育成馬24頭の装蹄が完了しました!(宮崎)

テレビの報道で宮崎の話が出ないことがないほど、昨年からの宮崎県にはいろいろなことがあります。口蹄疫や鳥インフルエンザの発生、霧島山新燃岳の噴火、などなどです。明るいニュースが少ない中、宮崎育成牧場では昨年売却したJRA育成馬「シーライフ号」が京都競馬3歳未勝利戦(ダート1,800mで、8馬身差をつけて圧勝するという非常に嬉しいニュースがありました。今後の更なる活躍に期待したいところです。

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後続に8馬身差をつけて圧勝したシーライフ号

さて今回は、宮崎育成牧場から育成馬の蹄(ひづめ)の管理について報告します。育成期の装削蹄も競走馬と同様に、伸びた蹄を削る削蹄と蹄にぴったりと蹄鉄を合わせる装蹄を行います。しかし、育成期の若い馬は日々成長します。入厩時の蹄の大きさがブリーズアップセールの頃には2まわりも大きくなります。人の子供も靴のサイズがどんどん変わる様に育成馬達も成長に合わせ蹄鉄のサイズを変えていきます。日々成長する馬体や蹄を考えながら行う装蹄はとても神経を使う仕事です。

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後肢の装蹄を行うデュプレの09(牝、父:バゴ

育成馬が入厩する9月頃、育成馬は昼夜放牧や騎乗馴致などを中心に管理されます。この時期は強い調教を実施しないので蹄への負担が少なく、削蹄のみによる蹄の管理を行います。馴致が完了して人を乗せて調教を進めるうちに、蹄の磨耗や蹄壁の欠損などが起こるようになります。そのため、蹄の保護を目的として装蹄を開始します。今年初めて装蹄を実施した時期は、前肢が11月、後肢が1月で日高に比べ早く装蹄を始めます。(日高は雪の影響で蹄の底に雪が詰まる事、ウッドチップやオイルサンドの馬場を使用することで蹄の摩耗が少ないことなどから宮崎とは装蹄時期が異なります)

11月に初めての装蹄を行う際、多くの育成馬は何をされるのかわからないためにバタバタと落ち着きなく動き回ります。その後2回、3回と装蹄回数を重ねるうちに馴れてきて、現在はほぼ全馬が大人しく装蹄を受け入れています。2月になり、全育成馬の四肢装蹄が終了しました。

これから3月末に行われる育成馬展示会や4月末に行われるブリーズアップセールに向けてますます調教のピッチが上がりますが、四肢に蹄鉄を装着した育成馬達は準備万端でさらなるパワーアップを目指します。

話は変わりますが、競走馬などで多く見られる蟻洞(ぎどう)という蹄病がありますが、宮崎の育成馬にも蟻洞に罹り完治した馬がいましたので簡単に紹介します。

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昨年9月の削蹄時に確認された左前肢の蟻洞

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今年2月に装蹄を行った同馬の左前肢の蹄

蟻洞とは、様々な原因で蹄壁内部に蟻の巣状に空洞ができ、深く進行していく病気です。今回、蟻洞を発症した馬は9月に初めて削蹄した際に発見し、病変部の削除と治療を実施しました。その5日後に蹄の熱感と跛行が見られたので、「エクイロックス」というアクリル素材の接着剤を使い装蹄療法を行いました。蟻洞の場所が蹄の中心部にあるため、負重圧が蟻洞部分に多くかかっていたことが跛行した原因でした。そこで、蹄壁の役割を果たさせる目的で空洞部分にエクイロックスを充填した結果、蹄の状態も安定するようになりました。その後、定期的な装蹄と飼育管理により、2月の装蹄で写真のとおり蟻洞を完治することが出来ました。

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エクイロックスを充填した蹄

今回のように、多くの蹄病は発症すると完治するまでに蹄の成長を待つ必要があるため、長期間を要します。そのようにならないためにも早期発見と早期治療が必要不可欠なのです。昔から「蹄なくして馬なし」という格言があります。馬にとって大切な蹄を今後も守って行きたいと思います。

宮崎育成牧場出身馬の気性(宮崎)

先日、育成馬検査のため日高育成牧場に出張してきました。日高の育成馬達の様子はこのブログでもよく紹介されていますが、宮崎の育成馬と同じ目線で比較するとどのように映るのでしょうか?

1月末の調教の強度については日高・宮崎でほぼ同程度で、調教時息遣い、調教後の発汗などの馬の様子については日高・宮崎に概ね差がないように感じました。

一方で、日高・宮崎で異なっていると感じたことを挙げるとすればその気性でしょうか。日高の育成馬の方が全体的に活発です。調教時の動き、手入れの時の反応、馬房内の仕草など反応がとてもシャープに感じました。宮崎の育成馬を良く言えば大人しく扱いやすいのですが、競走馬に必要なピリっとした気性については現時点では日高の育成馬の方がやや優っているように思えました。同じ基準で購買し日高・宮崎で分離して育成している馬達の気性に現時点でこの様な差が生じていることはたいへん興味深いことです。

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厩舎の横を通る列車。通勤途中に毎日育成馬を車窓からご覧になることを楽しみにしている方もいらっしゃるようです。

温暖な気候が馬の気性に影響を与えるのかどうかは解りませんが、気性に影響を与える要因のひとつに宮崎育成牧場の立地条件も関与しているかと思われます。ご存知のように宮崎育成牧場は市街地にあり、育成馬達は入厩時より様々な新奇刺激に曝されています。例えば育成牧場の直ぐ横にはJRの高架が走り、スタンド前の芝生では毎日ゲートボールが行われ、選挙カーなども賑やかです。入厩当初は大騒ぎしていた育成馬達も今では全く気にしていないようで、その適応力には驚きを隠せません。もちろん、宮崎育成牧場のセールスポイントである、青草のある放牧地に放牧され、生理的によりナチュラルであり、精神的にも落ち着いていることも大きな要因であることと思います。

宮崎育成牧場では、この環境を有効に活用し、小さな事には動じない扱い易い馬を育てるとともに、競走馬として機敏な反応を培うことも重要だと考えております。

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1/27新燃岳噴火直後の宮崎育成牧場上空。空振による窓ガラス等の音も大きく、育成馬たちもこの日は落ち着かない様子でした。

最後に、先日より噴火しております新燃岳の噴火の宮崎育成牧場への影響は、降灰が調教時舞い上がることと、時折空振に伴う爆発音(これらも育成馬たちには新奇刺激になっていると思います)が響く程度で順調に調教を消化できています。

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2/2 1600m馬場で調教するケイアイエリザベスの09(牝、栗毛、父:ジャングルポケット)この日は1200mを2本のインターバル調教を実施し後半3Fを指示通りの62秒で走行しています。

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ゲート馴致中のルスナイオブトップ09(牝、栗毛、父:ルールオブロー)現在のところ全馬順調にゲート馴致が進んでいます。

初めてのV200測定(宮崎)

明けましておめでとうございます。年末年始は宮崎も冷え込みましたが、育成馬達はますます力をつけ元気に過ごしています。

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元旦の朝、放牧地の水桶に張った氷

毎日見ているとなかなか変化には気付きませんが、写真や測尺データを比較してみると入厩したときよりも随分たくましくなっており、パワフルな動きにも納得できます。

現在は、500m馬場で準備運動(速歩500m、駈歩1000m)後、1600m馬場で1200mの距離をF22F20程度のスピードで2回のインターバルトレーニングとして実施しています。

調教時の隊列については2頭併走を基本としています。一般に、併走での調教は2頭がお互いに走りたい気持ちを高めて走るスピード調教において実施します。しかし、このスピードでの併走運動は、競って速く走らせるというよりも、2列縦隊の状態で調教することで、馬を前後左右に他の馬がいることに慣らすことを目的としています。騎乗者も前と横の馬を意識しながら騎乗する必要があるので技術を要します。競馬は集団で走ることが要求されるので、縦列や併走といったトレーニングが将来において極めて重要なトレーニングであると考えています。

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併走するプライムオブユースの09(牝、鹿毛、父:アドマイヤムーン)とデュプレの09(牝、青毛、父:バゴ

例年行っているV200測定を先日実施しました。例年の育成馬達との数値の比較ならびに現在インターバルトレーニングとして2本行っている調教の科学的な検証ができるため、とても楽しみにしていた測定です。

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200測定用のゼッケンを装着し500m馬場で準備運動を行うアラートディザイアの09(牡、栗毛、父:グラスワンダー

結果は過去の育成馬達との群の比較で、牡牝ともに高めの値を示しており、順調に有酸素能力を高めていると推察さます。次回は1月末の計測になりますが、どの様な結果が出るか今から楽しみです。

 

♂平均

♀平均

全体平均

08-09育成馬

617

635

627

09-10育成馬

631

602

618

10-11育成馬

647

660

651

年代毎のV200値の比較(112月測定)

一方で、心拍数の推移に目を向けると、下表のように、1本目と2本目の間にほとんどの馬の心拍数が100/分程度まで回復しています。まだまだ馬に余裕があるということですが、これでは十分なインターバルトレーニング効果を得ることはできません。今後スピードが増すことで負荷がかかりインターバル効果も増してくることと思いますが、走行スピードに加えて1本目と2本目の間隔など工夫しながら鍛錬を積んでいくつもりです。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

V200

      

 

   12/22ノーリグレックの09号調教時の心拍数(桃色)とスピード(青色)

育成馬見学会(宮崎)

南国の地、宮崎では朝晩は冷え込む日が多くなってきました。しかし日差しがある日中はポカポカと暖かく、半袖で騎乗する職員もまだまだ大勢います。豊富な日差しを受けて育った青草をたっぷりと食べ、十分な運動量を確保するために行っている夜間放牧も、半数近い馬に対し126日まで実施しました。

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写真1:夜間放牧中の育成馬

現在のところ、すべての馬が調教を順調に消化しています。馴致を最後に開始した第2群(牡6頭、牝6頭)も、1127日には1,600m馬場での調教を実施できるまでになりました。今後は全馬の足並みを揃え、本格的なトレーニングをスタートすることになります。

では、最近の調教内容が特に目につく育成馬を紹介いたします。オーロラマキシマムの09(父シルバーチャーム)は、調教時の動きが日に日にパワフルさを増しています。現在500m馬場でのウォーミングアップの後、1600m馬場に入り1200mのキャンターを2本(23/F程度)実施しています。S1群(1群の中でも千葉・青森で購買して早期に宮崎に入厩、馴致を開始した群)5頭全頭が順調にこのメニューを消化していますが、オーロラマキシマムの09が最も手応えがよく、調教後の息遣いもスムーズでまだまだ物足りない顔をしており、今後の成長が楽しみです。

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写真2オーロラマキシマムの09(牡、鹿毛、父:シルバーチャーム

さて、「魅せる育成」に取り組んでいる宮崎育成牧場では「一般の方々向けの育成馬見学会」という新しい試みを1127日に実施しました。これは地元宮崎の方々に育成馬を見学していただく機会を設け、育成牧場の業務内容を披露することで競馬やJRA育成馬に対する更なる興味を喚起することが目的です。今回は、3月に行った育成馬展示会に来場していただいた方々をご招待して実施いたしました。

第一回目となる今回は、好天のもと約30名の招待者が来場しての育成馬見学会となりました。この日のために比較展示の練習を重ねてきた育成馬たちは、多くの来場者に見つめられて戸惑いながらも練習の成果を十分発揮し、見学者に満足していただける展示ができたのではないかと思います。来場者からも、「1歳馬は暴れて危険な動物だと思っていたので、じっくり見られて楽しかった」、「こんなに近くで競走馬の卵である育成馬を見ることができて嬉しかった」という声をいただくことができました。

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写真3:育成馬見学会の様子とデュプレの09(牝、青毛、父:バゴ

参加者の方々にアンケート形式で協力していただき、「どの馬の毛艶が良く見えるか」「現時点で最も気に入った育成馬はどれか」を調査し、「第1回 宮崎市民が選ぶグッドルッキングホース」を選定しました。この結果、セイントリープレアの09(牡、黒鹿毛、父:オペラハウス)とプライムオブユースの09(牝、鹿、父:アドマイヤムーン)が牡牝それぞれのトップに選ばれました。今後も育成馬に接する機会の少ない一般の方々に協力していただき、育成馬の成長とともにこの順位がどう推移するのか興味がもたれるところです。

1時間行った見学会の後も育成厩舎内を見学したり、場外発売所に足を運ばれたり、乗馬の試乗会に参加されたりと、来場者の皆様にはお楽しみいただけたのではないかと考えております。

今後は、今回アンケートに記入していただいた内容を参考にして、場外発売所に来場された競馬ファンの方々や育成牧場に遊びに来ても育成馬を近くで見る機会が少ない方々にも育成馬を披露する機会を定期的に設け、育成馬が成長していく様子を楽しんでいただければ、と考えています。そして育成馬に興味を持っていただくことで競馬が好きになり、競馬産業の裾野が少しでも広がることこそが、私たち宮崎育成牧場職員の願うところです

魅せる育成(宮崎)

南国の地、宮崎でもすっかり朝晩涼しくなってきました。放牧地から帰ってくる馬の表情も爽やかです。

   さて、ご存知のとおり宮崎育成牧場では今年の3月より、JRAの勝馬投票券の発売(会員制)を開始しています。昨シーズン(現2歳世代)の育成馬達も1ヵ月程、場外発売を行っている日に調教を実施したのですが、育成シーズン途中からの場外発売開始ということもあり、場外発売所から遠く離れた内馬場(500mダートコース)での調教を主に実施しました。

今シーズンから宮崎育成牧場では、日本で唯一の育成馬がいる場外発売所として、『魅せる育成』をテーマに掲げ育成業務を展開しています。その第一弾として、場外発売日に1,600m馬場を利用した調教を実施し、場外発売所に来られたお客様にも調教をご覧いただいていますので、その様子を紹介します。

1,600m馬場を利用した調教は、昨年と比べて約3週間早く開始しています。これは千葉、八戸の1歳市場で購買した5頭の育成馬に対し、これまでの馴致スケジュールを前倒しした別群を設定し、早期から馴致を開始したことにより実現しました。

秋競馬の盛り上がりにあわせるように、1,600m馬場を利用した調教が実施されてきました。騎乗しての常歩や速歩、そして10/16(土)にはついに場外発売のお客様の目の前で駈歩を披露することができました。場外発売所内に案内文を掲示し、育成馬の調教を行う旨を予告したこともあり、人数は少ないですが熱心なお客様に見守られ、誘導馬に導かれた5頭の育成馬達は無事調教を披露することができました。 

【当日の調教メニュー】

 500mダートコース 常歩0.5周 速歩0.5周 駈歩1

 1600mダートコース 速歩1000m 駈歩1600m(30/F)

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500mダートコースでウォーミングアップを行う育成馬

左から誘導馬、エアココの09(牝、父:ケイムホーム)、ガルデーニエの09(牝、父:スウェプトオーヴァーボード)、ヘバラーの09(牝、父:マイネルラヴ 

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1,600m馬場に向かうガルデーニエの09(牝、父:スウェプトオーヴァーボード

場外発売所のお客様をはじめ、地元宮崎の方々に育成馬を応援していただくため、宮崎育成牧場ではできるだけ育成の様子を公開しようと考えております。最近では、実際に場外発売所に来られたお客様を育成厩舎にご案内することも珍しくありません。事前にお問い合わせいただければ対応いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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1,600mダートコースでの調教風景(背景は旧スタンドと場外発売所)

場外発売所は馬場と隣接しており、一歩外に出ると目の前に1600ダートコースが広がり、目の前で実施される調教を見ることができます。

1,600mダートコースでのクーリングダウン

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今シーズンの育成馬24頭が揃いました(宮崎)

Big Dream Stables」宮崎育成牧場から、来年のJRAブリーズアップセールに向けた取り組み、在厩育成馬の情報などを随時発信します。今回は今シーズン馴致・育成する24頭の育成馬を紹介します。

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九州1歳市場で購買したルスナイオブトップの09(牝、父:ルールオブロー)。熊本県生産の同馬は、もう1頭の熊本産馬エイユーヴィーナスの09(牝、父:ロドリゴデトリアーノ)と共に811日に入厩しました。現在、人馬の信頼関係構築に努めつつ、様々な環境に慣らす初期馴致を順調に進めています。

94日、17頭の育成馬が宮崎育成牧場に入厩しました。これで既に入厩していた7頭とあわせて、今年育成する24頭(牡12、牝12)が揃いました。今年のラインナップはこちらをご覧下さい。この日入厩した育成馬は、北海道で開催されたセレクト・セレクション・サマーセールでJRAが購買し、北海道から46時間かけて輸送されてきた馬たちです。

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24頭のうち、最高価格で購買されたミラクルケープの09(牡、父:ゴールドアリュール)。セレクトセール後は日高育成牧場に入厩し、人馬の信頼関係構築に努めつつ、夜間放牧を実施してきました。

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ようやく宮崎に到着し、馬運車から降りる育成馬。写真はレディラックの09(牡、父:シニスターミニスター)。

まる2日間、車に揺られて宮崎に到着した育成馬は、輸送時の怪我の有無を確認してから自分の馬房でひと休みします。全国で猛暑日の報道がなされる今日この頃ですが、宮崎は例年程度の暑さに留まっており、風のある日には東京や北海道よりも「暑くない」と感じる日もあります。とはいえ、若馬にはこの環境の変化は大きくこたえるので、これから数日間は体温の変化や飼葉の食べ方など体調管理に細心の注意を払いたいとおもいます。

今回、輸送中に輸送性肺炎をおこした馬はいませんでした。軽度の発熱馬が3頭いましたが、宮崎到着日には全馬を昼放牧することができました。これは、調教などによるストレスを受けていない1歳馬は輸送に強いこと、輸送技術の向上や馬運車の性能がよくなり十分な換気ができるようになったこと、北海道から本州に渡る際に乗船したフェリーが揺れなかったことなどが要因にあげられます。特にフェリーに関しては、当初は熱帯低気圧の影響から大きく揺れるであろうと予想していたにも関わらず殆ど揺れることなく、非常に嬉しい誤算となりました。

今回入厩した17頭は、入厩翌日の95日から夜間放牧を開始しました。今後は馬の体格や成長度合いなどを考慮して2つの群に分け、騎乗馴致を順次実施していく予定です。次回の育成馬日誌で大きく成長した1歳馬たちの姿を報告できるよう、夏の暑さに負けずに頑張ろうと思います。

JRA育成馬展示会を実施しました(宮崎)

前回の同ブログ(宮崎)でご紹介しましたとおり、329日(月)13時から、宮崎育成牧場において育成馬展示会を開催しました。今年の宮崎は例年に比較して雨が多く、寒暖の差が激しい日も多いため、天候を心配しながら準備を行いました。その心配とは裏腹に、展示会当日には前日の雨もあがり快晴となり、宮崎らしい絶好の日和の中で、約150名の馬主・調教師・競馬関係者及びファンの皆様のご来場をいただきました。中には北海道のから足を運んでいただいた方もおられました。ご参加いただきました皆様に大変感謝しております。

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馬主・調教師をはじめ、多くのお客様にご来場いただき、盛況な育成馬展示会となりました。

 展示会では比較展示、騎乗供覧を中心に、この宮崎の地で鍛えられた若馬たちの様子を皆様にご覧いただきました。開会の挨拶に続き、全23頭(牡11、牝12)の育成馬をご覧いただく「比較展示」が行われました。この比較展示は複数の馬を同時に展示することにより、周りの馬と見比べながらじっくり見ていただくために実施しています。本年も牡牝別の合計4班にわけ、56頭ずつの各班を10分程度の時間で、各馬の仕上がり具合をご覧いただきました。事前に何度も駐立練習を繰り返したため、おとなしく駐立できた馬が多かったように思います。

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展示会場に入場する育成馬たちと入場を待つ来場者の皆様。

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自身の展示場所へ移動中のディアーブリーズの08(牡、父:グラスワンダー)。周囲の環境変化に驚くこともなく堂々と歩きました。今後が楽しみな当場期待の1頭です。

比較展示に続き、12頭の育成馬による騎乗供覧を実施しました(残る11頭の騎乗調教は午前中に実施)。入念なウォーミングアップの後、牡・牝各6頭を2頭併走で5ハロン(1,000m)の走行をご覧いただきました。この日は最後の2ハロンを14-14秒台で、馬たちが走りたい気持ちをためた状態で、しっかりとした動きをご覧いただくことが目標でしたが、多くの馬がこの目標を達成できたものと考えております この世代の育成馬たちは、例年の調教メニューをやや強化(同時期の強調教時のハロンタイムを約1秒短縮)し、十分な鍛錬をなされてきました。騎乗供覧では、一部タイムが早くなってしまった組もありましたが、幸い翌日行った全馬の馬体チェックでも、疾病につながるような症状をみせた馬はいませんでした。

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左がテンシノユメの08(牡、父:リンカーン)、右がソプラニーノの08(牡、父:ロックオブジブラルタル)。ラスト2ハロンは14.8-13.3秒で走行しました。新種牡馬の産駒2頭、どちらが先に活躍してくれるのでしょうか。

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左がレッドダイヤモンドの08(牡、父:ステイゴールド)、右がモントレゾールの08(牡、父:クロフネ)。ラスト2ハロンは15.0-13.2秒で走行しました。比較展示でも人気の集中した2頭です。

騎乗供覧を終えた育成馬は、それまで張り詰めていた緊張感をオフにするため、放牧地でグラスピッキングを行いました。リラックスした雰囲気の中、多くの関係者が青々とした放牧地まで足を運んでくださいました。気候が温暖で快晴日数が全国トップクラスの宮崎では、放牧地の生牧草は年中いつでも採食することができます。

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騎乗後のグラスピッキング。ピリッとした緊張がとかれる瞬間です。

宮崎での調教は、418日の中山競馬場への出発まで、日曜を除く毎日実施されます。今後も個体ごとの状態を的確に判断し、状態に応じた調教・調整を心がけ、すべての馬たちを肉体的にも精神的にも健康な状態に仕上げ、426日のブリーズアップセールにおいて宮崎で鍛えられた立派な馬たちを皆様にご披露するつもりです。

宮崎へ育成状況の視察においでください(宮崎)

宮崎育成牧場では329日(月)13時より、育成馬展示会を開催いたします。今回展示するのは2010 JRAブリーズアップセール(427日、中山競馬場)に上場予定のJRA育成馬23頭です。当日は全馬を間近でご覧いただく「比較展示」および約12頭の騎乗調教をご覧いただく「調教供覧」を行います。なお、830分より騎乗供覧を行わない馬の調教(11頭程度)、15時すぎよりご要望の馬の自由展示も実施します。馬主・調教師の皆様、生産者等関係者の皆様はもちろんのこと、一般ファンの皆様にもご覧いただけますのでお時間の許す方は是非お越しください(ただし、一般ファンのお客様には一部ご入場いただけないエリアもありますことをご了承願います)。

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昨年の展示会(騎乗供覧)の様子。

また、宮崎育成牧場ではJRA育成馬の購買を検討されている馬主・調教師等関係者の皆様や生産・育成に携わる方にJRA育成馬の調教状況や飼養管理状況を見ていただき、購買などの参考にしていただくことを主眼として、展示会当日以外も常時オープンにして皆様のご来場をお待ちしております。事前に「育成状況の視察を希望する」旨を育成牧場(電話0985-25-3448)までご連絡いただけると幸いです。通常調教は8時~11時頃、馬の展示はそれ以降の時間でご覧いただけますよう、できる限り対応いたします。

さて、ブリーズアップセールに向けて育成馬の調教は順調に進んでいます。最近の調教状況(3月初旬現在)ですが、1,600mダートコースにおいて週2回、1000m1,200mのスピード調教を併走で実施しています。最後の3ハロンをハロン平均でそれぞれ19秒、16秒で走行するようスピードの指示をしています。ほとんどの馬が手綱はしっかりと抑えたままで、走りたい気持ちを温存させながら、まっすぐに走れるようになっています。

また、全馬の平均馬体重(3月初旬現在)は468Kgでした。昨年同時期(480Kg)に比較してやや低いですが、個別に見る限り線が細くて物足りないという馬はいないように感じています。

ここで、宮崎で繋養している育成馬を一部紹介します。まずはセール上場番号16番:ケリーケイズプレジャーの08(牝馬、鹿毛、父:Tiznow)です。最近測定した馬体重は470Kgで、肢先が軽く、身のこなしも実に俊敏です。調教では常に卓越した闘志とスピードを見せている期待の牝馬です。

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写真中央がケリーケイズプレジャーの08500m走路で行うウォーミングアップではいつも元気一杯です。

 

次に紹介するのはセール上場番号49:モントレゾールの08(牡馬、芦毛、父:クロフネ)です。最近の馬体重は468Kgで、血統的には薔薇一族と同じファミリーの出身です。入厩当初はかなりやんちゃな面を見せていましたが、騎乗者との信頼関係が構築され徐々に解消されてきました。この前進気勢に溢れる素軽い動きを見ると、早期からの活躍を期待せずにいられません。

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写真中央がモントレゾールの08。調教でみせる敏捷で軽快な肢捌きが特に目を引く1頭です。

是非紹介したい、という育成馬は他にもたくさんいますが、紙面の関係で2頭にさせていただきます。冒頭に記載しました育成馬展示会、また中山競馬場で開催されます2010JRAブリーズアップセールにおいて、皆様にお会いできますことを育成牧場職員一同、心より楽しみにお待ちしております。是非お越しください。

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スタッフ一同、ご来場をお待ちしております。

Big Dream Stables(宮崎)

宮崎のJRA育成馬たちの調教は、順調に進んでいます。2月中旬現在、駈歩の調教距離は2,5003,500mほどで、通常日は最後の3ハロンタイムを60秒平均(1F20)、週1-2回の強め調教日は最後の3ハロンタイム51秒平均(1F17)を目安としています。

V200

2/16V200の測定を実施しました。抑えきれない手ごたえで最後の3F48.7秒で駆け抜ける牡馬群。しっかりと併せ馬ができること、前馬のキックバックに慣れることも大切な課題となります。先頭の併せ馬がソプラニーノの08(外側の栗毛。父:ロックオブジブラルタル)とダンツマジックの08(内側の鹿毛。父:コマンダーインチーフ)。後列はディアーブリーズの08(外側の栗毛。父:グラスワンダー)とテンシノユメの08(内側の黒鹿毛。父:リンカーン)。

さて、JRAの仕事として皆さんが思い浮かべるのはどんな内容でしょうか。多くの方は競馬の開催と勝馬投票券(馬券)の発売を真っ先に挙げられるでしょう。私達のJRA宮崎育成牧場にも、かつて宮崎競馬場として明治40年から昭和38年まで競馬が行われてきた歴史があります。

一方、現在私達が取り組んでいる競走馬の育成業務は、競馬の開催以外にJRAが行っている様々な業務の中の1つであり、宮崎では昭和31年の育成馬(旧抽選馬)事業開始に伴いスタートしました。JRAは育成研究、技術開発、人材育成を行い、その成果を生産育成界に普及・啓発し、わが国の軽種馬生産育成技術の向上に役立てることを目的として自ら育成業務を実施しています。

JRA職員としてはやや特殊な部門ともいえる育成業務ですが、広く競馬サークルには日々競走馬(あるいは競走馬を目指す幼駒・育成馬やその母馬たち)と向き合い、試行錯誤しながら強い馬づくりに取り組む多くのホースマン達がいます。そのような人々の存在なくして競馬は成り立たないといえるでしょう。

JRAの育成業務をとおして私が感じたことは、馬の取扱いはもちろん、実際の馬づくりで得られる喜びや悩み、そして難しさなどの貴重な経験の得られる仕事だということです。実際にホースマンといわれる人々の思いや考えに近いものを実体験をもって理解することや、そのような人々との意見交換や交流から何か競馬サークルにプラスとなる新しい発見ができること、またそのような次世代の人材をJRAのなかで育てていくことが大切なのではないかとも感じています。

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角馬場での8の字調教:乗馬用として使用してきた馬場ですが、育成馬のウォーミングアップ用として今シーズンから利用、調教のバリエーションを増やしました。左右均一なバランスを養成し、結果として手前変換が上手な「両利き」の馬をつくることが目的です。先頭はテンシノユメの08です。

私達のJRA宮崎育成牧場には、育成馬からダービーをはじめ世界の舞台で活躍できる馬を輩出するという大きな夢があります。そして、夢を夢で終わらせないために、2005年、育成馬厩舎をビッグ・ドリーム・ステイブルズ(Big Dream Stables)と名づけました。その夢に向かって努力を続けるなかで、育成技術の普及・向上が図られ、強い馬づくりに貢献することが目標となります。

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Big Dream Stables 第2厩舎(タムロチェリーステイブル)の看板

Big Dreamだけに、ちょっと大きなお話となってしまいましたが、「育成馬日誌」(宮崎)の執筆も今回が最後ということでお許し下さい。次回からは後任が引き継ぎます。今後ともよろしくお願いいたします。

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JRA宮崎育成牧場 左側青屋根の2つの厩舎がBig Dream Stablesです。

南国宮崎でもライトコントロールをはじめています(宮崎)

2010年、宮崎育成牧場は新たなスタートをきります。来る227日からJRAの勝馬投票券発売・払戻業務が開始されるのです。オープンに向けた工事が着々と進行中で、現在行っている主な工事は既存のインフォメーションコーナーの改修と駐車場の造成です。調教コースに隣接する地区の風景が日々変わっていく中、育成馬たちの調教は順調に進められています。

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1,600mコースの第4コーナー付近。コースに隣接した駐車場を造成するための整地が進んでいます。左端にみえる白い建物(勝馬投票券発売施設)の改修とあわせ、日々変化する風景にも、馬たちは慣れてきました。

なお、この発売・払戻所は大変小規模な施設ですので、事前に会員登録をいただいた方限定の「利用者登録制」で運用されます。登録受付は、昨年12月4日(金)をもって定員に達したため、締め切りました(次回募集については未定です)。あしからずご了承下さい。

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クーリングダウンを行う育成馬たち。駐車場の造成・整地で得られた残土を利用し、既存の「ミニミニ坂路」を拡幅しています。

さて、今回は育成馬へのライトコントロールについてです。ライトコントロールとは繁殖牝馬には一般的に用いられている方法で、季節繁殖性の動物である馬に対して、蛍光灯などの照明で人工的に日長時間(昼間の時間)を長くし、性腺機能の発達を促すことで初回排卵を早め、種付や出産時期を早めることができます。

日高育成牧場では、この方法を育成馬に応用する研究を4年ほど前から行っており、牝馬の性ホルモンの分泌時期が早くなること、牡馬の筋肉量が増加する可能性があること、冬毛の脱毛が促進されることなどがわかりました(昼14.5時間、夜9.5時間の環境設定)。これまでの詳しい成績はこちらをご覧下さい。一方、宮崎は冬季の日長時間(昼間の時間)が北海道に比べ長く温暖であり、日照時間(日中の晴れの時間)も長いという気候条件のよさから、馬を仕上げやすい環境にあります。よってこれまで、ライトコントロールは不要(自然にライトコントロール作用が得られ、性腺機能の成熟も早いもの)と考えてきました。

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育成期間中の日長時間(昼間の時間)の比較。寒冷期である111月においては宮崎と日高では1時間近い昼時間の差ができます。ただし、ライトコントロール法で人工的に昼14.5時間、夜9.5時間という環境を作ることで、冬の宮崎よりも4時間程度長い昼時間設定となります。

事実、宮崎の育成馬の成長は日高に比べて良好といえます。馬の成長を比較するために、1ヶ月間の体高の伸びを現3歳世代のJRA育成馬で比較しました。下のグラフのように、特に111月における宮崎馬の体高の伸びは大きなものです。

一方、日高ではライトコントロールを実施した群のほうが実施しなかった群よりも体高の伸びがやや大きい傾向がみられました。このことから暖かさや日照時間だけではなく、日長時間のコントロールで馬の成長が促進されている可能性が示唆されました。

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宮崎の育成馬(●印)と日高でライトコントロールを実施した育成馬(△印)および実施しなかった育成馬(□印)の体高の伸びを比較しました。

それでは、温暖で日照時間の長い宮崎において、ライトコントロール法で日長時間を延長させることに意味はないといえるのでしょうか? 試しに現3歳世代のJRA育成馬で、プロラクチンというホルモンの測定を実施して、宮崎の育成馬と日高の育成馬(ライトコントロール実施群と非実施群に分けて)を比較してみました(協力:東京農工大学)

脳下垂体から分泌されるホルモンであるプロラクチンには成長ホルモン様の作用があります。1月以降の日高ライトコントロール群のプロラクチン血中濃度は、宮崎群よりも有意に高くなりました。すなわち、プロラクチンの分泌については、気温・日照よりも日長時間による影響が大きいことが示唆されたのです。

宮崎のように日照時間が長く温暖な環境での育成は、より早い時期の骨格成長が見込めるため、早くから強いトレーニングを課すことが可能であると考えられます。しかしさらに良い育成を目指す中で、日長時間の調整(ライトコントロールを併用し、早期に性成熟を促すことができれば、トレーニング効果がさらに高まる可能性があると考えられます。自然の利点を生かしつつ、ライトコントロールも併用することでどのような効果が得られるのでしょうか。確認・検討の後、このコーナーで報告したいと思います。

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5時、タイマーをセットした馬房内の照明(蛍光灯)が点灯します。12月下旬より4月までの期間、人工的に昼14.5時間、夜9.5時間の環境を作り、ライトコントロールを実施します。本シーズンは半数の育成馬(牡6頭、牝6頭)にライトコントロールを行い、効果を検証します。