22-23育成馬ブログ(生産③)

種付け後の血中プロジェステロン値について

~適切な飼養管理が血中プロジェステロン値を高く維持して受胎率を向上させる?~

 2月になり多くの生産牧場で子馬が生まれていることと思います。JRA日高育成牧場においても、2月12日に最初の子馬が誕生しました(写真1)。生産牧場では子馬が生まれるのと並行して、来年に向けての種付けも行っていかなければなりません。
 今回は最近発表された種付け後の血中プロジェステロン値に関する興味深いお話についてご紹介するとともに、血中プロジェステロン値を高く維持して受胎率を向上させるための適切な飼養管理の重要性について触れてみたいと思います。

Photo 写真1 2023年最初のJRAホームブレッド

・種付け後の血中プロジェステロン値の意味
 本題に入る前に、馬の発情サイクルについて簡単にご説明します。馬は自然状態においては日長時間の長い季節(春~夏)にのみ繁殖期のある長日性季節繁殖動物です。そして、その繁殖期の中で約7日間の発情期と約14日間の黄体期が交互に繰り返されることになります。種付けのタイミングは、発情期の最後に起こる排卵時であり、受胎していれば黄体がそのまま維持されて妊娠が継続することになります(図1)。黄体が形成・維持されているかを確認する方法としては、経直腸エコー検査で黄体を確認する方法と黄体から産生されるプロジェステロン(黄体ホルモン)を血液検査で調べる方法があります。形成された黄体が機能しているかを知る上では、血中プロジェステロン値を調べる方法が優れていると考えられ、海外においては種付け後(正確には排卵後)5日目の血中プロジェステロン値を調べることが行われています。値が低い場合にはプロジェステロン類製剤(レギュメイトなど)を投与し、妊娠を継続させる試みが行われています。妊娠維持に必要な血中プロジェステロン値は4ng/ml以上であったという報告(Ginther, 1985)があり、この値がプロジェステロン類製剤を投与する指標として用いられています。

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図1 馬の発情サイクルのイメージ図

・受胎と血中プロジェステロン値の関係に関する研究
 これまで説明したように、種付け後の血中プロジェステロン値が受胎と関係があるのではないかと考えられてきましたが、その関係については詳しく調べられていませんでした。そこで、ニュージーランドの研究者らが2018年の繁殖シーズンに大規模な調査を実施しました(Hollinshead, 2022)。著者らは275頭の種付けを行った繁殖牝馬に対して、排卵5日目の血中プロジェステロン値を測定し、その値を排卵14日目の時点での受胎した繁殖牝馬と不受胎だった繁殖牝馬との間で比較しました。その結果、受胎群の血中プロジェステロン値は6.4±3.0 ng/mlであり、不受胎群の5.5±3.3 ng/mlよりも有意に高い値であったことを報告しています(図2)。この結果は、種付け後のプロジェステロンが高い方が受胎しやすくなる可能性を示しており、多くの生産者の方が目指している受胎率を向上させることに役立つかもしれない知見と言えます。JRA日高育成牧場では毎週繁殖牝馬の血中プロジェステロン値を測定しています。過去5年間に種付けを行った繁殖牝馬の種付け後(排卵後3~9日)の血中プロジェステロン値を調べ、上記の論文と同様に受胎した繁殖牝馬と不受胎だった繁殖牝馬との間で比較しました。その結果、受胎群は平均7.7 ng/mlであり、不受胎群の平均6.9 ng/mlよりも高いという結果になりました(図2)。排卵から起算した測定日が一定ではないJRAの結果の解釈には注意が必要ですが、やはり種付け後のプロジェステロン濃度は高い方が望ましいと考えられます。

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図2 受胎群と不受胎群の血中プロジェステロン値の比較

・適切な飼養管理が血中プロジェステロン値を高く維持するのに重要
 血中プロジェステロン値が高い方が望ましいことを説明しましたが、どのような場合に高くなるのでしょうか。まず、繁殖牝馬の栄養状態が血中プロジェステロン値と関係があることが知られています。低栄養状態の繁殖牝馬は黄体機能が低下し、それに伴って血中プロジェステロン値も低くなり、早期胚死滅が起きることが報告されています(van Niekerk, 1998)。これは、十分な栄養がないと適切な大きさの黄体を形成・維持できないことを示していると考えられます。実際、黄体の数が多いほど(つまり黄体が大きいほど)、血中プロジェステロン値も高くなることが知られています(図3)。また、排卵前にhCGを投与した群と投与しなかった群との間で、排卵5日目の血中プロジェステロン値が投与群で有意に高かったという報告もあります(図4)。以上のことから、非常に基本的な内容となりますが、適切な飼養管理や交配管理を実施することが、適切な黄体を形成して血中プロジェステロン値を高く維持することに繋がると考えられます。

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図3 排卵数(黄体数)による血中プロジェステロン値の比較

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図4 hCG投与による血中プロジェステロン値の効果(Köhne, 2014)

・分娩後の泌乳期における栄養管理の重要性
 特に分娩後は泌乳に多くのエネルギーが必要となることから、適切な飼料給与を心掛けることが重要となります(図5)。さらに、受胎しやすくするためには、BCS(ボディコンディションスコア)を6程度に維持し、BCSを上昇させながら種付けを行うことが推奨されています。しかしながら、分娩後の繁殖牝馬は痩せてしまうことが多く、適切なBCSを維持するのに苦労している生産者の方も多いと思われます。血中プロジェステロン値についても、分娩後の繁殖牝馬は空胎馬や上がり馬に比べて、排卵後5日目の血中プロジェステロン値が有意に低いことが報告されています(図6)。このことが、分娩後初回発情での受胎率の低さの要因の一つとも考えられます。いずれにしても、分娩後の繁殖牝馬の栄養状態を適切に管理することが、血中プロジェステロン値を適切な濃度に維持することになり、受胎率の向上にもつながると考えられます。

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図5 分娩後の泌乳期に必要なエネルギー要求量

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図6 繁殖牝馬の分娩状況による血中プロジェステロン値の比較

・最後に
 これまで述べてきたように、血中プロジェステロン値を維持して受胎率を向上させるためには、適切な飼養管理がとても大事になります。JRAでは繁殖牝馬の飼養管理について、管理指針を作成しており、周産期(分娩前後)の飼養管理の重要性についても記述されています。JRAのHP上でも管理指針を確認することが可能ですので、興味のある方はぜひともご確認ください。

参考資料:
JRA育成牧場管理指針―生産編(第2版)―
https://www.jra.go.jp/facilities/farm/training/research/pdf/research_seisan.pdfQr_438489_2

22-23育成馬ブログ(日高③)

JRA育成馬(日高)の調教始め


 どの育成牧場でも休み明けの年始めの調教においては、「騎乗調教を落馬なく無事に行うこと」に気を使います。ただでさえ休み明けの調教は落馬も多くなりがちですし、年始早々人も馬も怪我をするわけにはいきません。というわけで、騎乗スタッフは正月気分から一気に仕事モードに切り替えさせられます。
 複数頭を同時に調教していると、1頭の落馬が連鎖して周りの馬の興奮に影響を及ぼすことも珍しくありません。装鞍しない期間が数日続くとどうしても「カブる」馬が何頭かでてきてしまいます。どの育成牧場でもやっていることですが、当場でも必要に応じて騎乗前のランジングやトレッドミルを用いた運動を取り入れて、騎乗者の指示に集中している状態を確認しながらの調教を行いました。本年は日頃から積み重ねている集団調教の成果もあってか、昨年よりも落ち着いている馬が多く、人馬ともに満足なスタートをきることができました。Photo

(写真)新年の調教

 今シーズンの浦河地方は、昨年に比べて積雪量が少なく、1月中旬には雪ではなく降雨が観測された日もありました。さすがに気温は氷点下の日がほとんどで、地面が硬く凍結した場所も多いことから、近隣牧場からも放牧地の硬さを気にする声も聞こえてきています。当場の繁殖馬のなかにも挫跖様の症状を見せる馬もでており、春が待ち遠しいです。
 当場の育成馬も、運動後には馬のリフレッシュを目的にパドック放牧を基本としていますが、冬季には悪天候やパドックや馬道の凍結により、放牧を中止せざるを得ないこともあります。本年は除雪作業の頻度は少なくて楽ではありますが、凍結時には各所に砂や融雪剤を撒いたりと手間もかかるため、そのような心配もせずに放牧できる宮崎育成牧場の温暖な環境がうらやましくもあります。Photo_2

(写真)凍結箇所には融雪剤が欠かせません

 さて、育成馬の調整具合はといいますと、馬の動きにも格段に力強さがでてきており、坂路調教でも隊列を崩さず楽に55秒/3Fを切るようになりました。これから徐々に運動負荷をかけていく予定ですが、それに先立ち、現状の調教進度の把握を目的に、今シーズン初めての坂路調教後の乳酸値測定を行いました。まだ、強い負荷は課してない段階ではありますが、毎日の乗り込み量を増やした成果もあってか予想どおり昨年の同時期と同等かそれ以上の体力を確認できています。さらに足元のトラブルも少なく、いつでもスピード調教を開始できる態勢が整いました。今後の調教で、個々の馬の走りがどのように変わってくるのか非常に楽しみです。

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(写真)乳酸値測定の様子

 今回も屋内1,000m坂路馬場での調教の様子のリンクを貼りました。本年意識して取り組んでいる馬と馬の前後左右の距離に注目してご覧ください。
 
https://youtu.be/-LSTOqtldIs
(動画)坂路調教の様子(1月中旬)

22-23育成馬ブログ(日高②)

JRA育成馬(日高)の近況

 
 日高育成牧場で繋養するJRA育成馬は、屋内800mダート馬場をはじめ、軽種馬育成調教センター(BTC)にある屋外1,600mトラック馬場や屋内1,000m坂路ウッドチップ馬場などの多様な調教コースを利用しています。屋内800mダート馬場を除く調教コースでは、BTC利用馬の調教の様子を目にしますが、2歳早期の出走を目標とした1歳馬の調教進度は、年々早くなっているように感じます。

 

 さて、当場では9月から開始した1歳馬の騎乗馴致も無事に終了し、本格的な騎乗調教のステージに入りました。日高育成牧場では本年、初期馴致において例年よりドライビングに時間をかけ、放牧地など馬場以外の場所での騎乗を積極的に取り入れるなど、少しずつ変化を加えて実施しています。

 

 馬場凍結のため屋外調教場が閉鎖される11月までに屋外での調教を経験させたいと考え、グラス坂路馬場での調教も行いました。まだ騎乗調教を開始して間もない若馬に、いかなる場所でも騎乗者の指示に従うことや、自然の起伏の中での走行に集中させることを目的に行いましたが、広々とした自然の中で、思ったよりもリラックスした様子で調教を行うことができました。

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写真)日高の短い秋に行ったグラス坂路調教(11月)

 

屋内800m馬場での調教(11月中旬)
https://youtu.be/aoZpuS5b5AE

屋内1000m坂路での調教(11月中旬)
https://youtu.be/xjQ8wbNSpIc

グラス坂路での調教(11月中旬)
https://youtu.be/LCYwun4lht8

 

 また、競走時に馬群を嫌がらない馬となるように、騎乗開始時から集団を意識した調教を行うよう意識して取り組んでいます。まだそれほど調教スピードは上げていませんが、幅員が限られた屋内コースでも隊列を組み集団で走るトレーニングを日々こなしています。当初は集中せずにふらふら走る馬もいましたが、調教を重ねるごとに真っすぐ走ることを覚えてきました。
調教で主に使用している屋内800m馬場と屋内1,000m坂路馬場での調教の様子については、リンクをご覧ください。

 
 先日のファンタジーS(GⅢ)では当場育成馬のリバーラ号が勝利しました。JRA育成馬として久々の2歳重賞制覇に当場スタッフの士気は上がっています。来春のJRAブリーズアップセールからも2歳重賞勝ち馬を輩出できるよう、厳寒期の騎乗にも耐えつつ調教のピッチを上げていきたいと思います。

22-23育成馬ブログ(生産②)

乗用馬生産を目的とした受精卵移植を実施

 秋競馬が始まりGI競走では多くの熱戦が繰り広げられており、そこで活躍した馬たちはその後種牡馬および繁殖牝馬としてのキャリアをスタートさせることとなります。そのため、多くの競走馬は5歳程度で引退するのが一般的です。一方、乗用馬の世界では年齢を重ねるごとに技量が増していく傾向があり、特にオリンピックなどの最高峰の競技会に出場する競技馬は10歳以上であることがほとんどです。その結果、競技会で優秀な成績を残してキャリアを終えた段階では高齢となっていることが多く、その段階からサラブレッド生産と同様に本交による生産を行うと、数頭の産駒しか得られないことになります。そのため、乗用馬の世界では、受精卵移植を含む生殖補助医療を用いた生産が認められており、世界各地で盛んに実施されています。今回、JRA日高育成牧場において乗用馬生産を目的とした受精卵移植を実施しましたので、その概要をご紹介します。

 

生殖補助医療を用いた生産のメリット

 
 生殖補助医療とは、人工授精(AI)や受精卵移植などの技術のことを指し、繁殖効率を上昇させることや生殖機能に問題のある症例から産駒を得ることを目的に発展してきた技術になります。乗用馬の世界では昔から実施されており、多くの馬が生産されてきた実績があります。生殖補助医療を用いた生産の流れは、まず産駒を得たい繁殖牝馬(受精卵提供馬:ドナー)に対して本交やAIを実施します。AIに用いる精液は冷蔵または冷凍されたものを用いますが、冷凍精液を用いることで海外の優良な種牡馬を輸送することなく産駒を得ることができます。AIの約8日後にドナーの子宮から受精卵回収を実施します。そして、見事に受精卵が回収できた場合には、代理母(出産・育児を担当)(レピシエント)に受精卵を移植して出産まで管理することになります。レピシエントに対しても、ドナーのAIのタイミングに合わせて排卵させておく必要があります(図1)。
このような生殖補助医療を用いた生産のメリットは、2つあげられます。まず一つ目は、「現役を引退する必要がない」ことがあげられます。生殖補助医療を用いた方法では、ドナー自体が子馬を生むのではなく、レピシエントに産んでもらうことになります。このように、優秀な競技馬が競技を引退することなく産駒を得ることができることは、大きなメリットであると言えます。また、生殖補助医療を用いて受精卵を複数回収することができれば、産駒を「1年に複数頭を生産」することも可能になります。1回の発情周期で複数個の排卵を認めることもありますし、発情期の間の複数回の発情周期ごとに受精卵を回収できればさらに多くの産駒を得ることも可能です。以上のように、生殖補助医療は乗用馬生産の世界においては、不可欠な技術と言えます。

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図1 生殖補助医療を用いた生産の流れ

 

優秀な総合馬術競技馬を用いて受精卵移植を実施

 
 今回受精卵移植のドナーとなったのは、16歳のオランダ温血種(KWPN)の総合馬術競技馬(写真2)です。この馬は東京オリンピック2020のリザーブ馬となるなど高い能力を示していましたが、怪我のためハイクラスの競技会からは引退した経緯があります。乗用馬として非常に高い能力を有している上に、優れた血統も持っていることから、産駒を生産することとしました。一方で、浅指屈筋腱の状態が落ち着けば、まだ乗用馬として活用できる可能性があることや、16歳と比較的高齢であり、通常の方法で生産を行った場合には非常に少ない頭数の産駒しか得られないことなどを踏まえ、受精卵移植による生産を選択しました。

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写真1 ドナーの競技会での様子

 

父馬候補は、フランスの乗用馬用種牡馬として実績のある馬の凍結精液を用いることとしました。今回行ったAIは、排卵近くになった段階で6時間おきに直腸検査をしてモニタリングを行い、排卵を認めた段階でAIを実施するという方法を採用しました(写真2)。しかしながら、凍結精液によるAIの受胎率は本交に比べると低いことが知られていることや、繁殖牝馬が比較的高齢であることなどから、残念ながら受精卵回収はできませんでした。

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写真2 人工授精(AI)の様子

 

そこで、サラブレッド用の現役種牡馬と本交を行って受胎率を高めて受精卵回収を試みました。その結果、2つの受精卵を回収することに成功しました(写真3・4)。得られた受精卵は、排卵のタイミングをドナーと合わせておいたレシピエントに移植を行っています。レシピエント候補馬は4頭用意していましたが、実際にタイミングの合ったレシピエントは2頭のみであり、受精卵移植を行うためには多くのレシピエント候補馬を用意しておく必要があることに注意が必要です。

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写真3 受精卵回収の様子

Photo_5写真4 回収された受精卵

 

 受精卵移植を行ったレシピエントに対して約1週間後(胎齢14日)に妊娠鑑定のエコー検査を実施したところ、見事に受胎を確認しました(写真5)。受胎を確認したのは10月下旬でしたので、順調に行けば来年の9月下旬に出産となる予定です。

Photo_6写真5 受精卵移植後に受胎を確認

 

終わりに

 
 現在の日本の馬術競技馬の多くは海外から輸入された馬が多くを占めています。東京オリンピック2020における日本人選手の活躍などにより、今後は日本国内でもハイクラスの乗用馬の需要が高まり、引退せずに産駒を生産する可能性も考えられます。そのような乗用馬生産を行う際には、今回実施した技術が必ず必要となるはずです。JRA日高育成牧場では、乗用馬産業の発展の助けとなることを目的に、今後も生殖補助医療に関する知見を深めていきたいと考えています。乗用馬生産に興味のある方は、下記の参考文献も参照ください。


参考文献:凍結精液による人工授精・受精卵移植法の手引
http://univ.obihiro.ac.jp/~dosanko/2017_2019/researchcollection.pdf

22-23育成馬ブログ(日高①)

本格的な育成シーズン突入

〇晴れた日を狙う
 広い採草地にロール乾草がまばらにある風景は夏の北海道ならではのものですが、今夏の日高地方では少し様子が違いました。例年より雨天の日が多く、牧草を刈り倒した後に採草地で乾燥させるために必要な「連続して雨の降らない数日間」を確保することが難しく、ロール乾草の姿がなかなか見られない夏でした。毎日天気予報とにらめっこしながら、セール準備に追われた牧場も多かったことと思います。

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写真1)ようやく収穫できた採草地のロール乾草

 日高育成牧場でも場内11面ある採草地の区画でチモシー乾草を採っていますが、本年は8月までに収穫できたのは2区画のみでした。9月上旬にようやく晴天が続いてくれたため、残りの区画は例年より1月以上遅れての収穫となりました。収穫遅れのため例年以上に牧草の質にもばらつきが多く、質の悪い一部は敷料としての使用になりそうです。馬に乾草として給与できる質の自家牧草が大きく不足しますので、価格の上昇している輸入牧草に頼ることが増えてきそうです。調べてみると、浦河町の6~8月の降水量も過去10年で最も多い年だったようです。連続4日間雨が降らなかった日は、6月上旬と7月上旬の2回のみで、連続5日間で雨のなかった日はなく、気候温暖化の影響なのかは分かりませんが改めて近年の天候の変化について考えさせられました。


〇騎乗馴致開始
 各市場で購買した育成馬は、育成牧場への入厩した時期に応じてグループを分けて管理しています。いずれの群も昼夜放牧を挟み、ナチュラルな状態で騎乗馴致を開始する方針ですが、どの組も順調に進んでいます。
7月に入厩したセレクションセール購買組やホームブレッドの組は、約1か月間の夜間放牧を経て9月上旬より騎乗馴致を開始しているところです。例年以上に入念なドライビングを取り入れながら、徐々に騎乗に移行できるようになってきているところです。

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写真2)放牧地でのドライビング
 

 8月末に入厩したサマーセール購買組も、夜間放牧を行いながらウォーキングなどの基本的な馴致を行い、9月下旬から本格的な騎乗馴致を開始しています。
 

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写真3)放牧初日、雨の放牧地を駆け回るサマーセール購買馬
 

 騎乗馴致と並行して、JRA育成馬の仕入れにあたる購買も行っていました。北海道セプテンバーセール(9月20~22日)で本年のJRA育成馬の購買を終了したわけですが、各競走馬市場の売却成績は今年も好調で、最大の取引頭数を誇るサマーセールでは平均価格も733万円となり、3年前(2019年)のサマーセール平均価格574万円と比較しても馬の価格が大きく上昇しています。JRAでは計74頭の1歳馬を各市場で購買しましたが、馬の取引価格が大幅に上昇していることを受け、本年のJRA育成馬の購買額も過去最高となり、平均購買価格でも約869万円と800万円を大きく超える額となりました。
 下見を含めて本年の全上場馬を見た感想として、価格だけでなく平均的に馬の質も上昇しているという印象をうけましたが、その中でも選りすぐりの素晴らしい馬が購買できましたので、これからどのように成長を見せてくれるか、今から来年のブリーズアップセールが楽しみです。

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写真4) セプテンバーセール入厩時の馬体検査

22-23育成馬ブログ(生産①)

〇JRA日高サマーキャンプを開催

 本年生まれた8頭の当歳馬たちも離乳の時期となり、競走馬となるための一歩を踏み出しています。JRA日高育成牧場では、競走馬になる馬たちの生産や育成を行うだけでなく、競馬産業で働く人材の確保や育成にも取り組んでいます。その一環として、馬の獣医師に興味を持った獣医学生を対象とした「JRA日高サマーキャンプ」という研修を実施しています。今回はその内容についてご紹介していきたいと思います。

●幅広く獣医学生を募集

 JRA日高サマーキャンプは、全国の獣医学科のある大学に所属する4~5年生の獣医学生を対象とした研修になります。これまで多くの学生を受け入れてきましたが、2020年と2021年は新型コロナウイルス感染症の影響で中止していたため、3年振りの開催となりました。例年は8月下旬に約1週間の期間で開催しており、本年は8月22日~26日までの前期と8月29日~9月2日までの後期の2回実施しています。各回6名の参加者は、新型コロナウイルス感染症の影響で授業がオンライン開催になったり、実習が中止になってしまったりしたこともあり、生きた動物と触れ合える貴重な実習に対して非常に生き生きと取り組んでいる姿が印象的でした。
 参加者の募集は、現在はVPcampを通じて行われます。VPcampとはVeterinary Public health campの略で、獣医学生を対象とする家畜衛生・公衆衛生獣医師インターンシッププログラムのことです。このプログラムは、行政分野で活躍する公務員獣医師を育成することを目的に実施されています。実習受入先は、各都道府県の家畜保健衛生所や公的な研究施設などが対象となりますので、特殊法人であるJRAもそのひとつとして協力させていただいています。以前はJRAのホームページを通じて参加者の募集を行っていたので、元々馬に興味のある獣医学生しか閲覧しないという制約がありましたが、VPcampを活用することで全国の獣医学生に情報提供できることは大きなメリットだと考えられます。

●「見学型研修」から「参加型研修」へ

 研修は初日のオリエンテーションの後、馬の取扱い実習から始まります。参加者の中には大学の馬術部に所属する獣医学生もいますが、初めて馬に触れるという人もいます。そのような人たちにとっては実際に馬に触れるだけでも大きな経験になると思われます。その後、馬の手入れや馬房掃除、さらには乗馬体験を通して馬に多く触れてもらいます(写真1~3)。このような体験を通じて、これまで縁遠いかった馬を身近に感じて貰えたと思われます。

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写真1 親子の集牧を体験する獣医学生

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写真2 当歳馬の手入れを体験する獣医学生

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写真3 乗馬体験をする獣医学生

 それとは別に、馬を使った臨床実習を多く取り入れています。聴診や触診といった基礎的な臨床実習から始まり、直腸検査や心臓のエコー検査など大学ではなかなか経験できない実習も多く行っています(写真4~6)。近年の獣医学生は臨床実習に参加するにあたり、獣医学共用試験(VetCBTとVetOSCE)に合格する必要があります。今回参加した獣医学生は全員この獣医学共用試験に合格しており、積極的に臨床実習に参加してもらいました。このように、これまでは研修先の獣医師が行っている臨床の見学や講義などが主体であった研修(見学型研修)が、近年では積極的に体験してもらう参加型研修へと様変わりしてきています。JRA日高育成牧場としても、関係機関と積極的に連携をしながら、「参加型研修」を充実させていきたいと考えています。

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写真4 直腸検査を体験する獣医学生

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写真5 心臓のエコー検査を体験する獣医学生

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写真6 採血を実施する獣医学生

●今後の研修のご案内

 JRA日高育成牧場では、今後も研修を開催していく予定です。まず、生産牧場で働く従業員の方を対象にした、「実践研修プログラム」を開催いたします。この研修の特色は参加者が実習内容や日程を決められることにあります。こちらが指定した複数の講義・実習内容の中から、数個を選んでいただき、参加者の方が本当に学びたい内容のみを受講することができます。希望した日時に必ず受講できるとは限らないことがデメリットですが、受け入れ期間を10月~11月の2か月間設定していますので、ぜひとも参加していただければと思います。詳細は下記リンクでご確認ください。

2022実践研修プログラム・秋季ご案内
https://jbba.jp/news/2022/pdf/jissenkenshu2022_2.pdf

 また、来年の初春には獣医学生を対象とした「JRA日高スプリングキャンプ」を開催します。こちらの研修は「JRA日高サマーキャンプ」のような基礎的な臨床実習に加え、繁殖シーズンの開催という特性を活かして、分娩見学や繁殖牝馬の管理に特化した研修となります。こちらの募集は本年の11月以降に開始しますので、詳細はJRA日高育成牧場のホームページやVPcampのホームページでご確認ください。

日高育成牧場 JRA

家畜衛生・公衆衛生獣医師インターンシップ (vetintern.jp)

育成馬ブログ(日高④)

日高育成牧場よりセール直前注目馬の紹介~牡馬~

 

 まだ蕾のみられる日高育成牧場内の優駿さくらロード(西舎桜並木)の桜。開花はちょうどブリーズアップセールのころでしょうか。桜に負けじと育成馬たちもブリーズアップセールで競走馬としての花を咲かせるために日々調教に励んでいます。

 

今回は、ブリーズアップセールで注目の育成馬(牡馬)4頭をご紹いたします。

 

上場番号13 フェザーレイ2020(父 デクラレーションオブウォー)牡
 新種牡馬デクラレーションオブウォー産駒。3代母ダイナカールまでさかのぼれる活躍馬の多い血統。本馬に限らずデクラレーションオブウォー産駒は勝気な性格の馬が多い印象で、競馬での勝負強さにつながってくれれば面白いでしょう。本馬も前向きとハードワークにも十分耐えるしっかりした馬体を持ち合わせており、トレセンでの調教でどのように成長してくれるか楽しみです。

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写真:調教中のフェザーレイ2020

2022JRAブリーズアップセール #13 フェザーレイ2020 調教及び常歩動画(2022年3月16日撮影)

  

上場番号19 ボウルズ2020(父 サトノダイヤモンド)牡

 父は新種牡馬のサトノダイヤモンド。父譲りの均整の取れた伸びのある馬体からはスタミナもありそうな印象があります。調教も順調に消化しており、強い調教負荷をかけても息の入りもよく心肺能力は高そうです。馬体にはまだ成長の余地があることから、しっかり成長させれば活躍が期待できると思います。

 

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2022JRAブリーズアップセール #19 ボウルズ2020 調教及び常歩動画(2022年3月16日撮影)

 
上場番号38 ワタシダイナマイト2020(父 カレンブラックヒル)牡

 母も祖母も短距離で活躍したスピード豊かな血統。カレンブラックヒル産駒も短距離を得意としている馬が多いようですが、本馬も後躯の筋肉が発達しておりスピードがありそうです。調教でも一瞬にして加速できる動きをみせており、仕上がりも早そうな印象なので早い時期から活躍できそうな馬です。

2022JRAブリーズアップセール #38 ワタシダイナマイト2020 調教及び常歩動画(2022年3月17日撮影)

 
上場番号61 ステージスクール2020(父 ビーチパトロール)牡

 新種牡馬ビーチパトロール産駒。自身もアメリカGⅠを3勝し主に中長距離で活躍しました。本馬も柔らかくバネのきいた動きをしており、騎乗者の乗り味の評価も上々です。調教も一番進んだ組で調整できており、落ち着きのあるいい動きを見せています。母系も筋が通っていることから活躍を期待しています。

2022JRAブリーズアップセール #61 ステージスクール2020 調教及び常歩動画(2022年3月16日撮影)

 
 今シーズンの日高の育成馬は、坂路調教をメインにトレッドミルなど様々な運動処方を組み合わせて調整してきました。精神面と馬体の成長に気を使いながら、バランスの良い馬に仕上げられたと思っています。今回ご紹介した馬以外にも素質馬が多くいますので、今から競馬場でのデビューが楽しみです。

 

本年もブリーズアップセールに是非ご注目ください。

育成馬ブログ(日高③)

日高育成牧場よりセール直前注目馬の紹介 ~牝馬~

 

 4月に入り日高ではようやく雪解けの季節となりました。冬季に閉鎖されていた1600m馬場もようやく開場し、ブリーズアップセールに向けた調教も佳境を迎えています。この時期は調教だけでなく、インターネット上で公開する動画等の撮影やレポジトリー用のX線検査などセールに向けた準備も進めているところです。馬の下見に訪れる調教師や馬主関係者の数も増えてきており、セールが近づいていることで春を実感しています。

 

今回は、展示会の開催に先立ち、ブリーズアップセールで注目の育成馬(牝馬)5頭をご紹いたします。

 

上場番号7 レディバゴ2020(父 マクフィ)牝
 新規馬主限定セッション上場のJRAホームブレッド。これまでデビューした2頭の兄姉に比べ一回り大きなしっかりした馬体で、筋肉量も豊富。大きなトラブルもなく順調に調教を進められています。当歳より本会職員が入念に手をかけて育てたこともあり素直な性格で操縦性は高いです。

2022JRAブリーズアップセール #7 レディバゴ2020 調教及び常歩動画(2022年3月17日撮影)

 

上場番号11インヴィジブルワン2020(父 ルーラーシップ)牝
 父は芝・ダート問わず活躍馬を出しています。距離ももつ産駒も多い印象で、本馬もバランスの良い馬体と飛びが大きめの柔らかい動きをしていることからある程度の距離はこなしてくれるでしょう。調教も順調に消化しており、期待できる1頭です。
2022JRAブリーズアップセール #11 インヴィジブルワン2020 調教及び常歩動画(2022年3月16日撮影)

 

上場番号12 テンダーエモーション2020(父 ドレフォン)牝
 本年のブリーズアップセールで唯一のドレフォン産駒。やや細身ながら均整のとれた馬体で軽やかな走行フォームがセンスの良さを感じます。坂路での乗り込みを続けることで日に日に力をつけてきており、スピード能力の片鱗を見せています。馬体の成長を期待するとともに将来楽しみな1頭です。

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2022JRAブリーズアップセール #12 テンダーエモーション2020 調教及び常歩動画(2022年3月16日撮影)

  

上場番号29 ラビアンローズ2020(父 デクラレーションオブウォー)牝
 期待の新種牡馬デクラレーションオブウォー産駒。近親にマイネルラヴの名前もあり、闘争心と感受性のある前向きな性格を持っています。坂路VTRでは追うことなく12秒台を出すなど早くもスピードも十分ありそうです。馴致開始当初は幼い性格も見受けられましたが、調教を積み重ねることで精神面でも成長してきています。早い時期からの活躍も期待できそうで、今から競馬場での走りが楽しみな1頭です。

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2022JRAブリーズアップセール #29 ラビアンローズ2020 調教及び常歩動画(2022年3月16日撮影)

 

上場番号49 エーシンハーバー2020(父 レッドファルクス)牝
 父はスプリンターズSを連覇した新種牡馬レッドファルクス。母も芝の1400やマイルで5勝したスピードのある血統。入厩当初はやや華奢な馬体で繊細な一面も見せていましたが、スピード調教を開始してから筋肉も増えてきて成長が著しいです。普段は温和な性格ですが、調教では前進気勢に富んだピリッとした気性も持ち合わせており、両親の活躍した短距離で活躍してくれるものと期待しています。

2022JRAブリーズアップセール #49 エーシンハーバー2020 調教及び常歩動画(2022年3月16日撮影)

 

 4月12日(火)には、セール関係者向けに日高育成牧場育成馬展示会を開催します。感染症対策を実施したうえで開催しますので、皆様ぜひお越しください。

 

次回は牡馬の注目馬をご紹介いたします。

育成馬ブログ(生産③)

子馬のロタウイルス感染症の予防について

 

 依然として寒い日々が続く北海道ですが、いよいよ繁殖シーズンが近づいてきました。JRA日高育成牧場でもそろそろ子馬が生まれる予定です。生産牧場の皆様も生まれた子馬を健康に育てるための準備を進めているところかと思います。今回は子馬に下痢症を引き起こすロタウイルスについて、ワクチン接種の重要性や最新動向についてご紹介していきたいと思います。

 

子馬の下痢の主原因
 ロタウイルスは、レオウイルス科に属する二本鎖RNAウイルスです。ヒトを含む多くの動物に感染することが知られており、幼い個体に対して下痢症を引き起こします。ウマにおいては、6か月齢未満の子馬に下痢症を引き起こす病気として知られ(写真1)、日本における子馬の下痢症の約30%がロタウイルスによるものであったという調査結果もあります(Imagawa, 1991)。海外においても、下痢症に占めるロタウイルス感染症の割合は20~77%という報告もあり(Miño, 2017)、世界各国で依然として問題となっている感染症です。発症馬の糞便に含まれるウイルスから容易に感染が広がることから、ロタウイルスを発症させない予防措置を講じることが何よりも重要となります。予防措置として、厩舎内への消毒槽の設置が挙げられますが、軽種馬産業で一般的に使われている逆性石鹸消毒薬(パコマやアストップなど)は効果がない点に注意が必要です。そのため、塩素系消毒薬(アンテックビルコンなど)を使用することが推奨されますが、これらの消毒薬は糞尿などの有機物の混入でも効果が低下しますので、頻繁に交換することが重要となります。

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写真1 ロタウイルス感染症による下痢を発症した子馬

 

妊娠馬に接種するタイプのワクチン
 消毒槽の設置以外の予防措置としては、ワクチン接種が挙げられます(写真2)。ワクチン接種とはある病気に対する抵抗性を獲得するために、その病気の原因となる細菌やウイルスを接種することとして皆様もご存じかと思います。ロタウイルスワクチンが一般的なワクチンと異なる点は、病気を防ぎたい子馬ではなく妊娠馬に接種するということにあります。これは子馬がロタウイルスによる下痢症を発症する時期には、子馬自身が抗体を産生する能力が低いため、母馬に抗体を産生してもらうことを目的に行っています。その結果、母馬が産生した抗体が初乳を通じて子馬に移行し、子馬をロタウイルスの感染から守ることとなります。接種時期は分娩予定日の2か月前に基礎接種(1本目)を、1か月前に補強接種(2本目)を行うと十分な量の抗体が初乳中に産生されると言われています。JRA日高育成牧場では、ロタウイルスワクチンに加えて、馬インフルエンザワクチンと破傷風ワクチンも1か月前に接種することも合わせて行っています。

  

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写真2 ロタウイルスワクチン

  

 ワクチン接種を受けていない妊娠馬から生まれた子馬がロタウイルスに曝露された場合、生後数日の内に症状が出ます。感染した子馬は哺乳をしなくなり、疝痛症状を示したり水様性の激しい下痢を呈したりし、最悪のケースでは死に至ります。一方、ワクチン接種を受けた妊娠馬から生まれた子馬では、母馬からの移行抗体が減少する2~3か月齢の段階で軽度の下痢を示すこともありますが、適切な治療を行うことで回復すると言われています。このように、ワクチン接種によってロタウイルスの感染を完全に防ぐことはできませんが、下痢の期間を短縮したり症状を緩和したりする効果は期待できます。

 

ロタウイルスの最新動向
 現在日本で使用しているロタウイルスワクチンは、A群ロタウイルスのG3P[12]という遺伝子型のウイルス株が使われています。日本を含む世界中で流行しているウイルス株はG3P[12]に加え、G14P[12]というウイルス株もあります。日本におけるロタウイルス感染症と診断された子馬から検出されたウイルス株は、G3P[12]とG14P[12]が交互に流行することが報告されています(Nemoto, 2021)。そのため、今後はG3P[12]に加え、G14P[12]も含むワクチンの開発が待たれます。しかしながら、日本で使用しているワクチンもG14P[12]に対して部分的には効果があることが知られていますので(Nemoto, 2012)、現行のワクチンを接種することは依然として有用であると考えられます。

 世界中で流行しているロタウイルスはA群に属するものですが、2021年にアメリカのケンタッキー州で流行したロタウイルスからはB群ロタウイルスが検出されました(Uprety, 2021)。このB群ロタウイルスは、ヤギやウシに感染するB群ロタウイルス由来と考えられています。また、日本で流行しているロタウイルスはG3の中でもG3Bというウイルス株でしたが、2016年に突如としてG3Aというウイルス株が検出されました。このウイルス株は2017年にアメリカで検出されたウイルス株と非常によく似ていたことから、アメリカから伝播してきたものだと考えられます(Nemoto, 2019)。このように、世界中で新しいウイルス株が出現しており、いつ日本に侵入して流行するか分からない状況です。ワクチン開発には時間を要することを考えると、厩舎内の消毒や子馬の適切な飼養管理の徹底によりロタウイルス感染症を予防していくことが非常に重要と考えられます。下記に示す参考資料を参照して、ロタウイルス感染症の予防に努めていただければ幸いです。

 

参考資料

 
育成馬日誌
気をつけなければならない子馬の病気~ロタウイルスによる下痢症について~(生産)

 

馬学講座ホースアカデミー6
8.子馬の下痢症 ウマロタウイルス病

育成馬ブログ(日高②)

新年の育成牧場

 

○ 休み明けの調教に注意

 
日高育成牧場のスタッフも新しい気持ちで新年を迎えることができましたが、牧場関係者にとってこの時期は育成馬の調教や繁殖牝馬の出産準備といったことに気が抜けない時期でもあります。どの牧場もそうですが、生き物を飼養していることからゆっくりお正月というわけにはいきません。日高育成牧場でも、年末年始はシフトを組んで馬の健康チェックや手入れ、ウォーキングマシンによる運動、パドック放牧に伴う集放牧、馬房清掃といった管理を行いました。歩様が乱れた馬や治療が必要な馬にとっては、調教にスムーズに合流するための馬体のケア期間でもありました。
大みそかも元日も当番業務を行ってくれたスタッフにとっては、いつもと変わらない休日だったかもしれませんが、育成馬たちは「2歳馬」となり少しずつ競走馬になる日が近づいてきています。
 

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写真1)パドックで砂浴びならぬ「雪浴び」をする育成馬

 

ひとつ大人になったはずの育成馬たちですが、休み明けの調教には注意が必要です。休日にウォーキングマシンによる運動や放牧による精神的なリフレッシュを行っていても、馬の走りたい気持ちと体力が有り余っていることから、休み明けの騎乗には気を使います。騎乗者も普段以上に馬の反応に注意を払わなければならないため、新年最初の騎乗は正月気分どころではありません。

年始の北海道各地では除雪が追い付かないほどの積雪があり、交通機関の大きな乱れや一部では停電もあったようです。日高育成牧場のある浦河周辺でもマイナス10度くらいまで気温が下がりましたが、幸いにも積雪は例年より少し多い程度で、年始の調教スケジュールに大きな影響はありませんでした。
一般的に馬は寒さに強いといわれておりますが、極度に寒い環境での調教は下気道など馬体への影響が気になります。しかし、現実的には騎乗者ほうが先に寒さに堪えられなくなるようで、この季節は騎乗者の意見も聞きながら、人は防寒対策を万全に、馬はウォーミングアップをしっかり行ってから調教をするように心がけています。

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写真2)冬の調教は寒さとの戦いでもあります

 

○ 騎馬参拝で安全祈願

 
日高育成牧場では近くの神社に乗馬で参拝する行事「騎馬参拝」に参加しています。毎年1月2日に行われるこの参拝は、10数頭の馬がJRA日高育成牧場を出発して約1時間かけて西舎神社に参拝し、人馬の無病息災を願う地域の恒例行事です。本年は、当場で乗馬指導を受けている日本ハムファイターズのマスコットB☆Bも参加してくれました。
人馬の無事とコロナの収束も祈願してきましたので、育成馬たちのこれからの調教も無事に進んでいってくれることでしょう。

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写真3) 浦河恒例の騎馬参拝