本年もよろしくお願いします(宮崎)

皆様、新年あけましておめでとうございます。本年も「JRA育成馬日誌」をどうぞよろしくお願いいたします。さて、南国・宮崎もさすがにこの時期の朝夕は冷え込みますが、日中は「暖かい」と感じられる日も珍しくありません。宮崎は気候が温暖で、快晴日数が全国でもトップクラスです。放牧地は冬でも青々としており、馬たちは年間を通じて牧草を採食できます。育成馬の騎乗調教後には採草地で牧草を直接食べ(グラスピッキング)、馬房に帰ってからも十分な量の青草が給与されています。南九州地区は、特に冬季の競走馬育成に好適な土地であることは間違いないでしょう。

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1月でも気温が20℃近くまで上昇するような特に暖かい日はラグを着せずに放牧します。青草を無心に頬張る牝馬群。向かって左がニキトートの08(父:チーフベアハート)、右がオペラハナミの08(父:シルバーチャーム)。

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育成牧場内の採草地で豊富な青草を毎日収穫し、夜間の給餌に使用します。

JRA育成馬の調教は旧宮崎競馬場の1,600mダートトラックを利用して、天候に左右されることなく順調に進んでいます。1月現在、2,500m3,000m程度のキャンターを、最後の3ハロンを併走で5572秒程度のペースをベースに実施しています。

今回は当場で育成している2歳馬24頭の中から、注目の2頭をご紹介します。

ディアーブリーズの08(父:グラスワンダー)

牡・栗毛・476kg・サマーセール購買馬(購買価格:1,166万円)。

父グラスワンダーは、昨年のクラシック戦線でも安定した力をみせたJRA育成馬セイウンワンダーを輩出。母父はゴーンウエスト系のグランドスラムで、購買時より力強く闊達な動きをみせていました。本馬はなんといっても体が柔軟で、乗り味の良さがセールスポイント。調教でも反応が大変よく、走りに集中できるので、集団の先頭をしっかりとこなしています。

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ゲート通過は日課です(写真はディアーブリーズの08)。ほとんどの馬が昨年末までに、「ゲートの前扉を閉めた状態で入れて、後扉を閉じ、前扉から常歩で出る」ところまで馴致されています。

レガシーウインドの08(父:ファンタスティックライト)

牝・栗毛・413kg・サマーセール購買馬(購買価格:420万円)。

父は愛チャンピオンSを勝利し、世界各国で活躍したエミレーツワールドチャンピオン。母、祖母ともに3勝馬で、近親にはジャパンカップ勝ちのレガシーワールドもいます。母父サンデーサイレンスが出たやや薄手の馬体で、牝馬らしい品の良さがあります。前進気勢が強く、よく集中したスピード感溢れる走りに期待が高まります。

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500mトラックコースでのウォーミングアップ。中央がレガシーウインドの08

クリッピング(毛刈)の実施(宮崎)

温暖な宮崎も11月後半には最低気温が一ケタとなる日が増えてきました。一方で最高気温は20℃前後まで上昇する日もあり、朝夕の寒暖の差、あるいは日ごとの寒暖の差は皆さんがイメージするよりも大きいと思われます。風邪などで体調を崩しがちなこの時期は、しっかりと保温のできる服装が必要となります。

宮崎の育成馬たちもこの時期からは馬服(ニュージーランドラグ)を着用しています。育成馬に馬服を着せる習慣がなかった日本において、ニュージーランドラグはJRA日高育成牧場が最初に導入したものです。当初は様々な怪我やアクシデントが危惧されましたが、現在では馬の体調管理や冬毛の伸びを抑制して皮膚を薄く保つため、あるいは手入れの簡素化などを目的として、民間にも広く普及しています。

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ニュージーランドラグを着せてパドック放牧中。左の栗毛がマイネシャリオの08(牡・父はテイエムオペラオー)、右の黒鹿毛はミスヴィーナスの08(牡・父はキンググローリアス)

もうひとつ、この時期に施されるのがクリッピング(毛刈り)です。毛刈りされた馬は日本の競走馬ではあまり見かけませんが、海外では頻繁に実施されているようで、先日のマイルチャンピオンシップ(GI)に出走した、イギリスのエヴァズリクエスト号もクリッピングが施されていました。特に栗毛馬は明るい皮膚の色とのコントラストが明白になり、美しさが際立ちます。しかしこれはみせかけではなく、冬毛が長い場合、寒い時期の調教による汗や、馬を洗浄した後の水分が乾きにくいために馬体が冷えることを防止できます。毛刈りされた部分は普段は馬服を着ていることで、しっかりと防寒され、調教中もエクセサイズラグを装着して、馬体を暖かく保ちます。常日頃から体が冷えないように馬服をこまめに着せ替え、冬毛が伸びないように心がけることが重要ですが、宮崎育成牧場では最終的にほぼすべての馬にクリッピングを実施しています。一方、日高の様な寒冷地区での育成馬調教においては、腹まで汗をかく状況になりにくいため、クリッピングされた馬はあまり見ることがありません。

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騎乗してのゲート通過馴致も実施しています。馬はイシノレプリートの08(牡・父バゴ)。この日の夕方、同馬はいよいよクリッピングを実施します。

クリッピングの手順

クリッピングで特に重要なのは、①人馬の安全確保、②安全確保のために刺激が少なく、迅速な手技を行うこと、③刺激が少なく迅速な手技のためのバリカンの整備です。宮崎育成牧場では以下のような手順でクリッピングを実施しています。

まず、馬はクリッピング当日の調教後、全身をしっかりとシャワー・シャンプーしておき、充分に乾かすことで、最も毛が刈りやすい状況となります。毛刈りの時間は馬が比較的リラックスしている夕方に実施しています。

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正しい姿勢でまっすぐに立たせた状態にして、毛刈り線をチョークで下書きします。

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万が一の事故に備えて、後肢の蹄周囲はバンテージで巻いてクッションとします。また、多くの場合は鎮静処置およびメンコ(耳栓をしたうえで)も使用します。

この後、10分程度を目標に手技を開始します。バリカンの選択は迅速で安全な実施のため、最も重要といえます。馬のストレスと恐怖感を取り除くため、なるべく音が小さくて、熱を持ちにくいも、そしてコードレス(充電)タイプのものが便利です。クリッピングでは水濡れやフケの影響、あるいは順調に進んでもいずれは毛が詰まり、全く刈れなくなることをよく経験します。毛を掃除して刃を油に浸けて回復することもありますが、替刃の予備を複数準備しておくことが、重要です。ダメかと思われる替刃も、一晩油に浸けると回復することが多いようです。

しかし今年から宮崎で使用している家畜専用のバリカンは、やや高価なのですがそのようなトラブルも少なく、作業がとてもスムーズになりました。

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広く全体を剃るためのメインバリカン(左・約7万円)と凹凸部やライン上の細かな調整用の小型バリカン(4万円)。いずれも充電式(コードレス)です。

最初にバリカンの振動音、そして皮膚に触れた振動に慣れたことを確認したら、一定の強さで毛並みに逆らって手早く進めます。この間、基本的に鼻ネジや肩をつまむ等の馬に対するプレッシャーは与えずに実施します。また馬が機嫌を損ねたり、怖がっている兆候がみられたら、一時的に手技を中断します。いずれも馬がリラックスした状態で手技を進めることで、安全確保に繋げるためです。

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クリッピング翌朝のイシノレプリートの08(牡・父バゴ)。初日は少々腹帯の違和感を示す場合があるので、注意しています。同馬も少々不穏な様子でしたが、すぐに慣れて、いつものように元気いっぱいの走りを見せてくれました。

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育成馬の調教は前年度よりも約2週間、早めに進んでいます。第1群(9/17馴致開始)と第2(10/15馴致開始)は、11/18からは本格的に混合での調教をスタートしました。1129日は1600mダートコースをF24程度のキャンターで1周程度の内容でした。先頭で馬群を誘導するのは左の黒鹿毛がケリーケイズプレジャーの08(牝・父はTiznow)、右の栗毛がウィーアワーズの08(牝・父はティンバーカントリー)

JRA育成馬の血統(宮崎)

宮崎育成牧場に入厩したJRA育成馬24頭は、その半数が917日に、残る半数も1015日に騎乗馴致を開始しました。どちらのグループも日々新しい経験をし、成長していく姿が手にとるようにわかる大変楽しい時期です。

さて、今回は入厩した24頭の血統(父系)について簡単に説明しようと思います。今シーズンの特筆すべき点は、すべて異なる父の産駒であること、つまり24頭の種牡馬がいることでしょう。

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上の表が宮崎在厩24頭の父系です。青い網掛けが牡馬(12頭)の父、赤い網掛けが牝馬(12頭)の父で、左側はその祖先を示しています。24頭というのは決して多い頭数ではありませんが、バラエティーに富んだ様々な系統をラインナップしています。

ノーザンダンサー系は、今回の分類法でいうと世界で最も勢力を拡大している系統といえるでしょう。当場育成馬でも最多となる9頭がこの系統です。このうちDanzigの直仔デインヒルは種牡馬として多数の活躍馬や後継種牡馬を出し、世界的に大成功を収めている系統で、1996年に日本でも供用されました。その直仔で本邦新種牡馬となるロックオブジブラルタルは、既に英・仏・米・豪・香の5カ国でG勝利馬を輩出しており、大変楽しみな種牡馬です。

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ロックオブジブラルタルを父にもつソプラニーノの08。素軽い動きが目立ちます。もの覚えがよく物怖じしない性格から、初期調教では他馬の先導役を果たす牡馬です。

ナスルーラ系の2頭はブラッシンググルームの孫にあたります。本邦新種牡馬のファンタスティックライト、2歳新種牡馬としてランキング上位にあるバゴとも今後の活躍が楽しみです。

ネイティブダンサー系の3頭はミスタープロスペクターの子孫にあたります。種牡馬として日本でも活躍したフォーティナイナーの直仔であるエンドスウィープは、本邦では3年間の供用のみで3頭のG馬(計G8勝)を送り出しました。その直仔スウェプトオーヴァーボードも日本への適性が認められつつある楽しみな種牡馬です。

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スウェプトオーヴァーボードを父にもつタイキエンプレスの08。おじにダービーGPG勝ちのタイキヘラクレスがいて、兄姉も堅実に活躍しています。強い気性が競馬でいいほうに発揮できるよう、育て甲斐のある牡馬です。

ロイヤルチャージャー系の父は5頭ですが、うち4頭はサンデーサイレンスの直仔です。1995年から2007年まで本邦リーディングサイアーに君臨し、今や「サンデーサイレンス系」と呼ばれ、日本では最も勢いのある一大勢力といえます。しかし国内での席巻度合いと比較して、JRA育成馬ではそれほど多数であるとはいえないようです。

一例として国内最大規模の1歳市場であるサマーセールの上場馬について調べてみました。今年の上場馬1,077頭の3代父までにサンデーサイレンスを持つ割合はなんと42.2%の高率でした。このうち売却された馬では44.7%となり、700万円以上の高額取引馬では55.6%と過半数にまで上昇します。それだけサンデーサイレンス系の人気度・信頼度が高いことを示す数値かと思われます。これに対して、JRAが同セールで購買した61頭では37.7%とやや低い数値となっています。今年のJRA育成馬はそれだけバラエティーに富んだラインナップといえるのではないでしょうか。

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先頭がゼンノロブロイを父にもつノースシェーバーの08。前向きな気性と動きのよさが目立つ牡馬です。写真は500mトラックでの駈歩調教2日目に撮影しました。

上記以外の系統も、4頭をラインナップしています。このうち新種牡馬となるデビッドジュニアは欧州の3歳中距離チャンピオンで、ドバイデューティフリー(G)にも勝利しました。その血にミスタープロスペクターをもたず、ノーザンダンサー、ヘイルトゥリーズンも薄いことから、日本の繁殖牝馬にも配合しやすい血統といえます。

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誘導馬(先頭・芦毛)に続く栗毛がデビッドジュニアを父にもつローズガーデンの08。どっしりと構えていて、時に牡馬のような威圧感を漂わせる牝馬です。筋肉質で尻回りのボリュームが増してきました。写真は500mトラックでの駈歩調教初日です。

馬に親しむ日(宮崎)

830日、JRA宮崎育成牧場では、お客様向けの最大のイベント「馬に親しむ日」を開催しました。

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ミニチュアポニー「プリン」ちゃんとのかけっこ。

大変暑い日ではありましたが、3,696名のお客様が来場され、乗馬試乗会(497名試乗)、ポニー馬車(271名乗車)などの馬と触れあう催し物や、盛り沢山のアトラクションでお楽しみいただきました。この場をお借りしまして、ご来場いただきましたお客様、ならびにご協力いただきました地元馬関係者とJRA馬事公苑の皆様に感謝申し上げます。

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注目のイベント「ポニー競馬」には10頭がエントリーしました。サラブレッドにも負けない迫力と、写真判定に持ち込まれるほどの大接戦に場内が沸きました。このレースは118に行われます「第1回ジョッキーベイビーズ(東京競馬場・芝・400m)」の宮崎・鹿児島地区予選となっており、2名の代表者が決定しました。

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馬に蹄鉄の装着を実演する「馬のくつやさん」も大盛況でした。

普段「馬」が身近な存在ではないお客様が、このようなイベントを通じて馬と触れあうことで、競馬に興味を持っていただくきっかけになるのではないかと思います。同時に、我々が育成しているサラブレッド育成馬も、一般のお客様にもみていただき、興味や親しみを持っていただけるようにしていきたいと考えています。

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この日最後の演目は、JRA馬事公苑から来たアンダルシアン(スペイン原産の品種)によるホースダンスでした。演技終了後には、多くのお客様が記念撮影会に参加されました。

馬に親しむ日が終わると、「育成牧場」としての業務がいよいよ本格化します。95日(大安)には、JRAが北海道内で購買した育成馬18頭が、2日間の馬運車輸送を経て宮崎に到着しました。これにより、今期宮崎育成牧場で育成する24が揃いました。幸い、馬たちに輸送による疾病や放牧での怪我もみられなかったため、97日より全頭の夜間放牧を開始しました。

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95日、最初の放牧直後の写真です。3頭ずつのグループで4ヶ所の放牧地に放された馬たち。お互いに顔を見合わせながら、新しい仲間に興味津々の様子です。

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97日、宮崎競馬場時代からの歴史がある馬頭祭を馬魂碑前で開催し、人馬の安全を祈願しました。今月中旬にはいよいよ第1グループ(約12頭)の騎乗馴致を開始します。

ブリーズアップセールまであと7ヶ月。

’09-’10シーズンのJRA育成馬が入厩しました(宮崎)

今年も2歳馬たちがデビューする新馬戦の季節となりました。一方で「Big Dream StablesJRA宮崎育成牧場には1歳馬が入厩し、次世代にむけてスタートをきりました。

6/17、今シーズン最初の入厩となったのはローブモンタントの08(牝・父はキャプテンスティーヴ)です。この世代最初の育成馬としてJRAが九州市場で購買した熊本産馬です。九州産馬としては昨年も1頭購買・育成された鹿児島産馬がいましたが、熊本産馬はJRA育成馬(サラブレッド)として初めてのケースと思われます。

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向かって左の鹿毛馬がローブモンタントの08(牝・父はキャプテンスティーヴ)。母はエルフィンSを勝ち、桜花賞3着の実績馬です。7/31の馬体重は386kg。向かって右の栗毛馬はローズガーデンの08(牝・父は新種牡馬デビッドジュニア)。祖母は日経新春杯など重賞4勝したエルカーサリバーです。7/31の馬体重は420kg

続いて7/9には、八戸市場で購買した5頭(青森産馬2頭・北海道産馬3頭)が入厩しました。青森から丸1日をかけての輸送になりますが、馬運車にのせて興奮する馬もなく大変スムーズに出発できました。これは馬運車で長距離輸送を経験したことのある馬が3頭いたこともありますが、セリ上場までに人との信頼関係をしっかり構築してきた成果であろうと感じました。輸送中に発熱する馬もおらず、大変順調な入厩となりました。

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77日の八戸市場購買馬5頭は、8日に青森を出発しました。写真は輸送中のモンテドーターの08(牝・父はフサイチコンコルド)。母の兄姉には高松宮記念馬サニングデールをはじめ重賞での活躍馬が並びます。7/31の馬体重は390kg

入厩馬は♂2頭、♀4頭の2グループに分け、最初は昼間放牧としました。はじめて合流する馬同士の放牧とあって、怪我などが発生しやすい時です。特に牡馬は順位付けの行動として、立ち上がり「相撲をとる」などの行動が避けられません。ある程度のリスクはありますが、9月以降に開始する騎乗馴致までの期間に青草をたっぷり食べることで肉体の成長を促し、群れで適度な運動をすることで基礎体力が養成されることを見込んで集団放牧を行っています。また、リスクを軽減するため、事前に放牧地内を引き馬でみせて環境に慣らしたり、牡は23頭の少頭数の群れで放牧したりしています。また集団放牧開始から数日間、放牧後しばらくの時間観察を続け、危険の回避および馬の個性を掴むことに努めています。

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集団放牧中の牝馬群。向かって右端の栗毛馬がウィーアワーズの08(父はティンバーカントリー)。祖母とおじ・おばはアメリカで活躍、兄弟がJRAで堅実に勝ちあがる血統です。7/31の馬体重は427kg

2日後には群れも落ち着き、馬の体調や怪我の心配もないことを確認して、夜間放牧に移行しました。この暑い時期の宮崎では涼しい夜間に放牧して昼は厩舎で休むことが精神的にも肉体的にも馬にとってベストといえます。日中の厩舎では暑熱対策として扇風機を使用し、その風量もこまめに調整します。

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シャワーによる全身洗浄にも慣れました。馬はモンテドーターの08

また、秋からの騎乗馴致開始に備えて、人との信頼関係を築き、扱いやすい馬になるよう、なるべく涼しい時間を選んで、運動・手入れを行なっています。運動は今後の調教で経験する様々な場所や環境に慣れるよう、ラウンドペンや調教馬場のほか、ウォーキングマシン、脚浴場(小さな水まりから徐々に水を増やして)など日替わりで行っています。検温やシャワーでの洗浄、馬房内での手入れなどにも慣れてきました。

83日現在、全頭とも至って順調に放牧・運動を継続しています。

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2頭で放牧中の青森産牡馬。向かって左の栗毛馬がマイネシャリオの08(父はテイエムオペラオー)。おじに阪神大賞典勝ちのメジロボアールのいる血統です。7/31の馬体重は444kg。向かって右の鹿毛馬はミスヴィーナスの08(父はキンググローリアス)。おじのキングリファール、おばのケイツーパフィは重賞路線の実績馬です。7/31の馬体重は400kg

キャンドル競走馬への道 その6 ~ キャンドルの卒業式 (宮崎)

先日ご案内したBig Dream Stables宮崎育成牧場での育成馬展示会(宮崎)。これまで注目してきたビッグキャンドルの07(通称キャンドル、牝、父は新種牡馬 バゴ)ですが、展示会数日前になって39度の熱を出し、やや食欲も落ちてしまいました。小学生のように式に向けて張り切りすぎたわけではないのでしょうが、「卒業式」への参加が危ぶまれました。

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幸いにも発熱から回復し、「卒業式」の比較展示に颯爽と入場してきたキャンドル。展示中も落ち着いて堂々とした振る舞いでした。

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いよいよ騎乗供覧。緊張のスタート直前です。ゲイリーアミューズの07(白帽・父はボーンキング)とともに前の組の走りを見守るキャンドルと騎乗者(青帽)。

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2頭併走で、ラスト2ハロン14.2-13.9を記録。堂々とした走りをみせ、無事に卒業式を終えたキャンドル(青帽)。

○ブラックタイプ(血統情報)について

今回はブリーズアップセール前の掲載最終回となりますので、キャンドルをもっと深く知っていただくために、ブラックタイプ(血統情報)の話をさせていただきます。

セリ名簿のほか、インターネット情報でも公開されているブラックタイプ。皆様もご覧になったことがあるのではないでしょうか。「文字ばかりでつまらない」と思われた方、ここには実に多くの情報が詰まっているのです。それではキャンドルのブラックタイプを使って説明します。

まずは上段の血統表からです。血統表は文字通りその馬の父、母、さらには父の父、母の父などが記された一種の家系図です。上段に父が、下段に母が記されます。この表は3世代を遡って記してあり、3代血統表と呼ばれます。キャンドルの父は、フランスの競走馬で凱旋門賞やパリ大賞典など1,6002,400mのGⅠを5勝した名馬バゴ2006年にJRAが導入し、現在は日本軽種馬協会・胆振種馬場で繋養されています。父バゴにとって、2007年生まれのキャンドルは最初の世代の子供であり、バゴは今年の「2歳新種牡馬」としても注目されています。

バゴの父は1989年、英2000ギニーとエプソムダービーを制してニジンスキー以来のイギリスクラシック二冠を達成したナシュワン。さらにその父は1,1001,600mのGⅠを5勝し、種牡馬としても大成功を収めたブラッシンググルーム。この様に、父、父の父、父の父の父・・・・とつながる一番上の行をサイアーライン(父系)とよび、母ビッグキャンドルから続く一番下の行をファミリーライン(母系、牝系)とよびます。どうしても、名馬が綺羅星のごとく並ぶサイアーラインに目がいってしまいますが、実はファミリーラインにも馬の競走能力に大きな影響を与える重要な情報が隠されています。

仔馬の素質は母から55-60%を、父から40-45%を受け継ぐという研究報告があり、優秀な仔馬を生み出すためには母馬の資質や要因が大きいとされているのです。その母系の活躍度合いをひと目で理解できるように、近親馬名の書体や太さを競走成績のよいものほど目立たせるにようにした表記基準こそが「ブラックタイプ」であり、サラブレッドを売買する世界各国のセリ名簿で採用されています。

ブラックタイプでは、出生年、種牡馬と競走成績等について、母、2代母、3代母・・・さらにその子供たちを辿ります。

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ビッグキャンドルの07

再びキャンドルのブラックタイプをみますと、まずは母ビッグキャンドルの解説があります。母は岩手競馬で3勝を挙げました。そして、注目していただきたいのは母馬名のすぐ下の初仔(はつご)という表記です。これは読んで字のごとく初めての子供という意味です。キャンドルの場合、お母さんが9歳の時に初めて産んだ子供、ということになります。

2代母、おばあちゃんの欄には、その息子であるイナズマタカオーという太文字の馬がいます。94年の中日スポーツ賞4歳S(GⅢ)、95年の北九州記念(GⅢ)などを制し、現在はJRA中京競馬場で誘導馬として活躍しています。この馬は重賞勝ち馬ですから、最も太く表記されます。実はこのイナズマタカオーは旧宇都宮育成牧場で育てられたJRA育成馬でした。つまり、おじさんにあたるイナズマタカオーが大活躍したビッグキャンドルの07は、JRAと相性のよい馬であるといえそうです。

ブラックタイプは一見するとただ名前を羅列しているだけでつまらないもののようですが、じっくり検証してみると本当に色々なことがわかります。その馬の血統背景が見えてくる、非常に奥深いものなのです。“あっ!この馬知っている!”とか、“この馬の近親なのか~!そういえばあの時・・・・”などなど、あなただけの競馬ロマンが見つかるかもしれません。

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キャンドルをはじめJRA育成馬たちは、無限の可能性を秘め宮崎を巣立とうとしています。皆様、ブリーズアップセールにご注目ください。 

育成馬展示会を開催しました(宮崎)

 

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育成馬展示会での調教供覧を前に、1列で馬場入場。先頭はレッドジグの07(牝馬、父:ゼンノロブロイ)

JRA育成馬たちにとって約710か月に及んだBig Dream Stables宮崎育成牧場での育成。その卒業式ともいえるJRA育成馬展示会(宮崎)が330日に行われました。宮崎としては大変肌寒い1日となってしまいましたが、馬主・調教師・生産者の方々をはじめ、約110名のご来場がありました。

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調教供覧で、力強い走りを魅せたNo.15エイダイヒロインの07(白帽、父:クロフネ)とNo.16プレゼントの07(青帽、父:バゴ)の牡馬2

この世代の育成馬たちは、例年並みの調教メニューに加え、常歩での運動量を多く確保して、十分に鍛錬されてきました。この日は最後の2ハロンを15秒台~14秒台で、馬たちが走りたい気持ちをためた状態で、しっかりとした動きをご覧いただくことが目標でした。来場者の熱い視線に応えようと張り切ってしまったのか予定よりタイムが早くなった組もありましたが、無事に卒業式を終えることができました。

今後も個体ごとの状態に応じた調教・調整を心がけ、すべて馬たちが健全な状態で427日のブリーズアップセールを迎えられるよう、一同努力してまいります。

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3列併走でのウォーミングアップ。宮崎育成牧場は温暖な気候を活かし、500mおよび旧競馬場1,600mの広いダートコースで、馬場の凍結を心配することなく思い通りの調教が行えます。

なお、宮崎育成牧場での調教は、中山競馬場に向けて出発する419日まで毎日実施されます(火曜日を除く)。馬主・調教師・生産者等関係者の皆様にはいつでもご来場いただきたく、お待ちしております。

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調教後のグラスピッキングでは、生産者の方などが関係馬の成長を間近で確認されていました。馬はゲイリーアミューズの07(牝馬、父:ボーンキング)。宮崎は年中豊富な青草を給与できるため、育成馬たちの健康維持にも大変有利な土地柄といえます。

また、これまで注目してきたビッグキャンドルの07(通称キャンドル)の展示会での様子は次号で紹介いたします。

キャンドル 競走馬への道 その⑤ 受験番号が決定!(宮崎)

卒業・入学の季節です。JRA育成馬にとっても来る330日のJRA育成馬展示会(宮崎)が「卒業式」、そして427日のJRAブリーズアップセール(中山)が競走馬となるための「入学試験」といえます。このブログでも何度か紹介してきたビッグキャンドルの07(通称キャンドル、牝、父は新種牡馬:バゴ)はブリーズアップセールの上場番号が58に決まりました。これが競走馬訓練学校(トレセン)入学への受験番号といったところでしょうか。

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「受験番号ゼッケン」を背に整列する牝馬たち。左から2頭目の「58番」がキャンドルです。この日は3/30(月)に迫った育成馬展示会の調教予行演習を19日に実施しました。素直で扱いやすいキャンドルは単走でしっかり抑えたまま、ほぼ指示通りのタイム(ラスト2ハロンを16.1-14.9秒)を記録しました。

この受験生(育成馬)たちは、活躍を楽しみにされている購買予定の皆様からみれば、かわいいわが子のような存在でしょうし、大変高額な商品でもあります。その商品の内容・価値をきちんと説明するために、JRAでは病歴や調教状況など様々な個体情報を開示しています。中でも「育成馬写真カタログ」は最も基本的な個体情報のひとつであり、ブリーズアップセールの事前購買者登録をお済ませの馬主の皆様に冊子を郵送します。また、最新の個体情報と写真はホームページ上でどなたでもご覧いただけます(4月上旬頃、セール情報ページ内に掲載する予定です)。

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写真撮影準備中のプレミアムショールの07(牝・父:アグネスフライト)。たてがみをしっかりと右側に寝かせます。

宮崎では318日より写真カタログの撮影を開始しました。お客様が80頭のJRA育成馬を比較・検討するための貴重な資料となるのですから、どの馬もきちんと揃った姿勢での撮影が求められます。納得のいく写真が撮れるまで、天気とも相談しながら根気強く取り組みます。3分で終わる馬もいれば30分以上要する場合もあります。しかしその30分は馬とのコミュニケーションやしつけのための時間であり、決して無駄になるものではありません。

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写真の失敗例その1前のめりになってしまい耳も後ろを向いています。馬はホットマイハートの07(牡・父は新種牡馬:スパイキュール)

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写真の失敗例その2。風でしっぽを巻き込んでしまっています。天気もなるべく薄曇りの条件がよく、この日は光線がやや強すぎます。馬はニシノファンシーの07(牝・父:マヤノトップガン)

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何度かポーズを直し、所要時間7分で受験番号58・キャンドルのカタログ写真ができあがりました。現在の体高155cm、馬体重452kgBUセールまであと1か月、大切に育てあげます。

虹の彼方に駆ける Over the Rainbow(宮崎)

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雨上がりの旧競馬場スタンドを背に、育成馬たちは「虹の彼方」の大きな夢に向けてトレーニングに励んでいます。

JRAブリーズアップセールまで1か月余りとなり、毎年のことながら育成牧場は慌しくなってきました。馬たちは逞しく成長していますが、牡馬の中には噛み付いてきたり、運動中に立ち上がるなどの反抗的な態度を示す馬も出てきます。このような馬には人間が毅然とした態度で臨み、必要に応じて懲戒を与えることで、人がリーダーであることを再認識させなければなりません。

また、調教では走りたい気持ちを抑えきれないといった前向きさや、併走時の負けん気の強さが目立ってきており、騎乗者も手を焼いています。ただし、馬が走りたいと思うスピードで速く走らせるのではなく、騎乗者がスピードをコントロールして馬の力をためて、ある程度の我慢を教えつつ走らせることが重要です。これは、競馬において馬込みの中で折り合いをつけるための調教であり、オーバーワークを防ぐためでもあります。オーバーワークになると故障につながることはもちろん、かえって馬の走りたい気持ちが萎えてしまいます。

言い尽くされた言葉かもしれませんが、馬を常にフレッシュかつハッピーな状態に維持することが重要なわけですが、これは本当に難しい課題です。ちょっとした馬の変化も見逃さないように馬を毎日見続けることは、この仕事を与えられた我々の義務であり、若馬たちが競馬場にいってからの「活躍する可能性の芽」を摘むことのないよう、日々取り組んでいます。

さて今回は、最近の調教~クーリングダウンの様子を写真で紹介します。

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最初に500mトラックコースでのウォーミングアップを実施します。写真は速歩中の牡馬群です。このコースではゆっくりとした速度でリラックスした調教を心がけており、3列併走の馬たちもゆったりと速度をそろえて運動できるようになりました。

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続いて1,600mトラックコースに移ります。このコースでは速い速度で走行できることを覚えていて、育成馬たちの雰囲気も「競走モード」に変わります。ここでは1,0002,000mの駈歩を実施しますが、ベースとなる内容は1ハロン2120秒の速度で4ハロンを平均的に(4F8480秒)走行することです。また、週12回実施する強め調教では1ハロンを1716秒で3ハロン(3F5148秒)の走行を行います。写真は前からプレゼントの07(牡・父は新種牡馬バゴ)とタヒチアンブリーズの07(牡・父:ボストンハーバー)。

体力があり、脚元の頑丈な馬は週2回の強め調教を実施しますが、無理をするべきではないと判断した馬は強度を落とす、というように個体ごとに調教量の差をつけています。幸いなことに、ここまで跛行等の運動器疾患で長期の戦線離脱を余儀なくされる馬は出ていません。

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調教後のクーリングダウンでは、日替わりで様々な場所を通過して、馬の気分転換をはかっています。写真は「ミニ坂路」を1列で進んでいく育成馬群。

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クーリングダウンを終え、騎乗調教から開放された馬たちは、グラスピッキングで無心に青草をほお張ります。リラックスした雰囲気でさらなる気分転換がはかられています。手前はスラムインの07(牡・父は新種牡馬ゼンノロブロイ)

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最後に腕節までの深さの脚浴場を通過してクーリングダウンは終了です。四肢を冷却するための脚浴場の水には、肢の汚れを落とし清潔に保つ(皮膚炎の予防)目的で硫黄成分などが混ぜてあります。写真中央はスーパードレスの07(牝・父:キングカメハメハ)

育成馬の成長(宮崎)

世の中不景気な話題ばかりですが、最近の宮崎には景気のいい話(?)がありました。全国ニュースでも大きく報じられましたが、WBC日本代表チームが宮崎入りしています。キャンプ地のサンマリンスタジアムでは駐車場がパンク状態、道路は大渋滞となり、巨人との練習試合の日にはついにスタジアムの駐車場を閉鎖(車両乗り入れ禁止)するまでの事態に!! 来場者は45,000人にもなりました。市内のホテルもほぼ満杯のようで、各所で混乱と報じられましたが、街全体が活気付いています。

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2月も温暖な日が多く順調に調教中です。写真はクーリングダウン中の牡馬群で、向かって左がプレゼントの07(父:バゴ)、右はバルジの07(父:タップダンスシチー)。ちょっと似た顔の新種牡馬産駒2頭です。

WBC代表の他にも、多くのプロ野球チームがキャンプ地に選ぶだけの温暖な気候もあってか、体の小さかった当場育成馬ビッグキャンドルの07(通称キャンドル)もすくすくと成長し、9月に387kgだった馬体重も2月には453kg66kgも増加しました。当初436kgだった全24頭の平均体重も今では48kg増えて484kgになり、どの馬もずいぶんと逞しくなってきました。

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除脂肪体重の測定

Big Dream Stables宮崎育成牧場では、馬体重測定にあわせ脂肪厚の測定をすることで除脂肪体重を推定しています。この除脂肪体重は馬の全体重のうち、体脂肪を除いた筋肉や骨、内臓などの総量にあたりますので、その推移を継続して観察することで、育成馬の筋肉増量を推定することができます。方法としては臀部の脂肪厚を超音波(エコー)で測定することで、体脂肪率を推定(体脂肪率(%)≒5.47 × 脂肪厚(cm+2.47)します。体脂肪を含めた馬体重そのものだけではなく、この数値も含めて検討することは、トレーニング効果と馬体のコンディションを推定するうえで大変有用であると考えています。

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上の図は2世代の当場育成馬における脂肪厚の測定結果です。白丸が前世代(現3歳)の当場在厩時の数値で、青丸が現2歳世代の数値です。それぞれ10頭ずつ(牡牝各5頭)を測定した数値です。

未だ2世代だけのデータではありますが、11月~1月にかけて脂肪厚が増加する傾向がみられます。これはトレーニング内容等よりも気候による影響が大きいと考えられます。人でも冬期間には体脂肪率が増えるというデータがあります。ただし、現2歳世代の育成馬は前世代に比べ脂肪厚はやや低めで推移しています。

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上の図は先ほどの脂肪厚から推計した除脂肪体重の推移です。これをみると11月から12月にかけては2世代とも除脂肪体重が減少しており、体脂肪の増量で体重が維持されていたことが分かります。この時期の気候や運動・飼料量または情動の変化など様々な要因が考えられますが、はっきりとした理由は不明です。いずれにせよ次世代以降の育成馬を宮崎で順調にトレーニングしていく上で、注意しなければいけない時期といえるかもしれません。

また前世代(白丸)との比較では9月にはほとんど差のなかった除脂肪体重が、本2歳世代(青丸)では10月以降、増量が大きくなっています。トレーニング効果により、筋肉量の増加がより大きかったものと推定しています。

今後数年間はさらにデータを蓄積し、性差や競走成績との関連も調べることで、よりよい育成調教管理指針が得られるものと期待されます。特に温暖な宮崎における除脂肪体重の増加が、北海道におけるものとどのように違ってくるのかは興味深いところで、プロラクチン(※)というホルモンの測定とあわせて調査する予定となっています。

プロラクチンの測定

JRA育成馬を用いた研究データでは、北海道(日高)では冬から春にかけて、特に牝馬の除脂肪体重が増加しない傾向が認められています。宮崎の育成馬での除脂肪体重の増加は、温暖な気候での成長の早さを示すものではないかと推測しています。

現在宮崎育成牧場では、東京農工大学にご協力いただき、脳の下垂体から分泌されるホルモンであるプロラクチンの測定による新たな調査を実施中です。プロラクチンには成長ホルモン様の作用があり、その測定によって宮崎の馬の成長の早さ、暖地育成のよさを証明できることが期待されます。

育成馬展示会のお知らせ

Big Dream Stables宮崎育成牧場では330日(月)午後1時より育成馬展示会を実施します。当日は全24頭の展示と約12頭の調教をどなたでもご覧いただけます。また、生産・育成・競馬関係の皆様には、午前中の調教(12頭程度、830分頃より)もご覧いただけます。皆様のご来場をお待ちしております。また、当日以外でも関係者の皆様にはいつでもご覧いただけますので、どうぞお気軽にお問い合わせください(火曜日は馬休日となっております)。

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3列縦隊で常歩・速歩運動を実施する牝馬グループ。先頭は向かって左からプレミアムショールの07(父:アグネスフライト)、ゲイリーアミューズの07(父:ボーンキング)、ビッグキャンドルの07(父:バゴ)。ビッグキャンドルの後ろがレッドジグの07(父:ゼンノロブロイ)。