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2024年10月

2024年10月25日 (金)

全国の装蹄師さんがその腕を競う!

企画の桑野です。

 先日、栃木県宇都宮市にある(公社)日本装削蹄協会の教育センターにて、第75回全国装蹄競技大会が開催されましたのでご紹介します。

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大会パネルと装蹄による歩様改善を検査する馬道;優勝者には農林水産大臣賞が授与される。

 装蹄師は馬の蹄を削って蹄鉄を履かせるお仕事のプロです。

 蹄を削ることを“ツメ切り”と呼んだりもしますので、人の爪を切っているようなイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれません。されど、その技術は、誰でもできる簡単なものではありません。少し間違えただけで、歩きづらい蹄にしてしまいますし、履かせる蹄鉄の造形や整形は鍛治技術を必要とし、熟練の技が要求されます。全国装蹄競技大会は、日本装削蹄協会の認定資格を取得した装蹄師が各地で予選を勝ち抜き、選ばれた者が参加する権威ある大会です。

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焼いた鉄をハンマーで叩きながら蹄鉄に作り上げていく様は迫力あります。

 個人開業している装蹄師だけでなくJRAの職員も大会に参加するのですが、今年の優勝者はJRAの職員装蹄師でした。手前味噌ですが、JRAの装蹄師の技術はなかなかのものです。ここ競走馬総合研究所を含め、各地のJRA施設での催しによく職員による装蹄実技が公開されますが、その技術は洗練されていることを申し添えます。ですが、実際に熱した鉄を叩く造鉄技術は競技大会でないと見られないかと思います。お客様に火花が散って火傷なんてことになったら大変ですからね。もし、造鉄技術を見学できる機会にめぐり会えたら、その時は大変貴重な体験をされていると考えていただけると、演じている装蹄師さんも装蹄冥利に尽きるのではないでしょうか。

2024年10月17日 (木)

JRA特別展示を見てきました!

企画調整室の桑野です。

 先日、このサイトにて10月20日(日)まで東京国立博物館でJRA特別展示が開催されていることをお伝えしました(https://blog.jra.jp/kenkyudayori/2024/09/jra-e7af.html)。この特別展示を見てきましたのでご報告します。

 荘厳な佇まいの表慶館(図1)で行われた当展示会のタイトルは、“世界一までの蹄跡”。 「あれ、フランス凱旋門賞優勝馬も出ていない日本の競馬が世界一?」と訝る声も聞こえてきそうですが、JRAが主催するジャパンカップ、安田記念、天皇賞(春)の3レースは、2020年のロンジン・ワールドレーシング・アワードで、距離別カテゴリーにおいてそれぞれ世界首位に認定されています。

 JRAを筆頭に日本の競馬界が世界を目指し出したのは、1981年の第1回ジャパンカップからと考えますと、足掛け39年での目標達成と言えるでしょう。長かったとするか、短かったとするか、それぞれ思惑はあると思いますが、私が競馬会に就職した平成元年(1989年)では、今の日本馬の世界的躍進はとても考えられませんでした。時間のかかる馬の改良および育成・調教技術の進歩を40年に満たない年月で成し遂げたことは、私にとっては驚きです。

Photo図1.東京国立博物館の表慶館

 JRA設立70年目にこのような企画、なかなか見どころがありました。特に、10年ごとの競馬の歴史を紐解いた大型ヴィジョンでの放映「タイムトリップ競馬史」は、競馬の変遷を実感できる内容で、見ていて楽しい映像でした。

 また、私の興味本位で恐縮ですが、上野不忍池(しのばずのいけ)競馬場の当時の様子を伝える明治時代の絵画(図2)が印象的でした。私の祖父母が湯島に住んでいたことから、私は幼少期、それと知らずに不忍池の外周を走り回っていたのですが、なんの因果か、JRAに就職して今度は全国の競馬場を走り回ることになるとは、ゆめゆめ思いもしませんでした。

 この展示、もう終わってしまいますが、開催最後の週に飛び込みで見に行かれてもいいかと思います。ぜひ、足を運んで近代競馬の発展の有り様を感じていただきたいと思います。

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図2.当時の上野不忍池競馬場の情景を伝える説明と絵画

2024年10月16日 (水)

屋内馬場でのモーションキャプチャを使った実験

運動科学研究室の胡田です。

 前回の掲載(https://blog.jra.jp/kenkyudayori/2024/02/post-449c.html)では、野外データ測定について書きましたが、今回、屋内における大掛かりなデータ測定についてご紹介します。

 先日、我々運動科学研究室は、一緒に研究をしている慶應大学のラボのスタッフと、北海道のJRA日高育成牧場に赴き、屋内800メートル馬場において人馬一体となる騎乗運動のデータを採取してきました。野外と異なり、天候に悩まされることなくデータを採取できる屋内での実験は大変嬉しいものでした。

 さて前回の野外測定では、表面筋電図を採取することで走行中の個々の筋肉の活動状況を測定しましたが、今回はモーションキャプチャという、馬と騎乗者双方の動きを表面から解析するシステムを用いました。このモーションキャプチャは、CGアニメーションの作製、アスリートの動作解析、ロボットや車の動きの計測など多岐にわたる分野で使われている技術です。我々は、動作の特徴となる人と馬の関節の位置にマーカーをつけて、それぞれの動きを記録した後、デジタル化して分析しました。たくさんのマーカーを装着したり(写真1)、カメラやコード類を設置したり(写真2)と大がかりな実験になるため、屋内での騎乗実験とはいえ、なかなか大変でした。

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写真1 馬にも人にもマーカーを装着して文字通り人馬一体となって測定開始

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写真1 馬にも人にもマーカーを装着して文字通り人馬一体となって測定開始

 実験で集まったデータをもとに、馬と騎乗者の走行時のフォームの解析を行い、双方の動きの特徴とその関連性などを探っていきます。こういったデータを積み重ねていき、適切なリハビリやトレーニング管理、騎乗技術の向上などに活用していきたいと考えています。

2024年10月 7日 (月)

今年も「こども馬学講座」を開催しました

総務課の山口です。

 当研究所では、毎年秋口に「こども馬学講座」を開催します。このイベントは、小学校高学年のお子様に「ウマとはどんな生き物なのか」を知ってもらおうと年1回開催され、獣医師のレクチャーに加えて、乗馬指導者による「体験乗馬」や「馬とのふれあい」、装蹄師による「蹄鉄を使ったもの作り」など盛りだくさんの内容を体験してもらうものです。今年も秋分の日(9月23日)に行われ、保護者の方を含めて13組40名様にご参加いただきました。まず、獣医師による馬の身体の仕組みや走り方に関する講義では、子供達が真剣に向き合っているのが印象的でした。続いて、馬用の大型ルームランナーである「トレッドミル」で、馬の走る姿を間近で観察していただきました。講義だけではなく、実際に走る姿を見ることで、お子様に走る馬の迫力をお伝えし、保護者の皆様には馬の走りについて理解を深めていただきました。

Photo_6写真1.馬学講座          写真2.トレッドミル見学

 その後は、「馬とのふれあい」や「体験乗馬」を通して、馬の温もりを感じてもらいました。馬に跨って芝生の上を一周していただいたのですが、初めは恐る恐る馬に近づいていたお子様たちも、降りた後は「もっと乗りたかった~」と名残惜しそうにしていました。そして、最後に装蹄師によるダイナミックな造鉄実演を見ていただいた後、参加者全員で蹄鉄を使ったコースターづくりをもってプログラムは無事終了しました。

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写真3.馬とのふれあい               写真4.体験乗馬

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写真5.造鉄実演

 アンケートでは「乗馬やふれあいが特に楽しく、とても良い経験になった」、「親子で楽しめる内容で馬のことが好きになった」、「職員の方々がとても優しくて良かったです」などの声が多く寄せられました。正しく取り扱えば、馬は優しく、決して怖い動物ではないと感じてくれたら嬉しいですね。

 当研究所は、防疫上の観点から常時開放することはできないため、見学の機会は限られています。その意味でこのイベントは、皆様と直接お話出来る職員にとっても大変貴重な機会です。今後も一般のお客様に馬のことを知ってもらい、たまには競馬場へ足を運んでいただいて、迫力ある馬の走りを生で見て感動していただけたら幸いです。

2024年10月 1日 (火)

JRA総研サマースクール(VPキャンプ)無事終了

企画調整室の福田です。

 例年夏になると恒例の獣医学生インターンシップ(VPキャンプ)の一環として、当研究所では、いわゆる「JRA総研サマースクール」を実施しております。今年も8月最終週から9月の初週にかけて実施され、全国の獣医系大学から計24名の学生さんが参加しました。競走馬や乗馬の獣医師へと進む動機になればと、国内では触れる機会の少ない馬の取り扱いに加えて、馬獣医学に関する臨床技術や検査業務を体験してもらいました。参加者の多くが初めて馬に触れるという状況でしたが、研修最終日にはそれなりに馬の扱いに慣れてくれたのは嬉しい限りです。彼らは大学に入学したとたんにコロナ禍となってしまった世代。対面授業は少なく、部活動の制限から学生同士の交流も活発ではなかったようです。そういう意味でも、各所で実施されるインターンシップは新鮮な体験の場であったことでしょう。我々が提供した実習の場でも、楽しい経験が共有でき、学生間の交流もできたと記憶に残る実習となったようです。

 来年も開催する予定ですので、獣医学生さんはVPキャンプやJRA総研のお知らせに注意していてください。

12_2写真1  左;臨床コース、右;感染症コース

参加した学生さん達(掲載許可をいただいています)。未来の馬獣医師の卵たちかも....

34写真2  左;包帯巻きの練習(臨床コース)、右;細菌培養実習(感染症コース)

臨床研修や検査実習に積極的に取り組んでいただきました。

5写真3  研修には乗馬訓練もあります。初めてでも上手に乗りこなしました。