今シーズンの育成馬第1号が入厩しています(宮崎)

今年は例年よりも2週間早くデビュー戦が始まっています。2012JRAブリーズアップセールで売却したJRA育成馬たちも続々デビューし、その走りに一喜一憂する日々です。2歳戦に限った話ではありませんが、レース発走前には育成担当者同士で育成期を回想し当時の思い出話に花が咲きます。ゲートが苦手な馬、全力を振り絞って注射を回避しようとする馬、なかなか環境に慣れず飼葉を食べない馬など。苦労した育成馬ほど過去の記憶が鮮明に残っており、彼らが無事に出走し、ゴールした瞬間に目頭が熱くなる、そんな幸せな時間を過ごしています。

一方、「Big Dream Stables」宮崎育成牧場には次世代の1歳馬が入厩し、来年のデビューに向けたスタートを切っています。今シーズン最初の入厩馬は九州市場で購買したマヤノビジューの11(牡、父:ケイムホーム、購買価格:399万円、熊本産)で、68日に入厩しました。現在は本格的な馴致開始に備えて引き馬や手入れの馴致を行いつつ、夜間放牧とウォーキングマシン運動で基礎体力作りに励んでいます。

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写真1:夜間放牧を行っているマヤノビジューの11。猛暑となる日中は馬房で過ごし、涼しい夜間に放牧しています。入厩時の馬体重は392Kgでしたが、一回り大きくなった現在は409Kg。毎日広い放牧地を闊歩し、栄養満点の青草を頬張っています。

環境に慣らすため、はじめの2週間程度は昼間放牧を行いました。通常、夜間放牧は複数頭で行うのですが、一緒に放牧する育成馬がいないため帯同馬(乗馬)をつけて2頭で放牧することとしました。はじめて合流させる馬同士の放牧では、怪我などの危険が伴います。特に牡馬の場合、順位付けの行動として立ち上がって「相撲をとる」などの行動が避けられません。リスクはありますが、青草(イタリアンライグラス)をたっぷり食べることで馬体の成長を促し、群れで適度な運動をすることで基礎体力が養成されることを見込んで集団放牧を行っています。

この2頭は相性がよく共に大人しかったため、群れとして落ち着くまでに時間はかかりませんでした。大きな帯同馬(馬体重530Kg)とそれに寄り添い青草を頬張るマヤノビジューの11の姿は、まるで親子のようです。

牧後、9月から始まる騎乗馴致に備えて引き馬と手入れの馴致が行われます。これは人馬の信頼関係を築き、扱いやすい馬をつくる礎となる大変重要な作業です。引き馬は、馴致・調教で使用する様々な場所(調教馬場やゲートなど)を人の指示に従って歩けるよう繰り返し行います。手入れ馴致は、検温、ブラッシング、裏堀りおよび全身のシャワー洗浄などを行います。

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写真2:現在は全身洗浄にも慣れ、顔にシャワーをかけられても気持ちよく!受け入れています。

さて、話は変わりますが、『魅せる育成』に取り組んでいるJRA宮崎育成牧場では、自分たちの行っている育成業務を一人でも多くの人に見てもらおうと考えています。一般のお客様向けの育成馬展示会などは昨年同様に実施する予定ですが、それに先駆けて、826日(日)に当場で開催する『馬に親しむ日』というイベントの中で育成馬の紹介を行う予定です。昨年の同イベントでは、地元宮崎県で生産されたビューティサツキの10(競走馬名:エスペランサ、牡、高市厩舎)を紹介しました。当初は大勢の来場者がいる前で展示することに不安もありましたが、連日行った馴致の甲斐もあり堂々とした立ち居振る舞いを披露できました。今年もしっかり馴致を行い、多くの来場者の皆さんに披露したいと考えています。

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写真3:イベント展示会場の前で場所に慣れさせているマヤノビジューの11(左)。最初は落ち着きませんでしたが、馴致を重ね、多少のことでは動じなくなりました。右の写真は昨年展示したビューティサツキの10

2011軽種馬統計(日本軽種馬協会発行)によると、この世代の国内生産頭数は7,069頭おり、このうち九州産馬は73頭(牡37、牝36)です。全生産馬の約100分の1である九州産馬。地元九州で生産され、宮崎育成牧場で育成したJRA育成馬には特別な思い入れがあります。今年育成する同馬が逞しく成長できるように、しっかりとした土台作りに励みたいと考えています。

 

育成馬展示会開催(宮崎)

宮崎育成牧場では3月26日に平成24年度JRA育成馬展示会を実施いたしました。

宮崎らしい快晴の空のもと、約70名の馬主・調教師・生産者の方々および来賓の皆様のご来場をいただきこの宮崎の地で鍛えられた若馬たちの様子を皆様にご覧いただきました。

開会の挨拶に続き、全23頭の育成馬をご覧いただく「比較展示」が行われました。本年も牡牝別の合計4班にわけ、5~6頭ずつの各班を10分程度の時間で、各馬の仕上がり具合をご覧いただきました。ほとんどの馬が堂々と振舞っていたのですが、事前に何度も実施した駐立練習では完璧な駐立ができていた馬の中に日頃と異なる雰囲気に圧倒され落ち着きを失ってしまう馬も散見されるなど新たな課題も明らかとなり、中山での比較展示では落ち着いた馬の様子をご覧になっていただけるようさらに練習を続けるつもりです。

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写真1.比較展示の様子

一般市民の方を対象とした見学会を別途設けること(詳細は後述)で、混雑の緩和を図り、本年はじっくりと育成馬の様子をご覧になっていただきました。

今回の騎乗供覧は、本年度当場で取り組んでまいりましたインターバルトレーニングの様子をご覧になっていただきました。すなわち、6ハロンの駆歩調教を2本供覧いたしました。

1本目を最後の2ハロンを18秒程度で走行し、引き続き2本目では最後の2ハロンを多くの馬が走りたい気持ちをためた状態で13秒台の走行をし、しっかりとした動きをご覧いただくことができたのではないかと思っております。

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写真2.騎乗供覧の様子 

内白帽デヴォアの10(父ハーツクライ)、外青帽フェアリーステップの10(父ネオユニヴァース)当場が誇る牝馬2頭の併せ馬。馬の行く気に任せた自然の動きで息の合った併走を披露し、タイムもほぼ指示通りの最後の2ハロン14.2-13.1。

今後も個体ごとの状態に応じた調教・調整を心がけ、すべて馬たちが肉体的にも精神的にも健康な状態に仕上げ4月24日のブリーズアップセールを迎えられるよう、努力してまいります。

また、本年度の新たな試みとして、例年多数訪れていただいている一般市民の方を対象とした見学会を別に設けております。見学会は4月7日(土)14時から宮崎育成牧場育成厩舎で実施いたします。どなたでもご覧になれますが、当日の調教供覧は実施せず比較展示のみの実施となり、雨天の場合は中止させていただきますのでご承知おきください。お近くの方はどうぞ宮崎育成牧場にお越しになり成長した育成馬の様子をご覧ください。

○事務局より

 2012JRAブリーズアップセールの調教DVD映像はこちらからご覧になれます。

「育成馬を知ろう会」を開催しました(宮崎)

3月に入っても厳しい寒さが残る日本列島。しかし、宮崎育成牧場では春の気配を感じることが増えてきました。日中は気温が20度を上回ることも多く、調教中には小鳥がさえずります。騎乗者もジャンパーを脱ぎ、半袖で1日を過ごす者も少なくありません。

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場内の桜にも花がつき、だいぶ春らしくなってきました。

育成馬の調教ですが、年明けより1,200mのキャンターを2本行うインターバルトレーニングに取り組んでおり、2月中旬からはスピード調教を開始しました。現在は2本目のキャンターをラスト3ハロン45秒程度(ハロン15秒程度)で走る調教を行っており、基礎体力(心肺機能や筋力)が向上した育成馬たちをみてとても頼もしく、心強く感じます。

 さて、当場で39日・10日に「育成馬を知ろう会」を開催しましたので簡単にご紹介します。このイベントは、近年馬主になられた方々をお招きし、セリで馬を購買する際の参考としていただくために開催しました。セリで馬を購買する楽しさや購買した馬が競走馬になる過程でどのような調教を行っているかをお伝えするため、馬の見方、選び方および購入する際に注意することなどをご紹介し、育成馬の調教や飼養管理を行っている様子を間近でご覧頂きました。

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育成馬の見方や選び方の説明を行いました。馬は17ロマンスビコーの10(牡、父:シンボリクリスエス

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比較展示の形式で育成馬をご覧頂きました。

JRAブリーズアップセールは、セリに不慣れな方にもわかりやすい「入門編のセリ」として開催しています。その一環として開催されましたこのイベントで、一人でも多くの新規馬主の方々に「セリで馬を買う楽しさ」が伝わり、セリに参加される方が増えることを心より祈っております。

 また、このようなイベントのないときでも、馬主・調教師の皆様にいつでも調教や飼養状態をご覧いただける環境を整えています。一人でも多くの方に育成馬をご覧いただき、ブリーズアップセールで「JRAが育成した馬たち」の関係者になっていただけたら幸いです。セール開催まであと1ヶ月少々、気を引き締めて育成馬の管理にあたりたいと思います。

話は変わりますが、宮崎育成馬の現在の装蹄状況についてお知らせします。セールに上場する全馬の四肢装蹄が229日に終了しました。今年の育成馬は大きな蹄病もなく、装蹄も順調に行うことができました。入厩当時、体も蹄も小さい馬たちの様子をみながら削蹄を行っていたことを懐かしく思い出します。さらに負荷の大きくなるスピード調教に向け、準備万端です。

今回は落鉄により蹄壁の一部が欠損し、釘を用いた装蹄が困難となった育成馬に接着装蹄(釘を使わず、接着剤で蹄鉄を装着する装蹄法)を実施しましたのでご紹介します。ご存知のとおり、ディープインパクト号は接着装蹄を行って出走していました。接着装蹄は蹄壁が欠損して蹄釘での装着が困難な場合や、蹄壁が薄く蹄釘によるストレスを避けることが望ましい馬に使用されますが、育成馬にもこのような装蹄技術は応用されています。現在、同馬はブリーズアップセールに向けて順調に調教をこなしています。

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接着装蹄を施した蹄。調教も順調にこなしています。

宮崎は気候が温暖で年中青草を食べられるため、馬体や蹄の成長には最高の環境といえます。現在、宮崎育成牧場では育成期の調査研究の一環として蹄壁がどの程度伸びるか調べています。また、日照時間の短くなる12月からは半数の馬にライトコントロール法を実施し、ライトコントロール法の有無で蹄壁の成長に違いがあるかについても併せて調査しています。10月から始めた調査で、12月までは見られなかった両群間の成長の差が、12月以降ライトコントロール法を開始した群で蹄壁の成長が早くなる傾向が見られました。今後も調査を継続し、データがまとまりましたらお知らせしたいと思います。

ブリーズアップセールまであと2ヶ月、スピード調教への移行(宮崎)

早いもので、既に2月の半ばを過ぎました。宮崎も例年と比較すると冷え込みが厳しく、連日の馬場の凍結に加えて、水道管の破裂が相次ぐなど例年にない影響が出ています。

宮崎の育成馬達は、まだまだ大小様々な課題を抱えている馬もいますが、全体的には概ね順調に調教を重ねています。宮崎育成牧場では1200mを2本走行するインターバルトレーニングに取り組んでおり、これまでのところ、2本目のラスト3Fが6054秒程度のステディーキャンターでの調教を根気よく積み重ねてきたところです。

まもなく本格的なスピード調教が始まります。3月半ばにはインターバルトレーニング1本目のラスト3F54秒、2本目のラスト3Fを45秒程度で週2回実施する予定です。

現在はスピード調教の準備段階として徐々に調教強度を強化しています。毎年の事ながら調教強度を上げていくことには不安が付きまといます。十分な基礎体力(心肺機能や筋力)をつけてきたつもりではありますが、調教中の動き、調教後の息遣いや歩様、翌日歩様や脚元の状態など心配事は尽きません。何事もなくホッとすることはあっても、喜んでいる暇などなく、すぐに次の課題が迫ってきます。

馬と向き合うということは、この様に日々目の前の課題をクリアーしていくという事の積み重ねなのでしょうが、振り返ってみると大きな進歩に気付くことがあり、それが大きな喜びや励みになります。

九州1歳市場で購買し6月に入厩してきたビューティサツキの10〔写真3.〕とはもう8ヶ月の付き合いです。入厩時はまだ仔馬の面影を残していた彼が、現在では競走馬の二歩手前くらいまで成長しています。馬体重も381kgから456kgに増加。顔つきも既に競走馬のそれに近づいてきました。

すべての馬が、これから始まるスピード調教も順調に消化し、次のステージに進んでいくことを宮崎育成牧場の職員一同全力でサポートいきます。

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〔写真1.宮崎育成牧場を訪れた珍鳥ヤツガシラ〕

 以前このブログで日高育成牧場を訪れたフクロウが話題になっていましたが、宮崎の吉鳥も負けてはいません。昨年末から宮崎育成牧場に滞在していました。

〔動画2.1600馬場での調教の様子〕

 この日の調教は、500m馬場2周のウォーミングアップの後、1600m馬場で1200mの駆歩を併走で2本。1本目の最後の3ハロンが60秒、2本目は54秒の調教を実施しております。動画は2本目のスタート後のシーンです。

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〔写真3.牡相が漂いはじめたビューティサツキの10の表情〕

今年もよろしくお願いします(宮崎)

皆様、新年あけましておめでとうございます。本年も「育成馬日誌」をよろしくお願いいたします。今年の冬は全国的に寒さが厳しいですが、南国・宮崎も例外ではありません。日中は10℃以上に気温が上昇する日もありますが、朝・夕の冷え込みはそれなりに厳しく、氷点下を記録する日も少なくありません。それでも放牧地には青々とした牧草が豊富にあり、JRA育成馬たちは調教後にフレッシュな牧草を食べることでリラックスしています。南九州地区は冬季の育成を行うのに好適な地であることは明らかです。

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青々とした牧草を仲良く食べるスリリングヴィクトリーの10(写真左、牝、父:ダイワメジャー)とフラワーブリーズの10(写真右、牝、父:ブラックタイド)。日中の気温が上がらない日には、被毛を薄く管理するため馬服を着用して放牧します。

 

調教進度が進むにつれ徐々にテンションが高くなってきていた育成馬たち。年末年始は調教を行わずランジングと放牧のみで管理しました。現在は短期休養でリフレッシュした育成馬たちの本格的な調教を再開しており、1群の10頭は500m馬場で準備運動(速歩500m、駈歩1,000m)を行った後に1600m馬場で1,200mのキャンター 2本(ハロン2218秒程度)のインターバルトレーニングを実施しています。また、1群より遅い時期に馴致を開始した2群は上記2本のキャンター調教(ハロン2220秒程度)を行う日と、2,000m連続したキャンター1本(ハロン22秒程度)を行う日を組み合わせてスタミナ強化に努めています。

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500m馬場で準備運動を行うデヴォアの10(写真右、牝、父:ハーツクライ)とスリリングヴィクトリーの10(写真左、牝、父:ダイワメジャー)。この時期になると準備運動から走りたい気持ちを剥き出しにする馬たち。我慢することを教える騎乗者も必死です。

 

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1600m馬場で併走調教を行うレジェルマンの10(写真左、牡、父:バブルガムフェロー)とステファノティスの10(写真右、牡、父:ファンタスティックライト)。当初は横に来る他馬を嫌い、横の間隔を詰められなかった2頭ですが、現在は併走調教のベストパートナーになりました。

 

 

昨年末に、毎年恒例となっているV200値の測定(参照:育成馬日誌)を実施しました。V200はヒトでは個体ごとの有酸素運運動能力の科学的指標として確立していますが、馬の場合は速度の規定が難しいことや、馬の情動・騎乗者の体重・騎乗技術などが影響し、個体ごとの有酸素運動能力の指標としては精度の高い検査とはいえません。そのため今回も群れ全体の調教進度を判定し、その後の調教内容を考える参考として実施しました。今回測定したのは調教が進んでいる110頭です。これはV200値の測定が、1分あたり200拍の心拍数となる速度を求める検査なので、調教進度の進んでいる1群の馬のみを対象としました。

測定の結果は下表のとおりでした。過去の育成馬達との比較をみると、昨年売却した育成馬に比べてかなり低い値とはなりましたが、過去5年の平均に近似した値となりました。今後有酸素能力を高める調教を順調にこなし、スタミナをつけていくことで、過去の馬たちに追いつき追い越してほしいものです。次回の測定は1月末を予定しており、どのような結果になるか、今から楽しみです。

 

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さて、最後に宮崎馬個別の近況を紹介したいと思います。今回はV200の測定値が最も高かった牡馬です。

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エムケイミラクルの10(父:ケイムホーム)

牡・青鹿毛・八戸市場購買馬(購買価格:840万円)

   

父ケイムホームは23歳時に7,9,10Fで米GⅠに勝利。昨年の2歳新種牡馬ランキングで総合5位(地方1位)にランクインしています。本馬の兄には岩手で大活躍したマヨノエンゼルがいます。八戸市場で注目を集めた好馬体は健在で、美しく薄い皮膚と全身に纏った軟らかい筋肉が自慢です。軽い脚さばきと強い前進気勢を持っており、スタミナも豊富です。

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単走調教を行うエムケイミラクルの10。調教には常に前向きで、前を走る馬がいると耳を絞って追い抜こうとし、騎乗者の腕を痺れさせます。現在の馬体重は492Kgです。

季節の変わり目(宮﨑)

師走に入り、ここ南国宮崎も肌寒い日が増えてきました。

宮崎育成牧場で、最も季節の移り変わりを実感するのは、育成馬達の放牧場所・や放牧頭数などの放牧形態の切り替えではないでしょうか。

入厩時より実施してきた夜間放牧も調教がすすむにつれ、順次グループ毎に昼間放牧に切り替えてきました。

現在早期に入厩し先に馴致を開始した第1群は、駆歩で500mの内馬場を2周した後、1600m馬場で22/ハロン程度のスピードで2000m、合計3000mの駆歩調教を実施しています。9月に入厩した第2群も1600m馬場に入り本格的な調教を開始しています。

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【写真1】 初めての1600馬場での速歩調教

騎乗者の表情には緊張感に加えて、無事に本馬場入りした喜びも漂います。

  

夜間から昼間の放牧への変化に加えて、運動量も個体毎の管理を行うために、単独のパドック放牧へと管理形態が大きく変化しています。

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【写真2】 単独のパドックに放牧されたロマンスビコーの10(父シンボリクリスエス)

パドックにはイタリアンライグラスが青々と茂り、喜び、リラックスした馬の様子がうかがえます。また、宮崎育成牧場では、冬場の被毛管理としてクリッピングを実施しています。

  

これまでは、約16時間広い放牧地で複数頭で自由に運動していた訳ですが、これからは単独で4時間程度の放牧に運動の質・量共に管理されることになります。朝一番に見る馬の顔も大きな変化が見られます。夜間放牧時は、心地よい疲労感を漂わせていた朝の表情は一変し早く外に出て運動したいと眼を輝かせて訴えています。放牧形態など環境の変化に伴う心の変化をストレスとして溜め込むのではなく、走りたい気持ちに変換し調教で十分に発散できるよう我々も工夫を重ねていく所存です。

また、宮崎育成牧場では毎週土曜日に場外発売所や公園にお越しくださったお客様に調教の様子を公開しています。

当日の調教メニュー、取り組んでいる課題、週替わりの育成馬紹介などパンフレットを作成配布し、番号ゼッケンをつけた育成馬達をご覧になっていただいております。宮崎にお越しの際には是非スケジュールに加えてみてください。

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【写真3】 調教公開にお越しいただいたお客様の前で番号ゼッケンを装着し一列で駆歩調教を披露する育成馬達

前から⑯クイーンズバンダムの10(父ザール)、⑮フラワーブリーズの10(父ブラックタイド)、⑬フェアリーステップの10(父ネオユニヴァース)

 

一般の方を対象とした育成馬見学会の実施 (宮崎)

こちら、南国宮崎でも朝晩は肌寒い日が見受けられる気候になってきました。季節の変わり目、夏と秋と冬が混在する、人馬共に体調管理が難しい時期です。

宮崎育成牧場の育成馬達は概ね順調に夜間放牧を継続しながら馴致・調教をすすめています。

夜間放牧については、大雨、特に雷が鳴っている時などは見合わせることがありますが、雨天決行です。夜布団に入り屋根を叩く雨音を聞いていると、外で雨に打たれている育成馬達の事が気になります。翌朝元気な様子を見ると安心するのですが、一般的に育成馬達は、人間が考えているほど雨は気にしていないようで元気一杯です。現在宮崎育成牧場ではGPSを用いて夜間放牧時の行動を調査中です。天候による移動距離等の変化があれば、またご報告させていただきます。

また、夜間放牧を見合わせた翌日については、馴致時の馬の様子を注意深く観察しています。舎飼によりストレスを溜め、馴致への集中力を欠く馬がいるのでしょうか?(逆に言うと、夜間放牧によって疲労し、見かけ上は従順に馴致されている馬がいるのでしょうか?)現在のところ、前夜から夜間放牧を実施しない場合でも、馴致・調教においては大きな変化は見られないようで、夜間放牧を見合わせた翌日は、馴致が順調にすすんでいることが確認できる日でもあります。しかし、担当者からの聞き取り調査では、少数ではありますが、やや元気になる馬がいる一方で、夜間放牧をしないほうが大人しい育成馬もおり引き続き興味がもたれます。

馴致・調教内容につきましては、九州、八戸、セレクトおよびセレクションセールで購買し7月までに入厩した10頭の育成馬達は500m馬場での速歩調教を開始しております(写真1.)。

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【写真1】誘導馬を先頭に500m走路で速歩調教を実施する育成馬先頭:誘導乗馬、2番目:ズーナクアの10(父ダイワメジャー)、3番目:エムケイミラクルの10(父ケイムホーム)

サマーセールで購買し9月入厩した14頭の育成馬達はラウンドペンでのランジングを中心とした馴致を実施しております(写真2.)。

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【写真2】ラウンドペンでロ―ラー、サイドレーンを装着しランジングを行うデヴォアの10(父ハーツクライ)

また、先日1015日に、一般市民の方を対象とした育成馬見学会を実施しました。当日は宮崎市民の方を中心に約30名の方々にお集まりいただき、じっくりと本年度の育成馬たちをご覧いただきました(写真3.)。

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【写真3】見学会の様子 厩舎地区での初めての比較展示にやや緊張気味の育成馬

その様子はローカル局ではありますがテレビでも紹介され、その後の問合せなども相次ぎ新たに興味を持っていただいた方もおられたようです。例年実施している3月の見学会とあわせて、宮崎の季節を感じる風物詩として定着して欲しいものです。

「馬に親しむ日」を開催しました(宮崎)

828日(日)、宮崎育成牧場では当場最大のお客様向け馬事イベント『馬に親しむ日』を開催しました。日差しが容赦なく降り注ぎ気温が30℃を超える猛暑のなか、イベント史上最高の入場人員となる4,100名超のお客様を前に、参加した人馬はこれまでの練習の成果をフルに発揮しました。

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毎年実施している流鏑馬(やぶさめ)実演は、人気の高い演目です。騎乗しているのは宮崎育成牧場の職員。

今年実施したイベントの最大の特徴は、宮崎育成牧場で行っている業務を来場された一般のお客様に紹介する時間を多く取った点です。同イベントでは、これまでも馬を見て、知っていただくだけでなく、一般の方になじみのない「装蹄」を来場者の目の前で実演し、競馬に対する興味喚起を目的に草競馬やポニー競馬の実施などを行ってきました。今年はこれらに加え、育成業務の一部を紹介する目的で、現在育成中のJRA育成馬(1歳)を来場された一般のお客様に披露しました。また、乗馬普及業務を紹介する目的で、障害物を来場者の目の前に置き飛越する姿をご覧頂き、レプリーズと呼ばれる6頭の乗馬が織り成す演技を披露しました。これらすべてが功を奏し、来場された多くのお客様から喜びの声をいただくことができたのだと思っています。

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来場者の目の前で障害物を飛越する育成牧場の職員。飛越する度に歓声があがり、大きな拍手が沸き起こりました。

昨年の同ブログでも紹介したとおり、宮崎育成牧場では『魅せる育成』に取り組んでいます。自分たちの行っている育成業務を一人でも多くの人に見て、触れていただくことで、馬や競馬に興味を持っていただきたいと考えています。昨年実施した一般のお客様向け育成馬展示会などを今秋実施する予定ですが、それに先駆けて育成馬紹介を『馬に親しむ日』の中で行いました。

紹介した育成馬は、同世代唯一の九州産馬ビューティサツキの10(牡、父:ジャイアントレッカー)です。同馬は地元宮崎県で生産された馬であることから、県内外からの来場者から注目が集まりました。当初は大勢の来場者がいる前で展示することに不安の声も多く聞かれましたが、連日の場所馴致の甲斐もあり、堂々とした立ち居振る舞いを披露。来場していた生産者の田上氏も、大きく成長した生産馬を見て目を細めていました。育成馬展示は来年の同イベントでも是非実施したいと思います。

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信頼できるパートナーに寄り添うビューティサツキの10(牡、父:ジャイアントレッカー)。多くの来場者にも全く動じませんでした。

話は変わりますが、去る85日に八戸市場の購買馬3頭(牡1頭、牝2頭)が入厩しました。在厩頭数は10頭となり、現在夜間放牧を行いながら騎乗馴致を実施しています。馴致は順調に進んでおり、現在はローラーと呼ばれる腹帯に慣れさせる道具を装着して運動しています。

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ラウンドペンでローラーを装着(し運動)するピアソラの10(牝、父:マンハッタンカフェ)。全身を大きく使って運動する姿には、大きな将来性を感じます。

今年宮崎で育成する全24頭のうち、残る14頭はサマーセールで購買した後912日に入厩する予定です。宮崎育成牧場では今年も『魅せる育成』を実行すべく、様々なイベントを計画・実行してまいります。牧場ならびに育成馬の見学についても随時受け付けます。ぜひご参加いただき、育成馬が日々成長する姿をご覧いただけたら幸いです。

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青々とした牧草を頬張る育成馬たち。左からエムケイミラクルの10(牡、父:ケイムホーム)、ビューティサツキの10(牡、父:ジャイアントレッカー)、ズーナクアの10(牡、父:ダイワメジャー)。

JRA育成馬が入厩しました(宮崎)

今年は全国的に暑い日が多くなっていますが、南国宮崎も例外ではありません。7月終盤ともなると気温は限りなく上昇し、鋭い日差しは容赦なく降り注ぎます。ミスト扇風機などを使用して馬の体調管理を十分行い、夏負けしないように気を使う日々が続きそうです。

さて話は変わりますが、2011JRAブリーズアップセール(425日、中山競馬場)で売却されたJRA育成馬が続々とデビューしています。宮崎で育成した馬は15頭がデビューし、そのうち3が勝ち上がりました(731日現在)。これからの更なる活躍を応援しています。

一方、宮崎育成牧場では来年のブリーズアップセールに上場予定の若駒たちが育成のスタートラインに立っています。先に開催されたセレクトセール・セレクションセールで購買した6頭(牡4頭、牝2頭)の1歳馬が、722日(金)に入厩しました。既に九州1歳市場で購買した育成馬が1頭入厩しているので、今年宮崎で育成する全24頭のうち7頭が揃ったことになります。

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馬運車から降りるズーナクアの10(牡馬、父:ダイワメジャー)。兄に重賞2勝のトウカイトリックがおり、血統的にも大いに期待できる馬です。

北海道 静内から南九州の宮崎育成牧場までの輸送は、23日にわたる長旅です。馬運車に乗った育成馬たちは2,000km以上の距離を約42時間、立ったままで過ごさなくてはなりません。今回はこの長旅の様子をお伝えしたいと思います。

720日(水)

セレクションセール翌日、宮崎に移動する6頭の育成馬は静内にある北海道市場に集まります。健康状態チェックと個体照合(マイクロチップの確認)を行ったのち、外傷予防のため輸送用肢巻きを装着します。この肢巻きは強く巻きすぎると屈腱部を圧迫してしまい、弱く巻くと輸送中にずれ落ちてしまうため、慎重に巻く必要があります。これらの準備が整ったら9頭積み馬運車に牡馬から積んでいきます。牝馬が前にいると牡馬は興奮して落ち着かないため、必ず牝馬が後ろに乗ります。馬たちは牧場から馬運車に乗って来ているので、ここで馬運車の「乗り換え」をして、12:00に北海道市場を出発しました。

 

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牧場から乗ってきた馬運車(写真上)から輸送用馬運車への乗り換え。馬間違えを防止するため必ずマイクロチップによる個体照合を実施します(写真下)。

輸送には獣医師を含む宮崎育成牧場の職員2名が付き添います。経路は、函館からフェリーに乗って青森に渡り、その後東北道北陸道中国道を通って九州へとひた走ります。輸送の大きな鍵を握るのが函館~青森間のフェリーです。馬を輸送する手段には車・飛行機・船などがありますが、馬は船輸送に最も弱いといわれています。フェリーが揺れると輸送熱(輸送が原因の発熱)を発症する馬や体調を崩す馬が多く出ます。そのため、フェリーを利用する輸送時には揺れの少ない大型フェリーを選び、少しでも換気のよい上層階に車を乗せています。今回は大型台風の影響もあってフェリーが大きく揺れたこともあり、下船後に輸送熱を発症する馬が出てしまいました。なお、この馬は直ちに抗生物質の投与を開始したこともあり、現在は元気に走り回っています。

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フェリーの乗船待ちをする馬運車。20:00発の大型フェリーに乗りました。

721日(木)

輸送開始からちょうど12時間後にあたる深夜0時に青森で下船し、本州をひたすら南下します。この頃になると元気のよかったやんちゃな育成馬たちにも疲れが出てきました。総輸送時間が42時間にも及ぶため、飼葉は車内で与えますが、車内で水をしっかり飲んで飼葉を残さず食べることが輸送中の元気のバロメーターといえます。夜21:30に宮島SA(広島県)に到着。ここを出ると、目的地の宮崎までは残り僅かです。

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車内で大人しくしているズーナクアの10。水はいつでも飲めるようにしてあります。

722日(金)

3:30 宮原SA(熊本県)に到着。輸送開始から36時間が過ぎた頃から疲労の色はさらに強まり、頭を水桶にもたれかけて休む馬も出てきます。脱水ならびに到着後の輸送熱発症を予防するため、疲労が顕著な馬にはビタミン剤と多めの補液(約4リットル)を行いました。その後九州道を走ること2時間、目的地である宮崎育成牧場に到着しました。

以上が今回の輸送の様子です。到着した育成馬は、馬伝染性貧血検査用の採血とアナボリックステロイド検査用の採尿、さらに再度の個体照合を実施します。涼しい北海道から蒸し暑い宮崎に来て、すぐ横を電車が走る新しい環境に驚きながらも自分の馬房でしっかり飼葉を食べる育成馬たちはとても逞しく見えます。

午後には短時間の集団放牧を行いました。はじめて合流する馬同士とあって、怪我が発生しやすい時です。特に牡馬は、順位付けがなされるまで走り回って蹴りあい、立ち上がって「相撲をとる」ことは避けられません。リスクはありますが、騎乗馴致までの期間に青草をたっぷり食べることで肉体の成長を促し、群れで適度な運動をすることで基礎体力が養成されることを見込み集団で放牧しています。

心配して見守る我々の気持ちなど知る由もなく、今年の馬たちも例年以上に元気に走り回りました。今日から来年のブリーズアップセールまでの期間、力強く成長する日々を楽しみながら彼らを毎日見守っていきたいと思います。

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元気に放牧地を駆け巡るロマンスビコーの10(写真上、牡馬、父:シンボリクリスエス)とカクテルの10(写真下、牡馬、父:新種牡馬アルデバランⅡ)

育成馬のゲート馴致(宮崎)

328日に開催を予定していた育成馬展示会(宮崎)は、当場の防疫上の理由により中止させていただくこととなりました。来場を予定されていた皆様、楽しみにしていただいていた皆様にご迷惑をおかけしましたこと、深く謝罪申し上げます。

さて、展示会を中止した同日、ブリーズアップセールに事前登録された購買者の皆様にご覧頂く「調教DVD」を作成するための調教撮影を行いました。セール用ゼッケンをつけて颯爽と走る育成馬達。つい最近までやんちゃな子供のようだった彼らは、この1ヶ月でさらに大きく成長し、競走馬としてのデビューを待ちわびているように見えました。1人でも多くの方に、DVDに収まったその勇姿をご覧いただけたら幸いです。

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BUセールゼッケンをつけて併走する19バーミスキャットの09(父:シンボリクリスエス、牝)と20プライムオブユースの09(父:アドマイヤムーン、牝)

さて、今回はゲート馴致について書きたいと思います。競走馬として必ずクリアしなくてはいけない関門の1つにゲート(発馬機)があります。過去にはクラシック候補といわれながらゲートが悪く、競走馬としての才能を全く発揮できなかった馬がいたように、ゲートは競走成績に大きく影響を与える重要なポイントの1つです。

育成期のゲート馴致は、騎乗馴致をはじめてすぐに開始します。引き運動でゲートをじっくり見せることからはじめ、ドライビングを行う頃には「ゲートは特別なものではない」と馬自身が考え、理解したうえで通過できるようにします。そうすると、騎乗者は安心して通過することができるようになるのです。騎乗馴致終了後に行った場合、騎乗者のゲートに対する不安な心理状態が馬に伝わり悪影響を及ぼすため適切ではありません。また、練習用ゲートは運動中に馬が身近に見える場所に設置しています。これは馬にゲートを特別なものだと感じさせず、常に生活の一部として理解させ、認識させるためです。

現在使用している練習用ゲートには、写真のように4つの枠があります。1枠と2枠は競走時に使用する幅と同じで、枠の前後に扉がついています。3枠はこれよりも幅が広く、4枠はさらに幅広に作られています。幅の広い4枠から通過練習を開始し、慣れたら徐々に狭いゲートに移行して最終的には競走時と同じ幅のゲートを通過できるようになります。詳細な馴致方法についてはJRA育成牧場管理指針に掲載されていますので参照して下さい。

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前後の扉を閉めたゲートで駐立するナナコフレスコの09(父:タイキシャトル、牡)

JRAの両育成牧場では、ブリーズアップセール上場までに完了するゲート馴致の目標を以下のとおり決めています。

    前扉を閉めた競走用ゲートに騎乗者を乗せて入る。

    枠内で静止したら後ろ扉を閉める。

    興奮することなく、10秒間程度、駐立できることを確認する。

    前扉を開け、騎乗者の扶助により常歩で出る。

現在宮崎に在厩している育成馬達は、目標を無事達成しました。ところで、競走時にはゲートを出る際に駆歩で発進します。これをジャンプアウトと呼びますが、育成牧場ではこの練習を行っていません。この最終的な駆歩発進は、経験豊富なトレセンの厩舎スタッフに委ねることにしているためです。

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調教後にゲートを通過するミラクルケープの09(父:ゴールドアリュール、牡)

競走馬としてデビューするためには、ゲート試験に合格することは絶対条件になります。育成馬のゲート試験合格状況を調べた資料がありますので簡単にご紹介します。

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この調査はJRA所属の全馬と、日高・宮崎で育成したJRA育成馬を対象に実施しました。調査期間は2005年から2009年までの5年間で、2歳馬の入厩開始日から2歳新馬戦が開始される週までにゲート試験を受験した全馬について、受験頭数、合格頭数、合格馬のうち1回で合格した頭数を調査しました。

この調査によると、全受験馬の合格率は概ね7割程度であり、JRA育成馬の合格率はそれに比べて高いことがわかりました。このことから現在実施しているゲート馴致の方針が間違えていないことが確認できました。

育成期の調教でもっとも大切なこと、それは馬の心に傷を残さず持っている全ての能力を引き出すことだと思います。特に牝馬の場合、担当者の不注意や些細な手抜きが原因で競走能力を如何なく発揮できなくなってしまうことが多々あります。今年育成した24頭の育成馬が競馬場で全能力を発揮できるよう、共に過ごせる残りわずかの期間を細心の注意を払って日々の管理に努めていきたいと思います。

(事務局から)

2011JRAブリーズアップセールは、425JRA中山競馬場で実施いたします。上場馬の情報については、JRA育成馬サイトに掲載しております。写真カタログ欠場馬情報などさまざまな情報を掲載しておりますのでぜひご活用ください。