ヴァイタルウォーク(宮崎)

 北海道では恒例の札幌雪祭りが開催されるこの時期。全国的に寒い日が続いていますが、南国の地 宮崎では2月とは思えないような暖かく過ごしやすい日々が続いています。2013年に入り、最高気温が10℃を下回ったのはわずか数日、全国的に暖かくなった24日には最高気温が23℃まで上昇しました。

 今春、宮崎県ではプロ野球5球団のキャンプに加え、WBC日本代表(侍ジャパン)の春季合宿も行われます。サッカーJリーグのキャンプまで含めると実に26チームが宮崎県内でキャンプを行う予定で、温暖な宮崎の気候がアスリートの調整に適していることを証明しているのではないでしょうか。育成馬たちも温暖な気候の中、青々とした生牧草を頬張りながら今夏のデビューに向けた鍛錬に励んでいます。キャンプの見学などで宮崎にお越しの皆様、宮崎育成牧場に立ち寄られてはいかがでしょうか。毎週土曜日には調教公開も行っています。是非お越し下さい。

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【写真1】:雨上がりの育成厩舎。「空が広い」宮崎では綺麗な虹のアーチを見ることができます。

 現在22頭すべての育成馬が順調に調教を消化しています。先月から本格化した1600m馬場の調教ですが、現在は内馬場(500m馬場)でのウォーミングアップ後、1600m馬場に入り1200mのキャンター2本(ベーススピードは1ハロン20秒程度)を実施しています。週2回程度行うスピード負荷日(2本目をハロン17程度)でも、調教後の息遣いもスムーズでまだまだ物足りない顔をしている馬もおり、今から楽しみが尽きません。

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【写真21600m馬場で併走の練習を行う2頭。外(右)が青森産馬グランドアピアの11(牡:父キャプテンスティーヴ)、内(左)が九州産馬マヤノビジューの11(牡:父ケイムホーム)。この日の調教タイムは、最後の3Fが20.1-18.3-17.2/Fでした。

 JRAの両育成牧場では、調教後のクーリングダウンを「ヴァイタルウォーク(Vital Walk)」で行えるよう常に意識しています。ヴァイタルウォークとは、全身を使った闊達な常歩のことをいいます。JRA競走馬総合研究所のデータによりますと、ヴァイタルウォークを行った際、通常の常歩を行う場合の心拍数と比較して約1014拍/分も上昇します。これは同じスピードで3%の坂道を上っているのと同じ負荷に相当するそうです。時間をかけた速い常歩、すなわちヴァイタルウォークは結構な運動量になることがわかります。調教終了後の育成馬をのんびりとした常歩でリラックスして歩かせてあげたい、とも思いますが、ヴァイタルウォークを行う有益性を考えると馬たちには頑張ってもらわざるを得ません。

 宮崎育成牧場では、今年からヴァイタルウォークを実践するためクーリングダウンを行う際に常歩のタイム測定をしています。1600m調教馬場の裏手にある杉林にスタート地点とゴール地点を決め、この常歩区間をどの馬が最も早く歩くことができるかを競い合います。測定タイムは職員皆の目に触れるところに貼り出し、競争心を煽ることで馬を早く歩かせる、すなわちヴァイタルウォークを誘起します。開始前の平均タイムが340秒程度、現在は同じ距離を310秒程度で歩けるようになりました。ブリーズアップセールに登場する頃にはヴァイタルウォークが身についた馬に育っていて欲しいものです。

 

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【写真3】調教が終わり、杉林でヴァイタルウォークに励む育成馬たち。ついて歩く調教監督者も汗をかくほどのスピードで歩けるようになりました。

 さて、「魅せる育成」に取り組んでいる宮崎育成牧場ではこれまで、「一般の方々向けの育成馬見学会」や毎週土曜日に1600m馬場での調教をご覧頂く「調教公開」などを実施してきました。これらは地元宮崎の方々に育成馬やその調教風景を見学していただく機会を設け、育成牧場の業務内容を披露することで競馬やJRA育成馬に対する更なる興味を喚起することを目的として実施しています。

 29日(土)には宮崎育成牧場で初の試みとなる「調教見学会」を開催しました。過去の見学会に来場されたお客様を招待して、調教やウォーキングマシン運動、ゲート練習の様子をはじめ、馬房で過ごす育成馬の素顔など普段見ることのできない「バックヤード」部分についてもご紹介しました。来場された23名のお客様は、調教担当者の解説を聞きながら真剣な眼差しで調教に臨む育成馬たちをみておられました。短い時間ではありましたが、これから活躍が期待される若きアスリートの姿を見てお楽しみいただけたものと思います。

 今後とも、ウインズ宮崎に来場された皆様や育成牧場に遊びに来られた方々に育成馬を披露する機会を定期的に設け、育成馬の成長する様子を楽しんでいただける環境を作っていきます。これらの機会を通じて育成馬に興味を持っていただくことで競馬が好きになり、競馬産業の裾野が少しでも広がることこそが、私たち宮崎育成牧場職員の願うところです。

南国の冬 (宮崎)

年が明け、冬本番の宮崎で育成馬達は元気に調教を積んでいます。

南国とはいえ、宮崎でも冬は氷点下に冷え込むことも珍しくありません。少々問題となるのが、馬場がそれまでの雨などによる水分を多く含んでいる場合です。早朝からハロー掛けなど対応を試みるのですが、冷え込みが厳しい場合はハローの爪も入らない程固まってしまいます。こうなると自然融解を待つことになります(宮崎の冷え込みは、ほぼ放射冷却によるもの。従って冷え込む日は、ほぼ快晴!)。太陽が昇ると、みるみる馬場は使用可能な状態に戻り、南国の太陽のパワーを実感できます。

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時には凍結する宮崎のダートコース

海の砂を使用しているため、砂には小さな貝殻がたくさん混じっています。全国的にも珍しい!?

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放牧地で草を食むシーソングの11(牝:父バゴ

厳冬期でも、放牧地には豊富な青草。暖地での育成の利点です。

これまでは、入厩時期によって馴致のステージが異なり1群と2群に分かれていた育成馬達は、年明けからは牡牝それぞれ1グループで調教を行っています。これまでの6~7頭程のグループからそれぞれ11頭へ頭数も増え、馬体の成長も伴い調教に迫力が増してきました。

多頭数の調教では、他の馬を過度に気にする馬もいれば、多頭数の方が落ち着く馬もいて様々です。例年と比較して、全体的に概ね落ち着いている印象です。

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集団調教:宮崎“ALL牡”調教

にぎやかな朝の調教風景。先頭はエンジェルステージの11(牡:父ブラックタイド

1600m馬場での本格的な調教も始まっています。多くの馬が安定して真っ直ぐに一定のスピードで走ることが出来るようになってきました。現在は隊列を工夫し周囲の馬のプレッシャーに慣れる調教を積み重ねています。

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1600m馬場での調教風景

例年取り組んでいるインターバルトレーニング、6F(1200m)×2

2本目は併走の練習。

外:サンセットムーンの11(牡:父ステイゴールド)内:オマイタの11(牡:父ヨハネスブルグ

この日の調教タイムは、最後の3F、20.4―19.9-20.0秒/

まもなく、ウインズや公園へお越しのお客様に調教を公開する予定です。土曜日には調教ゼッケンを装着し、当日の調教メニュー等をご案内いたします。

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      宮崎の新年の参拝は青島神社・裸参りです。筆者は3回目の参加。

      育成馬の活躍と競馬の益々の発展を祈念してまいりました。

育成牧場の冬仕度(宮崎)

南国宮崎も冷え込む日が多くなり冬が近づいてきたようです。

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写真1.牧場内で育つスウィートスプリング

まだ、あまり知られていない柑橘類。見た目に反し糖度が高く美味。食べ頃です。

育成業務は馴致を終え1600m馬場で本格的な調教を開始したところです。総駆歩距離2700m、走速度は約20秒/ハロン(1ハロン≒200m)の調教を毎日積み重ね体力の増強を図っています。

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写真2.以前に紹介した蟻洞を伴った蹄

蹄壁も成長し疼痛も緩和。接着装蹄から通常の装蹄に切り替え順調に調教を実施しています。

調教に励む職員の中に、昭和47年のJRA入会以来、宮崎一筋で育成馬の騎乗に取り組んできた人がいます。来年の9月に定年を迎えるため騎乗するのは現在入厩している育成馬が最後の世代となります。通常、体力の衰えなどから、一定の年齢までで育成馬の騎乗をとりやめることとしています。定年まで騎乗を続けることは、技術が維持されていることはもちろん、本人の強い意思・信念があってこその、極めて稀な例です。40年の間に携わった担当馬は100頭に迫るとのこと、入会以前は馬に触ったこともなく、この宮崎で技術の研鑽を重ねてきました。若馬に負担をかけない綺麗な前傾姿勢を保った騎乗姿は、年齢を感じさせることがなく、若い職員の良い手本となっています。

この方の40年間が決して順調だった訳ではなく、落馬での骨折入院のほか、大病を患い生死の境をさまよったこともあったと伺っています。その時もベッドの横には育成馬の写真を掲げ、病を克服した後にはもう一度育成馬に騎乗するという強い信念をもって闘病生活をおくっていたとのことです。

毎朝の調教で親子程歳の差のある若手職員と育成馬を通じて熱心に騎乗論や管理技術論を交わす姿をみると、生涯をかけて育成業務に取り組んできた情熱を改めて感じずにはいられません。

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写真3.1600m馬場で調教を行うグランドアピアの11(牡・父キャプテンスティーヴ)とI職員(1953年生)

また、宮崎育成牧場では冬を前にクリッピングを行っています。これは、冬季の調教による汗や馬体洗浄後の乾燥を容易にし、用途に応じた馬服を着せることにより被毛管理と腹部の冷えを防ぐために実施しています。

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写真4.クリッピングを施されたレイナフェリスの11(牡・父アルデバラン

冬を迎える準備が日に日に整っていきます。

育成馬お披露目(宮崎)

 宮崎育成牧場では、全馬の入厩が完了してから1ヶ月半が過ぎようとしています。この時期の育成牧場では、騎乗馴致と並行して写真撮影が行われています。

写真撮影については、これまでにも何度か紹介してきましたが、四肢の位置、体重のかけ具合、顔の方向、耳の向き、タテガミや尻尾の状態など細かい部分に注意を払いながら、馬体の良さを伝えることができる写真を撮影することはなかなか大変です。入厩から様々な場面で真剣勝負を繰り広げてきましたが、この写真撮影も人間の要求を育成馬に伝えその動きをコントロールする真剣勝負といえるものです。

撮影した写真を基に、宮崎育成牧場では見学者向けにパンフレットを作成しています。〔写真1

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【写真1】宮崎育成牧場 育成馬12-13パンフレット

先日撮影した写真を基に作成した本年度の育成馬のパンフレット。宮崎育成牧場の見学者に配布されています。

この作成したパンフレットも活用し、宮崎育成牧場では恒例となっている秋の育成馬見学会を実施しました〔写真2〕。これは、世代毎に育成馬の入厩後の10月と、BUセールのため宮崎を離れる直前の3月に実施しているもので、会を始めてからこの世代が3世代目になります。

「入厩時とその後の成長が比較できる」と好評で、秋の見学会でお気に入りの育成馬を見つけ、春にその成長を確認し、その後の競走馬としての活躍を応援するという楽しみ方をされている方も多いようです。

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【写真2】宮崎育成牧場 秋季育成馬見学会の様子

好天にも恵まれ、多くのお客様がお越しになり、和やかな雰囲気の中、育成馬見学会が実施されました。

本年の宮崎の育成馬には同じ父を持つ馬が2組あり(父アルデバランのオス2頭〔写真3〕、父バゴのメス2頭)いずれも同じ性別であるため、今回は並べて展示し比較していただきました。ご覧になっているお客様は、それぞれの馬の共通点や相違点、母父の影響などを興味深く観察されている様子でした。

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【写真3】同じ父(アルデバラン)を持つ、イナズマローレルの11(母父ピルサドスキー)とレイナフェリスの11(母父コマンダーインチーフ)の表情

毛色などは異なるものの、骨格や目元および鼻周囲の雰囲気は似ている部分が多いのではないでしょうか

また、育成馬の展示に加えて、競走馬の豆知識も併せて紹介しております。今回は、競走馬の個体識別に用いられているマイクロチップについて紹介する中で、実際に育成馬のマイクロチップを読み取り健康手帳に記載されている番号と照合する検査をご覧いただいたところ、多くのお客様が興味を示されていました。

育成馬の騎乗馴致も概ね順調にすすんでおります〔写真4〕。進捗状況は個体差が大きく様々ですが、昨日は悩みの種だった育成馬が一日で飛躍的な成長を遂げることも珍しくなく、1日毎に成長の具合が手に取るようにわかる楽しい時期です。

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【写真4】ペン内でドライビングを行うレイナフェリスの11(父アルデバラン

サマーセールで購買し9月に入厩した馬達も、ペン内で2本の調馬索を用いたランジングに加えて、ドライビングを実施し、基本的なハミ受けを学んでいます。

先に入厩した育成馬たちは現在、500mの内馬場で調教を実施中です〔写真5〕。まもなくスタンド前の1600m馬場での調教を開始できる予定で、公園や、ウインズにお越しの皆様に調教風景を披露できる日も遠くないことと思います。

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【写真5500m内馬場で速歩調教を行う左からドラールフォンテンの11(父ステイゴールド)、ホッカイラヴの11(父オペラハウス)およびシアトリカルポーズの11(父アドマイヤムーン

温暖な宮崎を象徴する青々とした放牧地横の500m内馬場で速歩調教を実施する、セレクト、セレクションおよび八戸セールで購買した牝馬3頭。速歩調教初日のため人馬共に緊張気味です。

 

育成業務開始(宮崎)

831日にサマーセールで購買した15頭が宮崎育成牧場に入厩し、今シーズンの育成馬22頭が揃いました。

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【写真1.】夜間放牧中の育成馬

夜間放牧中、常に周囲の環境の変化に気を配りながら青草を食べ運動しています。

左:ホッカイラヴの11(父オペラハウス)、右:シアトリカルポーズの11(父アドマイヤムーン

入厩した馬達は、馴致開始を前に様々な処置や検査が行われます。その中で近年目立ってきているのが蹄に発症する蟻洞です。この病気は蹄にカビの一種である糸状菌(人の水虫と類似)が増殖してしまう病気です。本年度の宮崎育成牧場の育成馬22頭のうち程度の差はあるものの4頭に蟻洞が認められました。

蟻洞の治療は、菌糸の侵食した部分を削切し空気に曝すことで菌糸の増殖を抑え、蹄壁の成長を待つことを基本とします。

重症の1頭では、菌の侵食は蹄壁の40%にも及び一部は知覚部にも達し、削切することによって跛行を呈しました。

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【写真2.】左前肢に認められた蟻洞

縦方向には蹄壁の約40%に及んでいた上に、奥方向への侵食も激しく一部は知覚部に達していました。

歩様検査では患肢が外側になった時に疼痛感を示していました。一般的に下肢部に跛行の原因が存在する場合、患肢が内側に位置した場合により負重がかかり跛行は増悪することが多いのですがこの馬は逆です。直進方向でも疼痛を示すことは殆どなく球節の沈下も良好。歩様だけを観察すると下肢部が原因ではなく肩部筋群の損傷に起因する跛行と見誤るほどでした。

装蹄師、担当者とともに歩様や蟻洞の様子を詳細に観察し検討を重ねたところ、蟻洞が中心線より内側に存在しているため、【図1.】で黄色で示すような内側からの力が加わったときに蹄には赤色の作用が生じ疼痛を示すのではないかとの仮説を導き、今後馴致をすすめていく際にどの様な処置を施せば、蹄に加わる赤色の力を軽減できるか考えました。

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【図1.】蟻洞の位置と、蹄に作用する力の模式図

出された結論は、①前述した蹄に加わる力を軽減するために装蹄を施す。②より強固に蹄壁を固定するためには削切した部分をエクイロックスで充填することが望ましいが、好気的環境を保つために充填はしない。③成長過程である蹄の発育を妨げない(蹄釘を使用する十分なスペースが未だない)ため接着蹄鉄を使用する。

以上の処置を施したところ跛行は、ほぼ消失。

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【写真3.】接着蹄鉄を施した蹄

疼痛は大幅に緩和し、肢動脈の亢進も緩和。通常の馴致メニューに復帰することが可能となりました。

夜間放牧やラウンドペンでの初期馴致など通常のメニューに戻ることが出来ました。この処置が功奏しなかった場合は、蹄が伸びるまで数ヶ月単位で指(蹄?)をくわえて待つしかなく、馴致・調教メニューに重大な遅滞が生じこの馬の競走馬としての運命をも左右してしまう可能性もあっただけに一安心です。

競走馬の育成業務とは、目の前に起こる様々な問題を、これまでの経験や知見をもとに議論を重ね書物を紐解き、様々な方のご意見を伺うなどして、できる限りの情報を集め原因を推察、解決方針を決定し実行、結果を再検証し、新たな方針を決定することの繰り返しです。

うまくいくことよりも、うまくいかないことの方が多い仕事ですが、うまくいくまで何度でもチャレンジです。また、うまくいかなかった時に後悔しないためにも、多くの情報(観察)の収集と正確な決断が出来るようにしたいものです。

このシーズンも様々な問題が待ち受けていることでしょう。そんなトラブルの処理方法や結果の検証も育成研究のひとつではないかと考えています。

常に積極的な解決方法を模索し、結果を広く還元すべく育成業務をすすめていくつもりです。本年度も宮崎育成牧場の育成馬の応援をどうぞよろしくお願いいたします。

今シーズンの育成馬第1号が入厩しています(宮崎)

今年は例年よりも2週間早くデビュー戦が始まっています。2012JRAブリーズアップセールで売却したJRA育成馬たちも続々デビューし、その走りに一喜一憂する日々です。2歳戦に限った話ではありませんが、レース発走前には育成担当者同士で育成期を回想し当時の思い出話に花が咲きます。ゲートが苦手な馬、全力を振り絞って注射を回避しようとする馬、なかなか環境に慣れず飼葉を食べない馬など。苦労した育成馬ほど過去の記憶が鮮明に残っており、彼らが無事に出走し、ゴールした瞬間に目頭が熱くなる、そんな幸せな時間を過ごしています。

一方、「Big Dream Stables」宮崎育成牧場には次世代の1歳馬が入厩し、来年のデビューに向けたスタートを切っています。今シーズン最初の入厩馬は九州市場で購買したマヤノビジューの11(牡、父:ケイムホーム、購買価格:399万円、熊本産)で、68日に入厩しました。現在は本格的な馴致開始に備えて引き馬や手入れの馴致を行いつつ、夜間放牧とウォーキングマシン運動で基礎体力作りに励んでいます。

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写真1:夜間放牧を行っているマヤノビジューの11。猛暑となる日中は馬房で過ごし、涼しい夜間に放牧しています。入厩時の馬体重は392Kgでしたが、一回り大きくなった現在は409Kg。毎日広い放牧地を闊歩し、栄養満点の青草を頬張っています。

環境に慣らすため、はじめの2週間程度は昼間放牧を行いました。通常、夜間放牧は複数頭で行うのですが、一緒に放牧する育成馬がいないため帯同馬(乗馬)をつけて2頭で放牧することとしました。はじめて合流させる馬同士の放牧では、怪我などの危険が伴います。特に牡馬の場合、順位付けの行動として立ち上がって「相撲をとる」などの行動が避けられません。リスクはありますが、青草(イタリアンライグラス)をたっぷり食べることで馬体の成長を促し、群れで適度な運動をすることで基礎体力が養成されることを見込んで集団放牧を行っています。

この2頭は相性がよく共に大人しかったため、群れとして落ち着くまでに時間はかかりませんでした。大きな帯同馬(馬体重530Kg)とそれに寄り添い青草を頬張るマヤノビジューの11の姿は、まるで親子のようです。

牧後、9月から始まる騎乗馴致に備えて引き馬と手入れの馴致が行われます。これは人馬の信頼関係を築き、扱いやすい馬をつくる礎となる大変重要な作業です。引き馬は、馴致・調教で使用する様々な場所(調教馬場やゲートなど)を人の指示に従って歩けるよう繰り返し行います。手入れ馴致は、検温、ブラッシング、裏堀りおよび全身のシャワー洗浄などを行います。

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写真2:現在は全身洗浄にも慣れ、顔にシャワーをかけられても気持ちよく!受け入れています。

さて、話は変わりますが、『魅せる育成』に取り組んでいるJRA宮崎育成牧場では、自分たちの行っている育成業務を一人でも多くの人に見てもらおうと考えています。一般のお客様向けの育成馬展示会などは昨年同様に実施する予定ですが、それに先駆けて、826日(日)に当場で開催する『馬に親しむ日』というイベントの中で育成馬の紹介を行う予定です。昨年の同イベントでは、地元宮崎県で生産されたビューティサツキの10(競走馬名:エスペランサ、牡、高市厩舎)を紹介しました。当初は大勢の来場者がいる前で展示することに不安もありましたが、連日行った馴致の甲斐もあり堂々とした立ち居振る舞いを披露できました。今年もしっかり馴致を行い、多くの来場者の皆さんに披露したいと考えています。

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写真3:イベント展示会場の前で場所に慣れさせているマヤノビジューの11(左)。最初は落ち着きませんでしたが、馴致を重ね、多少のことでは動じなくなりました。右の写真は昨年展示したビューティサツキの10

2011軽種馬統計(日本軽種馬協会発行)によると、この世代の国内生産頭数は7,069頭おり、このうち九州産馬は73頭(牡37、牝36)です。全生産馬の約100分の1である九州産馬。地元九州で生産され、宮崎育成牧場で育成したJRA育成馬には特別な思い入れがあります。今年育成する同馬が逞しく成長できるように、しっかりとした土台作りに励みたいと考えています。

 

育成馬展示会開催(宮崎)

宮崎育成牧場では3月26日に平成24年度JRA育成馬展示会を実施いたしました。

宮崎らしい快晴の空のもと、約70名の馬主・調教師・生産者の方々および来賓の皆様のご来場をいただきこの宮崎の地で鍛えられた若馬たちの様子を皆様にご覧いただきました。

開会の挨拶に続き、全23頭の育成馬をご覧いただく「比較展示」が行われました。本年も牡牝別の合計4班にわけ、5~6頭ずつの各班を10分程度の時間で、各馬の仕上がり具合をご覧いただきました。ほとんどの馬が堂々と振舞っていたのですが、事前に何度も実施した駐立練習では完璧な駐立ができていた馬の中に日頃と異なる雰囲気に圧倒され落ち着きを失ってしまう馬も散見されるなど新たな課題も明らかとなり、中山での比較展示では落ち着いた馬の様子をご覧になっていただけるようさらに練習を続けるつもりです。

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写真1.比較展示の様子

一般市民の方を対象とした見学会を別途設けること(詳細は後述)で、混雑の緩和を図り、本年はじっくりと育成馬の様子をご覧になっていただきました。

今回の騎乗供覧は、本年度当場で取り組んでまいりましたインターバルトレーニングの様子をご覧になっていただきました。すなわち、6ハロンの駆歩調教を2本供覧いたしました。

1本目を最後の2ハロンを18秒程度で走行し、引き続き2本目では最後の2ハロンを多くの馬が走りたい気持ちをためた状態で13秒台の走行をし、しっかりとした動きをご覧いただくことができたのではないかと思っております。

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写真2.騎乗供覧の様子 

内白帽デヴォアの10(父ハーツクライ)、外青帽フェアリーステップの10(父ネオユニヴァース)当場が誇る牝馬2頭の併せ馬。馬の行く気に任せた自然の動きで息の合った併走を披露し、タイムもほぼ指示通りの最後の2ハロン14.2-13.1。

今後も個体ごとの状態に応じた調教・調整を心がけ、すべて馬たちが肉体的にも精神的にも健康な状態に仕上げ4月24日のブリーズアップセールを迎えられるよう、努力してまいります。

また、本年度の新たな試みとして、例年多数訪れていただいている一般市民の方を対象とした見学会を別に設けております。見学会は4月7日(土)14時から宮崎育成牧場育成厩舎で実施いたします。どなたでもご覧になれますが、当日の調教供覧は実施せず比較展示のみの実施となり、雨天の場合は中止させていただきますのでご承知おきください。お近くの方はどうぞ宮崎育成牧場にお越しになり成長した育成馬の様子をご覧ください。

○事務局より

 2012JRAブリーズアップセールの調教DVD映像はこちらからご覧になれます。

「育成馬を知ろう会」を開催しました(宮崎)

3月に入っても厳しい寒さが残る日本列島。しかし、宮崎育成牧場では春の気配を感じることが増えてきました。日中は気温が20度を上回ることも多く、調教中には小鳥がさえずります。騎乗者もジャンパーを脱ぎ、半袖で1日を過ごす者も少なくありません。

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場内の桜にも花がつき、だいぶ春らしくなってきました。

育成馬の調教ですが、年明けより1,200mのキャンターを2本行うインターバルトレーニングに取り組んでおり、2月中旬からはスピード調教を開始しました。現在は2本目のキャンターをラスト3ハロン45秒程度(ハロン15秒程度)で走る調教を行っており、基礎体力(心肺機能や筋力)が向上した育成馬たちをみてとても頼もしく、心強く感じます。

 さて、当場で39日・10日に「育成馬を知ろう会」を開催しましたので簡単にご紹介します。このイベントは、近年馬主になられた方々をお招きし、セリで馬を購買する際の参考としていただくために開催しました。セリで馬を購買する楽しさや購買した馬が競走馬になる過程でどのような調教を行っているかをお伝えするため、馬の見方、選び方および購入する際に注意することなどをご紹介し、育成馬の調教や飼養管理を行っている様子を間近でご覧頂きました。

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育成馬の見方や選び方の説明を行いました。馬は17ロマンスビコーの10(牡、父:シンボリクリスエス

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比較展示の形式で育成馬をご覧頂きました。

JRAブリーズアップセールは、セリに不慣れな方にもわかりやすい「入門編のセリ」として開催しています。その一環として開催されましたこのイベントで、一人でも多くの新規馬主の方々に「セリで馬を買う楽しさ」が伝わり、セリに参加される方が増えることを心より祈っております。

 また、このようなイベントのないときでも、馬主・調教師の皆様にいつでも調教や飼養状態をご覧いただける環境を整えています。一人でも多くの方に育成馬をご覧いただき、ブリーズアップセールで「JRAが育成した馬たち」の関係者になっていただけたら幸いです。セール開催まであと1ヶ月少々、気を引き締めて育成馬の管理にあたりたいと思います。

話は変わりますが、宮崎育成馬の現在の装蹄状況についてお知らせします。セールに上場する全馬の四肢装蹄が229日に終了しました。今年の育成馬は大きな蹄病もなく、装蹄も順調に行うことができました。入厩当時、体も蹄も小さい馬たちの様子をみながら削蹄を行っていたことを懐かしく思い出します。さらに負荷の大きくなるスピード調教に向け、準備万端です。

今回は落鉄により蹄壁の一部が欠損し、釘を用いた装蹄が困難となった育成馬に接着装蹄(釘を使わず、接着剤で蹄鉄を装着する装蹄法)を実施しましたのでご紹介します。ご存知のとおり、ディープインパクト号は接着装蹄を行って出走していました。接着装蹄は蹄壁が欠損して蹄釘での装着が困難な場合や、蹄壁が薄く蹄釘によるストレスを避けることが望ましい馬に使用されますが、育成馬にもこのような装蹄技術は応用されています。現在、同馬はブリーズアップセールに向けて順調に調教をこなしています。

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接着装蹄を施した蹄。調教も順調にこなしています。

宮崎は気候が温暖で年中青草を食べられるため、馬体や蹄の成長には最高の環境といえます。現在、宮崎育成牧場では育成期の調査研究の一環として蹄壁がどの程度伸びるか調べています。また、日照時間の短くなる12月からは半数の馬にライトコントロール法を実施し、ライトコントロール法の有無で蹄壁の成長に違いがあるかについても併せて調査しています。10月から始めた調査で、12月までは見られなかった両群間の成長の差が、12月以降ライトコントロール法を開始した群で蹄壁の成長が早くなる傾向が見られました。今後も調査を継続し、データがまとまりましたらお知らせしたいと思います。

ブリーズアップセールまであと2ヶ月、スピード調教への移行(宮崎)

早いもので、既に2月の半ばを過ぎました。宮崎も例年と比較すると冷え込みが厳しく、連日の馬場の凍結に加えて、水道管の破裂が相次ぐなど例年にない影響が出ています。

宮崎の育成馬達は、まだまだ大小様々な課題を抱えている馬もいますが、全体的には概ね順調に調教を重ねています。宮崎育成牧場では1200mを2本走行するインターバルトレーニングに取り組んでおり、これまでのところ、2本目のラスト3Fが6054秒程度のステディーキャンターでの調教を根気よく積み重ねてきたところです。

まもなく本格的なスピード調教が始まります。3月半ばにはインターバルトレーニング1本目のラスト3F54秒、2本目のラスト3Fを45秒程度で週2回実施する予定です。

現在はスピード調教の準備段階として徐々に調教強度を強化しています。毎年の事ながら調教強度を上げていくことには不安が付きまといます。十分な基礎体力(心肺機能や筋力)をつけてきたつもりではありますが、調教中の動き、調教後の息遣いや歩様、翌日歩様や脚元の状態など心配事は尽きません。何事もなくホッとすることはあっても、喜んでいる暇などなく、すぐに次の課題が迫ってきます。

馬と向き合うということは、この様に日々目の前の課題をクリアーしていくという事の積み重ねなのでしょうが、振り返ってみると大きな進歩に気付くことがあり、それが大きな喜びや励みになります。

九州1歳市場で購買し6月に入厩してきたビューティサツキの10〔写真3.〕とはもう8ヶ月の付き合いです。入厩時はまだ仔馬の面影を残していた彼が、現在では競走馬の二歩手前くらいまで成長しています。馬体重も381kgから456kgに増加。顔つきも既に競走馬のそれに近づいてきました。

すべての馬が、これから始まるスピード調教も順調に消化し、次のステージに進んでいくことを宮崎育成牧場の職員一同全力でサポートいきます。

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〔写真1.宮崎育成牧場を訪れた珍鳥ヤツガシラ〕

 以前このブログで日高育成牧場を訪れたフクロウが話題になっていましたが、宮崎の吉鳥も負けてはいません。昨年末から宮崎育成牧場に滞在していました。

〔動画2.1600馬場での調教の様子〕

 この日の調教は、500m馬場2周のウォーミングアップの後、1600m馬場で1200mの駆歩を併走で2本。1本目の最後の3ハロンが60秒、2本目は54秒の調教を実施しております。動画は2本目のスタート後のシーンです。

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〔写真3.牡相が漂いはじめたビューティサツキの10の表情〕

今年もよろしくお願いします(宮崎)

皆様、新年あけましておめでとうございます。本年も「育成馬日誌」をよろしくお願いいたします。今年の冬は全国的に寒さが厳しいですが、南国・宮崎も例外ではありません。日中は10℃以上に気温が上昇する日もありますが、朝・夕の冷え込みはそれなりに厳しく、氷点下を記録する日も少なくありません。それでも放牧地には青々とした牧草が豊富にあり、JRA育成馬たちは調教後にフレッシュな牧草を食べることでリラックスしています。南九州地区は冬季の育成を行うのに好適な地であることは明らかです。

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青々とした牧草を仲良く食べるスリリングヴィクトリーの10(写真左、牝、父:ダイワメジャー)とフラワーブリーズの10(写真右、牝、父:ブラックタイド)。日中の気温が上がらない日には、被毛を薄く管理するため馬服を着用して放牧します。

 

調教進度が進むにつれ徐々にテンションが高くなってきていた育成馬たち。年末年始は調教を行わずランジングと放牧のみで管理しました。現在は短期休養でリフレッシュした育成馬たちの本格的な調教を再開しており、1群の10頭は500m馬場で準備運動(速歩500m、駈歩1,000m)を行った後に1600m馬場で1,200mのキャンター 2本(ハロン2218秒程度)のインターバルトレーニングを実施しています。また、1群より遅い時期に馴致を開始した2群は上記2本のキャンター調教(ハロン2220秒程度)を行う日と、2,000m連続したキャンター1本(ハロン22秒程度)を行う日を組み合わせてスタミナ強化に努めています。

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500m馬場で準備運動を行うデヴォアの10(写真右、牝、父:ハーツクライ)とスリリングヴィクトリーの10(写真左、牝、父:ダイワメジャー)。この時期になると準備運動から走りたい気持ちを剥き出しにする馬たち。我慢することを教える騎乗者も必死です。

 

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1600m馬場で併走調教を行うレジェルマンの10(写真左、牡、父:バブルガムフェロー)とステファノティスの10(写真右、牡、父:ファンタスティックライト)。当初は横に来る他馬を嫌い、横の間隔を詰められなかった2頭ですが、現在は併走調教のベストパートナーになりました。

 

 

昨年末に、毎年恒例となっているV200値の測定(参照:育成馬日誌)を実施しました。V200はヒトでは個体ごとの有酸素運運動能力の科学的指標として確立していますが、馬の場合は速度の規定が難しいことや、馬の情動・騎乗者の体重・騎乗技術などが影響し、個体ごとの有酸素運動能力の指標としては精度の高い検査とはいえません。そのため今回も群れ全体の調教進度を判定し、その後の調教内容を考える参考として実施しました。今回測定したのは調教が進んでいる110頭です。これはV200値の測定が、1分あたり200拍の心拍数となる速度を求める検査なので、調教進度の進んでいる1群の馬のみを対象としました。

測定の結果は下表のとおりでした。過去の育成馬達との比較をみると、昨年売却した育成馬に比べてかなり低い値とはなりましたが、過去5年の平均に近似した値となりました。今後有酸素能力を高める調教を順調にこなし、スタミナをつけていくことで、過去の馬たちに追いつき追い越してほしいものです。次回の測定は1月末を予定しており、どのような結果になるか、今から楽しみです。

 

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さて、最後に宮崎馬個別の近況を紹介したいと思います。今回はV200の測定値が最も高かった牡馬です。

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エムケイミラクルの10(父:ケイムホーム)

牡・青鹿毛・八戸市場購買馬(購買価格:840万円)

   

父ケイムホームは23歳時に7,9,10Fで米GⅠに勝利。昨年の2歳新種牡馬ランキングで総合5位(地方1位)にランクインしています。本馬の兄には岩手で大活躍したマヨノエンゼルがいます。八戸市場で注目を集めた好馬体は健在で、美しく薄い皮膚と全身に纏った軟らかい筋肉が自慢です。軽い脚さばきと強い前進気勢を持っており、スタミナも豊富です。

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単走調教を行うエムケイミラクルの10。調教には常に前向きで、前を走る馬がいると耳を絞って追い抜こうとし、騎乗者の腕を痺れさせます。現在の馬体重は492Kgです。