23-24育成馬ブログ(生産)

繁殖牝馬のPPID検査

 

PPIDとは?

 
 JRA日高育成牧場でも、10月となりすべての当歳馬の離乳を終えました。今年生まれた9頭の当歳馬たちも、これからは母馬と離れて暮らしていくことになります。一方、母馬たちは受胎馬も空胎馬も来シーズンの種付けに備えるために、放牧地でゆっくりと過ごしています。
 繁殖牝馬は毎年子馬を生むことが期待されていますが、様々な要因により不受胎となることがあります。例えば、繁殖牝馬の脂肪の付き具合(ボディコンディションスコア:BCS)が受胎状況に影響を与えることが知られており、そのため多くの生産牧場では秋ごろから翌年の種付けに備えて繁殖牝馬のBCSを適切に維持する管理(BCS:6程度)を行います。このように、前年の秋ごろから種付けの準備は始まっています。
 その他の不受胎の要因の一つにPPIDという病気が知られており、近年世界的にこの病気に注目が集まっています。PPIDは下垂体中葉機能障害(Pituitary Pars Intermedia Dysfunction)の略称であり、脳の下垂体中葉と呼ばれる部位から分泌されるホルモンの代謝異常により起こる病気です。15歳以上の高齢馬で多く発症することが知られており、多毛(全身の被毛が長くなる)や蹄葉炎の発症リスクが上がるなどが症状として知られています。色々な症状の一つとして、近年ではPPIDが繁殖牝馬の受胎に影響を与えている可能性が報告されています。今回はPPIDの受胎への影響や検査方法についてご紹介していきたいと思います。

 

PPIDの発症状況

 
 まず、PPIDの受胎への影響をお話する前に、そもそも繁殖牝馬においてはどの程度の馬がPPIDに罹患しているのでしょうか。2019~2021年に実施された「生産地疾病等調査研究」において、日高管内におけるPPID発症率について調査を行いましたので、ご紹介します。
 PPIDの診断は、下垂体前葉から分泌されるACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の濃度を測定することで行われます。調査当時の海外の文献を参考にして、血中ACTH濃度ごとに「陽性」、「偽陽性」、「陰性」の3群に分類して発症率を調査しました。2019~2020年に不受胎であった10~20歳の繁殖牝馬339頭を対象に検査を行ったところ、陽性8.3%、偽陽性21.3%、陰性69.9%という結果でした(図1)。以上のことから、繁殖牝馬の約1割がPPID発症馬であり、生産地においては決して珍しい疾患ではないと言えます。

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図1 日高管内の不受胎繁殖牝馬におけるPPID発症率
(2022年生産地シンポジウムより引用)

 

PPIDの繁殖成績への影響

 
 続いて、PPIDの繁殖成績への影響について、ご紹介します。先ほどご紹介した「生産地疾病等調査研究」において、PPID発症馬のシーズン受胎率についても調査を行いました。本調査でPPIDの診断を行った馬の中の214頭について、翌春のシーズン受胎率を調査したところ、陽性群63.2%、偽陽性群88.6%、陰性群82.8%という結果でした(図2)。このように、PPID陽性馬は陰性馬に比べて受胎率が低いことが示唆されました。
 さらに、PPIDの治療効果の受胎への影響についても調査を行っています。PPID発症馬を治療群と非治療群に分けて、受胎率を比較したところ、非治療群の受胎率は28.6%であったのに対して、治療群は80.0%であったことが報告されています(表1)。この結果から、PPIDを治療することで受胎への影響を改善できることも明らかになりました。このようにPPIDは繁殖牝馬の受胎率に影響を与えることから、不受胎の原因の一つとして考慮に入れておくことが重要であると考えられます。

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図2 PPID診断結果ごとのシーズン受胎率
(2022年生産地シンポジウムより引用)

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表1 PPID治療効果の受胎への影響

(2022年生産地シンポジウムより引用)

 

PPIDの検査時期

 
 これまで述べてきたように、PPIDは繁殖牝馬の受胎に影響を与える要因であると言えます。牧場で繋養している繁殖牝馬、特に高齢の繁殖牝馬の中で、不受胎が続いている馬は、PPIDを発症している可能性を考える必要がありそうです。PPIDを診断するためには、血中のACTHを測定しますが、正確な診断をするためには検査をする時期が重要となります。図3は血中ACTH濃度の年間の変化をグラフで示したもので、正常馬とPPID発症馬との間で比較したものになります。黒い棒グラフが正常馬、黄色の棒グラフがPPID発症馬の血中ACTH濃度を示しています。PPID発症馬の方が、正常馬よりも高値になっていることがお分かりいただけると思いますが、特に8月(A)、9月(S)、10月(O)で値が高くなっています。これらの結果から、PPID診断のための血中ACTH濃度測定は8~10月に実施すべきであり、まさに秋ごろに行うのが望ましい検査になります。生産牧場に高齢の不受胎を繰り返す繁殖牝馬がいる場合には、検査の実施を検討することをお勧めいたします。

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図3 正常馬とPPID発症馬の血中ACTH濃度の年間変化
(Durham, 2014を改変)

23-24育成馬ブログ(日高)

セリで購買した後から騎乗馴致開始前までの管理

 
 サマーセールも終わり、現在日高育成牧場では48頭(ホームブレッド6頭、市場購買馬42頭)のJRA育成馬を繋養しています。今回は、セリで購買した後から騎乗馴致開始前までの管理についてお話したいと思います。

 

 セリ上場馬の中には見栄えを良くするため、1歳セリ時点でボディコンディションスコア(以下BCS)が6.0前後に高められている馬が散見されます。このようにBCSが高められた状態で運動を開始するのは、故障を誘発することに繋がるなど、好ましくないのではないかと考え、当場ではセリで購買した馬は全頭、騎乗馴致を始める前まで昼夜放牧を行い、BCSを5.0前後まで落としています(写真)。今シーズンも、セレクションセール購買馬は8月2~30日までの4週間、サマーセール購買馬は8月30日~9月26日までの4週間昼夜放牧を行い、馬が自然な体を取り戻すのを待ってから騎乗馴致を開始する予定です。

 

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(写真)騎乗馴致開始前に昼夜放牧を行い、自然な体に戻す

 

 ここ4年間、サマーセールで購買した馬は、騎乗馴致を早く開始することを優先し、昼夜放牧を行っておりませんでしたが、昨シーズンは4週間程度 昼夜放牧する期間をつくりました。その結果、年間を通してBCSが4.5前後と無駄のない、運動に適した状態でトレーニングを続けることができました(図1)。

  

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(図1)過去3シーズンのJRA育成馬のBCS

 

 BCSが4.5前後という余分な脂肪がついていない馬体を維持した結果、例年以上に順調に調教を積むことができました。例年であればブリーズアップセール(以下BUセール)で10頭前後が欠場するところ、今年はわずか3頭の欠場で済み、そのうち運動器疾患を理由に欠場した馬は1頭のみでした(表)。BCSを下げたことが全ての要因だとは思いませんが、運動器疾患による欠場の減少に、少なからず貢献したのではないかと考えています。

 

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(表)過去3シーズンのBUセール欠場率

 

 我々が管理しているJRA育成馬は1歳から2歳にかけての若馬で、まだまだ馬体が成長する時期にあります。上記のようにBCSが低い状態で調教することは運動器疾患の予防に効果がありそうですが、一方で飼料が足りないことにより成長を阻害してしまっては問題です。体重の推移も過去2シーズンと比較しましたが、順調に増加しており、給餌量には不足がなかったと考えられました(図2)。

 

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(図2)過去3シーズンのJRA育成馬の馬体重

   

 以上、今回はセリで購買した後から騎乗馴致開始前までの管理についてご紹介いたしました。具体的な給餌量などJRA育成馬(日高育成牧場)の管理・調教方法について次回以降も順次ご紹介していきたいと思います。

22-23育成馬ブログ(生産④)

〇BCSを指標とした繁殖牝馬管理
~BCSは脂肪の状態を反映しているのか?~


 4月となり、JRA日高育成牧場での生まれる予定の子馬も残りわずかとなってきました。JRA日高育成牧場では競走馬の生産や育成を行っているわけですが、馬だけでなく馬産業で働く人材の育成にも取り組んでいます。3月中旬に1週間にわたって獣医学生を対象としたJRA日高スプリングキャンプとして開催しました。全国の獣医学科のある大学から合計6名の学生が参加し、熱心に色々なことを学んでいただきました(写真1)。今後もこのような研修を実施していき、馬業界で働く人材の育成も行っていきたいと考えています。

Photo(写真1)直腸検査実習を行うスプリングキャンプ参加獣医学生

BCSを指標にした繁殖牝馬の管理

 さて、4月になると、生産牧場のみなさんは種付けで忙しい日々を送っているのではないでしょうか。受胎率を高めるためには、繁殖牝馬を適切なコンディションで管理することが重要であることは皆さんもご存じかと思います。馬のコンディションを判断する基準としては、ボディーコンディションスコア(BCS)が馬産業では広く用いられています。BCSは、脂肪の付き具合を数値化したものであり、一般的には9点法で示されるものが使われていますが、より細かく馬の状態を評価するために0.5単位で数値化している方もいるかもしれません。生産牧場で実際に遭遇するのはBCS4(少しやせている)からBCS7(肉付きが良い)までがほとんどではないでしょうか(図1)。

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(図1)9点法によるBCS(生産牧場で頻繁に遭遇するのは青枠内の馬)

 BCSのメリットとしては、①具体的に状態を評価できる、②記録として使えることが挙げられます。数値化をしないと、馬が“太っている”や“痩せている”といった抽象的な表現となり、牧場内での基準の統一が難しくなります。一方、BCSを用いることで具体的に馬の状態を表現することが可能となります(図2)。また、数値として表すことで記録としても活用することが可能になり、太りやすいまたは痩せやすいといった馬ごとの傾向を把握するのにも役に立ちます(図3)。

Photo_3 (図2)BCSを用いることで客観的な評価が可能

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(図3)BCSを記録することで飼養管理に活用可能

BCSと繁殖成績との関係

 先ほども述べたように、BCSは繁殖成績と関係があることが知られています。特に繁殖牝馬が“痩せている”状態であると受胎率が低下することが報告されており、具体的にはBCSが4.5以下では受胎率が低下することが報告されています(Henneke, 1984)。また、受胎後のBCSが受胎の維持にも重要であることも報告されており、交配17日後から35日後にかけてのBCSの変化が低下していると有意に早期胚死滅の発生が多いこと(図4)や交配35日時点でのBCSが5未満であると早期胚死滅の発生率が高いことが報告されています(Miyakoshi, 2012)。
 一方、太りすぎている馬については、繁殖成績との直積的な関係を示す報告はあまりありません。しかしながら、太りすぎている馬は負重性の蹄葉炎となるリスクが高いことが知られていますので、注意が必要です。また、BCSが高い馬(BCS≧7)はインスリン感受性が低下することが報告されており(Hoffman, 2003)、インスリン感受性が低下した馬は受胎率の低下と関係があることが示唆されているPPIDの発症率が高くなることも知られています。つまり、BCSが高い状態で管理されていると、結果として受胎率が低下する可能性があるということが言えます。これらのことからも、BCSは繁殖牝馬の飼養管理において非常に重要であることがお分かりいただけたと思います。

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(図4)BCSの変化による早期胚死滅および胎子喪失率の発生率

BCSと臀部脂肪厚との関係

 BCSは数値という形で具体的に示されますが、測定方法は馬体を触って人間が脂肪の付き具合を判断するという形で実施されます(図5)。そのため、BCSが実際の脂肪含有量を反映しているのかという疑問が湧きます。疾病が理由で安楽死となった馬を用いてBCSと全身の脂肪含有量を調べた研究によると、BCSが脂肪含有量と相関していたことが報告されています(Dugdale, 2011)。しかしながら、全身の脂肪含有量を調査するのは非常に大変な作業となりますので、臀部脂肪厚(図6)から全身の脂肪含有量を推定する方法が知られています(Kearns, 2002)。そこで、2022年1月~2023年2月にかけて158頭を対象としてBCSと脂肪厚を測定したところ、BCSと臀部脂肪厚が正の相関関係があることが明らかになりました(図7)。以上のことから、BCSは適切に脂肪含有量を反映していると言うことができ、繁殖牝馬を管理していく上で有用であると言えそうです。

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(図5)肋部のBCSの判断基準

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(図6)臀部脂肪厚測定の様子

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(図7)BCSと臀部脂肪厚の関係

最後に

 BCSを用いた飼養管理は多くの生産牧場で実施されていることかと思います。目標とするBCSを設定して管理することも大事ですが、より重要なことは繁殖牝馬を受胎させたり、健康を維持したりすることになると考えられます。BCSの基準を含めた繁殖牝馬の管理方法については、JRA日高育成牧場管理指針-生産編-にも記載されておりますので、興味のある方はご一読いただければ幸いです。

参考資料:
JRA育成牧場管理指針―生産編(第2版)―
https://www.jra.go.jp/facilities/farm/training/research/pdf/research_seisan.pdf

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22-23育成馬ブログ(日高④)

今シーズン新たに取り組んだこと

 

 早いものでブリーズアップセール(以下、BUセール)まであと1ヶ月となりました。育成馬たちは日々着実に成長し、現在坂路にて3F48秒程度のメニューをこなしています。

Photo (写真)坂路でのスピード調教

 さて、今回は育成馬たちを調教していく上で今シーズン新たに意識して取り組んだことをご紹介したいと思います。まず馴致段階では、我々は従来よりヨーロッパ式のランジング・ドライビングを取り入れたブレーキングを行っておりますが、今シーズンは常歩だけでなく“速歩でのドライビング”を積極的に取り入れました。常歩よりも速いスピードでドライビングを行うことにより、馬が本当にまっすぐ進んでいるか、開き手綱の扶助を理解しているかが明確になり、結果として騎乗調教開始後にまっすぐ走れる馬が増えました。例えて言えば、自転車を運転する際に、ゆっくり漕ぐとフラフラしてしまいますが、ある程度のスピードを出し続けることでまっすぐな状態を維持できるのと同じ理屈です。スタッフたちには速歩で進む馬と同じ速さで移動しなくてはならないため苦労をかけましたが、そのおかげで例年以上に騎乗調教へとスムーズに移行することができました。また、速歩のドライビングでは「左!」「まっすぐ!」「右!」「まっすぐ!」「左!」「まっすぐ!」「右!」・・・という風に、短時間で多くのコマンドを馬に出し続けることとなるため、馬が人にフォーカスし、人から出される命令にすぐに応えようと従順になる効果もあると感じました。その結果、昨シーズンより人の言うことをきく馬が増えた気がします。

https://youtu.be/6zMCZwW7Grw

(動画)速歩でのドライビング(9月中旬)

 次に取り組んだこととして、馬は同じパターンの調教をすると落ち着く性質を利用し、調教開始時に角馬場での速歩の後、“800m馬場での最初の1周を「コーナー速歩、直線ハッキング」と決め、毎日繰り返し”ました。例年、スピード調教を開始した頃から馬が強くなり、段々こちらの言うことをきかなくなりますが、このルーティーンを繰り返すことにより、馬が騎乗者のコマンドを待つ状態になり、冷静さを保つことができ、昨年よりも従順になった印象です。

https://youtu.be/Q_681vEs5jc

(動画)毎日のルーティーン(コーナー速歩、直線ハッキングで800m馬場を1周)

 最後に、“隊列の質を上げ”ました。坂路での集団調教時に昨シーズンまでは1列縦隊もしくは2列縦隊で走行していましたが、例年より馴致が上手くいき馬がおとなしいのと、騎乗スタッフのレベルが上がり2列縦隊の調教が楽々こなせるようになってきたため、今シーズンから3列縦隊を取り入れました。このことにより、より実戦に近い状況で調教できるようになり、レースに行って前後左右に馬がいてもひるまないで走る馬を作ることを目指しています。また、調教のタイム指示についてはステディなキャンター(馬が落ち着く速度で安定した駈歩を続ける)となるように設定することで、馬が常に落ち着いた状態で調教を実施することができました。
https://youtu.be/A9yi47AfFfQ

(動画)坂路調教の様子(1月下旬)

 以上、今回は今シーズンの取り組みをご紹介いたしました。JRA日高育成牧場ではBUセール後に競走馬として順調にデビューできる馬、勝てる馬を目指して日々調教に取り組んでいます。その過程で得られた知見はこのブログほか各種講演会や出版物で発信しております。今回の記事が普段育成牧場で馬を調教されている皆さんの少しでもお役に立てば幸いです。

22-23育成馬ブログ(生産③)

種付け後の血中プロジェステロン値について

~適切な飼養管理が血中プロジェステロン値を高く維持して受胎率を向上させる?~

 2月になり多くの生産牧場で子馬が生まれていることと思います。JRA日高育成牧場においても、2月12日に最初の子馬が誕生しました(写真1)。生産牧場では子馬が生まれるのと並行して、来年に向けての種付けも行っていかなければなりません。
 今回は最近発表された種付け後の血中プロジェステロン値に関する興味深いお話についてご紹介するとともに、血中プロジェステロン値を高く維持して受胎率を向上させるための適切な飼養管理の重要性について触れてみたいと思います。

Photo 写真1 2023年最初のJRAホームブレッド

・種付け後の血中プロジェステロン値の意味
 本題に入る前に、馬の発情サイクルについて簡単にご説明します。馬は自然状態においては日長時間の長い季節(春~夏)にのみ繁殖期のある長日性季節繁殖動物です。そして、その繁殖期の中で約7日間の発情期と約14日間の黄体期が交互に繰り返されることになります。種付けのタイミングは、発情期の最後に起こる排卵時であり、受胎していれば黄体がそのまま維持されて妊娠が継続することになります(図1)。黄体が形成・維持されているかを確認する方法としては、経直腸エコー検査で黄体を確認する方法と黄体から産生されるプロジェステロン(黄体ホルモン)を血液検査で調べる方法があります。形成された黄体が機能しているかを知る上では、血中プロジェステロン値を調べる方法が優れていると考えられ、海外においては種付け後(正確には排卵後)5日目の血中プロジェステロン値を調べることが行われています。値が低い場合にはプロジェステロン類製剤(レギュメイトなど)を投与し、妊娠を継続させる試みが行われています。妊娠維持に必要な血中プロジェステロン値は4ng/ml以上であったという報告(Ginther, 1985)があり、この値がプロジェステロン類製剤を投与する指標として用いられています。

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図1 馬の発情サイクルのイメージ図

・受胎と血中プロジェステロン値の関係に関する研究
 これまで説明したように、種付け後の血中プロジェステロン値が受胎と関係があるのではないかと考えられてきましたが、その関係については詳しく調べられていませんでした。そこで、ニュージーランドの研究者らが2018年の繁殖シーズンに大規模な調査を実施しました(Hollinshead, 2022)。著者らは275頭の種付けを行った繁殖牝馬に対して、排卵5日目の血中プロジェステロン値を測定し、その値を排卵14日目の時点での受胎した繁殖牝馬と不受胎だった繁殖牝馬との間で比較しました。その結果、受胎群の血中プロジェステロン値は6.4±3.0 ng/mlであり、不受胎群の5.5±3.3 ng/mlよりも有意に高い値であったことを報告しています(図2)。この結果は、種付け後のプロジェステロンが高い方が受胎しやすくなる可能性を示しており、多くの生産者の方が目指している受胎率を向上させることに役立つかもしれない知見と言えます。JRA日高育成牧場では毎週繁殖牝馬の血中プロジェステロン値を測定しています。過去5年間に種付けを行った繁殖牝馬の種付け後(排卵後3~9日)の血中プロジェステロン値を調べ、上記の論文と同様に受胎した繁殖牝馬と不受胎だった繁殖牝馬との間で比較しました。その結果、受胎群は平均7.7 ng/mlであり、不受胎群の平均6.9 ng/mlよりも高いという結果になりました(図2)。排卵から起算した測定日が一定ではないJRAの結果の解釈には注意が必要ですが、やはり種付け後のプロジェステロン濃度は高い方が望ましいと考えられます。

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図2 受胎群と不受胎群の血中プロジェステロン値の比較

・適切な飼養管理が血中プロジェステロン値を高く維持するのに重要
 血中プロジェステロン値が高い方が望ましいことを説明しましたが、どのような場合に高くなるのでしょうか。まず、繁殖牝馬の栄養状態が血中プロジェステロン値と関係があることが知られています。低栄養状態の繁殖牝馬は黄体機能が低下し、それに伴って血中プロジェステロン値も低くなり、早期胚死滅が起きることが報告されています(van Niekerk, 1998)。これは、十分な栄養がないと適切な大きさの黄体を形成・維持できないことを示していると考えられます。実際、黄体の数が多いほど(つまり黄体が大きいほど)、血中プロジェステロン値も高くなることが知られています(図3)。また、排卵前にhCGを投与した群と投与しなかった群との間で、排卵5日目の血中プロジェステロン値が投与群で有意に高かったという報告もあります(図4)。以上のことから、非常に基本的な内容となりますが、適切な飼養管理や交配管理を実施することが、適切な黄体を形成して血中プロジェステロン値を高く維持することに繋がると考えられます。

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図3 排卵数(黄体数)による血中プロジェステロン値の比較

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図4 hCG投与による血中プロジェステロン値の効果(Köhne, 2014)

・分娩後の泌乳期における栄養管理の重要性
 特に分娩後は泌乳に多くのエネルギーが必要となることから、適切な飼料給与を心掛けることが重要となります(図5)。さらに、受胎しやすくするためには、BCS(ボディコンディションスコア)を6程度に維持し、BCSを上昇させながら種付けを行うことが推奨されています。しかしながら、分娩後の繁殖牝馬は痩せてしまうことが多く、適切なBCSを維持するのに苦労している生産者の方も多いと思われます。血中プロジェステロン値についても、分娩後の繁殖牝馬は空胎馬や上がり馬に比べて、排卵後5日目の血中プロジェステロン値が有意に低いことが報告されています(図6)。このことが、分娩後初回発情での受胎率の低さの要因の一つとも考えられます。いずれにしても、分娩後の繁殖牝馬の栄養状態を適切に管理することが、血中プロジェステロン値を適切な濃度に維持することになり、受胎率の向上にもつながると考えられます。

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図5 分娩後の泌乳期に必要なエネルギー要求量

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図6 繁殖牝馬の分娩状況による血中プロジェステロン値の比較

・最後に
 これまで述べてきたように、血中プロジェステロン値を維持して受胎率を向上させるためには、適切な飼養管理がとても大事になります。JRAでは繁殖牝馬の飼養管理について、管理指針を作成しており、周産期(分娩前後)の飼養管理の重要性についても記述されています。JRAのHP上でも管理指針を確認することが可能ですので、興味のある方はぜひともご確認ください。

参考資料:
JRA育成牧場管理指針―生産編(第2版)―
https://www.jra.go.jp/facilities/farm/training/research/pdf/research_seisan.pdfQr_438489_2

22-23育成馬ブログ(日高③)

JRA育成馬(日高)の調教始め


 どの育成牧場でも休み明けの年始めの調教においては、「騎乗調教を落馬なく無事に行うこと」に気を使います。ただでさえ休み明けの調教は落馬も多くなりがちですし、年始早々人も馬も怪我をするわけにはいきません。というわけで、騎乗スタッフは正月気分から一気に仕事モードに切り替えさせられます。
 複数頭を同時に調教していると、1頭の落馬が連鎖して周りの馬の興奮に影響を及ぼすことも珍しくありません。装鞍しない期間が数日続くとどうしても「カブる」馬が何頭かでてきてしまいます。どの育成牧場でもやっていることですが、当場でも必要に応じて騎乗前のランジングやトレッドミルを用いた運動を取り入れて、騎乗者の指示に集中している状態を確認しながらの調教を行いました。本年は日頃から積み重ねている集団調教の成果もあってか、昨年よりも落ち着いている馬が多く、人馬ともに満足なスタートをきることができました。Photo

(写真)新年の調教

 今シーズンの浦河地方は、昨年に比べて積雪量が少なく、1月中旬には雪ではなく降雨が観測された日もありました。さすがに気温は氷点下の日がほとんどで、地面が硬く凍結した場所も多いことから、近隣牧場からも放牧地の硬さを気にする声も聞こえてきています。当場の繁殖馬のなかにも挫跖様の症状を見せる馬もでており、春が待ち遠しいです。
 当場の育成馬も、運動後には馬のリフレッシュを目的にパドック放牧を基本としていますが、冬季には悪天候やパドックや馬道の凍結により、放牧を中止せざるを得ないこともあります。本年は除雪作業の頻度は少なくて楽ではありますが、凍結時には各所に砂や融雪剤を撒いたりと手間もかかるため、そのような心配もせずに放牧できる宮崎育成牧場の温暖な環境がうらやましくもあります。Photo_2

(写真)凍結箇所には融雪剤が欠かせません

 さて、育成馬の調整具合はといいますと、馬の動きにも格段に力強さがでてきており、坂路調教でも隊列を崩さず楽に55秒/3Fを切るようになりました。これから徐々に運動負荷をかけていく予定ですが、それに先立ち、現状の調教進度の把握を目的に、今シーズン初めての坂路調教後の乳酸値測定を行いました。まだ、強い負荷は課してない段階ではありますが、毎日の乗り込み量を増やした成果もあってか予想どおり昨年の同時期と同等かそれ以上の体力を確認できています。さらに足元のトラブルも少なく、いつでもスピード調教を開始できる態勢が整いました。今後の調教で、個々の馬の走りがどのように変わってくるのか非常に楽しみです。

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(写真)乳酸値測定の様子

 今回も屋内1,000m坂路馬場での調教の様子のリンクを貼りました。本年意識して取り組んでいる馬と馬の前後左右の距離に注目してご覧ください。
 
https://youtu.be/-LSTOqtldIs
(動画)坂路調教の様子(1月中旬)

22-23育成馬ブログ(日高②)

JRA育成馬(日高)の近況

 
 日高育成牧場で繋養するJRA育成馬は、屋内800mダート馬場をはじめ、軽種馬育成調教センター(BTC)にある屋外1,600mトラック馬場や屋内1,000m坂路ウッドチップ馬場などの多様な調教コースを利用しています。屋内800mダート馬場を除く調教コースでは、BTC利用馬の調教の様子を目にしますが、2歳早期の出走を目標とした1歳馬の調教進度は、年々早くなっているように感じます。

 

 さて、当場では9月から開始した1歳馬の騎乗馴致も無事に終了し、本格的な騎乗調教のステージに入りました。日高育成牧場では本年、初期馴致において例年よりドライビングに時間をかけ、放牧地など馬場以外の場所での騎乗を積極的に取り入れるなど、少しずつ変化を加えて実施しています。

 

 馬場凍結のため屋外調教場が閉鎖される11月までに屋外での調教を経験させたいと考え、グラス坂路馬場での調教も行いました。まだ騎乗調教を開始して間もない若馬に、いかなる場所でも騎乗者の指示に従うことや、自然の起伏の中での走行に集中させることを目的に行いましたが、広々とした自然の中で、思ったよりもリラックスした様子で調教を行うことができました。

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写真)日高の短い秋に行ったグラス坂路調教(11月)

 

屋内800m馬場での調教(11月中旬)
https://youtu.be/aoZpuS5b5AE

屋内1000m坂路での調教(11月中旬)
https://youtu.be/xjQ8wbNSpIc

グラス坂路での調教(11月中旬)
https://youtu.be/LCYwun4lht8

 

 また、競走時に馬群を嫌がらない馬となるように、騎乗開始時から集団を意識した調教を行うよう意識して取り組んでいます。まだそれほど調教スピードは上げていませんが、幅員が限られた屋内コースでも隊列を組み集団で走るトレーニングを日々こなしています。当初は集中せずにふらふら走る馬もいましたが、調教を重ねるごとに真っすぐ走ることを覚えてきました。
調教で主に使用している屋内800m馬場と屋内1,000m坂路馬場での調教の様子については、リンクをご覧ください。

 
 先日のファンタジーS(GⅢ)では当場育成馬のリバーラ号が勝利しました。JRA育成馬として久々の2歳重賞制覇に当場スタッフの士気は上がっています。来春のJRAブリーズアップセールからも2歳重賞勝ち馬を輩出できるよう、厳寒期の騎乗にも耐えつつ調教のピッチを上げていきたいと思います。

22-23育成馬ブログ(生産②)

乗用馬生産を目的とした受精卵移植を実施

 秋競馬が始まりGI競走では多くの熱戦が繰り広げられており、そこで活躍した馬たちはその後種牡馬および繁殖牝馬としてのキャリアをスタートさせることとなります。そのため、多くの競走馬は5歳程度で引退するのが一般的です。一方、乗用馬の世界では年齢を重ねるごとに技量が増していく傾向があり、特にオリンピックなどの最高峰の競技会に出場する競技馬は10歳以上であることがほとんどです。その結果、競技会で優秀な成績を残してキャリアを終えた段階では高齢となっていることが多く、その段階からサラブレッド生産と同様に本交による生産を行うと、数頭の産駒しか得られないことになります。そのため、乗用馬の世界では、受精卵移植を含む生殖補助医療を用いた生産が認められており、世界各地で盛んに実施されています。今回、JRA日高育成牧場において乗用馬生産を目的とした受精卵移植を実施しましたので、その概要をご紹介します。

 

生殖補助医療を用いた生産のメリット

 
 生殖補助医療とは、人工授精(AI)や受精卵移植などの技術のことを指し、繁殖効率を上昇させることや生殖機能に問題のある症例から産駒を得ることを目的に発展してきた技術になります。乗用馬の世界では昔から実施されており、多くの馬が生産されてきた実績があります。生殖補助医療を用いた生産の流れは、まず産駒を得たい繁殖牝馬(受精卵提供馬:ドナー)に対して本交やAIを実施します。AIに用いる精液は冷蔵または冷凍されたものを用いますが、冷凍精液を用いることで海外の優良な種牡馬を輸送することなく産駒を得ることができます。AIの約8日後にドナーの子宮から受精卵回収を実施します。そして、見事に受精卵が回収できた場合には、代理母(出産・育児を担当)(レピシエント)に受精卵を移植して出産まで管理することになります。レピシエントに対しても、ドナーのAIのタイミングに合わせて排卵させておく必要があります(図1)。
このような生殖補助医療を用いた生産のメリットは、2つあげられます。まず一つ目は、「現役を引退する必要がない」ことがあげられます。生殖補助医療を用いた方法では、ドナー自体が子馬を生むのではなく、レピシエントに産んでもらうことになります。このように、優秀な競技馬が競技を引退することなく産駒を得ることができることは、大きなメリットであると言えます。また、生殖補助医療を用いて受精卵を複数回収することができれば、産駒を「1年に複数頭を生産」することも可能になります。1回の発情周期で複数個の排卵を認めることもありますし、発情期の間の複数回の発情周期ごとに受精卵を回収できればさらに多くの産駒を得ることも可能です。以上のように、生殖補助医療は乗用馬生産の世界においては、不可欠な技術と言えます。

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図1 生殖補助医療を用いた生産の流れ

 

優秀な総合馬術競技馬を用いて受精卵移植を実施

 
 今回受精卵移植のドナーとなったのは、16歳のオランダ温血種(KWPN)の総合馬術競技馬(写真2)です。この馬は東京オリンピック2020のリザーブ馬となるなど高い能力を示していましたが、怪我のためハイクラスの競技会からは引退した経緯があります。乗用馬として非常に高い能力を有している上に、優れた血統も持っていることから、産駒を生産することとしました。一方で、浅指屈筋腱の状態が落ち着けば、まだ乗用馬として活用できる可能性があることや、16歳と比較的高齢であり、通常の方法で生産を行った場合には非常に少ない頭数の産駒しか得られないことなどを踏まえ、受精卵移植による生産を選択しました。

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写真1 ドナーの競技会での様子

 

父馬候補は、フランスの乗用馬用種牡馬として実績のある馬の凍結精液を用いることとしました。今回行ったAIは、排卵近くになった段階で6時間おきに直腸検査をしてモニタリングを行い、排卵を認めた段階でAIを実施するという方法を採用しました(写真2)。しかしながら、凍結精液によるAIの受胎率は本交に比べると低いことが知られていることや、繁殖牝馬が比較的高齢であることなどから、残念ながら受精卵回収はできませんでした。

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写真2 人工授精(AI)の様子

 

そこで、サラブレッド用の現役種牡馬と本交を行って受胎率を高めて受精卵回収を試みました。その結果、2つの受精卵を回収することに成功しました(写真3・4)。得られた受精卵は、排卵のタイミングをドナーと合わせておいたレシピエントに移植を行っています。レシピエント候補馬は4頭用意していましたが、実際にタイミングの合ったレシピエントは2頭のみであり、受精卵移植を行うためには多くのレシピエント候補馬を用意しておく必要があることに注意が必要です。

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写真3 受精卵回収の様子

Photo_5写真4 回収された受精卵

 

 受精卵移植を行ったレシピエントに対して約1週間後(胎齢14日)に妊娠鑑定のエコー検査を実施したところ、見事に受胎を確認しました(写真5)。受胎を確認したのは10月下旬でしたので、順調に行けば来年の9月下旬に出産となる予定です。

Photo_6写真5 受精卵移植後に受胎を確認

 

終わりに

 
 現在の日本の馬術競技馬の多くは海外から輸入された馬が多くを占めています。東京オリンピック2020における日本人選手の活躍などにより、今後は日本国内でもハイクラスの乗用馬の需要が高まり、引退せずに産駒を生産する可能性も考えられます。そのような乗用馬生産を行う際には、今回実施した技術が必ず必要となるはずです。JRA日高育成牧場では、乗用馬産業の発展の助けとなることを目的に、今後も生殖補助医療に関する知見を深めていきたいと考えています。乗用馬生産に興味のある方は、下記の参考文献も参照ください。


参考文献:凍結精液による人工授精・受精卵移植法の手引
http://univ.obihiro.ac.jp/~dosanko/2017_2019/researchcollection.pdf

22-23育成馬ブログ(日高①)

本格的な育成シーズン突入

〇晴れた日を狙う
 広い採草地にロール乾草がまばらにある風景は夏の北海道ならではのものですが、今夏の日高地方では少し様子が違いました。例年より雨天の日が多く、牧草を刈り倒した後に採草地で乾燥させるために必要な「連続して雨の降らない数日間」を確保することが難しく、ロール乾草の姿がなかなか見られない夏でした。毎日天気予報とにらめっこしながら、セール準備に追われた牧場も多かったことと思います。

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写真1)ようやく収穫できた採草地のロール乾草

 日高育成牧場でも場内11面ある採草地の区画でチモシー乾草を採っていますが、本年は8月までに収穫できたのは2区画のみでした。9月上旬にようやく晴天が続いてくれたため、残りの区画は例年より1月以上遅れての収穫となりました。収穫遅れのため例年以上に牧草の質にもばらつきが多く、質の悪い一部は敷料としての使用になりそうです。馬に乾草として給与できる質の自家牧草が大きく不足しますので、価格の上昇している輸入牧草に頼ることが増えてきそうです。調べてみると、浦河町の6~8月の降水量も過去10年で最も多い年だったようです。連続4日間雨が降らなかった日は、6月上旬と7月上旬の2回のみで、連続5日間で雨のなかった日はなく、気候温暖化の影響なのかは分かりませんが改めて近年の天候の変化について考えさせられました。


〇騎乗馴致開始
 各市場で購買した育成馬は、育成牧場への入厩した時期に応じてグループを分けて管理しています。いずれの群も昼夜放牧を挟み、ナチュラルな状態で騎乗馴致を開始する方針ですが、どの組も順調に進んでいます。
7月に入厩したセレクションセール購買組やホームブレッドの組は、約1か月間の夜間放牧を経て9月上旬より騎乗馴致を開始しているところです。例年以上に入念なドライビングを取り入れながら、徐々に騎乗に移行できるようになってきているところです。

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写真2)放牧地でのドライビング
 

 8月末に入厩したサマーセール購買組も、夜間放牧を行いながらウォーキングなどの基本的な馴致を行い、9月下旬から本格的な騎乗馴致を開始しています。
 

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写真3)放牧初日、雨の放牧地を駆け回るサマーセール購買馬
 

 騎乗馴致と並行して、JRA育成馬の仕入れにあたる購買も行っていました。北海道セプテンバーセール(9月20~22日)で本年のJRA育成馬の購買を終了したわけですが、各競走馬市場の売却成績は今年も好調で、最大の取引頭数を誇るサマーセールでは平均価格も733万円となり、3年前(2019年)のサマーセール平均価格574万円と比較しても馬の価格が大きく上昇しています。JRAでは計74頭の1歳馬を各市場で購買しましたが、馬の取引価格が大幅に上昇していることを受け、本年のJRA育成馬の購買額も過去最高となり、平均購買価格でも約869万円と800万円を大きく超える額となりました。
 下見を含めて本年の全上場馬を見た感想として、価格だけでなく平均的に馬の質も上昇しているという印象をうけましたが、その中でも選りすぐりの素晴らしい馬が購買できましたので、これからどのように成長を見せてくれるか、今から来年のブリーズアップセールが楽しみです。

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写真4) セプテンバーセール入厩時の馬体検査

22-23育成馬ブログ(生産①)

〇JRA日高サマーキャンプを開催

 本年生まれた8頭の当歳馬たちも離乳の時期となり、競走馬となるための一歩を踏み出しています。JRA日高育成牧場では、競走馬になる馬たちの生産や育成を行うだけでなく、競馬産業で働く人材の確保や育成にも取り組んでいます。その一環として、馬の獣医師に興味を持った獣医学生を対象とした「JRA日高サマーキャンプ」という研修を実施しています。今回はその内容についてご紹介していきたいと思います。

●幅広く獣医学生を募集

 JRA日高サマーキャンプは、全国の獣医学科のある大学に所属する4~5年生の獣医学生を対象とした研修になります。これまで多くの学生を受け入れてきましたが、2020年と2021年は新型コロナウイルス感染症の影響で中止していたため、3年振りの開催となりました。例年は8月下旬に約1週間の期間で開催しており、本年は8月22日~26日までの前期と8月29日~9月2日までの後期の2回実施しています。各回6名の参加者は、新型コロナウイルス感染症の影響で授業がオンライン開催になったり、実習が中止になってしまったりしたこともあり、生きた動物と触れ合える貴重な実習に対して非常に生き生きと取り組んでいる姿が印象的でした。
 参加者の募集は、現在はVPcampを通じて行われます。VPcampとはVeterinary Public health campの略で、獣医学生を対象とする家畜衛生・公衆衛生獣医師インターンシッププログラムのことです。このプログラムは、行政分野で活躍する公務員獣医師を育成することを目的に実施されています。実習受入先は、各都道府県の家畜保健衛生所や公的な研究施設などが対象となりますので、特殊法人であるJRAもそのひとつとして協力させていただいています。以前はJRAのホームページを通じて参加者の募集を行っていたので、元々馬に興味のある獣医学生しか閲覧しないという制約がありましたが、VPcampを活用することで全国の獣医学生に情報提供できることは大きなメリットだと考えられます。

●「見学型研修」から「参加型研修」へ

 研修は初日のオリエンテーションの後、馬の取扱い実習から始まります。参加者の中には大学の馬術部に所属する獣医学生もいますが、初めて馬に触れるという人もいます。そのような人たちにとっては実際に馬に触れるだけでも大きな経験になると思われます。その後、馬の手入れや馬房掃除、さらには乗馬体験を通して馬に多く触れてもらいます(写真1~3)。このような体験を通じて、これまで縁遠いかった馬を身近に感じて貰えたと思われます。

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写真1 親子の集牧を体験する獣医学生

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写真2 当歳馬の手入れを体験する獣医学生

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写真3 乗馬体験をする獣医学生

 それとは別に、馬を使った臨床実習を多く取り入れています。聴診や触診といった基礎的な臨床実習から始まり、直腸検査や心臓のエコー検査など大学ではなかなか経験できない実習も多く行っています(写真4~6)。近年の獣医学生は臨床実習に参加するにあたり、獣医学共用試験(VetCBTとVetOSCE)に合格する必要があります。今回参加した獣医学生は全員この獣医学共用試験に合格しており、積極的に臨床実習に参加してもらいました。このように、これまでは研修先の獣医師が行っている臨床の見学や講義などが主体であった研修(見学型研修)が、近年では積極的に体験してもらう参加型研修へと様変わりしてきています。JRA日高育成牧場としても、関係機関と積極的に連携をしながら、「参加型研修」を充実させていきたいと考えています。

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写真4 直腸検査を体験する獣医学生

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写真5 心臓のエコー検査を体験する獣医学生

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写真6 採血を実施する獣医学生

●今後の研修のご案内

 JRA日高育成牧場では、今後も研修を開催していく予定です。まず、生産牧場で働く従業員の方を対象にした、「実践研修プログラム」を開催いたします。この研修の特色は参加者が実習内容や日程を決められることにあります。こちらが指定した複数の講義・実習内容の中から、数個を選んでいただき、参加者の方が本当に学びたい内容のみを受講することができます。希望した日時に必ず受講できるとは限らないことがデメリットですが、受け入れ期間を10月~11月の2か月間設定していますので、ぜひとも参加していただければと思います。詳細は下記リンクでご確認ください。

2022実践研修プログラム・秋季ご案内
https://jbba.jp/news/2022/pdf/jissenkenshu2022_2.pdf

 また、来年の初春には獣医学生を対象とした「JRA日高スプリングキャンプ」を開催します。こちらの研修は「JRA日高サマーキャンプ」のような基礎的な臨床実習に加え、繁殖シーズンの開催という特性を活かして、分娩見学や繁殖牝馬の管理に特化した研修となります。こちらの募集は本年の11月以降に開始しますので、詳細はJRA日高育成牧場のホームページやVPcampのホームページでご確認ください。

日高育成牧場 JRA

家畜衛生・公衆衛生獣医師インターンシップ (vetintern.jp)