌日の調教・騎乗馴致では一晩馬房で過ごしたストレスからか馬たちは元気一杯なので、台風による2次災害ともいえる怪我や落馬事故などをおこさないよう、馬の様子を注意深く観察しながら調教に臨もうと思います。

 さて、前回の育成馬日誌(宮崎)でご紹介した「一般向け育成馬見学会」を10月19日(土)に開催しました。毎年行っているこのイベントは、入厩してまもなくの10月頃とブリーズアップセール上場のために宮崎の地を離れる直前の3月頃の年2回、一般来場者の方々に宮崎で成長していく育成馬の姿をお披露目しています。競走馬になってからも地元で育った育成馬を応援してもらいたいとの考えのもと実施してきたこのイベント、最近のアンケートでは「10月と3月で大きく変わる馬の姿を見るのが楽しみです」というご感想も多く戴いています。回数を重ねるごとに参加者数が増え、一人でも多くの人に育成馬を応援してもらえるよう、今後更なる努力を重ねていきたいです。

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 育成馬を見学する来場者(上)と来場者に配布した在厩馬パンフレット(下)。当日は台風の余波で80%の雨予報となっていましたが、雨に降られることなく40名の方々にお集まりいただき、じっくりと育成馬たちをご覧戴くことができました。

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 来場者アンケートで圧倒的に応援者が多かったメジロレーマーの12(牡、父:ハーツクライ、購買価格:1417.5万円)。落ち着きと風格を漂わせて、他を寄せ付けない抜けた1番人気となりました。

 さて、22頭の育成馬は夜間放牧と併行して順調に騎乗馴致・調教をこなしています。九州・八戸の2市場で購買した6頭(牡:3、牝:3)は現在、500m内馬場にて1000mのハッキングを行った後に1600m馬場にて4ハロン程度のキャンター調教を実施しています。ゆっくりとしたキャンター調教ではありますが、各馬の個性が少しずつ出てきています。最初だけ元気一杯の馬や静かに指示を待てる馬、常に冷静で他の馬の情動に左右されない馬など。今後はスタミナをつける調教を継続しつつ性格的な相性の合う騎乗者への乗り替りを進めていく予定です。

 セレクション・サマーセールで購買した16頭中11頭の騎乗馴致は順調に進み、装鞍して円形馬場でのランジングを実施し、終了後には円形馬場内で跨れるまでに至っています。11月初旬には500m内馬場での運動を開始し、先に調教を開始した上記6頭とも近いうちに合流できそうです。

 残る5頭は馬体重が少なかったり体質が弱かったりしたために騎乗馴致の開始時期を若干遅れさせましたが、ここにきて成長が如実に感じられるようになってきたため10月中旬から騎乗馴致を開始しています。現在はまだランジングをはじめて間もない段階ですが、賢い馬ばかりで問題らしい問題は見当たりません。じっくり時間をかけて先を行く17頭に追いついていこうと思っています。

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 1600m馬場で調教中の九州・八戸市場購買馬6頭。前からウィギングの12(牡、父:キンシャサノキセキ)、ニシノアリスの12(牡、父:チーフベアハート)、タイセイローザの12(牡、父:バゴ)、オンワードスワンの12(牝、父:ケイムホーム)、スプラッシュビートの12(牝、父:ショウナンカンプ)、ルックミーウェルの12(牝、父:オンファイア)。順調に調教が進められています。

 

 JR九州が10月15日から運行を開始したクルーズトレイン「ななつぼしin九州」。九州5県を4日間かけて周遊するこの豪華寝台列車は宮崎育成牧場のすぐ横を通ります。7両ある車体には煌びやかな装飾がなされ、全国から大注目を集めるこの列車。我々もこの列車のように、いつも地元の皆様から愛され全国に輝きを放ち続けられるような牧場となれるよう、日々の業務に励んでいきたいと思います。

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 朝9時前に牧場横を通る「ななつぼしin九州」。写真には写っていませんが、居合わせた育成馬たちは後ろで一様に驚いた顔をしていました。

本格的に育成業務を開始しました!(宮崎)

 去る8月29日、サマーセールで購買した16頭が宮崎育成牧場に入厩しました。北海道から馬運車に揺られ続けること48時間。疲れていないはずはないのですが、初めて降り立つ宮崎の地で元気一杯の姿をみせてくれました。輸送環境に恵まれたこともあり、輸送性肺炎を発症したり疲労のために休養を余儀なくされたりする馬はおらず、非常に順調な長距離輸送を実施することができました。

 

 宮崎に到着した馬たちはマイクロチップを用いた個体識別と入厩検疫用の採血を行った後、「アナボリックステロイド」検査を行うための採尿を実施しました。JRAでは毎年、市場で購買した1歳馬のアナボリックステロイド(AS)検査を実施しています。筋肉増強作用を有するASは競馬の公正を害する「禁止薬物」に指定されており、繁殖機能に障害を与えることからも、使用するべきではない薬物です。購買馬が「アナボリックフリー」であることを確認するため、今年は全国の市場で購買した40頭分の尿検査に加え、全馬の血液検査も実施しています。日本競馬のイメージを損ねるASが、今後も使用されないことを願っています。

 

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宮崎到着後にAS検査用の採尿を行うシンコウイマージンの12(牡、父:アジュディミツオー、サマーセール購買馬、購買価格:525万円)。初めての環境にも臆せず、堂々とした振る舞いを見せる期待馬です。

 

 さて、今回16頭が無事に入厩したところで、今シーズン育成する22頭(牡10頭、牝12頭)が揃いました。これからは基礎体力を養成するための長期間の夜間放牧と、騎乗馴致開始に向けた「しつけ」をじっくり行います。今年の22頭は(現時点では)皆大人しく、体温計を用いた検温や裏堀り、馬体洗浄などが行えるようになるまであまり時間を要しませんでした。10年前の育成馬と比較したら本当に驚くほど大人しく、扱いやすい馬ばかりです。これは生産牧場の技術・意識が高くなり、子馬のうちからしっかりと手をかけられているためだと思います。さらに、セリ上場前にコンサイナー(立ち姿や歩き方、馬体のつくりや毛ヅヤ、躾などを改良して好条件で売却できるように委託される業者)による躾がしっかりなされている馬が増えてきたため、大人しいだけでなく人間との信頼関係が構築されている馬も多くなりました。

 

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入厩から1週間、馬体の洗浄を行う牝馬。写真左がバブリングブライドの12(牝、父:タニノギムレット、セレクションセール購買馬、購買価格:525万円)、写真右がロージーズシスターの12(写真右、牝、父:スペシャルウィーク、サマーセール購買馬、購買価格:525万円)。顔にシャワーをかけられても平気になりました。

 

 入厩してしばらくは環境に慣らす目的で昼放牧を実施しますが、今回入厩した16頭は宮崎の環境にすぐ慣れたため1週間足らずで夜間放牧に移行しました。現在は先に入厩していた6頭を含む全馬22頭が夜間放牧を行っています。

 

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早朝、青々とした放牧地で夜間放牧を行うメジロレーマーの12(牡、父:ハーツクライ、購買価格:1,417.5万円)。兄にフィールドルージュがいる良血馬です。

 

 先に入厩した6頭の騎乗馴致も非常に順調です。現在はラウンドペン(円形馬場)内で騎乗して、速歩ができるまでになりました。今後500m馬場での騎乗に移っていきますが、慎重かつ大胆に進めていきたいと思います。

 

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補助者が離れて速歩運動を行うウィギングの12(牡、父:キンシャサノキセキ、購買価格:693万円)。9月下旬から500m馬場での運動を開始します。

 

 『魅せる育成』をコンセプトに開かれた育成業務を展開している当場では、8月25日に開催したイベント「馬に親しむ日」で育成馬の展示を行いました。当日ご来場いただいた地元九州の皆様にお披露目したのは「九州産馬」ルックミーウエルの12です。ご来場いただいた2,680名のお客様の前で、牝馬ながら帯同馬なしで凛々しい立ち姿を披露できました。

 

Photo_5イベントで地元の皆様にお披露目されたルックミーウェルの12(牝、父:オンファイア、購買価格:325.5万円)。当日は生産者の本田土寿氏も応援に駆けつけました。

 

 『魅せる育成』第2弾として予定しているイベントは、昨年も開催した「一般市民向け育成馬見学会」です。10月19日(土)の午後、ご来場いただきました皆様に育成馬22頭の比較展示を行う予定です。詳しくは場内の掲示板もしくは宮崎育成牧場ホームページのイベント情報をご覧ください。職員一同、皆様のご来場を心よりお待ちしております。

今シーズンの育成馬が入厩しています!(宮崎)

 今年も例年よりも2週間早く2歳馬のデビュー戦がはじまりました。2013JRAブリーズアップセールでご購買いただいたJRA育成馬も、順調かつ続々とデビューし、その走りに一喜一憂する日々です。7月21日現在、宮崎育成牧場で育成した2歳馬はまだ勝ち上がっていませんが、今後の活躍に期待しています。

 去る7月7日(日)の福島競馬場で、昨年宮崎育成牧場を巣立ったフレックスハート号(牝馬、父:ハーツクライ、育成馬名:デヴォアの10、木村哲也厩舎)が未勝利戦を勝ち上がりました。好スタートから道中しっかり我慢して、最後はあっさり抜け出して完勝、という素晴らしい内容でした。オーナーならびに厩舎関係者の皆様、おめでとうございます。

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写真1:3歳未勝利戦を勝ちあがったフレックスハート号。今後末永い活躍を陰ながら応援しています。

 

さて、宮崎育成牧場には既に6頭の1歳馬が入厩し、来年のデビューに向けた準備を開始しています。最初に入厩したのは九州市場で購買したルックミーウエルの12(牝馬、父:オンファイア、購買価格:325.5万円)。小柄ながら均整の取れた馬体をもち、展示での動きの柔らかさが目を引きました。6月14日に入厩し、現在の馬体重は360Kg。青草が豊富にある放牧地で夜間放牧を長期間行うことで、馬体の成長を促しているところです。

今月4日には八戸市場で購買した5頭(牡3、牝2)が入厩しました。この中で、最も目を引くのは新種牡馬キンシャサノキセキを父に持つウィギングの12(牡、購買価格:693万円)です。八戸市場の比較展示では、品のある顔立ちと大物感のある立ち居振る舞いで多くの購買者から注目を集め最高価格馬となりました。八戸から宮崎までの48時間余の輸送でも微塵の疲れも見せず、到着後に行った環境に慣らすための放牧で他の牡馬2頭を圧倒して、既に群れのボスとして君臨しています。

 

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写真2:早朝、青々とした放牧地で夜間放牧を終える八戸市場購買の牡馬3頭。群れを率いるのはウィギング12(写真左)。ボスの座を虎視眈々と狙うのは、ニシノアリスの12(写真中央、牡、父:チーフベアハート、購買価格:693万円)とタイセイローザの12(写真右、牡、父:バゴ、購買価格:315万円)。

 

これら6頭の育成馬たちは、夜間放牧(夕方16時から放牧に出して翌朝8時に収牧する放牧形態)と1日20分程度のウォーキングマシン運動で基礎体力作りを行っています。これに並行して手入れや引き馬などの馴致(訓練)を行い、7月24日から本格的な騎乗馴致を開始しました。順調であれば、サマーセールで購買する馬たちが宮崎に来る頃には500m馬場での軽運動が行えているかもしれません。

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写真3:夜間放牧から戻り、手入れ中の牝馬。はじめは怖がった温水シャワーでの全身洗浄も、気持ちのよいものだとわかった今は大人しく受入れています。写真左が九州産馬ルックミーウエルの12。右がスプラッシュビートの12(牝、父:ショウナンカンプ、購買価格:262.5万円)。

 

宮崎育成牧場では、昨年までに引き続き『魅せる育成』をコンセプトに、開かれた育成業務を展開します。昨年10月にも開催した「一般市民向け育成馬見学会」をはじめ地元学生向けの講習会などを行うことで、1人でも多くの人に宮崎育成牧場の育成業務を知ってもらい、育成馬を応援してもらうことが目的です。今年の『魅せる育成』第1弾は、8月25日(日)に当場で開催する「馬に親しむ日」での育成馬展示です。これまで同様、地元九州の皆様へのお披露目は「九州産馬」ルックミーウエルの12を予定しています。当日は4,000名近い来場者が見込まれるため、慣れない環境でも落ち着いて展示できるように事前に念入りな場所慣らしを行いたいと考えています。

JRA宮崎育成牧場では、馬主・調教師はもちろん購買関係者の皆様にいつでも育成馬をご覧いただけるよう環境を整えております。お近くにお越しの際には育成牧場にご連絡いただき、元気に過ごす育成馬たちをご覧ください。育成牧場職員一同、皆様のご来場を心よりお待ちしております。

育成馬展示会を開催しました(宮崎)

 宮崎育成牧場では、3月25日(月)に育成馬展示会を開催しました。今年の宮崎は例年より雨が多く、前日まで雨が残ったため天気の心配が最後まで付き纏いましたが、展示会当日には宮崎らしい絶好の日和の中で、約60名の馬主・調教師・生産者および来賓の皆様のご来場をいただき、この宮崎の地で鍛えられた若馬たちの様子をじっくりご覧いただくことができました。ご来場いただきました皆様、本当にありがとうございました。

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馬主・調教師をはじめ、多くのお客様にご来場いただき、盛況な育成馬展示会となりました。

 開会の挨拶に続き、JRAブリーズアップセールに上場予定の育成馬全22頭をご覧いただく「比較展示」を行いました。牡牝別の合計6班にわけ、3~4頭ずつ7分程度の時間で各馬の仕上がり具合を確認していただきました。調教前のフレッシュな状態をご覧頂くため元気を持て余す馬が出るのではないかと心配しましたが、事前に練習を繰り返したためおとなしく駐立できた馬が多かったように思います。ブリーズアップセールにはさらに多くのお客様が来場されるため、その雰囲気に圧倒されないようにさらに練習を続けるつもりです。

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各馬の様子をじっくりと確認していただくことができました。多くの来場者が注目するサンセットムーンの11(牡、父:ステイゴールド、ブリーズアップセール上場番号:17番)。

 比較展示後には、会場を1600mダートコースに移して10頭の騎乗供覧をご覧いただきました。これまで宮崎育成牧場で取り組んできたインターバルトレーニングの様子をご覧頂くため、内馬場でのウォーミングアップの後に6ハロンの駈歩を2本行う「通常メニュー」を供覧しました。1本目のキャンターは縦列で実施し、ラスト3ハロンを18-18-18秒程度で走行しました。走りたい気持ちをマックスまで高めた2本目は併走で実施し、ラスト2ハロンを14-14秒の指示で走行しました。宮崎で鍛えられた育成馬たちの、元気溢れる動きをご覧いただけたのではないかと思っています。

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元気一杯の走りを見せた牝馬2頭。内(白帽)がウエスタンバスターの11(牝、父:ブラックタイド、ブリーズアップセール上場番号:49番)、外(青帽)がアイビスティアラの11(牝、父:ヨハネスブルグ、ブリーズアップセール上場番号:30番)。ラスト2ハロンは13.9-13.5(秒/ハロン)でした。

 例年、騎乗供覧しない馬たちの調教は午前中に終わらせていました。しかし、多くの関係者から「午前中だと見に来ることができない」との声が寄せられたため、今年は展示会終了後の15:00頃から9頭の調教を行いました。参加していただいた多くの皆様に残っていただき、騎乗供覧と同内容の調教をご覧頂くことができました。来年以降は開始時間も工夫してさらに多くの人が参加しやすいイベントにしていきたいです。

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併走調教する青森産馬2頭。内(白帽)がグランドアピアの11(牡、父:キャプテンスティーヴ、ブリーズアップセール上場番号:19番)、外(青帽)がカリカーの11(牡、父:カリズマティック、ブリーズアップセール上場番号:41番)。ラスト2ハロンは14.9-14.5(秒/ハロン)でした。

 育成馬の場合、展示会のような強負荷の調教後には疲労が残りやすく、体調を崩すことも少なくありませんし、運動負荷が強すぎて跛行することもあります。さらに、4月中旬にはセール会場となる中山競馬場に入厩するため、24時間の馬運車輸送も待ち構えています。

 普段よりさらに細心の注意が必要になるこれからの時期、各馬の状態に応じた調教・調整を心がけ、肉体的にも精神的にも健康な状態でブリーズアップセールに臨めるよう努力する所存です。育成馬のゴール地点はブリーズアップセールではありません。夏に始まる競馬デビューに向けて、最高の状態を作る準備をすることこそが、我々宮崎育成牧場 育成チームの「仕事」なのです。

隊列の使い分け(宮崎)

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桜が咲くと春の到来を感じます。朝夕もほとんど冷え込まなくなってきました。

 JRAブリーズアップセール開催まで約1ヶ月となりました。宮崎育成牧場では、育成馬のスピード調教が計画通り順調に進められています。現在は内馬場(500m馬場)でのウォーミングアップ後、1600m馬場にて1200mのキャンター2本(ベーススピードは1ハロン19秒程度)を実施しています。スピード調教(インターバル2本目をラスト3ハロン45秒程度)を週に1~2回、ハロン20秒で2000mを一本で走りぬくスタミナ強化調教を週に2回実施しています。ほとんどの馬が手綱を抑えて走りたい気持ちを温存させながら、指示どおりのタイムで走れるようになってきました。イメージどおりの調教ができた日には思わず頬が緩んでしまいますが、日々のケアを怠らず万全の体勢でセールに望みたいと思っています。

 宮崎育成牧場では、調教内容や馬の精神状態を見て4つの隊列を使い分けます。休み明けの月曜日や馬がピリっとしてきた時などには「一団」で調教を行います。これは群れの中で走らせることで馬はリラックスし、自然な動きをみせてくれるためです。騎乗調教を開始した直後にも、前後左右に馬がいる環境に慣れさせ前馬のキックバックに抵抗しない精神力を養うことを目的として、一団調教を多用します。

 スピード調教の際には「併走」で調教を行います。隣を走る馬に負けない気持ち(闘争心)を養うことが目的で、各馬の能力や調教進度、相性の良し悪しを考慮してパートナーを決定します。パートナー選びはかなり慎重に行っています。というのも、相手の選択を間違えるときれいな併走調教ができないだけではなく、大きく遅れた馬が心に傷を残してしまうことになるためです。最終的にはstirrup-to-stirrup(アブミとアブミがぶつかる位の間隔)で走れることが目標なので、スピード調教をしながら横の間隔を詰める練習が続きます。

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1600m馬場での3頭併走調教。外(右)がカリカーの11(牡:父カリズマティック)、中がエンゼルアーチの11(牡:父ゴールドアリュール)、内(左)がエンジェルステージの11(牡:父ブラックタイド)。横の間隔を詰める練習をしているところです。

 縦列調教は、4頭程度のグループで前の馬と指定された間隔を開けて走行します。先頭を走る馬は騎乗者の指示に従いひるまず前にいく練習ができ、後続の馬たちは馬の後ろで走りたい気持ちを我慢することで推進力を養うことができます。先頭は毎日交代し、どの馬も先頭ができるようになることが目標です。

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1列での調教。先頭がカメレオンの11(牝:父バゴ)、2番手がウエスタンバスターの

11(牝:父ブラックタイド)、3番手がビッグキャンドルの11(牝:父ダンスインザダーク)。今後、前馬との距離を徐々に開いていきます。

 調教の最後のステージで行うのが「単走」調教です。一列調教ができるようになったら、前の馬との間隔を少しずつ開いていき、最終的には2ハロン程度開けてスタートできるようにします。周囲に馬がいないことに不安を感じる馬もいますが、騎乗馴致のときから培ってきた騎乗者との信頼関係があれば問題ありません。不安に思う馬をなだめ、走ることに集中させて真っ直ぐ走らせることが騎乗者に求められます。ブリーズアップセールでの騎乗供覧は、基本全馬が単走です。セール出発までの残り1ヶ月、全22頭を単走でお披露目できるようにしっかり練習をつんでいきたいと思います。

 セールまでの残された時間をカウントダウンするようになると、22頭との様々なエピソードが思い出されます。放牧から帰るのを嫌い逃げ回った馬、治療が嫌いで全力で抵抗し1本の注射をするために1時間近く格闘した馬、多頭数での調教が苦手で騎乗者を何度も振り落とした馬など。当時は今後のことを考えて眠れないほど悩んだりもしましたが、今振り返ると懐かしく感じます。

 曖昧になった記憶を辿る際、昨年売却馬から開始した各馬別の「育成馬の日誌」をみると当時のことが鮮明に思い出されます。その日騎乗した職員が記入する日誌には、毎日の調教内容や治療経過などに加えて調教時の問題点や明日への課題なども記入し、騎乗者が替わる際には引継ぎでも使用しています。ある新鋭厩舎で使用しているのを真似てはじめたこの日誌、とても役に立っています。

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毎日記入している日誌。短いながらも、その馬と歩んできた歴史が詰まっています。

 さて、宮崎育成牧場では3月25日(月)13時から馬主・調教師の皆様を対象とした育成馬展示会を開催いたします。当日は13:10頃から6班に分けて全馬をご覧頂く「比較展示」を、14:10頃から10頭程度の調教状況をご覧頂く「騎乗供覧」を行います。騎乗供覧終了後にはご指定の馬を再度ご覧頂ける自由展示も行います。ご購買をお考えの皆様、是非温暖な宮崎の地へ足を運んでいただけたらと思います。また、昨年までは展示会で騎乗供覧をしない馬の調教を当日の朝実施していましたが、本年は育成馬展示会終了後の13:40頃から行います。お時間が許しましたら是非ご覧ください。

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暖かい宮崎の地で、皆様のお越しをお待ちしております。

【ご意見・ご要望をお待ちしております】

平素はJRA育成馬ブログをご愛読いただき誠にありがとうございます。当ブログに対するご意見・ご要望は下記メールあてにお寄せ下さい。皆様からいただきましたご意見は、JRA育成業務の貴重な資料として活用させていただきます。

アドレス jra-ikusei@jra.go.jp

ヴァイタルウォーク(宮崎)

 北海道では恒例の札幌雪祭りが開催されるこの時期。全国的に寒い日が続いていますが、南国の地 宮崎では2月とは思えないような暖かく過ごしやすい日々が続いています。2013年に入り、最高気温が10℃を下回ったのはわずか数日、全国的に暖かくなった24日には最高気温が23℃まで上昇しました。

 今春、宮崎県ではプロ野球5球団のキャンプに加え、WBC日本代表(侍ジャパン)の春季合宿も行われます。サッカーJリーグのキャンプまで含めると実に26チームが宮崎県内でキャンプを行う予定で、温暖な宮崎の気候がアスリートの調整に適していることを証明しているのではないでしょうか。育成馬たちも温暖な気候の中、青々とした生牧草を頬張りながら今夏のデビューに向けた鍛錬に励んでいます。キャンプの見学などで宮崎にお越しの皆様、宮崎育成牧場に立ち寄られてはいかがでしょうか。毎週土曜日には調教公開も行っています。是非お越し下さい。

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【写真1】:雨上がりの育成厩舎。「空が広い」宮崎では綺麗な虹のアーチを見ることができます。

 現在22頭すべての育成馬が順調に調教を消化しています。先月から本格化した1600m馬場の調教ですが、現在は内馬場(500m馬場)でのウォーミングアップ後、1600m馬場に入り1200mのキャンター2本(ベーススピードは1ハロン20秒程度)を実施しています。週2回程度行うスピード負荷日(2本目をハロン17程度)でも、調教後の息遣いもスムーズでまだまだ物足りない顔をしている馬もおり、今から楽しみが尽きません。

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【写真21600m馬場で併走の練習を行う2頭。外(右)が青森産馬グランドアピアの11(牡:父キャプテンスティーヴ)、内(左)が九州産馬マヤノビジューの11(牡:父ケイムホーム)。この日の調教タイムは、最後の3Fが20.1-18.3-17.2/Fでした。

 JRAの両育成牧場では、調教後のクーリングダウンを「ヴァイタルウォーク(Vital Walk)」で行えるよう常に意識しています。ヴァイタルウォークとは、全身を使った闊達な常歩のことをいいます。JRA競走馬総合研究所のデータによりますと、ヴァイタルウォークを行った際、通常の常歩を行う場合の心拍数と比較して約1014拍/分も上昇します。これは同じスピードで3%の坂道を上っているのと同じ負荷に相当するそうです。時間をかけた速い常歩、すなわちヴァイタルウォークは結構な運動量になることがわかります。調教終了後の育成馬をのんびりとした常歩でリラックスして歩かせてあげたい、とも思いますが、ヴァイタルウォークを行う有益性を考えると馬たちには頑張ってもらわざるを得ません。

 宮崎育成牧場では、今年からヴァイタルウォークを実践するためクーリングダウンを行う際に常歩のタイム測定をしています。1600m調教馬場の裏手にある杉林にスタート地点とゴール地点を決め、この常歩区間をどの馬が最も早く歩くことができるかを競い合います。測定タイムは職員皆の目に触れるところに貼り出し、競争心を煽ることで馬を早く歩かせる、すなわちヴァイタルウォークを誘起します。開始前の平均タイムが340秒程度、現在は同じ距離を310秒程度で歩けるようになりました。ブリーズアップセールに登場する頃にはヴァイタルウォークが身についた馬に育っていて欲しいものです。

 

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【写真3】調教が終わり、杉林でヴァイタルウォークに励む育成馬たち。ついて歩く調教監督者も汗をかくほどのスピードで歩けるようになりました。

 さて、「魅せる育成」に取り組んでいる宮崎育成牧場ではこれまで、「一般の方々向けの育成馬見学会」や毎週土曜日に1600m馬場での調教をご覧頂く「調教公開」などを実施してきました。これらは地元宮崎の方々に育成馬やその調教風景を見学していただく機会を設け、育成牧場の業務内容を披露することで競馬やJRA育成馬に対する更なる興味を喚起することを目的として実施しています。

 29日(土)には宮崎育成牧場で初の試みとなる「調教見学会」を開催しました。過去の見学会に来場されたお客様を招待して、調教やウォーキングマシン運動、ゲート練習の様子をはじめ、馬房で過ごす育成馬の素顔など普段見ることのできない「バックヤード」部分についてもご紹介しました。来場された23名のお客様は、調教担当者の解説を聞きながら真剣な眼差しで調教に臨む育成馬たちをみておられました。短い時間ではありましたが、これから活躍が期待される若きアスリートの姿を見てお楽しみいただけたものと思います。

 今後とも、ウインズ宮崎に来場された皆様や育成牧場に遊びに来られた方々に育成馬を披露する機会を定期的に設け、育成馬の成長する様子を楽しんでいただける環境を作っていきます。これらの機会を通じて育成馬に興味を持っていただくことで競馬が好きになり、競馬産業の裾野が少しでも広がることこそが、私たち宮崎育成牧場職員の願うところです。

南国の冬 (宮崎)

年が明け、冬本番の宮崎で育成馬達は元気に調教を積んでいます。

南国とはいえ、宮崎でも冬は氷点下に冷え込むことも珍しくありません。少々問題となるのが、馬場がそれまでの雨などによる水分を多く含んでいる場合です。早朝からハロー掛けなど対応を試みるのですが、冷え込みが厳しい場合はハローの爪も入らない程固まってしまいます。こうなると自然融解を待つことになります(宮崎の冷え込みは、ほぼ放射冷却によるもの。従って冷え込む日は、ほぼ快晴!)。太陽が昇ると、みるみる馬場は使用可能な状態に戻り、南国の太陽のパワーを実感できます。

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時には凍結する宮崎のダートコース

海の砂を使用しているため、砂には小さな貝殻がたくさん混じっています。全国的にも珍しい!?

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放牧地で草を食むシーソングの11(牝:父バゴ

厳冬期でも、放牧地には豊富な青草。暖地での育成の利点です。

これまでは、入厩時期によって馴致のステージが異なり1群と2群に分かれていた育成馬達は、年明けからは牡牝それぞれ1グループで調教を行っています。これまでの6~7頭程のグループからそれぞれ11頭へ頭数も増え、馬体の成長も伴い調教に迫力が増してきました。

多頭数の調教では、他の馬を過度に気にする馬もいれば、多頭数の方が落ち着く馬もいて様々です。例年と比較して、全体的に概ね落ち着いている印象です。

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集団調教:宮崎“ALL牡”調教

にぎやかな朝の調教風景。先頭はエンジェルステージの11(牡:父ブラックタイド

1600m馬場での本格的な調教も始まっています。多くの馬が安定して真っ直ぐに一定のスピードで走ることが出来るようになってきました。現在は隊列を工夫し周囲の馬のプレッシャーに慣れる調教を積み重ねています。

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1600m馬場での調教風景

例年取り組んでいるインターバルトレーニング、6F(1200m)×2

2本目は併走の練習。

外:サンセットムーンの11(牡:父ステイゴールド)内:オマイタの11(牡:父ヨハネスブルグ

この日の調教タイムは、最後の3F、20.4―19.9-20.0秒/

まもなく、ウインズや公園へお越しのお客様に調教を公開する予定です。土曜日には調教ゼッケンを装着し、当日の調教メニュー等をご案内いたします。

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      宮崎の新年の参拝は青島神社・裸参りです。筆者は3回目の参加。

      育成馬の活躍と競馬の益々の発展を祈念してまいりました。

育成牧場の冬仕度(宮崎)

南国宮崎も冷え込む日が多くなり冬が近づいてきたようです。

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写真1.牧場内で育つスウィートスプリング

まだ、あまり知られていない柑橘類。見た目に反し糖度が高く美味。食べ頃です。

育成業務は馴致を終え1600m馬場で本格的な調教を開始したところです。総駆歩距離2700m、走速度は約20秒/ハロン(1ハロン≒200m)の調教を毎日積み重ね体力の増強を図っています。

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写真2.以前に紹介した蟻洞を伴った蹄

蹄壁も成長し疼痛も緩和。接着装蹄から通常の装蹄に切り替え順調に調教を実施しています。

調教に励む職員の中に、昭和47年のJRA入会以来、宮崎一筋で育成馬の騎乗に取り組んできた人がいます。来年の9月に定年を迎えるため騎乗するのは現在入厩している育成馬が最後の世代となります。通常、体力の衰えなどから、一定の年齢までで育成馬の騎乗をとりやめることとしています。定年まで騎乗を続けることは、技術が維持されていることはもちろん、本人の強い意思・信念があってこその、極めて稀な例です。40年の間に携わった担当馬は100頭に迫るとのこと、入会以前は馬に触ったこともなく、この宮崎で技術の研鑽を重ねてきました。若馬に負担をかけない綺麗な前傾姿勢を保った騎乗姿は、年齢を感じさせることがなく、若い職員の良い手本となっています。

この方の40年間が決して順調だった訳ではなく、落馬での骨折入院のほか、大病を患い生死の境をさまよったこともあったと伺っています。その時もベッドの横には育成馬の写真を掲げ、病を克服した後にはもう一度育成馬に騎乗するという強い信念をもって闘病生活をおくっていたとのことです。

毎朝の調教で親子程歳の差のある若手職員と育成馬を通じて熱心に騎乗論や管理技術論を交わす姿をみると、生涯をかけて育成業務に取り組んできた情熱を改めて感じずにはいられません。

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写真3.1600m馬場で調教を行うグランドアピアの11(牡・父キャプテンスティーヴ)とI職員(1953年生)

また、宮崎育成牧場では冬を前にクリッピングを行っています。これは、冬季の調教による汗や馬体洗浄後の乾燥を容易にし、用途に応じた馬服を着せることにより被毛管理と腹部の冷えを防ぐために実施しています。

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写真4.クリッピングを施されたレイナフェリスの11(牡・父アルデバラン

冬を迎える準備が日に日に整っていきます。